●とある来訪者 「夜倉さん、アザーバイドの出現予測……って、大丈夫なんですか?」 「何がですか?」 「いえ、放置してたら世界に対して悪影響とか、そういうものが……」 「ええ、『永らく放置していたら』危険でしょうね」 書類をしげしげと眺めながら、手許のコンソールを操作する『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)に、『Rainy Dawn』兵藤 宮実(nBNE000255)は首を傾げた。 アザーバイドによる異世界干渉からくる革醒の誘発は、原則的に警戒して然るべき出来事である。だが、逆に言えばそれを警戒する必要性に乏しい、ごく短期の介在であれば(害意がない場合、に限定されるが)アークも黙認、ないし管理下に置くケースは非常に多い。 斯く言う彼らも、つい先日アザーバイドを一晩保護した経緯があるが、割愛する。 「取り敢えず、この資料を」 「え? あ、は……ひぁ!?」 夜倉から何の気なしに受け取った資料に目を落とし、思わず宮実はそれを取り落としそうになる。視界いっぱいに広がる、芋虫の画像。 「あ、すいません、二枚目です二枚目」 「あ、はい……うぅ……? 蝶……変態後、ですか?」 「ご名答です。『はらぺこおおむし』変態系、『白雪聖母』。ボトムでの出来事があってか、こちらに対して極めて有効的なアザーバイドです。声によるコンタクトはとれませんが、自身でテレパシーによる意思疎通が可能なので問題ないでしょう。……それで」 「それで?」 「どうせなので、この個体の出現に併せて結婚式のイメージビデオの作成でもしようかな、と思いまして。でも、教会では去年やってましたので……レタス畑で」 「レタス畑……ああ」 そういえばあったなそんなとこ。 っていうかそのアザーバイド映り込んでいいのだろうか、とか細かいことを突っ込んではいけないのだろう。だめなのだ。 「そういう訳でクミ君、リベリスタ諸君に招集かけてください。ぶっちゃけカップルじゃなくてもいいです」 「投げやりですね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月16日(日)23:19 |
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■メイン参加者 15人■ | |||||
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●※ お役所仕事も、土日祝日は往々にして休みである。 義衛郎とて、その常に漏れぬ立場にあり……そんな時に誘いをかけたのは、嶺。行きたいところ、とやらに連れて行かれることとなった。 と言っても、日常の激務に追われる彼が溜まっている疲労に耐え切れるわけもなく。移動中に寝入ってしまったわけだが……さて。 ●かれこれ数年ぶりの再開らしいです 「おおむしさんだ! おおむしさんだ!! おおむしさんだ(>▽<)!!!!」 (やさしい ひとー) おおむしさんだ三段活用。終の興奮ぶりは、幾星霜の再開を喜ぶ恋人同士の如きだが、彼の態度を見ている限りでは全くその通りなのだろう。 『白雪聖母』。嘗て彼を始めとするリベリスタがバグホールから送還させたアザーバイドは、立派な蝶の姿となって舞い戻った。 鉄錆と煤煙漂う世界の住人なのか、常に空腹を訴えていた悲壮な姿は無く、かといってその世界に適合した禍々しい姿でもない。蝶としての姿を象ったまま、周囲に対する幸福観念の影響力が強化された形である。 喜びの余り足下に生えたレタスに手をかけ、勢いよく収穫するとその葉を一枚千切り、齧る。過去数回ほど、強烈でありつつも爽やかなな苦味を持つ『ビターライフ』の収穫が精一杯であった彼だが、この時ばかりは『蜜色ラプンツェル』の収穫に成功したようだった。 「苦節三年……長かった……」 ここまで粘られると思ってなかったからホントびっくりだよ。 「久しぶり……元気そうで良かった……」 (しあわせそーだねー) 白雪聖母との再会があったのは終一人ではない。遠子もまた、その幼体に関わった一人であり……その姿すらも可愛いといってのけた人物なのである。 エキストラとして参加する為に仕立てのいいカクテルドレス(貸衣装)を着ていた彼女に、ふわふわと接近した白雪聖母が鱗粉を飛ばす。それに加えて発せられるテレパシーは、間延びしたそれと相俟って『幸せ電波』と呼ぶに相応しい。 「向こうでは大丈夫……? おなかすいてない……?」 (おなかはすくけどだいじょうぶー) 「おおむしさんいらっしゃーい☆ ウェルカムドリンクにラプンツェルジュースどうぞ☆」 終の行動は素早かった。蜜色ラプンツェルを加工したジュースを既に作っており、匂いにつられた白雪聖母は口吻を延ばし吸い上げる。瞬く間に消えたそれに継ぎ足すようにビターライフのそれが溢れ、喜びの鱗粉が舞った。 「新鮮な美味しいレタスを分けて頂けると聴きまして参りました!」 「その上糖度高いので加熱調理もなんのそのですよ。『お嬢様』も喜ばれるのでは?」 完璧なメイドであるところのリコルにとって、新鮮なレタスというのは非常に魅力的なものである。 張り切って収穫に赴く彼女に、周囲を歩いていた夜倉も思わず言葉を継いでしまう。それほどまでに、彼女の興奮度は高いのだ。 満面の笑みを浮かべる彼女には、目の前のレタスしか見えていない。遠巻きに幸せオーラ展開してる面々が居るのは分かるが、それはさておき。 「それにしても収穫者の気分によって味が変わると言うのは何とも不思議な事でございますね」 「元・異世界の野菜ですからね。こちら側とは常識が違うのでしょう」 しみじみと呟く彼女の言葉は全くに正論であった。神秘なれしているといっても、その全てが当然ではないのだから当然か。 義務感、そして主人への篤い忠誠あってこその収穫が、どんな結果に終わるかなど言うまでもなし。 ●砂糖水(単位は何故かガロン) 「ま、真似事とは言え、緊張しますね……!」 かちんこちんに固まっているリンシードに、糾華は柔らかく笑いかける。 彼女の形の良い唇から何か、小さく言葉が紡がれたような気がしたが、緊張に震えるリンシードには届かなかったようである。 「では、お姉様……こちらのウェディングドレスを……」 「リンシード、貴女も着るのよ」 「ドレスなら、沢山、ある……選ぶと、いい」 糾華の言葉にぐ、とつまったリンシードの背後には、リリの撮影補助に回っていた筈の天乃の姿があった。衣装と聞いて手伝いに来たらしい。 「いや、お姉様、私が夫……お姉様が妻、ですよね……」 「貴女が夫も何も、貴女は私の物でしょ? なら私が夫に決まってるじゃない。だから、貴女が着」 「私が夫と言ったら夫なんですっ、おねーさまのばかっ、わからずやっ」 「ば、ばかって酷いわ!リンシードのおたんちんっ」 内容を整理すると。 リンシードも糾華も、相手の晴れ姿が見たかったのである。しかし、結婚式の体裁上何れかが『夫役』として主導権を握らねばと考えたのだ。 その結果がご覧の有様である。お互いを大事に思うからこその、可愛いトラブルである。 (夫婦喧嘩は犬も食わないと言いますが、ここまで微笑ましいとどうなんでしょう……) 遠巻きに見ていたクミがほっこりとしていたのはここだけの話。 薄紫の花を象った糾華に、淡青の羽をあしらったリンシードのそれは、花に留まるハチドリを思わせようか。 互いにほう、とため息をつくのは、ただ見惚れたというレベルではないのだろう。 「何時か二人でこうして歩くことを夢見てしまっても良いのかしら?」 「夢でなんか終わらせません……必ず、いつか現実にします」 何時かと言わず今。今だけと言わずいつまでも。 その手を離さず一緒にいたいと願うのはきっと、互いにとっての夢ではない現実である。 重ねた唇の意味は、そういうことだ。 「これは一体なんだ。そしてここは何処だ」 「レタス畑です」 「レタス畑のど真ん中での結婚式のPVだなんて面白いではないですか」 義衛郎は、いつの間にか新郎の姿をしていた。大体嶺のせい。不自然なほどに真顔な夜倉が、彼に対しひと通りの説明を済ませたところで、彼はうん? と首をひねった。 「オレ程度のビジュアルで良いんだろうか」 「市役所きっての好青年と噂のアナタが何を言うのです」 きっぱりと言い切った嶺、とてもいい笑顔でした。あーなんだ幸せそうだな、恨めしい。 「あ、言っておきますが今のやり取りもカメラに収まってますからね。快君?」 「今丁度クールタイムだったから全部撮らせてもらったよ! 世界は壊滅する!」 「思い出したように某編集部の真似はやめなさい」 「ニヤニヤして面白がるんじゃないコンチクショウ」 で、こんな二人の実際の映像はどうかっていうと、だいたい嶺の希望として砂浜もかくやと言わんばかりの追いかけっことか。 「ははっ、こーいつーぅ☆」みたいなやりとりとか。 そういうものを重点的に撮らせていただきましたとも。当然ですよ。 「フラウ、一緒にドレスを着よう?」 「って言うか、ドレスっすか? うちが? ソレこそ似合わないと思うっすけど」 五月の突然の提案に、フラウは思わずたじろいだ。 二人の立場その他を考えれば、確かに五月が花嫁姿、フラウがタキシードというのが順当といってしまえばそうであろう。 しかし、『一緒に』なのである。二人共が着ることに意味があるのだ。 「ふわふわのドレスはオレには似合わないと思うが、着てみよう」 「似合わないなんて、とんでもない。何よりうちが見てみたい。ソレじゃダメっすか?」 「む、フラウが見たいというなら」 恐らくは、五月はシャープな印象のあるそれを着ようとしていたのだろう。しかし、ふわふわのドレスで着飾って真剣に愛を紡ぐというのもまた、彼女としては様になる。 ……で。 着用後の二人の空気は、着用前のそれとは明らかに異なっていた。 五月の表情もひきしまり、普段の何事をも混ぜっ返すような無邪気さは感じられない。真面目に、その場に至っているというべき姿だ。 誓いのキスを、とは思えど、二人の身長差を考えれば現実的ではなく……結果として、額を付ける程度の触れ合いになるのは致し方ない。 それでも、互いの気持ちというのは十分に伝わるものなのである。 「どんな時も君を守って,どんな時も傍に居る 辛くても苦しくてもオレは君の事を護り切って それから『頑張ったね』って褒めて貰うのだ」 「例え二人が離れていても、互いが互いの帰る場所で、 『ただいま』と『おかえり』って言い合えたらソレだけで幸せで」 誓いの言葉を改めて。 「オレはフラウが大好きだぞ! これからも,沢山沢山色んな事をしようなっ! 約束なのだ」 「うちもメイの事が好き、大好きっすよ。メイが望み続けてくれる限り、うちは必ず傍に居るから。だから約束だ、メイ」 どこまでも続く二人の道のために。 ●PV撮影の裏側の密着取材的な 「PV撮影にはBGMが必要不可欠だろう?」 新進気鋭のバンドマン、竜一。 昨今の活動が一部で評価されていることは、彼にとっても鼻が高いことだろう……しかし、上に至るにはそれでは足りないこともまた、彼は知って居た。 「だから、こうして実力と実績を積み上げていくのさ。そう、仏の領域まで!」 おい徳の高さの前に黒歴史の深さを塗り固めるような文言やめーや。 「宮実たん、俺がギター弾くから賛美歌歌って!」 「え、えぇ……!? いえ、賛美歌とかひと通り覚えてますけれど、ギター伴奏でですか……?」 で、クミにこういうエクストリーム無茶ぶりが飛んでくるんですよ。 「大丈夫、ちゃんと歌えるようにメロディラインは崩さないから!」 「ま、まあそう仰るのなら……」 「待った。兵藤には、その前にウェディングドレス、を、着てもらう」 「え?」 ノリノリの竜一に待ったをかけたのは、言うまでも無く天乃である。サポートがてら、メイキング映像のみという縛りで自らもドレスを着ようと考えた彼女は、あわよくばとクミを巻き込むことを考えたのである。 そこで「ウェディングドレスで賛美歌かー」と頬が緩んだのは仕方あるまい。クミだって女の子だもの。 「レンズを通しても魅力が減衰しないのは流石だなあ。あ、天乃さんも寄って寄って。記念撮影だって!」 昨年度の新郎役は容赦なかった。カメラマン新田、撮影には容赦しないらしい。 「……特に何かなくとも、こういうドレスは着てみたいですよね」 レース多様の女性らしさを前面に押し出したドレスの裾をつまみ、リリは柔らかく微笑んだ。 実は、天乃に何着か試着を促され、かなり際どいものも着たのだが……結果として、ベーシックなところに収まった格好だ。 「メグ様、淡い水色に甘めのデザイン、よくお似合いですよ」 「リリ姉さんも凄く綺麗だよ」 マーガレットと互いを褒め合う様子は、温かなものを感じさせなくもない。 美しさという点では両者甲乙つけがたいところだが、互いの美しさのベクトルの違いというものもあるのだろう。 ときに、どのようなPVを撮影するのか? となれば。 レタス畑での撮影ということで、二人が舞う様に手を取り合い駆けてみたり、楽しんでみたりするのだろう。 「その時までは、そうしてからもずっと一緒に居られたら………」 「リリ姉さん、なんて?」 「いつでも貴女の幸せを願っていますよ、と言いたかっただけ、ですよ」 マーガレットを引き寄せるようにして抱きしめ、優しく微笑むリリは実に見栄えのする姿である。 そんな二人を撮影する快が、こころなしか近すぎるような気がしないでもないが……放っておこう。 ところで。 「ハーイ、白雪聖母ちゃん! ちょっと幸せ分けてね☆」 (おひさし、ぶりー) 「ハイハイお久しぶり☆ さあさあ夜倉兄、ほらこっち!」 「いいい痛い痛いとら君力込めすぎですからって」 とら、夜倉を羽交い絞めにして白雪聖母の元へと連れてきた。 生憎と、一度合っている割にアザーバイドに対して奇のない返事を向ける彼女に、夜倉は特に何も言おうとはしなかった。『そういうこと』なのだろう、と落ち着いたものである……腕が痛くて仕方ないが。あと鱗粉ぶちまけられても某ハピな粉じゃあるまいし……。 「どう、幸せな感じする?」 「平和だったらどれだけいいかって思うんですけどねえ何でリベリスタにこんな扱い受けてるんでしょう僕……」 おおっと効果が反転して鬱になった。 斯くして、PV撮影は無事に終わったり終わらなかったりしたのです。 |
■シナリオ結果■ | |||
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