● 「最後に頼れるものは己の拳だよ」 白髪に白髭、見るからに『老人』だとわかる軍服の男がぽつりと呟く。 銃は弾が切れれば意味を成さない。 ナイフは敵に奪われる可能性を考慮しなければならない。 「結局は拳が、最も安定した武器だと私は思うのだよ、ギュンター曹長」 「……確かに。しかしその分、威力もそれなりではありますな、父う……いえ、ハンス少尉」 ハンス少尉と呼ばれた彼の持論に答えた中年の男、ギュンター曹長は言葉尻を見る限り彼の息子だろうか。 手に装着した大型のナックルは小型のブースターの姿も確認され、これが発動すればパンチに凄まじい加速を与えるのかもしれない。 「そこは銃器で如何に相手を殺傷しているかにもよる。そのためのコイツだろう?」 拳が最後に頼れる武器だと持論を展開していたハンス少尉の手にあるのは、その持論の逆説をいくサブマシンガンだった。 銃器の最大のネックは弾薬の問題だが、それにさえ目を瞑れば敵を蹴散らすには最高の武器だとも彼は考えている。 そしてタイプライターを叩くような乾いた音と共に、ばら撒かれる弾丸。 「ぐわぁぁぁっ!」 「くそ、こいつ等っ……!」 先んじて戦っていたリベリスタ達には、もう急襲を仕掛けてきた親衛隊に抵抗できるだけの力は残っていない。 1人、また1人と死にはしないまでも倒れていく姿からは、敗色の色が見て取れるというもの。 「では曹長、そのナックルのテストもしっかりとな」 「Ja、それについてはご安心を。……しかし私は少し複雑です」 最早、手にした武器の威力を試すだけの簡単な仕事であるせいか、少尉にも曹長にものんびりと会話を交わす余裕すらある。 だが曹長の表情はそんな中、少しだけ複雑だった。 「ユーディット……いや、兵長を前線に出す必要はなかったのでは?」 「アレも私の遺伝子を継ぐ者ぞ。誇り高きアーリアの兵となりたいという気持ちは誰にも止められまい?」 2人の視線の先にあるのは、まだ成人すらしていない1人の少女の姿。 ふっと笑みを零したハンス少尉の言葉を聞く限り、ユーディット兵長は彼の孫にあたるらしい。 「何、こういう場でこそ心構えを磨くのには丁度いいのだよ。では曹長、行け」 祖父から父へ。父から娘へ。 誇り高きアーリア人の精神は、確実に受け継がれていく。 ● 『皆、聞こえる? 悪いんだけど、そこからもう少し移動してもらえるかしら?』 通信機の向こうから聞こえる、桜花 美咲 (nBNE000239)の声。 どうやら一仕事を終えたアークのリベリスタ達が、親衛隊の急襲を受けているらしい。 疲弊した彼等は既に壊滅寸前。 『厳しいかもしれないけど、出来る限り彼等を救出して頂戴。ただし敵は軍人だから、戦場での判断力は飛びぬけているわ』 美咲は言う。 今回はまずは味方の救助を優先しろと。 それに重点を置いて相手に目的を果たさせず、『撤退』を考えさせられればそれで良いと。 敵はハンス少尉を筆頭に、ギュンター曹長およびユーディット兵長など8名。 『くれぐれも気をつけて。敵は相当に強いわよ』 親衛隊は決してリベリスタを侮らない。故にリベリスタ側も慎重に動かなければ、人数で勝っても思わぬ事態を招く可能性もある。 美咲の注意を胸に刻み、リベリスタ達は一路、戦場を目指す――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月16日(日)23:35 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「……このパターン飽きたわよ! 何で馬鹿の一つ覚えみたいに、向こうに好きなようにかき回されなきゃいけないの? いい加減腹立つわ」 戦場へ走る『尽きせぬ祈り』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)は、沸き起こる怒りを隠せない。 敵が攻撃をかけ、それに対処する後手に回り続ける戦いばかり。 先手を取れれば上々だが、敵に対しての対策を練るまでは先手を取られるのは致し方の無い話ではある。 「こちらの手はキングを追い詰める一手だ。さて……箱舟はどのような反撃をするかね?」 さながら盤上のチェスを楽しむかのように、ハンス少尉が笑みを零す。 互いの手番に駒を操作するかのゲームならば、次に来るのは敵の手番だ。 ――そして箱舟の次の一手が、少尉の一手に待ったをかける。 50mほどまで近付いてくれば、その姿は親衛隊からも丸見えであり、奇襲を受けたリベリスタ達を攻撃する手がぴたりと止まった。 「楽団に引き続き親衛隊まで、ですか。大人しく平和に暮らしたいんですけど、なかなか難しいみたいですね」 そう簡単に平和など訪れない。わかっていながらも、『Dreamer』神谷 小夜(BNE001462)はぼやかずにはいられない。 一難去ってまた一難とはよく言ったものであり、箱舟の航海は常に苦難の連続である。 「来たか、次の手が。劣等相手であれ、そう来なくては面白くない」 ハンス少尉の属する親衛隊は箱舟にとっての新たな苦難。 「自身が優良種だと生まれに誇りを持つのは良いことですが、それでうちの同僚の皆さんを殺されても困るんですよな」 今、丁度眼前にある苦難はその親衛隊の奇襲を受けた味方の救出であり、『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)はそれをさせまいと相手を牽制するような動きを見せる。 果たして、この状況を乗り切る事が出来るのか? 目の前の荒波は、易々と乗り切れるものでは決してない。 「親子三代に渡る戦争屋稼業とは大変ですね」 ふと、『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)が口を開く。 構えた殲滅式自動砲の銃口を突きつけ、彼女はさらに続けて言う。 「尤もその系譜も今日限りで途絶える事になりますが、どうも今までお疲れ様でした」 それは目の前の苦難を完璧に乗り切るのだという、勝利宣言に近い。 勝たなければならない、ではなく、絶対に勝つ。 モニカほどの実力者が言うのだから、彼女を良く知る者が聞けば『勝てる』と感じる者もいるだろう。 「ハハハ、中々に愉快な事を言う」 さりとて、にこやかな笑みを浮かべたハンス少尉も相当の実力者だ。 彼は既に先の一手において、万全の手を打っている。 「侵略戦争のつもりなら七派と協定なんか結んでるなよ、時代遅れな上に矛盾だらけの亡霊め」 「我々は、少佐に与えられた任務をこなすのみぞ」 挑発する『遊び人』鹿島 剛(BNE004534)の言葉を軽くいなす程度には心中も穏やかだ。 「行き過ぎたナショナリズム、純血主義は破滅しかない。そして軍人とは力なき者を守る誇り高き職業だ。他者を虐げるだけのお前らにそれを語る資格などない」 「それは貴様達が劣等だからだよ」 続いた『ジェネシスノート』如月・達哉(BNE001662)の言葉を一笑し、ハンスはゆっくりとした視線で息子と孫娘を見やる。 「お父様……いえ曹長、我々はどうすればいいですか?」 「兵長に狩りを教えるのはまた今度になりそうだな」 少尉とリベリスタ達が会話を交わす中、ユーディット兵長がギュンター曹長に問う。 ギュンターは直前までの戦いを狩りだと言った。猛攻をかける他の兵を制した彼は、『狩りの時間は終わりだ』と無言のままに娘に、配下に告げる。 補給線の役目を担うユーディットは兵となって日が浅く、未だに誰かの命を奪った事もなく――そしてその覚悟も定まっておらず。 かつ誇り高きアーリアの兵でありながら、差別意識は低く、ただ純然たる『兵士』と呼べる面が強かった。 「何時も通りにやれ。我々の跡を継ぐ者として、恥の無いようにな」 故に父と祖父は彼女にその『誇り』を教え込もうとしていたらしい。 (優良、劣等。その差があるなら、過去に敗戦はなかった。あの男の言うとおり、私達は矛盾しているのだろう。……しかし) 彼女の思想は、およそ親衛隊の中にあっては銃殺されてもおかしくはないもの。 しかし彼女は同じ場に立って模索する。 並び立つ父と祖父が、今もこうして戦っている理由を。 「折角間に合ったんだ、きっちり巻き返して、全員で帰還すんぜ!」 気がつけば、『Spritzenpferd』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)を先頭に、増援部隊は傷ついたリベリスタ達を守れる位置にまで近付いてきていた。 否、ハンスがそうさせたという方が正しいか。 (この劣等共がどう動くかは、今後の参考にはなるだろう。多少の損害は出るだろうが、必要な対価ならば損益ではない) 全ては次に繋げるための情報収集。 狩るべき兎は増援という穴の中に逃げ込んでいる。ならばその穴を調べるのも狩りのためには必要な手だと。 「――やるかね?」 「ええ、勿論」 答えたモニカも他のリベリスタ達も、親衛隊を無傷で帰すつもりは無い。 彼女の放った弾丸が、一寸の狂いもなく正確にユーディット兵長を狙う――。 ● 「どうやらあっちは始まったようデスネ。都市伝説の領域に手ぶらでやってきて何事も帰れると思われては困るのデスヨ、親衛隊」 仲間達の放つ弾幕の煙は、奇襲を狙う『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)を援護するのに十分な役割を果たしていた。 リベリスタの狙いは当然ながら、回復を担うユーディット兵長が最優先だ。 「補給から絶つのは基本デスネ」 と言う行方ではあるが、補給線を重要視しているのは親衛隊の側も同様ではある。 「そう簡単にやらせると思ったか?」 「曹長っ!」 的確にユーディットを狙ったモニカの死神の魔弾を防いだギュンターが、補給線を守護する強大な壁となった。 「まあ、勝ち戦だからと不用意に出過ぎるなという新兵への親切な実戦教育ですよ」 次弾を装填するかどうかの判断に迫られたモニカは、その壁が容易に突破出来ないと即座に判断したのか、ガトリングを持ち出して広範囲に弾をばら撒く態勢を取る。 (ある意味、兵長は餌だ。そこに食いつくかどうかで、劣等の戦い方は判断出来るだろう) もしもユーディットを狙わず、負傷者の救助を主眼に置いて戦ってくるならば、ハンスも被害を避けるべく慎重に動いていただろう。 ユーディットを狙ってくるのならば、撃退かそれ以上――即ち殲滅を考えている可能性も高い。 その点においては、やはり彼女はハンスにとっては『餌』と言える。 (しかして、あの程度の弾幕ではギュンターは突破できん) 実際に血の繋がった家族である以上、ハンスのギュンターに対する信頼は相当に高く、 「俺は敵への牽制に回ろう、少しでも数を減らさないとな」 最初から援護を主体に動こうとしている剛のガトリングを、期待に応えるかのように、ほとんど無傷で防ぎきったギュンター。 他の兵がそれなりに傷を負う中、耐え凌いだギュンターの実力は相当に高い事が良くわかる。 「此処は私達に任せて回復に専念してください。……しかし軍人なら、女性は銃後の役割が重要と考えているかと思いましたが、普通に戦場に出すんですな」 「誇りを持って戦う者に、男女の区別はあるまい?」 流石に月の女神の加護を得た九十九のガトリングには、さしものギュンターも傷を負うが、それはユーディットの存在がある限りは大した問題でもない。 「アーク社員食堂からの出前サービスだ! ホリメは回復を、イージスはホリメをかばいつつ僕らの後ろに後退! あとは僕らに任せろ!」 「安心してください、あなた達は私達が守って見せます!」 逆にリベリスタ側も負傷者の傷を達哉と小夜が癒して態勢を立て直しにかかるが、これもハンスにとっては予想の範囲内の事だ。 ここで増援にきた彼等が庇うなりして、もう少しでも負傷者達を護衛していたなら、追撃の指示を下す事は無かっただろう。 「奴等にはキッチリ痛い目を見て貰いたいところね」 だが、シュスタイナまでもが葬操曲を放つための構えを見せた事で、2人くらいならば動かしても構わないと判断した点はリベリスタにとっては誤算だった。 如何にモニカや九十九、剛が弾をばら撒いても、ユーディットがいる限り決定打となるまでには時間がかかる。 「派手なナックル着けてんな、おっさん。地力がなくてモノ頼りかよダセェ」 「ははは、これはテスト装備だよ」 側面を突いたカルラの一撃はギュンターに手傷を負わせても、彼に守られたユーディットにまでは届く事がない。 「戦場が軍事の華なら都市に巣食うは都市伝説。自然のこの場で食い合うは、相互に塗れる血の海、デスカ? アハハハハ!」 「伏兵か、常道だな。曹長と兵長は、少し下がりたまえ」 奇襲をかけた行方の刃はギュンターを補足するも、防がれてしまえば威力も相当に鈍る。 ――勝ち戦であるからとユーディットを前線に出したとしても、ハンスは決して孫娘を無闇に危険には晒さない。 ギュンターはこの部隊にとって攻防どちらにも機能する重要な存在であり、彼も大事な娘を全力で守ろうとするだろう。 ユーディットを最初に倒し、補給線を断つ作戦は定石だ。 定石であるが故に読みやすく、対処しやすく、まして親衛隊は補給線を安易に危険に晒すような存在ではない。 この点においては、 (……劣等が我々を侮るのかね?) とハンスが感じたのは仕方のない事かもしれない。 「ヴェルターとトーマスは負傷した劣等の追撃。兵長は援護を、曹長と残りの者は兵長を守護しつつ応戦せよ」 既にリベリスタ側の戦略は露呈している。 「くっ、させるか!」 「皆で無事に帰るって、決めてるんです!」 達哉と小夜は、こうなれば攻撃よりも援護に主眼を置くしかない。 刃を受け、銃弾を受け、傷つく仲間に2人の必死の援護が飛ぶ。 壊滅しかけていたリベリスタ達は、彼等の援護を受けてもまともに戦うだけの余力を残してはいなかった。 「神秘の秘匿も大切だ――!」 加えて弾をばら撒かずに結界を展開した剛の分だけ、この瞬間だけは火力も下がったかに見えたものの、 「代わりにこれを受け取って頂戴!」 シュスタイナが時間をかけて練り、作り上げた血液の黒鎖が親衛隊を飲み込めば初手と今とに大した差が出る事はない。 「逃げるのか、おっさん!」 「曹長の前に俺が相手だ、劣等!」 しかし執拗にギュンターを狙おうとするカルラが、親衛隊の1人に行く手を阻まれ標的に近付けず、 「貴様の相手は、儂がしようか」 「孫娘をとっととやってしまいたいんデスケドネ」 そして行方にはハンスが立ちはだかった時、リベリスタ達の『ユーディットを狙う』という作戦は半ば瓦解したも同然である。 カルラと行方に遠方を攻撃する技があったなら、話は変わっていたかもしれないが。 リベリスタ達がユーディットを狙おうとも、それほど的確に彼女を防衛する親衛隊の動きは完璧だ。 「少し旗色が悪いですかな?」 「そのようですね。ですが数を減らせば、まだ打開できる状況ですよ」 唯一、この悪い状況を打破出来る手があるとするならば、呟いた九十九と応えたモニカの恐ろしいまでの火力か。 「うぐあああっ!」 「何と言う火力……劣等の分際で!」 降り注ぐ弾丸の雨に、ヴェルターとトーマスと呼ばれた負傷者を追う兵の顔が苦痛に染まる。 確かな実力を持つハンスやギュンター、彼に守られたユーディットは別としても、モニカのガトリングの弾は直撃すれば甚大な被害を親衛隊にもたらした。 威力と的確さを両立させた九十九の弾は、追撃に十分な火力がある。 「曹長、皆が……!」 「慌てるな。お前はお前の役割をこなせ」 硝煙の混じった風の匂いと血に塗れる仲間達の姿に慌てる素振りを見せたユーディットを制し、ギュンターはそれでも娘の壁となり続ける。 (しかしユーディットだけでは、やはり不足か) 足を止められ、突破しようと襲い掛かる行方の攻撃をたくみに捌きながらハンスは状況を冷静に見定めていた。 「余所見をしている余裕があるのデスカ? 随分と余裕ですね、アハハハハ!」 相手にしているのがハンスやギュンターではない、他の兵だったならば行方にも勝利の可能性は十分に残されていただろう。 裂帛の気合を込めた剣捌きには、さしものハンスも無傷というわけにはいかない。 が――。 「零距離だ。受けたまえ」 「はっ……流石に少尉ということデスカ?」 密着したサブマシンガンの銃口が、行方を穿とうと火を吹く。1発や2発ではない、数えるのも面倒になるようなサブマシンガンの連射。 「まだ、倒れないデスヨ! 目的を果たすまでハ――!」 運命の力を引き寄せながら立ち上がっても、ここで引かなかったことはやはり間違った判断か。 「歪崎さんっ!」 小夜がこれ以上はやらせまいと吐息を彼女に放つ。 「誰か、援護には向かえないのか?」 「すまない、行けそうにはない」 透き通った歌声を響かせながら援護を要請する達哉に応えたカルラが、眼前の兵を倒しきるにはもう少しだけ時間がかかる。 「目的は果たす」 「く、耐えろ……!」 後ろに下がろうとするリベリスタを追う2人の兵は、これを機と見たのか追撃の手に一層の勢いがかかったようだ。 放たれた銃弾と剣が、意識を失ったリベリスタ2人の命を無慈悲に奪っていく。 「防衛をしっかりしないから、そうなるのだよ」 ハンスがそう言ったのも無理はない。 親衛隊がユーディットをしっかり守る態勢を取りながら戦っているように、リベリスタ側も不用意に逃がさずに守る態勢を取っていれば、彼等が落命しなかった可能性もある。 「少しでも情報を得たかったが、な……!」 呟いた達哉が狙ったのは、親衛隊の武器――即ちギュンターやユーディットの持つナックルの確保だ。 「ユーディットを狙うのは避けるべきだったかな」 ようやく相対する兵を倒したカルラは、攻撃を集中する事で負傷者を逃がそうと考えていたらしい。 「でも討たなければ、相手も態勢を立て直しやすいのデスヨ……」 加えて傷の深い行方に至っては、自身が追い込まれた状況であっても引く気配を見せもしていなかった。 補給線を断つべく、狙いを定めたユーディットの存在。 しかし側面からの攻撃はほぼ失敗に終わり、彼女自身は未だに無傷だ。 「ハハハ、劣等如きに孫の命をくれてやるものかね」 と言うハンスではあるが、ユーディットを倒し万全に全員が生還する道は存在しており、リベリスタ達はその道を誤っただけに過ぎない。 再び零距離からマシンガンを撃ち込み行方を黙らせたハンスは、次に脅威となる前衛、カルラに視線を移す。 「これ以上、私の目の前で倒れるなんて真似、許さないわよ! 回復飛ばすから、立って動いて! ちゃんと連れて帰るから」 一方で守るべき存在の数が4人に減った光景を前に、激を飛ばすと共に歌うシュスタイナ。 「援護する! 俺達を信じろ!」 ユーディットを守っているのがギュンターである以上、直撃は難しいと悟った剛の投げた閃光弾で追撃する2人の兵が怯んだ点は、リベリスタ達にとって幸運だ。 「防衛に手を割いている分、こちらがまだ耐え切れているってことか」 確かに2人は命を落としたが、それでもカルラや行方の側面攻撃によって親衛隊の攻撃の手は緩んでいると感じる剛。 事実、追撃する2人の兵は目的の一部を果たしたものの、被害は甚大――否。 「まずは、彼等の安全を確保しましょうか」 「そうする他にありますまい」 頷きあったモニカと九十九の放つ強烈な砲撃に、2人の命が散っていく。 ● 「ここまでだな」 マシンガンのテストは出来た。 肝心のナックルのテストは逆にそうは行かなかったが、ユーディットを守るために手を割いた事を考えれば仕方のない話だとハンスは考える。 「無為な争いを続けるのが、貴方達の誇りなら止めはしませんが。個人的には敵とは言え、家族の相手はやりにくいですけどな」 「双方、同被害か。撤退するぞ」 停戦を提案する九十九に対し、ハンスも断るつもりは毛頭無かった。 倒したリベリスタは、深い傷を負って動けない行方を含め3名。 親衛隊の側も3名を失っており、このまま続けば泥沼になるとは双方がわかっていたのだろう。 「戦い続ければ、どうなっていたか……」 自身を優良種だと考え、相対するリベリスタを劣等と罵る親衛隊ならば、ここまでの被害は出なかったはずだ。 差別観念の薄いユーディットにとって、この結果は求めるものを知るには至らない。 (しかしまぁ、勝ち戦で実戦を経験させる、か。親心ってやつかねぇ) 去り行くユーディットや彼女の父、祖父の背を目で追い、剛はふとそんな言葉を胸の内で呟いていた。 最も狙われやすいポジションである娘を守る姿からは、やはり3人が家族なのだと思い知らされる。 しかしリベリスタ達は、3人の絆を打ち砕く事は出来なかった。 「……追撃は避けたほうが懸命ですね」 撤退する親衛隊を追撃すれば、被害はさらに甚大になる事は間違いない。 モニカの言葉に頷いたリベリスタ達は、生き残った4人を伴い、帰還する――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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