●孤独な心 切欠は些細なことで、たくさんのことの積み重なりだった。 けれど、もう誰とも会いたくないと思った。たった一人で生きていきたいと思った。 誰とも関わらず、誰にも迷惑をかけず、誰にも知られず。 例えば私の“マユリ”という名前のように、繭みたいなものに包まって、ふわふわとした中で何も考えずに生きていけたら――。 叶わないと分かってはいたけれど、そんな退廃的な夢を見ていた。 「誰も居ない世界に行けたらいいのに」 制服姿のまま、マユリは庭木を見上げる。 そこにはいつしかヤドリギの種子が紛れたらしく、元の木の上に小さな別の葉が付いていた。何故だかそれに呼ばれている気がして、近頃のマユリはヤドリギを見上げてばかりいる。 学校では誰も目を合わせてくれさえしない。 こうして家に帰ってきても、父も母も仕事であまり帰って来ない。 「わたしは要らない子なんだよね。……だから、本当に誰も居ない世界に、いきたい」 マユリが再び呟いたとき、頭上の木が眩い光を放った。 何が起こったのか分からず、少女は目を見開く。目の前に迫ってきたのは、先程まで見上げていたヤドリギの枝。それはマユリを瞬時に包み込み、そして――。 彼女の願った夢が、現実のものとなって叶えられた。 ●異界の繭 「……人の寂しい感情を糧に育つアザーバイド。それが今回の敵だ」 アーク内のブリーフィングルームにて、『サウンドスケープ』斑鳩・タスク(nBNE000232)はモニターに白い繭と木の枝が合わさったような巨大な物体を映し出した。 一般家庭の庭に現れたそれは、名前すらない異界の存在だ。 便宜上『ヤドリギの繭』と呼ばれるアザーバイドは現在、ひとりの女子高生を内部に取り込み、急成長している。 「被害者はマユリという女の子。彼女は繭の中で意識を失っているみたいだね」 マユリという名の少女が繭に閉じ込められるだなんて皮肉過ぎる、とタスクは溜息を吐いた。 友達も居らず、家族とも上手くいっていない。 それゆえに一人の世界に閉じ籠りたい願っていた少女は、アザーバイドにとって極上の栄養源だったのだろう。本当は事が起こる前に手を打てれば良かったのだが、もうマユリは繭の中に閉じ込められている。 「現場に急げば、完全に養分を吸われる前に繭と対峙できるよ。ただ、気を付けて欲しいことがある」 それは、少女を救い出せるかどうかが怪しいということ。 早期に繭を撃破すれば、ギリギリのところでマユリの命を繋ぎ止められるだろう。 だが、アザーバイドを倒すのに手間取ってしまうと少女は死んでしまう。繭は基本的に動くことはないが、少女を完全に取り込んだ後は能力を強化できるらしいので、とても厄介だ。 また、何らかの形で逃げ出すこともあるので油断はならない。 たとえば少女を取り込んだ養分を利用してテレポートしたりとか、と予想を立てたタスクはアザーバイドの未知のおそろしさに戦慄する。 「繭状態のときも防衛機能はあるから、戦う時は注意して」 任務はアザーバイド『繭』の討伐のみ。 だが、少女を助けるならば綿密な戦略と連携が必要だ。頼んだよ、と告げたタスクは神妙な表情を湛え、リベリスタ達を見つめる。 「そうだね。俺だって昔は、誰にも迷惑をかけずに一人きりで生きていけたら、と思っていたよ。だけど……こんなのは違う。君達もそう思うだろ?」 だからこそ、出来るなら少女を助けて欲しい。 言葉にはせず、視線だけでそう願った少年は現場に赴く仲間達の背を見送った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:犬塚ひなこ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月16日(日)23:32 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 寂しいといふ心――。 其れは気付いて欲しい、愛して欲しい心の裏返しかもしれない。 すべての事柄を一概には言えないが、少なくとも少女にとってはきっとそう。駆け付けた先の庭にて、『紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)は繭に閉じ込められたマユリを思った。 「時間は残されていません。やりましょう!」 シエルは杖を構え、仲間達に呼び掛ける。目の前で蠢く繭は現在も進行形で、内部に取り込んだ少女のエネルギーを吸い取っているようだった。今は自らの力を高める暇すら与えられていない。 緊張感が張り詰める戦場。 そこで何よりも疾く動いたのは『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)だ。鷲祐は自らの速さを乗せた一撃を繭へ見舞うべく、刃を振り下ろす。 「この手の存在は、ただ嫌いだ。破壊させてもらう」 少女を助けられる可能性があるのは、三十秒のみ。たったそれだけの時間ですべてを終わらせなければ、完全なる成功は成し遂げられない。カウントを刻む鷲祐は繭への手応えを感じ、刃を斬り放った。 誰しもが覚悟を決めるなか、『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)も呪殺の儀を展開する。 孤独な気持ちは心を蝕み、何者をも拒絶してしまう。あの繭はマユリにとって、自らの心を護るために作られた壁のようなものなのかもしれない。 「けれど、マユリ……君が死んでしまったら悲しむ人はいるはずだ」 雷音の言葉と共に不吉な影が迸り、繭を包み込む。 言葉は届くのか。繭の中に閉じ込められ、心の繭に閉じこもっていた少女に自分達の思いを届けることができるだろうか。『red fang』レン・カークランド(BNE002194)は未だ見ぬマユリを思いながら、破滅を予告するカードを舞わせた。 人は一人では生きてはいけない。 彼女がわかっていないだけで、決して一人なんかじゃないはずだ。マユリが顔をあげることで見える世界もあることを伝えるため、レンは繭の向こう側へと呼び掛ける。 「マユリ、助けにきた。俺たちは必ずお前を助ける」 「そうです、誰も居ない世界はありません。今抱えている想いのまま、死にたいとかは無しです」 巴 とよ(BNE004221)も大きく頷き、少女を飲み込みながら吸収する繭を強く見据えた。 三十秒は短い。それでも、全力でいくと決めたからにはとよは決して諦めない。黒魔の大鎌を呼び出し、刃を舞わせたとよの一撃が繭を切り裂いた。 とにかく、全員で力を尽くすことが救出への鍵だ。 仲間の連続攻撃が打ち込まれる中、『殴りホリメ』霧島 俊介(BNE000082)も敵に狙いを定めた。繭に指先を向けた俊介は奥歯を噛み締め、力を解き放つ。 神秘の事件に巻き込まれて死ぬなんて、そういう事柄は大嫌いだ。 「少女一人救えなくて、何がリベリスタだ」 自らに言い聞かせるような言葉を発した俊介は、繭から力を奪い取る。致命の効果は与えられなかったが、ダメージは確かに与えられているようだった。 きっと、この調子ならば少女も助けられる。 そう確信した『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)は大きく踏み込み、繭の傍へと参じた。そして、気合と共に強烈な打ち込みを見舞い、対象に衝撃を与える。 「命の使い方は本人次第だ。逝きたいなら逝ったらいいと思うが……まだ判断するには早いな」 死を選ぶのは、自分を取り巻く世界と確かに向き合った後からでも遅くは無い。喜平は内部の少女に、彼なりの思いを呼び掛けながら鈍器と化した散弾銃を振るった。 そして、次の瞬間。 「気を付けて、繭が動こうとしてるみたいだよ!」 『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)が敵の動きを察して注意を呼び掛ける。だが、蠢く繭は身構える暇も与えないまま、喜平を糸で絡め取る。 「……っ、なかなかやるようだね」 「大丈夫ですか? あとでちゃんと癒しますから、耐えて下さい!」 仲間が体力を奪われたことにシエルは心配を向けるが、今は回復に移ることは許されない。シエルは風の一撃を打ち込み、あひるもぐっと堪えて魔方陣を展開した。 ひとりは寂しくて悲しい。 でも、もっと寂しいのは――世界でひとりぼっちだと思ってしまうこと。 「要らない子なんて、居ない。この世界に、必要とされていない人は、誰ひとり居ないよ……」 だから声を聞いて。生きようと思って。 あひるの呼び掛けと同時に、紡がれた魔力の矢が飛翔する。それは真っ直ぐにアザーバイドの繭に向かい、その肉体を貫いた。 刻々と時間は経過している。しかし、未だ敵の力に衰えは見えなかった。 ● ただ攻撃だけを行い、滅することを狙う。 魔力と意志が舞い飛び、刃が次々と振り下ろされ、リベリスタ達は繭に衝撃を与えていった。 確かにダメージは与えられている。しかし、アザーバイドは近接する鷲祐に糸を伸ばし、失った分の体力を補ってしまった。 既に攻防は二巡しており、状況は切迫している。 「――後、十秒だ」 カウントを続けていた鷲祐は仲間に現状の秒数を告げ、連続攻撃をふたたび見舞った。 この力で、必ず助ける。自分の速さは何のためにあるのかと自問した鷲祐は、更なる攻撃の機会を得て刃を斬り放った。 繭から攻撃を受けた二人は体力の半分を奪われていたが、攻撃は続けなくてはならない。 あと一巡で倒さなければ、マユリの命は失われる。それだけは絶対にさせない、と雷音は唇を噛み締め、影を迸らせ続ける。功を奏するかはわからないが、雷音達はなるべく同じ場所を狙って繭の破壊を狙った。 宿り木自体に言葉は通じないと知っていても、呼び掛けることも忘れたりはしない。 「マユリ! 人は一人では生きることができない! 綺麗事と嗤うかもしれない、けれど君のことを大事に思う人はちゃんといるはずだ! だから、目覚めてくれ!」 そこは安寧の場所なんかじゃない。 思いの丈を叫んだ雷音の魔力は繭の一部に穴を開けた。しかし、それはわずかな綻びにしか過ぎないことを誰もが悟っている。 つまり、まだ倒し切るには力が足りないのだ。 とよも少女への呼び掛けを止めないまま、魔力鎌を放ってゆく。 「目を開ければ、手を伸ばせば一人の世界も、寂しい気持ちも無くなるです。さぁ、起きるですよっ」 マユリに言葉が届けば、きっと何かが変わる。助け出せれば、今までのような悲しい考えを否定してくれるはず。そう信じたとよは最後まで力を尽くすのだと決め、仲間達に視線を向けた。 レンも繭と枝が繋がっている部分を狙い打ちつつ、内部のマユリへの思いを言葉にする。 「お前が俺たちを必要だと望んでくれれば、俺たちは強くなれる。マユリの力が、必要なんだ」 気が付いて欲しい。レンが生きている理由に力を貸して欲しい。 破滅の札を舞い飛ばした少年はふと気付く。攻撃は繭を壊しはじめ、徐々にではあるが内部の少女の姿が見えて来た。おそらく、倒し切れる可能性が出て来たのだ。 しかし、それは賭けにも近い。 あひるも同じことを察しているらしく、表情をきりりと引き締めた。魔法陣から解き放たれる矢に意思を込め、あひるも言葉を向ける。 「目を覚まして、マユリ。そんな所で寝てちゃ風邪ひいちゃうよ」 ここに居る皆があなたを必要としているから、聞いて欲しい。 友達がいないのなら自分から声をかけて、家族には寂しい気持ちを伝えて、そうしなくては始まらないことがある。どれも難しい事で、勇気だって物凄く必要だ。でも、そのままじゃ世界は変わらないのだとあひるは呼び掛け続けた。 「いなくなったら、何もかも無くなっちゃうよ」 あひるがそう告げたそのとき、繭の中から微かな声が聞こえて来た。 「うう……わたしは、寂しく、て……」 「マユリさん! 頑張ってください、すぐに助けますから――」 シエルは少女が意識を取り戻しかけているのだと気付き、風の渦を巻き起こした。刹那、繭の一部が崩れはじめる。あと少しだと信じ、シエルは願いを籠める。 世の中にボタンの掛け違えは多々ある。だけど、それは元に戻す事も出来るはずだ。 それを知って欲しいと思うからこそ、救う為の力を振るいたい。俊介もそう強く思い、マユリに向けて言葉を投げかけてゆく。 「俺達の声が聞こえたら助けてって言ってくれ。助けてやるから!」 「……誰か、たすけ、て……」 「よし、十分だ! 絶対に救い出してやる!」 俊介は少女の声を聞き、言い切る。 泣いたっていい。寂しいと叫んでもいい、苦しいと喚いたって構わない。行使する魔力で敵の力を奪い取り、奮闘する俊介の心情は十二分に溢れていた。 だが、戦いへの配慮はわずかに足りない。攻撃手段を行使するだけなら誰にでもできる。 例えば、その力を以て何を狙うのか。例えば、何処に注意を向けるのか。ただそれだけのことに気を付けるだけで変わることもある。もし、ここで彼が運良く致命の力を敵に与えられていたなら、未来は変わったかもしれない。 しかし、運命は甘くはなかった。 繭は既に体力を殆ど失っている。あと一撃で少女を引っ張り出すことも可能だっただろう。だが、繭は最後の一撃を見舞おうと近付く喜平に狙いを定めてしまう。 「――!」 喜平が攻撃に移るよりも先に、アザーバイドが糸を絡めて彼の体力を奪う。それによって回復した繭の破損部分がじわりと修復された。喜平も負けじと痛みを堪え、一撃を見舞い返す。 本来ならばその一手で倒せたはずだったが、皮肉なことに体力を吸収した繭は耐えてしまった。 「未だだ。助けられる、か……?」 それでも喜平は諦めない。繭の綻びからマユリの体を引き寄せようと腕を伸ばす。 雷音とレンも即座に動き、少女の為に動く。手を届かせたかった。鷲祐も誰もが絶望に彩られる世界など訪れて欲しくはないと願い、駆け出す。 「これから消えるお前に世界はない。だからこそ、俺達が引きずり出す! 手を伸ばせぇッ!!」 鷲祐の叫びが辺りに響いた。 叶うなら、其処に一閃の青を刻み付けたかった。だが――彼のカウントは既にゼロ。 「いやああああぁあッ!!?」 次の瞬間、悲鳴が聞こえた。 あひるが、とよが、シエルが、それぞれに驚愕の表情を浮かべる。信じたくなかった。現実だとも思いたくはなかった。何故なら、それは――繭の内部から響いたマユリの断末魔だったのだから。 ● 一瞬の沈黙。まるで時が止まったかのような感覚。 その静寂を破ったのは、とよがやっとのことで絞り出した声だった。 「ま、まだです。これ以上はダメですっ」 死が見えたとて、戦いは終わっていない。魔力鎌を撃ち続けるべく、力を振り絞ったとよは己の力を出し続ける。はっとしたレンも顔をあげ、呪力を紡ぎはじめた。 「せめてあそこから出してやらなければ。あんな狭い中に居続けるなんて、不憫過ぎるだろう」 レンが放った赤い月の魔力はアザーバイドを取り巻き、不吉の印を刻む。 まだ割りきれたわけではなかったが、この手を止める訳にはいかないのだ。レンは頭を振り、今は戦いだけに集中するべきなのだと己を律した。 わずかに再生してはいるが、一度は繭を倒す寸前まで追い詰めた。 逃がしまでしては誰にも顔向けが出来ない。鷲祐はあらたな覚悟を決め、アザーバイドを睨み付けた。 「感情を食らうというのなら、嫌と言うほど食わせてやる。この俺達が身に宿した、昂ぶる想いをな! その有り様ごと、潰すッ!!」 鷲祐による光の飛沫が散る中、あひるとシエルは癒しの風を呼び寄せる。 たった三撃の攻防だったが、これまでの負傷は無視できるものではなかった。あひるは溢れそうになる涙を堪えながら、仲間達を癒す。 「……っ、負けないよ。そこから助け出すから、絶対……!」 あひるの悲痛な思いを聞き、シエルも悔しさを噛み締めた。 「命は唯では生まれず、育ちもしないんです。貴女の命の輝きをもっと、もっと見てみたかった……」 後悔を覚えても仕方がないと知っている。死した人間に呼び掛けても届かない事も分かっていた。 それでも、シエル達はマユリへと声を掛け続けた。 「俺はマユリに笑って欲しかった。女の子は笑顔が一番なんだぜ……?」 目を見開いたまま、俊介は繭に隠された少女に話しかける。 きっと、少女を救いきれなかったのは、敵の体力吸収能力を侮っていたからだ。 繭はその場から動かない、という状況を俊介達は事前に聞いていた。それゆえに、もし誰も傍に近付くことなく遠距離からの攻撃のみに絞っていたら、体力を回復されることはなかったのではないだろうか。 そんな考えが喜平の頭の中によぎったが、すべては過ぎたことだった。 攻撃の威力や付加能力の有無、事の巡り。おそらくはそれらすべてが完璧に揃っていなければ、少女を救えなかったのだろう。 「詮無いことかな。だけど、お前だけは倒さないとね」 喜平はアザーバイドに冷ややかな声を向けると、これまでと変わらぬ加減無しの一撃を叩き込んだ。それは死人すらも驚いて起きる様な全力殴打だ。もしこれで起きてくれれば良いんだが、と胸中で皮肉を浮かべた喜平。その一撃は繭の枝と体を大きく穿った。 寂しいという感情は人として生きる上で大切な感情だ。 寂しいからこそ、人は一人では生きていくことができず、誰かを求める。寂しいと思える心は人間にとって大切なのだから、奪うことは甘受できない。 雷音は思いすら貪り食おうとするアザーバイドを、決して許せないと思った。 「奪わせはしない、大事な感情を。彼女の身体も――」 雷音は最後になるであろう星の儀を展開し、有りっ丈の力を籠める。 迸るのは呪力と雷音の思い。そして、不吉な影はすべてを包み込み、異界の命を完全に滅した。 ● 繭が崩れ落ち、形を無くす。 中から死した少女の亡骸が倒れ落ちそうになり、雷音は急いで傍へと駆け寄った。 勝負は決しており、結果は紛れもないリベリスタの勝利だ。しかし、武器を収めた仲間達の表情はいずれも暗く、晴れやかとは云えないものだった。 任務だけを見るならば成功しており、少女を救えない可能性があることだって聞き及んでいた。 けれど、とよは溢れ出す涙を抑えることができなかった。 「寂しいままで、助けられないままで、それで、それなのに……っ!」 上手く言葉の意味を紡げなず、とよは大泣きする。戦場だった庭には少女の泣き声が響き、いたたまれない空気が満ちてゆく。 「ヤドリギの花言葉は……「困難に打ち勝つ」だったんだよ……」 あひるは跡形もなく消えたヤドリギの枝を思って呟きを落とす。 繭から出た時、きっと困難を乗り越えられる。そう伝えてあげたかった、とあひるは誰にいうでもなく口にした。その言葉には誰も答えず、レンにも返す言葉が見つからなかった。 「一人だと思っているのは、マユリだけだ。一人だと思っていたいだけなんだ。目を向ければ、顔を上げれば、世界は広がって行ったはずだ」 ひとりじゃない、と伝えることすら叶わなかった。だが、それでもレン達が任務を果たしたことだけは確かだ。少女の身体までもが奪われなかったことが、唯一の救いと言ってもいいだろう。 彼女を思えば心が震えた。 雷音が任務後に必ず送るはずのメールも、今はまだ打てそうにない。 「宿り木、君は優しかっただけなのかもしれない。寂しさを無くせば、救われると思っていたのかもしれない。でも、それは……」 それすらも少女の感傷だろうか。雷音は冷たくなっていく少女の身体を抱き締め、瞳を閉じた。 仲間達の様子を静かに見つめる喜平には、少女が生きていたら掛けたい言葉があった。 寂しいだの誰にも相手にされないだの、誰かにちゃんと伝えたのか。何か動いてみたのか。 そんな当たり前もしないで世界が如何のとか言うなら甘い、と敢えて厳しい言葉を送ろうと思っていた。しかし、それも死した娘に掛けることは出来ない。生きていればこそ、生きていてこそのものだ。 「…………」 喜平は無言のまま、そっと少女を見遣る。 鷲祐も複雑な心境を整理しきれないまま、ふとした言葉を零した。 「何故だろうな。ただの仕事なのに、何故俺達が此処に集ったのだろうな」 こんな結末を見るために訪れたはずではなかった。それでも、残酷な運命はこうして巡ってしまった。届かせられなかった手を見つめ、鷲祐は胸中で自問を繰り返す。 俊介は目の前の現実を淡々と受け入れながら、敢えて先ほど口にした言葉をもう一度紡いだ。 「少女一人救えなくて、何がリベリスタだ」 その呟きは空虚めいていて、何かに縋るかのような響きをはらんでいた。 繭は――もとい、蛹はやがて蝶になれるはずだった。 ならば蝶になれなかったものは、何になり果てるのか。死した少女は何も語れず、リベリスタ達もそれ以上何かを語ることはなく、静寂だけがその場に満ちていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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