●廃教会の中、花嫁衣裳を着た女性が一人 エリューションは黒いガトリング砲を向ける。それが開戦の合図となった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月26日(水)23:08 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 教会の中は音もなく静謐。打ち壊された椅子が侵入を拒むように崩れ落ちていた。 その中で静かに立つ花嫁。純白のドレスの手には黒い銃身。運命に見放されたその存在は何かを待つように動かずに立っていた、 「廃教会の中に、嫁衣裳を着た女性が一人。色々と想像力掻き立ててくれますね」 弓を構えて那由他・エカテリーナ(本名『残念な』山田・珍粘(BNE002078))は教会の中に入ってくる。このエリューションがどのような経緯をもつかまでは分からなかったが、大事なのは彼女が戦いを望んでいるということ。そして那由他もそれを望んでいた。 「最愛の方と二人微笑む、そんな未来もあったのでしょうか」 二丁の銃を構え、『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)が花嫁を見た。花嫁の隣には誰もいない。そこにいかなる物語があったのか知る由もない。あるのはいまここで終止符を討たねばならない事実のみ。 「やっぱり無理みたいね」 『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)は言いながら教会の扉を開けて中に入ってくる。教会の外から熱感知で相手の場所を捕捉しようとしたが、壁を通してでは感度が低く諦めた。『なんとなく場所が分かる』程度では相手を狙うには難しすぎる。 「…………」 レディ ヘル(BNE004562)が言葉なく翼を広げる。レディは自分に課せられた使命を思い出す。その為には力が要る。失った英知と肉体を取り戻すために、そして崩界を止めるために、目の前のノーフェイスを倒す。 「花嫁のエリューションとはいわゆる『ジューン・ブライド』というものでしょうか」 梶原 セレナ(BNE004215)は真っ白なドレスを見ながら弓を構える。おそらくこのドレスを着ているときに何かあってエリューションかしたのだろう。廃墟となった教会も、その時起きた惨劇の結果だろうか。 「ジューンブライドかー。縁ないねーそーいうの」 『道化師』斎藤・和人(BNE004070)はタバコの火を消してゆるく応じた。結婚願望はないが、女性と楽しく踊るのは好きな和人。その和人から見てもエリューションは美人の部類に入っていた。 「花嫁とか! エリューションのくせに花嫁とか!」 逆に『魔性の腐女子』セレア・アレイン(BNE003170)は憤怒の表情でエリューションを見ていた。黙って立っていればスタイル抜群で可愛いセレアなのだが、性格が色々あって異性の付き合い花嫁とかに遠い場所にあった。花嫁を指差し地団駄踏む姿を見れば、お察しいただけるだろうか。 「花嫁か。いい女を置いて花婿はどこに行ったのかね」 恋人からもらった銀のスプーンを懐にいれ、『墓掘』ランディ・益母(BNE001403)が幻想纏いから一振りの斧を取り出す。近接攻撃を得意とするデュランダルと花嫁の相性はよくないように見えるが、それを意に介さぬようにランディは笑みを浮かべた。 花嫁は教会の扉を抜けたリベリスタに虚ろな瞳をむける。落胆と、そして羽虫を見るような冷たい視線。 エリューションは黒いガトリング砲を向ける。それが開戦の合図となった。 ● 「仕掛ける、崩れたら一気に叩き込めよ!」 ランディの大戦斧『グレイヴディガー・ツヴァイ』が横薙ぎに払われる。風を纏った暴力的な一閃が花嫁とその足元に転がる椅子の残骸を吹き飛ばした。ランディはその手ごたえから威力が減じられているのを感じる。 「やはりこうなるか。ならこいつはどうだ!」 暴風は止まらない。回転の勢いを殺すことなくランディは斧を振り回す。斧の重量に振り回されることなく、それでいて慣性を殺さないパワーとテクニック。豪快に見えてその二つをかなえ備えた戦い方。それにより生まれた風刃が花嫁の肩を裂き、鮮血に染める。 「それにしてもアレですね。ドレスにガトリング砲とか、そのギャップとても素敵です」 那由他(本名、珍粘)は花嫁の武器とドレスのギャップに感動していた。白と黒、平和と暴力。その二律背反に。弓を構えたまま花嫁に近づく那由他(本名、珍粘)。虚ろな瞳で花嫁を見つめ、笑みを浮かべる。 「ふふ、弓を持ってますけど。接近戦も出来るんですよ、私」 自らの漆黒を解放した那由他(本名、珍粘)は握った手のひらを開く。幾何学的な図形が花嫁の腹部に張り付き、一つずつ折りたたまれて黒い箱になる。箱は花嫁の持つ加護を通り抜け、立方体の面の数だけ苦しみと痛みを与える。 「……あまり、幸せな話ではないでしょうね」 セレナは花嫁の身に起きたことを想像し、悲しい顔をする。討ち捨てられた教会に一人、銃を持ち待つ花嫁。そもそもノーフェイスとなること自体が幸せな話ではない。運命を失った革醒者か。あるいは知識なく革醒した元一般人か。 「彼女が何を望むかは判りませんが、討たねばなりません」 それはリベリスタとしての使命。世界を守るために必要なこと。そのためにセレナは仲間に指示を出す。仲間の攻撃が効率よく行えるように指示を出し、そして効率的に身を守れるように陣を敷く。戦場を指揮者のように奏で、チーム一丸となって攻める。これがレイザータクトの戦い方。 「さすがにこっちの技は使いにくいわね」 彩歌は教会内を移動しながらため息をつく。最大威力のある技は相手を貫通してしまうが故に味方を巻き込みかねない。威力は落ちるが事前の技を使うことにした。手に装着した『論理演算機甲χ式「オルガノン Ver2.0」』を展開し、自分自身の神経と破界器をリンクする。 「オルガノン起動。『Mode-S』」 破界器を単体狙撃モードに変更し、花嫁を狙う。気糸が細く鋭く圧縮される。彩歌の神経と接続してるせいもあり、意識するだけで狙いが鋭くなる。視線でエリューションを捕らえ、意識のトリガーで糸を射出する。鋭い一撃がノーフェイスを穿つ。 (私ならどう狙い、どう動く?) リリは同じ射手として花嫁の思考を読み取ろうとしていた。思考パターンは様々。チェスのように様々な動きがあり、その中から『自分なら』こう動くだろう攻め方を選択する。そしてそれを妨げるようにリリは足を運んだ。 「さあ、『お祈り』を始めましょう」 右手に祈りを、左手に審判を、世界に秩序を。弾丸の嵐の中であっても信仰が薄らぐことはない。この身は神に捧げた魔弾なのだ。そしてその道を自分で決めたのだ。たとえ心に恐れがあっても、自分の意志で進むと決めた道を止めるつもりはない。リリは祈りをこめた弾丸をノーフェイスに放つ。光の軌跡を描き、弾丸はエリューションに吸い込まれる。 「花嫁衣裳にガトリング砲ってギャップがいい感じ」 教会に合わせてシックな服で決めてきた和人が花嫁に迫る。まるで紳士がダンスに誘うように手を伸ばし、花嫁に手を伸ばす。自然向けられた銃口を押さえるように和人が自分の銃を構えた。 「んじゃ、踊ろうぜ?」 和人は花嫁から距離を離すことなく銃撃を開始する。ガトリンク砲から放たれる弾丸を巨大な盾と装甲で弾きながら、ノーフェイスに向かって弾丸を放つ。盾一枚隔てて密着する和人と花嫁。最も応酬されるのは愛の言葉ではなく黒鉄の殺意だが。 「これは、結婚相手どころか付き合ってる男性すら居ない、あたしへの宣戦布告ね。むしろアークに居る一万人のアラサーリベリスタや、全国百万人のアラサー腐女子への挑戦と見たわ」 セレアは黒い弓を構え、自らに気合を入れる。うかつに否定すると色々敵に回しそうなのでどくどくはなにもいいません。それはともかく気合と共に矢の先に黒の魔力が宿る。種類の違う四種の魔力を束ね、黒の鏃を生み出す。 「よろしい、ならば戦争だ。あたしの全力全霊をかけて撃滅し、殲滅し、抹消してあげる!」 全身全霊を乗せた一射が白いドレスに吸い込まれるように突き刺さる。魔力が花嫁の体を侵食し、四種の呪いが花嫁をよろめかせる。セレアは抜群なスタイルを示す胸を張りながら、苦しむ花嫁を見下すように笑う。 「…………」 レディは言葉なく教会を飛び回りながら、花嫁の思考を探る。虚ろな瞳がレディを捕らえる。相手に気づかれぬように心を読む術をレディは持っていない。流れる思考はどうやって相手を倒すかという興奮した戦意と、ナイフのように冷徹な殺意。 レディは相手の視線から逃れるように羽根を広げて飛び回る。だがエリューションが首をひねるだけでレディは視界内に捉えられてしまう。自分に向けられている明確な殺意。思考をつなげたままであるが故にダイレクトに理解してしまう。自分のみすぼらしい状態が妬ましくあった。 そのか細い腕からは想像もできないほど軽々と花嫁はガトリンクガンを操る。その砲身から放たれる様々な弾丸。それがリベリスタを少しずつ苦しめる。 教会の射撃戦は少しずつ熱を帯びてくる。 ● 花嫁の銃口は心を読み続けるレディに向けられていた。自らの血を塗りこんだ弾丸で呪いをかけて、弱ったところを一気に殲滅する。レディはその作戦を心を読んで理解する。 「……くっ!」 ランディはレディから思考を受け取り庇おうとするが、レディはその意図を察する前に翼を広げて教会内を低空飛行で移動する。作戦の齟齬が生んだ隙を逃さず花嫁の弾幕がリベリスタたちを穿つ。 「…………」 レディは弾丸に身を貫かれ、地に落ちる。運命を燃やして立ち上がり、再度漆黒の翼を広げた。自分の傷を癒し、無言で相手を見る。神に祝福されなかった花嫁。言葉なくそれを見るレディの感情は、その仮面の奥の表情のように誰にもわからない。 「この身は救済の為遣わされし神の魔弾」 リリは聖別された二丁拳銃を手に花嫁と打ち合う。『祈り』と『裁き』が与えるのは神の鉄槌。最大限の火力と呪いはこの花嫁を可能な限り苦しめずに滅ぼせるようにという配慮。ガトリンク砲の弾幕を回転しながら避ける。避け切れなかった弾丸に顔をしかめながら、着地と同時に二つのトリガーを引く。 (射手同士の撃ち合いは、正直な所――心が躍ります) 間合、銃の性能、そして思考。全ての要素が絡み合い、コンマ一秒ごとにめまぐるしく変わる状況。わずかな思考停止と判断ミスが大怪我を生む。文字通り、運命が味方すればよき友として箱舟で肩を並べたかもしれない。 ――だが、そうはならなかった。運命とは常に非情なのだ。 「花嫁が運命にだけは祝福されなかったというなら、とても皮肉な話ね……」 彩歌が同情を含んだセリフを吐きながら、生糸を放つ。その射出にあわせるようにノーフェイスのガトリングガンから弾丸が放たれる。愛の篭った非殺の弾丸。カウンターショットは双方痛手を負い、しかし彩歌は痛みの顔をしかめて笑みを浮かべる。 「ここまで心のこもった弾丸を貰ったのだから、お返しをしないとね」 魅了の呪いは彩歌には通じない。もっとも弾丸自体の衝撃までは緩和できなかったのだが。彩歌は教会を回りながら貫通攻撃で前衛を巻き込まない場所を探る。だがめまぐるしく立ち位置が変わる状況では簡単にはいかないか、と諦めた。 「うわごめんねー。もう少し躍らせて」 彩歌の意図を察して花嫁に常に接敵している和人が謝罪の声を上げる。気にしなくてもいいわとばかりに手をひらひらする彩歌を見ながら、和人は銃と盾を使って花嫁をエスコートする。送り先は花婿の下ではなく、戦場だが。 「しかし花嫁さんとこうして踊れるなんて、イケない事してるみたいで良いねぇ」 相手には悪いけどね、とウィンクする和人。盾でガトリンクの弾丸を弾く。全てを弾ききれてなかったのか、何発かが体を掠めていき……。 「仕方ないよねー花嫁衣裳だしねー」 「「魅了されたー!」」 「しょうがありませんわね」 セレアの癒しにより魅了の呪いが取り除かれる。和人はへらっと笑いながら花嫁に向き直った。実際のところ、和人以外が魅了されたときは和人が癒しているので、今のは珍しいケースなのだが。 「結構避けてくれますわね」 セレアは必要最低限の動きで回避をする花嫁の動きに苛立ちを覚えていた。真芯を捉えれば様々な付随効果を発する魔力弾も、かすり傷では十分に効果を発しない。已む無く狙いを定めるために一手番使うことになる。 相手が射撃戦に特化する以上、射撃という土俵で戦うことは不利である。だがセレア自身は近接戦闘が得意ではない。距離を開けて自らの魔力を誇示しながら戦うのがセレア・アレインの戦い方だ。 「真正面から撃ち合ってあげますわ!」 「……多少私怨が混じってますねー」 そんなセレアをセレナが冷静に分析し、的確なコメントを入れる。どういう形であれ、攻勢的になるのはいいことだ、とそれ以上の言を止めた。セレナは魔力を胸部に集め、深く息を吸い込む。 「あなたが何を望むか知りませんが、討たなくてはいけません」 魔力を込めた歌がセレナの口から紡がれる。魔力の声と呪文に似た一定の韻律。それがリベリスタの心を癒し、同時に肉体を癒していく。廃墟となった教会に響く天使の歌。 「ありがとよ!」 ランディが癒えた傷を確認すると、花嫁に斧を振るう。生まれた風の刃がドレスを鮮血に染めた。苦悶の表情すら浮かべないノーフェイス。その涙は枯れ果ててしまったのか、虚ろに何も写さない。ただ邪魔者を認識し、排除する。 「魂の篭ったのがくるぜ!」 花嫁が回転するようにガトリングの弾丸をばら撒く。教会内に降り注ぐ黒鉄のシャワー。ランディはそれを廃材を足場としてジャンプして避け、打ち下ろす様に斧を振るって衝撃波を叩きつける。 「さすがにきついですねー」 那由他(本名、珍粘)は攻撃のためにエネルギー回復を行っていた。飛ばしていたこともあり、疲労は激しい。数回分のエネルギーを補充すると、再び黒の箱を作ってノーフェイスに苦しみを与えていく。 「その服装は幸せの象徴なんですから。銃なんか手にしないで、ゆっくり眠って下さい、ね?」 それは那由他(本名、珍粘)の切なる願い。幸せの絶頂にあっただろうこの花嫁が、何ゆえ銃を持ち闘争に身を捧げるのか。その理由はわからないけど、このままでは不幸になることは想像に難くない。 魂、血液、心、そして愛。あらゆる弾丸を放ちリベリスタを追い込むノーフェイス。 リベリスタは疲弊しながら、しかし膝を屈しない。 教会の銃撃戦は、少しずつ終幕に近づいていく。 ● 「よくもやりましたわね!」 セレアが花嫁の弾丸を受けて膝を突く。運命を燃やして自分を撃ったノーフェイスを睨み、魔力を練った。独自の呪文短縮法により、高速で魔力を回転させて打ち放つ。 「誰かが復活する度に自分の傷が治るって言うのは、死んでほしくないって言う願望なのかな?」 和人が花嫁に弾丸を放ちながら問いかける。希望的推測だが、そうであったらいい。どうあれ逃がすという選択肢だけはない。和人自身も花嫁の弾丸で傷だらけだが、それでもそう信じたかった。 「だったら撃つなって話だがな!」 ランディはセレアの魔力弾でバランスを崩した瞬間を逃すことなく、巨大なエネルギー弾を叩きつける。油断すれば魅了されて味方同士で打ち合うのだ。正直、ぞっとしない。一瞬にっこり微笑む修道女を幻視する。 「花嫁にハートを射抜かれた、なんて知れたら後が怖いんでな……」 「何の心配をしているんですか」 リリが呆れたように突っ込んだ。だがそれも一瞬。ノーフェイスに向かい弾丸を放つ。運命を持たぬものとはいえあの花嫁は元人間。引き金を引くことは殺人と同義。人道にそむくと自覚しながら、世界のためにリリは罪を背負う。 「まだです……!」 セレナが血の混じった弾丸を受けて力尽きる。教会の壁に手をついて運命を燃やす。何とか意識を保って自らについた血を拭い去った。癒しの歌を奏で、痛みを払拭する。 「…………」 レディが花嫁の弾丸を受けて意識を手放す。思えばレディは心を読まれたことで優先的に狙われていた。漆黒の羽根が手折れ、教会の床に転がった。 「逃げるつもりはないみたいね」 彩歌はノーフェイスが逃亡するかもしれないと懸念していたが、その様子はまるでない。ずっとここで待っているのだ。誰かを。その人はもう来ないかもしれない。この世にいないかもしれない。それでも待っているのだ。気糸を放ちながら花嫁の目を見た。それは見るべき先をなくした虚ろな瞳。 「ふふふ、楽しかったですわ」 那由他(本名、珍粘)は花嫁の攻撃で運命を燃やしながらも、楽しげに笑みを浮かべていた。思えば自分と花嫁は戦闘スタイルが似たようなタイプだったといえよう。那由他(本名、珍粘)の手から生まれた黒い箱が白いドレスに埋め込まれる。 「六月の花嫁に安息を」 祈るような言葉が紡がれる。 絶命の悲鳴も生への執着もなく。ただ何かを求めるように手を伸ばしノーフェイスは力尽きた。 廃教会の中、ただ待っていた花嫁。そこに如何なるドラマがあったか知る由はない。 純白のドレスは血に染まり、黒銃はその手を離れて教会の床に転がった。花嫁と生死を共にするように、その銃身が折れる。 自らの血と心と魂と愛を削って撃つ銃声は、もう撃たれることはない。 「In Paradisum deducant te Angeli(天使があなたを楽園へと導きますように)」 六月の花嫁のためにリリが祈る。 「――Amen.(本当にそうでありますように)」 それがこの戦いの終わりの音となった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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