●白日に晒せ 笹塚は小さな頃から写真が好きだった。 近視だったせいかもしれないと思う。 彼にとって、ファインダー越しに切り取られた世界こそが真実だった。 高校に入ってから、チャチな一眼レフにバイト代をはたいた。 レンズなんて何枚も買えなかった。 最低最悪の成績で地元の高校を卒業した後で、彼の手元に残ったのはそのカメラだけだった。 それでも彼は写真を取り続けた。 バブルの頃は良かった。 何をしていても、なんとなく金があった。 そんなフリーのフォトグラファーといえば、それは随分モテたものだ。 飲み屋でクダを巻き、女を何人もひっかけて暮らしていけた。 そうこうしているうちに出会った女と結婚して、子供が生まれた。 いつの間にか生活は苦しくなっていた。 新婚当初は夢ばかり語り合っていたのに、この二十年は何度嫌味を言われたか分からない。 そして彼は、小さな雑誌の仕事を始めた。 下衆なゴシップ誌だった。 ――俺は。 笹塚は高価なデジタル一眼レフを握り締める。 (こんなもの、俺が持つカメラじゃない) ―――俺は芸術家だぞ! 一人の女性が高価なレストランから姿を現す。 十台後半の女である。 大手広告代理店が絶賛売り込み中のアイドルユニットの一人だ。 不自然に大きな目元を無個性な化粧で覆っていた。 (俺が取りたいのは、こんな奴じゃない) 続いて入り口から出てきたのはもう一人の女だ。 大きなサングラスに艶やかな微笑みを貼り付けたまま、女同士で腕を組み始めた。 魔女と呼ばれる大物女優だ。 四十は越えているというのに、二十代後半の美貌を保っていた。 ――暴いてやる。 魔女の美貌を保っているのは、若い女の生き血だという噂がある。 身近な女達が、何人か死んでいるらしい。 男はオカルトには興味がなかった。 (どうせ『その手の趣味』ってコトだろうよ) 男は足を速め、若い女、と心中でもう一度繰り返す。 (あの糞アマが、処女なわけないだろ) 女達は、そのまま歩き出す。 向かう先は、やはりあのシティホテルだ。 ――あなたも一度ぐらい、つれていってくれればねぇ。 脳裏によぎる妻の嫌味が彼の胸を突く。 彼とて、名前を聞いた事もあれば、訪れた事だって何度もある。 利用したことはない。 彼女等とは、済む世界が違うのだから。 だから――めちゃくちゃにしてやる! 笹塚は機材が詰まったリュックを担いで、彼女等を追い始めた。 ここは逆光が眩しすぎる。 ●魔女 「テレビって見てる?」 何時も通りの曖昧な第一声に、リベリスタ達が一応といった風に問いただす。 「テレビ?」 「魔女とかあるだろ?」 話が見えない。 「赤咲美智子。大物女優さ。俺は興味ないけどな」 重要なのか、そうでないのか決めかねる情報には、『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)の個人的な見解も混ざっている。 「で、事件の内容は?」 ここに集まったのは何らかの事件があるからなのだろう。 ならばせめて概要でも聞き出そうと、リベリスタが質問を続ける。 「犠牲者は一人の芸能記者とアイドル。加害者はこの女優さん、フェーズ2のノーフェイスだ」 問えばあっさりとしたものである。 「場所はこのホテルだ」 伸暁が数枚の紙と共に、折れ曲がったパンフレットを机に放った。 誰もが知る有名なホテルの物だ。 「今から行って、お前等がターゲットに接触出来る最初の時間は18時前頃だね」 今更になって、伸暁がひどく重要な説明を加える。 「その20分後位に、シティホテルの一室でアイドルと芸能記者が殺される未来になっているのさ」 「なるほど」 「だから急ぐといいよ」 言われなくても分かっている。 リベリスタ達は机上に散らばる資料の束を掴むと、そのままブリーフィングルームを飛び出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:pipi | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月16日(土)23:28 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●鳴り響く1ベル 嬌声。歓声。 その他諸々の声を張り上げながら、あれよあれよと言う間に人ごみが押し寄せてくる。 この中の半分も、自分が何を見ようとしているのか理解出来ては居ないだろう。 男女の連れが人の群れに携帯電話を構え、会社帰りの男達は怪訝そうな表情で足早にすり抜けていく。 混乱の大きな要因は、一人の女優とアイドルの存在だった。 とはいえシティホテルや高額なレストラン、ブランド店が立ち並ぶこの界隈では、所謂セレブ也が出歩いていることは決して珍しくない。 平素であれば人々はひそひそと指差し、時には気づくこともなく素通りする。その程度の事である。 今回この事態の引き金となったのは『スイートチョコの女子ジェイソン』番町・J・ゑる夢(BNE001923)だ。 女優の写真集を片手にサインをねだり、はしゃいだ成果だった。 そして行列が出来れば並び、人だかりが出来れば覗くというのが世の人々というものである。 引き返す姿と押し入ろうとする姿が混乱に拍車をかけた。警備員が姿を見せるのは、ほんの数十秒後の話だ。 だが、これでよかった。ゑる夢も女優も、既にこの場には居ないのだから。 現場から少々離れたビルの二十二階は、エグゼクティブフロアと呼ばれている。 スイートルームを擁する階層である。 そこには国内外のVIP達をターゲットとした強固なセキュリティシステムが敷かれていた。 客室かスタッフのカードキーがなければ、エレベーターの階層スイッチが選択出来ない造りになっていたのだ。 見つからぬことを考慮するならば、他の客に便乗することも難しい。 しかし結論から言えば、リベリスタ達はホテルのセキュリティ網を掻い潜り、隣室に待機する事に成功していた。 『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)は振り返ることもなく『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)にルームカードを手渡す。 突然の来訪者に対する完璧なサービスも良し悪しといった所か。つまりはそういう事であった。 「そうなんです、それで」 その部屋の外を、ドアに張り付き聞き耳でも立てねば聞こえぬであろう声が通り過ぎていく。 聞きなれた声の主は『戦うアイドル女優』龍音寺・陽子(BNE001870)だ。 「じゃあ、それも教えてあげる」 魔女と呼ばれる女優――赤咲美智子が、優しげに答える。 その後ろを、最早オマケの様相で付いていくのは、もう一人のアイドルだった。 赤咲のターゲットは当初彼女のはずであった。 だがインダストリアルに製造された抜け殻のような少女と、輝ける原石のような陽子と比較すれば致し方ない話である。 彼女等三名が目指すのは、スイートルームの一室であった。 「入るようです」 その音を備さに把握出来るのは『蒼鱗小龍』四鏡 ケイ(BNE000068)の能力によるものだ。 リベリスタ達が各々の力を高める術を身に纏いながら静かに部屋を出る。 「おっかけには、とても見えないけれど」 自然の力で扉が閉じられようとしているスイートルームから赤咲美智子の声が響いた。 ●計画されたオーバーチュア リビングを有する自慢の部屋は広大とはいえ室内は室内である。 僅か八メートル四方の空間は魔女と少女と、そして七名のリベリスタには少々狭い。 「どういう事かしら?」 頬に手を当て、女優が笑う。 こんな所まで押しかけてくるほど熱心なファンなど、昨今そうは居ない。 「TVではみたことあるが、本物は美しいな。まさに魔女だ まさに舞台に愛されたといえよう」 『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)が呟く。 「えっ!? なんで!? 意味わかんない」 空気のような少女が声を上げる。 不安がれば許される。誰かが何とかしてくれると、彼女はそう思って育ってきた。 これがアイドル、つまりもう一人の邪魔者だった。 状況を打開する力も意思も持たずに、唯々脅える少女を雷音が抱えて走るのは容易だった。 仲間達と比較すれば非力な上に小さな身体ではある。だが彼女もリベリスタである。その力は常識の外にあった。 彼女が部屋から飛び出すと同時に、リベリスタ達はアクセスファンタズムのダウンロードを終える。 「まあ、そういう事だ」 呪符を構えた『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が顎を上げる。 魔女が戦慄いた。始めからそういう算段だったのか。 直後、呪縛の符が魔女に絡みつく。不意打ちが決まった。 魔女が少女を睨みつける。 「がっつくな。盛りの付いた雌犬みたいだぞ?」 顔色を変え、瀟洒な面影を失いつつある女優に、少女はとどめの一言を吐き捨てた。 「――愛嬌がある分、犬の方がマシか」 魔女の唇が歪む。 「なら――」 魔女の叫び声が部屋に響き渡った。おそらく人を呼ぼうという算段であろう。 リベリスタ達は微動だにしなかった。部屋を出た雷音が展開した人払いの結界は強固に出来ている筈だ。 「流石女優の表現力」 ユーヌが微笑みもせずに嗤う。無表情を貼り付けたまま、おそらく嗤っている。 「醜悪な内面に釣り合った面だ、醜女の演技が板に付いているぞ?」 平素であれば、かけられようもない声に魔女が戦慄く。言葉もない。 言葉もないままに、彼女は跳んだ。 長く伸びた紅い爪は、前面に立つアラストールをなぎ払う。 強かな一撃を浴びながらも、着実に受け流すアラストールに大きな出血はない。 ならば「推し通る!」凛とした叫びに騎士の長剣が唸りを上げる。 痛打とまでは言い切れない。しかしその切っ先は魔女を確かに捉えた。 両名の激突を皮切りにリベリスタ達が次々と攻撃を仕掛ける。 ケイの全身から放たれた気糸は魔女を捉え、しかし動きを封じるまでには至らない。 だが姿勢が崩れた魔女に、ユーヌが放つ凍れる雨が降り注ぐ。 冷気の刃に全身を貫かれ、魔女が苦悶の呻きをあげた。 「――貴方の女優人生に幕を引いて上げるわ」 ルームライトに照らされて、なお冷たさを失わぬ微笑で氷璃が指先を伸ばす。 放たれた魔弾は魔女のブラウスに突き刺さる。眩い光が辺りに満ちた。 「銀幕の大女優もこうなると誰からも愛される存在ではないものね」 さらに小鳥遊・茉莉(BNE002647)が放つ四連の光弾が、立て続けに魔女の胸を貫く。 「小賢しい小娘共めがっ!」 魔女が吼え氷璃の頬が微かに動いた。言うに事欠き小娘とは。 見当違いな怒声に、面白みを感じてしまったのかもしれない。 見栄えこそ小娘のそれであるが、茉莉に至っては魔女の二倍は生きている。 怒れる魔女の胸を、再び冷たい言葉が覆った。 「枕営業で今の地位を手に入れたんだったかしら?」 氷璃が僅かに首を傾げる。 無かったと言えば嘘になる。だからこそ、その言葉に魔女は震えた。 それでも自分は大女優と呼ばれるようになったのだと、魔女は自答する。 だが。 「国内だけの評価で大女優? ……聞いて呆れるわ」 プライドの砦に執拗に打ち付けられる破城槌に、魔女の相貌が大きく歪んだ。 部屋にイオン臭が漂い始める。 ●流血のエチュード 激しい雷撃に、リベリスタ達が腕で顔を覆う。 家具が焼け焦げ、シックな間接照明が次々に爆ぜた。 傷は浅い。だが次の攻撃を仕掛けようとする茉莉と氷璃は足を引きずる。 動けぬながらも氷璃は見た。 「そういうこと――」 人ならぬ身が生み出した魔性の業を真似るなら、人を捨てる覚悟が居るだろう。 ならば最早興味はなかった。 「行きますッ!」 直撃を逃れたケイが旋棍を振るう。その一撃は魔女の肩に力強く食い込んだ。 そして、アラストールが高く剣を掲げる。 小柄な身から放たれる堂々たる闘気が、リベリスタ達に留まり続ける電撃を打ち払った。 魔女が唇をかみ締める。 「さあ、ヒロイン殿ッ!」 騎士の言葉に頷く陽子が壁を蹴る。 「私、貴女のファンだったんです」 軽やかに宙を舞う彼女にとって、魔女は――この女優は憧れの存在だった。 突如眼前に迫った後輩の姿に、彼女は目を見開く。 「でも――」 今は世界の敵だ。このままなら罪を重ね続けるだけだろう。だから。 「この手で倒させて貰うよ!」 氷を纏った爪が魔女の頬を切り裂いた。 「私の、顔をぉオッ!!」 鮮血を撒き散らして呻きをあげる魔女が、激昂の形相で陽子の首を掴み、そのまま引き倒す。 カーペットに押し付けられた豊かな胸が形を歪め、直後、意識を引き抜かれるような感覚が彼女を襲った。 魔女の傷が僅かに塞がっていく。このままでは長期戦は免れぬだろう。 リベリスタ達に焦りが広がり始めた頃、頼もしい声が響き渡った。 「貴方はせかいには愛されなかった――狩られるべき、魔女だ」 現れたのは雷音である。 「スイートな悪夢をプレゼントしますよー?」 そして戦闘開始まで逐一の連絡を受けていたゑる夢だった。これで役者は揃った。 銀幕ならぬ血に染まる焼け焦げたカーテンが踊るきな臭い舞台に、呪符が羽ばたく。 「來々! 三千世界の鴉よここに!」 紙は鴉へと姿を変え、一直線に魔女の身を穿った。 同時に、ゑる夢が高めた速度のままに走る。 「えいッ!」 幻影を纏う凶☆悪な凶器のフルスイングが魔女を強烈に打ち据えた。 確かな手ごたえに、豊かな胸が震える。 「小癪なガキ共がッ!!」 魔女が叫ぶ。 リベリスタ達は苛烈な切り裂きと電撃に耐え、果敢に攻撃を続けていた。 ユーヌと雷音は氷雨と鴉の符を放ち、ケイが治癒の届かぬ致命傷を狙う。 そこへゑる夢と陽子が鋭い一撃を加える。 氷璃が放つ魔弾は魔女を幾度となく打ち抜き、一度は倒れそる寸前まで追い込まれた茉莉の魔奏も二度の完全な効果を表していた。 そして最前線に立ち、敵の電撃によって滞りがちなリベリスタの攻撃を支えているのはアラストールである。 また、ユーヌと雷音が放つ符により、リベリスタの傷も癒されていった。 魔女の全身は、既に赤黒く染め上げられている。その血は彼女の物か、それともリベリスタの物か。 普通の人間であれば、いや、リベリスタであってもとうに倒れていても不思議ではない。 フェーズ2を数えるエリューションの見た目がどれほど当てになるかなど、分かったものではなかった。 とはいえ彼女はどこか異形を思わせるものの、ほとんど人の身体を保ったままである。 それほどのタフネスを備えているようには見えない。 長期戦を長期戦たらしめているものは、なによりもその底知れぬ回復力だった。 刻々と過ぎ行く時の中で、リベリスタ達の身体に重く疲労が圧し掛かっている。 彼女等の神秘を操る力は、既に大きく削ぎ落とされていた。 ●早過ぎるソワレ その中で四度目の雷撃がリベリスタ達を襲う。 各々可能な限りの距離をとれども、限られた室内では常に完全とは行かぬ。 行かぬまでも、その限られた室内の中で、リベリスタ達は最善の戦いを続けている。 そして今回リベリスタ達は凌ぎきる事に成功した。 これまで最前線から補助に尽くしていたアラストールの長剣が再び閃く。 唸りを上げる剣撃が、魔女のわき腹を深く抉った。 鮮血が淡い色彩のカーテンを染め上げる。その一撃が反撃の狼煙となった。 「來々!」 雷音が鴉を放ち、鋭い嘴が魔女の赤く染まる胸に捻じ込まれた。 「女優も有終の美を飾れなければかなしいもの」 茉莉が精緻な魔術を織り上げていく。 「銀幕の大女優もこうなると誰からも愛される存在ではないものね」 彼女が魔術を組み上げる最中にユーヌが二羽目の黒鳥を放つ。 さらに、氷を纏う陽子の鋭爪が魔女に迫る。 「ごめんなさいッ!」 祈りにも似た少女の叫びは、魔女の身体を一文字に切り裂いた。 赤く濡れたコンフェティが氷の煌きを纏って舞い踊る。 「女優も有終の美を飾れなければかなしいもの――」 そして陽子の術が完成した。 「――幕引きをッ!」 不吉なる四奏の調が魔女を次々に捉えた。 「去り際は美しくするものよ」 凶曲はさらなる不幸を呼び寄せる。水色の美しい髪をなびかせて、ケイが魔女の眼前に飛び込む。 身動きを封じられて苦悶に喘ぐ魔女の胸に、拳に乗った旋棍が突き込まれる。 痛烈な一撃が決まった。致命傷だ。 そして氷璃が印を切る。高められた圧倒的な術力は煌く光となり、紅く濡れた部屋を照らしあげる。 「これでおしまい」 集う輝きは一条の閃光となって魔女の胸に吸い込まれた。 ――貴方を倒した罪はボクが背負います。だから安らかに眠ってください。 ●カーテンコール 「なんだってんだ――」 男が首を振る。 (なんで俺がここにいる) 喧騒は消え、人々は既に去っていた。 そもそも、笹塚はレストランの前で、とある女優を追いかけていたはずだった。 それがどうだろう、何処とも知れぬビルの裏で気を失っていたらしい。 おまけに手に握りしめているものは―― 「――溶けてやがる」 男は苦笑一つ、紙切れを広げた。 『ちょっと待っててね☆彡 ゑる夢』 待っていれば、また会えるのかもしれない。 (あの娘、一体……) 彼は少女を綺麗だと思った。 (見た目だってそうだがな) なによりも心に引っかかったものは、その天真爛漫な瞳だった。 ――ねえ笹塚さん。あなたの瞳には、まだ、情熱が宿っていますよ? 男が足元に手を這わせる。機材は無事だ。 普段の彼であれば、不足の事態は苛立ちの直接的な原因となる。 直ちに怒声を浴びせるのが常であったが、不思議なことに嫌な気分ではなかった。 「ねぇ、貴方、写真は好き?」 立ち上がりかけた男の背に唐突な声が降り注いだ。 当たり前だ、と振り返る男に、更なる言葉が降り注ぐ。 「嘘ね。貴方の写真からは何も伝わって来ない」 背後に居たのは氷のような美少女だった。言葉の刃が男の胸を貫く。 ――写真は嫌いよ。私を置いて皆老いて行くから。 胸中を悟らせることなく、氷璃は男を見据える。 「とても好きな事をしている顔には見えないわ」 シャッターの電子音が響く。 見ろとばかりに手渡されたカメラに映っていたのは、虚ろな目をした小汚い中年の男だった。 「どうしろって、言うんだ」 男が目を逸らす。 「貴方は何故――写真が好きだったのかしら?」 「俺は……」 ――そうだおじさん! 撮ってくださいよー。 (あの時、俺は) 男が鞄をまさぐる。探すのはあの少女を写したはずのアナログの一眼レフだ。 見つけた。 「あんた、撮影らせてくれないか」 「私はお断り」 どこまでもそっけない。 「ねえおじさん」 この声は。 「今度は皆も一緒に撮ってくださいよー」 (あの娘だ!) 思わず顔を上げる。 「じゃあボクも、綺麗にとってね」 「興味はないが……付き合おう」 リベリスタ達が次々と姿を現す。笹塚がガラスの眼鏡を指で持ち上げた。 「……その、あれ、に映ると魂が抜けると聞いたのだが!?」 時代錯誤も甚だしい現代の騎士の声に、思わずリベリスタ達の頬が緩む。 その時――シャッターの音が響いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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