● にい、と唇を歪めた少女の見降ろす下で、呆然とナイフを握りしめて居る男が居た。 『ね、言ったとおりでしょ。簡単だってば』 脳内に直接響く声に男が両手を見下ろした。赤く染まった掌からナイフが滑り落ち、かたかたと振るえる。 男は正義に重きを置き、今までリベリスタとして真っ直ぐに生きてきた――筈だった。 『人って簡単に道を踏み外せる物なのよ。アタシもアナタも、それから、其処で倒れてる女も、ね? キレイゴトなんて何処にもなくて、世界は常に悪意悪意悪意でたっくさーん。素敵じゃない?』 クスクス―― 可憐な声音であろうとも、その唇が滑らかに紡ぎ続けた言葉には悪意しか滲まない。 少女はフィクサード。だが、人を一人も殺してはいない。 少女は『導くモノ』。ただ、優雅に指先を揺らし、人殺しの手立てをその体に染みつけるのみ。 『正義のカードと悪のカード。どちらを引くかなんて簡単でしょ? 偶々、あなたが最初に引いたのが正義だっただけ、大丈夫、何時だって導いてあげる。 ちょっとした勇気を渡してあげるだけだから、ね? お代はお約束通り』 くすくすと笑う少女はアスファルトへと千切ったトランプを舞わせていく。呆然と座り込んだ男は彼女の手招きに合わせて、何も映さぬ瞳で少女の後を付いていく。 ● 「連続殺人事件。現場に残されたのはバラバラになったハートのトランプ! そして『別人』の指紋が付いた犯行道具。果たして真犯人は誰か! 拡大30分スペシャルでお送りしまっ――いてっ!」 美しく転んだ『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は唇を尖らせて、お願いしたい事がある訳ですよ、とリベリスタを見回した。 「――という事件があったのだけど、これは全て同一フィクサードが絡んでいるわ。今回お願いしたいのは彼女が犯行に使う『道具』の処分、それからお仕置きよ」 世恋の告げた何とも深夜やゴシップ雑誌に似合いそうな事件は最近巷で連続している事件だ。 ナイフや鈍器で対象の顔を判らなくなるまで潰す悪趣味な殺し方。使用する道具は違えど、ドレも同じ手口なのだ。最初は模倣犯かとも疑われていたのだが――とゴシップ記事を読みあげて居た世恋は顔を上げ首を振る。 「フィクサード。『オレンジペコ』と名乗っている少女よ。アクセサリー大好きっ子。 彼女がこの事件の真犯人。詰まる所、『導くモノ』だと周囲の人間に名乗り、殺人の手筈を整えている少女になるわ。彼女自身は人殺しをしていない、けれどね」 悪趣味なのは此処からよ、と何処か表情を歪めた世恋はリベリスタを見回した。 「人殺しをしていないけれど、『殺したい相手が居る』人に近付き、アーティファクトを使用して殺される様に誘導する。アーティファクトは彼女の所有物の何かなのだけど……」 其処までは予知できなかったと世恋が目を伏せる。 殺人代行とは良く言ったものだが、オレンジペコは自分の手を汚したくはない。だが、誰かを殺したいと願う人へとその勇気を授け、その『仲介料』として金銭を巻き上げて居るのだ。 「取り敢えずお願いしたいのはオレンジペコがこれ以上『勇気を授けない』こと。その為にはアーティファクトを割り出し、奪取するか破壊する事が必要となるわ。後は、そうね……彼女とその他フィクサードの撃退をお願いするわね」 妖しいものはすべてリストアップしたから、と資料を一つ差し出した。 「これ以上、連続殺人事件を起こさせる訳にはいかないわ。彼女たちの犯行現場は一つ、突きとめた。 『犯人候補』が少女を殺す事を止めて頂けるかしら? 現場に行けば商売の邪魔だとフィクサードも応戦してくるわ。……ああ、そう言えば、今日の『犯人候補』、リベリスタらしいんだけど、ご存じの相手かもしれないわね」 どこか溜め息交じり、それも止めて頂ければ嬉しいわ、と世恋は頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月20日(木)23:00 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 暗い路地裏に男の吐息が木霊した。その音を耳にして、演技でなれば幾度か経験した事がある『殺人』の気配を演技では無いリアルで感じ『氷の仮面』青島 沙希(BNE004419)の表情が曇る。 「……誰かが死ぬのを見て喜ぶ事、ソレ自体は否定しないわ」 暴漢が沙希の身を襲ったその時を想いだし、おぞましい物を見た様に表情が曇る。接敵時の班を確認しようと彼女が顔を上げるが、仲間達には彼女の思う班分けは浸透して居ない。 ふ、と顔を上げた所、薄く色づくサングラスの向こうで茶色の瞳を細め、暗闇を睨みつけた『Spritzenpferd』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)が安全靴に包まれた足でコンクリートを蹴りあげた。彼の姿に気付き扉すフィクサード数人の間をすり抜けるカルラは弾ける様に飛びあがり、壁を蹴りあげる。恐山のフィクサードが顔を上げた時、宙を舞う様に体をすり抜けさせ、彼は山下ツヅルの下へと辿りついていた。 「なあ、邪魔だよ。山なんとか」 少女へとナイフを突き立てようとした手が止まる。リベリスタである山下ツヅルという『犯人候補』の眼がカルラを捉えたと同時、彼の下へと澄んだ声が響く。 「何とも詰まらないな」 慌て、振り向いた男の眼の間で電鞘抜刀を握りしめ、葬刀魔喰の切っ先を向ける『閃刃斬魔』蜂須賀 朔(BNE004313)が不敵に笑っているではないか。一度は共に依頼へ同行した『仲間』であると言うのに何とも云えぬ状況ではないか。 「……蜂須賀さん……」 「正義も開くも己の意志を以って断行されねば意味はない。……悪を行うならば自らそれを行うべきだ」 俺は、と青年が発したその隙をつきカルラは気を失った少女の体を抱え上げる。山下が反応した時、周辺に展開された恐山に対して炎が降り注ぐ。炸裂する火焔はツヅルには十分に見覚えのあるものだ。 「来たよ、ツヅルちゃん! 君を止めに来たの。君の大事なものを、守りに来た!」 結い上げた白銀を揺らし『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)の杖の切っ先が指し示すのは恐山のフィクサードだ。彼女によって弾き飛ばされるフィクサードの軍団の中を見据える様に『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)の鮮やかな青い瞳が周囲を探す。バリアントコートが揺れ、彼女が便りとしたシルバースターライトに周辺が照らされ続ける。明るく照らされるのは的になり易いのと同義だ。壁を蹴る音がする。顔を上げた彩花の元へと真っ直ぐに届けられる強襲攻撃。 「外田か? 悪趣味な奴ばっかりだ。……山下」 その攻撃を見極める様に暗闇を見据えた『ラック・アンラック』禍原 福松(BNE003517)は体を曲げ、オーバーナイト・ミリオネアの銃口をフィクサードへと向ける。バウンティショットスーパースペシャル――バウンティトリプルエスと名付けられたその弾丸はフィクサード達を狙い撃つ。 畳みかける様に支援する『殴りホリメ』霧島 俊介(BNE000082)の赤い瞳は花染の切っ先をフィクサードに向け、ゆったりと笑った。 「沙希たん、がんばろーぜ!」 その声に反応する沙希が顔を上げる。俊介の圧倒的な思考の奔流が物理的な圧力に変わる。散り散りになるフィクサードの体をさらにふっ飛ばし、カルラの往く道をリベリスタは作り上げたのだろう。 目を凝らした『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)の唇に浮かぶ喜びは殺人を合法的に出来ると言う幸福感であろうか。 葬識にとっての殺人とは『愛』だ。逸脱者ノススメの切っ先が愛を伝える喜びを伝える様に鈍く光った。 「みーつけた」 ね、と微笑む葬識が立ちはだかったのは外田アツナという名のフィクサードの前だ。ナイフを構える男に微笑みながら闇を纏いこの場で一番人を殺す事に長けている男はお茶目に微笑んで見せた。 「外田ちゃん初めまして。殺人鬼ちゃんだよ。殺しは、迅速丁寧に――スナッフビデオなんて俺様ちゃんチョー怖い」 ● 抱え上げられた少女に咄嗟に反応したツヅルはカルラへとナイフを向ける。その隙をつき、その細腕には似使わぬ巨大な直死の大鎌を握りしめた沙希が己の中で渦巻く感情を抑えつける様に唇を噛み締める。 「殺すのって、大っ嫌いよ。役者として擬似的には殺すのも殺されるのも経験しているからかしらね」 「でも、それって楽しそうね?」 暗闇から茫と浮かび上がる女の姿に咄嗟に反応した沙希のギャロッププレイは霞めない。アツナからのカヴァーの外れた彩花が雷牙に包まれた拳を固め、アスファルトを蹴った。 「貴女がオレンジペコですか? 商売にケチをつけに来ました。暗示や洗脳の類から与えられる『勇気』など論ずるに値しません。ああ、そもそも人殺しに勇気が必要なのでしょうか?」 「それを必要にしなければ世界は殺人に溢れるではない?」 にぃ、と唇を歪める少女の声に俊介の赤い瞳が感情を表す様に鋭くなる。赤い眼光は感情豊かな青年の想いを表す様に真っ直ぐにフィクサードへと降り注いだ。 「……世界ってのは悪意に満ち溢れてるんだって良く判るよ。でも決してソレだけじゃないんだ。 お前の悪意が誰かを殺すなら、俺の善意が――要らぬお世話のお節介で人助け――誰かを救う!」 「霧島ちゃんかっくいー♪ けど、オレンジペコちゃんの人殺しに俺様ちゃんは同意できないかなぁ」 俊介の刃が耐えず恐山のフィクサードを吹き飛ばす。その間をすり抜けて全力で走るカルラの両腕が少女を抱え、傷つける事が無い様にと気を配っている。注意を逸らす様に話を振るリベリスタの中でも殺意に漲る葬識はへらへらと笑いながらオレンジペコの四肢を眺めていた。 殺人には作法がある。自分の手を汚さないで殺人なんて勿体ない事ができるなんて『驚愕』する。古今東西、人は殺人という人道に反する行為に怯えるものだ。だが、葬識は身心を以ってその行為を肯定していた。 「肉に刃が入る時の抵抗感、首を跳ねる時の憎しみの目、相手の人生全てを奪うって言うカタルシス。 完全なる悪意でもって殺す悪。どれをとってもサイコーにクールなのになあ、勿体ない」 「とんだ変態がアークにいるもんね?」 小さく笑みを漏らすオレンジペコが陰に潜もうとした其処へと弾丸が飛びこんだ。咄嗟に庇う様に体を捻る少女へと福松の橙の瞳が汚物を見るかの如く眼光を向けた。 「悪趣味はどっちだ。反吐が出る。間接的に殺してるなら、それは殺人と同義だ」 己れが求めるのは完璧居なる勝利の道筋だと言わんばかりに福松の歯が棒付きキャンディを齧る。 「観劇者気取りか? こっちに来て派手なダンスを踊ろうぜ。なぁ!」 暗闇で銃を構えた少年に襲い来るフィクサードの体を前線に飛び込んでいた朔の葬刀魔喰が『闘争欲求』を示す様に光りの飛沫をあげて切り裂いた。ぎらりと光る金の瞳が蜂須賀の正義を求める様に細められる。 「私はお前如きに――恐山の雑魚如きに用事はない。用があるのはそこの山下君だ。尤も、私には君と少女の事情は知る由もないし、興味も無い」 零れる牙がぎらりと光る。長い緑の髪を揺らして前線へと特攻していく彼女を追いかけようとするオレンジペコへと雷に氷を纏わせたかの如き拳が叩きつけられる。大御堂の社長令嬢たる彩花は己の社員たるカルラが少女を確保する事を信頼している。長い髪が揺れ、オレンジペコの往く手を遮る彼女はにぃ、と笑った。 「知っていますか? 勇気が無くても平然と人殺しができる様になるのがこの神秘の世界です。 正義も悪も行き着く果ては『殺し』です。ソレこそがフィクサードでありリベリスタですからね?」 「ハッ、それで――」 「うっせぇ、黙れよ性悪びっちが! アクセサリーじゃらじゃら着けやがって、一杯つければ良いってもんじゃねぇんだよ! 恐山は殺してオッケー! 葬ちゃんゴー!」 声を張り上げ、敵意を剥き出しにする俊介はコンクリートへと花染の切っ先を打ち付ける。茫と周囲を照らし上げる光りは彼がこれからこの場所に造り出そうとする『殺人現場』の下準備だ。幻想纏いを通して『こっそり』呼び出された舞台女優・青島沙希は俊介への攻撃全てから彼を守る様に決意を固めて立っていた。 ああ、これはまるで正義の味方だ。『正義の味方』を演じる事はできるとしても、正義の味方になるのは何処か恥ずかしい。息を吐き、鎌を握りしめた彼女へと降り注ぐフィクサードの攻撃。 その攻撃手へと降り注ぐ火の中でも魔力増幅杖 No.57を握りしめたルナの瞳は揺らぎ続けている。まるで深き水面が如きその瞳は一心にツヅルへと向けられていた。 ――ツヅルちゃん。私ね、少ししかお話しした事無くったって皆の『お姉ちゃん』なんだよ。 「皆が泣いてる所も、傷つく姿も私は見たくないから――! ツヅルちゃん、こんなこと辞めよう?」 手を伸ばす。救いたがりの多い戦場で、誰よりもツヅルを想っていたのはこの異邦人であったのだろう。長い耳が音を拾う様に揺れ続ける。道を踏み外す幼き子を連れ戻すのだって『お姉ちゃん』の役目だ。 「キレイゴトだって良いんだよ。俊介ちゃんが云う様に世界って悪意に溢れてると思う。 想うけど、だからこそ輝くの。私達のキレイゴトがキラキラ光るんだよ? その輝き、守りたいの!」 ルナの言葉に逆行した様にツヅルがナイフを向ける。その往く手を遮った朔が切っ先を向ける。ルナへと攻撃を向ける事がアーティファクトによる効果であろうとも、此処からは彼自身が決める部分だ。 「君が凶行に及んだのはあの女の『狩の引導』の力がその一端を占める。そう言うならば、今すぐ止め給え。 否というならばその女に報酬など払うなよ。道具に背中を押されて及んだ行動などゴミだ」 じ、と見据える狂気を孕む瞳に蜂須賀と呼び掛ける声。一度任務を共に行ったとて、彼女はその仲間がノーフェイスになろうともその刃を向けた事であろう。己があくまで斬るのは己の正義に反するもの全てだ。 「言い訳など無用。酌量の余地も無い。私はお前がそれを為すと言うならば、その意気やよし。 私も蜂須賀朔とし――否、『閃刃斬魔』とし、君を斬ろう」 「ち、ちがっ――」 自身の意志を孕まぬならば山下ツヅルは敵では無い。切っ先は彼の肩を掠めながらその背後に存在したフィクサードを切り裂いた。 広まる何らかの気配にオレンジペコが顔を上げる。ざまぁみやがれ、そう紡いだ俊介が笑って花染の切っ先を向けた。 「さあ、ショータイムだぜ? 葬ちゃん、レッツゴー!」 ● ぜいぜいと息を切らし、少女を安全地帯へと横たえたカルラは仲間達が開いた道を只駆け抜けた。己の足で、真っ直ぐに駆け抜けた彼の腕の中で気を失っていた少女は物陰に隠される。 「……死んでほしくないんだ、此処に、居てくれよ」 言い残し、青年は戦闘区域へと復帰する。走り込んだ彼はフィクサードの横面を殴りつけた。減りゆくフィクサードに影へと潜もうとするオレンジペコ。逃がさないと言わんばかりに彩花の拳が彼女を掴み、其の侭地面へと投げつける。 「逃がしませんよ? もう私達には見えてますから」 「その通りだ。『狩の引導』の場所はもう『視』えている」 オーバーナイト・ミリオネアが全てを打ち抜いていく。ミッションを果たすのもまた、リベリスタの役目ではなかろうか。福松の弾丸は存在した恐山フィクサードを蹴散らしオレンジペコのアクセサリーを狙い撃つ。体を捻り、避けようとする少女の掌を弾丸は貫いた。 「趣味の悪いアクセサリーだ。オレが形を整えてやろう」 その後押しをする様に俊介が癒しを乞う。戦闘行動で行うべき動作が多い彼の表情が曇りつつあるが、前線で彼を庇い続けて居た沙希に有難うと優しく告げた殴り系ホーリーメイガスこと俊介の癒しは仲間たちを勇気付ける事に適して居た。 「山下ァァァ! 好きが行き過ぎると破壊衝動がでるもんさね。お前が何故殺したいって思ったのか理由なんて俺には想像できんよ! 寧ろ、出来て堪るか!」 声を張り上げ、回復を行いながら、俊介が掛ける声にナイフを手に朔を見据えて居たツヅルが顔を上げる。涙に塗れた顔は情けなく、けれど、連れ戻す事ができるとそう確信した。 悪意を消す方法は救いだす事。お節介は一番適しているのだから。彼が後悔するならば、連れ戻してやれば良い。彼が戻れなくなるならばその前に手を差し伸べ得ればいい。 「世界はあったかいもんで溢れてるって信じてるんだ! お前が己を見失って正義の道を踏み外してやる行為によって何もかも失う覚悟があるなら俺達を殺せばいい! でもお前の正義ってそんなじゃないだろ!?」 俊介の言葉に反論しようとするオレンジペコを彩花は話さない。お相手は此方ですとでも言う様にその拳は彼女の腹を殴りつけ地面へと叩きつける。 「貴女の排除を行う事が使命ですからね。逃がさないと言ったでしょう?」 彩花が組みつく事によってオレンジペコが動けなくなった其処へと、右耳で揺れる大きなイヤリングを目掛けた福松の弾丸が繰り出される。咄嗟に庇おうともその身は彩花が組みつく為に動けない。 「多少の被害なんて覚悟の上、さあ、壊してやりますよ!」 「ああ、執行猶予は無い、今この場で断罪してやる」 撃ちだされる弾丸がオレンジペコのイヤリングと額を打ち抜いた。離れる彩花がその体を投げ飛ばすと同時、葬識の刃が彼女の首を切り落とす。 「殺しは他人の生き様を悪意と殺意でもって奪う崇高な行動だよ。それを他人任さだなんて全然だーめ☆ 怖いの? 自分で誰かの命を奪うのが。じゃあさ、奪われ見よっかー」 かしゃん。音を立てるソレにオレンジペコが物言わぬ肢体をコンクリートへと打ちつける。流れ作業が如き其れに応戦するフィクサードが撤退を見せ掛けるがソレを俊介は許さない。 「残念だけどさ、外には出してやらねーよ!」 「ッ――」 焦りを覚えるアツナに向けられる切っ先。朔はただ無情な程に敵を切り刻み、その悪を切り捨てる。傷を負いながら攻勢を強める沙希が膝を付いた時、俊介が更に癒しを乞うた。 「山下――お前がどうしても誰かを殺したいってならそのナイフ、オレに向けろ!」 福松のアウトロウ・アピアランスが山下に向けられる。彼も幾度か山下とは依頼に同行した事があるのだ。一般人を自ら個剃る様な男でない事を福松は知っていた。もしも『殺し』を働いたら一線を越えてしまう。 彼が自分を何と称したかを福松は覚えて居たのだ。 「お前は、正義の味方なんだろうが!!」 「殺して、アーティファクトのせいにして、あの子とのこと、こんなことで終わらせてもいいものだったの? 違うよね。だって君は、スキって気持ちを私に教えてくれようとしたから。 そんな君の想いが、あんなニセモノに負ける筈ないよね――?」 ルナが叫ぶ。その声に合わせ、彼女が降り注がせる火の粉はフィクサードへと降り注いだ。へたり込んだ青年が涙を浮かべルナにどうすればいいのかと問う様な視線を向ける彼へと手を伸ばす。 「だから、戻ってきて! 山下ツヅル!」 少女が如き外見の『お姉ちゃん』の言葉に小さく頷いた時、リベリスタ達が行う行動はただ一つだった。 踏み込んだ朔が光りの飛沫をあげながら恐山フィクサードを切り刻む。彼女にとって『狩りの引導』が破壊された時点から山下は『敵』としての認識であった。だが、ソレを押しとどめる様に福松が「蜂須賀」と名を呼んだのだ。渋々の了承の後、彼女は『尤も正義から遠い』対象を攻撃する事を選んだ。 「悪を行う者は斬る――山下君、君が悪を行ったら今度こそ斬る。それを覚えておくが良い」 その言葉に頷く様に速さを纏ったカルラが攻撃を続けて行く。殴り続ける、全て彼を突き動かす憎悪が故。 「俺はフィクサードを殺す為に生きてるんだ。自分がイカれてるのなんざ、とっくに判ってる。 だがな、殺されようとしている相手がいれば、考えるまでもなく助けるんだって言える」 拳を固め、残るアツナの頬を殴りつける。その体がよろけても彼は容赦はしない。己が憎悪に突き動かされているとしても、その行動を止める事はない。 「他人の苦しみでニヤけるような害虫共より余程マシってもんだ!」 肩で息をし、倒れるアツナの体を彩花が投げつける。ビルの外壁に打ち上げられ、血を吐きだす男の顔を見下ろして、葬識が「ざんねーん」とへらへらと笑った。 座り込む山下の手をとってルナはじっと行く先を見守っている。俊介も山下の隣に立ち、その様子を見逃すまいと見詰めていた。 「……狩り尽くす。お前の墓場は此処だ」 見据えるカルラの瞳が灯す色に利益を追求する男が笑いながら立ち上がる。逃げを感じさせるその行動を見詰めながらも葬識は闇を纏ったままに逸脱者ノススメを向けた。 「お片づけの時間だよ?」 じ、と見据える葬識の瞳は笑わない。逸脱者ノススメの切っ先はオレンジペコの血を纏い彩花が掲げる光りを反射し鈍色に光り始める。首筋へとひたりとあてられた首切り鋏に小さく息を吐くアツナが葬識の意図を測りかねる様に彼を見上げた。 「逃げたい? 俺様ちゃんは殺したいけど」 恐山は自身の利益を尊重する。オレンジペコの手伝いをしていただけだと主張する男が一歩下がるたびに葬識がにこりと微笑んだ。 「時間切れー。それじゃ、またね?」 じゃきん。ことん、と落とされる其れに、頬に付く血を拭いながらもう一度鋏を閉じた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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