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跫音アエスタース


 夏が近づくにつれて日が長くなる事を感じて居た。次第に明るい時間が増えると共に、居心地の悪さを感じて居たのは紛れもなく自分が『夜の眷属』であったからだろうか――

 等という供述を繰り返しながら、少年は夕暮れ時を走る。
(早くいかねばな。だが一般人の中でこの『聖なる力』を使うことなど許されないのだ!)
 人気の無くなった校舎を走り抜け――その間にも残っていた教員に「廊下を走るな!」と注意されていたりするのだが――通称『夜の眷属』であり『夜の貴族』である少年は部活動を行う生徒の隣を駆け抜ける。
 飛んでくるボールを避け、走る陸上部員の隣をちんたらと縺れる足で走り抜け、彼が辿りついたのは裏山であった。
 は、は、と浅く息を吐きながら昇る彼は目的に夢中だった。
 夏が近づくと咲き誇ると言う水色の花があった。年に一度、咲く所を見るのが彼の楽しみだったのだ。
 毎日毎日同じルートを辿り、同じ場所へと行き花を見詰めている少年に襲い来る『良くある不幸』は知らず知らずに彼へと危機を迫っていく。
 振り仰ぐ少年に覆い被さろうとするのは彼の影であった。
「――闇の眷属たるオレに逆らうというのかッ!」
 吐き出す声は、余りに冷静であったと同時、影が『にんまり』とわらった気がした。


 夏が来た、とは未だ言いきれない陽気であれど片手にアイスクリームを握りしめた『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)がお願いしたい事があるの、と周囲を見回した。
「アイス溶ける前に早く説明するわね。後で皆で食べても良いけど――じゃなくて、一人の少年を救って欲しいの。ヒーロー願望とかそういうのって誰にでもあるし中二病っていうのかしら? そういうのって誰でも拗らすとおもうんだけど……」
 彼はアホだわ、と真顔で告げる世恋の目に迷いはない。集まったリベリスタの数人が渋い顔や哀しげな顔をしたのは――まぁ、致し方ないのであろう。
「少年は中学二年生。日角・耕哉。ソウルネームは光夜で、コウヤらしいわ」
「――ソウルネーム?」
「え、ええ、彼は夜の眷属で夜の貴族らしいわ。本当の名前が光夜らしいの。そんな事実ないけど」
 さらりと一言。またリベリスタが渋い顔をする。世恋が小さく笑い、事件の詳細ね、と資料を捲くった。
「現場は耕哉が通う中学校の裏山。その頂上辺りに夏になると水色の花が咲くそうなの。神秘のものか、何か分からないけど、ソレ自体には悪性はないの。
 彼にその山を登らせて、水色の花を――ええと、識別名『夏花』を見せてあげて欲しい」
 識別名と世恋が告げたのは名称が無いと困るからだろう。
 単純なハイキングであるならば、誰か大人が耕哉に付添えばいいだけではないのか、と一人のリベリスタが告げる言葉に苦笑を一つ、その通りなんだけどと世恋は囁いた。
「……道中の山でリューションがこんにちは、よ。詰まる所、このままならソレに襲われて闇の貴族が没するわ。恥ずかしいノートとか恥ずかしいグッズとか残して死ぬの。嫌じゃない!?」
 あと、ハードディスクとか。と世恋が両手を振り回す。溶けかけたアイスは机の上に鎮座していた。
「というわけで、助けて頂けるかしら? エリューションは影。どうやら耕哉の手に入れた『ソウル・アイテム』ことアーティファクトが発生源なの。……ついでに、それも耕哉から頂いてきてくれるかしら?」
 中二心バリバリの子だし、一緒に遊んであげれば満足すると思うの、と世恋は小さく笑ってリベリスタの背中をぐいぐいと押した。
「さ、さ、行って来て。ソウルネーム『  』さん!」
 ――勝手に謎の名前を付けられた気がしたが、気の所為にしておこう。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:椿しいな  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年06月12日(水)23:46
こんにちは、椿です。

●成功条件
ソウルネーム『光夜』くんに『夏花』を見せてあげる。

●場所情報
時刻は夕暮れ。光夜が通っている中学校の裏山。人気はなく、頂上に登る為に一本道(けもの道)が続いて居ます。頂点まではおよそ300m。木々の間から『影』が襲い掛かり続けます。足場は不安定。
到着時点では光夜は山に登る手前、彼を探し共に登ってください。

●ソウルネーム『光夜』
一般人。全てを夢とかいい方に解釈するので神秘に秘匿は必要ありません。同じくソウルネームを名乗る人間(ソウルメイト)は問答無用で己の仲間です。彼の世界観は何だかカオスなので、お好きに設定を決めて名乗ってあげて下さい。ソウルメイト以外の人間にはお喋りする事が出来ません、恥ずかしくて。
本名『日角・耕哉(ひずみこうや)』。中学二年生。絶賛年頃です。
自称は『夜の眷属』『夜の貴族』。ヒーロー願望と喝采願望の強い少年。何時か見た『夏花』をもう一度見る為に山を登って居ます。
お年頃である為に自分が他人と違うと思いこみ、『前世のカッコイイ闇の男爵であるオレ』に酔いしれて居ます。実際そんな事無いです。

●アーティファクト『ソウルアイテム』
識別名は光夜くんが付けた腕輪。さっき廊下で拾いました。その瞬間に外れなくなりましたがソウルアイテムなら仕方ないと当人談。
所有者の夢(この場合、夏花を見る)事を叶えるまでは絶対に離れません。
光夜くん自身は同じソウルメイトで欲しいという相手が居れば夢が叶い次第譲る気があります。
所有者が嵌めて居る間は彼に対して革醒仕立ての革醒者相応の回避力を与えますが、影のエリューションを作り出し続けます。

●エリューション『影』×初期5体
ソウルアイテムが生み出し続けるエリューションです。所有者であろうと問答無用で襲いかかり続けます。
初期は5体となりますが、周辺の林や茂みから所有者が腕輪を外すまで生み出され続け、攻撃を仕掛けてきます。その増え方は大体3Tに一度、3~5体ずつランダムです。
能力もランダムで決定され、回復しかできないパターンから、全体攻撃に優れる、近接攻撃に優れる等多岐にわたります。

●『夏花』
夏が始まる足音が聞こえ始めた季節に咲き誇る水色の花。その姿は何処となく睡蓮を連想させるものです。悪性がありません。何故か夏の始まりに咲いて、夏の終わるころには姿を消してしまいます。

ちょっとテンション高くいきましょう。
どうぞよろしくお願いいたします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)
ナイトクリーク
アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)
覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
ダークナイト
小崎・岬(BNE002119)
クリミナルスタア
禍原 福松(BNE003517)
ソードミラージュ
フラウ・リード(BNE003909)
ミステラン
ファウナ・エイフェル(BNE004332)
クリミナルスタア
虚木 蓮司(BNE004489)


 裏山で足をとめた少年が浅く息を吐く。クラスメイトの「あ、日角、何処に行くの?」という声を振り切った日角耕哉――ソウルネーム『光夜』が浅く息を吐き、山へと一歩踏み出した時。
「光夜様!?」
 少年の背後から響く『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)の声はまるで『前世での恋人』を見つけたかの如き必死さを感じさせる音色であった。纏った黒姫・Ver2・1のフリルが揺れる。
「え、だ、誰」
「私、前世で貴方と同族で婚約者だった闇寿(あんじゅ)ですわ! お忘れに、なられましたの……?」
 突然のソウルフレンドの登場にぽかんとする光夜。木々からがさり、と顔を出した『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)が「コウヤっすか?」と首を傾げて見せる。
 突然、上から現れたフラウに瞬きを繰り返す少年に何処かそわそわとした虚木 蓮司(BNE004489)が笑みを浮かべて顔を出した。
「闇の男爵であられるか!? 俺は『ナイトホロウ』。前世で闇の男爵で在らせられた忠僕でございます!」
「え、あ、あんじゅ、とナイトホロウ……?」
「そうっすよ。御機嫌よう、我がソウルメイトにして闇の貴族のコウヤ。うちはウィンド。最速のウィンドとでも呼んでもらえると助かるっすよ」
 手をひらひらと振り、帽子を取ったフラウがぼんやりと輝き始める。突然の煌めきにぼんやりした光夜で有るが内心テンションマックスである。
(うおー!? す、すげえ、光ってる……!)
「凄いよねー。あ、同学年かなー? よろー。光と闇が合わさって最強っぽいー」
 ひらひらと手を振ってアンタレスを握りしめた『ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)に何処となく身構える光夜。少年はお年頃、ソウルネイムを名乗らない人間と話すとかそんな難しい事言わないでいただきたい!
「ボクは、ボク達はハルバードマスターだよー」
「……ハ、ハルバードマスターか。し、して、そちらは?」
 ――何とか少年は気持ちを落ちつけて、岬と共に現れた『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)へと視線を送る。
「……深く黒く……そして昏く輝く夜『光夜』だな? 会えて光栄だ」
(えっ、何その名前、カッコいい――)
「オレの名はそうだな――幸運と不幸の運び手『ラック・アンラック』とでも呼んでくれ」
 飴を咥えてオーバーナイト・ミリオネアに手を遣ったラック・アンラックを見詰め、慌てて「うむ」と頷く少年へと優しく微笑んだ『癒しの穢翼』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)は流れる紫の髪を揺らし、ぺこりと頭を下げた。
「ラック・アンラック様やハルバードマスター様と共に、光夜様と共に往こうと思うのです。
 私は魔物を愛し癒す禁忌に触れ、天より堕ちし者。闇に揺蕩う『癒しの穢翼』――シェリルとお呼び下さい」
 設定が完璧すぎて戸惑いを覚えてしまうのは『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)、23歳だ。小さく咳払いし、光夜の前へと歩み出た彼はす、と手を差し出した。
「闇に在りて尚、輝ける者、『銀の腕≪アガートラーム≫』ソウルネーム、スィトゥール・A・Uだ」
「アガートラーム……!」
「ああ、気軽にUと呼んで構わない」
 意外とノリノリなUの言葉にこくん、と頷くと同時、流れる緑色の髪を揺らし『風詠み』ファウナ・エイフェル(BNE004332)は優しげに目を細める。二次元の中でしか見ない様な長耳族の風貌に光夜がガタッと体を揺らした。
「『風詠み』――界を隔てる壁の外、遥か遠き故郷、母なる永遠より吹く風を詠むものです」
「お、おおお……!」
 ファウナの発言に嘘は全くない。そう、その事にアンジェリカが凄いね、と小さく声を漏らす。ソウルネーム『風詠み』は光夜の手をとって優しく微笑んだ。
「さあ、悠久なる風の祝福を貴方に――」
 仲間に与えられる悠久なる風の祝福こと翼の加護。ふわり、と浮き上がるその体に少年がおお、と声を漏らした。


 さて、揃ったソウルメイトを見詰めながら光夜は己の目的を悟られたのか、とハッとした様にフラウを見詰めた。眼帯に包まれた瞳に触れてから、にぃと笑ったフラウは魔力剣を手に光夜の前へと歩み出る。
「今回うち等がコウヤの下に来たのは他でもない。影の眷属が良からぬ事を企んでいると風の噂で聞いたからっすよ」
「――影の眷属、だと」
「ああ。それ故、あんたの手伝いをさせていただく。何故か、は聞くなよ。悪いがそれは組織の禁則事項なんでな」
 ラック・アンラックの格好良さに胸を打たれる光夜。アウトロウ・アピアランスを夕方の風に靡かせ、一歩踏み出した。フラウと福松が前線に立ち、ソレに続く岬がくすくすと笑いながら光夜の肩を叩く。
 彼を囲む様に布陣したリベリスタ――ソウルメイトに彼が顔を上げると同時、背後に立っていたシエルが紫苑乃数珠-祈-を握りしめ、懐かしいと緩く微笑んだ。
「ソウルメイト光夜様に、運命(さだめ)が訪れるとお告げが……いつぞやディアスポラの森での闘いで貴方様の傷を癒したのも私でしたね」
 何だか壮大な話になってきた気がする。ディアスポラの話を思い出したかのような顔をして光夜が「嗚呼、そんな事もあったな」と頷いている様子を岬はぼんやりと眺めて居た。
「花見に行くんだって? こんな良い夜に花の咲くとこ見に行くとはフゼーがあんねー。
 でも、今夜は闇が騒めく星辰で危険だぜー。せっかくだから一緒に行こっかー」
「今こそ、貴方様の望みを叶える時――! 忠僕である俺を覚えて居らぬとも、伴をさせて下さい」
 あれから時間が経ち過ぎたんだ、と魔力銃を片手に暗視ゴーグルを付けながら悔む蓮司。日頃からの夜な夜な『俺が考えたカッコイイ台詞』の暗唱練習してる厨二力が試されている気がした。否、彼の厨二力は完璧だ。闇の眷属で夜の貴族等と聞いた時からソウルが熱くなっていたのだから。
「え、いや、でも、花を見に行くだけだぞ」
「花を愛でるのに理由が居るのか?」
 普段よりも瞳に光が宿って居ないように思えるスィトゥール・A・Uに光夜はたじろいだ。何だ、この気迫は……まさか、彼が現世の闇の男爵とでも言うのか――!
「参りましょうか」
 何処となく楽しそうなファウナが告げると同時、魔力剣を握りしめ、地面を踏みしめる『最速のウィンド』の目の前に影が現れる。に、と笑ったまま、澱みなき攻撃が影へと降り注いだ。
「遅れるんじゃないっすよ、ラック・アンラック?」
「誰に言ってるんだ。……手伝う理由を一つだけ教えてやる、光夜。
 一人の男の運命がかかってる。――理由なんて、それで十分だろう?」
(か、かっこいい……!)
 現れ続ける影を見詰め、 オーバーナイト・ミリオネアが照準を合わせた対象に気付き、アンジェリカが目を凝らす。まるで踊る様に影を纏い、La regina infernaleを振るう彼女はきっ、と赤い瞳で影を睨みつけた。
「主に仇為すとはなんと不敬な! 光夜様のお手を煩わせるまでもありませんわ、我らにお任せを」
 大きい鎌を持った少女はロマンだと誰かが言っていた気がする――陣営の中で闇のオーラを纏って光夜を庇う位置に立つ悠里が普段通り幻想纏いからGauntlet of Borderline 参式を取り出した。境界線を守る制服を纏っている彼であるが今は闇に包まれし現世に舞い降りた男爵の様に見えた。
「我が下へ集え闇より出る希望の光よ! ――お前はまだ真の覚醒を迎えてはいない。ここは僕達に任せろ」
「えっ、お、俺もそんな技が使える様になるのか!」
 厨二秒真っ盛り。一寸恥ずかしい黒歴史を綴ったりしちゃうような少年の胸は高鳴った。進軍しながらも増え続ける影が攻撃を繰り出すたびに、魔力増幅杖 No.57を握りしめたソウルネーム『シェリル』ことシエルが仲間達へと癒しを繰り返す。長丁場となる戦闘で、周囲から魔力を取り込む事を忘れずに彼女は低く浮かび上がり祈り続ける。
「ディアスポラの森での戦いを想いだす様です。又、こうして癒せるなど夢の様……。只管に癒しましょう」
(何処だろう、その森……!)
 少年の心が揺れ動く。彼が飛びだしたいとうずうずと体を震わせる其処へとくすくすと笑った岬がアンタレスを振るった。ふわ、と浮かぶ彼女――ハルバードマスターはやれやれと肩を竦める。
「木より高く飛ぶと狙われっぜー、密やかに進むのが夜の醍醐味だよ―」
「お、おう!」
 振るわれるアンタレスから真っ直ぐに飛ぶ黒き瘴気。己の生命力を黒き瘴気に変えて影を包み込む岬の唇がにぃ、とあげられる。中央に巨大な目があり四方に炎のように揺らめく刃を伸ばした黒きハルバードに光夜のテンションもアップしている。
「闇と比べっとずいぶん薄い影だよねー。本物の闇で喰らい尽くしてやんぜー――暴食しろーアンタレス!」
 影を包み込むソレに、背後からの強襲に気付いたファウナが「ナイトホロウ様!」と声をかける。その声に反応し、掌で回した魔力銃。撃つと見せかけ、その手の下から現れたリボルバーが弾丸を放ち出す。
「薄昏の影が真闇の貴族たる光夜様に刃向かう等身の程知らずめ――ッ!」
 その言葉と共に、弾きだす弾丸が見事、影へと命中する。だが、最後尾に居た蓮司が受け続ける攻撃の数も多い。癒してたるシエルの支援を受けて、何とか浮かびあがりながら応戦する彼を援護する様にアンジェリカの鎌が影を切り刻む。
「す、凄い……!」
「いいえ、光夜様の偉大なお力に比べたら、私の闇の眷属としての力は微々たる物、お恥かしいですわ」
 くす、と笑う前世のフィアンセ『闇寿』に不覚にも頬を赤くする中学二年生。非常に微笑ましいが前世のフィアンセが頑張っているのに此処で己が後ろでぼんやりなどしていられないとうずうずしている事に気づき悠里が「光夜!」と名を呼んだ。
「なんっ――」
「爆ぜろ紫電! ライトニングヴァイパー!!!」
 振り向きざまの彼の肩を掴み、ファウナへと預けたその体、迫ってきた影へと真っ直ぐに拳を突き立て、雷撃を纏った武舞を見せつける。

 その姿はまるで雷神の様だった。とてもカッコイイ現世に舞い降りた闇のけん属の姿を見た(光夜・14)

「闘いたいって? 悪いな、オレの所の組織は歩合制でよ!」
 光夜が前へ飛び出そうとするのを遮り、全てへと弾丸を放つ幸運と不幸の運び手の姿に光夜が止まる。ふわ、と体を回転させ、時を切り刻む様な動きを見せたフラウは「やるじゃないっすか、U!」とくすくす笑う。
 実際の所を言えば、フラウ的には「名前自体が相当アレなのに……!」と思ってしまう所もあるのだが。ソウルネームが必要と言うならば仕方がない。それに最速は極めたいところである。いっその事名乗るのも良いだろう。
「悠久なる風の祝福は幾度とて訪れます。其れが風詠み――木々が私に告げております」
 耳を澄ませ、行く先を確認するファウナが仲間達へと支援を与え続ける。長丁場の戦闘で、運命を代償に立ち上がる事が叶わなかった蓮司が膝をつくが、その体を支えたアンジェリカが「ナイトホロウ!」と叫んだ。
 夜の眷属であり闇の銃士たる光夜の忠実なる僕が「光夜様……!」と呼ぶ声に唇を噛み締める。だが、此処で手を出す等、フィアンセや忠僕の忠告を破る事になる。
「……済まない、ナイトホロウ……!」
「大丈夫ー。ナイトホロウの敵ならボクが、ボク達がとってやるさー。
 どんな能力を持って様と先にぬっ殺せば良かろうなのだー。さあ、ブッパなー!」
 ぶん、と振るわれるアンタレス。闇を喰らい尽くせと叫びながら岬が放つソレが影を包み込む。叫ぶ彼女を支えるシエルが癒しを求め、翼を与え、仲間へと攻撃する力を授けるファウナが風を詠み続ける。
 ふわ、と浮き上がり体を捻りながらアンジェリカが疑似的な赤い月を昇らせる。普段ならばアマーティレプリカモデルを掻き鳴らし仲間達の気分を高調させる所であるが、今は前世のフィアンセを守る事に懸命だ。
(で、中二病ってなんだろう……? 耕哉君とお芝居すればいいんだよね?)
 今更ながら闇寿嬢には判らぬ世界なのだった。仕方がない、彼女は闇の世界の住民なのだから、現世の言葉を知る由も無いのだ。
「闇よ凍てつけ。ブリザードアクセル!」
 拳を突き立て、凍るその合間、悠里の攻撃など正に現世の闇の男爵だ。同じく闇の眷属たる光夜が「U……!」と名を呼び続ける。
「光夜、お前の真の覚醒は未だだ。良く見ておけ――! 我が糧となれ、ブラッドゲイン!」
 ――意外と楽しんでいる様である。設楽悠里(23)。そんな彼の背後から繰り出される闇の瘴気と弾丸も真っ直ぐだ。
「夜を歩むなら闇ぐらい見通せっさー!」
 暗闇をも彼女を阻まない。少女は闇の中で笑みを浮かべ、光夜を圧倒し続けた。禍々しいアンタレスの弾きだす瘴気。ソレに合わせ、オーバーナイト・ミリオネアが弾丸を繰り出し続ける。
「光夜よ。特殊な能力に憧れを持つか……そんなに、良いものじゃないぞ」
(くっ、ラック・アンラック――! お前の人生にはどんな物語があったというのだ!!)

 時よ止まれ。――君は何よりも美しいから(ウィンド・15)

 君って誰っすか、なんて自己突っ込み。そのあとに決まってるっすけどと小さく笑うフラウが影と共に時を切り刻む。時よりも早く動き、全てを切り刻むその動きに、光夜がほお、と息を漏らす。
「是非もありません……聖湊降魔斬!」
 エアリアルフェザードのソウルネームだと言うのだからシエルも徹底している。彼女等の攻撃は長い山道で的確に与えられていた。中心に居る闇の眷属ことソウルネーム『光夜』へと不思議な夢を見せ続ける程度には、的確な攻撃なのであった。
 頂上が見えた時、悠里が「ラストスパート!」と叫んだ。迫りくる影に対して攻撃を続けるソウルメイト達。
 ソレはまるで、闇と光を司りし勇者の冒険譚の様であった――と光夜は後に語る……。


 肩で息をしながら、「やっとついたぁ」と間延びした声で告げる岬に冷や汗を拭うナイトホロウこと蓮司。
「……彼が見たいと言う花は……?」
 首を傾げ、興味深そうに囁くファウナにこっちだ、と光夜が手招いた。私も見てみたいと翠の瞳を瞬かせる彼女の目の前には大きな水色の蕾がある事が気付き、フラウが感嘆の息を漏らした。
「夏花、夏花……ねぇ。蕾だけでも綺麗っすけど、結局こいつは何なんすかね?」
 ぽそりと零される声に光夜が口を開こうとした時、悠里が「しっ」と囁く。『夏花』と名付けられた花がゆっくりと開く場面をリベリスタ――今はソウルメイトとなった彼等が緊張した様に見詰める。
「……綺麗……嗚呼、光夜様。この道行きの最後まで私の事を想いだして頂けなかった以上、闇の世界に帰らねばなりません」
「えっ、あ、闇寿――!」
 咲き誇る花に背を向けて、光夜が振り仰ぐ。哀しげに目を細めた闇寿ことアンジェリカはそっと近付き、爪先立ちで少年の頬に軽くキスを一つ。
「貴方様とこの花を見れたこと、決して忘れませんわ」
 驚きに少年が目を丸くした時に、一歩下がる彼女はファウナの背へと隠れてしまう。歩み寄ったシエルが「光夜様」と小さく囁き袖を引く。真摯な瞳は『ソウルな記憶』を浮かべて何処か気まずそうに揺れ動く。
「光夜様、魔物を愛し、癒すのはそれ程の邪悪なのですか?」
「いや、俺は悪くないとお、もう。癒しの穢翼(シェリル)は良い奴だって、俺――!」
「嗚呼、良かった……貴方様の歩む道にシオンの幸福が有らん事を」
 幻視を使い、空気に溶ける様な演出を見せるシエルであるが、実際のところ夏花効果で光夜には光りに包まれた様に見えた。

 まるで天使が、還って往く様だった(光夜・14)

「その腕輪は先程の影を発生させる危険な物だ。我々の組織に持ち帰って封印を施したい。譲ってもらえるか?」
 そっと近寄る悠里の言葉に「何を言うんだ、U」とソウルアイテムをぎゅ、と握りしめる光夜。渡すか渡すまいかを悩んでいる彼の下へと近寄った福松が手袋を片方外し其の侭、彼へと差し出した。
「ラック・アンラックと光夜は戦友だ。勿論、U、お前もだ」
「嗚呼、その通りだ。ラック・アンラック……その腕環、任せるぞ」
「――戦友の証として、その腕環、オレの手袋と交換しないか?」
 ぼそりと「ラック・アンラック」と呼ぶ光夜の瞳が輝いた。そっと交換される腕輪(ソウルアイテム)と手袋。二人の男の友情が其処には生まれて居た。見詰めながら岬が「いいなはしだなー」と呟いていたが、彼らにはそれも気にならなかったようだ。
「お前が真の意味で覚醒したらまた会うことになるだろう。さらばだ。」
「――……有難う諸君、また逢おうぞ」
 ――凄まじく嫌な言葉が聞こえた気がしたが聞こえなかったふりをしようとファウナは瞳を伏せる。
 花を見て満足した少年の後ろ、山を下りながらほっと一息をついた悠里の表情が何処か戸惑いを含んでいる。じ、と見詰めているシエルがどうかなさいましたかと首を傾げた事にびくりと背筋を伸ばした。
「あ、い、いや……僕、23才なんだよ……?」
 二度とこんなの遣らないと小さく呟く悠里が恥ずかしかったと視線を逸らす。全力で楽しんでいたアンジェリカも指先で髪を弄り「夢だよ」と呟いた。
「けれど、楽しめましたから……」
「まぁ、ちょっと楽しかったけどね」
 ソレで良いではないですか、と優しく微笑んだシエルは星の並び出す空を眺めて、静かに目を伏せた。

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
ソウルネームでした!
中二力が凄まじくて、こう、闇の力でどうにかなりそうでした。
光夜くんのワールドに何か新たな設定が付け加えられて更に凄まじい闇の貴公子にでもなりそうです。

お疲れさまでした、ご参加有難うございました!

===================
称号付与!

禍原 福松(BNE003517)に『ラック・アンラック』の称号が与えられました。