●これは罠です 1/3 「わたくしと契約して魔法少女になってください」 作戦指令本部、第三会議室。 フォーチュナー『悪狐』九品寺 佐幽 (nBNE000247)は無人の会議室で小首を傾げる。 「――と、依頼メールに書いておいたらものの見事に応募者ゼロでした。訳が分かりません」 依頼メール記載の契約文には、要約するとこう書いてあった。 『当依頼による社会的フェイトの減少その他一切は責任を負いません』 罠だ。 これは罠だ。いや、むしろ隠す気すらない。道端に落ちてるバナナの皮レベルのベタさだ。 「下の下でした。なにか対策を打たなくてはなりません」 佐幽は一考する。 いかにアークのリベリスタという子羊を、狡猾な罠にハメてジンギスカンにするかを。 ●魔法少女ローエン/ライヒの手記 人間界にやってきて早二ヶ月が過ぎようとしている。 日本の梅雨は鬱陶しい。ローエンには雨季がない。雨は降れども、雨の女神様の管理が行き届いているので憂鬱になるほど雨は気まぐれではないのだ。 雨の女神様は居なくても、こちらの世界にも魔法遣いは住んでいるらしい。聞けば、ミタカヒラーという土地に彼らは都を築いているそうだ。一度は尋ねてみたいものだ。 ローエンの徒は『掟』に守られる一方、守らなくてもいけない。人間界では窮屈なことも多い。 ひとつ、神秘を知らぬ人間に正体がバレてはいけない。 ひとつ、魔法の力を無闇に使ってはならない。 ひとつ、課せられた試験に合格しなくてはならない。 他にも『掟』は山盛りだ。 けれども『掟』を破ってしまえば『運命』に見放される。その時、わたし達ローエンの徒は元の世界へ帰らなくてならないのだ。逆らっても、この世界の魔法遣いたちに処刑されるのが末路だ。 わたしは粛々と修行の日々を重ねていくことだろう。 けれどもし堕落した同胞が現れたとしたら――、その時、わたしは役目を果たすことを誓おう。 ●これは罠です 2/3 『貴方の魔術知識をお貸しください』 そのキャッチフレーズを元に、佐幽はそれらしく見えるように依頼メールに細工した。 「魔法に詳しい貴方にしかできない仕事です。 魔法、魔術に精通した方にしか倒せないアザーバイドとエリューションです、と」 ウソではない。 作戦目標は、魔法にとても精通したアザーバイドであることは確かなのだ。魔術方面に見識がある者の中には、とりわけ探究心や好奇心の旺盛な者も少なくない。興味深いサンプルを目撃するために進んで罠と知りつつ突撃する、賢いはずなのにバカな人がもしかしたら居るかもしれない。 ――と、そうして佐幽は複数パターン同一依頼の紹介文を用意して手ぐすねを引く。 あるいは騙さずとも、最初っから偏った趣味の人間に打診したりもしたのだろう。 ●魔法少女ローエン/クレパの絵日記 激烈ありえないっしゅ。 なに? 梅雨? 激烈うっとーしーんだけどもしゃー! 布団にキノコ生えたよ! 食べたよ! 激烈イケるけど腹痛で三日寝込んだよ! あ、良いこと閃いちった! 梅雨ぶっとばしちゃおーぜっ☆ ひとつ、人助けのためには魔法を使ってもよい。 ひとつ、他人の力を頼りにしないこと。 ひとつ、晴れた日には布団を干すこと。 布団が梅雨で干せねー! と困ってる人間達のお悩み解決でババーンと卒業へ一歩リードだ! しゃー! やったるじぇーい☆ ●これは罠です 3/3 「ご契約ありがとうございます」 こうして集まった貴方たちに対して、佐幽はいつもよりやや丁寧に依頼について物語る。 「当依頼の目的は、アザーバイドとその眷属となるエリューションの撃滅です」 等と肝心なところを伏せつつ一通り資料記載の概要を説明した後、単刀直入に本題を切り出した。 「魔法少女しませう」 ――と。 茫然とする面々、誰かが質問を投げかける。 「それはその、リリカルでマジカルな?」 「シャランラシャランラでイチコロな、もうすこし新しいと月に代わって折檻でしょうか」 なぜ古い。 アラフォー直前のアラサー狐は時たま時代錯誤なボケをかます。 「要約しますと、撃滅目標は上位世界『ローエン』より来訪した魔法少女のアザーバイドと眷属のエリューションです。『ローエン』の魔法少女は総じて『ローカルール』という“掟”に守られています。結果、神秘・物理を問わず、ある特定の形式に則っていない攻撃すべての効力は半減するのです。 ――ので、迅速な撃滅のために魔法少女のコスプレお願いします」 簡潔な説明である。 そこはリベリスタ各自の反応は千差万別であろうが、一番多い感想はコレだろう。 「騙された……!」 ●破戒魔女エールゼ/セセリの目撃 雨音止まぬ熱帯夜。 騒々しく室外機のファンがそこかしこで回り続ける、灰色の墓場じみた石塔《ビル》の街で。 戦場となっていた屋上にセセリの駆けつけた時、既に決着はつき掛けていた。 「そこまでよ、クレパ」 魔法少女ライヒは敗北を宣告する。 魔法少女クレパは現実を拒絶する。 「あたしの……何が間違ってるってのよ」 クレパの長い黒髪はズブ濡れて見る影もなく、惨めに屈辱を噛み締めていた。鮮やかな明るい青を基調とした華やかな魔装さえ夜闇の中では生彩を失っている。 見下ろすライヒの金糸の髪は青白い電流を迸らせるが、青き瞳は逃げ場を探すように惑動する。 「魔法で梅雨を払うだなんて、そんなことをしたら人間社会は混乱する。わたし達は異邦人《エトランゼ》よ。神様のまねごとなんて許されない。例え、良かれと想ってやったことでも」 「ライヒのバカ! あんぽんたん!」 子供じみた叫びも今は悲痛に響いてならぬ。 「優等生のあんたにゃ理解できないよ! 人間界に来てようやく、あたしは底辺の落ちこぼれから魔法少女っていう特別な存在になれたのに! ……ライヒみたいには、なれないのに」 「……クレパ」 沈黙と雨音の支配する一時。 『貴方に、魔法を』 響く。 セセリの呪歌が奏でられる。 「うぁああああアァァーーーッ!」 突如としてクレパは悶え苦しむ。 「クレパ!?」 案じて差し伸べたライヒの手を、クレパは強く打ち払って拒絶する。 心の深淵より闇の泉は湧き出ずる。 反転する魔法力。 クレパの魔装は禍々しく変化してゆき、悪魔もかくやという意匠を織り成す。 黒髪は紫を帯びて焔を纏い、呪いの火燐を散らす。 「ウアアアアアアア"ア"ア"アッ!!」 魔法が闇の眷属を生み、歪んだ願いの形を現実とする。 狼だ。 燃え盛る紫の炎で形作られた狼の群れは一斉に遠吠えをあげて、邪なる偽りの太陽を天に掲げる。 蒸発する夜雨、熱波と呪いの波動がライヒを強襲する。 とっさに超電磁魔杖『テスラ・ステラ』を起動、超電磁マジカルシールドを展開する。 「クレ……パ」 なぜ、彼女を救えなかったのか。 摩天楼の夜、鉄の獣が往来する車道の上空へと放り出されたライヒは失意のうち意識を失った。 待つのは絶望の結末か、否か。 「ガルルルァァ!」 貯水タンクの裏に身を潜めていたセリリ目掛け、呪火の狼が二匹、襲い掛かってくる。 黒い外套を食い破られるがセリリは刹那すぐさまに足刀を狼の首へ叩きつける。が、効き目が鈍い上、さらに延焼する。 「ちっ、見境なしね」 魔杖が閃く。水の刃によってセリリは瞬時に呪火の狼を二匹諸共に切り捨て、飛び退いた。 夜雨は止まず。 心の闇に支配されるがままに呪火ノ魔女は狂暴の宴《サバト》を開いていた。 ●敵資料 以下の文章は、本依頼についての資料となる。参考にして攻略に役立ててほしい。 ・魔法少女ローエン/ライヒ アザーバイド。魔法少女。ローエンの徒、即ち上位世界『ローエン』の住人である。 『掟』を守ることで限定的にフェイトを保持、留学生としてボトムに滞在する。 優等生らしく、真面目で規律もしっかり守る。しかし人間界には馴染めず、正体がバレないよう意識するあまりに他者と交流ができておらず、もっぱら一人ぼっち。クレパは数少ない話相手。 魔力素質は『電磁力』。素質のない属性魔法は使えない。 外見年齢は十三歳、金髪碧眼でスレンダー。魔法使用後は帯電しやすく、髪に触れるとビリっとする。電子機器に触れると高い確率で壊す。そのため機械は苦手。 クレパを助けたい反面、悪に堕ちようとする友を殺してでも止める気でいる。 ・破界器「超電磁魔杖テスラ・ステラ」 ローエンの素質『電磁力』に最適化された魔法の杖。魔法に合わせて形状変化する。 ただ殴るだけでも感電させることができ、電磁警棒のようにも活用できる。 ・魔法少女ローエン/クレパ アザーバイド。魔法少女。ローエンの徒、即ち上位世界『ローエン』の住人である。 『掟』を守って慎ましくボトムに滞在するが内心鬱憤が溜まっていた。 劣等生らしくコンプレックスが多い。バカ。人間界では積極的に馴染もうとして空回り、失敗を重ねているらしい。ライヒのことを嫌っているが交流も多く、微妙な関係。 魔力素質は『呪火』。素質のない属性魔法は使えない。 外見年齢は十三歳、黒髪ロングで瞳は紫、ちまっこい。魔法使用後はメンタルが不安定になる。繊細で扱いの難しい呪火は精神にまで影響を及ぼすためである。 ・破界器「呪火魔杖クレナズム」 クレパの素質『呪火』に最適化された魔法の杖。魔法に合わせて形状変化する。 鈍器として用いても呪火を発動でき、紫の炎が敵の心身を蝕む。占いにも使える。 ・アザーバイド「呪火ノ魔女」 撃滅対象。闇に堕ちたクレパ。眷属を従えて暴走する。 物理より神秘に優れている模様。“見るだけで”人を呪い、心を乱す。 浅く広く、全体に呪火の魔法を仕掛けて炎上や精神干渉を仕掛けてくるだろう。 ・『呪火ノ黒髪』 呪火を帯びた紫の炎髪を目視した相手の心身を呪い乱す。切り捨てても再生する。 また稀にトラウマや嫉妬心など心の火種を燃え上がらせ、深刻な混乱に陥れる。 ・『掟/ローカルール』 「魔法少女以外による攻撃すべてを半減できる」とされる守護。常時発動。 ・『夜ノ日輪』 一定数の眷属に遠吠えを捧げさせ、強力な熱波と呪いの波動による広範囲攻撃を行う。 ・Eエレメント:フェーズ1「ウルファイア」×10 撃滅対象。呪火ノ魔女の眷属。 不定形の呪火が狼を象っている。このため物理は通じづらく、神秘は通じやすい。 再生力が高い、無限湧き、知性は高め。 ・『終われぬ宴』 魔女は同時に十匹まで使役可能なため、それ以下になれば補填する。 呪火を礎にするために魔力が尽きるまで無尽蔵に再補填できる。 ・『格闘』 神秘依存の肉弾戦。攻撃には呪火の効果が付与されるため、直撃は複数の症状を招く。 威力そのものはさほど高くないが、機動力はある。 また三匹以上が同時攻撃を掛けることで成功率を高めるなどの連携攻撃もしてくる。 ・アザーバイド「破戒魔女エールゼ/セリリ」 元凶。依頼達成条件に含まれない。詳細不明。情報が少ない。 上位世界『ローエン』の『掟』を破るなどして悪の道に走った元・魔法少女と目される。 「呪火ノ魔女」と同等に強力だろう。呪歌によってクレパを闇へ引きずり込んだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:カモメのジョナサン | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月11日(木)22:38 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ignition 絶望の夜雨。 摩天楼の底へと失意のライヒは落ちていく。ヘッドライトが世界を真っ白に染めた。 ――こんな私など、死ねばいい。 揺らめく呪火が甘き安寧の死へとライヒを導き、そして。 それで終わりになることを、誰が望むというのか。 『まじかる☆ブラックチェーンジ! 暗黒魔法少女ブラック☆レイン、参上♪』 流星、黒雨を切り裂いて。 『暗黒魔法少女ブラック☆レイン』神埼・礼子(BNE003458)が摩天楼に差す一条の光明となる。 「飛べ! ダーク・デスサイズ!」 『Yes miss.flight form ignition』 直死の大鎌の電子音声(※1)が淡々と応答するや否や、光刃が二分割されて一対の光の翼を織り成した。大鎌に跨って自由落下に身を任せていたレイン(※2)は簡易飛行で急降下する。 地表寸前、三日月の軌道を描いてライヒを抱き止め、夜天へ昇る。あわや車両と激突しようという紙一重の救出劇に、レインはふぅと安堵の溜息をつく。 ※1、声帯変化による演技です。 ※2、良い子のみんなはレインと呼んであげてね。 急上昇して屋上へ戻ろうとする魔法少女レイン目掛けて、三匹の炎狼が迫る。夜雨の降りしきる中、呪火の眷属が通過したビル壁面のガラスは遅れてどろりと溶解した。 所詮は簡易飛行、緩慢な飛行力でライヒを抱えたまま回避できるはずもない。 されとて絶対絶命の窮地が続く中にあって、レインの瞳は揺るがない。 仲間を信じる、自分を信じて。 「魔砲少女みりあ、目標を狙い打つっす!」 『魔砲少女』華蜜恋・T・未璃亜(BNE003274)の猛禽の眼が見つめる先は、闇駆ける標的だ。 一条の軌跡が魔狼を貫き、滅する。 みりあは主戦場の向かい側、より高いビル屋上に陣取り、可憐なあざとイエロー系の魔装と裏腹に本格的な狙撃フォームで射撃支援に徹する。闇夜に輝く金色の瞳は魔を帯びて淡く光輝いていた。 「援護はパーペキ! 礼子さん救助は任せるっす!」 「レ イ ンちゃん」 殺意の視線、戦慄の一瞬。 「……レインちゃんさん」 「うん、ボクに任せてよ☆」 次弾一射。 命中するが一撃で仕留め損ねた。摩天楼を翔けるレインを狙い、二匹の魔狼が猛然と迫る。 「だれかフォローを!」 「魔法少女を演じる機会、そうそう無いだろうからな。この舞台、この配役、淀みなく演じきる」 星光、煌いて。 『魔法の星明りトゥインクルアイリ』アイリ・クレンス(BNE003000)は蒼き疾風となって壁面を駆け下りる。魔法剣カラドボルグが夜を切り裂き、青白き神秘の光の軌跡を描く。 連撃。 音速剣、二閃。太刀風が煌く。斬り捨てられた二匹の呪火ノ魔狼が闇に還る。 紫の火の粉が舞う中、勇ましくも可憐にアイリは仁義上等の大見得を切る。 「銀の刃に希望を抱いて、灯せ平和の青信号! トゥインクルアイリ、定刻通りに只今開演っ!」 漂う魔力の残滓。斬り捨てた炎狼、己が剣閃の宿した光、そうした大気中に散らばる魔力の微光がゆるやかにアイリという星に回帰する。 「私の魔力素質は『還元』(※3)、たとえ無限に敵が湧こうと、無限に斬り捨てるまでのこと」 追撃はすべて排除した。 レインがこちらに手を振っている。安堵すると、アイリは青白き還元の光を纏って屋上へ昇った。 ※3、あくまで大錬気と無限機関です。 ●変身バンクⅠ 薔薇が咲く。 絶望の黒き薔薇が咲き誇る乙女の園、腐りきった暗雲の世界に今、一条の光明が差す。 隆起する土くれ、ちっぽけな芽が出で、二つの葉をめーいっぱいに拡げる。 太陽が咲く。 二葉は朽ちることを知らぬ気高き蕾となりて花開く。陽の光を浴びて咲く一輪の花。眠れる少女はあたかも親指姫の如く、今ここに再誕する。黒薔薇は散り、白百合の嵐が舞う。穢れを知らぬ乙女の柔肌、純情可憐なる陽だまりの瞳、白無垢の花衣を纏いてひとひら風と舞い踊る。 「木漏れ日浴びて育つ清らかな新緑――魔法少女マジカル☆ふたば!」 『魔法少女マジカル☆ふたば』羽柴 双葉(BNE003837)は祈るように編んでいた手を、種が発芽し双葉を開くように広げ、天真爛漫に微笑む。 「参上! 今、善き隣人を助け、嘆きの雨を止めるために――」 ●変身バンクⅡ 薔薇が咲く。 情熱の赤き薔薇が咲き誇る古城の庭、赤き月の照らす花園に今、淡き月光が注ぐ。 隆起する土くれ、蔓延る茨が朽ちてゆき、黒き棺がゆっくりと開く。 望月が咲く。 棺より出でたる影はゆるりと月明かりの下を歩む。赤い薔薇が枯れてゆき、その命と美しさに彩られてドレスは赤い紅い朱い薔薇を咲かせてゆく。月光に満ちる一輪の花。永久の魔性を秘めし淑女は優雅に闊歩する。雷光迸り、傍らに握られるは雷鎌の魔杖「die Sichel bringt Donner」だ。 「紅き月の潮騒ぐ、新たな時代に誘われて――セレア・アレイン、優雅に活躍」 『魔性の腐女子』セレア・アレイン(BNE003170)は不敵に佇み、赤き月を背に妖しく微笑んだ。 「来たれ雷光! 天雷鎖《チェインライトニング》!」 掌に光輝が集い、明滅する超高圧雷球を生み、魔獣跋扈する敵陣の上へと放り投げる。 雷鎌が閃き、雷球を二分した。 そして暴れ狂う雷鎖は邪なるモノを蹂躙する。 ● 「今、絶対に別の空間に移動してたよね」 『エゴ・パワー』毒島・桃次郎(BNE004394)は女装少年であっても至ってノーマルな方だ。魔法少女アニメというジャンルも一夜漬け状態だけに、本格的に文字通り「自分の世界」に入りきっていた双葉とセレアの魔法少女子力の高さにドン引きせざるをえない。 状況が静止したまま計二分近い変身シーンに突入、セレアに至ってはあれだけ敵を待たせた筈なのに必殺技バンクに繋いで先制攻撃にまで成功している。 神秘だ。 今、物凄い神秘的現象に遭遇してしまったのではないだろうか。それはもう不条理とか世界の法則が歪んでるとか、そういうレベルで。これがそっち方面に魂を捧げた魔法少女の実力なのか。 「アーシェもアーシェも!」 『夜明けの光裂く』アルシェイラ・クヴォイトゥル(BNE004365)はフリル地獄のドレスコーデでキラキラkawaii感じに靴も杖も飾りつけ、やる気ばっちしだ。 「そう、確かこーやって……あれ?」 フュリエのアーシェも変身したいが、既に衣装は着てるし何をどうやったらああなるのか分からない。経費(※4)で可愛い衣装を着られるものと喜んでたのに重大な点では踏ん切りがつかない。そうして途方に暮れていると、アーシェの頭に桃色の毒々しい電波が届いた。 「ふっふーん」 『魔法少女パーフェクト☆シィン』シィン・アーパーウィル(BNE004479)はジャージ着のまま懐中電灯と秘め百合の塔(※5)を手ににやりと笑った。 ※4、無理でした。 ※5、変身アイテムの正体である。 ●変身バンクⅢ 大いなるエクスィスの樹の下で。 白銀と白桜のフュリエはお互いに手を繋ぎ、エクィシスライト(※4)を手に一緒に叫ぶ。 『デュアル! エクィシス! パワー!』 光の柱に呑まれたアーシェとシィンは真っ白な光に包まれて、聖なる世界樹の力の奔流の中で無垢な生まれたままの姿へと帰り、そして変身を遂げる。 次々とくまなく衣装が愛くるしくも凛々しい装いに変貌してゆく。 壮大な女神のシルエットがふたりを掌に包み、抱き、そして地上へと旅立たせる。 燦然と降り立つ影ふたつ。 「母たるエクスィスの加護を今ここに――っ」 「完全世界ラ・ル・カーナが徒、平和の護り手!」 「魔法少女ウィルトゥティス☆アーシェ!」 「魔法少女パーフェクト☆シィン!」 『ふたりはエクィシス!』 大見得を切って神木の杖と無限魔法をクロスさせ、アーシェとシィンはそう宣言したのだった。 ● るんたったっ。るんたったっ。 変身時空に突入できた勢いでアーシェとシィンは喜びのダンスを踊る。 「やったね!」 「やっちまったですね!」 「……よくやるよね」 一人だけ変身し損ねてる桃次郎こと魔法使い『プアゾン・ピーチ』は堂々と魔法少女と名乗る斜め上方向の勇気は出ず、やむなく特注の魔法少女らしい女装のみに留めている。ピーチというだけに桃色を貴重としたコーデで特にミニスカート下のパニエのフワモコが利いている。さらに単にひらひらフリフリなだけでなく、大胆なへそ出しと衣装のボリュームに合わせたエクステで大きく増量してみたサイドテールもすこぶるkawaii。 桃次郎は勇気を出して名乗りをあげる。 「愛と勇気の魔法使い『プアゾン・ピーチ』、さぁショータイムだ!」 かくて八大魔法少女(?)は勢ぞろいを果たしたのであった。 ●異邦人《エトランゼ》 破戒魔女エールゼ/セリリの撤退は、本当に早急であった。 アークの出現は想定範囲外の出来事だったらしく、セリリは早々に見切りをつけたのだろう。全員が十全に『掟』の対策を行い、その優越性を奪っていることも大きな要因だろう。そこまで事情を把握しているのであれば、下手な手を打てばセリリも自滅しかねない。 「ね、なんであなたこんな事するの?」 アイリの問いかけにセリリは自らに飛びかかってくる炎狼を水の刃で斬り捨て、応える。 「朱に交われば赤くなる」 指差す先は、意識を失ったままのライヒ達だ。彼女をレインに託されたアーシェとシィンはエル・リブートで治癒を施していた。 ふたばは葬送曲・黒、セレアはチェインライトニング、みりあはアーリースナイプ、レインは魔閃光、桃次郎はエル・フリーズと各個にウルファイア軍団を殲滅している。呪火ノ魔女は狼がやられても補填できるが、徐々に魔力は消耗するためけして無駄にはならないし、複数目標を狙える攻撃はうまく射程圏に本体を収めて削りに掛かっている。 そうした状況下、セリリにとっては挟撃すれば有利に立ち回れる筈なのに、彼女はそうせず逃走を選ぼうというのだ。つまり、積極的にアークと敵対する意志がないのだろうか。 「私は、私を含む全ての“外来種”を敵視している。フェリエも、ローエンも、あまねく全てのアザーバイドがそう。個人の善悪は関係ない。“種”としてこのボトムには不要な存在なのよ。その哀れな娘だって、私は時計の針を少しだけ早めただけのこと。いずれ闇に堕ちていた」 セリリの意外な発言に、誰もが戸惑う。 「話が飛躍している。いつかああなったとして、なぜわざわざ手を下す」 「ローエンの危険性をボトムの人間たちに周知させるために」 「それでは自作自演だ!」 「善悪の境界は曖昧。善意の招く悲劇もあるわ。個性を得てしまった以上、フュリエだって全てが全て無害とはいえないの。善き隣人? そう言ったわね、マジカル☆ふたばさん」 「……ふたばでお願いします、絶対に」 ふたばは酔っ払いが真水をぶっかけられたように蒼ざめる。『我が血よ、黒き流れとなり疾く走れ…いけっ、戒めの鎖!」と絶好調で葬送曲・黒をマジカルしてた反動が今頃やってきたようだ。 スルーし。 「賢い貴方たちには理解できるでしょ。同種族間での殺し合いに“善き隣人”の手を借りる。この罪深さを。大局的にみればボトムの人間の善悪なんてほんの些細な物差しでしかないのに、その善悪観をすり込まれたアザーバイドはやがて“正しければ人を殺してもいい”と信じる。あとは泥沼よ。外来種を駆除するか、在来種が犠牲となるか、二つに一つ」 シィンを、アーシェを指差す。 「植物の心がわかる貴方にはよく理解できる筈。植物が争わないだなんて大嘘。日照を、土壌を、生存圏を奪い合い、醜く生い茂ろうとする。管理の行き届いた庭園の方が美しいとは思わない?」 「そ、それは」 アーシェは言葉に惑い、けれどもあえて問い返す。 「困ってる人を助けたい。それは傲慢で間違いなのかもしれないけど、でも」 「アーシェさん……」 変化への戸惑い。同族たるシィンは感じた。微細な“恐れ”がじわじわと強まる情緒の混迷を。 気丈に、超直観と幻想殺しを働かせて少しでも情報を得ようと試み、多少の成果を得た。断片的な能力、外見、そしてセリリの問いかけが「本心」という事実。 「――知りたいの。正しいとか、間違ってるとか、自分で考えて、自分で決められるように」 精一杯の言葉を紡ぐ。 「……応援するわ、アークの諸君。いつの日か、全ての異邦人《エトランゼ》を追放できるように」 セリリは夜霧と化して消え去った。 ●呪火ノ魔女 戦況は一進一退であった。 呪火ノ黒髪による呪いと混乱によって快進撃は滞り、一行は攻め切れずにいた。 エル・フリーズの氷結による足止めそのものは有効なれど、炎と氷という正反対の性質ゆえか氷結が長くは持続しない。が、それでも着実に攻勢を削ぐことができた。ふたばの葬操曲・黒にしても相性は今ひとつだが、魔陣展開と高速詠唱による火力向上で無理やりに押し切る。 「光よ!」 セレアのブレイクイービルが光輝する。正気に戻る面々。その一人、みりあは我に反ってハッとする。セレアは“背後から”肩を撃ち抜かれていた。誰の仕業か、歴然としていた。 呪火ノ魔女を見つめてはいけない。紫の炎が、その心身を蝕むからだ。みりあは視力の高さが仇となった。約一年ぶりの任務、長いブランクが災いしたか。顔面蒼白だ。 みりあはすぐさま謝罪する。が、セレアは「ごめんは一言でいい」と遮った。 セレアの背中は雄弁だ。雷鎖で敵陣を薙ぎ払い、攻守の要として獅子奮迅の活躍をする。 セレア・アレインを魔法“少女”と呼ぶのは、なるほど、確かに不釣合いかもしれない。 ライヒの意識が回復した。 開口一番、「クレパは!?」と叫んだローエンの徒へレインが手短に現状を説明した。 「やっぱ魔法少女は助け合いでしょ」 力強い笑顔で肯き、手を差し伸べる。 「ボクは暗黒魔法少女ブラック☆レイン、いっしょに君の友達を助けよう!」 「けど……皆さんにご迷惑を」 今更なことに悩む不器用なライヒを、レインと一緒にふたばが無理やり引っ張りあげた。 「遠慮しないで。人間だって魔法少女だって、誰にも迷惑かけないで生きられやしないんだよ。取り返しのつくことだったら、取り返せばいい、そーでしょ?」 「……はい」 その手を、ぎゅっと握り返してライヒは立ち上がった。 「クレパ救出作戦いよいよ開始するです!」 シィンの号令を始点として一斉に九名の魔法少女たちは各自、己にできる精一杯の全力を尽くす。 呪火ノ魔女は苦しみ嘆き、止まぬ夜雨の中、紫の炎狼たちを円形に布陣させた。 『夜ノ日輪』 邪なる偽りの太陽によって一帯を薙ぎ払い、呪い焦がす強烈な一手だ。 窮地と好機は紙一重。アイリが即座に背後を狙い、疾駆した。 桃次郎、シィン、アーシェ。三人のミステランは各々の武器を掲げて、連携する。 「魔法少女にはなりきれないけど、こういう展開に男女は不問! さぁクレパ! 君の鬱憤か、ボク達の救いたい気持ちか、どっちが勝るか勝負だよ!」 「少し、頭冷やそうか」 「トライアングル・エル・フリーズッ!」 凍てつく氷精三重奏が魔狼を無理やり燃え盛る炎ごと氷に閉ざして、その大半を封じた。これで『夜ノ日輪』は使えない。しかし魔女は健在だ。 みりあ、セレア、ふたばが続けざまに一斉攻撃を掛ける。 「魔砲少女みりあの全力全開! 受けてみるっす!」 魔砲杖を中心として、セレアの雷鎌とふたばのワンドが交差、黒と黄色いの閃光を瞬かせる。 「スター!」 「ライトニング!」 「チェーン!」 星光の弾雨に導かれて、眩き雷と黒き血が二重螺旋を描いて夜空を切り裂いた。暴威と評さざるをえない威力が氷結をまぬがれた狼たちを蹂躙、余りの痛烈さに魔女は大きな隙を晒す。 疾風迅雷。 アイリの音速剣が真後ろより魔女のアキレス腱を断った。二の太刀とばかりに振り返り、斬る。カラドボルグの魔刃が刻んだ蒼き刻印が、魔女を封じる。 「終演だ」 しかし呪火ノ黒髪のみが未だアイリを強襲せんと迫る。その刹那だ。 『Saber form.Final ignition』 直死の大鎌(※1)の最後通告。漆黒迸る光刃が黒髪ごと魔女を斬り伏せる。 「必殺、まじかるブラック☆カリバー!」 レインは叫ぶ。精神ごと切り裂く一撃。それは暴走する悪しき心であろうと例外でない。 綻びが生じた今が好機だ。 「今よ! ライヒ!」 無限魔本ウロボロスの項がひとりでにめくれて魔法陣が展開される中、シィンはライヒと魔女――クレパの精神を繋ぐ橋渡し役に徹する。 『電磁力は物を伝わり、引き寄せる力です』 『ライヒさんの魔法はきっと、クレパさんの心を闇の束縛から引き上げてくれるですよ』 シィンの言葉を胸に秘めて、ライヒはクレパの精神にアクセスする。 説得は難航した。復活する呪火ノ魔狼たちを、仲間たちが懸命に蹴散らし封じて時間を稼ぐ。 刻一刻、傷ついていく一同。嘆きの夜雨はいつまでも晴れず。 「ダメ、届かない、私にはクレパを救うことなんて……」 あきらめを言葉にしかけたライヒの手を、シィンはより強く握った。 「この残酷な世界にだって、奇跡も魔法もあるのですよ」 雨上がりの雲間より届く月光、縷々として涙がせせらいでいた。 「……いつまで泣いてんの、あんぽんたん」 誰かの指先が、そっとライヒの頬をぬぐった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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