●Schwimmwagen Purpurrot 三ッ池公園に緋が走る。全てを燃やす紅蓮の暴力。 防衛に当たっていたリベリスタはその炎に後退を余儀なくされる。築いたバリケードは炎により朽ち果て、それを乗り越える『親衛隊』達が勝利の雄叫びを上げる。 「進め進め! 劣等種の遺伝子などすべて燃やし尽くせ! この戦いに勝利し我等アーリア血統が優勢であることの証明とするのだ!」 通信機に向かって大仰に叫ぶ男が一人。その側にはシュビムワーゲンと呼ばれる水陸両用の軍用車。ただし通常の軍用車と異なり、後部車両を占領している兵器があった。 火炎放射器。 文字通り火炎もしくは燃焼する液体を発する兵器だ。直接的な殺傷力は重火器に比べれば劣るが、木々の破壊や構造物に立てこもった人を酸欠に追いやるなど侵攻を助ける意味では有用な兵器である。 「エーゼルシュタイン曹長、箱舟勢力沈黙しました。こちらは二名軽傷のみです」 「よし作戦続行だ! 我等が目的は三ッ池公園の『池』の占拠! ここを押さえれば箱舟の奴等にプレッシャーを与えることができる!」 三ッ池公園は中央に大きな池を有する自然公園だ。そこを『親衛隊』が自由に移動し攻撃を仕掛けてくるとなれば、戦略的に大打撃である。それが知れわたっただけでも戦術的に足を止めざるを得まい。 「我等アーリアの血統よ。度重ねた襲撃により箱舟の戦力は知れた! 彼等は確かに有能な戦士だ。だが彼等の主力は『偶然にもこのタイミングで動いた』フィクサードへの対応に向けられている! この好機を生かさぬ手はない!」 「Ja!」 「進め! 『穴』を我等が物とせよ。世界のミリタリーバランスを崩し、世界を混乱に招くのだ!」 「Ja!」 水陸両用の火炎放射車両が進む。 その進行を妨げるものはすでに燃やされ、それを塞ぐものは何もなかった。 ●ARK 「――となる前に手を打ちたいわけだ」 『菊に杯』九条・徹(nBNE000200)は軽く肩をすくめてブリーフィングルームに集まったリベリスタを見た。 「七派の偉い奴等が総出で暴れたタイミングで『親衛隊』が動きやがった。連中の目的は三ッ池公園の『穴』だ。逆凪のいけすかねぇ眼鏡の推測を信じるなら、連中の目的は強力な神秘兵器の開発による軍事バランスの崩壊とそれによる第三次世界大戦の誘発だ。 で、箱舟としてはそいつを止めたい。大雑把だがそういう流れだ」 戦争。 それは平和な日常が全て壊れ、それが終わっても禍根を残す出来事。リベリスタとフィクサードの組織間の戦いとは規模が違う。力のない人間が戦禍に巻き込まれ、そしてその恨みが更なる抗争の種となる。 「色々不利な状況だが、やれることはやっておくぜ。何はともあれこの改造ワーゲンの破壊だ。火を吐く車が池にいたんじゃおちおち前に進めねぇ」 徹はホワイトボードに三ッ池公園の概要を書き、真ん中の池と『親衛隊』が侵攻してくる赤矢印を書く。その先に横一線を引いてアークが築いたバリケードを示す。 「現状、バリケードを敷いて足止めしてるが正直長くは持たない。もともと火炎放射ってのはこういった構造物を破壊するのにうってつけだからな。 ところでお前ら、『親衛隊』のゲリラ作戦はどう思った?」 突如切り替わる話題に怪訝な顔をして答えるリベリスタ。その答えは様々だが要約すると、 「ムカつくが効果的だった」 「俺も同じ意見だ。じゃあソイツをやり返してやろうじゃないか」 徹は赤矢印の横を刺すように青矢印を書いた。 「連中がバリケードを攻めている横合いから襲撃する。あいつ等もプロだ。不意打ちが決まるとは俺も思わん。だが初手は奪い取ることができるだろうよ」 わずか十秒のアドバンテージ。だがそのわずかが勝機となることもある。 「以逸待労(いいたつろう)……逸を以(もっ)て労を待つ、って奴さ。戦いの主導権を手に入れて、そのまま押し切る。そんな電撃作戦よ。 数もあって純粋な戦力はおそらく『親衛隊』の方が上だ。だからといって俺達は白旗振る気はねぇ。そうだろ?」 徹の言葉に何人かの人間が首を縦に振る。 「そんな作戦だ。連中の足を止めることが目的だから、改造ワーゲンさえ破壊すれば散開してもいい。もちろん『親衛隊』に打撃を与えるために敵の指揮官を狙うのも悪くない。 攻め方はお前らに任せるぜ。アークの底力を見せてやろうじゃねぇか」 腕を組んで笑う徹。この状況で笑えるのは集まったリベリスタに対する信頼ゆえか。 リベリスタたちは顔を見合わせ、ブリーフィングルームを出た。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月01日(月)23:35 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「何もデコにまで布かぶらなくてもいいんじゃねぇのか?」 「念には念を入れてよ。最初の一撃が重要なんでしょう」 「その理屈だと俺も頭になんか巻いた方がいいんだがな」 小声で言葉を交わすのは『菊に杯』九条・徹(nBNE000200)と『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)。その視線の先には『親衛隊』の兵器が炎を吐き、バリケードを燃やす光景だ。 この作戦は初撃が重要になる。その初撃を放つのが、アンナの役割だ。他のリベリスタたちと視線を交わす。アンナは呼吸を整え、練り上げた魔力を開放した。 天罰の光が、天から降り注ぐ―― 「なんだ……!?」 「曹長! 九時の方向に敵影確認! アークです!」 「ジャジメントレイです。こちらの付与、全て解除されました!」 「戦線たてなおせ――」 「させぬ」 矢のように飛び出したのは『影なる刃』黒部 幸成(BNE002032)だ。身を低くして破界器を構え、『親衛隊』の元に身を躍らせる。三度振るわれる刃が三人の『親衛隊』を刻み、大地を炎より赤い液体で染める。 「頭は冷えたか? 燃やし浮かれて蛮族もどき」 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が符を北天に掲げ、印を切る。呼び出されるのは蛇であり亀である存在。降り注ぐ圧倒的な水の気が『親衛隊』に襲い掛かり、その気勢と動きを止める。 「アーリア血統がこの程度の奇襲でうろたえるな!」 「血統やら宗教やらに重きを置く輩とは解り合えんな」 エーゼルシュタインの指揮に割り込むように『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)が機械化した拳を振り上げる。戦場に渦巻く熱気をものともせず、拳に信念と稲妻を宿して『親衛隊』に叩きつける。 「戦争なんて起こさせない。余計な血を流させるくらいなら、私の血を持っていけ」 『薄闇の修道服』を翻して『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)が戦場を進む。優希が殴った『親衛隊』の逃げ道を塞ぐような位置に移動し、手にした魔銃で弾丸を叩き込む。 「あんな野蛮な連中にはこの公園は渡さないわ、絶対にね」 炎の戦場に似合わないヴァイオリンの音色が響く。奏でるのは『運び屋わたこ』綿雪・スピカ(BNE001104)。楽器の振動に魔力を込め、音色が呪文となる。四種の音色が四種の棘となり、『親衛隊』に絡みつく。 「Guten Abend! Auf Wiedersehen!」 こんばんわそしてさようなら! 『骸』黄桜 魅零(BNE003845)は笑いながら挨拶し、自らの体力を糧にして無明の闇を生み出す。闇の中に狂おしいほどの暴力を込め、『親衛隊』に向かって解き放った。 「あ、倒れた。くわしゃんくん、私ホリメ倒したよー」 「わかったからその呼び名をやめろ」 若干不機嫌な空気を纏わせながら、しかし『消せない炎』宮部乃宮 火車(奇BNE001845)は奇襲による効果の結果に満足していた。拳に炎を宿し、『親衛隊』の群れの中に身を躍らせる。左のフェイントから入る右のストレート。肉弾戦に慣れていないマグメイガスはそれだけで翻弄され、炎の拳を受けてしまう。 予期せぬ不意打ちに怒りの表情を見せるエーゼルシュタインだが、冷静さを失ったわけではない。 「回復手を一つ奪われたところで兵力差は変わらん! アーリア人種の優性を刻み込んでやれ!」 「Ja!」 わずか十秒のアドバンテージは終わる。『親衛隊』の銃口はバリケードからリベリスタたちに向いた。 炎の暴力が、リベリスタたちに襲い掛かる。 ● 八対十プラス二台の戦いは、もはや乱戦といってもいい。リベリスタは得たイニシアチブを保持するために混戦を続け、『親衛隊』は回復を失ったこともあり前のめりの策を取る。 「貴様等を許す道理は無い。覚悟する時間すら与えてなるものか!」 優希の腕に稲妻が宿る。夜の闇を走る紫電が最短距離で魔力の炎を練る『親衛隊』に叩き込まれる。爆ぜる紫電は側にいた射手にも届き、両者を等しく雷の刃で傷つけていく。 「覚悟? そんなものでが戦争のなんの役に立つのだ。優秀な兵器と優秀な兵士、そして優秀な指揮官こそがあれば勝てるのだ!」 「精神面を蔑ろにするか。ならば見せてやる。これがアークの底力だ!」 優希の稲妻は止まらない。戦場において焔優希という少年は苛烈。自ら矢面に立ち、心の中の憤りを相手にぶつける戦士。けして粗野ではなく、守りたいという優しさの裏返し。 「はっはァ! 相変わらず燃えてやがるなァ!」 その隣で炎の拳を振るいながら火車が笑う。灼熱の拳は確かに火炎放射の火よりも小さいが、その拳が火炎放射の威力に劣るとは限らない。火炎放射が構造物を焼き払う兵器なら、火車の火拳は戦いで研ぎ澄まされた技術。 「そんじゃ俺も行きますか!」 どちらが強いということに意味はない。大事なのはどちらが勝つか、だ。敵味方混在する乱戦の中で戦力を各個撃破していくという作戦において、兵器よりも拳の方が有用性が高いのは間違いない。炎の拳が『親衛隊』に叩き込まれていく。 「よく頑張ったな。コイツらぶっ飛ばす間、もう少しだけ耐えてくれ」 杏樹がバリケードを維持しているリベリスタに向かって一声かける。火傷に耐えながら指を立てる仲間を確認し、弾丸を再装填した。心を折らせないためには言葉だけでは意味がない。行動で示すのだ。 「アークの底が知れた、といったな。ならその底をもっと深くしてやる」 業火の熱気も轟音も感じない。全ての神経を銃のために。銃を支える骨格と筋肉、相手を見る目、得た情報から相手の動きを予測する知能、そして引き金を引く指。もう片方の手が胸元で十字を切った。祈るように放たれた弾丸が『親衛隊』の一人を伏す。 「御見事」 杏樹の射撃に賞賛を送り、幸成が夜に舞う。忍びの瞳が敵を射抜き、蛇が獲物に襲い掛かるが如くするりと敵の懐に入り込む。一の動作で終わりではない。一つの動作が次の動作への予備動作となり、二の動作が三の動作への予備動作。 「汝らが日常を壊すというのなら、それを守るのが自分の忍務」 流れるような刃物の舞が『親衛隊』の傷を増やす。敵陣深く入り込み、刃を振るう。忍びとは刃の下に心と書く。非情な刃の下に心を宿し、幸成は血の海の中疾駆する。 「玩具ではしゃぎ回って、脳内麻薬で脳細胞が死滅したか」 言葉に毒と神秘を載せながら、ユーヌがソードミラージュたちを挑発する。言葉はユーヌの選んだものの耳にだけ入り、その精神を刺激した。言霊と呼ばれる技法か、それとも図星を突かれたか。とまれソードミラージュの刃はユーヌのほうに向く。 「鬼さんこちら手のなる方へ。玩具より反応がいいな?」 挑発するように手招きしながら、ユーヌがソードミラージュの太刀筋を見る。しっかり見れば避けれないほどではないが、防御に徹すればこの勢いを失ってしまう。符を展開させながらユーヌは迫る刃を避けた。 「刀剣は苦手だから助かったわ。無理しないでね」 ユーヌに声をかけながらスピカがヴァイオリンを奏でる。『ドルチェ・ファンタズマ』と呼ばれる曰くつきの楽器。国から国をわたった楽器は、今スピカの手の中で戦争を止めるために音を出していた。 「響け……!」 音は戦場を包み、魔力は一点に集まる。その音色の如く捉えどころのないスピカだが、その性格ゆえに暴力と悲劇で世界を染める戦争を許すことができない。練り上げた魔力は鋭く強く。独奏(ソロ)の魔力が四重奏(クァルテット)となり『親衛隊』を穿つ。 「そっちの物陰だ。一人いるぞ!」 「げっ。ばれた!」 ワーゲンに乗車していた兵士がアンナの存在に気づき、その砲塔を向ける。みんなの突撃にまぎれて隠れたらラッキー、程度の隠密だったので仕方ないのだが。業火が草むらを紅蓮に包み、熱波がアンナの体力を奪う。 「……きつい……!」 火炎放射の炎をまともに受けて、アンナは攻撃を手放して回復に走る。炎を払うように回復の風を飛ばすが、増粘剤の影響もあって炎は打ち消せない。神秘兵器の名は伊達ではない。これは革醒者すら制圧するためも兵器なのだと身をもって知らされる。 「あーっ、もう! なんで私がこんな軍隊スレスレな事……!」 『親衛隊』が求めるのが戦争なら、平和を求めるアンナは抗せざるを得ない。それが闘争の道であるとはなんと言う皮肉だろうか。だが自分には力がある。仲間を支える癒しの力が。 「九条!」 「おうよ。蚊遣り火にゃ強すぎるその炎、この季節には無粋だぜ」 リベリスタの言葉に応じ、徹がアンナを庇うために見栄を切る。棍を振るい、火炎放射の盾になった。 「九条! そうだ、私も護りなさいよ!」 「無茶言うな!」 「えへ。嘘ですごめんなさい」 魅零は言っていひひ、と笑う。『ラディカル・エンジン』と呼ばれるチェーンソーを高々と掲げ、闇のオーラを迷わせる。自らの体力を削って生み出された闇の刃が横薙ぎに一閃された。殺意が刃の質量となり、『親衛隊』を一気に払っていく。 「親衛隊のくせして割りと歳が近いわねヴィルマ。なんでそっちにいるの? 家系?」 「軍務だ」 魅零の問いかけにアスペルマイヤーは短く答えた。感情を押し殺した重い声。何かを隠そうとする兵長の努力を、エーゼルシュタインが無に帰す。 「彼女は家族のために『親衛隊』に身を捧げたのだよ。アーリアの遺伝子を全く含まない祖父の家系を守るために。我等もその意思と四分の一のアーリア血統に敬意を払い、クズ血統の彼等を襲わずにいるのだ」 「要するに、家族を盾に取られてるのね」 魅零の言葉に大仰に手を振るエーゼルシュタイン。 「盾? 我等が脅迫しているようではないか。我等は何もしていない。ただ手違いで劣等種を滅ぼすかもしれないが、そんなことは人類にとってたいしたことではない。 そういうことだ」 優生学。優れた遺伝子による支配こそよき世界を作るというエーゼルシュタインの思想。幸か不幸か、クォーターアーリア血統のアスペルマイヤー。 「相変わらず調子ノってんなぁ優等種様は」 反吐が出るとばかりに火車が吐き捨てる。他のリベリスタの顔もおおむね似たようなものだった。 「事実だ。そしてその証明をしてやろう!」 炎の熱気は止まらない。血と鉄の行進も、優勢種の狂気も止まらない。 それを肌で感じながら、リベリスタは破界器を握り締める。 ● リベリスタの猛攻に応じるように『親衛隊』も攻め立てる。 「アーリアの血統が足を止めることなどない! 優性種の威厳を示せ!」 「Ja!」 エーゼルシュタインの激と同時に体の痺れに対する加護を得た『親衛隊』。そしてアスペルマイヤーの銃剣が槍の様に豪快に振るわれる。高火力の範囲攻撃。乱戦の中では敵味方双方に大打撃を与える。 「ひゃ……っ!」 「味方ごとか。節操のない軍隊だな」 体力が低いスピカとユーヌがその一撃と出血で意識を奪われる。運命を燃やして何とか耐えるが、何度も耐えられるものではない。 「遊ぶ? 黄桜と。きっと楽しいよ私負けるのダイキライだから!」 自らの体力を削って技を繰り広げていた魅零も、この一撃に耐えることができなかった。笑いながら運命を削って立ち上がる。 無論アスペルマイヤーとて二度もこんなことはできない。流れを払拭するために乱戦状態の熱を突き飛ばしただけだ。そして流れを止めれば数と火力で勝る『親衛隊』が―― 「よぉ思考停止の無能劣等、オレはまだ生きてるがぁ?」 「同じ技巧派同士、どっちの技量が上が競ってみるか……?」 その機転を制するように火車がエーゼルシュタインに、杏樹がアスペルマイヤーに足を向け、対峙する。そのまま他のリベリスタたちは改造ワーゲンのほうに矛先を向けた。 「この神秘兵器さえ壊してしまえば戦局は傾く。勝機は必ず掴める。死ぬ気で足掻け!」 炎に耐性を持つ優希は、常に神秘兵器の矢面に立つ位置で拳を振るう。もっとも優希は炎に耐性がなくともそこに立っただろうが。決死の覚悟を載せた雷光が二台のシュビムワーゲンを貫く。 「然り。ここが踏ん張りどころ、全身全霊でいくでござる」 幸成の刃が黒の雨の如く神秘兵器に降り注ぐ。搭乗者の肩から血が流れた。全力で攻めれば長くは続かないだろう。だがそれでもいい。攻めるのは自分だけではないのだから。 「九条さん!?」 「まだまだ。髪火流処よりは温い炎だぜ」 アンナをかばっていた徹が炎を払いながら立ち上がる。アンナの回復により何とか立っているが、疲弊具合を見れば遠くない未来に倒れるのは必至だ。 もっともそのおかげで回復役のアンナが守られ、リベリスタの戦線は維持されている。 「かつての敵が今日の友……こうして一緒に戦えるなんて、素敵」 「一般人の私だって三年も前線にいればこの通りよコン畜生!」 スピカとアンナが回復の二重奏を唄う。だがそれを上回る『親衛隊』の火力。 「配役を間違えたな、『アリアドネ』。私を押さえるには貴女では足りない」 本来近接戦を得意とするアスペルマイヤーと、遠距離戦を主とする杏樹。近接戦になればその優劣は明白だ。銃剣に肩を突かれ地面に落ちる血を見ながら、杏樹は戦場を炎の魔弾で焼く。 「ああ、知っている。だが時間は稼いだ。しぶとさならアーリア人よりも上だ」 運命を燃やして銃剣を引き抜く杏樹。 「ええい、しつこいぞ劣等種!」 「ガキの理屈に付き合ってやってんだ! 誇大妄想のバカヤロウ!」 逆に指揮官のエーゼルシュタインと火車の戦闘は火車が押していた。達人の足裁きで間合を計る火車の拳を避けることができないエーゼルシュタイン。その軍服に拳の跡が火傷のように残る。 「曹長!」 「構うな、こいつは追い込むと厄介になるタイプだ。 お前達はワーゲンの方に。兵長、早くそいつを片付けてしまえ!」 前の邂逅で身をもって知った火車の特性。知ってさえいれば作戦は立てられる。 「意地を張るなよ。貧相な血統が炎で燃え尽きてしまう前に、尻尾を巻いて逃げたら……どう、だ」 ユーヌが炎の拳に顔をしかめる指揮官に毒を吐き……そのまま崩れ落ちる。挑発を初めとして戦場コントールを行っていた彼女を疎ましく思わない『親衛隊』の集中砲火を受けたのだ。慌てて魅零が倒れたユーヌを回収し、移動させる。 「我が忍務、今だ果たされておらぬ!」 「アークを舐めるな!」 幸成と優希がワーゲンに吹き飛ばされ、大地に転がる。薄れゆく意識の中、運命を代償にして体力を掴む。ソードミラージュのナイフが起き上がりざまの二人に襲い掛かる。復活したばかりの体に襲い掛かる刃。 「あ……っ」 『親衛隊』の銃弾を受けてスピカが地面に倒れる。ひらりと羽根が地面に落ちた。魅零が慌てて受け止めて安全圏に移動させるが、その度に攻撃の手が止まる。最もそれをしなければ倒れた者達は火炎放射に巻き込まれているのだが。 「どうした劣等種。仲間がどんどん傷ついていくぞ。助けに行かなくていいのか?」 「あいつ等なら心配いらねぇよ。優性種様こそお一人で大丈夫なんですかねぇ!」 エーゼルシュタインの挑発に火車は乗らずに火拳を振るう。仲間に対する信頼が迷いを吹き飛ばしていた。 「悪あがきもこれまでだ」 「……ああ、ここまでだ。だが車だけはもらっていくぞ」 杏樹のシスター服が血に染まる。そのまま崩れ落ちた杏樹にアスペルマイヤーが語りかけた。指一本動かすことすら困難だが、それでも笑みを浮かべる杏樹。その意味に気づき、神秘兵器のほうに視線を向ける。 「ヨーゼフ! アーリアの血が優秀とか幻想ね」 魅零が闇を掲げて笑っていた。魅零自身を削る闇の力。攻撃が掠りでもすれば倒れそうなほどの状態であっても魅零は笑っていた。追い込まれた肉体が生を求めて活性化する。光を通さぬ闇が『真紅』の名を冠する兵器を包み込んだ。 「箱舟がアーリアを超えるわ! キャハハハハハハ!」 闇の波動による衝撃と魅零の笑い声。全てが収まったときにはシュビムワーゲンは行動不能なほどに破壊されていた。 ● 「おのれ、劣等種!」 シュビムワーゲンを破壊されて、エーゼルシュタインは怒りを露にする。修理不可能な程に破壊された車。池への侵攻作戦は失敗といっても言い。 神秘兵器を破壊されたとはいえ、『親衛隊』の兵力はまだ健在だ。もちろんリベリスタもそれはわかっていた。このまま戦い続ければ確実に負ける。だが、これ以上戦う理由はなかった。池を侵攻する兵器はもうないのだから。 「散るわよ!」 気を失った徹を抱えたアンナの声とともに、リベリスタが三ッ池公園に散る。 「忍務完了」 「魅零が殿するよ!」 「小突いただけで倒れる奴が残ってどうするボケ! とっとと逃げるぞ!」 幸成が水上を走り池を駆け抜け、殿を務めようとする魅零を火車が制した。 「追うな。これ以上兵を無駄にはできない」 苦虫を噛む表情でエーゼルシュタインが部下に告げる。追撃をかければ何人かの命を奪うことはできただろう。だが兵の危険を晒してやることではない。 「シュビムワーゲンはどうします?」 「破棄だ。鹵獲されるわけにも行くまい」 エーゼルシュタインが懐からモバイルを取り出す。指先で画面を操作し、最後力強くタッチする。 ワーゲンから響く警告音、そして五秒後。 三ッ池公園『水の広場』付近で炎華が開いた。 戦い終わったリベリスタは傷を癒して次の戦場へと向かう。 絶望の夜はまだ、終わらない―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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