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<黄泉ヶ辻>ヴォカリーズ・スピーカー


 ――♪

 鼻歌交じりに聞こえる声に少年が眉を寄せたのは悪趣味が故だろうか。
 楽しげに幾度も人間の腹部へと手を突っ込みかき混ぜる少女の行為は残虐であれど、彼女にとっては『当たり前』であったのだ。
「ボク、内部に音を反響した方がきっと楽しいと思うんだけど」
「やだ、あたし、この鼓動も、このぬくもりが奏でるであろう音も、全部聞きたい」
 ぷう、と唇を尖らせた少女は赤く染まった夏用の学生服をじ、と見詰める。きたないとその場に似合わぬ言葉を漏らし、幾度もその臓腑へと手を伸ばした。
「内蔵っていうか、内臓スピーカーって感じだもん」
 楽しいじゃないと鼻歌交じりに一言。彼女は体の内部の音がとても好きだ。例えば、誰かに抱きついた時にその人の胸に耳をあてることが好きだとか、息を吐く音が好きだとか、そういう物だ。人体の発する音が彼女にとっては心地のいい音なのだ。
「いっそ、お前は母さんの腹の中にでも戻れば良いじゃん」
「出来る事ならそうしたいけど、あたし、落ち着きがないからママのお腹も蹴破っちゃうかも」
 コツコツとなる骨の音、未だに生暖かい人間の体を抱き締める様に寄り添ってその胸へと耳を当てた。
 静かに聞こえる音が、心地よくて。嗚呼、もっと聞かせてくれないかしら、その音を全部全部全部!


「食中りです。間違いなく食中り。――というわけで、『黄泉ヶ辻』の対応をお願いしたい訳です」
 何処か青ざめた『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)の対応がおざなりなのはその説明から逃れたいからであろうか。
 フィクサード主流七派の一つ『黄泉ヶ辻』が起こす事件は常に『気色悪い』ものが多い。味覚やお伽噺に例える事が大好きな夢見がちフォーチュナはソレを食中り、と例えたのだろう。
「黄泉ヶ辻のフィクサード。女の子の方が七竈で男の子が秋桐よ。姉弟で、姉が人間の奏でる音が好き。弟が人間を苦しめるのが好きといった感じ」
 どっちが歪んでいるかは甲乙つけがたいけれど、と世恋はリベリスタを見回す。彼等の性癖は一先ずおいても、それが一般人へと発揮される事が一番危険なのだ。
「七竈が今回行っているのは、人間の音の収集よ。例えば心臓の鼓動、それから内臓の動く音。ちょっとジョークっぽく言うならば『内臓スピーカー』ってところかしら」
「ソレに対して、弟は……?」
「どっちかって言うと内臓を抉る音が好きなので、『内臓マイク』? ジョークにしても面白くないわね」
 さらりと告げる世恋の顔色もあまりよくはない。七竈は人の腹を開きその音を聞こうとするのだと言う。中の音。隠された骨から響く音。どれだって、心地が良いものなのだから――
「彼女たちはとある学校に攻め込んでいるわ。そこで、子供達の『音』を集めようとしているの。
 皆にお願いしたいのは七竈達の撃退と、子供達の保護よ」
 その場所に付いた頃に彼女たちは凶行を始めているだろう。まずは子供を庇った教師の体を抉り、その心臓が止まるまで耳を傾け、臓腑の奏でる音に酔いしれて微笑むのだろう。
 死んでしまえばまた違う物を探せばいい。そう考える少女ならではの行いだとも言える。
「到着時にはもう彼女たちの凶行は始まっているでしょうね。出来る限りで良いの、どうか救って……!」
 お願いね、とぎゅ、と両手を合わせ、祈る様に世恋はリベリスタの背を見送った。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:椿しいな  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年06月15日(土)22:49
こんにちは、椿です。元凶はあさこのパソコンが内蔵マイクだったから。

●成功条件
・黄泉ヶ辻フィクサードの撃退
・子供過半数の生還

●場所情報
時刻は昼。とある村の小学校。非常に小規模であり、先生は2名。子供は10人程度です。
建物の周囲は木に囲まれており、校門に当たる側には広場(グランド)が隣接。背後は林になっています。
窓は多めですが教室の数は2つ程度であり、今は全員が片方の教室に集まって居ます。(教室はあまり広くなく(30m程度、天井も低めです)
リベリスタ到着時には子供を端に追いやり、最初に子供達を守ろうとした教師の惨殺をフィクサードはとても楽しそうに行っています。

●黄泉ヶ辻フィクサード『七竈』
姉。ビーストハーフ(蛇)×ソードミラージュ。Rank2まで使用可能。一般非戦スキル有。
人体の奏でる音が大好きであり、他人を殺してでもその音を収集する性癖を持っています。夏用のセーラー服を見に纏い、ナイフを手にしています。
秋桐に言わせれば『頭が狂って』おり、非常に欲深い少女です。鼻歌が好き。

●黄泉ヶ辻フィクサード『秋桐』
弟。ビーストハーフ(蜘蛛)×ホーリーメイガス。Rank2まで使用可能。一般非戦スキル有。
人体を傷つける事が大好きであり、特に内臓を抉るのが大好きです。落ち着いており、何処か冷めた雰囲気も持っています。学ランを着用し、杖を手にしています。

●黄泉ヶ辻フィクサード×5
七竈と秋桐の姉弟に付き従うフィクサードです。インヤンマスター、レイザータクト、デュランダル、ダークナイト、覇界闘士の五名。種族は雑多。

●子供×10
共にいた教師2名は死亡済み。小学生程度の子供が10人教室の端に追いやられています。
フィクサードの狙いは子供達の体そのものが奏でる音であり、替えなら幾らでもある為に殺す事に対しての躊躇いはありません。

どうぞよろしくお願いいたします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
マグメイガス
高原 恵梨香(BNE000234)
スターサジタリー
ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)
デュランダル
富永・喜平(BNE000939)
クリミナルスタア
遠野 結唯(BNE003604)
クロスイージス
リコル・ツァーネ(BNE004260)
ナイトクリーク
纏向 瑞樹(BNE004308)
ミステラン
シンシア・ノルン(BNE004349)
スターサジタリー
クラウディア・フォン・クラウゼヴィッツ(BNE004519)


 降り注ぐ日光を受けながら、目を凝らす『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)は髪で揺れるルビーの髪留めに指で触れ、小さくため息をつく。
(子供を守ろうとしたものを襲い、苦しむ声を聞いて喜ぶ……まるで、『アイツ』と同じだ――)
 幼い頃、フィクサードに襲われた経験を思い出しハイ・グリモアールを抱きしめる恵梨香の指先がかたり、と揺れた。恵梨香は何よりも任務に忠実であった。彼女にとってのフィクサードはその定義そのもの。私利私欲が為に他人を貪る狂人は家族を守ろうと立ちはだかった母を殺し、そして――
「大丈夫?」
 何処か心配そうに声を掛けた『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)に恵梨香は小さく頷いた。ゆっくりと板張りの廊下を歩みながら、マグナムリボルバーマスケットに手を添えたミュゼーヌが恵梨香を振り仰ぐ。
「敵はどちらに?」
「――行きましょう」
 索敵する恵梨香の声に気品を滲ませる仕草でスカートの裾を摘み上げた『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260)が「了解しました」と微笑んだ。
 ただ静かに何かを考察する『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)の隣、閉まった扉へと手を添えて一気に踏み込んだミュゼーヌが投擲した神秘の閃光弾が室内に居たフィクサードを狙い撃つ。蒼白の閃光が周辺を覆い、フィクサード達の視界を覆う。だが、その中でも子供の前で教師の体を抉り続けて居た七竈にはその効果を表さない。
「お客様? ねえ、アタシ達と遊びにきたって」
「遊び……? そんな可愛いもんじゃないけどね。黄泉ヶ辻の目的に何て興味はないよ。――未来を、奪わせて堪るか!」
 最早、絶命してるであろう教師の体を抉る音が『先祖返り』纏向 瑞樹(BNE004308)の鼓膜を叩き続ける。唇を噛み、白妖が放つ気糸はレイザータクトに絡みつく。その動きを阻害しながらも、振り向いた其処へと走り込む『樹海の異邦人』シンシア・ノルン(BNE004349)がちらり、と黄泉ヶ辻へと視線を送った。
「……話には聞いてたけど、本当に酷い事を……!」
 手にした魔弓を向けたまま、見詰めたのは秋桐と云う名のホーリーメイガスだ。再度重ね撃つフラッシュバン。『紺碧の夢』クラウディア・フォン・クラウゼヴィッツ(BNE004519)が放ったそれは仲間達からは予想して居ない攻撃である。仲間を撒きこまない様にと判断し投擲したものはフィクサードに掠め、前線の者の動きを止めた。
 広い教室を貫く用意恵梨香の放つ魔力の砲撃がフィクサードの体を貫く。ソレに続く様に打撃系散弾銃「SUICIDAL/echo」を振り上げて、前衛のデュランダルの動きを牽制した『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)が破壊力に満ちた巨大なエネルギー弾を放ち出す。
 フィクサードの動きを遮ったのはミュゼーヌ、瑞樹、喜平だ。前線で教師の体を抉り続ける七竈の前に立ちはだかったリコルがそのかんばせに優しげな笑顔を浮かべて、微笑んだ。
「お楽しみ中、失礼します! 無抵抗同然の一般人様方と戯れられるよりわたくし共のお相手をお願いします!」
 裾の長いヴィクトリアンメイド服の裾が捲くれ上がる。直ぐ様に反応した七竈の刃が双鉄扇へとぶつかる。同時に彼女がその身に与えたのは全身のエネルギーを特化させる事だ。主人を守るために力を得た従者が守る者の為に立ちはだかった。
「どこの国にも、いつの世にも、こういった人たちは居るのでしょう。愛する事では無く、傷つけたり殺す事でしか関係を保てないようですね。分かり合おうとは思えません、残念ながら……」
 魔力銃の銃口は真っ直ぐにフィクサードへと向いている。苛むものを打ち払う事ができずに動きを止めて居たフィクサードの中で、中衛に居たダークナイトがにやりと笑う。
 その笑みにさえもミュゼーヌは苛立ったようにマグナムリボルバーマスケットを握りしめた。かた、と揺れる指先に目の前に立っていたリコルから視線を逸らした七竈が血濡れのセーラー服の裾をひらりと揺らしミュゼーヌを見詰めた。
「――ねぇ、どんな音を奏でて欲しい? 骨を粉砕されたい? 内臓をシェイクされたい?」
「されたい、じゃなくて、したいかなぁ」
 そう、とミュゼーヌは小さく囁いた。意志の強い――それで居て優しげな水色の瞳が今は強い憎悪を湛えて細められる。その意味を感じとった様に七竈という少女は狂気を浮かべて微笑んだ。
「……私はね、貴女達が心底嫌いなのよ、黄泉ヶ辻ぃッ!」
 がちゃ、音を立てて向けられる銃口が弾丸を打ち出した。


 此処は学び舎。そして、夢と希望に溢れた子供達の目の前で白昼堂々行われる凶行には心底『尊敬』せずには居られないと喜平は肩をすくめる。へぇ、そうなんだと浮かべた笑みに続けて、アルティメットキャノンを打ち出した。その衝撃にデュランダルの足が震える。
「……潰す、お前らの肉も骨も命も尊厳も、何もかも」
「黄泉ヶ辻は本当に異常者ばかりだな」
 それ故に狩り易いのだと結唯は自覚していた。Faust Rohrを備え付けた指先を向け、子供達を狙うであろう敵の往く手を遮ろうと彼女はその標的を狙いこむ。
 常識に不在しないものがある。ソレこそが異常者だと結唯は黙し考え込んでいた。今度は此方がその体で奏でれば良い。しかし、常識と言う世界では異常者は罪には囚われない。それこそが『異常』であるからだ。
 往く手を遮られてはいなかったインヤンマスターの氷雨が子供達をも狙い降り注ぐ。辛うじて、それから一人の子供を庇う恵梨香が顔を上げた。逃がそうと支援を行う彼女はハイ・グリモアールを開き、四色の光で秋桐を穿つ。回復手である彼を落とすのが定石であるとそう考えて居るからだ。
「……ッ、全く以って趣味が悪い……」
 性質も全てが何から何まで自分の心的外傷(トラウマ)と合致している様に思えてくるのだから本当に仕方がない。分陰して居た己の心の中。悪夢の再現に冷静で居られるわけがない。震える指先で、狙いを定め、傷を負って泣き叫ぶ子供達を自身等が入ってきた扉から出るように促した。
「さぁ、皆、お友達を連れて早くに寝て! 大丈夫、必ず助けるから!」
 敵を狙いながら弾丸を放ち続けるミュゼーヌが視線を送る。震える子供達を奮い立たせる言葉に、支援する様にクラウディアが子供達への射線を塞ぐように絶ち回った。
「余所見しないで、私を見て…でないと、無惨に撃ち殺すわよ」
 その声に笑うフィクサードを見詰め、クラウディアは唇を噛み締める。分かり合えないならば、掛けるべき答えが見つからなくて。
「……言葉じゃ、分かり合えませんからね。斃せないにせよ、止めなくてはいけませんッ」
 魔力銃が放つ弾丸がミュゼーヌのものと重なり雨の様に降り注ぐ。子供達の前に立っていたシンシアが撃つぞと言わんばかりに魔弓を向けて居た。その注意を引きつけて自由に動かせない様にすると言う意味を持つ『牽制』をシンシアはその身を以って行っていたのだ。――しかし、フィクサードは音が聞きたいだけなのだ。
「面倒だなあ。沢山の音を聞くなら、全部殺せば良いじゃない?」
 ね、と微笑んだ七竈の声に頷く様にダークナイトの黒き瘴気が子供を襲う。フィクサードと子供の間に入りこんでいた瑞樹が「いけない」と子供へと声を掛けた。
「先生が体を張って守ろうとした命なんだ。絶対に、奪わせるか! 音が聞きたいなら私のものを聞いてみなよ!」
 8人と数の多い筈であったリベリスタの中でも、真っ先に攻撃を受け続ける事になったのは、子供と同じく、後衛に立っていたシンシアであった。射線を塞ぐように子供の撤退支援を続ける瑞樹達もやはり回復手が居ない以上傷を負うことには違いなかったのだ、牽制を行い続けるシンシアが避ける術は其処にはなかった。
「人は音を奏でる為のスピーカーではございません。命をもて遊ぶ愚行……私が止めて見せます!」
「メイドさんって初めて見たんだけど、本職? おねーさん可愛いねぇ」
 へら、と笑う七竈の表情に正しく狂っている事を実感したリコルは怯える事も無く優しく微笑んだ。有難うございますと言葉を交わすと同時、その強い意志と膂力を爆発させて、終焉への引導を渡す強い一撃を放つ。
 ナイフがリコルの腕を抉る。ぐちゃ、と音を奏でるたびにひひ、と薄らと笑みを浮かべた姉の姿を攻撃を真っ先に受け続ける後衛の弟が気持ち悪いと言う様に全てを回復し続ける。
「今度は私がその体で音色を奏でてやろう……さあ、異常者狩りだ」
 攻撃が秋桐へと続けられる。反撃する様にレイザータクトが放つフラッシュバンはリベリスタではない子供達を狙っていた。革醒者と違い子供達はその攻撃に耐えられるものも少ない。回復手たる秋桐の手がかた、と震える、膝をつく。
 敵陣を走り、赤い月を昇らせる瑞樹の体へと放たれる神秘の光り。焼き尽くす様なソレに歯を食いしばり、彼女は度の様な声も上げる事はない。その恐怖も、痛みの叫びも全てが彼等の趣味趣向に合致してしまうのであれば――
「その程度で私を傷つけたつもり?こんなの、痛みのうちにも入らないよ!」
 嗜虐心を煽り、子供達から視線を逸らす事が出来れば定石だと考えて居た。その中でも、黙し、遠距離から攻撃を与える結唯へとダークナイトが放ったのは彼女ごと貫き通すシュヴァルツ・リヒトだ。子供の体が転がり、赤い血が周囲へ広がる。臓腑を抉る音が、骨が拉げる音が聞こえ、七竈が狂気に狂ったように笑った。
 幻惑の武技から生まれる幻影が実体すら得てリコルの体を切り裂いた。反撃する様に彼女が放つ攻撃は彼女のとっておきだ。リコルは七竈の往く手を遮るほかにも、仲間達を支援する事が重大な役目になっていたのだ。
 倒れてしまったシンシアに、後衛で攻撃を受け、膝をついている結唯。その二人を背に全てを貫く恵梨香の表情にも焦りが浮かんでいる。3名の子供達が教室を飛び出したが、多数の子供達は命を失っている。未だ教室に残る子供が泣き叫んでいた。
 前線で戦い続けるミュゼーヌ、瑞樹、喜平、リコルが近付く事を阻害し、後衛で子供達に危険が及ぶ際には庇っていた恵梨香。支援を行うクラウディアの6名のリベリスタも精一杯といった様子であった。
「あーあ」
 ぽつり、と七竈が零した声に、瑞樹が顔を上げる。それは、ある意味で喜ばしい声であった。白妖が秋桐の体へと深く突き刺さる。時期外れな学ランをも貫通し、血を滲ませたワイシャツに少年が小さく笑いを漏らした。
「なあ、少年、人が壊れる『音』を偶にはじっくり聞いてみようかと思うんだよね。
 ――だから、遠慮なく壊れてくれても良いよ」
 圧力をかける様に、自身へと標的を向けさせるような言葉に秋桐は笑顔を浮かべる。回復を行っても己が持たないと思ったのだろうか。最大限、魔力の矢を作り出し、それを瑞樹の胸へと撃ちこんだ。
「――そんなの、痛くないよ?」


 七竈と言う少女は人体が鳴らす音が聞きたいのであった。ソレは実力者であれど一般人であれど変わりなく。人体である事が魅力的である他にない。狂い切った少女は誰かが鳴らし続ける音が聞きたいだけであった。
 クスクスと笑みを浮かべる彼女の攻撃をリコルが受け止め続ける。執拗な攻撃は骨まで届く様にと同じ場所を狙い続けて居た。注意が逸れたとリコルは感じた瞬間に注意深く七竈を抱きよせる。左胸が奏で続ける鼓動に七竈が目を見開き楽しげに微笑んだ。
「アークのリベリスタが奏でる音は如何でございましたか? 稚い子供達のか細い心音より力強うございましょう?」
 子供達の安全が優先だとリコルは知っていた。けれどこの悪趣味な姉弟を逃せば同じ悲劇が繰り返されると知っていたのだ。ソレだけは何としても防ぎたい。己の音を聞かせ、己に興味を示す学生服の少女がメイドさん、素敵だね、と微笑んだのを確認し、再度双鉄扇を握りしめた。
「もっとお聴きになられたいのでしたら、わたくし共を倒してからにして頂きましょう!!」
 リコルを横から攻撃するダークナイトの体をミュゼーヌの弾丸が襲いかかる。From teddy bearが彼女の胸元で跳ね上がる。青いリボンと付けた白いテディベアがミュゼーヌへと力を与える様であった。
「あのね、平穏な世界に生きる何も知らない子供が、理不尽に命を脅かされる事がどれほど恐ろしいか…貴女達に分かる?」
 その言葉にきゅ、と掌を強く握りしめた恵梨香の表情が歪む。幾らその身に力を得ても癒えない心がそこにはあるのだ。ミュゼーヌも恵梨香も、どちらも何かを守るために懸命になっていた。しかし、教室の端に倒れている子供の死体は逃げ遅れた証拠であった。
 瑞樹が唇を血が滲む程に噛み締める。最初、飛び込んだ時に彼女たちはフィクサードの動きを止める事に終始していた。無論、子供を助けることにも気を配ってはいたのだが、突然攻撃を与え、戦闘行為を行いながらという状況は一般人である子供達を恐慌状態に陥らせるには容易い。
 何処から退避するのかを示す事が出来なかったリベリスタ達に幼い子供達は『外へ出て』という言葉にワンテンポ遅れた行動を見せたのだろう。庇い手が一人しか居なかった状況では逃がし切ると言うのは余りにも酷であった。それ故に、過半数以上の命が失われてしまっていたのだ。
「――未来は絶対に奪わせてたまるかッ! これ以上はさせない!」
 叫ぶように、傷だらけの体で瑞樹は飛び込む。インヤンマスターの体を縛り付け、動きを阻害した所へとミュゼーヌの弾丸が撃ち込まれる。ついで、クラウディアが魔力銃から火を噴かせる。
「貴女の趣味が殺す事なら、私達の矜持は生かす事ですから」
 これ以上はやらせはしないと、撃ち続けるハニーコムガトリング。重なり合う弾丸の雨に彼女たちの矜持が乗せられる。前線で闘う覇界闘士を喜平のエネルギー弾が横面を吹き飛ばす。倒れこむ彼の体を越え、残った七竈へと打撃系散弾銃「SUICIDAL/echo」を向ける。
 弟の秋桐を喪い、支援を失くした七竈とてこの状況が良い物で無いと実感している。未だ自身の往く手を阻むリコルはその身の防御力により、倒れる事が無く、彼女の前に立っている。
「もう『お終い』で御座いますか?」
「――もっと、聞かせてくれるの?」
 少女の下へと飛び込んで、ミュゼーヌのマグナムリボルバーマスケットが向けられる。打ち出される弾丸がフィクサード達を襲い、無力化していく中でも彼女の眼は憎悪に染まっていた。
「もう一度言うわ、私はね、大嫌いなものがあるの。心底嫌いなものがね。それは貴女よ、黄泉ヶ辻ッ!」
 打ち出される弾丸が覇界闘士の体へと降り注ぐ、避ける様に動く七竈をリコルは遮り、その体へと渾身の一撃を与えた。終焉を与えるべくして、貫かれる力に少女の内臓が抉られる。
 ごぽ、と唇から零れる音に、七竈が小さく笑みを漏らした。人体の漏らす音――内臓スピーカーが発信した音だ!
 悪趣味な様子にクラウディアが黄泉ヶ辻の存在を正しく認識したと言う様に溜め息をつく。狙う弾丸が彼女の横腹を切り裂き、喜平のエネルギー弾が降り注ぐ。
「そう言えばね、挨拶を忘れてたよ。でも、挨拶も問答も……そういう上品なものはする気分じゃない」
 よって、選ばれる行動は敵を殺す唯それだけだった。凶行には凶行を重ねる様な攻撃に、骨が拉げる音に変質的な性癖を抱いた少女は嬉しそうに声を上げる。
「もっと、さあ、もっともっと――!」
 彼女の声に、眉間に皺を寄せ、唇噛んだ恵梨香がハイ・グリモアールを握りしめる指策の震えを抑える様に両手で武器を持ち直し、珍しく声を張り上げる。
 其処に居るのは一人の戦士である以前に一人の少女であった。
「アタシは復讐の業火。敵に掛ける慈悲は一片もないわ。必ず打倒して滅ぼす――!」
 恵梨香の四色の光が七竈へと降り注ぐ。光るそれに少女が目を伏せると同時、痛い痛いと叫ぶ様な声が彼女の耳を劈いた。
「苦痛の声が聞きたければ、永遠に地獄の炎に焼かれ続ける自分の声を聞いてるのね」
「ほら、言ったでしょう。余所見するからこうなるのよ……無様に撃ち殺してあげる」
 一つ銃声が響き、少女の頭を貫いた。目を見開いたままの七竈はその噎せ返る様な香りをさせる様に最後に一つ笑みを漏らして、ぱたり、と倒れた。
 狙われる事が無かったダークナイトが怯えた様に窓から脱出を図る。その背中を見送り、手を降ろした恵梨香がへたりと座り込んだ。
 彼等の思想や性癖にどんな過去や不幸な境遇があったとて関係など無かった。ただ、凶行の理由にはなりはしないのだから。
「……アタシは、もうあの時の無力に泣きじゃくる子供じゃない……」
 きゅ、と袖を握りしめる恵梨香に視線を遣り、ゆっくりと歩く喜平が教師の体へとロングコートを掛けて黙祷を送った。教え導き、未来を守ろうとした正し教師に敬意を示す喜平の隣、しゃがみ込み教師の手を握りしめた瑞樹が目を伏せる。
「貴方達が体を張ってくれたからこそ、子供達は、少しでも救われたのです。どうぞ、安らかに……」
 ミュゼーヌは廊下から顔出した子供を抱きしめる。教師や友人を目の前で惨殺された子供が泣きじゃくる声を聞き、大丈夫と小さく囁いた。
「怖い怖い夢は終わったの……大丈夫、もう大丈夫だから……」
 凶行が終わった教室で、彼女はただ、震える子供を抱きしめ続けた。

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
お疲れさまで御座いました。
黄泉ヶ辻なのでした。内臓スピーカーなのです。
判定はリプレイに込めさせて頂きました。

ご参加有難うございました。
また別のお話しでお会いできる事をお祈りして。