●不死姫 深夜十時。夜も深まり、直に日付も変わる時間帯だ。 街明かりから程遠い郊外。大型のショッピングモールもそろそろ閉店時間。店内に残っていた客も、一斉に外へと追い出される。 外に出た十数名の男女。その中の何人かが、初めにそれに気が付いた。 十分なスペースが確保された駐車場の真ん中に、不気味な人影が立っていた。上から下まで真っ黒のドレス。喪服を連想させる。髪は白く、顔色は土気色。虚ろで生気に欠けるラベンダー色の瞳。ふらふらと揺れるように歩くその女性の姿は酷く気味が悪い。 「死体が歩いているみたいだ……」 そう言ったのは、誰だっただろうか。 口にした本人は冗談のつもりでそう言ったのかもしれない。しかし、聞いていた周りの皆は、それを冗談と受け取ることはできなかった。それどころか、その発言こそ真実ではないか、とまで想い始めた。 生ぬるい風が吹き抜ける。風に混じって、肉の腐ったような臭いも。 にたり、と喪服の女性が笑った気がした。 それが合図だったかのように、1人の女性が悲鳴を上げる。絹を裂くような、と形容しようか。駐車場一杯に響き渡る大声。慌ててショッピングモールへと駆けもどる。 後は、簡単だ。まるで決壊したダムだ。押し殺していた恐怖心が、女性の悲鳴で解き放たれた。顔色を青くする者、鳴き出す者、その場でへたり込む者など様々だったが、結局全員、モール内へと逃げこんだ。 混乱する一同を不審に思ったモールの警備員が、ドア越しに駐車場へ視線を向けた。 そこに居たのは、ふらふらと歩く喪服ドレスの女性の姿。にたりと笑い、ショッピングモールへと近づいてくる。彼女の周囲には、薄く霧が漂っていた。 「…………え!? あ?」 警備員が目を見開く。金魚のように口をパクパクさせて、彼は自分の目を擦った。しかし、何度確かめても現実は変わらない。 霧の向こう、喪服ドレスの女性の後ろに、巨大な骸骨が付き従っていた。駐車場のアスファルトに罅を入れ、車をなぎ倒しながら女性に続く巨大な骸骨。 それだけではない。 巨大な骸骨の真下に、大蛇の骨に乗った老婆と、自身の頭蓋骨を手にした首の無い着物の男が立っていた。 一瞬、喪服ドレスの女性の姿が骨になって見えた。 巨大な骸骨。 大蛇に乗った老婆。 頭蓋骨を手にした首の無い男。 そして、それらを従える死体のような美しい女性。 以上4体。ゆっくりと、まるで焦らすような速度で駐車場を横断する。彼女達はアザ―バイド。それも、人の死を望む、不死の軍勢である。 ●クラリモンド 「アザ―バイド(クラリモンド)率いる、不死の軍勢。といっても全部で4体だけど。彼女達は戦闘不能にすることはできても、殺すことはできない。D・ホールへ送還するしかこの世界から排除する方法はないから……」 モニターの画像を拡大する『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)。画面に映る4体は全員、骨か死体のようである。 「ちなみにクラリモンドは偽名のよう。本性は(骨女)。その呼び名と、骨の体が好きじゃないからクラリモンド(不死姫)と名乗っているみたい」 ちなみに、今回攻めてきた骨たちのリーダー的存在らしい。 「現在クラリモンド達は、ショッピングモールへと進行中。ゆっくり歩いているけど、到達まで10分も掛からない。駐車場の端に空いたDホールからこちらの世界に来たみたいね」 何故、ショッピングモールへ進行しているのか。恐らく、そこに生きた人間が大量に居るからだろう。たまたまこの世界にやって来たところ、丁度生きた人間が一か所に集まっていたのだ。 恐怖を与え、命を奪ってやろう、とそう考えているのだろう。 なぜなら、彼女達は、そういう存在だからだ。その行動に、意味はない。 「沙希も言った通り、彼女達は死なない。戦闘不能にしても、そのうち蘇生する筈。その代わり、不死と引き換えに彼女達の身は呪われている為、深夜12時以降は活動できない」 詰まるところ、現在時刻から約二時間、クラリモンド達の侵攻を食い止めるか、戦闘不能にしてDホールに投げ込むか。 問題解決の方法は、この2通り。攻勢に出るか、防衛に周るか、である。 ショッピングモール内には、数十人の一般人が取り残されている。出入り口にはバリケードが築かれているようだが、こんなものクラリモンド達の前ではなんの役にも立たないだろう。 「クラリモンドの他に、(がしゃどくろ)(蛇骨婆)(狂骨)の3体が存在している。クラリモンド同様に、不死のよう」 それぞれ得意としている攻撃方法や役割が違っている為、その辺りも考えて行動する必要があるだろう。 「少なくともあと2時間、クラリモンド達を抑えて一般人に犠牲が出ないようにしてきて。それからDホールの破壊も忘れずにね」 霧の漂う深夜のショッピングモール。迫ってくるのは、不死の軍勢。まるでどこかのホラーゲームか、ホラー映画のようである……。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月19日(水)23:08 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ホラーナイト じわじわと迫る死の臭い。不死姫(クラリモンド)率いる、骸骨の怪人たちである。人の気配を感じて、向かう先はショッピングモール。恐怖に怯える人間に、更なる恐怖心を与え、命を奪う。 それが、クラリモンド達の目的。ただ、それだけの存在だ。生者を嫌い、死を祝う。そんな不死の軍勢。 「あら?」 先頭を歩んでいたクラリモンドが、ふと足を止める。視線の先には、8人の男女が進路を阻むように立っていた。 夜の駐車場。灯りを漏らすショッピングモールを背に並ぶリベリスタ達。 戦いの気配が濃厚に漂う。 ●不死者の行軍 「進みたければ、我等を倒していくが良い」 先頭に立ち、剣を構えてそう叫んだのは『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)である。 「なぁに? 死にたいの? 死にたいのなら、歓迎だけど。止めたいのなら、無駄よ?」 意味が分からない、とでも言うように首を傾げるクラリモンド。 直後、クラリモンドの後ろに控えていた巨大な骸骨(がしゃどくろ)が、地を這うようにして飛び出した。大きさ6メートルはあろうかという巨体。駐車場のアスファルトを砕きながら突進してくる。 がしゃどくろの頭部にクラリモンドが飛び乗った。がしゃどくろに続き、残る2体のアザ―バイド(蛇骨婆)と(狂骨)も行動を開始する。 「ゆっくりあの建物を目指そうと思ったけど、止めにするわ。だって貴方達、結構強そうだもの……。そうだわ。死んだら、肉を剥いで私達の仲間にしてあげる」 くすりとほほ笑むクラリモンド。直後、クラリモンドの体から、不気味なオーラが溢れだす。まるで霧のようなそのオーラ。濃厚な死のオーラ。 「うわぁ、ホラーはあまり得意じゃないんですよねぇ……」 「まぁ、そうは言ってもいつもとやることは変わらないだろ。ゲートが閉じてたら、厄介どころの騒ぎじゃなかったがな」 嫌そうな顔をする『ピンクの変獣』シィン・ア―パーウィル(BNE004479)と、鉄扇を振りあげ、がしゃどくろ目がけ駆け出す『立ち塞がる学徒』白崎・晃(BNE003937)。 頭から突っ込んでくるがしゃどくろ。それを受け止めるのは、アラストールと晃であった。 がしゃどくろの頭部からクラリモンドが飛び降りる。黒いドレスを風に踊らせ、ふわりと地面に着地した。 「そのまま突破よ、がしゃどくろ……あら?」 「こんにちは、不死なる姫様………」 クラリモンドへとかけられたか細い声。『蒼碧』汐崎・沙希(BNE001579)がペコリとお辞儀をして、クラリモンドに話しかける。 「不死は……辛い? 愉しい? 幸せ? 不幸?」 「ううん? 愉しいかなぁ? そっちはどう? 生きてるの、愉しい?」 そう訊ね返すクラリモンド。 「ぇと、話して引いて貰うわけには……行きませんよね?」 話に割り込んできたのは雪待 辜月(BNE003382)。無理、と答えるのはクラリモンドだ。弱った、と辜月が苦笑いを浮かべた次の瞬間、クラリモンドの全身から、再び不吉なオーラが溢れだした。 オーラに触れると同時に、沙希と辜月の顔色が変わった。オーラに飲まれ、ダメージを受ける。 「蛇骨婆、狂骨……こっちへ」 クラリモンドが声をかけると同時に、骨蛇に乗った老婆がこちらへ向かって移動を始める。蛇骨婆の到着に先んじて、小太刀を持った首のない男が沙希の背後に現れた。 突然、そこに現れたように見える。酷く気配の薄い男である。首は無く、頭蓋骨を手にしていた。 「既に……」 小太刀の切っ先が沙希の喉元に迫る。しかし、狂骨の背後から伸ばされた腕が小太刀を掴み、それを止めた。切れたのは薄皮1枚。沙希の首から血が滴る。 「よぉ。お前が持ってるの、本当にお前の首か?」 沙希から狂骨を引き剥がし、そう訊ねたのは『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)である。片手に大剣を引っ提げ、にやりと笑う。 「………狂骨。そいつの相手は任せるわ」 「御意に……」 そう呟いて、狂骨はふらりと姿を消した。 「ドクロ見れるの楽しみ」 くすりと笑う『孤独嬢』プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(BNE003341)。指先から伸びた気糸が、蛇骨婆とクラリモンド、がしゃどくろを貫いた。 「塵芥、灰塵一つ残さず消し去っても、生きているのか試してやろう」 撃ち出される銀の弾丸。『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)の放ったそれが、老婆の乗る骨蛇の眉間を撃ち抜いた。 地面に倒れ込む骨蛇。その背に乗っていた老婆が降り落とされる。だが、それと同時に姿を現す蛇の幻影。地面を移動し、1口でシェリーを飲み込んだ。 「……言葉は通じねぇか。ま、イイや」 無数の気糸が、幻影の蛇を貫いた。粉々に掻き消える蛇。飲み込まれていたシェリーが解放される。銀弾を射出し、敵を牽制しながら背後へ下がるシェリー。その後に、プレインフェザーが続く。 蛇骨婆は2人を追う。向かう先はショッピングモールだ。 「時間がかかるわ。このまま押し込んじゃいなさい……」 クラリモンドが告げる。戦闘開始から30分。指示に従って、がしゃどくろが移動を開始する。その背の上では、クラリモンドが無数の影の腕を振り回していた。 影の腕が、晃と沙希の体を捉える。掴みあげられた2人へ向け、がしゃどくろの拳が叩きつけられた。沙希の体が宙を舞う。モールの壁に激突し、地面に倒れた。 一方、吹き飛ばされはしなかったものの晃もまた地面に落下。そこへ迫る蛇骨婆。骨の蛇が牙を剥いた。 「おっと!」 降り抜いた鉄扇が骨蛇を打つ。のた打ち回る骨蛇を回避し、後ろへ下がる晃。がしゃどくろやクラリモンドの追撃に備え、仲間を庇うように鉄扇を掲げた。 「守るモノを守って、己の信念のまま悪意に鉄拳だ」 「倒すにしろ時間を稼ぐにしろ……」 がしゃどくろの腕を、晃が受け止める。空いた懐に潜り込むようにして、アラストールがそのの真下へ駆け込んだ。その剣が鮮烈に輝く。真下から、がしゃどくろの喉元目がけ、剣を一閃。 「攻撃あるのみだ」 ただただまっすぐ、力任せの斬撃ががしゃどくろを襲う。眩い閃光と共に放たれた一撃は、がしゃどくろの顎を切り裂いた。 地面に倒れるがしゃどくろ。 「蛇骨婆! カバーを!」 そう叫ぶクラリモンド。 「防衛線も覚悟しておくの……」 そう囁くのは沙希だった。淡い燐光が仲間達の傷を癒す。回復やサポートに周り、前線へは出ないよう気を付ける。 倒す事は叶わないかもしれない。それならばタイムリミットまで持ちこたえるだけだ。 「まだやる気? 苦しいだけよ? 辛いだけよ?」 そう訊ねるクラリモンド。沙希はくすりとほほ笑んで見せた。 「1つだけ、嗜好において共通点があるわ。生者の苦しむ顔が大好きってことよ」 嬉しそうな、それでいて酷薄な笑み。クラリモンドが苦笑する。 長い戦いになりそうだ、と不死の姫はそう思うのだった。 「ゆくぞ辜月。援護は任せるぞ」 「はい! ここから先は通しません。蛇骨婆を狙ってください」 後衛から指示を出すのは辜月だ。その指示に従って、シャリーは不吉な銀弾を放つ。クラリモンドを庇うように前へ出た蛇骨婆。がしゃどくろは、晃やアラストールに抑えられていて、動きが止まっている。 「直撃でなくても……次に繋げる」 「あぁ。白銀の刃で喰らってくれる。飛び散った肢体と共に生きながらえるが良い」 蛇骨婆の乗った骨蛇を、辜月の放った光弾が撃ち抜く。ダメージ自体は大したものではないようだが、動きを止めることには成功。蛇の背に乗る蛇骨婆を、シェリーの銀弾が捉えた。 「……ぎ、ゃぁ!!」 肩を撃ち抜かれた蛇骨婆が地面に落ちる。半ば骨と化した老婆の肩は、ひどくあっけなく千切れ、地面に転がった。 主を失った蛇の動きが一瞬止まる。僅かに迷いをみせた後、蛇骨婆を庇うように地面に横たわる。 「ちょっと……!?」 焦った声をあげたのはクラリモンドだ。彼女自身の戦闘能力は決して高くない。これまでは仲間の影に隠れ、指示を出していたのが、今、この瞬間、彼女を護る仲間はいない。 クラリモンドが、不吉なオーラを放つ。その直前。 「ねぇ、骨の身体好きじゃないの? 勿体ねぇなぁ……」 魔導書片手に、プレインフェザーががしゃどくろの頭部へ飛び乗る。クラリモンドに接近し、そのままじっと、クラリモンドの目を見つめた。 瞬間、周囲に渦巻く思考の奔流。J・エクスプロージョンと呼ばれるスキルだ。吹き荒れる圧力の嵐が、がしゃどくろとクラリモンドの2体を襲う。 圧力に耐え切れず、クラリモンドは弾き飛ばされた。がしゃどくろの背から落ちる彼女をプレインフェザーが喜々として追っていく。 プレインフェザーの放つ圧力と、クラリモンドのオーラが衝突。衝撃波が吹き荒れた。 一方その頃。 ショッピングモール出入り口のすぐ前では、牙緑と狂骨が斬り合いを続けていた。大剣を振り回す牙緑に対し、狂骨は死角からの1撃を狙い、細かい斬撃でそれに対抗している。 「よく見てみろよ。それ、他人の首かもしれないぜ?」 頭蓋骨片手に戦う狂骨に声をかける。それに対する返事はない。先ほどクラリモンドの指示に対し、返事をしていたようだが、果たして一体どこから発声したものか。狂骨の首は、黙したままの頭蓋骨。しゃべれるようには見えない。 「おぉらぁ!!」 力任せに剣を振り抜く。全身のオーラを込めた1撃は、小太刀によるガードを意に介さず、そのまま狂骨の身体を弾き飛ばした。 地面を転がり、ショッピングモールから遠ざかる狂骨。それを追って、牙緑も駆ける。 起き上がろうとした狂骨だったが、次の瞬間、その身体が氷に包まれた。 「死なないっていうのはどういう気分なんでしょうね? まぁ、放っておくわけにもいかないですし、頑張るですよ!」 氷を放ったのはシィンであった。凍りついた狂骨の手から、ぽとりと落ちる小太刀と頭蓋骨。 囚われた狂骨目がけ、牙緑が跳びかかる。大上段に振りあげられた剣。全身全霊を込めて降り降ろされた渾身の一撃が、狂骨の胴を切り裂いた。 粉々になって地面に散らばる無数の骨。氷の破片が宙に舞って、キラキラと光る。 「可能なら、Dホールに放り込みたいな」 「任せるですよ」 そう言ってシィンは、足元に落ちていた狂骨の腕を拾い上げた。 がしゃどくろのブロックを手伝うために、牙緑は前線へと戻っていった。それを見送って、シィンは狂骨の身体を拾い上げる。 そんな中、彼女が思うのは死についてだ。 「楽しいのか、苦しいのか。自分には解らないのです」 死なない事に対する想い。いつか死が訪れる自分達と、いつまでも死なない狂骨達の考え方の違い。感じ方の違い。 「そんな貴方達が生きてる人達にちょっかいかけるのは何でですか? 生きてるのが羨ましいのですか? 死ねるのが妬ましいからですか?」 地面に散らばった狂骨に、そう訊ねる。返事を期待しての問いではない。 だが……。 「……命令故に、だ」 脇腹に走る激痛。それと同時に返事が返って来た。唖然として視線を落とすと、そこには小太刀を咥えた頭蓋骨。深々と脇腹に突き刺さる血濡れた小太刀。 激痛が走る。伸ばした腕で、頭蓋骨を掴み、そのままDホールへと投げ込んだ。 「死体は死体らしく、墓の下で居眠りこいてやがれですよ」 ホールに入る直前、エル・フリーズを放ち氷漬けにするのも忘れない。 周囲に散らばっていた狂骨の身体が、頭蓋骨に引っ張られるように次々とDホールへ飛び込んでいく。きっと今頃、ホールの向こうで狂骨はその身を再生させていることだろう。 血の噴き出す脇腹を抑え、シィンはじっと、Dホールへ視線を注ぐ。 「自分の世界に引き籠ってやってください……」 狂骨が戦線から離脱。戦闘開始から、1時間15分後のことだった。 振り回されるがしゃどくろの両腕。風を切り裂き、地面を砕き、ガードの上からアラストールと牙緑を弾き飛ばす。 圧倒的な破壊力。基本のサイズが巨大な分、その威力も大きい。ガードを弾き飛ばし、前へ進もうとするがしゃどくろ。進路を阻むように、沙希がその眼前に身を晒す。 「ヒトが苦しむのが好きとは言ったけど、趣味よりも任務優先なのよ。だから貴方の行進はここまでにして貰うわ」 がしゃどくろが腕を振りあげた。拳を握り、力一杯にそれを地面に叩きつける。 がしゃどくろの拳が沙希を叩き潰す、その直前、晃が沙希を突き飛ばした。 地面に倒れる沙希。振り下ろされるがしゃどくろの拳目がけ、晃は鉄扇を振り抜いた。鉄扇が光る。眩く、神々しく。 「できれば二度と、関わりたくないな」 やれやれだ、と晃は苦笑い。鉄扇と拳が激突し……。 そして、それは一瞬の出来事だった。地面にクレーターを作り、アスファルトを砕くがしゃどくろの拳。その下から、血が滲む。沙希を庇い、晃が拳に叩き潰されたのだ。 だが、ただ無意味に潰されたわけではない。 次の瞬間、がしゃどくろの腕から肩にかけて罅が入る。罅は次第に大きくなって、最後には腕を粉々に砕いた。 飛び散る骨の欠片の中を、剣を手にしたアラストールが駆ける。 「………兵糧尽きては戦はできないわ」 囁く声。アラストールにチャージされるEP。気を失った晃を助け起こし、沙希はゆっくりと後ろに下がる。 血濡れた晃の顔を、着物の袖でそっと拭って、沙希は薄く微笑んだ。 「真正面から、迎えうつ」 一閃。アラストールの剣が、がしゃどくろの指を切り裂く。 更に一閃。下段からの斬撃が、がしゃどくろの顎を打った。 大きくよろけるがしゃどくろ。 「怪談するには少し早いぜ。出直しな!」 アラストールに続き、牙緑の剣ががしゃどくろの眉間に突き刺さる。一気呵成に攻め込む2人。がしゃどくろは少しずつ後ろへ、押し戻されていくのであった。 「HP、残り少ないですよ!」 シィンの声が戦場に響く。それを聞いた辜月が、素早くシェリーに指示を出す。 「クラリモンドさんの指示がない今なら、旋回して襲い掛かってくる筈です」 辜月の周囲に燐光が舞う。淡い光が、シェリーの身体を包み込んだ。傷を癒し、それと同時にその身を苛んでいた毒素をも消し去った。 「不死とて、痛みは感じるか?苦痛に喜びを見出せるよう嬲ってやろう」 シェリーの杖に魔力が集まる。不吉な魔力が形作ったのは、1発の銀の弾丸である。銃身を射つようとしない魔力の弾丸。意思と杖で、その狙いをまっすぐ蛇骨婆へ定める。 素早い動きで地を這う骨蛇。その背に乗った蛇骨婆。駐車場を旋回し、周り込むように右サイドから、シェリー目がけて幻影の蛇を解き放つ。 「やらせません!」 そう叫んだのは辜月だった。放たれた魔弾が、幻影の蛇と衝突、相殺する。 蛇が消えた、その場所を……。 銀の弾丸が、通り抜けていった。 「う……!?」 蛇骨婆の額を弾丸が撃ち抜く。地面に転がる蛇骨婆。それを護るように、骨蛇が婆の身体に巻き付いた。どうやら婆を倒す事に成功したらしい。骨蛇が襲いかかってくる様子はない。 「この世界から立ち去るがいい。“扉”が壊されぬうちにな」 蛇に向かって杖を向けるシェリー。消耗が激しいのから、その額にはびっしりと汗が浮かんでいた……。 タイムリミットまで、あと20分。 ●そして、深夜の鐘が鳴る。 「誰がなんて言ったって、あんたがどう思ってたって、あたしには美人に見える。どんな美人も死んだらどうせ骨になんだぜ」 影の腕に足を捕まれ、逆さ吊りの状態のままプレインフェザーはクラリモンドに声をかけた。クラリモンドは苦虫噛みつぶしたような顔で、プレインフェザーを睨みつけた。 赤い瞳に、プレインフェザーの姿が映る。 「……悪いのだけど、私は骨の姿、好きじゃ無いの」 「勿体ねぇなあ。綺麗なのに」 やれやれ、と溜め息を零す。瞬間、プレインフェザーの指先から、無数の気糸が放たれた。気糸は、影の腕を貫き消し飛ばす。 落下するプレインフェザー。スカートを翻し、クラリモンドが後退する。視線を周囲に巡らせてみれば、狂骨は既に戦線離脱。蛇骨婆は戦闘不能。この分では、12時までに復活はしないだろう。 そして、前線で暴れているがしゃどくろの姿が目に入った。 「ほらね……手強い」 溜め息を零すクラリモンド。オーラを飛ばし、空中で気糸を撃ち落とす。 「まだ、6月だ。肝試しにゃ早いんだよ。うっかり気の早いお姫様には、出直してきてもらおうか」 そう告げたのは、牙緑だった。暫し沈黙するクラリモンド。それから、片手を上げて言う。 「がしゃどくろ、蛇骨婆、撤退。直に12時だし、これ以上粘っても時間切れよ。出直すわ」 その指示に従って、がしゃどくろが動く。残った片腕で蛇骨婆と蛇を掴み、Dホールへと行き先を変えた。踵を返し、がしゃどくろに飛び乗るクラリモンド。 「次に会う時は邪魔な肉なんか着ないで、ありのままの姿、見せてくれよ」 プレインフェザーは、去っていく不死姫に向けそう声をかけた。 「考えておくわ……。また会いましょう」 そう言って、クラリモンドはDホールに飛び込む。彼女の姿が消えたその瞬間、辺りに小さな鐘の音が鳴り響いた。 12時を告げる、鐘の音だ……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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