●汝が隣人を助けよ 「エリューション・ビーストが出たわ。退治してきてくれるかしら」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まったリベリスタ達を前に率直に奏切り出した。けれどその可愛らしい顔の眉間には皺が寄り、些か険しい顔である。 「なんだ、そんなに強い奴なのか?」 リベリスタの一人が訝しげに声をかける。しかし、イヴは首を横に振った。 「いいえ。エリューション自体は大したことは無いわ。弱いわけではないけれど」 ただ、ね。 言葉を濁し、はあ、と溜息を吐く。 「実は、そのエリューションを倒そうと息巻いてる馬鹿なリベリスタが居るのよ……」 イヴ曰く。 覚醒したての生まれたてほやほやの少年リベリスタ。名を園原・大介と言うらしい。 ジーニアスの覇界闘士らしく、とりあえず前に出て殴るという戦い方だとか。 「何もかもが無茶。八人のリベリスタにお願いする程度の相手に一人で向かっていくなんて。しかも回復も戦略も何もかもが無いような状況で、よ」 だから、ついでに彼も助けてあげてくれないかしら、とイヴが告げる。 「そりゃ構わねえけど……助けた後どうするんだ?」 「こちらとしては、どうもしなくていいわ。……彼は組織に属そうとはしないもの」 自由を愛し、組織と言うものに訳もなく反発したいお年頃、らしい。 「つまり説得するかどうかも好きにしろってこと?」 「成功する確率がどんなに低くてもいいなら自由だわ」 「りょーかい。で、本命のエリューションは?」 「犬に鴉の翼が生えたE・ビーストよ。 不利になると飛んで逃げようとするけれど、基本は地上戦ね。 腐臭のする恐ろしく尖った毒の牙に、痺れをもたらす鋭い爪を持っているわ。 そして、それが三体。 リーダーは居らず、どれも同じ強さだけれど、最初に動いた一匹に続いて動くの。 つまり……一人に攻撃が集中するわ」 どういう意味かわかるわね、とその危険度を言外に示すイヴ。 出現する場所は住宅街にある小さな公園。イヴがコンソールを弄り、地図を見せる。 広さは戦うには十分。時刻は昼で、付近の住民は皆仕事に出ていて人通りは無い。 リベリスタ達が到着する時には、大介とエリューションは一触即発状態だろう。 公園の奥にエリューション、入り口側に大介、という配置だ。 その時に飛び込むのが遅れれば、大介の命が危ういかも知れない。 事前準備を行う余裕は無いかもしれないわね、とイヴが続けた。 「達成条件は、三体を逃がさず倒し、園原・大介の命が無事である事、よ」 多少の怪我は無茶の代償として甘んじて受けさせればいいのよ、と口調は冷たい。 「……仲間も得ずに、一人で戦うなんて本当に無茶」 その声色には、どこか心配するような音が混じっていて。 「……ともかく、面倒なお願いかもしれないけれど……お願いするわ」 気をつけて、とイヴは請け負ってくれたリベリスタ達を本部から送り出すのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:七河コーヤ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月21日(木)22:01 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●汝が隣人との邂逅 公園に満ちるのは、殺気と、腐臭と、唸り声と、無謀な勇気。 その空気を切り裂く事が出来るのは、真なる勇気と力の使い手だけ。 「おまえらなんか俺がやっつけてやるから覚悟しろよー!」 ぶんぶんと構えもなく両腕を振り上げる少年。対峙するのは腐った匂いを漂わせた三体の異形の犬。 少年の無防備具合はさておき、犬たちの殺気は一触即発。今にも躍りかかろうとしたその時。 一陣の風が吹き抜けた。 「カルナちゃん、ユヅキちゃん、お願いっ!!」 可愛らしい声が戦場に響く。 出鼻を挫かれた犬たちが殺気を向けるのはその声の主、『雪風と共に翔る花』ルア・ホワイト(BNE001372)。 けれど飛びかかろうとした彼らは再度阻まれる。それは雷と閃光。 神鳴りと神の光に貫かれ、完全にたたらを踏まされた彼らは、何と対峙しているのかを自覚した。 さっきまでの無力で無謀な子供だけではないことを。 「難しいお年頃というものでしょうか……」 「一人で戦う……そんな気持ち、実のところ分からなくはないのですけれどもね」 神気閃光を放った『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)と、『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)が、少年に聞こえぬ程度の声で言葉を交わす。悠月の、分からなくはないという言葉にカルナが頷く。何故なら彼女もまた、そう思っていた頃があったから。 一人で皆を護れるなんて、なんて傲慢な考え。 そんな考えを持っていた事もありました、とカルナは自嘲する。 それが傲慢だと気付かせてくれたのは、護るべき対象としていた、共に戦う仲間達。 目を細めて少し嬉しそうな顔をするカルナに、悠月が一つ微笑み、次の瞬間表情を引き締める。 「けれど、今回は相手が相手。流石に、無茶が過ぎます」 突然の自分たちの登場に呆然とする少年を見つめ、悠月は思う。 ――まだ始まったばかりであろう、彼の戦い。こんな所で終わりにさせる訳には、いきません。 「護り、支え、そして未来の道へと繋ぎましょう」 「将来有望なリベリスタ候補生をここで死なせる訳にはいかないですし」 「わけもわからぬまま子供が死んでいく世界が、良い世界だとは思わないから、な」 悠月の言葉を継ぐのは二人。 少しお手伝いしますか、と『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)がショットガンを構え、その横を走り抜け見た目よりも重厚な音で踏み込んだ『機鋼剣士』神嗚・九狼(BNE002667)が一番近くの犬へと肉薄する。 「人間が鎖骨を骨折すると腕が上がらなくなるように、翼そのものを破壊する必要は無い」 「成る程それも道理ですね」 けれど相手は異形。翼を潰して損は無い。ならば。 九狼がソニックエッジにより打ち下ろしの袈裟斬りで翼を通って背中を穿ち、星龍のシューティングスターによって強化されたショットガンが、狙い澄ました様に翼を貫く! けれど逃走に走らない限り、彼らは翼を潰されても怯まない。 それが後にどういう結果をもたらしても。 しかし、そのまま攻撃してきた相手に食って掛かるのは得策ではないと判断したのだろうか。 棒立ちの侭呆然としていた少年に狙いを付け、一瞬の隙を突いて一頭が躍りかかる。 それに続き二頭、三頭が続こうとして、少年が自分に襲いかかろうという牙に竦み上がって――。 「――危な!」 少年を抱えて庇い、転がったのは『武術系白虎的厨師』関 喜琳(BNE000619)。一頭目の翼に向けてピンポイントを放ち、撃ち落としたのは『#21:The World』八雲 蒼夜(BNE002384)。 「さあ踊るがいい。俺達の掌の上で」 蒼夜が人形の糸を引いて操るような仕草をすれば、撃ち落とされて起き上がったそれが牙を剥いて蒼夜を狙う。怒りに身を任せ、仲間が標的に迷っている事にも気づかずにその牙をただ食い込ませる事だけど目標に躍りかかってくる。 「……その攻撃は、私が全て、引き受ける」 『消えない火』鳳 朱子(BNE000136)が蒼夜と犬との間に素早く割り込み、クロスさせた両腕でその牙を受ける。じわり、と毒が浸食し――無効化される。 「毒も、麻痺も、この身体には通用しない」 突破出来るなら、してみせなさい。 朱子は、静かな声とは裏腹に、どこか挑戦的な笑みを口元に浮かべた。 「…………本物の、ヒーロー?」 「せやな。けど」 ヒーローが一人とは、限らんねやで♪ 呆然と戦場を見て呟いた少年、園原・大介に、喜琳がにかりと微笑む。 「さあ、行っくでー!」 喜琳は大介と同じ覇界闘士。その背中から、彼が何を感じ取れるかはわからない。 何を思うか、どう学ぶかは、彼に任せる。それが今回のリベリスタ達の総意。 「どうか、救うべき隣人が、いつか愛すべき仲間となって下さいますように」 カルナがにこりと微笑み、ふわりと軽く浮いて、それを祝詞として再び神の光を降らせる。 戦場に満ちたの中で、獣の咆吼が響き渡った。 ●汝が隣人を助けよ 一匹目の翼は容易く手折れた。けれどそれはどうやら幸運だったらしい。 手折られた一匹を見て、他の二匹が警戒したのかはわからないが、リベリスタ達は決定打を引き寄せられずにいた。 その上、呆然としていた大介が徐々に動けるようになり、段々と無茶な行動が目立ち始める。 最初に自分が狙っていた倒すべき相手だから? 一緒に戦いたいから? 「うおおおー!」 言葉は無く、ただがむしゃらに相手に向かっていくその姿からはどちらにも見え、どちらかかはわからない。 「無茶を……! カバーします!」 「介入します」 「ち……、一匹はこちらで引き受ける!」 一撃をかろうじて当てた大介に当然のように狙いを定める異形。悠月が仲間に呼びかけ、攻撃よりも大介の護りに重点を置いていた朱子と蒼夜がそれに応じた。 悠月のマジックミサイルが顔面にヒットする。しかしその程度では怯まない。大介との間に割り込んだ朱子が、それでもミサイルでやや勢いの落ちた爪を弾き、更に二匹目の牙を受けて傷を作る。 毒や麻痺から身を守れても、受けるダメージを軽減する事には限界があった。 一方、怒らせる事で自分に攻撃を向けさせた蒼夜。大介がその個体を狙えば良かったものを、と毒づく事はしないが、運の悪さを少し呪った。全力で防御を行っても、それなりのダメージが入り、相手の一撃の重さに臍を噛む。 「なら、今度は私の出番ですね」 透き通った唄が響く。カルナの天使の歌。朱子と蒼夜の傷を癒し、戦場を支える大切な力。 「ナイスフォローだよっ! 私も頑張らないと!」 ルアがにこにこと笑って鼓舞するように皆に声をかけ、戦線へと突入する。 狙うは翼の壊れていない二体。 ――私の武器は、強みは、誰より速い事……! 神速とも呼べるその速度が、そこから繰り出される最大数の攻撃が、漸く二匹目の翼を奪う。 「悪い頭でも智恵を絞れ」 「は?!」 死にたいのか、と短く言葉を投げるのは九狼。大介はそれが気に入らなかったのか、反発するように声を上げたが、死にたいのか、と問われて黙りこくる。 過保護にする必要はない。あとは自分で考えるべき事だ、と九狼はそれを放置して敵へと向かう。 今回の件は災害に近いと感じた。それを防げと命じられたのだから、遂行するのが当然だ、と。 「筋肉や骨と無関係に動かせるというのなら、プロペラかジェットにした方が高性能だぞ」 ――まあ、壊してしまえばどちらであろうと無関係だが。 笑みとも言いづらい、口の端を持ち上げただけの笑い方で挑発し、最後の一匹の片翼を折る。 そして、やや重たい発砲音と共にもう片翼がぶち抜かれ、ばきりと根元から叩き折れた。 「私達がこうして危険を承知に敵を倒すのは、リベリスタとは普通ですが……ね」 革醒したばかりの少年には荷が勝ち過ぎるというもの。仕方無い事だと星龍は言う。 けれどこの言葉を直接届けようとは思わない。彼が容易に受け入れるとは思わないから。 「ふわ~! 二人ともスゴイ!」 ナイス連携、と九狼と星龍の攻撃に飛び上がって喜び、再び攻撃出来る体勢を作るルア。 「一気に畳みかけましょう」 悠月がチェーンライトニングを放ち、翼を失った犬たちを貫く。 その最中、朱子が大介に小さく言葉をかける。 「……少年。前に出て殴る……とは、……簡単な事ではない」 ルアが、喜琳が、九狼が、蒼夜が、男も女も年齢も何もかもが関係なく、前に出たら等しく傷を負い、それでも歯を食いしばって立ち上がり、向かっていく姿を示す。 「前に出る事……殴る事……それを続ける事……」 それに必要な事は、確かな経験の蓄積、技能の研鑽、決して引かないという覚悟。 当然それらも必要。けれど、それ以上に必要で、尚かつ足りないモノがある、と彼女が言う。 「足りないもの……」 朱子の、傷は塞がったがそれまでに流れ落ちた血液が公園の土に染みこむのを息を飲んで見つめ、呆然と呟く大介。 「戦いを、見ていればわかるだろう」 だから見ていろと、朱子はその背に少年を庇った。 九狼が踏み込み、大上段からの一撃をぶち込んだ所に、カルナと悠月の二つの光が走り抜ける。 揺らいだ一頭の犬に気付いた蒼夜がラストのピンポイントを叩き込む。それに合わせ、星龍のショットガンが吼えた。重い音、骨を砕き、筋肉を断ち切る音が響いてエリューションが砂に朽ちる。 「道を、開けるよ……!」 残った二体。どちらも手負い。ならば。ルアは身体を捻り、全身をバネのように使って最大火力で押し込むように攻撃を叩き込んでねじ伏せる。転がるルアと犬。 「シーちゃん、今だよっ!!!!」 半身を起こして、ルアが叫ぶ。 「ルアちゃんナイス!」 お膳立てしてもろたなら、応えなあかんね! 喜琳は速度をあげて、肩で空気を切り、その摩擦がまるで炎を呼んだかの様に一陣の風と炎とを巻き上げて残った一体へと突っ込む。 「これで、終わりやっ!!!」 業炎撃が犬へとめり込み、肉の焼ける音共に破砕音が響き渡る。 けれど、終わったはずが、もう一幕。 ふらつく身体で起き上がったのは犬。ほんの一欠片の体力を残していたらしい。 「……!!」 ルアが立ち上がる前に犬の牙がルアへと襲いかかり、避けられるタイミングではない。 が。 ごっ、と炎が空気を焼く音がした。犬は確かに立ち上がり、ルアに襲いかかった。 その瞬間、横薙ぎの攻撃に身体を攫われ、地に叩き伏せられたのだ。 「はぁっ、はぁっ……や、った……?」 助けられた、と必死の形相で呟いたのは、大介だった。 「ありがとう、ダイスケ君♪」 「よーやったやん!」 ゆっくりと起き上がったルアが、にこりと微笑む。大介の背を、喜琳がばしんと叩いて褒めた。 ルアはちょっと照れたように笑う大介に、双子の弟のジースを思い出した。 自分が革醒していなかった頃、弟は一人でエリューションと戦っていた。 大介のように、仲間も得ずにたった一人で。だから大怪我は毎回の事で、とても心配だった事。 (「でも、私はもう護られるだけのお姫様じゃない」) それと同時に、大介もまた、護られるだけの子供ではなかったのだ。 「一緒に戦えて、良かった」 今度は、一緒に戦えて良かった、とルアは微笑んだ。 ●汝が隣人との対話 全てのエリューションを片付け、ようやくほっと一息。悠月やカルナが、傷を負った仲間達を癒す。 朱子が、答え合わせだとばかりに大介に言う。 「……わかっただろう。この戦いで、少年が持たず、私達が……持っていたもの」 それは、第一に、武器と、防具。力を得ただけの丸腰で何が出来よう。 「……この剣と、炎と鋼鉄の盾があるから……私は死地に赴ける」 「それって、どうやったら手に入るんだよ?」 子供の俺が手に入れられる訳がないじゃないか、と唇を尖らせる大介。 おかしそうに朱子がくすくすと笑って、私達の仲間になったら貰えるかもしれないけどね、と。 「おれはそーいうのに縛られたくないんだ!」 意固地になったのか、なんなのか。意地を張ってぷいっとそっぽを向いてしまう。 「そんな事言わへんで、うちらと一緒にまた今度も闘おう、な!」 修行とか一緒にせえへん?と楽しそうに後輩候補を構うのは喜琳。 けれど意地っ張りは素直に首を縦には振れないらしい。 その様子に、蒼夜はやれやれと言った様子で声をかけた。 「いつか、君の力を必要とする人が現れるだろう。こんな所で無駄死にされては困る」 そして、紙切れを差し出し、続ける。 「気が向いたら連絡しろ。恐らく君に必要なもの、君を必要とするものがそこに在る」 少年の手に残されたのは、アークへの連絡先。 連れて帰りたいですが、まだ無理なようですね、と喜琳と目配せあうのは星龍。 癒し終えた、悠月が紙切れを手に黙り込んだ大介に声をかける。 「焦って、無理をしないようにね」 ――生きて歩む一歩こそ、次の一歩に繋げる事が出来るのですから。 そっと微笑まれ、一度だけ素直にうんと頷き、けれどその場に背を向けて駆け出す。 そして、公園出口で立ち止まり、振り返って叫ぶ。 「……っ、た、助けてくれてっ、ありがと!」 次は俺が助ける番だから、と強気な発言を残し、答えを待たずに駆け出した。 それは未来への道を無事に駆け出した、少年リベリスタの第一歩。 「少年勇者の一夏の大冒険……ですかね?」 なると良いですね、と星龍が一つ小さく笑めば、次は戦力に数えるぞと九狼がぼやくように返した。 また会えるといいね、という言葉を誰かが呟き、肯定が返る。 ――奏でられ始めた、はじまりの唄。どんな唄になるかは、まだ、誰も知らない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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