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ネバーランドの切符

●異世界への誘い
 古びて擦り切れた一枚の紙切れ。
 掌におさまる程度の切符らしきそれには、かすれた文字でこう記されている。

『臨時停車駅、ナギノ埠頭
 発車時刻ハ星ノ夜、真夜中零時』

 隅には機関車のマークが描かれていた。
 これはおそらく、この街の外れにある名木野埠頭に汽車が訪れる、ということなのだろう。
 けれど、そんな場所に線路は無いし、星の夜だなんて曖昧な日付で書かれる発車時刻なんて普通ではない。それに、この切符は道端で拾ったものだ。きっとこれは誰かが遊びで作った物なのだろう。
 切符を拾ったのは一週間前。
 頭ではゴミなのだと判断していた少女だったが、何故だか今もそれを捨てられないでいた。
「今夜は星が綺麗に見えそう……」
 夕暮れに染まりゆく空を見上げ、少女はふとポケットの中にある切符に手を伸ばす。
 以前からとても気になっていたのは――切符の一番上に記された『ネバーランド往キ』という文字。
 それは、永遠の国。子どもが歳を取らず、妖精と共に過ごす理想の世界。
 もし、そんな場所に連れて行ってくれるモノが本当に来るのだとしたら。そう考えたら居ても経っても居られなくなり、少女は埠頭へと足を向けた。
 何もなくたっていい。ただ散歩に行ったと思えば良いのだから。そのときは軽く考えていた。

 しかし、やがて少女は信じられないものを見ることになる。
 漣の音が聞こえる夜の埠頭には、煙を上げる汽車が浮いていた。そこには自分と同じような少年少女が何名か訪れており、そこに乗ろうと歩みを進めている。
「すごい、本当に汽車が来てる……」
 少女が驚きながらも近付いていくと汽車の近くに立っていた少年が明るい笑みを向けてきた。
「やあ、いらっしゃいお嬢さん! もうすぐこの汽車の発車の時間だよ!」
 栗色の髪にそばかすが浮いた頬。
 無邪気そうな少年の傍には光り輝く妖精のようなものが飛び回っており、きらきらと目映く見えた。
「ほら、おいでよ。乗らないのかい?」
 車掌服めいた服を着ているが、此方に手を差し伸べた少年はまさにピーターパンみたいだった。
 本当にネバーランドに連れて行ってくれるのだろうか。もし、そうなら――。
「うん、行く……。行きたい!」
 気が付けば、少女は少年の手を取っていた。

●夢と理想の国
「立派な少年少女誘拐事件だよね」
 そんな未来が視えたのだと語り、『サウンドスケープ』斑鳩・タスク(nBNE000232)はきっぱりと告げた。
 既に察せる通り、不思議な汽車と一緒に居た少年と妖精達はアザーバイドだ。
 それも、この世界の子どもを攫ってどうにかしようとしている。つまり、此方から見れば悪の存在である。
「何処に連れて行こうとしているかは分からない。だけど、子ども達を誘拐されるのも困りものだからね。皆には連れて行かれそうな少年少女の保護をお願いしたいんだ」

 アザーバイドは子どもを選定するために『切符』をばら撒いた。
 これがその一枚だと見本をリベリスタに渡し、タスクは溜息を吐く。
 そこに書かれている文字に憧れを持ったり、興味を抱いた子どもだけを連れていく心算だったらしい。
 埠頭に集う子どもは全員で四人。少女が二人、少年が二人の構成だ。
 四人は皆が夢見がちで、この世界から逃避したいと思っている。それゆえに「汽車に乗るな」といって聞くような子達ではない。
「今から行けば、少年少女が汽車に乗る少し前に駆け付けられる。可哀そうだけど、子ども達を抱きかかえるか腕を引っ張るかで、無理矢理汽車から遠ざければ良い」
 そうすれば、ひとまずは乗車を阻止できる。
 だが、アザーバイド達とて黙っていないだろう。リベリスタが邪魔をすると分かれば、子ども達を奪い返そうと戦いを仕掛けて来る。
「正直言って、アザーバイドは強いよ。倒せれば恩の字だけれど、今回は子ども達を汽車に乗せずに、上手く連れ帰ることだけを重点に置いて欲しいんだ」
 幸いにも敵が少年少女を攻撃することはない。
 しかし、子どもを連れて逃げようとすれば、リベリスタの背を容赦なく狙ってくるはずだ。如何にして敵の気を引き、どうにかして子ども達を港から離脱させるかが成功の分け目になるだろう。
「つまりは撤退戦のような形になるかな。でも、安心して。港の一帯から抜け出せば、敵もそれ以上は深追いしてくることもないようだからさ」
 それでも難しい状況ではあるが、何としても企みは阻止したい。どうか頼むよ、と告げたタスクはリベリスタ達へと頭を下げた。
 そして、少年フォーチュナはぽつりと零す。
「歳を取らずに気儘に過ごせる永遠の世界。そんな所が本当にあれば僕だって行ってみたいんだけどね」
 だが、そんな理想の世界などあるはずがない。
 そうだろ、と問うた少年はリベリスタ達に真剣な眼差しを送り、その健闘を願った。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:犬塚ひなこ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年07月17日(水)22:36
●成功条件
 少年と少女達を汽車に乗車させず、連れ帰ること
 ※港から、子ども全員を離脱させることが成功ラインとなります

●戦場と位置関係
 時刻は真夜中前。辺りは街灯の小さな灯りのみ。
 現場は【海―汽車―埠頭―倉庫―港出入口】という並びになっています。
 出入口から倉庫までは100メートルほど。埠頭の長さは50メートルです。
 敵は港の出入口まで追いかけて来ますが、そこを越えるとそれ以上は追いかけてきません。

●子ども達
ユカ&タケル&ユウジ
 10歳~12歳の少女と少年達。既に埠頭に入っており、汽車とアザーバイドの手前近くに居ます。油断しているとすぐにアザーバイドの汽車に乗せられてしまいますが、その前に上手く対応すれば大丈夫です。その後も、皆様に対して暴れることはありません。

ミドリ
 14歳の少女。OPに登場している子です。
 他の三人よりやや遅く到着しており、倉庫と埠頭の間に居ます。他の子どもよりもネバーランドへの憧れが強く、駄々をこねて暴れる可能性があります。

●敵詳細
アザーバイド『ピーター』
 見た目は13歳程度の少年。
 明るく無邪気な風に装っていますが、子どもを浚おうとする悪の存在です。
 現時点では目的は分からず、戦闘の実力もかなりのものです。一人でブロックするだけでは到底止められる相手ではありません。ナイトクリークが使う技に似た力を持っており、飛行能力を有しています。

 戦闘では子どもの近くに居る人物を標的として狙う傾向にあり、隙あらば子どもを連れ去ろうとします。
 彼を倒せば大成功ですが、難易度がハード相当になります。戦闘と奪取の兼ね合いも難しく、失敗のリスクも増えるのでご注意ください。

配下妖精×5
 きらきら光る妖精。大きさなどはフィアキィにも似ていますが、まったく別の存在です。
 体力は低め。反面、麻痺や毒などを有する攻撃を多数持っているようです。
 宙に浮いていますが、攻撃が届かなくなるような高さまで飛行することはありません。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
マグメイガス
綿雪・スピカ(BNE001104)
プロアデプト
鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)
クロスイージス
浅雛・淑子(BNE004204)
ホーリーメイガス
雛宮 ひより(BNE004270)
ミステラン
シィン・アーパーウィル(BNE004479)
スターサジタリー
風音 空太(BNE004574)


 真夜中の埠頭に停車する、ネバーランド往きの機関車。
 それはまるで小説や物語の一節のような光景だ。もし、これが本当に素敵な物語の一片だったのならば、心躍る出会いや厳しくも楽しい冒険譚が待ち受けていたかもしれない。
 だが――この先に続くのはそんなものではない。
「いいわね、メルヘンと夢に溢れた御伽噺の世界。でも……!」
 それをダシにして、人攫いをするなんて感心できない。
 『運び屋わたこ』綿雪・スピカ(BNE001104)は前を見据え、己の思いを胸に抱いた。視線の先、やや離れた埠頭には機関車に誘われるようにして、ふらふらと歩く子ども達の姿がある。
 スピカ達が全力でそちらに向かう一方、『Wiegenlied』雛宮 ひより(BNE004270)は埠頭より手前に位置する少女――ミドリの傍へと翔けた。
「こんばんはおじょうさん。あなたもピーターパンに会いにきたの?」
「え……?」
 突然、目の前に現れたひよりの姿に、ミドリが目を丸くする。彼女が驚いている事にも構わず、ひよりは「妖精の粉ならわたしも使えるの」とその手を取った。
 二人の姿を小さく見遣り、『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)は先を急ぐ。
(お父様、お母様。どうかわたし達と――子ども達を護って)
 いつもの祈りにもうひとつの願いを付け加えた淑子は、仲間と共に機関車の前に向かった。
 ピーターパンに銀河鉄道。どれも素敵なものだけれど、行き先が碌な場所ではない事くらいの想像はついてしまう。おや、と訝しげな様子を見せるアザーバイドを睨み付け、『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)は両手の銃を構えた。
「……」
「何だか物騒だね、君達」
 無言のあばたの視線を受け、ピーターは「危ないからこっちへ」と子ども達を引き寄せようとする。だが、その行動は『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)によって遮られた。
「お兄ちゃん、何するの?」
「僕達、妖精さんと汽車に乗るんだよ。邪魔しないでよー」
 子ども達が口々に文句を言うが、フツは首を振る。その手をしかと取った彼は『魔砲少年』風音 空太(BNE004574)と『ピンクの変獣』シィン・アーパーウィル(BNE004479)に子ども達を託した。
「とりあえず頼んだぜ」
 フツがそう願えば、空太はしっかりと頷く。本当ならば、子ども達がふらりと走って行ってしまわぬように空太達もすぐにでも手を握るか抱えるかしなければいけなかったのだが――。敢えて幻視を使っていなかった彼等の姿に、子ども達は釘付けになっていた。
 少年の背に生えた翼に、シィンがさらしている長い耳。それはまさにファンタジーそのもの。
「わぁ……!」
「今、“不思議だな”って思いましたね?」
 能力によって相手の思考を読んだシィンが小さく笑むと、子どもは驚いて目を瞬かせる。それによって興味が此方に向いたと確信したシィンは、子ども二人の手を握ってやった。
「知らない人について行っちゃダメって教わりませんでしたか? あの人は、悪い人です」
 空太も残り一人の手を握り、アザーバイド・ピーターを示す。自分達も知らない人だけど、という不都合なことは思うだけに止め、空太達はじりじりと後退していく。
「へぇ、僕の邪魔をするんだ?」
 ピーターは笑顔のままリベリスタ達を見遣り、妖精に何やら指示を飛ばした。
 だが、妖精達の視線は『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)に注がれる事になる。
「ねえ、ピーター。わたしをみて、わたしだけをみて」
 魔力を孕んだ言葉は、注目を集めるには最適なものだった。その力によって敵の注意が舞姫だけに向けられた。その隙に子どもを保護した者達が踵を返し、埠頭から走り去ろうとする。
 これから始まるのは、御伽めいた敵との逃走劇。
 空には小さな星が見え、海からは漣の音が聞こえる。果たして、自分達は子ども達を無事に救うことが出来るだろうか。リベリスタ達は気を強く持ち、それぞれの思いを抱いた。


「逃がしはしないよ!」
「いいえ。ここまでよ、悪い妖精さん!」
 ピーターと妖精達が追い縋ろうと宙を舞った瞬間、翼を大きく広げたスピカが雷撃を紡いだ。空を裂くかのように広がった雷は暗闇に一瞬の光を宿し、妖精達を鋭く貫く。
 しかし、相手はそのダメージを苦にもしていない。全力で駆けるシィンや空太を追うように指示された妖精が舞い、保護する者を屠らんと動きはじめた。同様にピーターもスピカ達を無視して追おうとしていることに気付き、あばたは気糸を展開させる。
「させませんよ」
 淡々と紡がれる声と同時に、張り巡らされた罠がアザーバイドに絡み付く。
 ここで上手く麻痺を与えられれば良かったのだが、機会は巡らなかった。それでも、未だ次があると踏んだあばたは、更なる攻撃に向けて集中する。
 そして、この先は抜かせないとばかりに淑子とフツがピーターへと肉薄した。
 防御を固めた淑子が身構える中、フツとアザーバイドの視線が間近で交差する。ふん、と不機嫌そうに鼻を鳴らしたピーターは、見た目だけならば少年と変わらない。だが、相対したことで自ずと彼の強さを知ったフツは、決して油断してはいけない相手なのだと感じた。
「今のうちに逃げろ。コイツ、三人以上でも抑えきれないかもしれないぜ!」
 フツが呼び掛け、淑子も頷きで同意を見せる。大戦斧を構えた娘は、無理矢理にでも抜けようと動くピーターへと言葉を投げかけた。
「強行してまで連れて行くなんて、まるで悪役ね」
「悪はどっちだろうね。君達のしてることも、そんなに変わらないんじゃないかい?」
 そう問い返す少年は悪戯っぽく笑う。だが、リベリスタ達は彼が正義ではない事だけは知っていた。
「ねえ、知っているかしら。悪役は、最後にはその報いを受けるものなのよ」
「あはは! じゃあ、試してみようか!」
 からからと笑ったピーターはフツ達へと斬り込み、辺りに血を散らせる。痛みが襲い来る中でも、淑子は視線を強く差し向けた。
 その頃、埠頭前の倉庫。ミドリは暫しひよりを見つめて驚いていたが、はっとして顔を上げる。
「いけない、もうすぐ出発の時間なの」
 二人が居る場所からは、埠頭の様子は見えない。幸か不幸か、ミドリは埠頭での逃走劇が始まっていることに気付いていなかった。ひよりの方は気配で動きを感じていたが、先ずはミドリの気持ちを収めることが大事だと思い、言葉をかける。
「だいじょうぶ、まだ汽車は出ないよ。どうしてネバーランドに行きたいの?」
「それは……大人って、汚いから。だから、大人になんてなりたくないの」
 ぽつりと話したミドリの言葉には悲痛さが滲んでいた。きっと、何かがあったのだろう。そう感じたひよりは優しい声で語りかける。
「この世界は嫌い? でもね、憧れを逃げ込む先にしたら、さみしくなるの」
「さみしい、の?」
 ミドリがきょとんとして、ひよりの顔を見つめる。
「老いることのない躰、朽ちない意識。それはほんとうにしあわせかなあ」
 ひよりがそう言った、次の瞬間――。無数の翅が羽ばたくような音が辺りに響いてきた。
「危ないですよ、逃げて下さい!」
 刹那、聞こえたのは舞姫の声。そして、彼女に纏わり付く妖精達の羽音。言葉に従って伏せたひよりはミドリを庇いながら、強くその手を引いた。其処へ更に、別の子ども達を連れたシィン達が掛けて来る。
「わ、わっ! まだこんな所に居ましたか。来ますよ、あの人達が追ってきますよー!」
 シィンが驚いてミドリ達を見遣り、急いで、と促す。
 すぐ背後にはスピカやあばた、それにピーターの姿まであった。つまり、埠頭組は混戦状態で逃走劇を続けていたのだ。その原因は、ごく普通の子ども達を自分の足で走らせたこと。
 それに気付いたフツは、仲間達に呼び掛ける。
「すぐに追い付かれるから、無理矢理にでも抱えて走ってくれ!」
「はい、分かりました!」
 空太が答え、天使の翼を広げた。ひよりもミドリを抱きよせ、低空飛行で連れようと羽ばたく。翼の加護が用意できていない現状、シィンは駆け抜ける他ない。しかし、気合いを見せたシィンは両腕にひとりずつ子どもを抱えて全力で走った。
 その合間にスピカが妖精を何匹か撃ち落とし、舞姫も敵を引き付け続けようと動く。
「ピーター、わたしをネバーランドにつれていって。わたしだけを!」
 アザーバイドも自分に注視させようとする舞姫が言葉をかければ、ピーターはくすりと笑った。
「ふぅん、君を連れていくのも悪くは無いね。じゃあ、おいでよ!」
 手を伸ばしたピーターは気糸のような魔力を紡ぎ、舞姫を縛りつけようと狙いを定める。おそらく、舞姫に至っては無理矢理に捕獲するべきだと感じたのだろう。
 鋭い痛みを感じながらも、少女は逃走する仲間達を横目で見遣った。
 港の出入口までは、あと少し。そこまで辿り着ければ自分達の勝ちなのだと信じ、仲間達は力を尽くそうと決めた。


 ピーターが舞姫を相手取りはじめた最中、仲間達は出口を目指す。
 追いつ追われつの状況は変わらないままだが、狙いが子ども達ではなくなっていることは実に好都合だった。だが、残ってる妖精によって仲間達の行動が阻害されていく。淑子は攻撃の手を止め、邪気を寄せぬ神光を解き放った。
「きゃ、大丈夫?」
 その際、近くに居たミドリが不安げに問う。平気だと笑みを返した淑子は、ひよりと一緒に早く逃げて欲しいという旨を確り告げた。
 既に彼女を含む子ども達は、ピーターと妖精が恐ろしいものだと云うことを肌で感じている。
 これならば大丈夫。あとは自分達がやり遂げるだけだと己を律し、ひよりもミドリの身体を支えて宙を翔け抜けた。
 その姿を気にしつつ、迫って来る敵への警戒も緩めないまま、淑子はふと思う。
(どうしてあんなにネバーランドへ行きたがったのかしら。……今は詳しく聞けない、けれど)
 見たことも無い夢の国は、今の生活よりもそんなに魅力的なのだろうか。問えないままではあったが、今はただ子ども達が無事であれば良い。
 あばたは合間を擦り抜けていった妖精を見据え、銃口を向ける。
「背中を見せるということは、殺してほしいと言う事と解釈しましたがよろしいか」
 相手が配下とて、抜けられれば厄介なことになると知っていた。あばたが狙い定めた一撃は妖精を見事に撃ち落とす。これで残る妖精は一体となった。
「しつこい蚊ね……。落ちちゃうといいの」
 スピカは配下を倒して方が得策だと感じ、雷撃を迸らせる。烈しく辺りを照らした雷陣は弱っていた妖精を地に落とし、ひといきに片を付けた。
 走って、奔って、疾る。
 息が切れそうになり、自分の鼓動が早鐘をうち始めたのも構わずに、空太は翔けた。
「うう、怖いよぅ……」
「心配しないで。みんなは僕が守ってみせます」
 自分と同じ年頃の少女に優しく語り掛け、空太は笑顔を見せる。既に目の前には港の出入口があった。掴まっていてください、と告げた少年は翼を大きくはばたかせ、ゴールとなるラインを一気に越えた。
 後方で、それを確認したピーターが舌打ちをする。
 フツはただならぬ気配を感じ取り、アザーバイドを更にブロックし続けようと決めた。舞姫諸共、邪魔なリベリスタを屠ろうとするピーター。その表情にはわずかな怒りが滲んでいた。
「君達さえ居なければ面倒なことにならなかったのにね」
 低空飛行からの斬撃がフツ達を切り裂き、鋭い痛みを与える。フツは運命を振り絞り、舞姫も倒れそうになった己の身体を自ら支えて何とか耐えた。
「……なかなか、ですね」
 これだけ戦っていても、ピーターはまだ余裕を残しているように思えた。本当ならば彼を倒せれば良いのだが、子どもの保護を最優先するならば欲を出してはいけない。
 ――全員でかかれば、或いは。
 あばたの脳裡にそんなことが過ぎるが、最早その選択は取れなかった。スピカも同じことを思ったようだったが、子ども達を港の外に放置するなどという行動は危険すぎる。
 気を取り直したリベリスタ達は、残るシィンとひよりが子ども達を連れて外に出るまでの時間を稼ぐべく、ピーターの前に立ち塞がった。
 その合間にシィンは駆け、怯える少年少女に語りかける。
「帰りましょう。知らないことや不思議なものは、わざわざ遠くに行かなくても、探せば近くで見つかるものなのです。だから、ね?」
 それを見つけることがいい事なのかは別だけれど、知らない世界に連れ去られてしまうよりは良い。
 うん、と頷いた子ども達はシィンの身体にしっかりと掴まっている。自分達もあと数歩で港の外に出られるだろう。シィンは気を抜かない事を念頭に走り、アザーバイドの追撃を切り抜けた。
「わたしたちも行きましょう?」
 ひよりが笑みを向け、ミドリのために飛行速度を速める。
 不思議な夜に終わりを齎すため。そして、元の世界を改めて知るためにも――。先ずは悪い少年から逃げて、それから色々なお話をしよう。
「……うん」
 柔らかなひよりの声を聴き、ミドリは何かの決意を固めた。彼女の抱える思いが癒されるかはまた別の話。けれど、それでも力になりたいと思ったひよりの心は、確かに通じた。
 そして、飛翔する少女達は港の外へと飛び出し――リベリスタ達は、目的を果たした。


 空太とシィン、ひより。そして、子ども達。
 先んじて脱出した仲間達は既に、アザーバイドが追い掛けることは不可能なまでに遠ざかっていた。
「私達も撤退しましょう。悔しいですが、今は勝てません」
 まだ戦いたい気持ちもあったが、舞姫は冷静に判断を下す。しかし、その声を聞いたピーターが黙っているはずはない。
「ああいっておいて逃げるんだ? 待ちなよ、こうなったら君だけでも……!」
 アザーバイドが舞姫に迫り、手を伸ばす。だが、即座に動いたスピカと淑子がそうはさせない。
「ねぇ、貴方、何が目的なのかしら? 夢見る子供達をダシにして……」
「どんな目的でも、あなたの思い通りになんてさせないわ」
 スピカが紡いだ魔曲の光と、淑子が振り下ろした刃がピーターの身を貫いた。一瞬だけ相手が怯んだ隙を突き、フツが夜の暗闇へと身を翻す。
「行こう、今が好機だ!」
 それを合図にして仲間達は散会し、それぞれが戦場から離脱しようと動きはじめた。
 舞姫とスピカは傷付いた身体を互いに支え合い、淑子も仲間が逃走する後に続いて港の外を目指す。そんな中、あばたは最後の一撃をピーターに放つ。
「いつか、また会うことがあるなら……そのときは容赦しません」
 放った気糸がアザーバイドの身を縛り、麻痺の力を宿した。すぐに糸を振り払って追い掛けようとするピーターだったが、その時には既にリベリスタ達は遥か彼方へと逃げ去ったあとだった。
 地に落ちていた妖精達の亡骸を拾い上げ、少年は溜息を零す。
「あーあ、逃がしちゃったか。でも、これから面白くなりそうな気がするな。あははっ」
 誰にも聞かれることなく、落とされた呟きは何処か楽しげで――とても不気味な雰囲気を孕んでいた。

 そして、時刻は真夜中を巡る。
「さあ、家族の人も心配しますし、家に帰りましょう? ね?」
 落ちついた場所で子ども達を宥め、空太はにっこりと笑んだ。合流した淑子の力によって、子ども達の記憶は書きかえられている。今日の事も夢だったのだと信じてくれるはずだ。
 不思議な出来事というのは、意外と日常の中に溢れているもの。だから、自分から飛び込まなくても大丈夫なのだと告げ、空太は子ども達を見送った。
「家も近いようだし、大丈夫ですよね」
 シィンもひらひらと手を振って、それぞれに家に戻って行く子ども達の背を見つめる。
 アザーバイドの目的は分からず、倒すことも出来なかった。だが、任務は無事に果たすことができている。それは誇って良いことなのだと感じ、リベリスタ達は互いに頷きを交わしあった。
「また……ううん、さよなら」
 夢うつつで帰路に付く少女に手を振り、ひよりは別れの言葉を告げる。
 たくさん話したいことがあったが、今夜のことを夢だと思って貰うためにはこれ以上の言葉は交わしてはいけない。記憶は曖昧になっても、どうかこの世界から逃げないで欲しい。
 少女が歩む未来が、明るいものであるように。そう祈る仲間達は、事件が穏便に収まった事を実感した。
 そのとき、去りゆく少女の手から不意に何かが落ち、夜風にふわりと舞う。
 ――『ネバーランド往キ』。
 そう記された切符は夜空に舞い、何処かへ飛ばされてゆく。あの切符が使われるようなことが二度と起こらぬように。右から二番目の星を見上げ、仲間達は静かに願った。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
皆様の活躍により、ネバーランド往きの切符は使われず、子ども達の誘拐事件も未然に防ぐことができました。これにより、任務は成功です。
主格のアザーバイドは倒すまでには至りませんでしたが、元より撃破が目的ではないのでご心配なく。
しかし、いつかまた何処かで彼と相見えることもあるかもしれません。

子ども達への思いや対応も優しいものばかりでした。お気持ちと想いに感謝を。
ご参加、ありがとうございました。