●ビッチバイクGOGOGO 時刻は夜。子供達は寝静まった頃だが、街とは遠く離れたこのバイクの聖地と呼ばれる峠ではむしろ逆。ここからが本番というところである。 そんな峠の休憩所で、通りかかるライダーたちを値踏みする女がいる。視線の主の艶かしい曲線を描いた大胆なボディはマニアでなくとも生唾を飲み込むほどのもの。魅力的なボディラインを魅せつけながら、けれど彼女はなかなか動かない。彼女は待っているのだ。今夜、この長い夜を共にするお相手を。 なかなか行動を起こさない彼女を慕う2人の後輩が「先輩、今夜は目ぼしい男はいないんですかぁ~」と問いかければ。 ――ばかね。私は愛を与える男をいちいち選んだりしないわ。求め合うなら誰だって乗せるのが私の信条よ。 女の艶やかな吐息に後輩たちが「やーん先輩シ・ビ・レ・ルゥ~♪」と身をくねらせた。 と、それまで行動を起こさなかった女が突如動き出す。視線の先では男が缶コーヒーを手に休息を取っている。 しかしよく見れば男にはすでにツレがいた。「無茶ですよぉ~」と慌てる後輩に。 ――分不相応な女を見ると、奪いたくなっちゃうのよね。悪い癖ね。 その表情には傲慢な余裕しかない。「やーん先輩あ・く・じょ♪」と後輩が声を弾ませる。 時間にしてわずか。虜になった男はツレを置いて彼女の腰に手を回し手を取って付いて来てしまった。 さっすが先輩と賞賛の声。「今夜の相手が決まりましたねぇ~」と微笑む後輩たちもそれぞれが1人ずつをキープして。 ――愛とはこの世でもっとも価値あるものよ。お金で愛は買えないけれど、愛で買えないものは何一つないわ。 力強く持論を語ると女はその背に男を感じる。夜はまだ長い。私達の夜はこれからなのだ。 ――さあ、スリル満点の愛を楽しみましょう。 ●デンジャラスドライビングGOGOGO ブリーフィングルームのモニターからエンジン音が鳴り響く。画面いっぱいに広がったその映像。夜の峠を走るその姿。 「……バイクだな」 「イエス。大胆で美しいそのフォルムに誰でも乗せるのが信条のビッチだそうデース」 お前その言葉の意味わかってんのかと疑いたくなる英語圏の人、『廃テンション↑↑Girl』ロイヤー・東谷山(nBNE000227)は続けマースよと資料を広げ。 「エリューション・ゴーレムとしてはフェーズ2相当。高速で峠を攻めていマースよ」 サイドカー付きのこの大型バイク、乗っているのは魅了された一般人。待ち構えて動きを止めたいところだが、魅了されている一般人が振り落とされればただではすまないだろう。 「タイヤだかエンジンだかの関係で、行動不能系のBSは無効化されるから注意デース。走るバイクをブロックすれば双方ただではすまないので、こちらも乗り物で追いかけながら戦うことになりマースね」 人を乗せてる段階では攻撃に気をつかわなければならないし、倒す前に一般人をどうにかしないといけない。考えることはいくつもある。 「3人の一般人を救出してくだサイ。お任せしましたよヒーロー」 バイクはいくらでも貸し出しマスよと語るロイヤーに。 「敵は3台のバイクか。まぁなんとかしてくる」 「違うよ?」 あれ? 「ビッチバイクは1台だけデス。残りはサイドカーに乗ってるヨ」 よく見るとバイクにまたがってるのが1人。大き目のサイドカーに2人詰まってる。そして…… 「……もしかしてこれか?」 一人の男の身を包むその姿。 「彼女はビッチお布団。誰とでも寝るのが特徴デス」 ……当たり前だろ。 「ちなみにもう一人の男が持ってるのがもしかして?」 「彼女はビッチ包丁。誰にでも身を任せるのが――」 「うるせぇよ」 もしかしてキャンプ場で捨てられていたのだろうかと思案しつつ、「楽しいドライブをヒーロー」との声を背に聞いて部屋を出た。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:BRN-D | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月23日(日)23:06 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●バイクレースで行こう! リベリスタはそれを待つ。 夜の峠に遥か響くバイクのマーチ。月明かりが産み出す星の道にアクセルを踏み込めば高らかに。 リベリスタはそれを待つ。 風が音を運んでく。風が心を運んでく。寒さを感じさせない火照りこそバイクに魂を奪われた証。 バイクスーツに身を包み、用意されたバイクの前でその時を待つ8人の男女。 峠を抜ける風がその髪を揺らして。 ――風を切る感覚は楽しい。走らせるのも。 顔に当たる風が心地よい。『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)は目を閉じて全身で風を感じていた。 それを愛する心は大事だ。けれど、愛は与えるもの。 ――対価を求めたら、それはもう単なる欲望だ 傲慢でも。バイクの根本にあるものは、人に愛されたいと願う気持ち。それでも。 徐々に近づいてきた音に閉じていた目を開く。 ――バイクは好きだ。だから、止めなくては。 そこにあるのは決意の瞳。 杏樹は後部座席が定位置となる。今日の相棒に声を掛けようとして、躊躇する。その横顔が見せる悲しみと焦燥、怒りを読み取って。 視線の先で、『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)は内面の思いに呼応するように小さく拳を震わせた。 ――恐らくは禅次郎も同じ。自分の中のやるせなさと向き合っている。その気持ちはきっと、私が抱くのと同じもの―― ――ビッチと言うから金髪でボインボインのお姉さんを想像していたが……確かにビッチと言えばビッチだが、何というかこう……思春期の心を弄びやがって。 禅次郎が抱いていたのはこれでした。 ビッチって布団やら包丁やらにつけていい言葉なのかと小一時間。 「今からでも遅くは無い。金髪でボインボイン、ライダース前開けのお姉さんに変更しよう。な?」 誰に言ってんだ。 「禅次郎、そろそろ来る頃だ」 杏樹の声に背後を振り返る。ああと返事して自前のバイクを引いて―― 「……私も同じ気持ちだ」 手を止める。 「杏樹も、この(金髪ボインへの)やるせなさを?」 「ああ、(バイクを想うと)やるせない」 2人小さく頷いて。いよいよ近づいたアクセル音に、一斉にかかったエンジン音が答える。 バイクの聖地と呼ばれるこの峠には数多くのライダーが存在する。その全てが、夜を切り裂くその大胆で美しいフォルムに目を奪われて。 並み居るバイクをごぼう抜きにして走るビッチバイク。サイドカー付きで猛スピードで走り抜けたこのバイクが、乗り手が運転せずに走っているなどとは誰も思いはしないだろう。 ――今宵も私の独壇場。私よりいい女(バイク)なんて存在するはずがないものね。 当たり前だけれどと笑えば、「さっすが先輩バイクィーン!」と後輩たちがもてはやす。 ――これより先はライダーたちもいなくなるし、今夜はこのくらいにして戻るかしらね。 走りを見せ付ける者がいなくては寂しいものねとスピードを緩め引き返そうとする――その途端に横に並んだ1台のバイク。 独特のヒーロー風デザインの大型バイク。同じようにサイドカーを付けて、ライダーの少女がにっこり笑ってアクセルを吹かせた。追い抜く際に後ろに乗った女性の「イェスイェスオゥカモンベイビィ!」の声が間延びして。 ――私を挑発ですって? ……いい度胸ね、今夜は延長戦よ。 ボディを光らせて、ビッチバイクが速度を上げた。 「Oh Yeah! ビッチがついて来たよシーインさん!」 後ろに座ったビッチ。もとい『魅惑のカウガール』プルリア・オリオール(BNE002641)の声に微笑んで。 「ビッチだかなんだか知りませんが、誰でものせちゃう尻軽なバイクにわたしのアースチェイサーが負けるわけありません」 普段の人好きのする笑顔が、月に照らされた今夜は不敵に映っている。『蒼輝翠月』石 瑛(BNE002528)はビッチバイクが追いつくのを待ってからアクセルを開けて。フルスロットルでビッチバイクをぶっちぎる! 「ワオ! so cool!」 バランスを取りながら魅惑の腰付きでしがみつくプルリアが興奮気味に声を上げれば。 「峠の女王の名はわたしの物です」 どこか目が据わっていた。 ――この私を舐めてるわね……許せないわ! ビッチバイクが猛スピードで追いかけるもその差は縮まらない。ただ速いだけではない。重心を傾けてコーナーを最短距離で回るそのテクニック。 ――私が追いつかないですって!? 「当たり前ですよ」 よく手入れされた自慢のバイク。それを活かし最高を引き出す腕。 「1人で走ってるあなたに、アースチェイサーとわたしのコンビが抜けるはずないでしょう」 石瑛のドヤ顔にビッチバイクのエンジンが怒りの絶叫を上げた。 「ここまで来たらもう大丈夫ですね。一般のライダーが割り込むことはないでしょう」 上手く引き寄せた石瑛が集中し強結界を張れば、途端に周囲に集まった3台のバイク。ここからがリベリスタの本当の仕事だ。 「カワイイ男の子を誑かして……ビッチ許さない! NO! 絶対にNO!」 ビッチバイクとその後輩たちが戦闘態勢を取れば、ウィンチェスターライフルを構えプルリアが咆哮を返す! 「ビッチGirl全員かかって来いやァ!」 ●サイドカーで行こう! 夜の峠を高速で走り抜ければ、眼下の町明かりは流れる星のように。 「まるで映画のワンシーンのようだな」 ドライブを趣味とする『白銀の鉄の塊』ティエ・アルギュロス(BNE004380)はその光景に一時心を奪われて。 ――はしゃぎたい所だが……ナイトとして、一般人の救出が最優先だ。 大型バイクを駆り距離を詰めれば、後ろに乗る男性がAFを通じて指示を出す。 初めに示したのは危険箇所。ついで示した攻略ポイント。 バイク乗り友達に聞いたんだよと『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)がウィンク一つ。脳内に叩き込んだコースと実際の景色を見比べて早め早めに指示を飛ばし。 「ティエさん後はよろしく☆」 「任された」 指示を完璧にこなせるのはティエの卓越したドライブテクニックの賜物だろう。難なく危険箇所を抜ければ、示された箇所で一気にビッチバイクの前に出る! ――なんですって!? 正面に回り込めば、焦るビッチバイクに向かい合うのは後部座席の終なわけで。 「百戦錬磨なだけあって超美バイク☆ ひゅーお姉さんかっこいい☆」 気を引いた後ろで、意思を高めティエが光を産み出して。 「目を覚ませ!」 示したのはビッチバイクに魅了された3人の一般人。浄化の意思が命を包み。 ティエの浄化の力でビッチバイクに心を奪われた者の目に光が戻る。けれど、抗う気力は徐々に霧散し―― ――無駄よ。私に乗っている限り、すぐに私のものに戻るわ。 「ほう。では試してみるか」 声は背後から。後ろにぴったりと付けたバイク、その後部座席にふんぞり返る巨漢が発して。 「昨今のキャンプ場ではマナーが問題と見える。いずれ是正せねばなるまい」 布団に包丁のエリューションを見やり、王が見据えるべき問題として『百獣百魔の王』降魔 刃紅郎(BNE002093)は威風堂々腕を組んだ。 バイクに乗るのはこの男だけにも関わらず、その両腕は固く組まれ。そもそも座っているのは後部座席だ。ではこのバイクも自分と同じエリューション? ……いや違う。よく見れば小さく頭が突き出てる。大型のオフロードバイクを操る小さな少女。同じ年頃の世代に比べても小さな身体。その姿は余りにも不釣合いで。 「いやー、普段はエンジン付いた乗り物運転できないんだよねー」 軽い口調で語るアメリア・アルカディア(BNE004168)はなにせ10歳、免許も取れない年齢なのだ。けれど心配になるその外見とは裏腹に、巧みなドライブテクニックで緩急つけて峠を攻略し。 「安定性もばっちりだよ。王様、後ろで仁王立ちしてもいいからね」 バランスは取るから任せてと笑えば、大仰に頷いて刃紅郎が峠を抜ける風そのものに身を任せてふんぞり返ってみせた。 「見ろ貴様ら!」 見よこの威風! この威厳! 一度見たら目が離せなくなるこの存在感! 全身が痺れる様な感覚に男達の目が惹きつけられて。後に残ったのは完全に正気に返りあたふたする一般人と、屈辱感に満ちたビッチバイク。 「ああ風が気持ちいいな! 流石はバイクの聖地よ!」 戸惑う民衆に、王が豪快に笑いかけた。 ――許さない! 怒り狂い突進するビッチバイクをアメリアが巧みにかわせば、2台のバイクがタイミングを合わせ両サイドに迫る! 「そりゃこっちの台詞だ。思春期の心の痛みを思い知れ」 禅次郎の言葉はともかく。慌てて吹き飛ばそうも卓越したドライブセンスを持つ禅次郎を捉えることは容易ではない。バイクを守るように身体を張りながら、行動に支障の出るような傷を負うことはなかった。 「乗り手を危険に晒すのとスリルは違う。それだけ綺麗なお前なら、バイクとしての矜持はあるんじゃないか?」 禅次郎の後ろから杏樹が手を伸ばした。一般人に向けた手を包丁が切り刻もうとするが、正気になった一般人に放り投げられてその機会を失って。隙をついてまず1人。 この際、激しく抵抗しないビッチバイクに杏樹は気付いていた。乗り手を傷つけないという、その意思を汲み取って。 「……乗れるなら乗ってみたい位だ」 その矜持に、素直な想いを口にして。 一般人が悲鳴を上げた。気付いたら意思を持つような布団に身体を包み込まれ離されなければ誰だってそうなろう。 逃がさないと笑うお布団――に見舞われた鴉の一撃! 符から産み出された神秘の一撃が心を乱し。 「今ですよ!」 石瑛の合図に全員が電光石火に動き出す! ティエが合図してバイクを寄せれば、終が布団を掴んで一気に引き剥がす! 自由になった一般人の腕を杏樹が取れば、その逆サイドで乗り手に向けられた高い声。 「Hey Boy! こっち来ない? 最高の乗り心地と安全をホショーするわ!」 自分の太ももを示すプルリアにどんな気持ちを抱いたかはともかく、この状況で迷うべくもない。ビッチバイクに跨っていた一般人もリベリスタのサイドカーに飛び込んだ。 「アッハァン、イエス!」 プルリアの合図で石瑛、禅次郎のバイクが迅速に離脱する。一般人を保護した以上、戦闘区域外の安全な場所に降ろす必要があるのだ。 故に。 「我に付き合ってもらおうか。我の寛容は貴様くらい受け止めるぞ」 一般人を巻き込まぬよう残る者で敵を食い止める。刃紅郎は余裕の表情で包丁の一撃を迎え入れた。 ●デンジャラスドライブで行こう! 「チョット待っててね! 後で助けがくるから☆」 安全な場所で一般人を降ろし、プルリアが声を掛ける後ろで石瑛がアークスタッフに回収依頼の連絡を入れ。 「さっさと戻るぞ」 禅次郎がエンジンをかければ、杏樹がその背に飛び乗った。急ぎ仲間の援護に戻らなくては―― 残る者達の戦闘状況は一方的なものだった。 アメリアのバイクがビッチバイクの突進を回避し、飛ばされた包丁の一撃も難なくかわす。 マスタードライブ。たぐいまれな運転技術の持ち主が一堂に会したこの戦場は、間違いなくリベリスタのペースであった。焦り無理な突進を繰り返すビッチバイクに、隙を狙って後方に食いついた影! ティエが狙ったのはビッチお布団。黒い刀身の波打つ剣が捉えれば、力強い一撃がその身を宙に投げ出させた。宙で間延びする悲鳴に―― 「いただくよ☆」 瞬時に飛び込んだ終の二閃。短剣を構える動作もなく、あるのはただ振り切った後の型。ついで届く斬閃の音が切り刻まれたのだと理解を促し。 断末魔もなく布団は綿となり神秘の手を離れた。 ――よくも! ビッチバイクの前輪がアメリアのバイクを弾き飛ばす。その衝撃を最低限に押し殺し、ついで飛ばされた包丁の刃は刃紅郎の腕が受け止める。 「さあもっと飛ばしてみろ!」 咆えた刃紅郎が大きく腕を振りかぶった。引き締まったその肉体が限界を超えて。真打の一振りが気合と共に煌き纏い、強烈な打ち込みが包丁の全身を激しく打つ! 波状攻撃は続く。アメリアがその鮮烈で強力な意志を身に刻み。高めた意思は純粋な神秘の力となって睨み穿つ眼力となる。その衝撃は包丁を吹き飛ばすほどに。 「武具など無粋、真のリベリスタは目で殺す……なんてね」 少し照れたように舌を出し、後は大丈夫だねとラインを外れる。後方から詰めた仲間に道を譲って。 「こうすれば脳内変換で金髪ボインに……」 終始それに徹した禅次郎が漆黒のオーラで包丁ごとビッチバイクを押し包み。闇に呑まれた空間――に突き出たその腕が包丁を掴み取る! 「誰が相手でも身を任せるんだっけ?」 笑みを見せる杏樹に、焦り包丁がその刃を飛ばす! それを振り回して避け、杏樹はバイクに乗ったまま地面に包丁を突き立てた。 一際大きな音をたて。砕け散った光が煌びやかに夜を照らす。 「さあ、ドライブも終わりが近づいてきたようだな!」 「事故らずに帰るまでが任務ですってね!」 刃紅郎が促せば、アメリアがハンドルを切って急接近。ビッチバイクのボディを刃紅郎の渾身の一撃がはじき飛ばす! お返しにと唸りをあげて、周囲のリベリスタを纏めて吹き飛ばさんとする突進は効果を成さない。ティエがその機先を制したためだ。 「今の私は不滅とかのナイトライダー! 車ではないがな!」 怒りの声をあげ追いかけるビッチバイクを引き離し。その隙にリベリスタたちの集中砲火が容赦なくその身を削っていく。 「ここまでですよビッチバイクさん!」 「メイドインジャパンならもっとシャキッとせんかい! 更生しな、ビッチGIRLS!」 石瑛とプルリアの一撃がタイヤを撃ち抜けばいよいよその走りは力を失っていく。 ――ここまでなの? この私が、乗り手もなくただ1人で…… 身体の限界は近い。ボディは傷つき、タイヤはひしゃげ、エンジンは異音を放ち――ただ消えていく。 ――嫌よ! 私は…… ……私は、なんだったろう。私は毎晩この夜の峠を走る。心奪った男を乗せて。けれど満足はしていなかった。いつも心が渇いていた。何故? 私は…… 思考は切り裂かれる。そのボディを断ち切られたため――ではない。 「かっこいいバイクのおねーさん! オレも乗っけて☆」 あっけらかんとした終の声が背中から響く。驚きの様子に、悪びれない笑顔を振りまいて。 「ビッチさんは誰でもいいから使ってくれる人が欲しかったんでしょ?」 答えはない。答えはないけれど。 ――嗚呼、そうよ私は……誰かに、自分の意思で乗ってもらいたかった。私の愛を、受け入れてくれる誰かに…… エンジンが停止する。ふらついた車体を杏樹が手を伸ばして支えた。 「聖地に事故は似合わないし、地面に転がすには勿体無いからな」 大胆なフォルムは傷ついてなお美しい。終が物言わぬ機体をひと撫でした。 「ビッチさん。オレはハッピーエンドを届けられたかな?」 ●君と帰ろう 「もう、こんな遅い時間に出歩くからダメなのよ! なるべく控えなさいネ!」 プルリアの叱咤が夜の峠に響き渡る。峠を走るライダーたちにとっては「えっ」って感じだが神秘事件に巻き込まれてしまってはぐぅの音も出ない。 「まぁそこまでにしてやれ。休憩所に置いてきたバイクはスタッフが回収したようだし、近くまで送ってやろう」 ティエが苦笑しながら付いて来いと示す。任務も終わりアークへ帰還するだけならば、この峠のドライブを楽しむことも出来ようと笑って。 「バイクの聖地か。この風を切る感覚、そう呼ぶ気持ちもわかるぞ。王が乗るのは当然後部座席だがな」 刃紅郎は後部座席で峠の夜景を満喫中。一方でまだ後処理をしているリベリスタもいる。その姿を禅次郎はちらりと見て。 「誰にでも身体を預けるようなオンナには興味は無いね。やはり、俺にしか乗りこなせないピーキーなオンナじゃないとな」 「だいたい全部集めたよ」 アメリアが手の平いっぱいに拾い集めた欠片をビッチバイクのサイドカーに流し入れた。布団の綿にきらきらの欠片。もうエリューションではない、彼女たちの身体。 「バイクは修理屋さんに持って行って直してもらいましょう」 「大破はしていないから恐らく大丈夫だろう」 石瑛に杏樹が頷く。布団と包丁の一部も入れてやれば、きっと賑やかだろう。 「生涯愛してくれる人が見つかるといいですね」 石瑛の言葉に笑みを見せて。終はポケットに捻じ込んだ小さな部品を取り出した。それは月明かりに照らされて――美しく輝いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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