●亡霊と、空(カラ)の軍神 -Zierden Mars- 暗夜。 ホウホウ、と梟がどこかで鳴くしっとりした夜。 じっとりと重たい六月の空気の中、闇に紛れ"彼ら"は時間を待っていた。 「時間ですね。戦闘行動を開始します。準備はよろしいですか?」 時代錯誤な旧ドイツ軍の軍服に身を包みたる女は、帽子を深く被り、真っ赤なリップから淡々を言葉を放った。 女の後方には、また女と同じ様に、旧軍の軍服に身を包みたる白人の大男と、パンツァーファウスト等で武装した歩哨達。大男は整然とした姿勢で女に応答する。 「この晴れ舞台。亡きお祖父様が居られたら、感涙なさっている事でしょうな。終わりましたら祝杯を挙げましょう、少尉」 「お酒はしばし絶つつもりです、ガンプケ特務曹長。私は、先日の失態を返上しなければなりません。祖父の名誉に賭けて」 ガンプケと呼ばれた大男に、女は先祖の名誉を口する。口にした途端、ガンプケは、堅苦しき顔の緊張を緩める。 「少尉。私は貴女のお祖父様の時代から仕えて来た身。すべては少尉の意のままに」 女は、巨大な砲を軽々と取り回し、最終チェックの後に、その砲口を目標へと向けた。 サイトから覗く先には、統一された制服の人が行き交っている。 女が呟く。 「私も所詮は趣味者ですか……露助め。卑怯者の子め」 「どうされました、少尉?」 「何もありません――時間です」 fünf、vier、drei、zwei、eins、秒読みが下される。 「……Null」 女が携えたる巨大な砲より、閃光が飛ぶ。爆音が響き渡り、次に"目標"が粉砕される。 「出撃」 ガンプケが軍刀を抜剣し、上から下へ大きく空を切る。 「「「――JA!」」」 鬨の声。 時代錯誤な歩哨達が踏み込むその先は、三ツ池公園と呼ばれる地であった。 「……Zierden Mars」 ガンプケは、少尉をチラりと見て、闇に小さく哄笑しながら呟いた。 ●三ツ池公園 -Verzweifelt- 「チィ……七派首領の動きを好機と見たか。『親衛隊』が動くぞ」 『参考人』粋狂堂 デス子(nBNE000240)は、ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達に話を切り出した。 「奴等の狙いは三ツ池公園の制圧だ。奴等は『革醒新兵器』をより強化する為に神秘的特異点である『穴』を狙っているらしい」 親衛隊は、とかく特殊なアーティファクトを持っていた事例が殆どである。 大田剛伝との結託によるものである事は明らかであり、『革醒新兵器』と称される新兵器を更に強化して運用する事が、彼らの次に繋がる一手か。 「『親衛隊』はアークのリベリスタを狩りながら、周到にその戦闘力や展開力を計算していたらしい。アークの脆弱性、即ち『エース』に頼りがちな戦力構成を突いてきた形になるか。人手が足りん」 デス子が資料を置く。 続き、ポイントを端的に述べる。 「抑える敵は、リップイェーガー少尉というマグメイガスと、ガンプケ特務曹長というレイザータクトの小隊だ。階級としては前者が上だが、戦闘指揮を持っている後者が、実質は指揮官と言えるだろう」 今回の親衛隊の作戦は、戦略の要所として力を入れているらしい。 狩りに興じていた時と比べ、敵を撤退させる困難さが伴う事は容易に想像がつく。 「制圧戦を得意とする彼等に、実戦経験の殆ど無い三高平の予備戦力をぶつける事は愚の骨頂になる。残存する精鋭で彼等の苛烈なる攻撃を食い止めなければならない。――私も多少は実戦経験があるからな。私も出る」 オートマチックピストルのスライドを引いて離し、ガシャリと鳴らし、デス子は次々にリベリスタの肩を軽くたたく。 「ま、気張り過ぎるな。信念だけでは何も生まれん」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月07日(日)22:11 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●気魄の往来 -Dunstig- 朧に乗じて、現れる。 三ツ池公園はその名の通り、水量の豊かな池が存在する。 この時期は、地面が少しぬかるんで、湿気を帯びたヌルい空気が、山気のごとく重苦しい。 夜の闇。 強襲の最初に響いた爆発音の次は、ジジジジと鳴く虫の声とフクロウの声が余韻を残す。親衛隊の歩哨達の雑踏が背景に混濁して、喧騒が徐々に徐々に、渦となって耳に入る。 渦は、次第に大きくなり――銃声が鳴った。 『赤錆烏』岩境 小烏(BNE002782)の目に、突如黒い点を映る。 咄嗟に首を傾げると、頬を黒い点――銃弾が掠って行く。 「先日顔を見たばかりというのに気の早い事だ」 ツ――、と垂れる赤い液を、トビ色木綿の着物の袖でぬぐい、左足を踏み出す。向こう側から来る敵は、既に自分達を既に捕捉しているらしい。次に右足。更に左足。守護結界。 「戦力の下を削り上を排し、ここでひとつ決める魂胆か。――全く互いの勤勉さも考え物だな」 小烏に対して、『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)が頷いた。神秘の閃光弾を手にして並走する。 「うむ、……敵戦力の減少を以て撃退せしめる!」 ベルカは、最初の一発目が飛んできた暗闇に見当をつけて睨む。 「……主義者の中の趣味者め」 敵は先日、小烏もベルカも、交戦した強烈な差別主義者の女である。 両者の胸裏。交戦を経て多少に表へ出た軍人らしからぬ女の素性には、何としても言ってやらねばならないモノがあった。 駆けて程なくして、隊列を組む親衛隊が肉眼に映る。 「征くぞ!」 ベルカが投擲した閃光が、場の闇を払って親衛隊を照らす。 『ぴゅあで可憐』マリル・フロート(BNE001309)が翼の加護を全員に施す。 全員が浮遊感を覚えた途端、向こう側から来た大量の銃弾が足元をくり抜いていく。 「七派で出払っているのをいいことに三ッ池公園を狙ってくるとは、そこそこ頭が切れるようなのですぅ」 すこぶる悠長な調子で腕を組み、頷くマリルであるが、意思は真剣である。 「仕方ないですぅ! この最強ねずみのマリルちゃんが撃退の為に立上がってやるで――」 即座、抜き放った魔銃。ここで銃弾が魔銃を掠っていき、言葉が詰まる。少し冷や汗が出る。 『ましゅまろぽっぷこーん』殖 ぐるぐ(BNE004311)は、よちよち着いて行く。着いて行きながら、トップスピードをグンッと上げて跳び出した。 敵の銃弾、弾幕を右へ左へ、下へ上へ、素早く避けて振りかざした葉っぱは。 「劣等め!」 ダギりと硬い音を立てて、親衛隊のクロスイージスがパンツァーファウストの鉄棒に受け止められる。 「ちがうよ。ボク達はもっとおくのひとに用があるんら」 翼の加護でひょいと飛び越える。 「さぁて、前回に続いて二回目の対決。ま、向こうは覚えちゃいないだろうけども」 『黒き風車』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)が、風車の如き黒剣を肩に担ぐ。黒き剣の一部を溶解させる様に、溶け出させながら放つ一閃は、滴の様に黒い闇を散弾の様にぶちまける。 「倫敦の殺人鬼、死霊使いと来て――何が来るかと思えば、お次は古臭い軍隊連中と来た」 『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)は、大きく跳躍した。 黒と白の二丁を、前腕部で交差させて、貫通弾を次々に放つ。 翼の加護で空を蹴って再動。放った貫通弾のワンセットは、ぐるぐ対峙するクロスイージスの付与を砕く。ワンセットは敵陣の奥深く、ホーリーメイガスの付与を砕く。 「よくもまあこんな極東の公園にぞろぞろと……」 着地して更に地面を大きく蹴る。蹴った地面を銃弾が攫っていく。 櫻霞は、後方へと視線を送る。大丈夫だ。という意思表示である。 『フリアエ』二階堂 櫻子(BNE000438)は、櫻霞と視線を交差させる。頷いてマナを全身に巡らせる。 「“全てを護る”という綺麗な理由は持ち合わせていないけれど……」 私の横に大切な人が、私が護らなければならない人が居る。 「さぁ、参りましょう。回復サポートは私が……」 「さて――油断が削ぎ落ちたと見るべきかね」 『足らずの』晦 烏(BNE002858)は小さな煙草を咥え、紫煙を吐き出しながらデス子に語りかける。 「そのまま酔っ払って慢心してくれてりゃ良かったが、毎度ながら難儀な仕事になりそうだなぁ、粋狂堂君」 デス子からの返事は無く、代わりに煙草を一本差し出される。 「♪ それじゃ、行くかね」 烏は煙草を受け取り胸ポケットに入れる。愛用の散弾銃が火を吹く。援護を得たデス子が駆けて、ぐるぐの正面に在るクロスイージスを奥へと弾き飛ばす。 地を切り裂く程の斬撃が、リベリスタの眼に映ったのは、程なくしてである。 ●親衛隊特務曹長 -Sturmscharfuhrer- 「出てきたね、ガンプケ! 今回は前みたいな舐めプもないだろうし、お互い本気の全力勝負だね!」 フランシスカが声を張り上げる。手には武者震いが走る。 携えたる黒き剣の『かつての持ち主達』に負けずとも劣らぬ一刀を放った者は、かの特務曹長であった。 「見た顔があるらしい。執念深い事だ」 クロスイージス達が並ぶ一枚奥から、悠然と巨体を現したる屈強なアーリア人種の大男は、その緑色を帯びた瞳を爛々とさせていた。 男の手には剣。剣の切っ先は地面に突き立つ。突き立った所から真っ直ぐに亀裂が走っている。 レイザータクトのチェイスカッターを大きく強化した様なその技は、リベリスタの布陣の奥の奥――櫻子の肩口を袈裟懸けに切り裂いていた。 櫻子は一撃で体力の大半を削り取られる。足をふらつかせ、気力で体勢を戻す。 櫻霞は、この様子に奥歯を噛む。明らかに回復手から狙ったと言える。 「頭の固い軍隊風情が……」 櫻霞が静かに銃口を向けた先。ガンプケは笑っていた。 「癒し手から狙われると思ってなかったのかね? 定石中の定石だろう? ン?」 ガンプケの剣を地から抜く。抜いてひとたび空を切る。これが合図。 実質的な指揮官の合図で、敵射手の弾丸がリベリスタ達に降り注ぐ。ぐるぐの付与を砕く。 砲火が止む。 一寸の静寂の次、輝かしき銀の弾丸が飛来する。リベリスタ達の布陣を、銀線が軌跡を描いて真っ二つに走り抜けた。 ベルカは咄嗟に銀の軌跡を逸らす。逸らすが後列、櫻霞の肩を貫く。 「突撃!」 ガンプケの声。ナイフを構えたクロスイージス達が躍りかかる。 「迎撃!」 ベルカの声。戦闘指揮の熟練者同士の智謀が拮抗する。 声と声の交錯。 小烏は躍りかかった輝くナイフを、短刀で受け止める。衝撃をするりと受け流し、星を占う。 「ったく、こういう戦の時に自分の火力の無さを痛感するねぇ」 クロスイージスの胸に吸い込まれた星占いであったが、まるで堪えていない様に、眼前の敵は泥を払い、堅牢さを誇示するかの様だった。 「――だが、ちぃと早まっちまったらしいな。特務曹長は」 小烏は、ベルカ程ではないが、戦闘指揮的な思考を持っている。壁が突出した状態にあるならば――ベルカに視線を送る。 「うむ! 作戦通りに遂行せしめる! ぐるぐ!」 ベルカが神秘の閃光弾を投射する。先ほどよりも威力を弱めた閃光が煌めいて。 「行くらー」 ぐるぐが弾ける様に、敵前衛の向こうへと突破する。突破したぐるぐは、残像を生じさせて敵陣の後列、ホーリーメイガスの部隊を切りつける。 無数に生じたぐるぐの群れに、彼らは突破した人数を把握しかねたか、混乱へと陥った。この上無い程の浸透戦術といえようか。 奇しくも、『ホーリーメイガスから優先的に潰す作戦』は、リベリスタ達も同じであった。 第一の局面。『どちらのホーリーメイガスが先に倒れるか』といえるのである。 「癒します――私に構わず、攻めの手を止めないで」 降り注ぐ治癒に、櫻霞は二丁の銃を握り直す。 「流石に多いな、少し……掃除と行こうか」 心配をかける気は無い訳ではない。しかし、ここで庇いに入っては信頼を裏切る事に他ならない確固たる信頼がある。 連続した銃声が一つの音に聞こえる様な速射。火矢を放つ。 「スターライトシュートで一網打尽にしてやるですぅ」 火矢の次に、マリルの弾丸が追撃を加える。 両者から放たれた、葉も花も。幾条の赤熱した線が斜めに降り注ぐ中を、するりと黒い影が跳び出した。 「受け継ぎしは誇りと刃。道を空けろ! 黒き風車のお通りだ!」 フランシスカが放った、黒色の飛沫が浸透する。 集中攻撃に次ぐ集中攻撃により、ホーリーメイガスの布陣を打ち砕く。運命をくべたか、されど彼らは立ち上がる。 不吉、不運が齎される中、クロスイージスが放ったブレイクイービルが、これまでの状態異常諸々を消し飛ばす。何とも堅牢にして頑強な布陣である。 ここで、ガンプケはふと、待機をした。 「やはり油断ならんな。作戦は諸君らの勝ちだ。だが――奥の手は隠しておくものだ。仕方なし、切るとしよう」 何を企んでいるのか。 攻撃を砲手に命じて、まるで猟犬の様な目で櫻子に視線を送る。 様々な状態異常を、もどかしとばかりに吹き払う親衛隊の砲火の、思い切りよく通り抜けた硝煙の臭いは、じれったい空気をただなぎ払う。 「全ては防げぬとしても一部でも防げれば恩の字かね」 烏は櫻子への射線を遮るような位置で、紫煙を吐き出し、傷を見る。まだ行ける。閃光弾を掌に作り出して投擲する。光が起こって、敵砲撃手を固めたる。 烏の援護を得て、再びデス子がクロスイージスを弾き飛ばした事と同時、超直観を用いる小烏がふと気がついた。 「――姉さんのおでましかね」 以前と異なり、きっちりと軍服で固めたる赤い口紅が有視界。 膨大な魔力を貯めている状態が垣間見える。魔力は、ガンプケへと放たれる。 ガンプケの待機状態。リップイェーガーが間合いを詰めている事。 付与を砕かれる間を無くす事――それが狙いかと思った時には遅かった。 「Siiiiyyyyyeg Heeeeil!」 ガンプケがねっとりと勝利を謳う。そして抜剣。 遠間合いから放たれる不可視の刃が、リップイェーガーの援護を得て走り抜ける。 「担ぐなら神輿(みこし)は軽くて、パーがいいって日本の格言があるがね」 烏の煙草が真っ二つに落ちる。 「中々どうしてたいしたもんだ。にわか仕込みの少尉殿を褒めてやっても良いんじゃないか。先任殿」 「クク、くだらん世話焼きだ、劣等。――少尉殿は私の為の忠実なる"道具"だ」 射線の立っていた烏。 その奥の奥。櫻子。 両者の肩口から、紅牡丹をぶちまけたような鮮血が吹き出した。 ●真の亡霊 -Gespenst- 櫻子が運命を戦火くべるに至る。 敵陣のクロスイージスの守りに、砲手が次々に支援を砕く。 ぐるぐが敵の回復を遮っている事が、唯一に勝っている手であったが、それは敵陣もガンプケの一刀のそれが、同等とも言えた。 拮抗している。 ホーリーメイガスの有無が、もはや第一の局面ではなく、完全なる勝敗を左右する領域までもつれ込んでいた。 「また私の前に立ちますか。覚えていますよ、露助め、劣等め」 リップイェーガーである。 ガンプケに付与をする為に、ホーリーメイガス陣と同列まで前進してきた形である。 少尉は、フランシスカを見る。烏を見る。小烏を見る。そしてベルカを見る。 「少佐の大義の為に、私は生きてきたと言っても過言ではありません。立つならば撃ちますよ。勝利の為に」 「雰囲気が違うな、少尉殿。前もひらひら蝶みたいで悪かなかったが、今のがずっと"らしい"」 小烏が式符を放ち、漆黒の鴉でもってクロスイージスを引き付ける。 ベルカは前衛に並び、言う。 「……貴様も趣味者か。ならば我らはコインの表裏。鏡映しの双子だよ、リップイェーガー!」 リップイェーガーの齢は25と知る。WW2の当事者ではないのである。会話で引きつけ、リップイェーガーの足元に転がした閃光弾を炸裂させる。 「ち……露助めっ!」 ぐるぐが執念深くホーリーメイガスを切りつける。 「おっちゃんとあそべないから、いいかげん倒れるらー」 既に運命を一度消費していたホーリーメイガス達は程なく倒れる。彼らは効率的に、被害を防ぐべくぐるぐから距離をとる者がいる。 再動。直角に曲がる様に、動いたぐるぐ"達"は、逃さないとばかりに葉っぱを振り上げる。振り下ろす。 敵陣のホーリーメイガスは倒れ去る。 「――ならばこれで、拮抗だ」 ガンプケが再び剣を構える。視線はやはりに櫻子である。 「好きにはさせん」 櫻霞がばら撒いた銃弾が、ガンプケの付与――リップイェーガーの魔力を雲散させる。 「構わん、あと一撃だ。――死ね、劣等」 振り下ろしたるガンプケの剣筋を、黒い板が遮る。 火花が散り、粘つく闇が、ガンプケの刀身を侵食する。 「へへ、アヴァラに比べたらまだまだだね!」 フランシスカは押し返す。黒い滴を弾かせて、ガンプケを常闇の呪詛で撒く。ガンプケだけではない、闇は砲手も飲み込む。 「こう何度も、これを放つ日が来るとは――『Meisterhau(達人の剣)』!」 地を切り裂く斬撃が飛ぶ。 「普段なら……ねこに何かしてやるつもりも庇うつもりはないですけれど回復手は一人しかいないのですぅ」 射線にマリルが入っている。 「先日と今回の一戦を見ている限りじゃ、己の芯となる中身がまだ伴ってないようだがね。麗しのお嬢さんをこんな道に引き込む事も無かったろうによ」 射線には烏が入っている。 不運か不吉か。 あるいはマリルと烏が庇った事で、ほんの僅かに太刀筋が変わったか。 「戦う力を……どうぞ受け取って下さいね」 櫻子は回避する。 即座に回復が降り注ぐ。リベリスタ側は癒し手が健在、一方で親衛隊側は喪失している。 「おのれ……! ここまで耐えられるとは」 ここで初めて、特務曹長の顔が曇る。 「ガス欠かしら?」 曇った顔の特務曹長に、フランシスカが不敵に微笑む。 「今まで、このコンビネーションで仕留められなかった敵は居なかったのだろう――だが生憎だったな」 櫻霞がマガジンを素早く交換して言う。 「櫻子!」 「はい」 インスタントチャージが櫻霞へと来る。 「――成る程な。大技を連発しすぎたか?」 デス子が煙草に火を着けて、ライターを烏へと放る。 「あとは射手だけだな」 烏は受け取ったライターで、新しい煙草に火を着ける。 束の間の静寂。 「少尉、シルバーバレットを!」 怒号の如きガンプケの指揮で、戦闘は再開される。 リップイェーガー、ベルカ、小烏による先手の争奪戦。邂逅の際にも行われた削り合いは、ベルカに傾く。 「私は【家】の姉様達の様に、アフガンで聖戦士と戦った事も無い。貴様らの様な本物の主義者でも無い」 閃光弾を手にする。 「だが私は、世界の護持を掲げて戦う。なぜならば、NDが顕現したあの時、姉様達は言ったのだ。生きろ、と。己が生をゆけ、と。言うてくれたのだ」 炸裂した光に、再びリップイェーガーは動きを止める。 「己の生……? ぬくぬくと過ごして来た輩が、私に説教をするつもりですか! 露助!」 閃光で眩んだ目を振り切り、リップイェーガーは携えた砲塔から黒き鎖の奔流を吐き出した。砲火を受けて、しかしベルカは笑う。 「だから私は箱舟に忠を尽くすのだ! 伊達と酔狂の赤い旗を振りながらな! 羨ましかろうが、主義者の中の趣味者め」 ベルカとの応酬の中。銀の弾丸で櫻子を狙わなかったリップイェーガーに、ガンプケは苦虫を噛み潰した様な顔を浮かべる。 「前回の二の舞は御免さ。仕事の中にも遊び心を忘れるな、全力はふさわしい場までとっとけっ」 小烏のブレイクイービルが、呪縛を即座に払う。 前に嫌というほど見てきた一手である。警戒に次ぐ警戒が、ここで良手を生む。 「……役立たずめ!」 ガンプケは吐き捨てる。 「おっちゃーん、さっきのやつもっとみしてよー」 「撃ち方! 何をしている!」 ぐるぐの何人かが、ガンプケへと纏わり付く。 「邪魔だ!」 「ちょっとやそっとのフルボッコで落ちるボク達じゃねーろ!」 葉っぱで勲章等をむしり取るなど、斬撃を加える。返す刀で一刀がぐるぐを切るも、ぐるぐは十分に余力がある。 マリルの弾丸が、砲手達をなぎ倒す。 「いっちょ上がりなのですぅ! えっへん!」 腰に手を当てて胸を張ったマリルの声が、まるで場違いの様な呑気さも相まって、戦場に響く。 ホーリーメイガスを崩す、崩さぬが、最終局面までもつれ込んだ戦場の。一度傾いて、傾きを正すことができなかった側が、一挙に崩れるのは道理である。 「まだ続けるか……バロックナイツ?」 マリルと櫻霞の弾丸で、親衛隊の射手達が崩れ落ちる。 癒し手の回復が降り注ぐ。癒し手の回復が降り注ぐ。 「……撤退! ――少尉!」 ガンプケの声。 被害と回復の均衡が、回復へと崩れた以上、継戦は愚と判断したか。 リップイェーガーの砲塔より、黒い鎖が迸る。呪縛の付与。このまま撤退する心算であろうか。 「アヴァラブレイカーッ!」 交差するように黒い螺旋が飛び出した。 呪縛の鎖を引き千切り、フランシスカが放つ黒き風。 「なっ」 ――――不吉、不運、ガンプケの胴を、黒い風車が真っ直ぐに貫く。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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