●かびまりも -Green mold- 「なんか面白いことねーかなー」 住宅街。何の変哲もない大学生である山田 太郎は、じっとりした空気に嘆息しながら水たまりを蹴った。ぱしゃっと散る水たまりに反射して、曇り空が小さく波紋を浮かべる。 太郎は特に六月が嫌いだった。六月は祝日がないばかりか、不快指数も高い。昔から大嫌いだった。 「……ん?」 両の手を頭の後ろで組みながら歩いていると、前方から何やら現れた。 50cmはあろうか。緑色の毛玉がダッシュしている。毛玉には、成人男性の如き"足"が生えていた。スネ毛が生ぬるい風になびいている。 「なんだありゃ?」 と考えた刹那、毛玉は太郎の横を颯爽と通り過ぎた。ダッシュした後には緑色の粉が撒き散らされている。 むく……。むく……。 緑色の粉達は、まるで水分を吸い取るかのように肥大化していく。 いやさ、先ほど通り過ぎた緑色の毛玉の如き有様となって、次に成人男性が如き足がにょきっと生える。 「――!?」 1体、2体、3体。 次々に増えていく。生足の生えた毛玉の群れ。その皮膚感はしっとりと潤っているばかりか、もじゃ毛、剛毛、美脚、ガリ、いろいろな足がいっぱいだった。 「な、なんだこいつら?」 太郎は嫌な予感で胸一杯になり、後ずさりをする。 そして緑色の毛玉達は、整列するように並び、クラウチングスタートのポーズの如く片膝を地面に着ける。やる気満々である。 「に、逃げ――ぎゃああああああ」 各走者一斉にスタートする。太郎は逃げる。 後ろから迫り来る緑色の毛玉の群れ。 えさっ! ほいさっ! と聞こえてきそうな群れを背に、太郎は嫌過ぎる死を覚悟した。 ●三高平防疫強化期間 -Emergency- さてこの時分。 暑さで頭をやられた変態フィクサードや、不衛生の極みとも言えるエリューションが活発化する。 黒光りする虫とかコバエとかエトセトラ。 故に、アークのリベリスタにとって。己の心との戦いとも言うべき敵が――いやさ、主に日本に住んでいる者にとって、等しくつらい時期であった。 「……E・エレメント。識別名『かびまりも』を撃破する」 『参考人』粋狂堂 デス子(nBNE000240)は、頭痛に耐えるかのように、額に手をやりながら声を絞った。 名は体を表すが如く、この敵性エリューションの正体が何であるか。一聞にして明瞭と言えた。 「何でカビに生足が生えてるの?」 50cmほどの緑色の毛玉――カビのコロニーに生足が生えている。 ブリーフィングルームに招集されたリベリスタが堪らず疑問を禁じえなかった。 「後生だ。私に聞かないでくれ」 対して「まあ、梅雨だから……」と嘆息めいた声が飛び出す。 「ああ、そうだな。夏至も近い……」 しんとした静寂。 諦めたような空気がブリーフィングルームを支配する。 デス子は思い出したかの様に、除湿機をかける。 「敵は大して強くは無いが、水たまりでどんどん増える。幸い進行方向は演算済みなので、住宅街の待ち伏せして討つ形になる。一般人がいるので、助けられるなら助けるといった所か」 もふもふだが、カビである。おまけに生足である。そしてその生足は潤っている。 ……身体を張って止めろというのか! 「宜しく頼んだ!」 デス子が部屋を離脱しようとする。 「ダメ」 しかし、リベリスタ達はデス子の退路を塞いだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月21日(金)22:33 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●むらむらむにむにぬめぬめ -soiya! soiya!- 芒種。 稲や麦達にとって、恵みの雨が降る節句である。 雲が流れて雨に入って、空気に湿り気が帯びて、すくすくと育つ彼らは、やがて秋にコガネ色の実を実らせる。古から続く四季折々の風物である。 余談ではあるが、秋田小町という文句が醸成されたる日本海側に、美白が多いとされているのは、湿気の多い気候であるからと言われている。 「それ」 『痛みを分かち合う者』街多米 生佐目(BNE004013)は、路地にめしゃあと盛大に砂をばら撒いた。灰色の砂は、水たまりの水分を吸収して黒く染まる。 "かの敵"は水たまりで増えるのだから、事前に砂を撒いて砂に水分を吸収させれば、増えないだろうという試みである。ばっちこい。 砂でも吸い取り切れなかった水は、雪待 辜月(BNE003382)が吸水シートで拭き取る。 「この時期のカビは恐ろしいのです。しっかり掃除しないと……」 辜月は、ゴム手袋にゴム長靴、マスクを装備して、ゴムのエプロンも付けての、完璧なるお掃除姿である。ばっちこい。 「あ、デス子さんの分もお掃除装備用意しました」 「なん、だと……」 辜月は狼狽するデス子に同じ装備を渡す。 続いて、『贖いの仔羊』綿谷 光介(BNE003658)も、座った目をしながら水切りをデス子に渡す。 「駆逐しましょう」 「あ、ああ……」 光介も、三角巾とマスク装備でやる気満々。殺る気満々である。デス子気圧される。 光介は、座った目のまま赤いコーンを並べて人払いをして、キープアウトのテープを張り巡らせる。 「えっほーえっほー……あっ、間違えました(。非。 )」 『もそもぞ』荒苦那・まお(BNE003202)は、かびまりもの足がおそろいのもふもふならもっと可愛いだろうとか考えながら、工事中の立て看板を設置していく。 あと、水たまりにも布団を敷いて、水分を根こそぎにする。 「かびまりも様の足は、おそろいのモフモフだったら、もっと可愛いってまおは思いました」 もぞもぞとちっちゃい水たまりには枕を投げる。ばっちこい。 「うるおうお肌と聞いてやってきたのに!」 『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)はぷんすかと憤慨しながら、砂を撒いた。なんたる力仕事。 「楠神君どういうことか説明して!」 「神裂さん、オレに文句言われても困る! 文句はこのクソッタレな世界に言ってくれ!」 『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 風斗(BNE001434)は、海依音の八つ当たりめいたぷんすかをどうにかしようとする。 風斗は、掃除するのに人手が足りないと聞いてきた筈だった。気がついたらブリーフィングルームでデス子にお茶を濁されそうになったのである。 「なんだこれ……」 見れば、デス子は風斗と海依音と目線を合わせようとせず、どっかを向いている。 「……」 風斗は溜息をつく。海依音のぷんすかをいなしながら、諦めるように砂を撒く。ばっちこい。 『関帝錆君』関 狄龍(BNE002760)は、たばこに火をつけた。 「粋狂堂……その名の通り、粋狂な輩よ……」 狄龍のだいじなだいじな妹分のまおは、枕を放ってもぞもぞ粛々、水分を取っている。 ああ、仕方がない。 「もったいない! でもやる!」 干したばかりのお日様の香り漂う布団を泥沼に叩き込んだ。ばっちこい。 『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)は、ドブとかもぐらの穴っぽいのとか色んな所に洗剤を詰めていた。洗剤を射撃する。汚れは溶けるように死んでいく。 「凄いですよね、化学の力。アーティファクトのような事が、簡単に――」 言葉が詰まる。 ふと気がつく。 道辻の向こうから走ってくる集団。黒い影を。 千里眼を用いた光介が声を上げる。 「来ました!」 リベリスタ達は一斉にびくっとする。 ●カバディ、カバディ、カバディ -Kabaddi- 素足でコンクリートの路面を走ってくる奴等は、ぺちぺちぺちぺちと間抜けな雑踏音を鳴らす。 先頭のかびまりも。続いて山田太郎。そしてその後ろからは、大量のかびまりもである。 実にもふもふである。 もふもふであるが実に――足である。生足である。ああ、うるおうね! 「うるおうね……キリッ! じゃないですよ!」 海依音が、怒りの翼の加護を全員に付与する。当然、ダメージはない。 生佐目とリリが塀の向こうへと一旦飛ぶ。 「上みちゃだめですよー、見たらラッキースケベですよー」 海依音も後を追い、ひらひらと作戦の準備を整える。 遊撃班と壁班に分かれる作戦である。残った面々は大きく唾の塊を飲んだ。 当然のことながら、壁班は、身体を張って受け止めなければならない。 「oh……」 デス子が英語をしゃべる。 「カ~ビさん、こちら~♪」 光介のすわった目が更にすわる。 「よ、4WDを置いておきますね……」 辜月が車をでんと道に置く。これで道幅が狭まり、抜けにくくなるか。 「ばっちぃこーい、ですよ」 やもり型のテラーオブシャドウを纏い、まおがちょっとだけもふもふに期待する。 「山田が現れる所を山田ラインとして、これを最終防衛線とする」 狄龍は、「あ、こっちも逃げ場が無い」とか思う。 「とにかく、体を張って敵の侵攻を食い止め――ぶっ」 最も先頭の一番美味しい役割(?)は風斗に来た。もふぁあああああああああ! っとした感触の体当たりと同時に、酸っぱい臭いが口中に広がる。呼吸の度に細かい緑の粉塵が入るような感覚で。 「……キモいいいいいい?!」 風斗は絶叫し、疾風居合斬りで先頭をナマスにする。 山田が来る。 入れ替わる様に、まおが走る。デッドリーギャロップでかびまりもの生足を縛るも、次にかびまりも達に、盛大に飲まれる 「これ、まおが知ってるもふもふじゃありませんー(>非<)」 きゃー、とあっという間にセイセイセイされる。ドンドコドンドコ。 「まお!? ――ちっ! その脚を撃ち抜いて蜂の巣にしてやる!」 狄龍が乱射の如く弾丸放ち、多くを跳弾させて、前列のかびまりもをなぎ倒す。 かびまりもは、M字開脚のような姿勢でごろんと転がり、溶けていく。 「うわ……グロっ!? グロ!? これ、ホントに前に出ないとだめか?」 「デス子さん、フォーチュナじゃないですよね」 すわった目をした光介に気圧されてデス子が、前に出る。オートマチックピストルで弾丸をばらまくも、ブロックする人数よりかびまりもの方が多いが故に、これまたデス子も飲み込まれる。 もふぁあああああああああ! そして先の風斗と同じ感触を、壁班ほぼ全員が味わった。 「ぅう。なんか独特の感触……あと何か酸っぱ。酸っぱい」 早速、辜月が音を上げそうになる。 「不潔です。生活問題の極みです」 マスクを超えて漂いたる、かびのにほい。いとおかし。 「そのぷにぷにした肌……嫉妬せざるを得ない、生足……羨ましい、妬ましい……」 壁班がセイヤッ! ソイヤッ! されている間に、かびまりも達の後方へと回った遊撃班――生佐目が呟く。 「何故、そんなぷにぷにしていられる、何故、何故。――もういい」 『嫉妬とは、自分ではらんで自分勝手に生まれる化け物である』と言ったのは誰であったか。 『ブチ撒けます――死なないでください』 生佐目はマスターテレパスで短く送信し、黒き死の病をかびまりも達の中央へ放つ。 毒をもって毒を制するといえようか、より一層悪臭が立ち込めそうな気がしないでもないが、かびまりも達はこれまたM字開脚でごろんと転がり、ぴくんぴくんと痙攣する。 「わー気持ち悪い」 海依音は壁班を見て呟く。 カビから攻撃されない様に、翼の加護で上空、もみくちゃにセイヤッソイヤッされてる図。あっちに行かなくて良かったと考える。 「乙女ですから」 きゅぴるん。 「落ち着いて、いつも通りに――さあ、『お祈り』を始めましょう。綺麗な三高平を守りましょう」 リリが銃口をかびまりも達に向ける。 上から見ても正気が削れていきそうなので、平常心。上空から俯瞰し状況を確認。 「天より来たれ、浄化の焔よ」 「ジャッジメントで、悪、決定! カビは綺麗にしちゃいましょう」 海依音の光とリリの焔が降り注ぐ。 黒死病でぴくんぴくんしていた個体がじゅわっと消滅する。 リベリスタ達が、丹念に水対策を強力にしていた事が、かびまりもの増殖を許さなかった。辜月の4WDが道を塞いだ事や、決死のブロックにより後方へと通さない施策も万全である。結果的に、みるみる間にかびまりもは駆逐されていく。 「っぷ! 術式、迷える羊の博愛! カビ殲滅版!」 光介が、破邪の光でもって、毒々しい酸っぱいのを祓う。 道を塞ぐ4WDに、身体を擦りつけてセイセイセイッしているかびまりもを見て、マジックアローの準備をする。した所で、新たなかびまりもがつっこんでくる。 風斗の一撃で倒れていた筈のかびまりもであったが、徐々に徐々に、一撃どころか二撃、三撃でも倒れなくなってくる。そして――残り5体という頃合いに異変が生じた。 『んほぉおおおおおおおおお!!!!!』 かびまりもの一個体が雄叫びを上げた。 馬鹿な! かびまりも達は突如中腰になり、気合の入ったサイドステップで威嚇してきた。 カバディというスポーツを想起させるかの様に、足取りは軽く、剛毛とか美脚が、ふりふりむにむにむらむらと揺れる。 事前に知っていた情報が脳裏を掠める――倒す度に『前より強くなる』という性質からか! ●現実逃避行 -Fantasista illusion- 『セイヤッ!』『ソイヤ!』『ハッ!』『ヌンッ!』『ヘアッ!』 どっから声出してんのか分からない、五体のかびまりもである。 ぬらぬらしっとりといずれも、お肌は綺麗ではあるが、しかしそれぞれ特徴があった。 美脚、剛毛、もじゃぁ、マッチョ、そして――網タイツ。 「腐れ、腐ってしまえ、貴様らのスキンケア、すべてブチ壊してやる!」 生佐目の黒死病が降り注ぐ。デス子が巻き添えとなるが、まあいいや。 「――!!」 先ほどまで、黒死病一発でびくんびくんしていた筈のかびまりもであったが、黒死の病に冒されながらも、悠然と歩み来る。 どこか、今までの雑魚とは違う、ホンモノさんめいた気魄を帯びていた。 「だ、だが引かん、引かんぞ! 体を張って止めると誓ったんだ! 一人の犠牲も出さないためにも、ここで必ず食い止めるんだ!」 のっけから色々ひどい目に逢っていた風斗が声を震わせて剣を構える。 ここへ上空から、リリの火矢が降り注ぐ。 「今です、楠神様! しつこい汚れのノックバックを!」 「あと上は見ない。見たら絶対後で何か言われる。絶対に見ないぞ! 見ないからな!」 黒死の病の次に、火矢で燃えたる美脚に向かって駆ける。 「しつこい汚れを根こそぎノックバック!」 強烈な一撃で美脚を押しこむ、押し込んだが、美脚は中空で回転して着地する。割りこむようにマッチョが介入する。 マッチョ足に血管が浮き出て、肥大化する。途端に汗汁が飛んだ。 ぷしゃ! 「目がぁぁぁぁぁ!」 しみる! すっげぇしみる! ゴロゴロ転がり悶絶。 「まおはリベリスタなので、我慢します。ぺちぺちします。部位狙いじゃないです」 剛毛をデッドリーギャロップで縛る。すると剛毛は、まおの頬を掠めるように蹴りを放つ。じょりっとした感覚が頬を伝わる。ひげとかそういうレベルではない剛毛である。 思わずタランチュラを連想する程の! 蜘蛛のビーストハーフとしては対抗心が芽生えても可笑しくはない程の剛毛であった。 辜月には、もじゃぁが向かう。まるで知性を持っているかのように擦り付けようとしてくる。モジャ毛はやばい。なんせ縮れている。 「一回慣れてしまえば、結構気にならなく……ぅう!?」 質感が違う! 肌のぷりぷりっぷりが違う。毛が違う。防備しているとはいえ、なんという威力か。喉の奥から湧き上がって来たものは―― 「……カハッ!」 ――『血』であった。 網タイツが突如ダッシュする。 真っ直ぐに狄龍へと襲来する。跳躍、開脚。そしてその脚と脚の間をぶつける様に、ウェルカムする。 「た、たまたまこんな所に粋狂堂が! 偶然にも盾に使えてしまうぜー!」 デス子を盾にする。 「なっ!?」 デス子の顔面に、ウェルカムが炸裂する。デス子はくべる運命を覚悟していなかったので崩れ落ちる。 「粋狂堂ぉ!」 狄龍は仲間の死に大きく咆哮し、敵討ちとばかりに弾丸を放った。 「いい加減、これでおしまいです、塵となって消えちゃいなさい」 海依音がジャッジメントレイを降らせる。 美脚がこれで消滅。消滅した途端に、残る四体の脚に血管が迸る。 『ンホォォオオオオ!!!』 また強化か。 光介の破邪の光。 目の沁みがとれた風斗であったが、仰向けの姿勢である。 あ、可愛いのがみえた。 「?」「――!?」 リリが咄嗟にスカート抑える。 海依音は"みせぱん"だったので堂々としている。 「……ラッキースケベ」 上から海依音が呟く。 風斗は即座に上半身を起こして、ごまかそうとする。 「カ、カビ●ラーを喰らえ!」 ごまかそうとする。シュッシュッ! とマッチョにかける。 マッチョはじゅわっと溶ける。 「え、死んだ!?」 『ハッ!』『ヌンッ!』『ヘアッ!』 残るはもじゃぁ、剛毛、網タイツである。 最後の一匹になった時、それはそれは滅入りそうになる程、戦闘が進み、そして―― 「とらえました。かびまりも様をじゃんじゃん攻撃して下さい」 剛毛と応酬していたまおの気糸が、硬い毛の脚を捕らえる。どうも中年太りのような腿であり、ねっとりしっとりOIRYYYYなハムのようで、ちょっと捕らえづらかった。 キュっと絞る。変な汁が出る。 まお(しょうがくろくねんせい)はリベリスタである。変な汁なんかに負けない。 「おりこうさん!」 毛ハムの様な剛毛を狄龍が撃ちぬく。剛毛は変な汁をまき散らして溶けて消える。 「『良くあんなモノを撃てるな』だと? 簡単さ! 動きがノロいからな!」 残るは、もじゃぁと網タイツ。 辜月はマジックアローを放つ。胸の奥から湧き上がる血を飲み下し、放った矢は、もじゃぁへと肉薄する。突如として毛が伸びて絡めとられ、叩き落される。 凄まじき気魄。凄まじき威圧感。これは本当にフェーズ1なのか。 「キ、キレイキレイするまで倒れるわけには行かないのです」 戦闘を指揮する立場として、容易く落ちるわけにもいかない。考える。思索する。何が有効か見極める。見極めようとした所へ。 上空から黒いオーラが降ってきた。 その次には火の矢である。ダメ押しとばかりに光が注ぐ。熱消毒である。 「盛大に炎が降り注いだり凄いことに!?」 「あと一体ィィイイイイ……」 生佐目が、口から血中嫉妬というか血中美白だか、なんだか分からない気体を吐き出していた。 『嫉妬とは、自分ではらんで自分勝手に生まれる化け物である』と言ったのは誰であったか。臨界を超えた嫉妬は怒りとなって、暗黒オーラに載せられて。載せられたものが今ここに降り注いだのである。 あと一体――網タイツ。 思えば、デス子を倒した個体である。かの五体の中でも特に――どこやら違う。 「カビに人権なしです。足? 知りませんよ」 シュッと、光介がアルコールスプレーをした。マジックアローも乗せる。 『ンホォォオオオオオオ!!』 蓄積されたダメージか! 最後の一体、網タイツは呆気無く。当然の様に蕩けてぐちゃっと潰れたる。 「あれ!? 死んだ!?」 光介はビビった。 ●閑話休題 -epilogos- 俺、実はほもなんだ ――――恐山派フィクサード『係長』 「へ、言ってたんですか?」 光介はビビった。 「いや、現実逃避をしたくなっただけだ」 網タイツのウェルカムを食らって、ぐふっと血反吐を吐いた粋狂堂は遠くを見て、捏造した。 「何か、何か、スキンケアの、お肌の潤いの……手がかり、手がかりィがァあるはず、はず」 生佐目は溶けたかびまりもの亡骸をぐちゃぐちゃ漁る。 漁った後、少し頭を垂れて、そのあとかびまりもの跡を蹴った。 「帰ったらシャワーを浴びよう……あ、冷蔵庫の中の野菜、そろそろやばいかも……」 風斗は心底、疲労困憊していた。やけに疲れる敵であった……。 「ほら、お顔、汚れていますよ、男の子らしくしっかり頑張りましたね」 海依音が、風斗を労い、ハンカチで汚れた顔を拭く。 「(私の株も上昇することでしょう。ちょろいわ!)」 リリは再発防止の為念入りに清掃する。 「良い汗かいて、すっきりです。自分の心のお掃除もなりますよね」 隅々までごしごしする。水を撒いて終わり。 山田太郎はと言えば、4WDを乗り越えて、どこかへ去ったらしい。戦場を転々としたなかったので、一般人の乱入は山田だけであった。万事問題なく、今日が終わる。 「お風呂に行きたいとまおは思いました。関様も行きますか?」 まおが狄龍の上着の裾をくいくい掴む。 「よし行くか!」 一仕事を終えて、さっぱりした顔でもって撤収を開始する。 「あ、皆さん。その前に。濡れて風邪引いちゃったら困りますしね」 辜月は人数分のバスタオルを用意していた。 ふわっとしたバスタオル。 顔を埋めると疲れが飛ぶ様な柔らかさで、どことなくお日様の匂いがした。 空は、未練も無く晴れ上がっている。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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