● 小さな世界の縮図をご紹介しよう。人間はこの世で二つに分けられる。上に立つ者と、下に付く者だ。 自らを『優良種』と称する女は猫目を細めてくすくすと楽しげに笑う。夜の公園を散策すると言う訳でもない、一寸した逢瀬という訳でもない。彼女等の軍服にあるのは紛れも無く今の日本を騒がす『十字』であった。 「曹長、まるで小さな戦争の様ではありませんか? 自国の領土を守りに来るリベリスタと、その領土を獲る事を目的とした私達」 「ナジェージダ。もう作戦行動は始まっている。口を慎め」 お喋りな下官に呆れの色を示した男は騒がしさを増す三ッ池公園を見回す様に目を凝らす。 『革新新兵器』を強化する事に置いて、特異点である『穴』の重要性は常に説かれ続けていたのだ。 猟犬らは敵陣営の戦力を計算し、ソレこそ正しく『小さな戦争』を起こそうとしているとでも言ったところであろうか―― 「じゃあもう一つだけお喋りさせて下さいな! 曹長、小さな島国で犇めき合う彼等のお陰で戦力分断ができてるなんて、チャンスじゃありませんか?」 「ナジェージダ……。だが、様々な存在を退けた彼等が其処で終わるとは思えんが」 「Jawohl、我が親愛なる曹長? 十分に『戦闘力』も『展開力』も計算しましたでしょう? ――ああ、でも我が親愛なる少佐を退けたとなると……」 油断禁物と言うのは重々承知ですとナジェージダはくすくすと笑った。お喋りな口を慎む事の無い彼女にイーゴルが呆れた様に視線を寄越すとその目に応える様に彼女はにったりと笑う。 「それじゃあ亡霊の『本領発揮』と行きましょう。何人足りとも退けて優良種たる存在を知らしめて差し上げましょう!」 猫の耳を揺らした女は手にした魔力を貯め込む杖を握りしめ、笑みを漏らす。 コレが重要な作戦であると彼女も知っていた。この狩りは生半可で終わらない事を知っていた。 そう、目的が只一つ其処にはあるのだ――全てはその為に。 ● 「至急向かって頂きたい場所があるわ。三ッ池公園、西門付近よ」 資料を手にリベリスタを見回す『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は何処か焦りを滲ませた声色で「こんな時に」と呟いた。 「七派の首領たちが動きだして此方の戦力が分断されているうちにという事かしら……。 彼等の狙いははっきりしているわ。攻めた場所からしてもね……」 其処まで紡いだフォーチュナは真っ直ぐにリベリスタを見詰め「『三ッ池公園の制圧ね』」と付け加える。 『親衛隊』の狙いが何であるのかを主流七派の男が語っていた。その話しが真実であるならば、この行動は今までの狩りとは違い本当の戦争の序曲であろう。 「彼等の戦力は計り知れない。舐めては掛かれない以上、皆にお願いするしかないの。 大変な時期に御免なさいね。どうか、親衛隊フィクサードを止めてきていただきたいの」 これ以上の秩序の破壊は見過ごせない。ソレにより全世界の均衡する『平和』が崩壊してしまう事は何としてでも喰い留めなければならないのだから。 「――さて、皆にお願いする西門付近なのだけど、戦闘行動に入る時点でもう三ッ池公園内での戦闘は始まっているわ。何故、そこで門かと言うとね」 「増援が来ない様に補給路を断つ――?」 その通り、と世恋は頷いた。親衛隊が得意とする兵器での戦闘では無く、歩兵での戦闘は詰まる所、何処からか姿を表し、援軍として現れるリベリスタへと強襲する事を狙っているからだ。 「彼等にとって『好機』だと思われるこの状況、それを打破し、三ツ池公園の制圧を阻止してね。 ……皆のお帰りをお待ちして居るわ。どうぞ、ご武運を――!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月01日(月)23:27 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 騒がしい公園内に真っ先に足を踏み入れたのは『マグミラージュ』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)だ。純白の白衣を纏い緊張した面立ちで周囲を見回すソラは「まったく」と小さく呟くしかない。 『嫌』なタイミングで攻めてきたものだとソラは実感していた。あちらこちらで鳴り響く銃声以外にも一斉に動き出した主流七派の首領たちの動きが彼女を焦らすに至ったのだろう。 「当然この『嫌なタイミング』で攻めてくるんでしょうけど。腹立たしいわ……」 緊張しきった教師の顔を見詰め、改め戦闘態勢を作る『ニンジャウォーリアー』ジョニー・オートン(BNE003528)が風を纏う。手甲剣「鵤」を確かめ、蒼き眼光が周囲を伺った。奇襲を受ける可能性が高いと説明されていた以上、警戒を解く事が出来ない『先祖返り』纏向 瑞樹(BNE004308)は周囲の熱反応を探す様に周囲を見回して居る。あちらこちらに散らばる熱反応を仲間達に伝えながら、彼女は目を凝らす。 「『偶然』……か。七派と猟犬が一緒に動きだす夜だなんて大した偶然だよ、全く」 「きつい一晩ではあると思うよ」 アーク謹製ナイトビジョンを通してみた視界で目を凝らす『黄昏の賢者』逢坂 彩音(BNE000675)はその直線状で『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)が存在している事を確認した。ノクトビジョンで視界を確保したイスカリオテが黒の書を手にした時、前方周囲の敵を索敵する『黒太子』カイン・ブラッドストーン(BNE003445)が眉を顰める。 「――来るぞ」 がさ、と叢が鳴る音に『へっぽこぷー』メイ・リィ・ルゥ(BNE003539)がびくりと肩を揺らした。握りしめたマジックシンボルを光らせ、周辺の魔力を活性化させ強力に循環させる。 「……ボク、どっちかって言うと役立たずって感じなんだけど。ホント、猫の手でも借りたい状況ってことだね」 「『そういう状況』だからこそ狙ったんでしょう!」 瞬間で投擲されたフラッシュバン。周辺の警戒を行っていたリベリスタの中でも奇襲を受ける今、メイを中心に円陣に組んだ彼等の『後衛』――後ろに立っていた『アッシュトゥアッシュ』グレイ・アリア・ディアルト(BNE004441)や殿であった瑞樹目掛けた不意の攻撃にグレイが熱感応式暗視装置を通した視界で猫の姿を捉える。 「親衛隊かッ! 任務を果たしたいのなら推し通るんだな。ま、早々遣らせるつもりはないがね?」 次々に姿を表す親衛隊の其々の攻撃にいち早く対応できたのは誰よりも行動する速度が速いソラであった。奇襲による被害を確認し回復を施すよりも先に自身の手番が回ってきてしまった以上ソラは攻撃に徹するしかない。後衛であった彼女の近接位置に食い込むイーゴル曹長の姿に「積極的だこと」とその外見に似合わぬ『大人の笑み』を漏らして見せる。 「状況的には不利だと言う事は先生、解ってるわ。でもこういう所で諦めないのが私達よね? 優良種なんて云う慢心を抱いてる連中には要らないお節介かもしれないけど、ソラ先生の授業、受けてみる?」 薄らと浮かべた笑みのままイーゴルと共に攻撃を行うべく現れた親衛隊へと攻撃を与えて行く。奇襲は前も後ろも関係なく何処からともなく行われるものだ。ソレにいち早く反応出来たと言うのも、リベリスタ達が持ち合わせた能力のお陰であろう。 「ナジェージダ。あの円陣の中心に居るのが……」 「Ja、曹長。あの『庇われている子』が要の様ですね」 あからさまと言った風に円陣を組んでいる彼等の中心、メイを見据えて笑う瞳。だが、その目を遮るように煌々と昇った赤い月が彼等を阻害しようと妖しく光る。白妖が煌めき、魔力を灯す。恋の雫がその手首で揺れた。 「私はただ歩き続けるのみだよ。ここで止まる訳にはいかないんだ」 ● 眼鏡の奥で赤い瞳を細めたイスカリオテが法無き者の護符へと手を添えた。神秘に造詣が深くとも避ける事に特化しない彼を苛むフラッシュバンは彼が特に留意していた攻撃でもあった。 「神秘に造詣の深い毒の猫――中々お喋りなお嬢さんの様ですね、面白い」 「それはどうも。私はマグミラージュ嬢の方が気になるのですけれども!」 知ってますから、と笑う声にソラが紫の瞳を向ける。その名を知られているという事に反応したのであろう。頭の中で組み立てる集中領域。計算をしている間にも、攻勢を強める親衛隊の攻撃を手甲剣「鵤」で受け流しながらジョニーに浮かんだ焦りは其処に対する集中攻撃が故か。 「拙者は闘う事が好きでゴザル。そこに勝ち負けこそあるが、優劣は存在せぬ」 「劣等種がなにを言う!」 嘲るように発される言葉に、攻撃を避けながらも傷つくジョニーを励ます様にメイが癒しを与える。円陣を崩す様に攻撃を加えるそれは連携を上手く取れるように指揮官が存在する動きである。焦りをにじませながらメイは『勝利』ではない、『敗北しない』を心がける。 「完全に倒すのが難しく立って、勝てなくても良いから負けるなってことだよね……こっちが遣られない様にする事が第一だね!」 Kresnikを握りしめ、親衛隊を睨みつけたグレイが襲い来る親衛隊の刃を受け止める。彼等の中にも存在している回復役を見極めるのは容易であった。向こうがメイという回復役を狙うと同義、グレイとてホーリーメイガスを狙っていた。前線に来るデュランダルの体を貫きその射線は其の侭、ホーリーメイガスへと届かせる。 「そうそう好きにはやらせはせん。……出来る時にやらせてもらうぜ」 軍服を纏ったグレイにとって何処となく親近感を覚えずには居られない彼等。何時かの『理想』(ゆめ)を追いかけ続けたままなので有れば、ソレは執念深いとでも言ったところであろうか。 「オレ達は敵同士。任務に忠実であるのが大事だとは知っているが、その任務果たさせる訳にはいかない」 「私達の任務は貴方方が此処より先に向かう事を食いとめること。根競べと参りましょうか!」 集中領域に達しながら彩音は親衛隊を見据えている。最初手で攻撃に至るまでの時間が親衛隊へと先手を取らせたのは間違いないが、此処で終わるリベリスタではない。 「世界に対して貴様等が何を為したと言うのか。何か結果を残さずに『優良種』とは笑わせる。 貴族とは何を以って貴族というか。重要なのは血では無く、為すべき事柄とその精神である!」 「少なくとも私達は総統閣下の御意志の下、清き精神を以って動いている――その事柄を判っておられること?」 お喋りな毒猫の言葉にカインは小さく笑みを浮かべて魔力銃から黒き瘴気を吐きだした。彼の攻撃が己を蝕みながらも生み出す闇は傷を負っても闘い続ける深淵騎士(ダークナイト)の精神を表している様にも思えた。 一気に攻撃を行う親衛隊に真っ先に対応していたソラの指先がハイ・グリモアールを捲くる。マグミラージュの名の通り、鋭く切り裂き、そして魔術をも駆使する彼女の表情に浮かんだのは生徒に向ける慈愛の眼差しでは無い、悪戯っ子の如き笑みだ。 「慢心してる場合じゃないわ。今度は此方の番だからね」 どのタイミングで撤退するかが判らない。そう位置づけた親衛隊の存在にソラは全てを倒し切る覚悟で挑んでいる。彼女の言葉にナジェージダが声をあげて笑い、再び投擲されるフラッシュバン。彼女が手にしたザーフィアは彼女への加護を与え続けている。無論、背後で瑞樹と同じく赤い月を昇らせているイーゴルとて寡黙な男であれど戦闘を続けているではないか。 「ナジェージダ。中々手ごわい奴らだとは思わないかね?」 「我が親愛なる曹長? 彼等はそれでも私達の誰を狙うかを統一できていません。包囲網は此方が完璧」 猫が耳を揺らしにたりと笑う。纏う軍服が亡国の面影を想わせ、ぎっとグレイが睨みつけた。ソレはイスタルテとて同じだ。嘲笑を浮かべる彼女を見据える瞳が同郷である彼女らとの友誼を深めるべく品定めをしている様にも思える。その気味悪さに女が身震いした所へと破滅を告げる様に瑞樹が赤い月を燻らせた。 「貴方達が求める先には破滅の未来しかない……その破滅、身を持って味わえ!」 声を張り上げる彼女の手首で揺れるチャーム。恋心を表すソレは彼女を苛むショックを――衝撃をも物ともしない。七名の親衛隊を狙う彼女の月を裂く様にイーゴルがThe Queenを向ける。鮮やかに踊る様なステップを踏む彼は自身の部下を含もうと物ともしない。避ける様に一歩下がるソラを支援する様に希望の輝きが放ち出す気糸。男の頬を掠め、その背後に居る回復役を攻撃する。しかして、中心で回復を行うメイを庇うジョニー同様にホーリーメイガスを庇う存在が居る事に小さく舌打ちを零す。 「だがね、『眼』という物が何時だって万能だとは思わない事だ」 小さく浮かべた笑みは彩音が一つの狙いを元に行動しているのが良く分かる。馬鹿では無いとでも云う様にナジェージダが身構えるが、彩音の気糸は彼女では無く、回復役の『眼』を狙って放たれていた。俗世で言われる攻撃としてはプロレスではタブーであるがこのような『奇襲』においてはある種で得策と言えようか。所謂『眼潰し』ではあるが、ホーリーメイガスを庇うクロスイージスの暗視ゴーグルの紐を絶ち切りその目をも狙おうと狙いを定めている。 「おっと、お喋りな毒の猫のお嬢さん? 貴女とは親交を深めたいと思っていたのですよ」 「残念だけど、私は貴女とお話しする暇はないみたい。狙ってるのは其方の可愛らしい子だから!」 イスカリオテの言葉に厭らしく笑った女を見据え、身構えたジョニーが只管に攻撃を受け流す。庇うだけでなく機転を利かせた彼の考えは周囲の親衛隊――この陣でその所在を上手く掴めない敵の居場所を探り続けて居た。 ● 最初に、構成を崩されがちではあったが、それで負けるのがリベリスタでは無い。回復役であるメイがその力を最大限に出せる様にと与えられる支援は未だ続いてはいる――が、統制の取れきれない中では中々に辛い状況ではあった。 灯したびっくりパンプキンの明りが季節外れの顔を作り出して居る事にナジェージダが面白そうに笑った。その光によって視界をある程度は確保されていた彩音が『眼の代わり』――暗視ゴーグルをつぶした面々ではあるが、イスカリオテが生み出す砂嵐はその視界をも覆ってしまう勢いで吹き荒れる。 「さて、『親愛なる』猫のお嬢さん。嘗ての同胞より質問です。あの大戦、我々は何故負けたのでしょうか?」 己の身を守る様にザーフィアを構えるナジェージダがその言葉にイーゴルを見詰める。彼女の上官はイスカリオテの言葉に何処となく反感を覚えた様で、小さく顎を向けた。女の眼が、変わる。 「答えは簡単。情報量の不足です。貴女は我々の『戦闘力』、『展開力を測定した。では――」 その言葉に続き、中央で回復を続けるメイへとその魔力を補填する。だが、イスカリオテの言葉は己に反射する言葉でもある。続きを促す女の生み出す不可視の刃がイスカリオテの体を切り裂いた。避ける事に特化しない男はあくまで毒を吐き続けるのだと笑い、眼鏡の奥で赤い瞳を細める。 「我々以外の『予備戦力』は如何です?」 「では、逆にお聞きしましょう。見たところ神父殿とお見受けしますわ。『此方の予備戦力』は?」 応えはどちらも「そんな物ない」と言ってしまえる。だが、不透明な戦場ではソレが不安を煽る言葉である事は重々承知であった。 翻る白衣。長い紫の髪がはらりと散る。幼さを残すかんばせに似合わぬ苦渋の表情は後衛位置での戦闘を得意とするソラの戦闘スタイルを崩す事になったからであろうか。だが、彼女はそのような事で『負け』を認める女では無かった。 「残念だけど貴方達の居場所はココにはないわ。授業の続きを始めましょうか?」 時を切り刻む衝撃は真っ直ぐにソラから放たれる。ハイ・グリモアールをまるで教本の様に扱うソラは大胆不敵、大人の女の余裕を浮かべ地面を蹴りあげる。交錯する視線に身構えるジョニーがその機動力を生かし、一手、ホーリーメイガスを庇う男の体を横殴る。毒を垂れ流し続けるイスカリオテの砂嵐を掻い潜る様にナジェージダがその刃を放った。男の頬を、身体を切り裂き鮮血が流れ出る。 「まさか『七派とか言う極東の猿』を信頼していた訳ではないでしょう? 貴方方に協力する一方我々と同盟する、舌を二枚有する等造作も無い」 「それが、どうかしましたか?」 ギッ、と睨みつける女は余裕を浮かべて微笑んだ。まだ『使い様のある猿』だとでも言う様に女がくすくすと笑うのだ。毒を吐く猫は己たちこそが優良種であると思い込んでいる。それは不安を誘うではない、彼女たちの『プライド』を刺激し攻勢を強めるだけだ。 「なれば何故その七派の皆さんは此処にいらっしゃらないのでしょうか? 判らない事ですね。どうやら私の耳に貴方の言葉は理解できない様です」 「ならば――もう一度問いましょうか」 どうして負けたのか。そう問うたイスカリオテの体がぐらりと揺れる。嗤う猫の攻撃にメイが回復を施すがその癒しも届かない。攻撃対象がバラつく状況下において、複数対象に攻撃する事が叶ったカインは成程、この場では傷を負いながらも上手く立ち回ることが出来て居た。 「己が種族をただ絶対と思いこむのは愚か、そう言うしかないぞ。その愚かしさで優良種などと笑わせる。 道化としては優良ではないかな? 笑わせてくれるな。親衛隊よ!」 「ホントに。此処に居るのは侮れる人たちじゃないよ? 此処に居るのは私だけじゃない。私達は倒れる訳にはいかないんだから!」 煌めく刃を向けながら、支援を受ける瑞樹の昇らす赤い月。不運を告げて、少女を狙う攻撃に、縺れる足で彼女は耐え凌ぐ。祈る様に回復を続けるメイが両手を組み合わせるがその癒しを持っても庇い手であるジョニーの膝が一度は折れてしまう。 「倒れる訳にはいかぬ。リベリスタとして、いや、平和を守る者としてここで貴様等には負けはせぬ!」 真っ直ぐに見据える彼の笑みに笑ったイーゴルにハッと顔をあげるグレイが己の痛みを武器に親衛隊へと傷を与え続ける。ふらつく足取りで倒れる下官にその上官が渋い顔をしたのを見逃しはしない。 「悪いな。半ば奴辺りになるがオレの痛みを喰らっておけ。良く言われるだろ? 因果応報……ってな」 傷つきながら痛みを堪えるグレイに余裕を浮かべて居たのはナジェージダ只一人だ。前線で戦うイーゴルを相手にする事になったソラは勿論の事、挑発を続けて居たイスカリオテの傷も深い。 「お嬢さん、これを機会に『仲良く』しようじゃないですか」 その言葉にお断りだと告げる様に放たれる真空の刃。イスカリオテを巻き込んで、それが真っ直ぐにグレイへとも到達する。範囲攻撃を中心に使うナジェージダは円陣を組んだ彼等にとっては『危険』な存在であることには変わりなかったのだ。だが、複数攻撃を主体とし、回復役を守る体制であった彼等に親衛隊の面々も傷ついている。真っ先に倒された回復役に前線で戦う面々の傷も深い。 (此処で負ける訳にはいかないんだ――!) 息を吐き、地面を蹴る。昇る赤い月に支援の無くなった瑞樹は唇を噛む。視界を壊し続ける彩音の気糸が親衛隊の目を潰した所へとカインの攻撃が降り注ぐ。ソレが功を為して、攻勢はリベリスタへと傾いた。勝利の天秤が傾き始め、彩音がくすくすと笑みを漏らす。 「……さあ、皆、そろそろ『何か』が来るぞ」 その言葉にイーゴルが嗤う。何を使うかなど見極めるにはまだ届かぬ。彩音が希望の輝きを握りしめ、身構えたと同時、警戒する様にソラが一歩下がる。 「見せて貰おうか。優良種よ」 叫ぶように告げるカインの声がイーゴルの耳朶に届くと同時、男が両の銃を向ける。弾き出された光りが真っ直ぐにメイを目掛けた所へと咄嗟に滑り込んだジョニーが最後の力と云わんばかりにその足で踏みとどまった。ナイトエッジと名付けられたソレは夜闇に紛れる真空の刃。回復を苛む両銃の効果を振り払おうとメイが癒しを与える間もなく忍者に憧れた正義の味方の体が倒れ込む。 だが、その攻撃はイーゴル自体にも反動を与えて居たのだろう。大げさに堰きこんで、今だと言わんばかりに真っ直ぐに飛び込む瑞樹に男の腹が切り裂かれる。ギッと睨みつける彼女を支援する様に暗き闇がイーゴルを包み込んだ。 足が縺れ、一歩引く体を逃しはしないとソラが笑みを浮かべて飛び込んだ。溢れ出る血に、傷を負った白い肌に、瑞樹の掲げた疑似的な赤い月をバックに背負い女教師はクスリと笑う。 それが合図であろうか。男が右手を上げ宙へと発砲を行った。倒れた下官らの体を置き去りに、ナジェージダが一歩下がる。リベリスタには撤退条件は存在してなかった死ぬまで闘い続ける前に有能な男は引き際を弁えたのであろう。 「撤退だ。――痛み分けと言ったところか」 「ええ、痛み分けって事で済ませるのが無難ね。流石はこの場の責任者って所かしら?」 何処か嘲る様に嗤うソラが手を降ろす。ナジェージダが「Ja」とイーゴルへと合図すると同時、振り向きざまににぃと笑う。 傷つく仲間を見詰め、瑞樹が頬を汚す埃を拭う。運命を投げ捨てる勢いで戦った少女は未だ喧騒に呑まれ続ける長い夜を想って溜め息を吐く。 「……本当に、長い夜だね」 その声は、ただ、夜の闇に呑まれて行った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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