●腰の重いハンター 夜の三ツ池公園。常ならば静寂が支配する場。だが今夜はそうではない。そんな言葉では生温い。 静寂すら凍りつくこの場を支配するは鉄の猟犬。音を殺す沈黙は鋼の行軍の意味を成し。 目標は神秘特異点。彼ら親衛隊は妨害を予測し各方面より穴を目指し――進軍する。 彼らが見るのは特異点が産み出すその先――全世界を闘争が押し包む、極めて近い未来。 そんな中で。重々しく轍を残して車輪を引く一団がいる。陣形を組み周囲を警戒しながらも彼らの進軍は並みの者の走る速度程度はあったが、他の親衛隊に比べれば『非常に遅い』と揶揄されるものであった。 それだけ他の親衛隊が今回の作戦を重要なものと位置付けているということだろう。迅速な重要拠点の奪取は軍隊の基礎である。 勿論、この一団のやる気がないというわけではない。警戒移動としては最大速を持続しているし、他の部隊に遅れを取っているならば無理をしてでも速度を上げるべきだという気持ちもある。 だがそんな彼らの声無き言葉に対し、部隊の指揮官は一言で答えをだした。 「このままでいい」 「ですがバルタザール曹長」 髭面の巨漢に呼びかけたのは金髪を逆立てた若き伍長。指揮官であるバルタザールに、指揮者であるエトムントが続ける。 「このまま他の部隊が特異点に到達してしまっては――」 「そしたら任務達成で万々歳ってな。目的は任務の達成だ。誰の手柄でも関係ねぇよ」 言葉もない。軍功は軍人の誉れだが、功を焦り他の部隊と手柄を争う必要はないのだ。 安全に確実に進軍する。他の部隊が制圧しこれが必要ないならばそれで構わない。だが必要になるならば。 「敵に近すぎればこいつの真価が発揮できねぇ。しっかり警戒して見敵必殺ってな」 車輪に載った鉄の塊を指差して。敵の抵抗が激しければ必要になるだろう。行軍が速い遅いに関わらずだ。そして―― 「エトムント。未来予知による情報は便利だったろ? 敵さんはそれを常にフル活用だ。必ず来るさ」 どこか楽しげに、どこか悲しげに。複雑な表情で曹長が部下を振り返る。 「いいか、前とは違う。敵の戦闘力や展開力を計るためじゃない。今回は打ち倒し突き進む進軍だ」 狩りではない。戦争だ。被害は出る。必ず出る。それでも進む鋼の意思を求められる。 「……このような戦いにこそファランクスが揃っていれば」 「そのための進軍だろうよ」 アーリア人の血を誇りとし固執するエトムントにとって、アーリア人の犠牲は我慢出来ることではない。革醒兵器の量産こそがこの進軍の先にある成果ならば、ない物を求める部下に苦笑を見せて。 「心配すんな。真正面の喧嘩なら負けねぇよ」 ついて来なと咆哮を上げれば信頼の目を向ける部下たちに。 ――何も考えずに1人で喧嘩に明け暮れた頃が懐かしいぜ―― 見せた表情は哀愁か後悔か。答えはそのどちらでもない。 死んでいく者にだって、後悔なんてさせるかよ! ●喧嘩屋ファントム 「三ツ池公園に急行! サーチ&デストロイ! ヒーローたちの出番デースよ!」 テンション高く『廃テンション↑↑Girl』ロイヤー・東谷山(nBNE000227)が声を張り上げる。 「いいデスか? 親衛隊の動きは説明の通り。『各七派の首領が出るという偶然生まれた好機』に一気に進軍を始めマーシた。穴の制圧狙いはどのバロックナイツも変わりまセンね」 竦めてみせた肩は、同時に穴が重要な意味を持っている証でもある。狙いが変わらないのはそこが最重要拠点であるからだ。 しかし現状、アークがかなり危険な状況に置かれていることは敵も味方もわかっているだろう。『偶然』動いた七派にアークの主力は引っ張り出されているからだ。 これまでの戦いで出たアークの被害は少なくない。そして何より、戦闘経験の少ない予備戦力では親衛隊の相手にならないことも実証済みだ。強力な新兵器を扱い武力を増し続けている親衛隊に対抗するには残存する精鋭の力が必要だった。 「数の優位すら望めない現状、ヒーローの力が頼りデース」 あてにしてるよとウィンクして、ロイヤーは資料を投げ渡した。 「強力な大盾のアーティファクト『ファランクス』を抱えたバルタザール曹長と参報のエトムント伍長。それにその部下8名。前と変わらない編成デースが」 ここが違うよと指差した先。部隊の陣形が示されている。 先頭を単身進むバルタザール。そのすぐ後を扇状に散開し大盾を構える4名。後ろで遊撃を担うエトムント。そして―― 最後方で固まった4人の射手がそれを引く。車輪で地を走るその大きな鉄の塊は、所謂大筒と呼ばれるそれだろう。 「ぶどう弾を装填しているようデスけどね。移動・照準に2人、装填と発射で2人。計4人も必要とするそんなものをわざわざ持ち出してるわけデシて」 見た目ほど旧式じゃないんでショーねとため息を吐き。 「まともに浴びればそれだけで戦闘不能もありえマス。大げさでなくネ」 彼らは強大な兵器を活かすように陣形を組み、行動するだろう。力の真っ向勝負はどんな結果をもたらすかわからない。 「お任せしましたよMiss.Mr.リベリスタ!」 信じるしかできないけれど信じているよと笑って背を叩き。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:BRN-D | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月01日(月)23:28 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●万全難く万能難し 「ここで食い止めないといけませんね……」 闇夜に紛れ潜む一団は、闇夜に紛れ進む一団を待つ。『メガメガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)は自身の力を駆使してその役目に従事していた。特異点を目指し進軍する親衛隊を、夜をものともせず見通すその瞳に映し――撃退するために。 「ウム。このまま待って、奇襲を仕掛けたいところだが――」 木々に身を隠し相槌を打っていた『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)の言葉が途切れる。イスタルテが一点を凝視しながら手で制したためだ。 夜の公園に大筒を引く車輪の音が響いた。視線の先で、夜を駆け抜ける10の影。親衛隊が現れたのだ。 ……この場をやり過ごす。扇陣形を取り後列を護る親衛隊。その背後を取れれば、無防備な敵の兵器を一気に叩ける――! 走る一団は潜む一団の正面を横切っていく。もう少し。あと少し。前衛が通り抜けて、後は後衛が…… 瞬間、違和感に気付く。その男を注視していた2人だからこその理解。親衛隊で索敵を担当するエトムント。彼の目線を気にしていた。彼の動向を探っていた。だから。 その鼻をひくつかせたことに。彼の注意がこちらに向いたことに。その瞳が獰猛に光ったことに! 「やーん、気付かれちゃいましたぁ!」 「仕掛けるぞ!」 イスタルテの声がリベリスタの意識を切り替えた。フツの声がリベリスタの背を押した。一息で飛び掛かれる位置ではないが、全員が行動を合わせ一斉に飛び出した。視線の先の、親衛隊の横腹に。 陣形は常に正面に対しての効果だけを持つ。故に古来より正面から敵の横や背後を突くことが上策とされてきた。方陣や円陣は確かに全方向に対応できるが、対応と効果は別の話。 彼らは軍人として陣形の意味をよく理解し、速度を落としてでも警戒移動を続け、比較的開けた場所をルートに選んだ。それらは全てこのような場面のために存在した。 「用兵を知らぬ連中に、扇陣形の意味を教えてやれ――左方転進!」 「Ja!」 エトムントの号令に一斉に動く。大盾は斜めに引く。射手は斜めに進む。円を描くように動けば瞬く間に敵と正面に向き直る! 最小限の動きで転進できることが扇陣の最大の特徴だ。 「横腹への対応の強さが半円状の扇陣の特徴さ。もっとも正面以外がめっぽう脆いんで挟撃に弱いんだがな」 頷きながら陣形から独立して動くバルタザールに、エトムントが強気な笑みを見せ。 「他に敵の匂いはしません。全て正面に捉えております」 ならば最早語るべくもない。ファランクスを構え、巨漢の男は咆哮上げて迎え撃つ! 「真正面からの喧嘩なら俺は負けねぇよ」 ●進み易く退き難し 正面からの真っ向勝負。リベリスタと親衛隊、各々が得物を構え獲物を捉え―― 任務を遂行せんと進む彼らは初めから全力を尽くすだろう。被害も厭わない今回こそ彼らの本気。 「ならばこちらも全力でお応えします」 敢えて多くは語らない。身の躍動が本懐を示そう。『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)は強い踏み込みを持って意思を表す。 狙うは指揮者たるエトムント。けれど彼が後方にある以上、大盾部隊が当然の如く立ちはだかる。故に。 「押し通ります!」 叫び鉄甲をかち合わせ。 前衛に大盾が群がる。それと対峙するリベリスタの背に現れた神秘の翼。低空飛行は大盾が遮る範囲を越え、後衛を狙い撃つ射線を大いに助けるだろう。 それを仲間に授ければ、イスタルテはただちに自らも前衛へと躍り出る。大盾を構え、彩花を囲まんとするその1人に。 「やーん、させませんよう」 敵の妨害はすなわち味方の行動の支援に繋がる。この位置で歌を紡ぎ、敵を抑える。 ――仲間を護る、心をこそ武器にして。 ――旧国の亡霊か。アニメじゃよくあるパターンだけど、現実になるなんてな。 身を震わせる。『スーパーマグメイガス』ラヴィアン・リファール(BNE002787)のその小さく華奢な身体には重過ぎる重圧に? 否。面白いじゃんと拳を合わせ。 「俺らの背にはこの国の運命がかかってるんだからな。負けるわけには行かないぜ!」 絶対に勝つ! 身震いはその意思その覚悟! 授かった翼を開き一直線に突き進む! 狙いは狙撃部隊、それが所有する大筒の発射阻止! 大盾部隊が妨害せんと阻めば、軽く上昇しその頭越しに術式を組み始め――目を見開いた。 闇を見通す目が目測した距離、それが事前に聞いた距離と食い違う。ここからでは狙撃部隊に術が届かない―― 「悪いが餌だよ。正面からでもなんとかなると思わせるためのな」 指揮を執り事前に狙撃部隊を一斉に退かせたエトムントがほくそ笑む。未来予知の利便性を学んだからこそ、行軍中の陣形をこの距離にした。ふいうちでない限り、いつでも後衛に距離をとらせることは可能だ。 「大筒が砲撃する時間を稼げれば勝利は揺るがん。そこでもがき潰されろ」 笑って指を鳴らす。大盾が動き、ラヴィアンの小さな身体に掴みかかって。 ――吹き飛んだ。 「何だと!?」 「良い表情だ」 兵を飲み込み横薙ぎに弾き飛ばせば、高ぶり渦巻いた気の奔流を即座に沈め。『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)は悠然と笑う。 「自信を持って語った策が、読まれ対策の手を打たれていた気分はどうかね」 青筋を浮かべたエトムントが何か言うより早く指を鳴らした。先ほどのエトムントと同じ仕草で。 「ラヴィアン嬢は大切な鍵、邪魔させるわけにはいかんな」 オーウェンに釘付けになっていた視線を慌てて動かし、エトムントが自身を呪った。気を取られている暇などなかったのだ。 すでにラヴィアンは飛び出している。その踏み込みが自身のよく知る最適な距離へと導いて。 慌てた狙撃兵、その背後の大筒に。 ――時代遅れの兵器なんざ、1発も発射させてやらねーぜ。 「飛ばして行くぜ! ブラックチェイン・ストリーム!」 吹き荒れる黒の鎖が狙撃部隊の行動を掻き乱し――その砲撃を遅らせることに成功する。 前衛同士がぶつかり合う。4人の大盾部隊を4人の前衛が抑えた現状、フリーに動く男が1人。 「前回はよくも妨害してくれたなぁ。前は相手する余裕なかったけんど今回は違う。こっちが妨害させてもらうぜよ」 巨銃を抱えて前衛の横を駆け抜ける。『人生博徒』坂東・仁太(BNE002354)は躊躇せず敵陣へと踏み込んで。 単騎戦場を駆けるキツネは命張る人生博徒。危険だからと惜しむならば初めからここにはいないと嘯いて。 ――ホントはさ、前で戦って暴れてみたいなって思ってたりするんよ。 前衛が潰し合う現状、戦況は遊撃手に委ねられた。止める者はなく、この戦場を自在に渡って狙い撃つ! 「させんぞFuchs!」 同じく遊撃を担うエトムントが神秘の力を持って迎撃する。凍てつく神秘は仁太を傷つけ、それでも仁太は表情を崩さず――笑って! 「残念やな。わしの狙いはそもあんたぜよ」 闇を見通し位置を把握する。チップはこの身。ギャンブルは無論大物狙い。 連続する巨銃の咆哮がエトムントと後方の狙撃者たちを呑みこんだ。 「はは、どいつもこいつもいい顔してやがるぜ」 戦場にどこかのんきな声が吹く。 「いい喧嘩だ。全員がマジになってよ。きっとどいつとやりあっても楽しめるだろうさ」 巨漢の男はもう一度大きく笑って――止めた。眼前の男を指差して。 「だがよ。お前さんが向かってきた時、俺は内心喜んだんだぜ。前に俺をあれだけ楽しませてくれたやつだ。今度も期待できるってな」 声は徐々に低く。人好きのする笑顔はすでになく、並みの者ならその凄みだけで戦意を喪失させるほどの……喧嘩屋の表情。 「なあ教えてくれ焦燥院フツ。お前さんは、一度負かした相手に同じ手が通じると思ったのか?」 それは最大の侮辱じゃないかと言い放つ巨漢の足元には、無造作に引き千切った封縛の念の残滓。 相手の力を認め、その戦法を認め、自分を負かした相手への対策を練り――次を勝つために。 「避けるのは難しいんで対神秘装備を用意した。縛られたって無理やり引き千切ればいいのさ」 脚力には自信がある。BSを解除しやすい装備にして、縛られる前に殴り飛ばしてしまえばいい。代償に装甲はずいぶん脆くなったが、元より体力には自信があるのだ。 「なあ」 ――お前を待ったことを、俺に後悔させる気か。 言外の凄みに、けれど眼前の男は反応を見せなかった。凄みに呑まれたわけではない。恐怖を飲み込む沈黙でもない。ただ、ただ笑って。 「心配すんなよ。オレもあの時とは同じじゃない」 穏やかに。涼やかに。ただ風が吹くように。フツの言葉に、なぜかバルタザールは『安心』を覚える。 ――これがこの男の魅力だな。 口先の言い訳ではない。事実この男は俺を抑え続けるつもりなのだろう。丘の上で照らし続ける明かりのように、信頼を受けて安心を与えるそんな男だ。 口に笑みを戻し、バルタザールがファランクスを叩きつける。見得を切るからにはやってもらおうかと笑いかけ。 その視線の先でフツの傷が瞬く間に癒し消える。思わずきょとんとした先で。 「術式、迷える羊の博愛!」 ぐっと拳に力を入れて。『贖いの仔羊』綿谷 光介(BNE003658)が後方から仲間を支える力となって。 手を上げたフツに応え、各戦況の仲間に適した力を紡ぎ続け。光介は力強く意思を叫ぶ! 「ただ、癒し続けるために!」 ●意地難く見得易し 攻防が続く。未だ砲撃は効果を現さず、けれど戦況は硬直して。 時間はどちらの味方にもなっていない。護ることだけに特化した大盾部隊に被害は少なく、反面それに傷つけられる者も少ない。大筒の陰から飛ぶ射手たちの銃撃は前衛を傷つけるが、光介やイスタルテの献身がそれを冷静に癒し―― 唯一激しい攻防を見せるのは遊撃手たち。最早一騎打ちの体を成す仁太とエトムントは、神秘眼の凍気によって実力を発揮できないながら、時折見せる仁太の強力な一撃が徐々に狙撃部隊ごとエトムントを苦しめる。 ――1人が落ちたら一気に決まるな。 分が悪いわけではない。リベリスタの理想の流れを封じ、膠着まで持ち込んでいる。そして切り札さえ発揮されれば一気に流れを引き寄せられるのだ。 ならばこそ――遊撃手としてバルタザールが動き出す。 「悪いなフツ、こういう手だってあるんだぜ」 低く構えたファランクス。巨壁の一撃がフツを打つ! 「――っとぉ、だがまだ身体はなんとも――」 激しく叩きつけられ吹き飛びながらもフツが神秘の翼を翻しなんとか体勢を整える。そして眼前のバルタザールに向き直れば―― すでにいない。ヒット&アウェイで駆け出したその先には、魔力を紡ぎ高める陣を展開し狙撃部隊を縛り続けるラヴィアンの姿! 「俺狙いかよ!」 「お前さんを潰して流れを引き寄せるってな!」 ファランクスは巨漢の大部分を覆う大盾だ。小さなラヴィアンなどひとたまりもない! 金属を叩きつける音が戦場に響き渡る。 「俺がガードに入ってる以上、嬢ちゃんは傷つけさせんぞ」 傷ついて磨き上げられた侠気は折れず曲がらず強靭に弾き返し。『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)はこの場にあってラヴィアンの身体を護り続けてきた。戦場を観察し、戦況を読み取って。大盾から、狙撃から、そして巨壁の一撃すら耐え抜いて。 「彼女の力は必要な力だ。確実に守り抜く」 駆けつけたフツと取り囲んで2人。その身は鋼。侠気とは譲らぬ気持ち。 「俺達が生きる為、仲間を生かすために、死んでやるわけにはいかないんだ」 さあ来いと示す鋼の盾。何一つ拾い損ねるつもりはない。 「親衛隊とうちとのチーム戦……負けられませんね」 光介が癒し紡げば、多くの者の深手もたちまち消える。だからこそ理解している。力の枯渇が招く事態を。 フルに癒し続ければ枯渇も早い。けれどバルタザールが、狙撃部隊が放つ射撃は全員を傷つけ、回復の手を休めれば誰かが倒れる事態もあろう。これ以上の持久戦は危険であった。 だが、本来最初の撃破目標としていたエトムントを攻撃できる機会が少ないのだ。大盾部隊に接近を封じられる以上、神秘による弱体を受けながらも撃ち続ける仁太と、練り上げた気糸を振り回すオーウェンだけがそれを可能としている。 大筒となると前衛がノックバックによって射撃の範囲外まで押し出されてしまう現状、前衛からは義弘のサポートを受けて戦うラヴィアンだけがその射程圏内を保っていた。 状況は動いている。不利なほうへと。このままではまずいことはわかる。 万全では、足りない。今の覚悟では足りない。歴戦の相手に、連携で連携を上回る覚悟を。 ――いち歯車としてチームを機能させる覚悟を。 「彩花さん!」 光介の叫びの意味を彩花はすぐ理解した。今必要な連携を、やるべきことを。 「義弘さんお願いします!」 近くの義弘に投げかける。サポートが適うならばそれは庇う役として比較的自由に動ける義弘しかいない。 義弘がじっと先の大筒を見やった。見た目は旧式の大砲、けれど一度火を噴けば……一発でも撃たれれば全員がピンチに陥りかねない。 大筒の破壊は優先事項。力が枯渇すれば大筒を封じることはできなくなるのだから。 故に。 突如飛び出した義弘に目を剥いて、彩花の相手をしていた大盾の兵がメイスの一撃に動揺した。 その隙を狙い駆ける彩花を、その進路を慌てて阻む。行動を封じたわけではないので、突破を阻止せんとすればそれ以上は進めない。 それで十分。その踏み込みこそ彩花の間合い。 彼女を凝視していた兵は掻き消えたように見えただろう。極めた格闘技術を天才的センスで昇華して、地を蹴り穿ち踏み込む1歩が遥か先へと彼女を運んだ。意識していなかった狙撃部隊の、その眼前に迫る鋼のセスタス。 「――っ!」 思い切りよく吸い込んだ。吐き出すは一瞬、呼吸と共に全ての闘気を発現して! 鋼の塊が大筒『国崩し』を抉り叩き込んだ。爆風混じる衝撃が大筒を穿ち押しきって、力の反動に無理に逆らわず後方へと退き飛んだ。 叩き込んだ拳が痺れる小気味良い痛み。殴り飛ばした感触。悪くない一撃と実感する。 けれどそれが、どの程度かの判断は彩花にはできない。だから彼女は後ろを確認した。 視線の先で光介が微笑む。闇を視る目で、大筒の損傷を確認した。そして、笑ったのだ。大筒は脆いのだと! 「続けます!」 効果の程に確証を得て、彩花が再びガントレットを突き出して。 ――射手やとさ。身体をぶつけて拳で語る! ってのができんのはちょっと寂しいんや。 「けんど、今の状態はちょっとそれっぽくてええな!」 「私はキツネにこの気高い血が流されるのは不愉快だよ!」 仁太とエトムント。撃ち合い削りあい損傷は激しく。弱体化と回復支援でバランスの取れた戦闘の、決着が近づいて。 放たれた神秘の力がその身を穿ち引き寄せて――相手に倒される要因を作った。 神秘の力はこの男のものだ。 オーウェンの放つ気糸がエトムントの腕を絡めとる。怒りに任せて引き千切った、その致命的な時間! 「掛かった、な。お前さんが冷静さを失えば統制は乱れる」 正面を見た。巨銃が振り下ろされたところ。弾はすでに発射され――眼前に。 「暴君戦車の名は伊達やないで?」 仁太のウィンクを最後にエトムントの意識は刈り取られ。 ●喧嘩易く喧嘩難し 「エトムントがやられたか」 気絶した部下を横目に見て、バルタザールの放つファランクスがいよいよ重く。 すでに彼の周囲のフツ、義弘、イスタルテは運命の消費を余儀なくされていた。 行動不能の率が前より格段と下がれば、回復手があれどその消耗は段違いとなり。 大筒の発動を阻止したのは見事、けれどなかなか破壊に繋がらない状況はこの場で最強を誇るバルタザールを長く暴れさせる結果となって。 産み出した結果は。 「やーん、打ち止めですよう!」 「こっちもです! 急いで!」 イスタルテと光介の叫びが、持久戦の終わりを示した。 「一か八か、一気に壊すぜよ!」 仁太の銃撃が大筒を穿てば、オーウェンが大盾部隊を吹き飛ばして決死の覚悟を手助けして。 義弘が突入を支える。フツが背中で仲間を信じ、バルタザールへと挑みかかり。 「今の世界はな、戦争なんて望んでねーんだよ。とっとと墓場に戻れ過去の亡霊ども!」 射撃の妨害に運命で抗って、ラヴィアンが放った黒の術式にイスタルテも全力で銃弾を撃ち続けた。 誰もが覚悟を抱いて走る。だからボクらは強いんだと光介は最後の癒しを紡ぎ吹いて。 それを浴びて少女が走る。ガントレットをかち合せて、踏み込み飛翔した彩花が咆哮を抱え――貫く一撃を! 戦場は終局を見せた。 「言ったろ? 真正面の喧嘩なら負けねぇって」 バルタザールが笑って気絶したエトムントを抱き抱え。 ――でも喧嘩は俺らの勝ちだ。 振り返り示した先で、倒れ伏す彩花、フツ、イスタルテ。次に立っている者たちを見て。 「で、任務はお前らの勝ちってな」 完全に沈黙した大筒を蹴り転がした。 攻略兵器を失い、指揮者が倒れた現状、これ以降の侵攻は不可能。故に。 「俺らは撤収する。2連敗だなちくしょーめ」 言葉と裏腹に気持ちよさげに笑って―― ファントムは行きとは正反対の身軽さで消え去った。 夜の沈黙が来る。もっとも、まだ幽霊たちの饗宴は終わりを迎えない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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