● ――パンジャンドラム。 英国が作った兵器。でも結局海に沈んで実用化されなかった。 形は大きな車輪がふたつくっついた様なもの。リムにロケットモーターがくっついており、それが噴射することで超勢いよく回って敵陣にドカーンと突っ込む的なアレだが、先ほども言ったように構造からバランス、あらゆるものが欠陥だらけで失敗作として終わった。 しかし、それを甦らせ、使えるようにした男が居た。 「――できたァ!!! できたぞ、クリストフ!! 流石だ、あの腐れ劣等共が作れなかったものを俺は作ったのだぁあ!! 流石俺、流石俺達!! あいつらよりも上! そう、俺らこそが最強!!」 まるで爆音かのような笑い声が部屋に充満した。 「はい! ベンヤミン様!! できましたね、これぞパンジャンドラムです!! いだい!!」 目を輝かせた背の低い男――クリストフは『パンジャンドラム』と言った瞬間、先ほど叫んだ男――ベンヤミンによって吹き飛ばされた。壁にぶつかり己の骨が軋む音を聞いたクリストフは「なんで!?」という瞳でベンヤミンを見る。 「ちっがーう!! クリストフ、お前は駄目な子だな!! パンジャンドラムなんてあの腐れ劣等共の言葉を使うんじゃあ、無ぁぁぁあい!!」 「ええ!! じゃあこれはなんなんですか!」 「パンジャンドラムだ」 「パンジャンドラムじゃないですか!!!! いだああい!!」 今度は幾重もの気糸がクリストフを貫いた。また「なんで!?」という目線をしながらもよろよろと戻ってくるクリストフ。これだから体の傷が絶えないのだと首を振るが、何か意見があるのかと威嚇するベンヤミンの瞳に怯えて明後日の方向を見た。 「いいかクリストフ! 無知な貴様にも解るように教えてやる!! これはパンジャンドラム(独Ver)である!!」 「なるほど!! あんまり名前変わりませんね! いだああああい!!」 そしてまた気糸がクリストフを貫いていった――。 ● 「ついに親衛隊が動き出しました」 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は青ざめた顔でそう言った。 親衛隊達の狙いは三ツ池公園だ。この公園、狙われすぎだろう――『革醒新兵器』をより強化する為に神秘的特異点である『穴』は彼らにとって喉から手が出る程に欲しい代物らしい。 「――が、今五十人もの精鋭達が七派首領の対応で不在です。今此処にいる皆さんも立派な精鋭である事に違いはありません。この危機を、なんとか脱出しましょう!」 敵は大田剛伝との結託で強力な新兵器を開発した。つまり兵器によって更なる力を増しつつあるのだ。 「これまで敵はアークリベリスタ狩りをしてきました。ですが、この三ツ池での戦争は今まで以上の気合いの入りようです。大型兵器が皆さんの大きな壁になるでしょう。油断せず――だって」 亡霊達の夢は実現させてはいけないのだから――!! 「この班は三ツ池の多目的広場へ向かってください。そこにはクリストフ、ベンヤミン、またその部下と大型兵器が来るので迎え撃ちます」 神秘をスパイスに強力な兵器を持ち合わせた親衛隊。ただでさえ厄介極まりない親衛隊だ、激戦になるのは目に見えているだろう。 「兵器はふたつ。パンジャンドラムというものを模した兵器です。凄い勢いで突撃してくるというだけのものですが、その威力にはお気をつけて。また、この兵器には自爆装置があるようなので……警戒してください」 敵陣に突っ込ませて爆発させる、成程、いかにも脳筋がやりそうな事だ。 「親衛隊はベンヤミンには特に注意してください。効率的にねじ伏せる――そのためにどんな汚い事でもやってくる狡猾な方をお聞きしています。戦闘不能した方等、トドメを刺すために積極的に狙ってくるでしょう」 親衛隊――長きに渡って眠り続けた牙は今、再び動き出す。さあ、ここからは地獄の一丁目! 「目標は敵の撃退です――どうか、お気をつけていってらっしゃいませ!!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月02日(火)23:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ゴロゴロゴロゴロゴウィィイーン 今の時代に似合わぬ武器、兵器を携えたのは幻想を追い続ける亡霊達。彼等の瞳に映る未来とは、過去に縛られた甚大な被害だ。 それだけは食い止める。 亡きジャック・ザ・リッパーが残した負の遺産を、世に出さないために。 「大人しく尻尾を巻いて帰るか、ぶちのめされてから帰るか選ぶと良いの!」 「そうよっ。子供達が、楽しく、いきいきと過ごせる公園で……兵器だなんて、持ち込んじゃダメじゃない」 地に足を着けた『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)に合わせて、上空を羽ばたく『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)。 その頃には『逆月ギニョール』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)は単身、敵陣へと突っ込んでいた。瞬時、目の前は氷の世界へと誘われる。 音を立て、一閃。氷柱を突き破って来た者が一人居た。彼はエレオノーラの瞳へ向かって剣の矛先を射る。 「アーリアの猟犬共! パンジャンドラムを実用できるとは、まさに天才だな! だがしかし、貴様らは歴史の亡霊だ。亡霊は亡霊らしく墓にでも入っていろ!」 『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)の高笑いがひとつ、戦場で木霊する。その声に混じるノイズは何かの起動音。 「勝手に、殺すなァアア!! 望みの様だな! この兵器! 身体で知るがいい!!」 エンジン全開。機械仕掛けの神様の様な、神秘が核を担うパンジャンドラムは陸駆目掛けて突進していく。 その片車輪へと気糸を射る彼だが、兵器は止まる事は知らず。 ならばと、陸駆はあひるの力を得てして飛び上がっていた。だが、直径3mの化け物の攻撃範囲から逃れられた訳では無い。 跳ねたパンジャンドラム。ギリギリ、スレスレ、陸駆は兵器の車輪を身体に掠める程度で終わったが、 「なにっ、後ろか!!」 「あ、あっ」 陸駆が振り返るが、遅い。背後で翼を広げていたあひるは一番の貧乏くじを引く。 「あひるさん、危ない!」 叫ぶルーメリア。その声虚しく、目の前であひるの身体が車輪に絡まり、ぐるり。地面に押し潰された瞬間に早くもフェイトの加護をその身に受けた。 即座に詠唱に入ったルーメリア。同じく折れかけた翼を広げ、舞い上がるあひるとて、まだ諦めた訳では無い。 「読まれたか」 ――動きを、思考を。 『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)が彼女の下に位置をとった、大事なメイガスを失う訳にはいかないのだ。 しかしその行動は読まれていた。これで一つの手が裂けるのだ。 そして、二つの回復詠唱が重なった――。 「どうでもいいから、その変な玩具、早く持って帰ってなの!!」 「かっこいいだろォォオ!!!」 「全然理解不能なの!!」 ルーメリアはその場で地団駄を踏んだ。 「アンタレス! 今夜の獲物は大きいぞー」 『ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)は目の前の精鋭デュランダルを迎え撃つ。 先手を取ったのは敵だ。振り上げられたデッドオアアライブ。それを身体に直撃されながらも岬は止まらない。 「そーぉー、っれ!!」 一回転。振り回したアンタレスから闇が飛ぶ。 「貴方達に渡すものはなにもない! ここから立ち去れ!」 岬の背後から『先祖返り』纏向 瑞樹(BNE004308)が片腕を天高く上げた。その先、瑞樹の力は悪月となって紅いライトが闇夜を照らす。 直後、ベンヤミンの通信機がノイズが鳴った。成程、通信手段が消えたか。 「クリストォォオフ!! いつまで幼女と遊んでいるんだァァアア!! 色々壊されたぞ色々ォー!」 「はいー!?」 「幼女? 違うわよ」 「えっ」 「えっ」 「えっ」 エレオノーラと武器を交えるクリストフ。 その隣を通り過ぎたのは、もう一つのパンジャンドラム。唸り、狂うように回る車輪は、同じ軌道を選ぶとぶつかる可能性が高い。あえて違う道を行く。 「元気だなーパンジャンドラムはー」 『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)はイージスの斧を鎌の柄で受け止めながら、ごろごろしている物体を見て和んだ。 あれあれ、こっちに向かってませんか。 それは轟轟と音を立てて琥珀、そしてイージスの身体を吹き飛ばす。 ベンヤミンにとって仲間とは駒。己の勝利のためなら、否、邪魔なら切り捨てるのは、従者を容赦無く攻撃をする彼の性格から見える。しかし、敵陣営にも回復手はいない訳では無い。 「おっかねー!!」 ちょっと前まではサーカスとかで使えそうだな、なんて思っていた琥珀は自己嫌悪が走る。体力の半分以上が消えたその身。早くもボロボロになった服に目もくれず大鎌を持ち直した。 ●ゴロゴロゴロキュゥゥウウン! 「クリストーフ!! お前は駄目な子だな! 俺が自ら手を貸してやろう!!」 「はい、ベンヤミン様。ご期待に応えましょう!」 ベンヤミンの高笑いに混じる幾重の気糸が瑞樹、琥珀、エレオノーラを貫く。 ブロックされる前衛は未だベンヤミンが握るリモコンへと辿り着けずにいた。 「邪魔だー」 空中よりアンタレスを縦に、目の前のデュランダルへ振り上げた岬――その前に眼前を闇が覆った。 闇の世界。 対策はしてこなかった訳では無い。 岬はそのまま目の前のイージスへと獲物を振る。背後から機械音が横切った。 荒れる息の琥珀に、直前でルーメリアの回復が守った瞬間だった、そのまま彼は大きな衝撃を受け、ふき飛ばされた。 琥珀の身体を受け止めたエレオノーラ。クリストフが暗黒を放ち、その闇を切り裂くエレオノーラ。 「厄介なようね。あの兵器」 「相当……痛い」 フェイトの恩恵を受けながら琥珀は彼の腕から立ち上がった。 「こっち来たわ」 「うえー!?」 旋回して戻ってきた車輪はエレオノーラ目掛けて元気に走っていく。 「そんなぁあ!!」 とか言いながら吹き飛ぶクリストフ、続くエレオノーラ。 何回も当たってばかりいられないと琥珀は死にもの狂いだ。 地面を蹴り、大鎌の刃を地面に突き刺しそれを支点とし、更に車輪の軌道から己の見を逸らす芸を見せた。 瑞樹がクリストフの動向を見ていた。 「そっちに抜けました、なんとかお願いします!!」 瑞樹は後方の仲間へと警戒を飛ばしつつ、岬と同じデュランダルを迎え撃とうと刃を交える。 「あなたたちに構ってる暇は……!」 瑞樹の目線の先、暗黙化で連携の取れた敵の神の愛がクリストフを包んだのが見える。くっ、と唇を噛む瑞樹。ならば目の前の敵こそ排除するのが役目。 ブロックが外れたクリストフは進軍―― 「見えないの……」 狙いはルーメリアだ。彼女の目の前は闇で覆われていて視認不可能だ。もはや目を開けているのは閉じているのかさえ解らない程に。 「恨みはありませんが、祖国、我らが勝利のために――」 クリストフらしき声が聞こえた。闇の中、ルーメリアの瞳には僅かに光る彼の眼光が一瞬見える。 無明。闇の中こそ相応しい凶器を少女にぶつけるのは心が引けるものの。 「おやすみなさ――」 「指揮官の忠犬よ、残念だったな! 此処は天才的ノワールオルールである僕の罠にハマって――」 陸駆がルーメリアの前へと立った。 そう、これは彼の罠なのだ。今考えた。今考えた! 0.2秒くらいクリストフは潰そうか考えたが、彼は陸駆の隣を華麗に無視して通過して行こうとし。 「コラァ!! 天才の言葉は最後まで聞くべきなのだ!!」 陸駆が怒り混じりに地団駄を踏めば、天才的思考が足元から漏れ出してクリストフの身体を弾いていく。 地面に転がった彼は、 「滅茶苦茶だ」 とか呟きながら暗黒を放ち、意地だけで陸駆とルーメリアへと当てた。 「ルメはまだ平気なの!!」 「こんなの僕にしてみれば、痛くも痒くもない!!」 二人はそれで立ち上がった。まだ体力もある、倒れる意思は尽きない。 「やりますね……少々、箱舟風情を舐め過ぎていましたでしょうか?」 そんな二人を称賛しながらクリストフは剣を構えた。突っ込む先、陸駆が再び思考の濁流を浴びせようとした――刹那。 ゴロゴロゴロ \ぷちっ/\ぷちっ/\ぷちっ/ 一人理不尽を乗り越えドラマ復活。一人フェイト復活。一人天才的言語を喋りながら謎の復活。 遠くのやかましい声が、劣等ォ!だの、俺等こそ最強!だの、喋っては笑い、喋っては笑い。 「貴方達もあんな上司で大変じゃない……?」 「嗚呼、やっぱりそう見えますか……?」 闇の中、地面にうつ伏せになるルーメリアとクリストフであった。自ら戦闘不能になりそうな程上司に恵まれない彼を見て、ルーメリアはオー人事オー人事。 「くわわわわ……」 「後ろで嫌な音がしたが、俺は見ない、俺は見ないぞ」 ガタガタ震えながら回復詠唱をするあひると、意地でもシリアスを醸し出すゲルト。 気を取り直してゲルトは前を見据える。 「ワーハッハッハッハ!! 劣等の黄色い猿共ォ!! 我らが力の前にィひれ伏すが良ィィイ!!」 敵ホリメが放つジャッジメントレイ。その光を片手で振り払いながら闇の中喘ぐゲルトは、耳障りな声の持ち主へと咆哮する。 「今の貴方達は何のために戦っている! 過去の栄光を取り戻す事か!」 「過去は過去ォ!! 未来は我等がアーリア人種の下に有りィィイ!!」 「何故だ! 何故、今の祖国の為に戦えない!」 「平和ボケをしたァ、祖国をォ!! 叩き直す、その前にィイ」 戦争を、戦争を、戦争を――!! 一心不乱の戦争を――!! いつの時代だって争いの上に平和は成り立った。今度こそ、今度こそアーリアの支配する平和を築くために。 「只の、戦闘狂共か……!!」 「吠えてろォオ!!」 ゲルトはベンヤミンの極細の気糸を右目に受けそこを抑えた。視界が歪む、誇るべき防御を突き抜けて来たのだから。 「くわ……」 難しい事は解らない。でも、今は仲間が危ない事がよく解る。 後方頭上で飛ぶあひるが両手を前に上位の神を召喚した。 「護って、皆の心。戦う、強い気持ち――!!」 あひるがそれを、支えるから。 「仲間、友達……傷つける人、許さないんだから!!」 突如、癒しの暴風が周囲に唸る。色のついたあひるの羽に混じって、白い羽が周囲を舞った。それは仲間を鼓舞するように、それは、仲間を思う意思の結晶のように。 抑えた手を離し、ゲルトはベンヤミンの声がした方向へ十字の光を放った――。 「貴様、アーリアの子孫か……?」 十字を切る、ナイフ。ベンヤミンの瞳がキツく細められた。 ●ウィィイーンキュゥウウ 「打ち返すぜーアンタレス!!!」 ギギギと金切り声の様に高すぎる音が響く。 岬が迫ってきた車輪と力比べ。回転するそれに刃を合わせて跳ね返そうとするが、そのままぐるりと轢かれて、ぶっちん。 むくりと起き上った岬はやっぱり駄目かと、若干の笑顔でアンタレスを持ち直す。 此方の攻撃手が少ないのと、敵の回復手二人が長生きしているのが仇と成っていた。状況は一進一退。変わっていないと言えば変わっていないが、フリーダム過ぎるパンジャンドラムの動向が厄介過ぎる。 ならば逆手に取ろう。再び旋回してくる車輪を目の端に置きながら瑞樹は戦う。目の前のデュランダルが剣を振り落してくる動作、それに合わせて白妖の刃で剣を受け止めた。 キィンと響く、金属が擦れる音。瑞樹は思う……長くは持たないだろう、敵の力が伝わって短刀を持つ手首が悲鳴を上げているついでに、変な方向に曲がり折れそうだ。 その前に。 「あなたの未来、占おうか?」 「え?」 もう片方の手で出したのはピエロが笑う、白黒のジョーカー。 「不吉な未来をプレゼント、だよ」 零距離、投げるのでは無く直接突き刺す形でカードはデュランダルの腹部へと埋め込まれていく。突如、二人の耳に聞こえる機械音が迫った。 「いっくぜーーー!!」 潰れた二人の敵の方。岬はよろりと起き上ろうとするデュランダルを跨ぎ、上から断頭する形でアンタレスを振り落した。 本日一人目の死者の血を振り撒きながら、アンタレスの瞳はもう一人のデュランダルを睨んだ。 「次はーどいつだー」 「あいつでーす」 ドイツだけに。瑞樹と岬は歩調を合わせた。 クリストフは一人で後衛を掻き乱す。 幾度もルーメリアへ近づいては陸駆のノックバックが彼を押し返す。その内に狙うは――。 「貴方も此方に来ては如何かい?」 「猟犬になれと? 残念だが、断らせてもらう」 多くの命が消えたこの場所を、再び荒らされる事は遺憾だ。迷いなくゲルトはナイフの矛先を彼へと向けた。 「……残念だよ」 同胞に手をかけるのは。 そしてゲルトにとって祖国の先輩と対峙しなくていけないのは。 あひるを護るその身が邪魔だ、クリストフはゲルトを黒い小さな箱へと仕舞っては、その箱があひるの前でころりと落ちる。 細くなった目に睨まれたあひるがびくりと揺れ、即座に詠唱に入った。しかしだ、クリストフの攻撃は二回目へと入る。同じく黒い箱で仕舞おうとする彼の足元だった。 ――信念こそ、仲間を護るためにあり続ける。 「誰が、相手でもだ!!!」 黒い箱をぶち破って伸びて来たゲルトの腕。そう、彼に呪いなんて代物は通用しない。 呪われた箱を繕う腕をゲルトは掴んで止めた。そしてクリストフの下腹部に、とん、と褐色の手が置かれた。 「ゲルト! 天才について語っても良いだろうか? 興味あるだろう? 興味ありまくりだろう?」 「却下だ、陸駆」 「そうか! なら身体で天才の考えている事を受けてもらって、その後に感想を聞「後でたっぷり聞いてやるから、早く撃て」 クリストフの腹部、ドゴォと音を立てて衝撃が放たれた。瞬間的にゲルトは彼の腕を離せば、飛んでいくクリストフ。 人差し指を前に、陸駆は吼えた。 「選民思考など廃れた妄執でしかない! 劣等風情と侮るな。僕らだって貴様らをあだなす牙があることを努々忘れるな」 「……っ」 クリストフは立ち上がり、漆黒の閃光を放った。 ふと、ルーメリアが目は見えないが、音を察知する。 「パンジャンさんが来たの! 皆逃げるの!」 後方のクリストフは気になるものの、エレオノーラは奥、ホーリーメイガス二人へと接近する。 その頃には片割れのデュランダルは瑞樹、岬がデュランダルの排除に手を回し、今やエレオノーラのスキルが光る時。 それに気づいた琥珀を抑えていたイージスが回復手を守ろうと琥珀の傍から離れた。 「敵の狙いはリモコンだァァ、護れ、俺を護れェェエ!!」 ベンヤミンは相変わらず身勝手だ。顔を見合わせた二人の回復手の内、一人が前へ出てエレオノーラを止めようとしている。ため息交じりにエレオノーラは言葉を紡いだ。 「この時期の日本は湿気が酷くておすすめできないわよ。帰った方がいいんじゃない?」 Haze Rosaliaの刃が、彼の心を純粋に表すように、青く、凍てつく。瞬間的に、メイガスの視界からエレオノーラが消えた。 刹那、動けない――ホーリメイガス二人。 「それとも暑いから、冷たいのがお望みかしら」 メイガス二人の後方より出でたエレオノーラ。彼の青い瞳が二人へ突き刺ささった後、エレオノーラは見据える先、ベンヤミン。 「随分お高く留まってるようだけど?」 「幼女ォォ」 更に深くため息をついて頭を抑えた。 「だから、違うって言ってるでしょ。やっぱり親衛隊って、馬鹿なんだわ。ね、そう思わない?」 「ノーコメント!」 彼の背後より、琥珀が元気よく走ってきた。とは言うものの、全身血と泥だらけの彼。 狙うはリモコン、今のベンヤミンには壁は無い。ベンヤミンこそ、リモコンを護ろうと身を反らすが間に合わない――! 血が滴るカードを握る彼。予言するはベンヤミンの不幸。 「これで、終わり、だ!!」 血が軌跡を辿った。投げた琥珀こそ、車輪に轢かれて意識を飛ばしたが、彼の不吉なピエロはリモコンへと直撃していた。 怪しい煙を吹き出しながらリモコンは誤作動。もやは、車輪を操る者はいない。 琥珀を轢いた車輪はそのまま直線を辿って行く。もう一方の車輪もルーメリアを狙ったものの、陸駆の攻撃で軌道を逸らされてはそのままゴロゴロ何処かへ消えていった。 ベンヤミンが危ない。そう悟ったクリストフが冷静に怒り狂った。 地面の土が抉れる程に走り、刃がこれまでの痛みを乗せて振りあがる。狙いは力無く倒れ伏している琥珀の命。 「それだけは」 駄目なのだと。ルーメリアは叫ぶ。闇の世界が消えていたのは、見せしめのためか。 「誰か、誰か、誰かああ!」 全員で、帰ると決めたから。今から走っても追いつかない距離に居る彼を助けてとルーメリアは叫んだ。 いち早く察知したゲルトだが、速度的には間に合わない。 足りるかは解らない、でもしない訳にはいかない、あひるは聖神へとお願いを紡ぐ。 そしてデュランダルの息の根を止めた瑞樹と岬が声に気づいて走り出した。琥珀を断頭しようとする刃の前に出ようとするが、――間に合わない。 漆黒の刃を琥珀の首元にきっちり着け、クリストフは言う。 「ベンヤミン様、行方不明の兵器を追う事を提案します」 「早く行かねば見失うのだアア!!」 「箱舟、此方は屈辱的ですが撤退を申請します。受けなければ」 琥珀の首筋、刃が数ミリ食い込んだ。 「それで此方は構わない。だからその刃をどけてくれ」 ゲルトが言う。その言葉にお礼は無いけれど、クリストフは素直に刃を鞘へと仕舞った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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