●異常気象? それは、いつもの朝のニュース番組。早朝に始まる類の為、天気予報での中継は無い。 「天気予報をお伝えします。関東では軒並み30度を超える見通しとなっており、当面は暑い日が続く……え? あ、ハイ。ただいま入りました情報によりますと、――市で最高……マイナス10度!? ちょっと、これは一体どういう、」 プツン、と途切れるモニター。途絶える放送。 後から伝えられた話であるが。放送が止まった理由は、放送局ビルのアンテナが「吹雪により」破損したからだという。 ●雪中行脚 「現状では、吹雪が続いているのは中心地点から半径10km圏内です。しかし、このままだと範囲も広まるし、何より都市機能が麻痺、ひいては初夏に凍死者が続出するという異常事態になりかねません」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)の言葉に合わせ、モニターは先程の映像から切り替わり、地図が映しだされた。市の中心部から同心円状に描かれた10km圏内のみが、極端に低い気温を記録している。明らかに厳冬のそれであると同時に、風速も相当高いことがモニタリングされていた。 「この現象の原因ですが、種子型アーティファクト『ホワイトナイト』あることが確認されました。現在は芽を出した程度ですが、花をつけた時点で順次範囲を拡大、種子の拡散での増殖もできる……という、非常に厄介な代物です。ただ、地面と接していなればその効力は発揮しないため、掘り出せばこの異常気象は解消されます」 なるほど、今回はそれを掘り返すだけか、とメンバーの一人が首肯したところで、「ただし」と和泉の注釈が入る。 「能力圏内の10kmは強風が吹き荒れ、ヘリは愚か一般交通手段の多くが使用不可能であることが予測されます。ですので、皆さんには効果圏外からの直接アプローチを目指していただきます」 その一言に、全員が凍りついた。直接移動できれば掘り返すだけでいい。そんな風に考えていた日が私たちにもありました。 「そ、それはつまり」 「はい……10kmの雪中行進が必須となります。諸所の準備はこちらで行えますが、突入前と解決後は非常に暑い、ということを念頭に置いておいてください」 誰かが風邪を引くだろうな、などと呟いた。まあ、あるかもしれない。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月09日(土)22:19 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
■サポート参加者 4人■ | |||||
|
|
||||
|
|
●だからそういうんじゃねえって 「あ、そうですそうです。明らかに雪山に居そうな方々がマイクロバスからぞろぞろと出てきてですね、もう何事かと思いましたけど……」 ――証言1.家事手伝い(29)、午前5時30分頃の目撃より 真夏日通り越して猛暑日の三文字が連日襲いかかるこの初夏の日和に、暴風雪の中を10km歩いてこい……冗談のような話を受けて、リベリスタ達のテンションがおかしくなっているのは当然といえば当然だった。一応、移動中の車両はクーラー全開ではあるが、完全防備な状況では焼け石に水である。 「むう、あれが伝説のホワイトナイト……慶長20年……400年前の7月9日、江戸の町に雪を降らせた……って本で読んだ」 ものすげぇ方向からアプローチかけてきたのは『消えない火』鳳 朱子(BNE000136)である。っていうかマジか。思わず江戸時代の資料漁ってたぞアークの職員の皆さん。 「……あ、あづ……い……よー……」 「夏に涼める……涼しいってレベルじゃないな!」 むふーむふー、と息荒く朦朧とした表情を浮かべている『臆病ワンコ』金原・文(BNE000833)や、ノリツッコミに発展した『冥滅騎』神城・涼(BNE001343)辺りはまだ可愛い方なのかも知れない。 「私……暑さにはめっぽう強いのです……え、雪?」 雪山登山用の装備に身を固め、機密性万全の完全防備の中でガマン大会の優勝宣言をするが如くに暑さに強いアピールをする『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)であったが、彼女はきっとわかってとぼけてるので問題ない。……ですよね? 「……キッツイわー、この気温」 現場に到着するまでは、と薄着で待機している氷夜 天(ID:BNE002472)は、窓の外を照らすギンギラギンな太陽に、力ない笑いを向けるしか無い。 なんせ現場は零下17度、風速15m(アーク調べ)。体感温度は零下30度をゆうに下回る地獄仕様を、南国育ちの彼女に伝えるのはなかなかに酷というものだろう。 「暑いし……これ以上は無理」 そう言って5本目のゼリー飲料(ぬるめ)を飲み干したのは、『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)。暑くなくてもかなりキツい量を飲んでいるとは思うが、それでもこれから始まる雪中行軍を思えば、蓄積カロリーとして適正かは判断に難しい。何せ、何もかもが想定外。実際に挑んだ結果のみが重要なのだから。 「雪なんて久しぶりだなー」 『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(ID:BNE002333)やアウラールにとってみれば、雪の多い風景とは見慣れたものなのかもしれない。というか、この口ぶりからすれば雪の中はお手の物、なんだろう。 「故郷は山奥だから冬には道が雪に埋もれて、よく孤立してたもんだ……」 お手の物、なんですよね? 斯くして、彼らは現場に到着する。全開のクーラーですら苦痛だったのに外気温32度である。拷問である。 「うーっし、気合入れていくか!」 とまあ、そんな感じで気合十分な『首輪付きの黒狼』武蔵・吾郎(BNE002461)は頼もしい限りである。先行班の先陣を切る『悪夢の忘れ物』ランディ・益母(BNE001403)のスコップを構える姿もまた、頼もしい。希望の一端が見えつつも、一行は眼前に広がる吹雪の壁へ目がけて突っ込んでいくのだった。 ●雪山ならエライこっちゃ 「いやー、まさか真夏の都会で遭遇するとはねぇ。しかしあのお嬢さんはなんだね、(放送コード的に問題があるので削除されました)」 ――コンビニで保護された会社員(35)、助かったときの様子を思い出しながら 「まだまだァ!」 ずどーん。 「スーパークールビズ姿で埋まってる一般人が……B班に頼もう」 ランディのスコップが唸る。積雪量自体はさほど苦労するレベルではなかったとは言え、その面積や移動距離を考えれば脅威だったことを考えると、彼の切り開いた道が後発の体力温存に大きく貢献しているのも事実である。先発の殿を務める『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)が連絡を取ることで、なんとか遭難者も助けることが出来ている。彼本人としては、積極的な救出に回りたいところだろうが……何せ、発見した遭難者が本道から若干外れていることを考えると、体力のロスや後発との位置関係から頼まざるを得ないとかそういう状況なのである。世の中は割と、非情なのだ。 「進捗率20%……といったところか。思ったよりは順調かな」 『月夜が好きな司祭』クラーラ・フリッツ・クーアフュルスト(ID:BNE002594)は、経路上の電柱にスカーフを巻くことで後発が迷わないように配慮した上で、完全防備に身を包んで状態は万全の模様。眼鏡の曇り止めのお陰で視界もクリアである。……まあ、実は酷寒と五本指ソックスって相性悪いらしいんですけどね? 重ね履きとかしている以上、些細な問題ではあるし、今回の趨勢とは関係ないのだが、リベリスタの皆は気を付けようね。凍傷で指がもげるぞ(割とマジで)。 閑話休題。 「わたしワンコだから、寒さにも強いもん!」 犬は喜びなんとやら、雪中に飛び込んでからの文は頼もしいことこの上なかった。防風雪で凍りついてちょっと危ないことになってる物体の飛来などを予測、周囲に警告することでその危機を極減するわ、足取りはしっかりしているわ。 「私の故郷ではハブより人間の方が先に生命の危険に陥りそう……」 マスクの奥でそんなことを口にするシエルさん、対照的すぎてマジ不幸な天使である。 「まずいな、かなり体温が下がってる……しっかりしろ、お前の帰りを待ってる者がいるんだろ?」 後発の先頭を担うアウラールが、優希からの連絡を受けて対象の位置を把握し、男を抱え上げた。咄嗟に毛布で全身をくるみ、牙緑から受け取ったカイロを彼の脇に挟むと、近くのコンビニへ向けて前進。道中、励ましの言葉をかけるが、男は力なく首を振る。いい年なのに。 「いない? ぬことかも?」 「と、取り敢えずチョコでも食べておくといい、な?」 「寝るな! 寝たら死ぬぞ!」 思わず聞き返すアウラール、黙ってチョコを差し出す牙緑をよそに定番の台詞で気合を入れるのは『Steam dynamo Ⅶ』シルキィ・スチーマー(ID:BNE001706)である。洋酒とか取り出している辺り、実に酷寒仕様の体の温め方であるが。他のメンバーとの会話とか、トラウマスイッチ押しちゃってる気もするが……そんな時の彼女というか。 「ほら、ちゃんと起きろ! ……おうりゃーっ!」 べちこーん。スキーウェアの上からでも目立つ部位によるビンタが、男の頬を張る。やり遂げた感満々のシルキィと、生きててよかった感全開の遭難男性。何だこのカオス。なんだこれ。 (……まずいことに気付いた。金属って……凄い速さで冷える) 朱子、ちょっと気付いちゃいけない点に気づきました。そう、この酷寒てばメタルフレームにとってはなかなかの凶器。先行する焔が噂されたようにくしゃみしたり、同行していたシルキィが朱子の視線にきょとんと首をかしげたり、危機感は本人ばかりなり、である。 「って言うか、こう、夏なのにこんな豪雪とか、アカンで!」 涼、いい感じにキレッキレです。まあ、彼の言う事はもっともなんですけれどもね。なんだかんだいいつつ隊列を維持し、一歩一歩前進する彼らの姿勢は目を瞠るものがある。心が折れそうになれど、先行班はシエルの歌が、後発は天の歌とシルキィのインスタントチャージ(るび:きあいだめ)が上手く機能していることで、一人のリタイアも出る気配が無い。どちらの班にも雪をかき分ける武闘派がいるわけだし。問題ない問題ない。 「暑くとも寒くともスポーツドリンクは役に立ちましょう……」 「こっちにもチョコとかあるぜ!」 シエルがスポーツドリンクを、涼が一口で食べれるチョコなどを取り出す。確かに、寒さを緩和するには温かいものや高カロリー食は重要である。が、シエルの言葉にも一理ある。何せ、重ね着をしている以上、どんな寒さに晒されても自然に抜けていく体液の量は多少なりあるわけで、水分補給に手抜かりがあれば雪中での脱水などもあり得るのだから。 「皆、ちゃんと居るかー? 前から番号ー!」 優希、後発班ではアウラールの定期的な点呼も功を奏し、一人の欠員も出さずに一同は前進する。ひたすら前進。その足取りに迷いは感じられず、目標達成へと順調に駒を進めていた。 「あれは……休憩できそうだな。あそこで少し休めないか?」 クラーラが見つけたのは、小さな公園の休憩所。目的地まではまだ少し距離があるものの、風を凌いで態勢を整えるには十分な場所だと思われた。そんなわけで、ビバー……じゃなかった、休憩地点を得た一行は彼女の持ってきたコーヒーで体温を戻し、再び歩き出すのだった。 後発組がシルキィの洋酒だったりするのは、まあご愛嬌ということで。 ●おまわりさんこっちです 「天気がいきなり晴れたから何事かと思ったんですけど、あの格好はたまげたなぁ……思わず110番しそうになりました」 ――自宅警備員(27)、ホワイトナイト回収現場付近で 「ここは俺に任せて先に行け!」 「ロープ、ロープが巻いてあるって! 先に行くのは不味いよ!?」 「これが『ふらぐ』でございましょうか……」 「いいから切って先にいけ! フラグは叩き潰す為にあるんだよ!」 両サイドから僅かに崩れかけた雪を見て、ランディがすかさず叫ぶ。が、遭難防止の為にロープでつないでいる以上、涼の言うように置いていくのは忍びない。あと、素朴に言わないでくださいシエルさん。怖い怖い。 「貴様の落伍で、班の全員が苦労することになるのが分かっているのか? 辛いのは貴様だけじゃない、全員辛いんだ」 「いや、俺は大丈夫だぞ!? 問題ないから進もう、うん」 弱った人間のことを考えてはいたが、よもや自分の意識が朦朧とするとは思っていなかった。優希、ギリセーフ。クラーラの言葉も伊達ではないらしい。厳しいけど。涙が出るほど。 「うぉぉ危ねぇ!?」 飛んできた工事看板を殴りつけ、吾郎は寒さの中で尚冷え込む背筋に戦慄すら覚えた。だって本当に来ると思わないじゃん看板。17mくらい普通じゃん、ありえないじゃん。 「大丈夫か? 怪我とかないよな?」 「ああ、問題ねえよ……しかしこええなあ」 「……あの温度反応はアレか、また遭難者か……」 「起きろーっ!」 べちこーん。後発組も、なんだかんだありつつ元気です。主にシルキィが。 「そう言えば、俺の書いた日本語とか読めた……かな?」 ふと、アウラールがそんなことを思い出す。まあ、ところどころひらがながひっくり返ってたり漢字の棒が足りなかったりしたかもしれないが、都市部の人間は曖昧な日本語表記にはたくましい。国際派バンザイである。 「うわ、ここも雪で埋まってるな……放っておくわけにもいかないし、掘ってくかー」 「この雪、ヘビースマッシュ食らわせたらどうなるんだろうな?」 ずがーん。 故郷で慣れきった牙緑とフィンランド出身のアウラール、ノリノリである。因みに、答えは「霧状になる」でした。 そんなこんなで。 一人の欠員を出すこともなく、全員無事に(?)『ホワイトナイト』の姿を拝むことと相成ったのである、が。 「わあ、綺麗……! 小さいしすごく可愛、って」 「……これでよし、と」 雪待草に感動し、目を輝かせていた文だったが、次の瞬間には天によってあっという間に布でぐるぐる巻きにされ、その姿を拝んだのはわずか数秒であった。ああ、嘆かわしきは任務の壁。 「……欠片や種子が飛び散らない様にする為であって、八つ当たりじゃないヨ?」 だそうだ。 「神様が世界をお創りになった時……雪は無色だった……」 ホワイトナイトに静かに歩み寄り、シエルは語る。雪に色を分け与えたのが「雪待草」であり、故にその花は雪の中でも咲くことができるのだ、という旨のドイツの民話を。所変われば品変わる、とでも言おうか――米国のそれとは様相が違うが、ロマンのある話である。 「言い伝えの如き白さ……綺麗です」 「じゃ、いっちょ掘り起こそうかね?」 「アークに持って帰ろう。研究班の人が喜びそうだし」 しかし、ロマンだけでは飯も食えないし生き残れない。吾郎のスコップが地面に深々と突き刺さると、ひとかきでそれは大地との接点を失い、同時に効力も失った。 荒れ狂う防風は次第に止み、鉛に例えられる酷寒の雲も、次第にその姿を消していく。任務は達成され……あとには、じわじわと上がる異常な暑さが残ったわけで。 「……夜もゼリーでいいや」 ぐったりと暑さを堪能するアウラールや、 「オシャレステテコだから問題ない!」 パンイチ(しかしステテコ)でちょっとツッコミたいような発言をする牙緑や、 「……んで、俺らはいつまで待ってれば良いんだっけか?」 物凄い勢いで溶けていく雪を眺めながら、体育座りでアークの援護を待つ吾郎やら。 斯くして、『ホワイトナイト』はアーク研究室に保管され、鉢植えが放りこまれたケース内で暴風雪を呼び起こしたとか、そんな結末。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|