●侍heart 日本刀。かつて日本で使用された武器だ。折れず曲がらず良く切れる、などと言われ数多く生産され、それと同時に数多くの命を奪ってきた。中には、曰くつきのものも多い。呪われているなど、怪物を切っただの、神の所有物であっただの、と実に怪しく浪漫に溢れたものばかり。 武器としての性能もさることながら、現代では観賞用としての評価が高いだろう。 時折、博物館などで展示会など催される。 今回の現場もその類だ。骨董品、特に刀剣類の展示即売会である。 参加人数は決して多くない、地方のイベントだ。体育館を借りて行われた即売会。人数は合計で30人程度だったろうか。 その全員が、一斉に体育館から飛び出して来たのである。悲鳴を上げ、顔を青ざめさせた。混乱しているのか、意味の分からない言葉を叫んでいる者も居る。 人が逃げ出し、静まり返る体育館。 開けっ放しの扉から出てきたのは、1人の鎧武者だった。がしゃんがしゃん、と黒塗りの鎧の擦れあう音が響き渡る。手にした刀は、今日のイベントの目玉ともいうべき1品。かつて無敗を誇った武将が持っていたとされる1品だ。黒塗りの鎧も、その武将の者である。 武将はかつて無敗であった。無類の強さを誇り、向かうところ敵なしであった。 ただ運だけが無かったのだ。彼の使えた家は、とても小さな地方の大名だ。度重なる戦。群雄割拠の時代についていけず、早々と他家の傘下に加わった。 その後も武将は、その家に仕え続けたのだ。戦となれば愛刀を手に戦場へ向かう日々。 その度に、彼の旅路は嵐や土砂崩れ、流行病などにより遮られてばかり。戦場に付く頃には、既に戦は終わっていた。 やがて、武将は病に倒れる。 もっと戦いたいと、そう思いながら命を散らした。 生涯、数十度の戦にて受けた傷は0。 生涯、数十度の戦にて取った首は数知れず。 名前も、刀の名も、鎧の名も残らないままこの世を去った彼の存在は、今や地方で語り継がれるのみだった。 果たして。 今回現れたこの怪異。E・フォース(鎧武者)がその武将と関係あるのかは分からない。 ただ、その手にした刀は、生涯多くの血を吸ってきたものであることだけは確かだった。 そして……。 鎧武者に続き、4人の雑兵が体育館から出てきたのである。 それぞれ手には刀を持ち。 顔には能面を付けている。 武将を含めてたったの5人。部隊と呼ぶには数が少ない。 それでも。 彼らの放つ闘気は、歴戦のつわものが放つそれと同じ種類のものだった。 ●古のhero 「E・フォース(鎧武者)と、E・フォース(雑兵)。彼らの体は、思念体でしかない。その身に纏う鎧や刀は骨董品だけど、E・フォースの力で強化されているから注意が必要」 あくまで刀は武器である。そう言ったのは、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)だ。 モニターに映る日本刀は、きらり、と刃に光を反射させた。その薄く鋭い刃は、ある種の芸術品の域にまで達しているように思う。使用されることが無くなった今でも、刀鍛冶と呼ばれる者が現代に生きている理由だろう。 人を切る道具から、人を魅せる道具へ、そのあり方を変えていった。 「もっとも、今回の相手は純粋に、人を切る道具、として刀を使っているから。遠距離攻撃はほとんどないけど、一方至近距離での戦闘には注意が必要」 先にも述べた通り、折れず曲がらず良く切れる。 それが日本刀の特徴であり、また時には人切り包丁と揶揄させる所以でもある。 そう。 切れるのだ。日本刀は。それも、あり得ないくらい鋭く、綺麗に。 弾丸を切った、なんてマンガかなにかのような実績を残している刀もある。 「鎧武者は、防御力と攻撃力に優れているみたい。また、彼の斬撃はひどく鋭く、遠距離攻撃を斬り捨てる。一方で雑兵は、それなりに高い攻撃力と、装備の軽さから来る動きの速さ、機敏さが特徴」 攻撃力が高いのは、刀の性能なのだろうか。フェーズ2が1体、フェーズ1が4体。合計5体のE・フォースは、主従のような関係らしい。 また、彼らが武器として使うのは基本的には刀だけだ。 たった1本の刀に、己の全てを賭けているのだ。 「リベリスタの中にも刀を使っている人はいるけど」 本来なら、この国から既に失われた武器である筈なのだ。それを今持ち出してきたのは、歴史的価値や芸術品としての価値、眉唾ものの伝説を楽しみ、語り継ぐためだ。 「人を切る役割はすでに終えた刀だから……」 その刀を振るうE・フォースを、一刻も早く殲滅して来てほしい。 それが今回の依頼の内容である。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月25日(火)23:22 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●古の武士 ある晴れた日。体育館から出てきたのは、古めかしい鎧に身を包み、日本刀をぶら下げた武者であった。体育館にも、コンクリートの地面ににも似合わぬその姿。見知らぬ風景に困惑しつつも、鎧武者の目的だけはハッキリしている。 もっと戦いたかった。 それだけだ。それだけを想い、それだけの為に蘇った。ここが何処なのか、自分が何者なのかももはやどうでもいい。 手にした刀は、自慢の愛刀。 身を包む鎧は、生涯自分を護り続けたモノである。 それだけでいい。 だから……。 『………退かねば、斬る』 目の前に居る8人の男女。彼らが何者であろうとも、戦ってくれるのなら、それでよかった。 ●今は遠い戦場へ 「お初にお目にかかるわね、大将。腕効きと聞いて、ひと勝負申し込みに来たわ」 刀身、柄共に少々長い改造剣を手に『薄明』東雲 未明(BNE000340)はそう告げる。それを受け、鎧武者の背後に控えていた雑兵が4体、槍を構える。それを手で制し、鎧武者は刀を構えた。 「人切り包丁か、浪漫だな」 ナイフ片手に『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)はそう呟いた。無表情に、淡々と。しかしすぐにでも戦闘に入れるように、気だけは張り詰めたままだ。 「そこなお侍の方。さぞや名のある武将とお見受けする。一つ、我等と合戦を所望したい!」 そう叫んだのはツァイン・ウォーレス(BNE001520)だ。鎧武者と相対する彼は、西洋甲冑に身を包んでいる。和と洋。国は違えど、お互いに戦う者の装備である。 『承知……。されど、名乗る名もなし。それはすでに、遠い昔に失った』 刀を正眼に構え、精神統一。 次に鎧武者が刀を下げた時、彼の纏う闘気は先ほどよりも数段、強くなっていた。 「我等の言葉は届いているか」 槍と盾で武装した少女『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)が告げる。直後駆け出す、雑兵達。刀を構え、一直線に飛び出してきた。刀に込められた気迫は、刺し違えてでも相手を倒す、という強い想いの現れか。 「OH!あれがかの有名なSAMURAIでゴザルか! リベリスタになってから、忍者とは何度か戦ったことはあるが、侍と戦うのは初めてである故、腕が鳴るでゴザルなぁ! 死してなお戦いを望むとは、敵ながら天晴れ! だが、拙者もNINJAを目指す者として、SAMURAI相手にも負けてはおられぬ! いざ、尋常に勝負!」 果たして忍者とは何なのか。口から零れる流暢な日本語。喜々として飛び出す『ニンジャウォーリアー』ジョニー・オートン(BNE003528)である。 突き出された刀を、手甲剣で弾く。同時に飛び出したユーヌもまた、ナイフを用いて雑兵を抑えにかかる。 「さあ、俺を斬り捨ててみろ。お前さんが今まで倒してきた敵のように。だが、簡単にこの首はやらない。取れるものなら、取ってみろ」 雑兵の真横をすり抜けて『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)は鎧武者へと飛びかかった。叩きつけるように振り下ろす盾。鎧武者の刀と、義弘の盾が衝突。火花が散って、甲高い金属音が響く。 「ぬぅ……」 ジリジリと押し返される義弘の盾。なるほどたしかに、歴戦の侍の力。伊達ではないということか。 「正々堂々と戦いましょう、ってのも嫌いじゃないわ。戦闘こそ存在意義だし」 そんな事を呟いて、『ツンデレ兵器』五十嵐 千涼(BNE004573)は弓を構える。集中し、番えた矢へと神経を通わせる。そんな千涼へと飛びかかってくる雑兵が2体。 「おぉ!!」 刀と剣の二刀流。閃く刃が、二刀を防ぐ。『合縁奇縁』結城”Dragon”竜一(BNE000210)が、千涼と雑兵の間に割り込んだ。 「死力を尽くせ! 兵を率いろ! 戦術を繰り出せ! 戦略を編み出せ! 俺にお前を刻み込め!」 喜々として吼える竜一。素早く左右へ展開し、時間差で振り抜かれた刀が、竜一の肩を切り裂いた。 「やってやろうじゃない!」 千涼の矢が放たれる。空気を切り裂き、雑兵を貫く。ピンポイントに首元を貫き、大きく揺らぐ雑兵。そこへ飛びかかったのはユーディスだった。突き出された槍が雑兵の腕を貫く。駆ける勢いそのままに雑兵を押し退けた。 「遥か時を経て尚、武具を介して彷徨い出て来るとは……。余程の無念があったのでしょうね」 長い金髪が、ふわりと閃く。 「これも戦い方の1つ……」 竜一と斬り結ぶ雑兵へ、背後から体当たりを慣行するツァイン。雑兵を弾き飛ばし、そのまま剣を振りあげ、斬りかかった。その隙に竜一は、千涼を庇うように移動。 少々手間はかかったが、当初の予定通りの陣形となった。 「ぐ……おぉ!?」 大上段から振り下ろされた斬撃。義弘の肩から胴にかけてを切り裂いた。飛び散る血飛沫。盾の隙間を縫った精密かつ大胆な一撃であった。 よろけた義弘の胴へ、鎧武者の蹴りが突き刺さる。重たい蹴りだ。そもそもが軽くない鎧を纏い、これだけ自在に動けていることからして、鎧武者の自力が窺える。 だが、義弘も負けてはいない。再度振り抜かれた刀を、メイスで持って打ち払う。 「兵士を全て倒すまで、俺は敢えて攻撃しない」 受けたダメージを力に替える。鎧武者の持つその技が、彼の攻撃を躊躇させる。 だが……。 『ならば、まずはお主の首、貰うとしよう』 攻撃してこないのならば、格好の餌食。気合い一閃。薙ぎ払うように下段から刀が振りあげられた。鋭い刃は、義弘の腕を、そして首筋を切り裂いた。 「どうやら素早さに自信があるようだが、拙者とてニンジャの端くれ。スピードなら負けぬ」 素早く飛びまわり、多角的な攻撃を繰りだすジョニー。それに対し、雑兵は驚異的な反射神経でもって、攻撃を回避。カウンター気味に斬撃を放つ。 一進一退の攻防。着地したジョニー目がけ、雑兵は飛びかかる。下段から襲ってくる刀を、ジョニーは手甲で受け止めた。 ジャンプし、距離をとる2人。同時に駆け出す。ジョニーの姿が二重にダブって見えた。実体すら生じさせる幻惑の武術。だが、真っすぐに突き出された雑兵の突きは、正確にジョニーの腹を貫いた。 「っぐ……!?」 よろけるジョニー。引き抜かれた刀を振りかぶる雑兵。そこへ駆け込んできたのは未明であった。鋭い一閃が、雑兵の腕を切り裂いた。 「侍じゃなくて申しわけないけどね。東雲未明、お相手させていただくわ」 後退する雑兵。立ち上がるジョニーと、剣を構える未明。2対1だが、引く気はないようだ。ジョニーの腹からは、だくだくと血が流れている。 「時代は代わったけれど、戦う者の心は変わらないはず。手加減したら駄目よ」 そう言って未明は、大上段に剣を構える。その剣に、全身のオーラを集中させる。ジョニーもまた、武器を構えた。 同時に駆け出す未明と雑兵。雑兵の刀にオーラが集まる。刀を振り下ろすと同時、真空の刃が未明を襲った。連続して放たれる無数の刃が、未明の腕を、足を、胴を、と次々に切り裂いていく。だが未明は止まらない。 「はぁぁ!!」 叩きつけるように振り下ろされる未明の剣。雑兵の刀をへし折って、そのまま後ろに弾き飛ばした。剣を振り抜いた直後、未明は地面に膝を付く。彼女の足元には、血溜まりが出来ていた。 地面で数度バウンドし、素早く立ち上がる雑兵。 だが……。 「御免!」 一瞬の隙を突き、その首をジョニーが斬り飛ばす。吹き飛ばされると同時に駆け出し、背後に周り込んだのだ。一閃。ただそれだけ。忍びらしく、容赦も無駄もない命を刈り取る一閃であった。 雑兵は霞と化して消えうせる。地面に転がったのは、ただの1本、折れた日本刀だけであった。 鋭い突きが、ユーヌの肩を貫いた。血飛沫が舞って、ユーヌの頬を赤く濡らす。ユーヌの手から零れ落ちたナイフが、地面に転がった。 「少し黙れ」 震える拳で雑兵の腕を殴るユーヌ。肩の傷が広がり、血が溢れた。だが、触れるだけで十分。雑兵の身体が凍りつく。 咄嗟に刀を引き抜き、背後へ下がる雑兵。ナイフを拾い上げ、ユーヌは呟く。 「立派な置物だな?」 凍りつきながらも、雑兵は刀を振り抜いた。真空の刃がユーヌを襲う。胴が切り裂かれ、血が溢れる。 「っぐ……」 腹を抑え、膝を付くユーヌ。凍りつく雑兵。直後、雑兵の頭部を1本の矢が貫いた。 氷が砕け、雑兵は消える。地面に転がる刀が1本。 「こちらの攻撃に対応できないタイミングを狙えば、十分『攻撃は当たる』のよ」 矢を放ったのは、千涼だ。弓を構え、意識を集中させていた。当たるタイミングを逃さず、確実に当てる為に、じっと戦場へ意識を配っていたのである。 集中に集中を重ねた結果か、その額にはびっしりと細かい汗が浮いていた。雑兵の撃破を確認し、千涼は再び、集中に移る。 「やれやれ、未練がましいな。既に骨董品、不要品」 足元に転がった日本刀を拾い上げ、ユーヌは一言、そう告げた。 真空の刃が千涼を襲う。刃が彼女を切り裂く寸前、その間に竜一が割って入った。身体中に切傷を追いながら、竜一はふっと笑って見せる。 「守る為に戦う、それが俺の武の形さ」 血を流しながらも、笑う竜一。2刀を構え、前へ出る。そこへ襲いかかるのは、2体の雑兵。ユーディスとツァインのブロックを抜け、弓を持った千涼へ狙いを移し変えたのか。 弓を狙うのは、それが刀の天敵だからだろうか? 折れず、曲がらず、よく斬れる。とはいえ射程は、非常に短い。槍と相対した場合でさえ、刀でそれに勝つには相手の3倍の力量が必要などと言われるのだ。弓矢なら尚更。極端な話、矢を番え放つだけで刀では防ぐ事も厳しい。 それゆえに、脅威と感じたのだろう。 問題は1つ。千涼の身を守る、竜一の存在だ。 竜一の放つ真空の刃。鋭い一閃が、雑兵の脚を切り裂いた。よろける雑兵。その額に、千涼の放った矢が突き刺さる。霞と化して消える雑兵。残るは1体。 その時だ……。 「ぐ……おぉ!!」 鎧武者の相手をしていた義弘が、ドサリと地面に倒れたのは。 義弘が倒れた原因は混戦であった。彼の声は、仲間に届かず、また思いの外鎧武者の攻撃が、彼の体力を大きく削ったことにある。 流血、致命。回復に回る隙も与えられず、義弘は倒れた。 倒れた義弘の首をとるべく、鎧武者は彼の頭部へ手を伸ばす。鎧武者の手が義弘の頭を掴む、その直前、手甲に包まれたその手を、ツァインの剣が打ち払った。 「お待たせした……ツァイン・ウォーレス、参るっ!」 剣を手に、鎧武者へと斬りかかるツァイン。剣と刀が撃ち合い、甲高い音を響かせる。 ツァインが、鎧武者の抑えに入ったその頃。ユーティスは、残る1体の雑兵と獲物を交えていた。剣と槍が激しく打ち合う。 「さぁ。存分に、思い晴れる戦いと参りましょう」 リーチで勝るのはユーティスか。しかし、速度で勝るのは雑兵である。雑兵は、槍の真下を低姿勢で駆け抜け、擦れ違いざまにユーティスを斬りつけた。 斬られたのは脚だ。ガクン、とその場に膝を突くユーティス。急停止した雑兵が、返す刀で再度ユーティスの首を狙い、斬りつける。 その時だ。ユーティスの耳に、千涼の声が届く。 「刀の動きを良く見て…………今!」 放たれた矢が、雑兵の持つ刀身に当たる。僅かにずれた刀の軌道。ユーティスの頬を掠め、地面に突き刺さる。 一瞬の隙。それで十分だ。ユーティスの槍が鮮烈に輝く。まっすぐ、雑兵の胸を貫いた。 「さぁ、鎧武者を包囲しましょう」 残る敵は、鎧武者ただ1体。 激しく打ち合うツァインと鎧武者。武者の放った一撃が、ツァインの身を切り裂いた。声にならない悲鳴をあげて、バランスを崩すツァイン。苦し紛れに放った剣は、しかし極僅かな動作で回避される。 異常なまでの見切りの技術。それが、生涯無敗。生涯無傷の秘密であった。当たらなければ、負けることはない。傷を追う事もない。 ましてや矢や鉄砲など、真っすぐ飛んでくるだけである。彼にとってはそんなもの、斬り捨てることなど造作もない。 千涼の放った矢は、スパン、と空中で斬って落とされた。 旋回する刀身。ツァインを襲う。 「おっと!」 刀を弾くのは、力任せに振り抜かれたメイスであった。額から血を流し、荒い呼吸を吐きながら、それでも立ち上がるのは義弘である。 「狂気の盾の意地、見せてやるさ」 口の端を伝う血を拭い、にやりと笑う義弘であった。体勢を立て直したツァインが、鎧武者の右へ。駆けつけたユーティスは、鎧武者の左へと周り込む。 「さぁ、背水の陣だ。見せてみろ、無双の武を! 絞りつくしてやるぞ、不敗の武を!」 二刀を手に、竜一が鎧武者へ斬りかかる。全力を込めた大上段からの斬撃。デッドオアアライブ。咄嗟に刀を振りあげる鎧武者だが、その瞬間、包囲網の間を縫って飛び込んだジョニーが、手甲で刀を受け止めた。 「鎧武者1体を囲む図となるが、貴殿とて戦士である以上は覚悟はしてたでゴザろう」 ギリ、と手甲に付いた刃が欠ける。鋼の刃をものともしない斬撃だ。 「二の太刀要らずが流言か否か、その手で証明してみなさい!」 ジョニーのフォローに回る未明。剣を突き出し、鎧武者の刀を喰い止める。盾で3方向を塞がれ、刀の動きも止められた。竜一の斬撃が、鎧武者を切り裂いた。 顔から胴にかけて、一閃。 そして……。 「二の太刀要らずか? いや、壱の太刀も不要だな。どうせ二度と振ることもないだろう?」 竜一の後に続くユーヌ。その背後には、不吉な影が揺らめいていた。 ●遥か遠くへ 不吉な影が蠢いた。どろどろと地面を這い、鎧武者の身体を覆い尽くす。不吉をもたらす災いの影だ。 沈黙が続く。数秒か、数十秒か。 だが、変化は一瞬で訪れた。一閃。影を切り裂き、刀が旋回する。近くに居た竜一とユーヌ、ジョニーと未明の4人を纏めて切り裂く薙ぎ払い。 降り注ぐ血飛沫の中、鎧武者は立ち上がった。影を切り裂き、血を浴びて、刀を掲げる。 影に蝕まれた鎧はボロボロだ。竜一やジョニー、未明の攻撃により鎧も刀も、傷だらけ。 しかし、未だその身に纏う闘気は莫大。初めて味わう逆境に心が猛っているのだろう。 『我……無敗、也』 擦れた低い声である。集中の後に放たれた、千涼の矢も、鎧武者は難なく斬り捨てる。一瞬の隙を突いて、槍を突き出すユーティス。極僅かな動作で、回避される。 カウンター気味の斬撃。ユーティスの肩を切り裂いた。 ゆっくりと、大上段に刀を掲げる鎧武者。刀身に纏う強大な闘気。受けたダメージを威力に反映させる、そんな剣技だ。 地面を蹴って、駆け出す鎧武者。叩きつけるような斬撃が繰り出される。裂帛の気合と共に放たれる一閃。まさに一刀両断。 ツァインはそれを、真っ向から受け止めにかかる。 「ガァァァァァァァァァァァァァアアアア!!」 盾を投げ捨て、剣を掲げる。鎧武者の刀は、しかし、ツァインの剣を薙ぎ払い、その肩から胴にかけて大きく斬り裂いた。ツァインの剣が、大きく欠ける。噴き出す鮮血。二の太刀要らずの示現流とはよく言ったものだ。並みの人間では、その刀を受け切ることさえできなかっただろう。 震える手で、ツァインは剣を振りあげた。 しかし……。 「ガ……ァ、あ」 グルン、とその眼が裏返る。白目を剥いて、倒れるツァイン。鎧武者もまた、刀を振り下ろした姿勢のまま停止している。渾身の一撃を放ったことにより発生した大きな隙。 「っ……!?」 その隙を逃さず、動き出した他の仲間たち。一斉に鎧武者へ武器を向ける。 だがしかし、それを制止したものがあった。 「……っく」 倒れる寸前、ギリギリのところで復活を果たしたツァインである。一度は戦闘不能になった身ながら、全身を巡る闘気は十分だ。掲げた剣が鮮烈に輝く。 「お手前見事……。手合わせ感謝する」 振り下ろされるツァインの剣。最後に残った力を振り絞ったその攻撃は、酷く不格好なものだった。事実、鎧武者の首を切り落とした後、ツァインは地面に倒れ伏した。 意識を保つのがやっと、と言った状態のツァイン。 そんな彼の眼前に、刀と鎧が転がった。 「さて、帰りましょう」 弓を仕舞い、千涼は言う。額に手をあて、大きなため息をこぼしてみせた。集中を重ね、疲労がたまっているのだろう。それでも彼女は、そっと手を伸ばし、傷だらけのツァインに肩を貸して歩く。 後は、アークへと帰るだけなのだから。 生温い風が吹く。湿気を多分に含んだ風だ。もうじき、雨が降り出すのだろう。 刀と鎧の転がる体育館前広場。地面に出来た血だまりも、雨が洗い流してくれるだろうか。 足早に戦場を後にする仲間達を見送って、義弘は1人、逆方向へと足を向けた。 その手には、1本の酒瓶。向かう先は、名も知らぬ、歴戦の鎧武者の墓所である。 「さて……酒でも供えに行こうか」 パラパラと降り始めた雨に濡れながら、義弘は1人、誰にともなくそう呟いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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