● ざぁざぁと雨が降っている。 周囲を見渡しても、空を見ても晴れているのに、そこだけに雨が降り注いでいる。 しかもかなり激しく――だ。 不意に、ぴたりと雨が止む。 『クスクスクス……』 雨が降り注いでいた場所の中央に見えるのは、降っていた時には見えなかった少女の姿。 浮かべる笑みはどこか無邪気であり、そしてどこかドス黒くも見える。 『ねぇ、遊ぼうよ』 周囲に誰もいないのに、少女は求めるように言った。 『外に出られるようになったんだよ、遊びたいなぁ……』 少女は廃屋の残骸を1歩、また1歩と踏みしめ、『それまで閉じ込められていた』場所から外を目指す。 まだ最後の檻となる塀が残っているが、そこを越えれば少女の待ち望んだ外の世界が待っている。 『わたしね、病気に勝ったんだよ? だから、いっぱい遊べるんだ』 虚空に向け、少女は言う。 私はここにいると。 私は望んだ世界に行くと、望んだ事をすると。 彼女は知らない。 自分の身が既に滅んでいる事も、世界を壊す存在である事も。 ● 「――というのが事の始まりよ」 一息をついた桜花 美咲 (nBNE000239)の表情はやや重い。 存在が確認できたのは、少女のE・フォースと彼女を取り巻く5体のE・ゴーレムと化したぬいぐるみ。 既に廃院し、ただの廃墟と化した病院を破壊し、少女はゆっくりと外を目指している。 「この子ね、病気のせいで病院の外の世界を知らずに育ったみたいなの」 外の世界への憧れ。 そして元気良く動き回る自分の姿。 この2つを夢見ながらも、少女は病で命を落とし――そしてその願いが、彼女をE・フォースとして蘇らせたのだと美咲は言う。 ぬいぐるみは、彼女が入院していた間もずっと大切にしていた『友達』であるらしい。 廃院した後もそのまま置いておかれた理由は定かではないが、E・ゴーレムのぬいぐるみはとにかく少女の持ち物だったようだ。 「彼女は梅雨のこの季節に、命を落としたみたいね。それが関係しているかはわからないけど、彼女の扱う能力は『雨』よ」 ピンポイントにその場だけでも、広範囲にでも、少女は自在に雨を降らせる。 しかも雨粒は針のように鋭くなったり、毒を含んでいたりと多種多様だ。 如何な廃墟であったとはいえ、建物ひとつを瓦礫の山にするくらいの威力もある。 「彼女の願いは、元気に遊ぶ事だけ。でも、それを望めば望むほどに周囲を破壊してしまう」 どれほどに望んでも、誰かと遊ぶ事を世界は少女に許さなかった。 遊んでも良いという存在が現れても、少女はその存在を壊してしまう。 「――お願い、止めてあげて」 少しだけ目を伏せて、美咲は静かにそう告げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月22日(土)23:15 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●少女の向かう先 「見ていて寂しくなるわね、この風景。まるであの子の心を映しているみたい」 破壊され、瓦礫と化した廃病院を見やり『運び屋わたこ』綿雪・スピカ(BNE001104)はぽつりと呟く。 外で思い切り遊びたくても、許されない。 友達と言えば、6つの動物のぬいぐるみだけ。 募る外の世界への渇望は決して満たされる事はなく、ただただ寂しさだけが少女の心を埋め尽くしていたのだろう。 「確かにネ。ここには何もない。だから外の世界に歩いていこうとしているのかな」 頷いた『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)の視線の先には、ゆっくりと外の世界を目指し歩く少女の姿。 彼等の立つ塀の辺りまでが少女の鳥篭ならば、エリューション化した彼女が外の世界に羽ばたこうとする気持ちはわからないでもない。 「悪意がないまま崩界に荷担しちまう、か。嫌だよなぁ、こういうの。倒すしかないんだもんなぁ」 可能ならば思うが侭にさせたいと『遊び人』鹿島 剛(BNE004534)は思うものの、その果てにあるのは崩界に至る道。 リベリスタ達は不本意ではあっても少女の願いを砕き、滅するためにこの場を訪れた。 「一人の少女の、切なる願いを打ち砕かねばならんとはな。胸の痛む事だ……だが、しかし。誰かがやらねばならぬ事か」 不本意でも、やらなければならない。『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)が見上げた空はどんよりと曇り、大地を濡らす雨を降らせている。 「コノ世界は不平等で不条理で、残酷でゴザイマスネ」 運命は決して全てを平等には愛さない。世界は何時だって人に試練を与える。『攻勢ジェネラル』アンドレイ・ポポフキン(BNE004296)はそんな世界を残酷だと言い、 「斯くも残酷なこの世界に、救いはあるのでしょうか」 問う『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)の言葉に、明確な答を返せる存在はおらず。 「でも、ただ終わりを迎えるなんて、やっぱり悲しいから。だから、私たち――私は、私のやり方で彼女と向き合うよ」 せめて2度目の最期にくらいは、運命でも世界でもない、自身の手で僅かな救いを。『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)も、仲間達も、気持ちは同じだ。 真正面から、全てを受け止める覚悟で。 倒すべき存在であっても、気持ちが通わせられると信じて。 「――行きましょうか」 気持ちを口に出さぬままに、『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)が前進を促す。 (お友達が居ないのは寂しいわよね) 口にはしないが、淑子は少女が自身と似て非なる存在だと考えていた。 (一緒に遊べたらどんなに楽しいだろうって、憧れて。でも、同時に自分はひとりなんだって自覚する) 痛いほどに少女の気持ちが淑子にはわかる。 友達が欲しいとは淑子も願っている。 願いはすれども、叶わず。代わりに得たのは、やはり自分が1人だという感覚だけ。 (そうしてすごく心細くなるの。そういう気持ち、知っているわ) 故に少女がエリューションとなって外を目指す想いを、心細いのだと淑子は考えていた。 ●破壊の遊び 「今日和、お嬢さん。こんな所でどうしたの?」 廃病院を破壊しつくした少女に、スピカが声をかけた。 微笑むスピカには少女に対する敵意ではなく、優しさが滲み出ている。 『んっとね、わたし、退院したの! だから、遊びにいくんだ!』 実際は病院をデストロイしているわけで退院ではないのだが、少女にとってはそれが退院を意味しているのだろう。 とはいえ、少女を塀の外に出せば何が起きるかわかったものではない。 「ふんふん…そうなの、病気が治って退院できたのね。じゃあ、お姉さんが一緒に遊んであげる」 『え、ホントに!?』 スピカの提案に目を輝かせる様を見れば、エリューション化したとて少女は純真無垢そのもの。 しかし一緒に遊ぶにしろ、 「ねっ、お友達になろう?」 「私もあなたとお友達になりたいな」 と言うルナや淑子にしろ、重要な事を最初に聞かなければ始まらない。 「なぁ。君の名前は何かね?」 最も肝心な事。それは少女の名前であり、尋ねたシビリズだけでなく友達になりたいと考えるルナ、淑子、そしてスピカも知りたかった事のひとつ。 『んっとねぇ、まことだよ!』 答えた『まこと』は何をして遊ぶのか、どこで遊ぶのかと目を輝かせてぴょんぴょんと飛び跳ねている。 生前にはそうして飛び跳ねる事も出来なかった少女が、今こうして元気に動く姿は、どうせならば生きている時に見たかったというもの。 「友達のなり方が分からないなら、教えてあげる。簡単だよっ! 名前を呼んで?」 続けて、ルナは『友達になる方法』をまことに教える。 「最初はきっと、ソレだけで良いの。互いを見て、ハッキリと名前を呼ぶ。ほら、簡単でしょ?」 『えっと……ルナお姉ちゃん??』 「うん、それで良いんだよ!」 笑顔を浮かべ、穏やかな会話を交わす2人の姿からは戦いの2文字など遠く感じてしまう。 何故、運命はまことを愛さなかったのか? 小さな願いを叶えるなら、ちゃんとした形で叶えなかったのか? (カミサマ貴方はどれほどに、試練と言う名の不幸をお与えになるんですか?) 雨を降らせ続け、曇る空を見上げた海依音は思わず神を呪う。 中途半端な奇跡は不幸でしかないと。 届かぬ願いを聞き届けた結果、世界を壊す力を与えるとはどういう事だと。 (大胆不敵痛快素敵超常識的且つ超衝撃的に勝利シマショウ、と言いたいところデスガ) 一方で本来ならば高らかに宣言するべきセリフを、アンドレイはこの時ばかりは胸の内で言う。 確かに勝利する事が第一だが、そうするような空気でもない。 「……何して遊ぶ?」 「まことちゃんが決めて良いよ」 目線をまことに合わせ話すルナやスピカの姿を見れば、攻撃宣言はやはりその空気を壊してしまうだろう。 『それじゃあ……鬼ごっこ?』 が、やはりまことはエリューションである。 少し逡巡した後に答えたと同時に、降り注いだ雨が針に変わったのだ。 『え、なんで、なんで!?』 鳥篭は壊したい。そして壊した。が、せっかく出来そうな友達までどうして雨は壊してしまうのか。 望んでもいないのに、得た力が発動する様にまことの目に涙が浮かぶ。 「存分に力を振るうと良い。存分に力の限り走りまわるが良い。受け止めよう君を。抱きしめようではないか君の意欲を」 それでも、シビリズは『それで良い』と少女に告げた。 もう、まことを救う事なんて出来はしない。こうなってしまった以上、出来る事は少女を倒す事だけなのだから、と。 「君は、間違ってないよ。これから辛い目に遭わす俺が言えることじゃないが、それだけは忘れないでいてくれ」 ここまで口を閉ざしていた剛も、まことが攻撃をかけた事を機に口を開く。 「小さい女の子の我侭くらい。笑って受け入れてあげないとね」 「こんな形なのが心苦しいけど、これも変わった鬼ごっこだと思いましょう?」 雨を受けたルナも淑子も、怒る素振りを見せてはいなかった。 ならばこれも鬼ごっこの1つであり、逃げる側を全て倒せば勝ちだと考えれば、まことも幾分かは気楽になるだろうと2人は考える。 ただし逃げる側も反撃する上に、双方決して痛みがないわけではないが。 「話は終わったかナ? なら、始めようか」 魔槍深緋を軽く振り、フツもここでついに動いた。 「さあ、自由の翼を奪いましょう。――Ash to ash Dust to dust」 仲間達に海依音が翼の加護を施せば、戦う準備も整っている。 『……すごい、お坊さんが空を飛んでる! って、他の皆も飛んでるっ!』 「はは、珍しいかネ?」 およそ生前に見たことはない『空に浮かぶ人』に……というよりは見るもの全てが目新しく興味津々なまことを倒すのは胸が痛むが、これも世界のため。 「参りマショウ、必ずや我等の手に勝利を! Вперед!」 この流れならば言えると、高々と手を掲げたアンドレイの言葉が、『鬼ごっこ』の始まりの合図。 『まこと達か、お兄ちゃんやお姉ちゃんが勝つか……だったよね?』 ふわりふわりと周囲を漂うぬいぐるみが彼女を守るように動き、まこともそれが『遊び』なのだと理解したようだ。 もちろん、外を目指すなら目指すで阻止する方向に動くつもりではあったものの、 「杞憂だったかナ」 目指さないなら、それで構わないと呟くフツ。 外に出た事がない以上、少女は遊ぶということが本来どうであるかを知らない。 「ぬいぐるみでも、エリューションとなればこうなるか……」 本来は存在しえない砲台を装備したぬいぐるみのビーム砲は、集中砲火を受けなければ大した傷を受けることはないが、それでもやはり直撃した剛にそれなりの傷を残してもいる。 「柔らかくもないのがネックだな」 体当たりを受けたシビリズに至っては、その痛みは望んだものであったとしても、ぬいぐるみが持つ柔らかさを感じられない点においては『やはりエリューションだからか』と感じた事だろう。 「さぁ来い! 子供の戯れ如き、世界が許さずとも私が許そう! 君の名は永久に――我が魂に刻んでおく!」 体当たりをしかけたまま離れる気配のないぬいぐるみを引き剥がし、シビリズの双鉄扇が雨水に濡れて鈍く輝いた。 これが遊びなら、それでも構わない。 全部受け止めると、決めたのだから。 少女を守るように動くぬいぐるみは、少女の『過去』の友達。 最初にそれを倒さなければならないと、スピカはドルチェ・ファンタズマを構え――。 「この子達もあの子の「友達」なのだから……それを奪うのは、心が痛むけれど」 降雨の中にあってはよく見られる雷を奔らせたスピカの攻撃に、ぬいぐるみ達の体が若干焦げ臭い匂いを放つ。 如何にエリューション化していても、電熱によって焦げる点は実際のソレと同じといったところか。 『ああ、皆っ!』 可愛いぬいぐるみも、そうなってしまえばボロボロになる事は免れない。これは遊びだと思っていても、やはりまことにとって、受け入れにくい現実。 しかしリベリスタ達に、謝罪の言葉はなく。 (……ごめんね) 否、スピカのように胸の内では言っているのだろうが、口には出さないだけなのだろう。 『皆の分まで頑張らなくちゃ!』 遊び相手であるリベリスタ達が、鬼である自分を狙わない。代わりに『過去』の友達が猛攻に晒される中、まことの行動は子供らしく単純で、わかりやすいものだった。 『じゃあ……いくからね!』 その言葉と共に、降り注ぐ雨が針に変わる。 巨大な建物、即ち病院を瓦礫にしてしまった雨が、リベリスタ達を襲う。 「雨……コノ雨は貴方の涙でゴザイマスカ? ナラバ小生はソレを止めねばナリマセヌ」 突き刺すような痛みに顔を歪めながら、アンドレイはそれでもまことの攻撃を受け止め続ける腹積もりだ。 もちろん、ただ受け続けるわけではない。 「ぬいぐるみトハ、ドコが弱点なのでゴザイマショウカ? エエイ、全部弱点にしか見エマセヌ!」 エリューション化したとはいえ、ぬいぐるみはやはりフェーズ1だ。変質はしていても、その愛らしい姿からは『全部が弱点』と感じるのもおかしな話ではないはずだ。 どこが弱点か? 見た感じ全部! 「ナラ、思い切りブチノメスだけデス!」 唸る大戦斧が風を鋭く切り裂き、勢いに任せてぬいぐるみを裂く。 先程のチェインライトニングによる衝撃の傷も深かったのかもしれないが、アンドレイの断頭将軍に真っ二つに裂かれたぬいぐるみはポトリと地面に転がり、動かなくなった。 「……あまり耐久力はないのか?」 ガトリングを構え弾丸をばら撒く剛は、やはり元が元であるせいか耐久力に乏しいのではという考えに至る。 屈託のない笑みを浮かべるまことの『友達』を倒す事にはやはり罪悪感を感じるが、 (悪意の有無で気兼ねするかしないかを考える――か) 同時に倒すべき敵を割り切れずにいる、自分自身に自己嫌悪もしているらしい。 「まぁ耐久力がなくとも、油断は禁物だネ」 一方で、それでも相手を舐めてかかっては危ないと仲間に注意を呼びかけるのはフツだ。 決して侮らず、油断せず。 「これで少しでも弱ってくれればいいんだが」 彼の展開した結界の中で、まことも、ぬいぐるみ達もその動きが少しだけ鈍ったようにも見えた。 傷付けるような目に見えた効果はないものの、こういった援護は後になって恩恵を感じるものではある。 「では、後は焼き尽くすだけですね」 「スキャンは?」 「やる前に倒してしまうかもしれませんよ?」 そしてスピカと軽く会話を交わした海依音の裁きの光によって、さらに1体のぬいぐるみが活動を止めていく。 本来ならば、時間を見計らったスピカのスキャンまでを攻撃の流れに組み込んでいたリベリスタ達ではあるが、その必要を感じさせないほどに彼等の攻撃は強烈だ。 『うう、動かなくなるまでやるなんて、ひどいよぉ……!』 お返しと言わんばかりに毒の雨を降らせるまことは涙を目に浮かべているが、風変わりな『鬼ごっこ』の勝敗は半ば決まったも同然の状態。 「確かに、遊びにしてはちょっとやりすぎかもしれないわね。お互いに」 肌を通して浸透する毒を祓う光を放った淑子は、これはもう遊びではないと考えていた。 事実、2度、3度と撃ち合う間にぬいぐるみ達のほとんどは、その活動を停止してしまっている。 「――ごめんね。でも」 それでもやらなければならないと、心を鬼にしたルナの放つ火炎弾は雨をも蒸発させる熱量を発し、ぬいぐるみもまことも炎に包む。 「君は外で遊ぶという、子供にとって当然のことをしたいだけだ。そして俺達はこの世を救うために、君をここで殺さなきゃいかん。お互いに正しいことをしてる筈なのに、なんで俺達は戦ってるんだ?」 『じゃあ、もっと遊ばせてよ……! こんなの、楽しくないよ……!』 ほとんどワンサイドゲームと化した今、葛藤する剛の言葉にまことの悲壮な叫びが返答となって木霊した。 ●降り続く涙雨。 『友達って、わたしの夢を壊しちゃうの!?』 降り注ぐ雨が、少女の涙を代弁するかのように勢いを増す。 攻撃的な激しさではない、慟哭の涙が雨足の強さとなった――ただ、それだけの事だろう。 「身体よりも心に痛みが走るな。だがまだだな! まだ壊れんよ! ハッハッハッ!! さぁもっと来るが良い!」 全てを受け止める覚悟を崩さないシビリズが、ラグナロクの輝きを自身に、そして仲間達に纏わせ、最後まで受け止めようと両手を広げ言う。 「スマンな、外の世界をゆっくり見せてやれなくて。敷地外に出さない方がいいって言い出したのはオレなんだ。だから、アレだ、恨むならオレを恨めよ」 またフツは別のアングルからその慟哭を受け止めようと、少女の憎悪を向けさせようとまでしている。 極縛陣は最後の1体となったぬいぐるみには効果を発揮しなかったものの、まことの涙雨の勢いを削ぐ事は出来ていた。 ――しかし。 『ダイジョウブダヨ』 そんな言葉が、聞こえた気がした。まことだけではない、その場にいるリベリスタ達も全て――だ。 それは生前までずっと傍にいたぬいぐるみが見せた、主との絆が作り上げた奇跡。 「……絆の力が起こした奇跡、なのかな」 鮮烈な輝きを放つ淑子の大戦斧によってぬいぐるみが切り裂かれた今、もう2度とその声が聞こえる事はない。 だが、力を失い地面に転がる直前にぬいぐるみが放った輝きは、まことに再び活力を取り戻させている。 「ぬいぐるみ達は少女のことを愛していたのでしょう。世界の敵の彼女だけを」 夢を叶えられぬままに命を散らせた少女に、神様が与えた『間違った方向で夢を叶える』という残酷な奇跡。 再びその神様が起こしたらしい奇跡は、海依音からしてみればやはり『何かが違う』と感じさせる奇跡。 そして織り成された2つの奇跡は、やはり少女の願いを叶えない。 「寂しかった事でショウ、辛かった事でショウ。シカシ『ゴメンナサイ』は不適切なのでゴザイマショウ。悪い人はココニいない」 大地から空へ振り上げられたアンドレイの断頭将軍が、まことの体を薙いだ。 天から光を隠している、雨雲さえも切り裂いて。 ――少女は夢を抱きながら、ゆっくりと崩れ落ちた。 『そら……あおぞら……』 最後に少女は、気付いた。 その足で外に踏み出す事は出来なかったが……頭上に広がる空は、果てしない彼方まで広がっている事を。 「腕が一本しかありませんがお許し下さいな。もう眠りなさい、可愛い子」 ゆっくりと、アンドレイに抱かれたまことの目が閉じていく。 「ねぇ、お嬢さん。この世界は楽しかったかしら? 最期の最期に……いっぱい遊べたかしら……?」 スピカの問いに、少女はもう答えない。 最後まで枷となった運命の鎖を断ち切る代わりに、リベリスタ達が少女に与えたのは自由の翼。 「……ねえ、わたしたち。お友達になれたかしら……?」 「こんな結果になったけど、友達になったって事実は、きっと変わらない。そうだよね?」 空に想いを馳せ、消え行くまことの心を解き放った淑子とルナは、結果という形はどうであれ、友達としての役目を果たしたはずだ。 故に。 『……また、遊ぼうね』 降り続いた雨が止む同時に、そんな言葉がリベリスタ達の耳に届いたのだ――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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