●暗澹(あんたん) -VAPMOR- ねっとりと生臭い、バグホールの奥底の。 その生物は、霧を欺く程に細やかで、黒き一粒一粒が生物であり、群集でありながら、しかし一つの意思の下で動いていた。 高度な知性を持ち、知的生命体であるそれは、まるで神秘がエリューションを創造するかの如くに、万象を侵食する。 どこから来たのか。何を目的としているのか。 暗澹の中で生じた気魄の渦は、ゆっくりと潮流のように逆巻いて、明確な悪意でもって扉に手をかけた。 ●形態『獣』 -Fang Matter- ――――オオオオOhhhhhhh!! 万華鏡がエリューション・ビーストを捕捉した。 フォーチュナは即座に、これを記録する。 元来イヌ科の生物より誕生したそれは、目を喪失し、口だけの形状へと練り上げられ、少しずつ肥大化し、やがて馬のような大きさへと変わっていく。咆哮は徐々に異質なものへと変じていく。 フェーズは1だろうか。 ここまでであれば再考、フェーズの査定が厳密に演算されて、通常通り"それなり"のリベリスタへ引き継がれる筈であった。何の変哲も無い神秘との戦いの日々は、自然と事務的なものへと変わりゆく。 無論、"それなり"では手に負えないとなればエース級へと引き継がれるのではあるが。 ――異変は突如として訪れた。 黒きモヤの様なものが躍り出て、エリューション・ビーストの頭部にまとわりつく。モヤはやがて獣の体内へと侵入し、次に獣の咆哮は苦しみもがく様な悲鳴へと変わる。 口角より泡を吹き出して、狂犬の如く全身をよじれさせ、横転と卒倒といった奇行を繰り返す。雨天後の雑木林の中、泥に塗れて繰り返す内に、次の変化が訪れる。 頭部と前足の間に、新たな頭部が生じる。顎が割れる。尾が裂ける。昆虫のような外殻が肉の裏側から裂けて生じる。馬程であったサイズは更に肥大化し、象を超え眉へと迫る。 『ir!! anijura on imay!! uratn natna 『VAPMOR』 os! okeraw!!!』 獣の咆哮は"言葉"へと変じた。 何語ともつかない。 得体のしれなさ。 正体不明なる存在。 何よりも、フェーズの上昇にしては早すぎる! フォーチュナは、唾を飲んだ。 額に脂汗を浮かべ、粛々とエース級リベリスタへの引き継ぎを決意した。 ●暗澹たる闇の主 -Emergency- 「――"異世界の寄生虫"を駆除する」 『参考人』粋狂堂 デス子(nBNE000240)は、端末を操作して映像の準備しながら目的を告げた。 「『ヴァプマ』――いや、この形態は『ファング・ヴァプマ』としよう」 エンターキーが押下された次に映像が流れる。美麗なるプラズマスクリーンに現れたモノは、三つの頭を持つ巨大な四足獣であった。 三つの頭部、それぞれが持つ両の目は六角形模様の赤い複眼である。顎は左右に開き、どろりとした腐汁を垂れ流す。尾にも複眼めいたものがあり、どことなく昆虫を連想させる形だった。 「結論から言えばアザーバイドだ。本来はモヤの一粒一粒の様に小さな生物だが一つの意思の下で考え、思考する『高度な知的生命体』だ。知性がある。そしてこの姿は、エリューション・ビーストを依り代にした結果といえる」 「――これが、知的生命体?」 「そうだ。信じがたい事だがな。ただ明らかにボトムに対して悪意を持っている。ヒトに取り憑く可能性もあるから捨て置けん。増えてからでは手に負えなくなるだろう」 この世界を侵食して取り込む。 この世界の生物を依り代とする。 神秘世界すら愚弄するかの如き、異世界からの寄生虫。 明確なる世界の敵である。 「タワーオブバベルがあれば疎通は可能だが、和解はあまり期待できんだろう」 プリンタが機械音を立てて稼働する。資料が印刷され、デス子はこれをコピー機にかける。 「戦闘は、部位狙いが大きな戦力になりそうだ。主要部位は三つの頭、胸部、尾の五箇所。部位を砕く毎に力が減退する。得意な者は積極的に狙った方が良いやもしれん」 デス子はそう締めくくって、エース達に資料を手渡した。 「これが詳細だ。敵は強い。気をつけてな」 リベリスタ達は、自分たちが呼ばれた事を数ページで理解する。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月24日(月)23:03 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●暴凶の闇 -Violent Pain- 鬱蒼とした雑木林の薄暗さが眼前に広がっていた。 靴を伝うヌルりとした感触と湿った空気は、一種、底なし沼と形容できようか。チチチチ、キイキイと、小虫の音が聞こえる。鼻孔には泥臭さの他には何もない。 暗澹という文字が胸裏に浮かび、ばさばさばさと静寂の中より、鳥達が六月の空に飛び立つ。 ――居る! 瞬息の間。巨大な『闇』が、四足獣の如くに躍り抜ける。 『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)が、咄嗟。盾を突き出して『闇』を叩く。 「……っ!」 歯を大きく軋ませ、最大の力による防御を試みるも、圧倒的な力で押し込まれる感覚がする。 盾のなだらかな面を使い、直進する暴力を滑らせて、直撃を避ける。 避けた次、後方にいた『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)への刹那の踏み込み。対して銃床で『闇』を叩く。インパクトの反動を利用して態勢を変える。 変えたのに――『闇』が、進路を180度折り返し、踵を返して戻ってくる。 「害獣退治。いい、ですね」 刃の様な光が見え、脇腹に熱いものを感じる。ぬるりと、自身の鮮血。 義弘も、後ろから正面へ走り抜ける『闇』を視認する。 「こいつ……!」 視認した次に、肩口から背面半ばにかけて激痛が起こる。 見れば木々が、鋭利な刃物で切断されたかのように、次々と倒れゆく。 義弘もあばたも油断があった訳ではない。革醒者の視覚でもってしても目に映らぬ速さの往来は、この来訪者の危険性をたった一撃で理解してしまう程に重厚だった。 眉へと迫る巨体――高さだけで10mはあろうか。 幾何学模様の複眼。 昆虫の様にギチギチと左右に開閉される顎。 三つの頭。 四足獣の如き毛むくじゃらな四肢を、所々甲殻が覆う。 『闇』は三つの頭部から、大量の粘液と共に、珠をげろりと吐き出した。 『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)が、翼の加護を放つ。 「此度の上位世界からのお客さんは、少々傍若無人のようだな」 浮遊感の後に、視線を感じる。かの異形は、全方位で見ている。 「頭もいいと聞く。……学習しないように撃破をしなくてはいけない」 「寄生型アザーバイドとは厄介じゃのぅ」 『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)は、携えた拳銃――7つの玉の大型拳銃の輪胴をシャっと回して式を練りながら、『闇』に向かって駆ける。 「アレに寄生したのが総てではないじゃろうし、この周辺一帯焼き払った方が良いかも知れぬ」 影人を創造する。最初の一撃を『認識』して、あまり持たないかも知れないと考える。 「中々面倒なバトルになりそうだな」 『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)は、斧とも鉈ともつかない得物の柄を逆手に、走り、呟いた。 「さあ、来やがれ寄生虫野郎!」 影継は、『闇』が吐き出した珠を狙う。動く前に潰す。得物を下から上へ、次に上から下へ振りぬいて、『闇』より更に深い暗黒の気を放って浴びせる。 「――呪印封縛!」 間髪入れず『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)がD・ホールを背を向けるように回りこみ、印を結ぶ。フツが槍を地面に突き刺すと、呪印が地中より『闇』の足元から吹き出す。 『aaaaaahhhhhh! OOOOohhhhhhhh!!!』 三つの輪唱の如き咆哮と共に、『闇』は地面に縫い付けられたかの様に伏せる。 「よし、封じた!」 「――ディアナ、セレネ!」 『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)のフィアキィが踊る。左から右へ翔び、右から左へ舞い、十文字にすれ違う。 「私たちと同じで彼らも異世界の住人なんだね。でも、彼らの在り方は私たちと全く違う」 ルナは世界樹の子、フュリエである。 かの『闇』のせいか、この森は完全世界の森とどこやら違う。暗澹に満ちている。――祓わなければ。 雑木林に光が満ちて、次に地面を滑るように連鎖した爆発が走り抜ける。『闇の目』が砕け散る。 静寂を破る剣呑な爆発の中、『射的王』百舌鳥 九十九(BNE001407)が、『射的王』の称号に偽りなく、『闇』の一点を狙って集中する。 「他者を侵食して融合するとは奇怪な。どうにも厄介そうな相手ですのう」 『闇』が生物の身体を使ってくれたのは幸運だった。集音装置と熱感知。決して逃さない。 「――無事、討伐できると良いのですが」 そして、トリガーに指をかける。 「異世界に侵食された獣か……」 義弘は、自身の掌を見る。握り、開き、また握る。最初の一撃目でイカれそうになったが大丈夫そうだ。まだまだ行ける。 「世界の、仲間の驚異であるのならば、全力で打ち倒す。それだけだな」 メイスを輝かせながら『闇』へと守りを固めながら駆ける。 あばたは、散開するようにルナと距離をとる。攫われた脇腹を見る。次に『闇』を見る。その次は半々に視線を運ぶ。 「ああ、いいですね。実に『官憲の仕事』って感じで。いいですね」 二丁の得物を構え、全弾を発射する。攫われた脇腹を攫い返す様に削り割いて、即座に木陰へ。リロードする。 「とは言え、この大きさは規格外ですが」 ぽとりと薬莢が落ちる。硝煙の匂いが土臭さに混濁し。 『――oyea、mika! wote『VAPMOR』yy! yihsak、azok!!!』 耳を突き破る程の咆哮と言葉。 「なるほど、『少々』ではないのだ」 タワーオブバベルを持つ雷音の耳には「弁えよ!」と聞こえた。 土足で上がり込んで、弁えよと曰う『闇』――ファング・ヴァプマは、明らかに我々を、この世界を『格下』と見ている。 フツの槍が、地面より押し出される様な感触と共に、弾かれる。 「――ッ!」 フツが、何か呟こうとする前に。認識が脳へと伝わるまでの刹那の間に。 とうに呪印は強引に破られて、視認した時には既に『往来』していた。 つかの間の静寂の後に、木々がずどん、ずどん、と音を立てて倒れていく。 ファング・ヴァプマは闇を纏い、障壁を張る。 鮮血に気がついて――気づいた時にはもう遅いのだと知った。 ●纏わり付く闇 -Dark king- 闘争の往来。気魄の往来。闇を祓う星の光。 「この世界は君を歓迎していない。來來! 星儀!」 『nenihse! ratik-enihs! awu! omug!』 ――愚蒙は死ね。来たれ深淵。 雷音が闇の衣を砕くと、ほぼ同時に咆哮が響く。 前衛に黒き雨が降り注ぎて、黒き雨に触れた所は防具を通過して、皮膚の触覚と痛覚を曖昧にする。激痛が走り抜ける。 痛い。と思った途端、ふっと巨体が消える。 『SHiiiiii! HAAaaaaaaa! HAAaaaaaaa! SHiiiiii! HAAaaaaaaaッッ!』 既に往来している。 巨体の足で、地面は絨毯の様にめくれ上がっている。 「……届け!」 激痛を振りきって、影継が両手の得物を伸ばす。ファング・ヴァプマはすり抜ける。横薙ぎに空を切る得物。空気を切るだけで終わらせるには、一瞬一瞬の価値が重すぎる。咄嗟に暗黒の気を放出し『闇の目』を覆う。 「アンタの存在、一粒残らず、ボトムチャンネルから消し――」 影継が言葉に出す、出したら、何やら口中に鉄臭いものが沸き上がってきた。この僅かな間で、胸部を斬られたのだと認識する。深い傷ではあるが、口を拭う間すら惜しい。 「一人倒れたら、一気に行くな」 フツは激痛と共に湧いた焦燥感を押さえつけて、再び呪印でもってファング・ヴァプマを封縛する。 「鎮まれ!」 途端、衝撃が両腕にかかる。暴れる力。押し戻される様な力を抑えつけて、力の限り奥歯を軋ませる。 フツが押さえ付けているファング・ヴァプマの上で、ルナのフィアキィ達が再び十文字にすれ違う。 「大丈夫、皆は前だけを見据えていて。皆の道は、お姉ちゃんが切り開いてあげるから!」 大きく後方に下げてしまわないように、降り注がせる様に調整して爆発を起こす。『闇の目』を潰し。 「今! 義弘ちゃん! あばたちゃん、九十九ちゃん!」 ルナの声。フツに縛られ、地に伏せたるファング・ヴァプマへの射線は明瞭で。 「そこだ!」 義弘の光り輝いたメイスが、ファング・ヴァプマの胸部甲殻を大きく打つ。 光の力。砕けた破片は、闇が散る様に気化する。暴れるファング・ヴァプマの前足をかわし、次の攻撃手――本命へと託して横へ跳ぶ。 「任せたぜ」 義弘が跳んだ後ろから、銃弾が大量にファング・ヴァプマの胸部甲殻へと注がれる。 銃弾は、精密に義弘の打った所へと吸い込まれてゆく。 「クックック……手応えありですな」 九十九、怪人が怪物を穿つ。胸部甲殻を突き抜けたか、血液の如き液体が噴出する。噴出した液体は、次には気化するのではあるが、貫いた。と確信した。 『ote『VAPMOR』! oetebus!』 咆哮が響く。 「……で。お客様は何をご所望とのことで?」 あばたリロードを終えて、もう一発をとする所。雷音に尻目に据えて尋ねる。 「『全てヴァプマへと』――と言ってるのだ」 「そうですか。なら、もう少し削っておきましょう」 侵食して領域を広げようという事なのだろう。 バウンティSSの連撃、二射目。ダメ押しとばかりに、胸部甲殻へと叩きこむ。削り割いて跡形も残さない。 「後は頭じゃ」 瑠琵もファング・ヴァプマへと銃を向ける。 ここまでは順調。複眼と複眼の間、眉間へ一発叩きこむと、叩き込んだ所から生気が噴き出て瑠琵へと還元される。 「手元が狂って、壊し過ぎない様にじゃ」 その他の部位を破壊しないこと。いざとなれば影人にファング・ヴァプマを庇わせてでもと、操作に集中して。 『ote『VAPMOR』! oetebus! ote『VAPMOR』! oetebus!』 ファング・ヴァプマが呪印に抵抗して動かんとする。 「今度は負けねぇぞ」 フツの両腕に、地面に突き立てた槍から衝撃的な力がかかる。これを抑えつける。止まれ。止まれ。止まれ――束の間の攻防は決して。 「よし!」 フツが勝つ。動きを止める。束縛されながらもファング・ヴァプマは目を吐き出す。槍を地から引き抜いて氷雨の印を結ぶ。 「やったのだ! フツ!」 雷音も喜びの声をあげて、氷雨の印を結ぶ。 一瞬にも満たない刹那の間で、多くを攫っていくファング・ヴァプマである。 10秒稼げれば上等過ぎるのだ。 「ちょっとやそっとの痛み程度で!」 激痛が走っていようとも、このチャンスに乗らない影継ではない。 「侠気の盾を自称するだけの働きはさせてもらおう」 そして、チャンスに乗らない義弘ではない。 天から地へ暗黒の一刀が。地から天へ光の一撃が、ファング・ヴァプマの至る部位の甲殻砕く。 濃密な氷雨が二つ降り注ぎ、吐き出した『闇の目』を凍結させる。 「いっちゃえ!」 凍った目達の上で、フィアキィ達が踊って爆発を落とす。 「忙しいったらありゃしませんな」 僅かに体力を残した『闇の目』を、九十九はガトリングの如き射撃で打ち砕く。 「血だるまにしてくれる」 あばたが放った銃弾の群れが、頭部の一つを蜂の巣にする。 湿った地面や、めくれ上がった土塊が宙へと跳ねる程に、全力の集中攻撃を加える。 「意外と早かったのじゃ」 吸精の力を帯びた弾丸を瑠琵が放てば――胸部甲殻を砕いて回復が無くなったか――頭部の一つは、脂質片と脳漿の如き液をぶちまけた。 『iorih-somo』 「――面白い?」 雷音はファング・ヴァプマの声に、悪い予感を覚えた。 天使の歌でもって全員を癒す。 「皆、上なのだ!」 翼の加護で浮遊しながら見れば、つややかな漆黒の球体が凝り固まっていく。 『災いは、往々にして上から降ってくる』と云ったのは誰であったか。 堕ちて来る災いは、丹念に。前衛へと向けられる。 地が抉れ、溶けて行く。重圧がのしかかり、影人は一瞬で消える。目から、鼻から、耳から、まるで血が沸騰する。 「くっ!」 影継が大きく血を吐く。 闇へ運命をくべて燃やした所へ―― 『urus-iasah』 ――破砕する。 つややかな玉が上に、『もう一つ』浮かんでいた。 ●無間の闇 -Darkest- 雷音は肩で息をしながら、天使の歌で全員を癒す。 「回復は任せて、攻撃の手は止めないで欲しい」 余力が心もとなくなった時分。振り絞る様に次の天使の歌へと集中する。回復量と火力は圧倒的に後者へ傾き、もはや回復を途切れさせれば一気にやられる事が目に見えていた。 「ブレイクイービルだ……!」 義弘は、目から吹き出る血を拭う暇を惜しんで、沸血地獄を鎮める。奴は一番ダメージを負った影継をなぶる様に狙っている。 「正念場だ……っ!」 疲労で動かなくなりつつある身体を、侠気の盾という自負が一押しし、続けてジャスティスキャノンを放つ。来たる『往来』を自分に向ける。 向けた所で『往来』が来た。『つややかな玉』もまた、降ってくる。 「カ……ッ!」 跳ね上げられ、運命が燃える――だが、やってやった。 「別れを……告げろ! アンタの命とこの世界に!」 義弘が矛先を逸らした事で、影継の一手を儲ける事に繋がる。闇の目と本体へ。本体の既に死んだ頭を、内部から砕く。 「もう一度、行けるか……!?」 フツが呪印封縛を結ぶ。結び切っていざ発動という所でファング・ヴァプマは跳躍する。 「――やられた!」 見れば『闇の目』が、フツに張り付くように俯瞰の位置で観ている。同じ手は食わないという意思だろうか。 「一つだと思ったか馬鹿が!」 あばたが気糸のトラップを作動させ、跳躍した四足獣を上から捕らえる。今までフツの呪印が命中した為、使う必要無しと温存していた事が幸いとなったか。 ルナは考えた。雷音は「回復は任せて」と言った。エル・リブートの使い時ではないかと考えて。 「『目』を倒さないと」 任せる事にし、フィアキィ達を再びファング・ヴァプマの上で踊らせる。これで何度目か。『闇の目』はキリがない。 「前に出る時ですか……知恵の有る敵と言うのは厄介ですなー」 九十九が前衛へと転じる。超至近距離でもって弾丸の嵐を放射する。 瑠琵は思索する。 「義弘が倒れたら、本格的に不味いのぅ」 まだブロックは崩れていないが、次に動かれたらほぼ突破される戦況である。影人を補充する。 「庇うのじゃ!」 飛び出した影人ではあったが。その瞬間に切り裂かれた。気糸のトラップはもぬけの殻。義弘がついに膝をつく。 「貫通……!」 瑠琵が歯軋りした所で。 「冗談きつい」 影継は頭上を見る。上から『つややかな玉』が降ってくる。 炸裂した沸血地獄。ブレイクイービルを使える義弘が倒れ、敵の囲いに必要な最低人数が崩壊する。 ファング・ヴァプマの生きている頭部が、フツの方向――Dホール側へ向いた。 「不味いのだ!」 雷音の天使の歌が下る。 「逃がさんぜ」 「逃すと思ってんのか!」 フツの呪印封縛とあばたのトラップネストが――しかし空を切る。『闇の目』が観ている。 「攻撃あるのみですな」 九十九が大量の弾丸をばら撒き、『闇の目』と本体を撃ちぬく。 ルナのフィアキィ達は無心に爆発を起こす。ついには、ファング・ヴァプマの胴体に大きく穴が空くに至るが――まだ倒れない。ファング・ヴァプマはD・ホールの方向へ跳ばんする。 『os、okera――on imay。uratn natna 『VAPMOR』』 逃げ切りを確信したかの様な、ファング・ヴァプマの言葉が発せられた時。 ゆるやかに鴉が降下して、三頭四足獣の複眼をくり抜いた。 「我こそヴァプマ暗澹たる闇の主なり、かぇ?」 瑠琵の放った、式符が怒りを齎す。 「――皆の者! 最後のチャンスじゃ!」 笑みを浮かべた瑠琵に、ファング・ヴァプマの『往来』が刺さる。 更にもう一度『往来』し、瑠琵は引き裂かれ、盛大に鮮血を上げる。 「……南無三!」 冷静さを欠いたのなら、とフツは更に呪印封縛を試みる。 縛り付けると同時に、伝わってくる暴力。これを手放したら負けだと、胸裏で念仏を唱える。 「人類の敵め、わたしは人類と、人類の敵の敵だ!」 あばたが、『闇の目』ごと本体を弾丸でなぎ払う。リロード、更にもう一撃。リロード――をするが、丁度、弾切れであった。舌を打つ。 これまで、エル・バーストブレイクを連続で放ってきたルナは、もう余力が残っていない。 「彼らが皆、悪意を持って皆を傷つけるというのなら、私たちはソレを全力で阻止するだけ。そうだよね。ディアナ、セレネ?」 ならばせめて、最後の力をエル・リブートに乗せる。フィアキィを解き放つ。 「これで倒せなければ、負けでしょうな」 周囲にルナのフィアキィを踊らせて、九十九が四足獣を見据える。暴れる異形はなりふり構っていない様に暴れ、これをフツが必死に押さえる。絶対に外す訳にはいかない。 「ならば、どれ」 義弘が砕いた甲殻に、影継が両断した胴の中央へ、九十九が銃口を差し込んだ。 マイナス距離射撃と言えようか。全弾をそこで発射すると、肉を突き抜け、胴の至る所から弾丸が吹き出した。 どちゃり、三頭四足獣は絶命した様に動きを止める。 四足獣の中より黒いモヤが飛び出して。 「ヴァプマ!」 雷音が放った幾条の銀箭、黒モヤはあっけなく四散して――消える。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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