● 「ワトソンくん、用があるからちょっと来たまえ」 石田 隆志(48歳)は耳に黒光りするナスビを当てたまま深く長いため息をついた。 目を向けた先に立っているのは首から牛柄のタオルをさげた青年である。ぎんぎら照りつける太陽の下であれば、さすがに長袖パーカーは暑いらしい。ほぼ制服と化している感のあるそれの袖を腰にゆるく巻いて、上は白いTシャツ一枚の夏姿だ。青年――高原 流もまた耳に黒光りするナスビをあてていた。 隆志は汗をひとぬぐいしてからようやく口を開いた。 「……なんだい、ホームズ」 「『ホームズじゃねぇ、ベルだ!』」 流の左手にはまった牛のパペット人形が怒鳴る。 「いや、ベルでもなんでもいいんだけど……なんですか、高原先生?」 「きりがありません」 「……そうですね。でもこのまま放置していくわけにはいかないでしょう?」 「いえ、放置していきましょう。我々は忙しい。少なくともボクは忙しい」 いったい誰のせいで、と言いかけてやめた。酒の席で面白半分に「野菜を覚醒させてみよう」と提案したのは流ではない。 「『後始末はアークの連中にやらせりゃいいんだよ』」 「し、しかし高……モーモーさん、それはあまりにも無責任……」 流は2つの青の運搬カゴに入ったナスビの山を腕で示した。 「石田先生はともかく、ボクにもモーモーさんにも、もう語るべき黒歴史なんてありませんよ」 畑のどこかでベルが鳴った。 1コール、2コール……。 ある畝の端で、どーん、と大きな音をたてて覚醒ナスが吹き飛んだ。一呼吸置いて土の塊りが天から降り注ぎ、茄子の葉をぱらぱらと叩く。 「『これであと10本だなー』」とモーモーさん。 「電話をかけてくる“キュウリ”さえ見つかればねえ。どこにあるんだかキュウリ畑は」 隆志は額に手を当てて隣の畑を見た。となりの畑で栽培されているのはトマトである。道を挟んだ向かいの畑に植えられているのはたぶんスイカ。この近辺にキュウリを植えている畑はない。そのあたりは調査済みだ。 流は肩をすくめた。 「自称ですからね。“ボク、キューリーくん”は」 「『モーいいから帰ろうぜ、な?』」 ● 「このまま覚醒ナスビとキューリーくんを畑に放置すると、青果卸市場の人たちが怪我をする。爆発する覚醒ナスビは8本」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はテーブルの上から紙を1枚手にとって読み上げた。 「フィクサードたちが帰った後、夜のうちに2つが爆発したみたいね。残った8本がほかのナスビと朝早くに収穫されて市場へ出されてしまったらしいの。で、競りの途中でベルがなって――みんなが自分の携帯を確かめているときに次々爆発してしまう」 だれもナスビが鳴っているとは思わなかったらしい。それもそうだろう。 「いまから畑へ行って、ナスコールが終わらないうちに電話に出てちょうだい。電話に出たら“キューリーくん”なるものが黒歴史を聞いてくるから、適当に何か聞かせて満足させてあげてね。そうすればナスビは爆発しなくなるから」 うんざり顔で立ち上がったリベリスタたちにイヴの声がかかる。 「そうそう、“キューリーくん”も見つけて退治してね。覚醒ナスビが全部無力化されればもう何も出来なくなる、と思うんだけど……それは確かじゃないから。たぶん、半径500メートル以内にいるはずだよ。じゃ、いってらっしゃい」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:そうすけ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月22日(土)23:14 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 「ほんとうに来ちゃったよ」 正義の味方も大変だな、と石田隆志はナスの葉の間から立ち上がった。トマト畑の横の道に止まった白いワゴン車を見つめる。 スライドドアの中から、元気いっぱいの少年少女たちが飛び出してきた。耳なし、尻尾なし、翼なし、メカっぽい見かけもなし。ほぼジーニアスで構成された一団だ。一見すると畑を手伝いに来たボランティア青年団のように見えなくもない。 「『おっ? 流、帽子と白マントがいるぜ』」と高原流のパペット・モーモーさん。 「知り合いですか?」 「まあね。でも面と向かって顔をあわせるのは初めてかな?」 モーモーさんにピッとさされたのは『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)と『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)の2人だ。キリエと琥珀は過去の依頼で幾度か流とニアミスを起こしている。 「それでは退散しましょう」 流は右手を上げて畑に散らばっていた仲間たちに引き上げの合図を出した。 ほっとした顔をしたフィクサードたちが、畑の横の道路に止めてあった車に向かう。 流も自分のバイクに向かって歩き出した。 「あれ。高原先生、挨拶はしないんですか?」 「こんな時に“敵”とお喋りするのは非常識でしょ」、と振り返りもせず答える。 こんな時――バロックナイツの1人リヒャルト・ユルゲン・アウフシュナイターとその配下の親衛隊が攻勢をかけてきていた。隆志たちが所属する六道を含め、国内七派は現在、彼ら親衛隊と協力体制にある。 ネクタイを外して襟を開いた黒服が2人、隆志の前に出た。 「石田先生、ヤツラが来ます。早く車へ」 「ん、大丈夫じゃない? こちらから手を出さない限り」 隆志は首からさげたタオルで額に浮かんだ汗を拭った。 先頭を歩く帽子と白マントの子が怖い顔をしているが、十中八九、あのふたりの怖い顔の原因は流だ。その証拠にあの子たちの視線はちらりともこちらへ向かない。 キリエとの琥珀が発する敵意に気づいた風もなく、流は後ろを向くと、いかにも高級そうな黒塗りの車へ手を振った。先に行け、と促す。 カラ梅雨の暑さと己の黒歴史にうんざりしていた4人を乗せて、黒塗りの車は去っていった。 「バカでしょ?」 黒服の間から流に向かって暴言を放ったのはキリエである。 「わざわざ人払いまでするなら、茄子2本爆発させておいて、畑の作物まとめて買い上げればいいじゃない。畑の数枚分くらい、六道でも余裕でしょ」 「『バカはお前だ! ナス電話はあと10本、残り2本じゃねえ!』」 牛人形の口がパカパカと開く。 あと2つナス電話が爆発するとキューリーくんが沈黙する、ということを流たちは知らなかった。 それは万華鏡で予見され、イヴがリベリスタたちに聞かせた未来の話だ。 「やあ。はじめまして。ここじゃキミの十八番、電子の妖精は出番ないと思うけど何しにきたの?」 そうキリエに返した流の顔はあくまで穏やかである。 「バカをやらかした貴方たちの後始末に決まっているでしょ」 「ああ、キリエ氏の言うとおり。食物を覚醒させて遊ぼうなんざバカもいい所だぜ。数が分かっているならきっちり後始末をしていったらどうだ?」 ジト目で流をガン見していた琥珀が低い声で言う。 「手伝わないのなら、次は貴方をもいでやるから、そのつもりで」 流はふっと笑った。左手からモーモーさんを外して黒いポーチにしまう。 「怖い怖い。じゃあ、ボクとモーモーさんの代わりに石田先生を手伝いに残していこう。思う存分こき使っていいよ」 「げっ」と隆志。 「あー、あー、いいさ。やる気の無いヤツは、帰っちまえ!」 キリエと琥珀の後ろで『レッツゴー!インヤンマスター』九曜 計都(BNE003026)が空に高々とこぶしを突き上げた。 ふたりの間からするりと前に出ると、黒服を押しのけて隆志の横につく。 「よし、じゃああとはアタシたちで始末を付けるッスよ。なっ、隆志!」 計都は天使の笑顔で隆志の肩に腕をまわした。 「アンタは、無責任に帰るようなヤツじゃないッスよね」 「え? いや、あの……そ、そんなヤツじゃないと言われてもおじさん困るな。第一、きみとは」 「初対面? HAHAHA! 目を見ればわかるさ、ブラザー!」 「ブ、ブラザー?」 そういう隆志の目じりはでれっと垂れ下がっていた。若くて可愛い女の子に抱きつかれて嬉しいのだ。普段は自分から女の子に抱きついて、頬に往復ビンタを食らっている。 「名前は? 計都ちゃん? いい名前だね。隆志、計都ちゃんのためにがんばっちゃおうかなー?」 キャバクラでホステスを口説くオッサンの如きありさま。健全な昼下がりにいかがわしい。 バイクのエンジンがかかる音がした。 隆志はにやけ顔を流へ向けた。 「お気をつけてー」と手を振る。 黒服たちががっくりと肩を落とす。だめだ、このおっさん。 琥珀は流のバイクを見送りながら、指で首をかっ切る仕草をした。 (次は覚えてろ) ● 『NOBODY』後鳥羽 咲逢子(BNE002453)は誰よりも早く畑へおりて警戒を始めていた。 どうやらフィクサードが3人残って手伝ってくれるらしい。だったら私は少しでも早くキューリーくんをみつける努力をしよう。 「こんにちは! 遠くに居るキューリーくんとお話できる様な特別なナスビさんを知らないかい?」 咲逢子は腰を折って小ナスに話しかけた。 「なになに?」 咲逢子はさらに体をかがめて小ナスに顔を近づけた。 がさがさと葉が揺れ―― 葉の下からカエルが飛び出してきた。ぺちゃんと咲逢子の顔に張りついて、ゲコっと鳴く。 「あひゃ!?」 驚いた拍子に後ろに倒れてしりもちをついた。 ぴょん、とカエルが咲逢子の顔から飛び降りる。 醜態をあざ笑うかのように、ケケケケケとケリの鳴き声がした。 く、何たる不覚! 咲逢子はそっと体を起こすと、ひょっこりとナスの葉の上に頭を出してあたりを伺った。 セーフ。 フィクサードたちとの話し合いに夢中でだれもこちらを見ていない。 あやうく黒歴史をひとつ増やすところであった。 「最初はどうなるかと思いましたが……」 離宮院 三郎太(BNE003381)は隆志たちに笑顔を向けた。 「人数も増えたので電話対応もばっちりですね。アークカスタマーセンター開設です!」 「え、ごめん。おじさんたちアークじゃ――って!?」 隆志の後頭部を『つぶつぶ』津布理 瞑(BNE003104)が張り倒す。 「こまけーことはいいんだよ。三郎太きゅんがアークカスタマーセンターったら、うちらはアークカスタマーセンターなんだよ」 仁王立ちの瞑が隆志を睨みつける。 後ろ頭を張り倒された隆志はというと、これまたにやけ顔である。 もっとぶって、と近づいて文字通り瞑にシバキ倒された。 端でその様子を見ていた計都は、苦笑いしながら「ほいっ」と手をふるう。 肩のうえで相棒の黒猫「初名さん」がみゃうと鳴いた。 白い羽の幻が計都を中心に、茄子の葉や花、実をやさしく揺らしながら広がっていく。 リベリスタたちは言うに及ばず、フィクサードたちの背にも白く小さな翼が現れた。 指ですっと眼鏡を押し上げて、三郎太が宣言する。 「では参りますよ! いつもにこにこワンコールで対応! アークハイパーオペレーターズ出撃です!」 ――おー♪ 7つの元気な声と2つのうんざりした声が、初夏の青空に響いた。 ● 電話が鳴った。 全員の間で緊張が走る。 走り出した咲逢子へ、「茄子のヘタ、トゲがあるから気をつけて」とキリエが声をかけた。 咲逢子はうなずくと、2コール目でプルプル震えるナスをもぎ取とった。トゲが刺さらないようにナスを少し耳から離して電話に出る。 「やあ! ボク、キューリーくん。さっそくだけどキミの黒歴史を聞かせてよ」 「耳があったらかっぽじってよく聞くのだ!」 咲逢子は背筋をぴんと伸ばした。 「かなり前の話、私が軍に入ったばかりの頃だ。PC付けっぱなしにしてちょいそこを離れたんだ。その時、私はPBWのサイト、しかもキャラでログインした状態だったんだ」 ふむふむと相槌を打つキューリーくん。 「そこはかなり賑わうコミュニティの掲示板で、常に人が居るところだ。軍の上官のウェンベルト大尉がそれを見て、そのまま私のキャラでチャットを初めてしまったんだ」 つまり、お堅い上官が可愛らしい萌えキャラでなりきり掲示板に「わたしはウェンベルト大尉だ。ここはどういった集まりなのかね? 誰か簡潔に報告せよ」、なーんて書き込んじゃった? そりゃ、「うわああああああああ!」ってなるよね。リアルもネットも。 全員が咲逢子に向かって合掌、頭を垂れた。ちーん。 次に電話に出たのはキリエである。 ナスビを耳に当てたままスイカ畑にいる三郎太のほうへ顔を向けると、逆探のためゆっくり喋り始めた。 「昔、病院で働いてた頃だけど」 思いがけない告白に隆志が耳をそば立てた。隆志の表の顔は内科医である。 興味津々といった顔の隆志を無視してキリエは先を続けた。 「職場にわざわざ両親が挨拶に来て……何でもない病気を理由に、こじつけで来院してきたんだけどね」 うわ、そりゃ迷惑だ、と隆志が眉をひそめる。 「院長がじゃあ、検査しましょうって器具を取り出したら、元々小心な父がすごい勢いで診察室から飛び出して逃げ出しちゃって……。周り中に爆笑されて、それだけでも恥ずかしかったのに――」 ここで隆志が腹を抱えて大笑いしだした。 キリエが睨みつける。 「後日、父が愛人連れだったと、まことしやかに噂されてたよ。私の両親、美女と野獣みたいだから……ところでお話楽しい?」 「うん、楽しい♪ みんな黒いんだね、ボクだけじゃないんだって安心するよ。また聞かせてね♪」 そういうとキューリーくんは電話を切った。 これで残り8本。 キリエはナスを下ろすとスイカ畑を見た。三郎太と黒服2人が力なく首を振る。 (ダメか) キリエはもいだナスをカゴへ入れに向かった。 3本目を取ったのはナス畑の上空を旋回していた計都である。ぷるぷる震えるナスビを見つけるやいなや、さっと畝の間に降り立った。 「ある依頼、『<六道>不可侵聖域 (黒歌鳥ST) 』で……」 六道と聞いてこれまた隆志がタヌキ耳を立てる。 計都は5つ離れた畝の向こうにいる瞑を指差した。 「そこにいるエロ厨ニートことつぶつぶに、コクったのが人生最大の黒歴史ッス……」 おおっ、と隆志の口から歓声が上がった。 まさかのユリ展開! その現場にいたかった。 「あれ、ちょっと可愛い、胸がドキドキキュンなんて、一瞬でも思ってしまったとか、そんなことはけっしてちっともまったくないッスよ!?」 ひゅーひゅーと下手な口笛を吹かせる隆志の腰を、瞑が後ろから蹴った。ざざざ、とナスの葉や茎を押し倒して隆志が土に顔をつける。あほだ。 「なにやってんだか」とあきれ声の琥珀。 計都は一切構わずナスの向こうにいるキューリーくんに話し続けた。 「……あるんだろ、アンタにも黒歴史。まっとうな畑からドロップアウトしたのかい? アウェイで、赤いヤツとか縞々のヤツに囲まれてんのかい?」 「ち、ちち、違うよ! 縞々のヤツになんか囲まれてないよ!」 電話が切れた。 手ごたえを感じて計都はにやりと笑った。呼び出していたカラスの式神をすべて対面のスイカ畑に向かわせる。 「さすが、三郎太くん! ばっちり読みきってたっスね!」 ● キューリーくんはキュウリではない。 トマトとナス、スイカとキュウリは元をただせば同じナス科とウリ科の植物だ。だが、トマトは瓜といった感じではない。キュウリから連想されるのはむしろスイカのほうだろう。 (キューリーと名乗っているのは同じウリ科のフェイクで、ほんとはスイカに違いない!) 三郎太は早々に結論づけ、車の中で仲間に話していた。 「しかしキューリー君はどこに……」 計都の褒め言葉に麦藁帽子の下でうっすら頬を染めつつ、三郎太はスイカ畑の探索を続けた。 ふうと、腰を伸ばして息を継ぐ。暑い。ポケットからきれいに折りたたまれたハンカチを取り出して首筋を伝い落ちる汗を拭った。 上空を舞うカラスがスイカ畑に小さな影を落としているが、他に日差しをさえぎってくれるものはない。そのうえスイカ畑はくそ広かった。 2人のフィクサードに加えて咲逢子とキリエがスイカ畑に応援に来てくれているが、はたして日が暮れるまでにキューリーくんを見つけ出すことはできるだろうか。 三郎太はため息をついた。 4本目のナス電話を取ったのは瞑だ。 「黒歴史って言えば、オリキャラを晒せばいいのね! 任せなさい!」 左右異なる色合いの目を輝かせ、次々とオリジナル設定のキャラを語っていく。 鬼畜でドSなショタ、騎士翔太きゅん。 イケメン拳士で騎士きゅんの相棒、拳十瑠。 薔薇ちゃんのライバルで美少女忍者、鈴邪。 すべて自宅に保管しているイラスト付きSSノート全12巻(未完)に登場するキャラクターだ。ストーリーが完成したらラノベ編集部に持ち込むつもりらしい。 なかでも一押し、イギリスと日本人のハーフ薔薇 恋愛(ローズ ロマンス)の説明は長かった。 「戦いに“美”を求めており、活け花を取り入れた剣術“フラワーレイピニシス”を使う。趣味は盆栽、俳句、黄昏ること。生命の危機に陥ると“オーバークロック”という現象が発生し、走馬灯の様に時間がゆっくりと動き、その際人格が変わる。異次元から華を咲かせる“ノンストップロマンティック”を使用する。口癖は『駆逐するわ』。恋人は――」 「はい、ありがとう! じゃあね!」 キューリーくんはやや強引に電話を切った。 「あっ、こら。テメー、最後までローズの設定を聞け! これからがこのキャラのいいところなんだよっ!!」 ツーツーツー。 瞑はナスビを握りつぶした。 ナスの破片が飛び散る細肩にぼってりとした手が置かれる。 「寂しいんだね、つぶつぶちゃん。続きは隆志くんの胸の中で言うといいよ。さあ、飛び込んでおいで!」 瞑は砂を巻き上げながらかかとを回すと、後ろにいた隆志の顔面にナスの汁まみれの拳を叩き込んだ。 赤い血を鼻から吹き上げながら隆志がハデにぶっ倒れる。 声をあげて笑う琥珀の真下で、5本目になるナスビ電話がなった。 「もしもしキューちゃん? 聞いてよ、今日は輝かしいLv30新スキル解禁なんだぜ!!」 電話に出た琥珀の声は弾んでいる。とてもこれから黒歴史を語るようには聞こえない。 「宿敵高原を大鎌でかっ切って『お前の血でこのスーツを真っ赤に染めてやる!』っと妄想してたのにさ? 張り切って真っ白なマントにスーツを着てきたってのに。現実は畑作業でまっ茶色だぜ!」 この任務自体が黒歴史だよ、と茶色く汚れたマントの裾を振る。 「もっと聞きたきゃ聞かせてやるぜ? 金が無くて面接受けまくったらうっかり芸者のバイトが受かって女装して花形やってた事とか?」 男の同僚からラブレターを貰ったこともあるらしい。意外とそっち系なのか、琥珀!? 「警察へ迷子を連れて行く前に喜ぶ顔が見たくてさ、つい遊びに連れていっちまって……誘拐犯と間違えられたこともあるんだぜ」 「うーん、それは不運だったね」とタオルで鼻血を拭きながら隆志。 フィクサードに同情されてもなぁ、と琥珀は複雑な顔をした。 ――と、ナスビから式神カラスの鳴き声と「いた」という声が同時に聞こえてきた。 琥珀は黒光りするナスビを耳に当てたままスイカ畑を振り返った。 「キューリー君、捕らえました!」 燦々と降り注ぐ光の下で、麦藁帽子をかぶった三郎太が真っ黒なスイカを両手で高々と掲げ持っていた。 ● 畑近くの民家を(隆志が金で)まるっと借りあげて、紫陽花の咲く庭でお疲れ晩餐会が始まっていた。 「ないよ。温泉なし! はい、そこ。食べる前に手をよく洗う!」 ご飯の上に夏野菜カレーを盛りながら隆志は怒鳴った。 具はナスとトマトと鶏肉。ナスとトマトはごろっと丸ごと煮込まれており、お玉で軽く潰されてから皿に移される。隠し味はお醤油だ。 「えー、三郎太きゅんと温泉で汗を流して体を癒す予定だったのにな」 口を尖らした瞑に、まあまあといって三郎太がスプーンを手渡す。 計都は黒服の1人からカレー皿を受け取って席に着くなり呟いた。 「しっかしなぁ。真っ黒なことを気にして、の嫌がらせ電話か」 「まわりのスイカにお前だけ黒い、と言われて拗ねたのかもしれないね」 キリエがスイカを切り分けながら言った。 キューリーくんはリベリスタたちにフルボッコされて粉々になっている。いまキリエが切り分けているのはキューリーくんの周りにいたスイカだ。 咲逢子が氷を入れたグラスに水を注ぎながら「キューリーって苦と瓜かけ合わせ、だったのかな?」と言った。 「すごい! きっとそうですよ」 スプーンをもったまま、三郎太がぽむと手を打ち鳴らした。 「あたしはビールがいいっス! 隆志たちもビールだろ?」 「ない、水で我慢!」と計都に隆志が言うのを聞いて、黒服たちががっくりと肩を落とした。 そこへ出かけていた琥珀が戻ってきた。腕に缶ビール6パック2つと炭酸のソフトドリンク缶を3つ抱え持っている。 歓声が上がった。 「お待ちどうさま。やっぱ最後は冷えたビールを飲んでぷはー、で締めたいよね」 琥珀が乾杯の音頭をとる。 「お疲れさまでした♪」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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