●突き進むもの そして彼は猛進する。 その突き出た牙で邪魔するものを振り払い。 蹴爪を突き立てあらゆる道を走破する。 眼差しはひたすらに前を見据え、只々前に前にと突き進む。 巨体で木々をなぎ払い、鋼のような剛毛に覆われた肉体で岩を砕き、直進する。 何があろうとも、前進し蹂躙する、その意思だけが彼の全てであった。 ●突き破るモノ そしてやがて蹂躙する。 アスファルトを蹴り砕き、自動車を押しつぶし、人家を轢き潰し、街に行き着いた獣は蹂躙を始める。 直進を望む意思は、ただただ直進を目指し、ただただ直進を実行する。 眼前にそびえ立つビルディングを目指し、彼は突進を始めた。 やがて、ビルに風穴を開け、直進は街を蹂躙する。 ●リベリスタ モニターの画像が切り替わり、予想される被害等細々としたデータを表示させる。 「エリューション・ビースト。フェーズ2。猪が革醒した存在です」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は細かくファイリングされた資料を配り、続ける。 「対象の行動基準はひどくシンプルで単純です。それ故に、厄介なことになっていますが……」 モニターが切り替わる。万華鏡から演算された予想ルートですと表示されたルートは一直線。 「フェーズが進み暴走した対象は真っ直ぐに地方都市を目指して進みます。そして、そのまま突っ切って……」 予想ルートから矢印が伸びる、伸びる、伸びて――首都圏に突き刺さる矢印。なるほど、由々しき事態だ。 「現場に急行すれば、山中を突き進んでいる対象に遭遇できます。被害が出る前に食い止めてください」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:築島子子 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月15日(金)21:42 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●→→猛進ストライク 轟音轟く。 木々が悲鳴を上げ、岩が砕け散り、土塊をかき分けて、獣が進む。 鋭い牙を振り上げ、鋭い鋼の体毛を震わせながら、巨大な猪のエリューション『牙王』は進む。 その存在による傷跡は、彼方より一直線。木々を砕き、岩を跳ね除け、山々を抉り抉って一文字。 猪突猛進。言葉通りのその直進の果てには街があり、都市がある。人々の営みがあり、命がある。 それらを守るために、リベリスタが立ち塞がる。 「猪突猛進とは正に言葉通りじゃが、実際に相手をしてみると厄介な事この上無いのかもしれんの」 翼をはためかせ、『有翼の暗殺者』アルカナ・ネーティア(BNE001393)は上空より牙王を見下ろし独りごちる。 映像に見たよりずっと巨大な印象を持たせる蹂躙者は、一直線に森を切り開いている。 「わらわ達が止めることが出来なければ、街に被害が出てしまうのは必至」 位置と速度は確認した、戦場の選定を調整して戦いに備えなければ。 純白の翼をはためかせ、幻想纏いから仲間のアドレスを呼び出す。 (がんばらないとじゃの……) 連絡を取りながら、アルカナは純白の翼をはためかせ降下をする。 「ルートはこう、間違いないね?」 『臆病強靭』設楽 悠里(BNE001610)は連絡を受け、マップにマーカーを走らせる。 戦場の選別は完了していた。広さも十分、角度もしっかりと調整した。何より前方より轟く破砕音は牙王の存在を強く知らしめていた。 木々の間から山の斜面を下り遠くに見えるのは街の姿。近い、と密かに息を呑む。 準備をしてきた小瓶をいくつか懐から取り出し、栓を抜いて後方の木々や岩肌などに振りまく。 夏の空気に溶け込む強い香気。小瓶の中は様々な香水。香水の香りが森の一角を占拠する。 「なんですか?それ……」 漂う臭気に口元を押さえ、『悪戯大好き』白雪 陽菜(BNE002652)が眉をひそめ、問う。 「香水だよ。猪は鼻が強いからね。もしもの時はこれで嫌がるかなって」 もしもの時、それはリベリスタが敗北した時のことだ。 「でも、勝つんだろ?」 気弱そうに笑う悠里の肩をぐいと寄せて、『Steam dynamo Ⅸ』シルキィ・スチーマー(BNE001706)が強気に笑う。 「もちろん、負けるつもりはないよ」 怖いけれど、負けれないよねと付け加え、悠里は真っ直ぐに森の奥を見据える。 恐れども心は引かぬ、来るなら来い! 「猪相手なら、下手なフィクサードよりいいかもって思ったんだけれど」 結構厳しい戦いになりそうね~と、呟く陽菜に、『見習いメイド』三島・五月(BNE002662)が頷く。 「ええ、相手に不足ありません。初陣を飾るには良い相手ですよ」 ガントレットに包まれた拳を構え、打ち放つ一撃と共にメイド服が翻る。この初陣のために心身共に鍛え上げた。準備は万端だ。 「そうだね! 私もこの子を早く撃ってみたいな~!」 強気に笑って、陽菜が準備してきたロケットランチャーを持ち上げる。 「頑張ろう。勝って帰ろう」 五月と陽菜が拳を合わせる。初陣同士、一戦一戦全力を尽くそう。 「来い、牙王ー! 僕様と勝負だー!!」 『方界平衡』樹月・玲架(BNE000006)が森の奥へ響かんと、声を上げる。 その背中にやや呆れた調子で『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)は声をかける。 「そこだと牙王の正面に立ってしまいますよ。逸る気持ちは分かりますが、作戦通りに配置についてください」 「むっ! まあ、僕様の出番はまだちょっと早いかもね! うん、わかったよっ」 うなずき玲架はてててーっと配置位置につきファイティングポーズ。来るなら来い!と気合十分。 その様子を微笑ましく眺めていた『寝る寝る寝るね』内薙・智夫(BNE001581)はひとつ伸びをして配置につく。 前方からの破砕音はん近づいてくる。 ああ、凄い音がしているよ。6メートルの猪って、凄く大きくて怖いよね。せめてウリ坊だったら……6メートルだとやっぱり怖いや。 智夫の心に廻るモノローグ。よし、大丈夫。最初から怖いと思っていればこれ以上怖くない……はずだ。 「皆、準備はできてるよね」 「準備はいいぜ。さあ、ひと狩りしようぜ!」 智夫の言葉にシルキィが軽口を飛ばす。気合と共に吹き出す蒸気。皆配置についた。死闘の幕が開くのはもうすぐだ。 羽音と共に降り立つアルカナ。自らの影を纏い、臨戦態勢。 「牙王はすぐそこじゃ。みな準備を!」 アルカナの言葉に、リベリスタは自らの力を高めるべく集中する。 悠里は流れる水のような流麗な動きを、考平は体のギアを開放し、陽菜は集中し感覚を研ぎ澄ます。 陽菜の鋭敏な感覚と視力が捉えたのは、前方の空間における、爆発するような衝撃の圧力。 「来る!」 陽菜が警告の声を上げるのとそれが起きたのは、まさに同時。 耳鳴りのような圧力を感じ、前方の森が、空間が、弾け飛んだ。 木々が飛び散り、岩を砕き、土煙を巻き起こしながら、其れは現れた。 名を表すような巨大な牙を振り上げ、黒銀の体毛を不吉に光らせ、瞳に世界への怒りを煌々と灯らせ―― ――牙王は、その超常の在らん限りをもって直進を執行する。 迫り来る突進。衝撃が走る。 ●・・防戦デッドライン 突進する牙王の前に立ちはだかるのは、たったの三人。 地響きと共に猛然と巨体が迫る。 考平が、牙王に見とれていたのは一瞬の事だ。 森を、大地を、砕いて現れた牙王のその姿。 雄々しい野性に、異形に蝕まれながらも揺るがぬ意志に、一瞬ではあるが、心奪われたのだ。 考平が恐るべき突進の餌食にならなかったのは、身についた修練とリベリスタとしての使命、そして事前に上げていたギアのおかげと言えよう。 「なるほど、牙王の名前に相応しい雄雄しい姿です」 咄嗟に抜き放った太刀に手をかけ、牙王に二条の剣戟。鋼の体毛を打ち払いながらも、太刀は牙王の脚を捉える。 「とは言え、その存在が既に僕たちにとって危険なものである以上、排除しなければなりません」 決意を胸に考平は食い込んだ太刀に手をかけ、突進の勢いを殺す。 「世界の崩壊を助長するだけでなく、人間社会に害悪だからというのは僕たちのエゴかもしれませんが…」 かもしれませんが……それでも、止めてみせる。 五月は牙王の突進を躱しきれないと見て取ると、全力で妨害と守りに回った。 計らずもその位置は牙王の正面、恐るべき牙を寸でのところで掠るに留めると、牙を脇に取り足を踏みしめる。 突進を受け止める。それだけで全身に走る衝撃。走る激痛に五月は耐え、靴が足元の土を抉る事にも構わず突進に果敢に挑む。 靴底が焦げた臭いを発し、過重に関節が悲鳴を上げる。 「っ……ぐ、私が強くなるための第一歩……止めて、みせます」 自らを鍛える為に、そして、守るべき人々を守るために、その力を得るために、唇を噛んで体中に走る痛みに耐え、五月は牙王を受け止めた。 悠里は眼前に迫る牙王の巨体に意識を凝らす。 攻撃を受けるその瞬間こそが、攻撃の最大の好機。視野全体で牙王の姿を捉える。 迫り来る突進。猛進なるチャージ! 流水。水の流れの様に、迫り来る牙王の牙を肌一枚、掠るように巨体をいなす。 いなし躱して潜り込んだは牙王の下、二対の短剣を構え、悠里は一撃を放つ。 「僕は僕の、やるべき事をやるよ」 振るわれる短剣。穿たれる衝撃が生む冷気が氷柱を造り上げる。 氷柱はガリガリと大地を削りながら、牙王の動きに静止を掛ける。 三位一体の全力阻止。牙王の前に一歩も引かず、一歩の前進をも許さない。 三人のリベリスタの前に、牙王はついに猛進を止めた。 だが牙王が与えた三人へのダメージも少なくない。 牙王の突撃を正面より受け止めた五月は元より、考平も悠里も突進と鋼の体毛のより全身に傷を負っている。 氷結にもがく牙王の前に、悠里は、考平は、五月は再び構えを取る。 戦いは始まったばかりだ、ここに縫い止め、動かさない内に仕留める覚悟がこの戦いには必要であった。 「凍らせたよ! みんなよろしく!」 悠里の言葉が合図の様に、リベリスタの猛攻が始まる。 「僕様の蹴りを喰らえー!!」 「いけ~! ミサイルー!!」 玲架の蹴りが起こすカマイタチが鋼の体毛を薙ぎ払い、陽菜の狙いを引き絞ったミサイルランチャーが牙王の脚を爆炎に包み込む。 「頑張って、作戦は上手くいっていますよ」 「回復は任せるのじゃー」 智夫の歌とアルカナの吐息が疲弊した前衛に癒しを与える。 「疲れた奴はアタシに言ってくれ。しっかりチャージしてやるよ!」 消耗した気力を、豊満な胸の蒸気機関により無尽蔵の力を秘めるシルキィが力を分け与える。 牙王の猛進を食い止める前衛、前衛の補佐と弾き飛ばされた時に穴埋め要員としての中衛、そして遠距離火力専門と回復の要の後衛。 対牙王戦の為にリベリスタたちが作り出したフォーメーション。 例え時間をかけようとも、牙王を通さないという堅牢な布陣であった。 ●激闘アンリミテッド←← 「改めて、叩き潰させていただきます!」 メイド服を翻し果敢なる攻め、五月の赤熱化したガントレットが牙王の鼻柱を打つ。 顔面を襲う熱に牙王は忌々しげに体を震わせると、動きを封じる氷を砕こうともがく。 だが、砕けない! 動きを封じられた牙王が吼える。 考平の刀が振るわれる。狙うは脚、放つは二重の斬撃。 先程の一撃よりも更に深く傷を抉り、飛び散る鮮血を巧みにかわす。 叩き込められる陽菜の爆撃、機動力を削ぐための火力の集中。 「動けなくなればいいんだけれどねー」 地を蹴る脚の勢いは増せども弱まることはない。 剣林弾雨。シルキィのショットガンが、アルカナの2対のチャクラムが牙王の体を穿つ。 そして鴉。智夫の放った式符が牙王の意識を怒りに染めた。 己の猛進の邪魔をし体を傷つける小さき者への怒りに身を震わせる牙王。 エリューションの驚異的なタフネスと生命力が牙王を更なる戦いへと駆り立てる。 「バオォォッ!!」 牙王の怒りの咆哮と共にバリバリと音を立て、氷が砕け散る。 強固なる前進への意志。度重なる攻撃によって生まれた怒り。 それらを糧とし、引き剥がした勢いそのままに轢き潰さんと猛進する。 牙王は黒銀の弾丸となり、リベリスタに襲いかかった。 突進を正面から受け、五月が弾き飛ばされる。 咄嗟に空中にて体勢を整え着地するが、その傷は浅くない。 痛みに顔が歪み、膝を付く。 閃光が、野山を照らす。 智夫の放つ、罪深きものを罰する神の光が、エリューションを、牙王を灼く。 「君が僕達の世界を怖そうとするなら、怖くても僕達は立ち向かうよ」 神気閃光。神の光が、牙王の身体と視界を灼く。 朦朧状態へと陥る一瞬、牙王の前に飛び出した影がその顔面を打つ。 「ここから先は押し返すー! 全力で!」 玲架は真っ直ぐ、ただ真っ直ぐ見据えた瞳で牙王に飛び掛る。 「僕様と勝負…だーーーっ!」 闘志と同じく炎の灯った拳を牙王の脳天に突き立てる。 その腕を覆うのはフィンガーバレット。弾丸を十分に装填された切り札にして最高の相棒。 「燃えろーーー!!」 インパクトの瞬間にばら撒かれる弾丸。 炎が鋼を溶かし、牙王の朱に染める。 そして悠里が動く。 牙王が氷を砕き動き出すその時の為に、気を練り意識を集中した悠里は牙王に再び短剣を振るう。 零度の氷点を生み出す、氷の魔拳。真っ向から牙王に撃ち込まれたそれは、たちまち牙王を氷の内に束縛する。 そして―― ●↓猪突失墜↓ ――戦いは巡る。 どれほど続いていたのだろう? 半日? いや、数時間? 例えそれほどの時間が経過していなくとも、突破を許せば後がない状況はリベリスタを疲弊させていた。 リベリスタの誰もが傷は癒されていたが、その心にかかる重圧による疲労は隠せない。 そして牙王も追い詰められている。 氷に囚われしその身は幾度となく自由取り戻し、突破をかけようとも、立ちはだかるリベリスタ達の巧みな連携により阻止されている。 その黒銀の鋼に覆われた体は度重なる攻撃により、ひび割れ血を吹き出し、考平、陽菜らによる集中攻撃により、その四肢は傷に覆われ体を支える力は弱々しい。 例え牙王がリベリスタを弾き飛ばし傷を負わせようとも五月、玲架による前線バックアップの存在が、アルカナ、智夫の癒し手の存在が、活力を無尽に与えるシルキィの存在が戦線を支えていた。 強固なる戦線維持能力に支えられ、戦闘は最終局面を迎える。 最後の猛攻と加えようと、牙王が傷ついた四肢に鞭入れ立ち上がる。 かつて野山を打ち砕いた暴虐なる破壊者の面影はもはやそこには無い。 力なく足掻く牙王の前に、二人のリベリスタが立つ。 ひとりはオコジョを肩に乗せた純白の翼を持つ暗殺者の少女。 もうひとりは豊満な胸を誇る蒸気機関と無限エンジンを搭載した女。 アルカナとシルキィ、戦線維持に貢献してきた二人の女性が、牙王の前に立つ。 「もはやここまでじゃ。この度の戦いはわらわ達の勝利。王なら王らしく、静かに幕を下ろすのがよろしかろう?」 「あたいはどっちでもいいぜ。やるなら最後までやり合うも良し!」 その言葉が、届いたのか、届かなかったのか、牙王は傷ついた足に構わず地を蹴り進む。 最後の突進。最後の猛進。 紙一重で躱したアルカナは、チャクラムに漆黒のオーラを纏わせ、死の至らしめる黒の礫を放つ。 撃ち抜かれる牙王。ゆっくりと頭を上げ、吼える。吼えならも、前進をする。 「見事な猛進だった! 楽しかったぜ……」 シルキィが労うように触れ……牙王に植え付けられた爆弾が乾いた音を立て炸裂した。 牙が砕ける。 体を支える全ての糸が切れたかのように、牙王は大地に沈んだ。 ●え? 本当に? 小さな塚に手を合わせ、考平は静かに祈る。 先ほどまで命のやりとりをしていた相手に対する冥福の祈り。 そこには牙王の牙の欠片が眠っている。 「もういいのかい?」 考平の背中に智夫が声をかけ二人は並ぶ。 「ええ、僕は彼の事をきっと忘れませんよ」 お墓を必要とするのは生者が死者を忘れないために必要だから……。 「お疲れ様ー」 「いやー、頑張った頑張った」 「よっし、じゃあ打ち上げだな!」 何やらテンション高く準備をしているのは悠里、陽菜、シルキィの3人だ。 「ところで何をしておるのじゃ?」 ついていけれない代表のアルカナが問う。 「何って、食べるのだよ~?」 陽菜の言葉に頷く悠里とシルキィ。 「ああ、そうじゃと思った。違うと良かったのにの」 やけに悟った口調でアルカナが呟き、身を翻して猛ダッシュ。 「わらわはパスじゃー」 「私もこれで」 「僕様も遠慮しておくよー!」 続くように、五月と玲架も走り去る。 「んじゃ、残った奴で楽しもうぜ」 シルキィのポケットの中に忍ばせた牙王の牙。 それが生まれ変わるのも、このパーティーが終わってから。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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