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美よ生まれよ炎の華よ

●炎を眺め
 藤原啓二郎は陶芸家である。
 釉薬をあまり使わず、素のままの焼味を売りとした陶器――備前焼の作家としてそこそこ名の売れている彼は現在、山中に建てられた自らの庵にて、窯の前に座り込み炎を眺めていた。
 啓二郎は炎を見つめつつ、最近の自分について考えを巡らせていた。陶芸というものは美術として世間から認められている。自分の実力も決して低くは無く、むしろ高い評価を受けていると自負している。そしてそれはまごうこと無き事実でもある。
 ……だが、世の中には流れというものがある。例え実力があっても、それだけではどうにもならない時もあるのだ。
 世間の経済は落ち込み、美術品嗜好品に割り当てられる財政は人にはなく。一部の富裕層も、あれこれと買い漁ることはなく、すでに過去の人となった偉大なる先人の作品のみを買い求める。事実、啓二郎の生活もじわじわと圧迫されつつあった。

 ――今のままではいけない。

 彼の心中にあるのは、その一事である。別に彼自身、生活のために作陶をしているわけではない。物を作ることを好み、その技術が他者より卓越していたからこそ、それを生活にすることが出来ていただけである。しかし生きる以上、好きなだけではどうしようもない時があることも知っていた。
 自らを研鑽し、技法を変え、材料を変え。さらなる高みを目指さなくてはいけない。備前焼とは繊細なものであり、土の品質、薪の材質、焼けた薪から舞い上がる灰の質。そのような些事により、模様から硬さ、きめの細かさまでが変わっていく。
 優れた作品が出来れば、評価される。結果として生活も楽になる。さすれば、このまま作陶を続けるだけで生きていける。理想と目的が違えど、道程は同じなのだ。
(今回は新しい材料を試している。上手く行くといいが……)
 黙考しつつ、薪をさらに窯へと放り込む。彼の耳に響くのは、ぱち、ぱちんと薪の中の空気が熱で膨張し、木を裂き燃える乾いた音。心地よい僅かな音のみが響く――その時。

 ……ばちいっ!

 突如生々しい、地面に柔らかいものを叩きつける音が響いた。無言で啓二郎が見つめる音の鳴った先は、窯の入り口。その中から、炎に包まれた棒状の何かが飛び出してきていた。その棒の先端は五つに捕捉分かれており、逆に伸びた先には一塊の物体。
 それは、まるで。人の腕のような……
 ――いや、人そのもの。窯の中から飛び出してきたのは、燃え盛る炎から逃げようとする人間だった。這い蹲り、渾身の力で灼熱の窯から逃げ出そうとする人物。
 啓二郎は、這い出してくる燃え上がる人間の頭部を無造作に掴み……再び窯に押し込もうとする。
「薪が暴れるな。大事な作品が壊れるだろう」
 炎を意にも介さず、燃料とされた肉塊を押し戻す啓二郎を助けるように、窯の中の炎が舞い上がり……巨大な腕を形作り、燃える人物を掴み、窯の中へと引きずり込んだ。
 ――場には再び、薪の弾ける音が響く。

 今度の作品は文字通り命を込めた。命在る薪に、命を持つ炎。きっと最高の作品が出来上がるだろう。越えなければ。……今までの自分も、偉大なる先人も。

●アークにて
「アンタ達は芸術に興味はあるかい?」
 アークに呼び出され、集まったリベリスタ一同に対して『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)が開口一番問いかけたのはその一言だった。
「アートを行うからアーティスト。その点では美術も音楽もアーティストなわけだ。遠いようで近いんじゃない?親戚みたいなものかもしれないよな?」
 彼の言いたい所を掴みかねるリベリスタ達に、伸暁は落胆したような表情を浮かべる。人々の無理解を嘆く顔をした彼は、ポケットに無造作に捻じ込んであったくしゃくしゃの資料をテーブルに放った。
「万華鏡の奴が予見してね。今回のターゲットは芸術家なのさ。いや、芸術家だった、というべきなのかもしれないな?何故ならそいつはすでにフェイトの加護を失ってる。ノーフェイス、ってやつさ。」 任務の通達の枕詞としてはあまりにも不適格だったその言葉。あの出だしでわかるわけがねえよ、と言わんばかりの表情のリベリスタ達を無視しているのか気づかないのか。伸暁は言葉を続ける。
「今はまだ犠牲はないけどな、万華鏡が見たのは間違いなく出る犠牲者の未来ってやつだ。芸術に犠牲はつきものというが、それは自分とその周りだけであるべき。赤の他人の命を犠牲にする芸術なんて、きちんと仕分けされていない生活ゴミみたいなモンだ。そう思わないか?」
 言いたいことはなんだかわからないが、畑違いとはいえアーティストである彼なりに許せないラインというものがあるのだろう。
「ターゲットは『藤原啓二郎』。陶芸家で、その道ではかなりの有名人らしいぜ。そんな奴が何故エリューションなんかになっちまったのかはわからないけどな。道を追い続けた結果か、ただの偶然か。神様しか理解できないサプライズってやつなんだろうな、きっと」
 そう言うと彼は早々と席を立つ。必要なことは彼が放った資料に書いてある為、それ以上話すこともない、というわけか。
「どんな運命の悪戯か、こいつと一緒に窯の炎までエリューション化しているらしいぜ。一蓮托生というやつなのかね?……まあ、自分の入れ込んだ物と一緒に変質した、というのは芸術家冥利につきるのかもしれないけどな」
 立ち去りつつ、ひらひらと手を背中越しに振りながら伸暁は言い残していく。
「頼んだぜ。芸術家先生の今まで積み上げてきたアート、そいつを大先生が自ら汚してしまう前に始末をつけてやってくれ。後に残される芸術は美しくなくては駄目なのさ」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年04月21日(木)23:29
●将門ファイル
■フィールド:山中の住居

■環境
 特に際立った点はなく、人里離れているために周囲に気を配る必要もありません。戦いやすい環境といえるでしょう。

■エネミーデータ
 藤原啓二郎(ノーフェイス フェーズ1)
 彼自身は多少の体術の心得がある程度です。ただし身体能力はかなり高いです。
 武器として作業用のナイフを所持しています。
 また、炎に対して高い耐性を持っている模様です。

 窯の火精(E・エレメント フェーズ2)
 窯の中に棲む炎の化身です。
 掴み掛かり、継続した炎のダメージ他、炎を飛ばして攻撃も行います。
 万が一窯の中に引きずりこまれると大変なことになるかもしれません。
 見た目通り、炎は利きません。

●マスターコメント
 シンプルなバトルシナリオです。
 単純に敵が強い、というわかりやすいものと言えます。上手く有利に戦ってくださいませ。
 それでは皆様の活躍の仕方を楽しみにしております。

 芸術は難しいものです。作るのが難しいのではなく、それで生活するのが。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
宮部乃宮 朱子(BNE000136)
ソードミラージュ
ツヴァイフロント・V・シュリーフェン(BNE000883)
マグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)
覇界闘士
祭雅・疾風(BNE001656)
インヤンマスター
葉沼 雪継(BNE001744)
覇界闘士
恋乃本 桜姫 鬼子(BNE001972)
デュランダル
神狩・陣兵衛(BNE002153)
ソードミラージュ
立花・花子(BNE002215)

●二つの狼煙
 藤原啓二郎は陶芸家である。彼は思い悩んでいた。工房にある登り窯の前に座り込み、炎を見つめながら思索に耽っている。
 このままでいいのか。自分の下に舞い降りた神秘。生きている炎。この炎はいままでの炎より優れた器を生み出してくれる。自らの願望が呼び込んだのか、それとも道を追求し続けたが故の奇跡か。
 今までより優れた品になったのは良い。だが、一つだけ納得が出来ないことがある。とてもではないが、少し良くなった、等では満足が出来ないのだ。
 まだまだ延び代がある。この素晴らしい炎の力を、自分が最大に活かしきっていない。そのことを痛感していたのだ。
 根本から変えなくてはいけない。自らの技術も足りていないが、それ以外の何か。命を持った炎に相応しい素材。土か? 薪か? 何を変えるべきか。例えば……

 ――ぱりん、ぱりん。

「……ん?」
 その時、啓二郎の耳に異音が届いた。それは彼にとってやや聞きなれた音だ。陶器が割れ、砕ける時に聞こえる音。それが母屋のほうから響いてくるのだ。
 この家には彼一人しかいない。ならば何がこの音を立てているのか。不審に思い、母屋の方に向かうと。
「きゃはは、あはは――」
 破砕音と共に、少女のような笑い声が聞こえてくる。一体なにが起きているのか……
「何をしている?」
 玄関先。そこには二人の男女がいた。大時代な小袿を身に纏う少女。それと服装的には釣り合う、年齢的には不釣合いな中年の男性。二人は啓二郎が現れたのをみると、口を開いた。
「古道具の雪葉堂という店を構えている葉沼と言う者だが、お前さんが藤原啓二郎先生だろうか?」
「そうだが。何故古道具屋が俺の家で器を割っている?」
『緋猿』葉沼 雪継(BNE001744)が啓二郎に声を掛けると、怪訝そうに彼は問うた。それに答えたのは、先ほどから持参した量販品の器を叩き割っていた『伯爵家の桜姫』恋乃本 桜姫 鬼子(BNE001972)だった。
「予定通りじゃの。陶芸家たる者、作品を割られているかと思えば飛び出して来るじゃろう。その心理、利用させて貰ったわ」
「……その思惑が何かは知らないが、何のつもりだ?」
 意味が解らないとばかりに眉間に深く皺を寄せ、啓二郎はさらに問いを返す。それに答えるのは神妙な面持ちをした雪継だった。
「藤原先生、その身は化生の者と成り果てている。人に仇為すその前に、この場で討たせて貰う」
「化生? お前達、何を――」
 瞬間、啓二郎の脳裏を掠めたのは自らに発言した異能ではなく……何よりも今、大切な。自らの作品を生み出す異能。窯に生まれた燃え盛る命。
「すまないが失礼する」
 踵を返し、工房へ駆け出そうとする彼だったが、それは果たされることは無く。複数の男女が現れ、向かう道へと立ち塞がった。
「こちらこそすまぬな。ここは通すわけにはいかぬよ」
「ダメだよ先生~? これから花子が先生を壊すんだから。逃げちゃダメだよぉ~?」
 煙管を片手に吹かしつつ『煉獄夜叉』神狩・陣兵衛(BNE002153)が啓二郎を睨め付け、『血まみれ姫』立花・花子がこれから始まる闘争の匂いに酔ったように、へらりとした笑顔を浮かべる。
「陶人、藤原啓二郎さん。この度は『境界』を越えてしまった事、残念に思います」
 すらりと背筋を伸ばし、優美な佇まいで言葉を紡ぐは『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)。
「申し訳ありませんが、これ以上道を踏み外す様を見過ごす訳には参りません」
「お前達……道を追求しているのに踏み外す、だと?」
 苛立ちを増す啓二郎に『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)がこれから起こり得ること――万華鏡の見た未来を告げる。
「貴方はこれから先の未来に置いて、道を大きく違えます。――人の命を糧にして芸術を行うのはやってはならないことだよ、藤原先生」
 疾風の言葉に目を見開く啓二郎だったが……その表情が徐々に変化していく。
「なんだと――いや、なるほど。そのようなアプローチも……」
 目を伏せ、ぶつぶつと何かを呟き。次に顔を上げた時……彼の顔には笑みが張り付いていた。それは楽しいというよりは。なにか新しい発見をした子供のように、無邪気な笑み。
「ならばまずは君達だな。私の命を狙う君達の命……作品の肥やしにしても構わんね?」
 その言葉。明確な宣戦布告に対し対峙するリベリスタ達は身構える。悠月は浅い溜息をつき……真正面から鋭い視線を啓二郎に突き刺し、ここに宣告した。
「処置なし、ですね。在り様を狂わせる、歪んだ炎――その存在、抹消します」

 ――同時刻、別場所。

「……よし。藤原の誘導に彼らは成功したようだ」
 啓二郎の去った工房に、二人の女性が存在していた。耳を欹て、優れた聴覚で別行動を取る仲間の様子を伺っていたのは『負けフラグの具現者』ツヴァイフロント・V・シュリーフェン(BNE000883)。所在なさげに共に居るは、『消えない火』鳳 朱子(BNE000136)。
「でも……こちらはこちらで、来るみたい」
 朱子の視線が向いているのは、工房内の登り窯。その中で不自然な揺らめき方をする炎をじっと見つめていた。炎は遠くの啓二郎の意志に呼応するように揺らめき、窯から這い出ようとしている。
「何、彼らが来るまでこいつを止めるのが私達の任務だ。最も――」
 足元に転がしていた火器を抱え上げ、ツヴァイは不敵に笑顔を浮かべる。
「倒してしまっても構わないだろう?」
「無理はしない。確実に……抑えるのだけはする」
 朱子も掛けていた眼鏡を外し、胸ポケットに収め、窯を睨み付けた。その殺気に反応したか、ずるりと抜け出す――窯から生えたかのような、巨大な腕の形状をした炎。本来ならば実体無き存在が、その拳を握り締め威嚇する。
「さて、始めようか。この……」
 足元に白い玉を転がし、勢い良く踏みつけるツヴァイ。踏みつけられた玉は弾け、白い塗料を地面に撒き散らす。彼女はそのままザッ、と足を引き白い線を床に描き、宣言した。
「白線から外へは逃がさない。心頭滅却すれば火もまた涼し、だ」
 任務を越えた想いの篭る殺意と共に、朱子も手にした槍を炎へ突きつける。
「その炎。その程度の火で、私を燃やせるか。……試してみろ」

 かくして二つの所在にて。戦いの狼煙は同時に上がる。

●芸術の狂気
「変、身――!」
 疾風が武装を装着する掛け声と同時に、一斉に啓二郎を包囲し逃がさないように布陣を整える。陣形から最初に飛び出したのは鬼子だった。
「半世紀ぶりの実戦じゃ、肩慣らしにはさせてくれるかの?」
 動き辛そうな服装を感じさせぬ、一陣の風のような速度で啓二郎に接近し、手甲に包まれた拳を叩き込む。
 だがその一撃は啓二郎の腕により、無造作に払われた。
「断る。だが中々活きの良い素材だ、役に立ってくれそうだ」
 素っ気無く答えた啓二郎は懐に手を突っ込み、作業用の短刀を取り出す。それを鬼子に向かい突き出そうとした……が、動きの止まった一瞬を見逃すこと無く飛び込んできた影がいた。
 武装に身を包んだ疾風である。彼によって振り回される、重量感を持つ鉄塊が次々と啓二郎に襲い掛かる。
「人には行ってはいけないことがあるんです。藤原先生、貴方はそれが解らないのか!」
「木材が良くて生命が悪い等という理屈は理解出来んよ。全ては等しく素材だろう」
 多少の素養が見える体裁きで啓二郎は連撃をかわす。だがさすがにかわしきれず、何撃かはその身体へ強かに打ち付けられる。しかし打撲を意に介さぬように、刃を寝かせた短刀を無造作に疾風へ突き出した。その時。
「――我ら守人となり、妖異に抗せん」
 雪継が人の形をした型代を撒き、それを基点として場の空気が変質する。啓二郎が繰り出した短刀は狙いを違わず疾風へと刺さるが、その傷は浅い。雪継の展開した結界により、守られているのだ。
「いかんせんそのような短刀ではな。剣士に挑むなど、笑止……千万じゃ!」
 ずい、と間合いを一気に詰めるは陣兵衛。重量感を持った巨剣が裂帛の気合と共に繰り出される。啓二郎は咄嗟に引き戻した短刀で捌こうとするが、さすがに重さの差はどうしようもなく、身体が浮き、弾き飛ばされた。

 そこからは、戦いは一方的な展開となった。いかに身体能力に優れ武術の素養はあるとはいえ啓二郎には戦闘経験等はなく、さらに多勢に無勢。状況は見る見るうちにリベリスタ達のものとなっていた。
 疾風のメイスが確実に身体を捉え、体力を奪う。鬼子や花子が速度で翻弄し、雪継と悠月の鴉や魔法弾が体勢を崩し。満を持して陣兵衛が重い一撃をそこに叩き込む。ここからの打開はもはや啓二郎には見えなかった。
「ほれ、どんどんいくぞ?」
「あははっ! ねぇ痛い? ねぇねぇ痛い? あははははっ」
 鬼子と花子が啓二郎に対し次々と連撃を加えていく。速度に乗った二人の攻撃は時にステップを踏み、くるくると回り。舞うように、二種一色の色彩が猛攻を加える。はためく桃色と、飛び散る赤色。二色が戦場を染め上げる。
「何故だ……何故止める? 何故俺に先人を越えさせない!」
 苦痛に耐える啓二郎の叫び。その問いに答えるは……
「高みを目指すは求道者の業よ。されども踏み外せば堕ちるのみ。――真に残念じゃよ、先生。」
 巨剣を構えた陣兵衛。その回答と同時に啓二郎に張り付いた仲間が散り……

 ――大剣一閃。
 ここに一人の作家が進んだ迷い路は絶える。

●炎を見つめて
 一方、工房の方はかなりの苦戦を強いられていた。
「想像以上にやるな、こいつは……」
 火精がばら撒く火炎弾をツヴァイは素手で払いのける。ツヴァイも朱子も炎には強い体質を持っているため、巻き上がり渦巻く炎は彼らを焼き尽くすことはない。しかしまったく怪我が無いかというと、否である。
 確かに火傷を負う事は無いのだが、物理的な攻撃力をこの炎は備えているのだ。幾度と無く拳のように固まった炎の腕により打たれ、弾かれ。二人共にかなりのダメージを抱えていた。戦力としては啓二郎より高い火精。さすがに二人だけで相手を続けるには辛い状況だった。
「だけど引くわけには……いかない」
 槍を構え直し、朱子が再び間合いを詰める。火精の攻撃をいなしつつ接近するが、振り回される巨腕に対しなかなか間合いを詰めることが出来ない。
 このまま消耗戦となると状況は厳しかっただろう。しかし状況は変化していた。
「お待たせぇ~、まだ終わってないみたいねぇ~?」
 花子の間延びした暢気な声が工房に響く。啓二郎との戦いを終わらせた別働班が援軍にやってきたのだ。
「参ったね、そちらが終わる前にこちらも終わらせるつもりだったのだが」
 憎まれ口を叩きつつも安堵の響きを滲ませるツヴァイ。一瞬戦場の緊張感が途切れる……その刹那を火精は見逃さなかった。
「……っ!?」
 朱子の驚いた声。その足には炎の腕が枝分かれし絡み付いていた。一気に朱子を窯へと引き寄せ、内へと引き込む!
「いかん!窯を打ち壊すのじゃ!」
 陣兵衛が叫び、皆が一斉に窯へと攻撃を加える。衝撃に揺らぎ、罅割れ。緊張に包まれた場に轟音が響き……
「……だから、私を焼くことは出来ない!」
 罅割れ脆弱になった窯が内部からの圧力により砕かれ、火精が内部に潜んだ全体ごと外へと放り出される。
 炎が激減した窯の中では、呼吸を荒げた朱子が座り込み、全力で槍を振り切った姿勢で固まっていた。――渾身の一撃により、纏わりつく火精を引き剥がしたのだ。
 彼女を炎の暴威は侵すことは出来ない。それは彼女が超常より得た能力。決して業火に屈せぬ肉体故に。
「大丈夫かのぅ? 今処置を行おうぞ」
 鬼子が駆け寄り、手を添えると朱子が受けていた負傷が瞬く間に塞がり、元へと戻る。
 一方吹き飛ばされた火精には即座に他のメンバーが襲いかかり、包囲していた。
「これで終わらせます!」
 疾風がメイスを振るう度に、炎の塊が一つ、また一つと削り取られ小さくなっていく。合流が行われたことで、すでに大勢は決していた。火精は炎を撒き散らし、振り回し、抵抗するが……
 やがて最後の一片まで吹き散らされ。一人の芸術家を迷わせた炎は、世界から失われた。

●芸術家は死して名を残す
「思ったより……手こずった」
 炎に巻かれ煤けてやや変形した眼鏡をハンカチで拭き、朱子は眼鏡を掛けなおす。
「とても残念でしたが。藤原先生がこのような存在になってしまった以上、仕方の無いことですね」
 疾風が目を閉じ、黙祷を捧げる。人々を守る存在を目指す彼にとって、人を踏み外してしまった人物を倒すことは、いかなる思いなのだろうか。
「そうですね……彼のような道の踏み外し方はしたくないものです」
 悠月も物思いに耽るかのように、疾風の呟きに応じた。一方、そのようなことに興味も無い者もいるわけで。
「あー、楽しかったぁ。壊れた『モノ』はこの世界にあっちゃいけないからねぇ? 花子はそれを徹底的に壊すの。それが世界のルールだし、花子の遊びだもんねぇ?」
 満足げにさっさと立ち去ってしまう花子のような者もいる。彼女にとってはこの出来事も、いつも通りの遊びの一つなのだろう。
「色々じゃのぅ。昔から様々な者がおったが、今の世も中々に多種多様じゃ。わらわも指導的立場として、安穏とはしておれんかのぅ?」
 長く前線を離れていた鬼子にとって、何かまた違う思いがあるのだろう。場を去る者、そして残る者。
 荒れ果てた工房。窯は崩れ、炎は消え。作品を作る作家も今は無く。残されたものはいくばくかの作品。それらに目を向ける者も居た。
「彼の過ちは先人の狂気を見誤ったことだな。命を犠牲にして美の種となるならば、誰でも同じ事をしていただろうに」
 浅はかさを責めるのか、迷った彼を哀れんでいるのか。ツヴァイがやれやれとばかりに肩を竦める。一方雪継は作品の中の一つ……こじんまりとした飾り気の無い、素焼きのような一輪挿しを手に取っていた。
「……この技ならば、後世にも十分伝わっただろうに」
 独特の味を持つと感じたその作品を雪継は見つめる。
「持ち帰るのかの? それを」
「ああ……せめてこの生き様、俺だけでも刻んで置こうと思う」
 その様子を見ていた陣兵衛の問いかけに雪継は答える。陣兵衛はその言葉に深く頷いた。
「そうじゃな。儂はこれらの作品は主と共に有るべきじゃと思うが。お主の元ならば、相応しいじゃろう」

 人は去り、命は去り、芸の道も絶える。後に残るは作品と名声。虎は死して皮を残し、作家は死して名を残す。死して名声が上がるのではなく。次なる芸術が生まれないからこそ名が上がり、作品が認められるのだ。
 一人の実力ある作家が姿を消したことは、地方新聞の一面を飾り。それで御仕舞い。
 彼の生き様は残らずとも、彼の技は伝わっていく。作品として。一つの芸術品として。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様です。
今回のシナリオは事前にも言ったとおり純戦でありましたが、皆さん色々と考えてくださったようで。
かなり多彩な動かれ方を考えておられたようなので、結構ざっくりやらせて頂きました。
味のある人物、特徴のある人物は書いていて楽しいです。
それではまたの機会をお待ちしております。

なおこの作品は実在の団体、人物とは一切関係ございません。