● 「ずっと、ずっと一緒に居たいなんて」 なんて、残酷な事を言うのだろう。 人は、脆い。 人は、直ぐに死んでしまう。 人は、私と一緒に居ることは出来ない。 ワタシハ、バケモノダカラ。 人と、同じ時間を生きる事が出来ないから。 私が愛した人、愛してくれた人はいつも私を置いて先立ってしまう。 いつも、いつだって、それは変わらない。 解っているのだ、解っているはずなのだ。 なのに、どうして――。 ● 「どうして解っていても、繰り返しちゃうのかな。きっと、解っていても納得したくないからなのかな」 初めましての挨拶は手短に。 ブリーフィングルームに集まったリベリスタたちの前に立つ、新人フォーチュナの鈴ヶ森・優衣 (nBNE000268)の表情は何処か浮かない様子だった。 「フェイトを得たアザーバイドの女性が一人。一般人の男性を襲おうとしてる」 ある時、この世界――ボトムチャンネルに現出したアザーバイドは運命に愛されフェイトを得た。 アザーバイドの女性が何故この世界を訪れたのか。それは定かではなかったが。 ともあれ、この世界に居着いた彼女は一人の男性と出逢い、恋をした。 独りぼっちだった彼女に訪れた、一時の幸せ。 けれど、と優衣は言葉を続ける。 「彼女、久遠(くおん)さんは私達人間と似た姿をしていながら、ひとつだけ決定的に違う点があったの」 それは、人であれば決して避けることの出来ないもの。 老いという名の無情で、残酷な運命。 彼女、久遠はそんな老いと程遠い運命を生まれ持ったアザーバイドだった。 「大好きな人が、自分を置いて死んでしまう」 愛する夫が死を迎え、その夫との間に生まれた子供たちもまた――。 「二度と恋なんてしないって。人を愛したりするもんかって、思ったと思う。でも」 人が、そうであるように。 アザーバイドである久遠もまた、ずっと誰も愛せずいるなんて出来はしなかったのだろう。 「また、誰かを好きになってしまったんだな」 リベリスタの言葉に、優衣が頷く。 「だって、一人は寂しいから……」 一度、誰かと一緒に幸せを分かち合う喜びをなまじ知ってしまったから。 「仕方ないよって言っちゃいけないかもしれないし。ダメなのかもしれない、けど」 解っていても、納得したくないと優衣は言う。 「彼女は、ずっと一人で彼が来るのを待ってる」 愛しあう二人。 その逢瀬の邪魔なんて、本当はしたくはないけれど。 「彼が老いる事に、自分の老いない身体にもう彼女の精神は限界なんだと思う」 限界を迎えてしまった精神。 その先に待つのは、彼を殺して自分も死ぬ――そんな、最悪の結末。 「私に出来るのは、みんなに伝える事だけ……だから、ここからはみんなにお願いするしかないから」 彼女の事をお願い、と優衣はリベリスタ達を送り出したのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ゆうきひろ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月26日(水)23:07 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「寿命の差、か」 神社の境内へ続く道を歩みながら、件の彼女――久遠の事を思う。 彼女程の長寿ではないとしても、いずれ訪れるかもしれないその時、果たして自分ならばどうするのだろうと『白銀の鉄の塊』ティエ・アルギュロス(BNE004380)は思う。 「生きていく以上、どんなものにも別れはある……当然ですよね」 ティエの少し後方。最後尾を歩く『陽だまりの小さな花』アガーテ・イェルダール(BNE004397)の顔は何処か寂しげだ。 自分達フュリエや、或いは革醒者達は普通の人間に比べれば、十分に長寿だろう。 けれども、否、それ故に別れは避けられない。 多くの人と出逢えば出逢う程に、表裏一体の如く寂しい別れもまた、多く訪れる。 彼女は、久遠はどれ程繰り返して来たのだろう。 「軽々しく、”分かる”だなんて、私には言えません。でも……」 「でも、伝えたい事がある。ならば、でも、それでもと言い続ける事だ。受け入れられるにせよ、拒否されるにせよ」 言葉を伝える機会がある限り、私達は私達の気持ちを伝え続ければ良いと、アガーテが優しく微笑んだ。 「僕には、長命ゆえの苦悩は理解しきれません」 革醒者とはいえ、今だ齢十五のごく普通の学生である『一般的な少年』テュルク・プロメース(BNE004356)には、永く、果てしない時間を生きている久遠の気持ちは理解しきれない。 元より、初見の身である自分達にはフォーチュナから情報を得ているとはいえ、尽くす言葉にも限りがあるかもしれない。 しかし、しかしである。 「誰かを愛する心は年月のみで決まるものではないのです、だから」 共感出来る部分は必ず存在するのだと。 「私達の精一杯の気持ちを、伝えましょう」 テュルクの言葉に頷くように、ティエが言う。 (……久遠の導き出した答えは、間違っているの?) 自問自答するように、想いは『アカイエカ』鰻川 萵苣(BNE004539)頭をぐるぐると巡る。 きっと久遠は愛が無ければ生きてはいけない女なのだろう。 何時から、そうなのか、最初からそうなのかは解らない。 いずれにせよ、彼女は本当に大切に想っているからこそ、他の愛で上書きされるのが怖いからこそ。 思い出がまだ美しいままの今、全てを終わらせようとしているのだと萵苣は思う。 ● 「よぉ。こんばんはだ」 しん、と静まり返っていた神社の境内は良く、声が響く。 愛する人を待ち続けていた黒い和装の女性、久遠に声をかけたのは『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)だ。 境内を照らしだす月の光に、夜色の良く整った髪が映える。 久遠というアザーバイドは、まるで硝子細工の様に暴力的に美しい存在であった。 その美貌に、思わず猛が息を呑む。 「お主が久遠かぇ? 先ずはお初じゃのぅ」 続いて声をかけたのは、猛の隣にいた『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)。 軽く自己紹介を交えながら、瑠琵が一歩久遠へ近づく。 「……何の用? 只の人間ではないわね?」 問いかける久遠の表情には、此処を訪れた者達への疑念の色が浮かんでいる。 警戒からか、傍に立てかけてあったとても女性が扱うとは思えない無骨な金棒に久遠が手をかけようとする。 「待ってくれ、あたし達はあんたと話がしたくて此処に来たんだ」 此方に戦う意思はない、と『孤独嬢』プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(BNE003341)が慌てて久遠を制止する。 他の仲間達も、また武器を手にせず久遠を傷つける意思がない事を明確にする。 銃を、剣を手に取りながら話しあおう、などと無茶な事は元より行う気はないのだ。 「……」 そんな彼等の意思を理解してか、久遠が金棒から手を離しリベリスタ達の方へと向き直る。 「分かってくれましたか」 ブレインフェザーを始めとしたリベリスタ達がほっと、胸をなでおろす。 「あんた、これから彼氏とデートなんだろ? その事でちょっと話したい事がある」 「うむ。待ち人が来るまでで構わぬからのぅ、ちと話さぬかぇ? お主の事、これからの事。なんとなく、察しはつくじゃろぅ?」 瑠琵と猛、二人の言葉に久遠が静かに頷く。 「いいわ、話したければ話しなさい。でも、彼が来るまでよ?」 「それで構わない。有難う、あたし達の話を聞いてくれる気になってくれて」 一先ずは、第一段階は成功といった所だろうかとブレインフェザーは思う。 とはいえ、此処から彼女を説得出来るかどうかは自分達次第なのだ。 長い夜になりそうだ、とリベリスタ達は思うのだった。 ● 最初に出逢った時の記憶は、今でも鮮明に頭のなかに残っている。 もう、何十年も昔の記憶ではあるが。 けれど、それだけの時間が経とうとも、未だに私はその時の記憶を忘れてはいないのだ。 忘れたくは、ないのだ。 「こんな時間に参拝とは、丑の刻参りか?」 「おや、こんばんは……いえいえ、そんな呪いのような事をするためではありませんよ」 神社の境内へと続く道のりの一角。 其処を通りかかったスーツ姿の男性は、笑顔の良く似合う若々しさを感じさせる人であった。 情報によれば既に齢五十を超えているとの事だが、よほど健康に気を遣っているのかも知れないなと『凡夫』赤司・侠治(BNE004282)は感じた。 「それでは、先を急ぎますので……何故かは解らないのですが、もう通いなれた道だというのに今日はえらく迷ってしまいましてね。前にも一度、似たような事があったのを思い出しました」 「待て。急いでいるというのはこの先の神社に居る彼女と会うためか?」 男性の言う前にも一度、というフレーズは少々気にはなったが。 それよりも、この男性に伝えなくてはならない事の為に今は此処へ留まって貰わなくてはならない。 侠治の狙い通り、彼女と会うため、という台詞に傍を通り抜けようとする男性の足が止まった。 「もしや、久遠さんのご友人の方でしたか?」 「そういう訳でもない、が……私は赤司・侠治と言う。彼女、即ち久遠の事で貴方に伝えなければならない事があり、此処へ来た」 「赤司さん、ですか。伝えなくてはならない事とは何でしょう。お話を聞かせて頂けますか?」 男性の言葉に頷くように、少しずつ赤司は説明を始める。 貴方の愛する久遠が、人間とは異なる存在である事。 その為、普通の人間とは全く時間の流れが異なり、歳を取ることがない事。 時折、必要な限り世界の神秘についても触れながら、一般人である男性にも解るように丁寧に説明を続ける。 唯一つ。 彼女が、男性を殺して自分もまた死んでしまおうとしている事は一旦は伏せながら。 「信じられないか?」 「……彼女と、久遠さんと初めて私が出逢ったのは、もう三十年以上も前の話です」 「彼女が、歳を取らない事に違和感は感じなかったのか?」 「感じたか、そうでないかで言えば感じたとおもいますよ。でも、私は彼女が所謂妖怪の様なものでも構わないと思いましたから」 それが、アザーバイドだという事は知らなかったが、お伽噺に出てくるような、妖怪の類、或いは神様のようなものなのだろうと。 さしたる問題ではなかったのかも知れない。 「あんたの物分かりが良くて助かる」 極端な話。 神秘について信じられないと言う事であれば、侠治は自分を傷つけてでも理解させるつもりだったのだから。 幸いにも、そこまでする必要は無かったようだ。 「なら、本題に入ろう。彼女、久遠は貴方を殺して自分も死ぬつもりだ。老いる貴方を見届ける事に、老いる事のない自分の身体に、彼女は限界を迎えようとしている」 「赤司さんが私を引き止めたのは、久遠さんに私を殺させないためですか?」 「勿論それもある。だが、それよりも貴方に答えて貰いたいからだ。事情を知った上で、それでも彼女を愛すのか? 否、いつか来る別れが解決出来ない以上、彼女に対して何を望み何をしてやりたいのかを」 残酷な質問だ、と侠治は思う。 けれど、聞いておかなくてはならない。 なぜなら、例え自分や仲間達が言葉を尽くしたとしても、最終的に久遠の心を動かせるとしたら眼の前にいるこの男性しかいないからだ。 「残された者の苦しみ、彼女とは違うかも知れないが私も体験した。家族を失くし生き甲斐を失くし、復讐しようとも考えた。自棄になって好き放題やろうとした事さえある」 だが、と侠治は言葉を続ける。 確かに、残された痛みは侠治の心を磨り減らしていった。 それでも、自分と同じ者が少しでも減る事を望む事にしたのだと。 「壊すでは無く活かす、それは残された者が先に逝った者に対しての想いの形だと思ったからだ。だから……残す者の想いの形を彼女に伝えて欲しい」 「そうですね、私は――」 侠治の言葉を真摯に聞き入れ、彼が彼女に望んだことは――。 ● 侠治が男性に事情を話していた頃。 神社の境内では、彼以外のリベリスタ達による久遠の説得が行われていた。 「大好きな人と一緒に死にたいって気持ち、間違ってるとは思わないぜ。二人で一緒に逝けたら……心残りもなくて、幸せだろうな」 でも、それは今すぐ自分の手で終わらせなければならない事なのかとブレインフェザーは問う。 ブレインフェザーには、久遠の抱える寂しさが、孤独がどれ程のものか、とても想像出来るものではなく。 発した問いかけもまた、もしかすれば彼女にとっては頷くに値しないものなのかも知れない。 「アンタが辛いのは解るよ、俺だってそうだ。……俺だけが生き残った。大切な人は、先に逝っちまった」 猛が思い出すのは、大切な人との別れ。 「わらわはこれでも齢八十二。お主と同じで歳は取らぬし、殺されるまで死ぬ事もない」 だから、お主の気持ちも多少なりとも解ると瑠琵は告げる。 「愛する者に先立たれるのは辛い事じゃ、何度も何度も繰り返せば心も磨り減る……これは推測じゃがのぅ、久遠、お主のその名前も恐らくは愛する者に貰ったものなのだろう?」 「昔、とてもとても気が遠くなるような昔に貰った名前よ」 久遠。 仏教用語で、永遠を意味する言葉だ。 瑠琵の推測通りに、昔、とある僧に名づけて貰ったのだと久遠は言う。 「私には、誰かを特別に思う気持ちが分かりません。だって、皆様同じように大切な方でいらっしゃいますから……。ですが、誰かを失うと悲しいという気持ちは。私にも……」 わかります、とは言葉を続けられなかったが。 けれども、寂しそうな顔をして、月を見上げる彼女を見てアガーテは何か言わずにはいられなかった。心がズキリとしたのだ。 例え自らの紡ぐ言葉が、軽いと感じたとしても。 「取り残されて、一人長く生きること。置いていかれること。それはとても寂しいものだと、聞いております。それでも、どうか……。悲しみにつぶれてしまわないで くださいまし」 今まで過ごした方との大切な思い出を、自ら捨てたりはしないでと。 「隠す必要は無いだろうから言ってしまうが、今私達の仲間が貴女の想い人と話をしている」 答えを出すのは未だ早い。 全てを終わらせてしまう前に、一度お互いの種族の事、気持ちについてもう一度良く話し合ってみてはどうだろうかとティエが言う。 「死ぬ事は楽だ。これ以上考えなくていいし、彼との愛がこれ以上穢れる事も無いだろう」 久遠が、真剣に考えて導き出した結論であるのなら僕は評価に値すると思うと、萵苣は言う。 「美しき愛だね、素晴らし過ぎて涙が出るね。それだけで自己満足は満たせるんだから」 「自己満足、か」 萵苣の言う、自己満足にそうかも知れないと久遠が自嘲気味につぶやいた。 「貴女がどれ程の人々を見送ってきたかは僕には知る由もありません」 先に、瑠琵の言っていた様に、それは久遠の心を静かに、確実に磨り減らしていったのだろうとテュルクは思う。 けれど。 「僕が言えるのは、逆も考えてみていただきたい、ということ」 「逆?」 「はい。置いていかれてしまうしかなかった貴女に、置いていくしかなかった方々の事を……考えて、頂けないでしょうか」 ゆっくりと、久遠の瞳を見据えながらテュルクは語りかける。 「どれ程長寿を全うしようと、先に散っていくしかない」 老いゆく姿を一方的に見せるしかないのは、辛かった筈だ。 今、置いて行かれる立場である久遠がしようとしている事を、置いていく立場である彼等もまた考えた事もあるかもしれない。 「……ですが、それは果たされていない。その事実の意味を、考えていただきたい」 「死にたくねえ筈だぜ、歳だって取りたくねえだろうよ。自分だけが変わって、大切な奴を置き去りにしていくなら尚更だ!」 テュルクの言葉に続く様に、猛が言う。 「死ぬ間際、どれだけ置いて行くアンタの事を思って死んだか考えてみろ。子供だって居たんだろうが……! 何かをしてやりたくても、してやれねえ気持ちが解るのか!?」 まるで、自分に言い聞かせているように猛が叫ぶ。 今も残る後悔。 自分は、何もしてあげられなかった。 だから、せめて久遠にはそんな後悔をしてほしくなかった。 「なぁ……今まで幾つもの別れに耐えてきて、それでも再び愛する勇気を持てたあんたならこの先にいける筈だ」 彼はまだ生きてるのだから。一緒に居られる時間があるのだから。 ただ恋をしていただけの久遠が、愛する人を手に掛けるなんてそんなの嫌だと。 考えなおしてくれとブレインフェザーは久遠へ言う。 「人を殺せば地獄に落ちる。ずっと一緒にいたいのなら、男が天寿を全うした後にそれを追ってあの世で末永く暮らせば良い」 態々心中を図ってまで先を急ぐ必要が何処にある、と語る瑠琵の言葉はまるで優しく、諭す様だ。 「でも……きっと、私は耐えられない。貴女達の言う通り、磨り減った心はもう限界だから」 此処で考えを改めたとしても、きっとまた繰り返すと寂しげに久遠は呟く。 「……そうかもしれない、でも久遠は知っていますか? 世の中には、明日死ぬと解っている子供に愛情を注ぐ親や、離婚、再婚を繰り返す人もいる」 美しかったり、浅ましかったり、色々な人が生きている。 「でも、皆共通する部分がある。人は誰もが本気でその時を生きています。久遠だってそうです。久遠は、未来の久遠が一生懸命生きるのが悪い事だと思う?」 もしかしたら、未来の久遠は今の一生懸命を受け入れて、新しい答えを見つけて、頑張って生きているかもしれないのに。 「そうですよ。久遠さん」 不意に。 自分達の背後から聞こえてきた声に、リベリスタ達と久遠が振り向いた。 振り向いた先に居たのは、侠治と、久遠の待ち人であった男性。 ● 『こんばんは、また道に迷っちゃった』 馬鹿馬鹿しい言い訳だと思った。 この少年と会うのは、何度目だっただろうか。 最初に本当に、山の中で迷った彼を仕方なく助けてしまった時から、もう結構な回数が経っていた筈だ。 構って欲しいなら、構って欲しいと言えば良い。 どうして、いちいち見え透いた理由を取ってつけるのか。 ただ、何かと理由をつけては自分に逢いに来てくれるかつては少年だった彼の事を、何時しか私は、愛してしまっていたのだ。 「今晩は。少し道に迷ってしまって遅れてしまいました。待ちましたか?」 侠治に付き添われながら、久遠に男性が声をかける。 「……聞いていたの?」 「少しだけ、ですが……。ねぇ、久遠さん。私……いや、僕もこの人達と同じ気持ちですよ」 同じ気持ち。 それは、久遠に生きていて欲しいという事なのだろう。 「きっと、僕の『ずっと一緒に居たい』という言葉が貴女を苦しめてしまったんですね」 叶わぬ夢。 それを言葉にされる事は、辛かっただろう。 「そんな事、無い! だって、私は本当に嬉しくて、だから、そんな事!」 周りに居たリベリスタ達が思わず息を呑む程、声を荒げて久遠が叫ぶ。 「優しいですね。見え透いた嘘を並べてでも、会いに来る僕に貴女はいつも応えてくれた。僕はそれがとてもうれしくて、とても、いとおしかった」 有難う、と言う男性の言葉に少しだけ頬を染めながら久遠が首を横に振った。 「久遠さん。もう、ずっと一緒に居たいとは言いません。代わりに、一つ僕のお願いを聞いて貰えませんか。僕は、貴女やこの人たちの様に長生きする事も出来ませんし、寿命を全うする事なく死んでしまうこともあるかも知れません。だから」 僕のことを覚えていてくれませんか、と。 しっかりと久遠の手を握りながら。 彼は自分が導き出した想いを、答えを久遠に告げたのだった。 ● 「無事、話し合いが出来たようで何よりだ。結局の所、こういう恋愛事に関しては当人同士で解決するしかないからな」 「きっと、少しでも幸せな道をこれからお二人は進めると私は信じたいです」 リベリスタ達による説得は無事成功を迎え、境内に久遠と男性の二人を残したティエやアガーテ達は漸く重い肩をなでおろしたのだった。 言葉の選び方や、対話の方法によっては強硬手段を取らざるを得なかったかもしれない。 「明日からも、あの二人ならきっと大丈夫さ」 男性も交えた久遠の説得が終わった後、ブレインフェザーは男性に対し一つの提案をしようと考えていた。 だが、その提案も杞憂に終わったようだ。 (お互い、忘れる事はないだろうね) 明日も、明後日も、ずっと遠い未来でも。 覚えている限り、ずっと心のなかに大切な人は在り続けるのだから。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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