● ルミナは死ねないよ。 だって沢山、身体を作り過ぎたから。 ルミナはルミナなりに頑張っているつもりなんだけれど、言われたの。 『毒塗れの、失敗だ』 ってね。 ルミナは他の奴等より理解があるし、宿主さんとも仲良くできるのに、なんで――。 私は、泣き声を聞くのは好きでは無い。 荒波に揉まれた様な、ぐしゃぐしゃの感覚の中で泣き声が聞こえる。 弱すぎて、脆すぎて、危険過ぎる泣き声だ。 手を伸ばしてしまったのは、心に染み着いて拭い取る事が不可能な毒に侵されてしまったからだろう。いや、毒だと思う事も忘れてしまっている。 「泣かないで、ルミナ」 泣いている子を私は『ルミナ』と呼んでいる。『ルミナ』の存在は言わば私の『光』だ。 少し前までは私も名立たるリベリスタ組織の見習い騎士として日々を生きてきた。 リベリスタが正義だと信じていたからこそ、私は心を鬼にしていた。 多くの為に罪なき者を犠牲にしたり、殺さないでと泣き叫ぶノーフェイスを殺してきたのは……本当にそれでいいのかと自問自答する程に嫌であった。 また、殺した。 また、殺さないといけない。 あとどれだけ此の手を血に染めればいいのかと。 ―――けれどもう。そんな事、如何だっていいのよ。 私は出会った。彼女に! 光に! 此の絶望的な世界の中で唯一快楽を齎してくれる愉快で素敵な光。 此のクソみたいな世界の中で、私を『苦しむ』という事から解放してくれた光! 彼女が私を幸せにしてくれているから、私も彼女を泣き止ませたい。 ただひたすらに、彼女が泣き止んでくれる為に私は殺そう、なんでもかんでもあれでもそれでも神であろうとも。 「嗚呼、私の光、ルーナの光。泣かないで、賢者の石はもう目の前だよ」 『ありがとう宿主様。でも……』 泣いていた、声は一瞬だけ止んだ。 『なんか来るね。敵も、味方も、なんだろうね。今日は色んな人に会えそう』 ● その時は気付いていなかったのだ。 「いやー、ぼろかったっすね。ガキ二匹を国外にちょっと逃がすだけでこの報酬」 「馬鹿おめえ、報酬もそうだけど追加で貰ったこの石、すげえ力を秘めてるぜ」 降って沸いた幸運に酔いしれて。 10代の少年と少女を二人、こっそりこの国から他所へと逃がしてやった。ただそれだけの仕事で、得た対価は莫大だった。 手で弄ぶは赤い石、裏社会の端っこで燻ってた俺等にも判ってしまう位に、力を秘めた神秘の品。 「何者だったんでしょうね、あの二人、こんなもんぽんと渡すなんて」 「詮索しねぇのも仕事の内だ。まあなんにせよ物の価値のわからん奴なんてどうでもいい。此れがあれば俺等も次のステップにいけるってもんだ」 ケチな逃がし屋なんてせずとも、大きなヤマに食い込める力を手に入れた、そんな夢に囚われて。 何故あのガキ達が自分にこんな物を渡したかなんて考えもしなかった。力を得れば、同等の厄介ごとが舞い込むなんて、知らなかった。 思い出せ、思い出せ、この石を渡す時、本来の持ち主である少年はふてくされていたが、その姉らしい少女はこっちを見て哂って居なかったか? まるでこの事態を見通していたかの様に。 嗚呼、つまり、アイツ等は俺達にこの災厄を押し付けたんだ 嗚呼、つまり、アイツ等は俺達にこの災厄を押し付けたんだ。 異様な光景は広がっていた。 女一人だ。 其れも、年端もいっていないような女一人が、大勢を引き連れて笑っている。 逃がし屋が、自分たちが逃げられないまでに追い込まれるとは、とんだ笑いものであるか。 否、誰だってこんな奴等に不意打ちを喰らえば、嫌でも瀕死に追い込まれる。 恐らく、もう、逃げられない。 恐らく、もう、助からない。 生き残る術があるとするならば、彼等の毒に感染するしか無いのだろう。 ● 「予想外の出来事が起きる……と、言いますか、万華鏡に引っかかったからまだ良い方なんでしょうが」 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は集まったリベリスタ達を見回した。 如何いう因果か、なんの悪い冗談か。上がり続ける崩壊度と横ならう様にして、不安定が度を増しているという事か。例の『閉じない穴』の影響かも知れないが、日本自体が歪んできているのは否定出来ない事である。 それはさておき、今回リベリスタ達がやるべき事は『賢者の石』の回収だ。 「如何やら賢者の石を回収しているのが、バロックナイツ第1位ウィルモフ・ペリーシュが作ったペリーシュナイトという……戦闘専門の、自律型アーティファクトなのです」 ペリーシュの研究は最終段階に入ったと、悪い噂が神秘界を駆け巡っている。 ペリーシュナイトが動いているという事は、恐らく賢者の石も研究の材料として必要なものなのだろう。 「海外ならまだしも、日本を管轄するアークとしては賢者の石をペリーシュナイトに渡す訳にはいきません。何としてでも食い止めましょう」 状況は悪い。 出どころ不明の賢者の石を持ったフィクサード『逃がし屋』が、ペリーシュナイトの強襲を受けて瀕死の状態だ。 だが、此の逃がし屋が居る場所に、もう一つの敵が近づいてきている。 「今回の戦場は、敵が大きく分けて二つ存在します。 一方は逃がし屋を取り囲んでいるペリーシュナイト。もう一方は援軍に来るペリーシュナイト。 とまあ……片側のペリーシュナイトだけでフィクサード達は追い込まれているので、正直増援は不必要だとは思われますが。 私達、アークの鼻が良いことは知っているのでしょう。保険に保険をかけて援軍が来るのでしょうね。 此方の班は、逃がし屋を囲っている『狡猾なルミナ』が率いる敵を相手にします」 まずは『狡猾なルミナ』についてだ。 「彼女……は、麻薬の様なアーティファクトです。主な能力値は資料にありますが、特に気を付けて欲しいのは……。 確かに、ルミナはペリーシュナイトであるのですが、彼女自身は戦わないのです。 戦うのは、彼女が『マーキング』した生き物全て。 マーキングとは……彼女の能力であり、寄生した相手を『無条件の快楽気分』に落し込む事が可能なのです。 中毒性があるからこそ、宿主はルミナの言う事を聞く。依存性があるからこそ、例えルミナが宿主を変えたとしても信者として下る。 彼女は宿主……いえ、巣を行き来する事ができるそうなので、宿主が今一体どれだけいるのかは不明です。そんな、多くないとは思うのですが。 酷いものです……皆さんも、そうなる可能性が高いので十分に気を付けてくださいね」 ルミナは寄生型であり、アーティファクト自体の形は現在も不明だ。何故かと言えば、何時も寄生し宿主の身体に完全に一体化している為に原型を探すのが困難である。 もしかすればルミナと宿主を引き剥がす方法はあるかもしれないが、相当な知識が必要だろうし、その方法もWP作品の為に一筋縄では無いのは明らかだ。 ルミナは今、ヴァチカンの元リベリスタを主な宿主として使っている。 ルーナ・ココという少女だが、正義感が強く、泣き事を言わない良い子であったそうだ。 少し前の話にはなるが、ルーナが何度目かのヴァチカンの依頼に出てから、戻る事は無かった。それ所かフィクサードとして得物を振るっていた。 「彼女も、もう不幸と不幸と思えない。もう戻れない位置にいます。 ルミナにマーキングされるという事は、そういう事です。マーキングされた方々を解放するには、死、しかありませんね……。 彼女は弱った者を狙います。どうか、彼女に触れないように。いえ、触れられないように」 其の信者が、リベリスタ達が到着した頃には『逃がし屋』の3人の男達を包囲している。 逃がし屋はフィクサードなので、最悪死んでも良いのだが、賢者の石だけは渡す訳にはいかない。 ルミナは如何やら、日本においてもマーキングを施した様で。革醒者やノーフェイスを引き連れている。特に革醒者の顔ぶれが、何処ぞの小さなリベリスタ組織の面子であるように見えるのだが。 「信じていない訳ではありませんが。後方から、もしかしたら敵の増援が来る事もあります。 お気をつけて、できれば皆さん揃って帰ってきてください」 杏理は深々と頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年04月30日(水)22:43 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ルーナの手を借りた、ルミナの腕が逃がし屋の男に触れようとする。 恐らくは、触れられたら最後だ。体力も、フェイトも少ない彼等にとっては其の抱擁はイコール、己の崩壊を意味していた。 もし、此処で早急に彼等を回復する手があったのなら。 もし、此処で速攻で彼等から気を逸らす攻撃があったのなら。 其れに逸早く気づいたのはやはり『尽きせぬ祈り』アリステア・ショーゼット(BNE000313)であった。 体勢低く、隠れていたのだが。千里を見通す彼女の瞳が、ルミナの舌により口内を侵される逃がし屋の男が見える。其の手には、賢者の石がひとつ。 「駄目、こんな所で、こんな事してちゃ」 只、『準備』を行うという意味では完璧であった。 廃屋から其の位置は大凡10m。『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)の千里眼のお蔭か、敵にはまだ気づかれていない。彼の分析が敵の配置や、状況を解り易く伝える。 『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)の翼の加護が足音という存在を消滅させ、『砕けた剣』楠神 風斗(BNE001434)は己を呪いから遠ざける神秘を其の身に纏う。 だがやはり、準備は準備だ。それなりの時間はかかる。 能動的な此の状況の中、初動の行動は大変重要であった。此処で遅れを取ってしまったが為に、逃がし屋の、特に賢者の石を持っている男はルミナに感染してしまった。 例え完璧な準備を行ったとしても、初動で遅れを取ったリベリスタ達は作戦の変更を余儀なくされた。 フツの合図により、風斗の明りが灯された。 其れが突入の合図。 アリステアの千里眼によれば今が一番ノーフェイス達が油断している時か。 飛び出した『愛情のフェアリー・ローズ』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)が疑似的な呪月を其の手の平に咲かせた。其の一筋の赤い光が、ノーフェイスを貫き道を示す。 海依音のジャッジメントレイや、『Matka Boska』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)のインドラの矢。『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)のB-SSが降り注げば、其の一辺のノーフェイスは一気の駄々落ちていく。 木片で打ち付けられた様な扉を蹴破った『そらせん』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)が転がり込むように廃屋の中へ侵入。其れに続いた仲間達は一斉に己が配置についた。 「んはぁ、ふぁ……んぅっ?」 異変に気づき、逃がし屋の口からルーナの口を離したルミナが、彼の口から銀の糸を伸ばしながら此方を見た。 「お楽しみの最中でしたか? 残念ながら打ち切って頂きますよ」 海依音の言葉に、ルミナは嫌そうな顔ひとつ。 楽しい事をしていたのに、日本人?なのにわびもさびも知らないのだろうか。 風斗の、デュランダルの剣先がルミナへと向いた。 「アークの、リベリスタだ。ペリーシュナイト『ルミナ』、其れ以上好きにはさせんぞ」 「ペリーシュナイトが一刃、『狡猾なルミナ』と元聖騎士見習いルーナ・ココだよ。美味しそうだね、皆さん。いらっしゃいませようこそ」 ルミナの胃袋の中へ。 リベリスタ達の陣を、両手で包み込むようにルミナの腕が前へと向いた。 ● アークの中でも有数の精鋭達が集まっているのだ。フェーズ1のノーフェイスを倒す事は容易い。 特に非常に命中に長けたあばたがトリガーを引けば、弾丸は自然と敵の身体を、急所を射抜くのだ。ノーフェイスを射抜けば、今度は憐れな革醒者の身体に穴を空けていく。 だが、あばたの表情は無表情、やや暗め。 同じようにアンジェリカの表情も曇っていた。 二人はテレパス系統の力にて、逃がし屋と交渉を持ちかけようとしていたのだが、既に逃がし屋は三人中二人がルミナに堕ち、一人だけが正常に生き残っていた。 どれくらい違うかというと、 「良い、気分だ……」 「最高の、気分だな」 「ど、どうしたんだよ……お、お前ら」 これくらい。 が、生き残りは賢者の石を持っていない。更には此の戦闘に生き抜けるような体力でも精神状態でも無いのは見て取れる。 交渉の余地は無いし、どうせその内ペリーシュナイト側の攻撃巻き込まれて死ぬだろう。 3m以下でも、3m以上であってもだ。空中から狙撃を行っていたあばたの射線は綺麗に敵へと繋がっていた。 目は完全にイっている逃がし屋の、マグメイガスとプロアデプトの気糸と魔力が放たれれば、あばたを貫き、彼女の頭の機械部位が吹き飛んだ。 「当てられるという事は、当たるという事だぜお嬢ちゃん」 「うるせぇ、だぁってろ」 全く一言多い奴等だ、殺そう。そう思ったあばたの露出した損傷部位に電撃が迸る。次の弾丸を撃ち放つ、その間、ソラが敵リベリスタの前衛の中に飛び込んで教本を広げた。 「邪魔なのよ、ね」 せめて一人でも多くの自由を奪うのだ。フリーの腕を横に振れば、一帯が一気に凍り付いていく。 デュランダルに、覇界闘士二人の足止めはできた――だが、やはり。 「ざぁんねーん!」 「わかってたわよ、そんな事!!」 敵、ソードミラージュの両刀のナイフがソラの背後から、首を切り裂いた。 だが、ソラも意地があった。百点満点が此の依頼の成功条件であるのなら、其の先のルミナ破壊までいき二百点が欲しい。だからこそ今は通過点。 ソラも五指を折ってはソードミラージュから精神力を奪い取り、攻撃を交換する形と成った。首の太い血管を切られた結果、ソラの首から大量の血が噴き出した。 「痛くない? ルミナが止めてあげようか?」 「いら、な、わょ……」 ソラが出せる言葉も途切れ途切れ。 紫の瞳が、赤い噴水を見て悲しみに染まる。 「お願い。仲間を、助けて」 祈りの言の葉は上位の神を叩き起こすに容易い。 アリステアの周囲、天使の翼が舞い上がれば傷を埋める暴風が吹き荒れるのだ。彼女が少しだけ目を開けて見えたのは、仲間が殺したノーフェイスの死体の山。 元は、人だったんだよね……。そう思えば彼等の冥福を願わずにはいられなかった。 大体あばたの一撃によって向かって来るノーフェイスは一掃はできた。だがやはり革醒者はそう簡単には倒れてくれない様だ。 特に、感染してしまった逃がし屋のマグメイガスの方が賢者の石を持ち、後衛へと後退し、守られているのが良く解る。リベリスタ一人が飛び込んででも、赤いアレを奪いに行きたいのだが、ルミナが、革醒者が、邪魔だ。 此の侭マグメが戦場から離脱する事も容易かったであろうが、何故だかルミナは何かの到着を待っている様だ。 刹那的に。マグメへと辿り着く為に考え着く方法としては、ノックBにより敵を押し退けるか、敵のブロックが不能になるまで倒して誰か一人が奪いに行くか、だ。 だが前者は風斗とフツの貴重な手を裂く為に合理的では無い。特に風斗の抑えはルミナへ行っている為動かせない。 ならば、少なくなるまで倒し尽くすのが良いか。 「それでも、やらなきゃいけないのよ」 ソラが言う。其の手に魔法陣を描き、回復を。 「日本のお歌、知ってるよ。勝ぁって嬉しい、花壱匁♪ ……あの子が欲しい」 ルミナの指が、遊び半分に海依音を刺した。 「ふざけるなよ……」 身長よりも遥かに長い十字の槍を持ち、風斗の前で余裕にも歌いだすルミナの姿があった。 右肩を貫かれたか肩を抑えた風斗が居る。言う事の効かない右腕に鞭打ち、剣を構えた。 「ね。ペリーシュナイトを相手に、一人で抑え込もうなんて随分傲慢なのね箱舟は」 「一人じゃ、無い」 返事をするのも息が荒れる。 背後に神嫌いながらも、神に祈る海依音を控えさせておいて負ける事は許されない。風斗は背中を押されつつ、役目を全うするのだ。 欲しい、欲しいと。口癖の様に言うルミナから賢者の石もそうだが、何より仲間を渡さない為に。 全身全霊全力の、一打。 「貴方は弱くなんかないわ。そうでしょう?」 海依音の声が風斗に。 吼えながら、軌跡に血を撒き散らしながら風斗の引き締まった腕がデュランダルを振り下ろす。其れを槍で受け止めたルミナであったが、勢いは止まらずにルーナの肩口が大きく斬れた。 「何を意地張ってるの? 砕けた剣で、何が護れるというの? 貴方は壊すのが下手ね、こうやるのよ」 回転力にものを言わせて、ルミナは黒螺旋を放つ。黒き渦は風斗の身体の中心を吹き飛ばしながら、後ろに居た海依音の脇腹を千切った。 風斗が螺旋が向かった先を見たが、海依音は心配させぬように笑って見せた。 だがリリは、苦虫を噛み潰したような表情をした。仲間が、大事な人達が傷つけられていくのが如何しても、如何しても許せない。 狂気劇場もそうだったか、WPシリーズは存在が許せない。だから此処で壊すのだと。 「そんなじろじろ見てるとルミナのモノにシちゃうよ?」 前衛で攻撃をしつつも横目に解析をしていたリリだが、流石WPシリーズと言った所か、――リリの頭が痛む。 狡猾なルミナの深淵に触れれば触れる程、感染したのであろう人々の嘆きや妬み負の感情が垣間見えてくるのだ。 ルミナ自身も解析されて困るのだろう、アレ、と指示したルミナの声一つでリリが狙われたのだ。 革醒者の腕が、武器が彼女へと飛ぶのだが眼前に立ったアンジェリカが、回避が低そうだと見定めたデュランダルの周囲に質量ある残像として出現。 「君の相手は、ボクだよ!」 本当は、ルミナを元まで行って一発殴りたい気分であったのだが、それを押し殺して仲間の為に。 一斉に切り込んだアンジェリカの群が敵の前後左右斜めから集中砲火していく。巨大な鎌が喧嘩する事も無く、スムーズにデュランダルの身体は切口が増えて行った。だが其のお返しの様に大剣がアンジェリカの胸を貫き、大量の吐血。 「素敵。ルミナのものになったら、もっと上手に切れるのに」 「あげない、お前にはなんにも」 アンジェリカの鎌が敵の大剣を抑えて、言葉のみで伝えた。つれないと首を振ったルミナであるが、どうもその目線はアンジェリカの身体を舐める様に見ている。 ソミラと覇界一人はソラがグラスフォックで抑え込んでいた。残りの覇界闘士がその横をスルーするも、フツが前に立つ。 「身の内に、何を飼っているの?」 「寂しい女の子が、此の世にはいるんだぜ」 其の事がなんの事かルミナには解らなかったが、フツの持つ槍が刺し込んだ月明りに煌めいたのが全ての答えであろう。 「なァ、お前さんらは元には戻れねえのか?」 「此の力も身体もルミナ様の為に!!」 「そうかァ、それは……残念だなあ」 覇界の左腕が払われた刹那、フツやその後方に居た後衛を巻き込んで炎が放たれた。 だが其の炎のなんのその、フツの身体は燃え上がっていたが槍を振りかぶった状態で再び覇界の眼に映った。嗤う槍が促した、殺せと。フツの腕は、槍の先は吸い込まれるように覇界の腹部を貫き押し返したのだ。 更に。 「引導だ、取っておくかい?」 「駄目だこれ、やるしかない。私はやります」 フツの、指の間に挟んだ札が燃え上がる。 あばたの銃が、唸る。 上空に現れた朱雀が一気に敵を焼き尽くす炎を吐き出し、その合間を弾丸がすり抜けていく。仲間は不殺と言っていたが、如何やら加減が効かなかったらしい。というのも革醒者に加減を行う暇がないと判断したからだ。 覇界の見る姿は灰塵と成り空中で分解し、更に後方に居たレイザータクトが影だけ残して燃え尽きたのだった。 仲間のお蔭もあり、ルミナの情報は探れた。 恐らく此のルミナ。所持している感染者自らがルミナを捨てようと望まない限り、引き剥がせないらしい。だが依存性ある此れで、そう思わせるには相当の言葉の力が必要だろう。それにどうせルミナは移動する。 それか、ルミナが感染している人全てを皆殺さなければ出てこない。其れをそっと、アクセスファンタズムへリリは流しながら。 「全ての不幸を吸い取って、廃人にするとは趣味が悪い子ですね」 「でもルミナに触れた子は皆幸せに成るよ。青色シスターさん、貴方も此の快楽をお裾分けされたい?」 それとも。 「男の身体の方が、お好みか?」 ルーナの身体から一筋の光が飛び、逃がし屋のプロアデプトの身体から粉が噴き出た。 よく見ていたアンジェリカの眼だけに見えていた。 星の光とはよく言ったものだ、あれは『蝶』だ。 「入れ替わったのね。でも貴方は好みじゃあありません」 海依音は判断した。恐らく、これからはルミナ無しのルーナと、強化された逃がし屋プロアが厄介になる事を。 ● アクセスファンタズムから、良くない報告が聞こえた事に其の場に居たリベリスタ脳裏には同じ文字が浮かぶ。 時間が、少ない。 一番後方に居る賢者の石を持つマグメイガスに近づきたいのだが、クロスイージスに守られているホーリーメイガスの存在を始め、多くの障害がリベリスタの足止めをしていた。 本来なら後衛配置の敵ホリメを叩く為にイージスを如何にかするのかもしれない。だが、ノックBを持ったフツか風斗はブロックされブロックし、其の場から足が動かない状態だ。 また敵のホリメは二人居た事から、敵の回復量は馬鹿にできなかった。一人は今までの攻撃に巻き込まれて既に死を迎えているが、もう一人が未だ健在だ。 ならばと、あばたは攻撃をフツの眼前に居た二人目の覇界に銃口を向ける。 此の一打で、此の世のクズが一つ消えればそれで良かった。己の体力もフェイト使用済。当てられる場所に居た彼女は格好の獲物か――それでもアリステアの回復があったお蔭で、此処までよく持ちこたえた方だ。 「一緒に潰れてみるかぁ?」 轟音が鳴り響く、だが無念にも其の弾丸では覇界の死亡には至らなかった。返されたように、覇界は足を振り回してフツと一緒にあばたを貫いた。 空中で意識を飛ばした彼女の身体は重力に従い、慌てたアリステアが受け止め背へ隠す。 アリステアには正義によって手を汚さなければいけない矛盾に、壊れたルーナの気持ちが解るという。 悲しい表情に、止まれない回復を何度も紡いで。其れでも及ばない事を悔いながら、仲間が傷つく姿を見守る事が――― 「アリステア。もういいんだ、どうせ死ぬ、皆死ぬ、君を置いて」 ルミナが男の顔で嗤っていた。段々と此方に歩いてくる男体の、ルミナ。其の血濡れた片手がアリステアが欲しいと言っていた。 「……そんな事、無いもん」 首を振って反撃した。アリステアが攻勢に廻れる程ルミナは甘くなかった。だから回復で抗うのだ。 「皆で帰るんだから!!」 「浮気性は、モテないのよ?」 アリステアから射線を斬る様に、ソラがルミナの前に立って気糸を受けた。大事な回復役を、落とす訳にはいかないのだ。 だがソラの傷を受け続けている。一人でグラスフォックを叩きこみヘイトを稼ぐ反動は高かった。其処へ貫いてきた、ルミナの攻撃。寸前でルミナのそれは、リリが受けた。 「なぁ、可愛い可愛いシスターよ。良ければ俺に愛を教えられてみる?」 「う……ぅっ」 近づいてくる男の口内より、虫の様な両足が飛び出てきていた。おそらくルミナの、何か。 リリは其の悪夢の様な口づけを受けまいと全力でルミナの身体を押した。其処へ飛び込んで来たのは、 「オイ!!」 「ふざけんなあああ!!」 フツと風斗の全力の攻撃。 其の後ろからブロックが溶け、ルーナに戻ったルーナが海依音の眼前まで進み、海依音の胸に槍を刺し込もうとしている。 「可哀想な子、逃げてしまったのね」 「おいでよ、おいでよ」 「もう、それしか言えないのね」 眉をひそめた海依音、槍を抜き取り、指をルーナへ向け再びの光を放った。 結果的に、間一髪でリリが乗っ取られる事は無かった。深緋に吹き飛ばされたルミナが、後頭部を擦りながら立ち上がる。 「……収獲ひとつくらい欲しいじゃん」 確かに回復には優れていた箱舟勢であった。 継戦力は確かにあっただろう、此の侭続けていれば確実に革醒者の数を削って、賢者の石を持つマグメイガスに辿り着けただろう。 だが、その時は来てしまった。 「夢見針、遅かったな」 「ひはははは! るせぇ、来てやっただけ有り難く思えよなぁ?」 リベリスタとルミナを分かつ様に、硝子窓を蹴破って出てきたのは、不運にももう一つのペリーシュナイト。 随分数を揃えて援軍に来ると思っていたが、蓋を開ければ聖騎士一人しか辿り着けなかったあたり、あちらの箱舟はよくやったらしい。 「戦闘の後は戦闘です、てかぁ?」 「いいから、賢者の石を持って行け」 「あんま命令すんなよ、失敗作がよぉ」 だがリベリスタ達は手を出す事ができない。 もう少し粘れたといえばそうかもしれないが、あばたが欠けている今、無理をすれば彼等ペリーシュナイトの何方かに仲間の身体を渡しかねない。 特に殺せない夢見針がマグメのお守りに着いてしまえば、特にめんどくさい作業が必須になるであろう。 リベリスタ達は撤退の余儀無く。後ろを向き、振り返らないように走った。 ペリーシュナイト達は此れを追う事は無かった。彼等といえ、役目を果たす事が第一なのだろう、無駄な消化試合は行わない。 ふと、アンジェリカは振り向いた。槍を収めていたルーナの瞳と一瞬だけぶつかった。 殺して。 そう、言われた気がした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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