●実はタコに足はない とある山奥に『金剛稲荷神社』と呼ばれる新品ピカピカの神社があった。 神社には狐のアザーバイドが住み着いている。太陽に照らされ黄金に輝く、稲穂を思わせる毛並み。しかし真夏日の中、その毛は単に暑いだけでしかない。 「くあぁぁ~……、アツい……」 彼女は縁側からごろりと転げ落ちると、よたよたと歩き始めた。付近には湖がある。そこまで行けば、この暑さからも解放されるだろう。 いざオアシスへ。次第に足取りも軽くなり、彼女は駆け足で湖を目指す。だが彼女を待っていたのは、思いもよらぬ出来事であった。 『ヘイラッシャイ』 「た、タコがたこ焼きを焼いておる……」 タコだ。湖で彼女を待っていたのは、たこ焼き屋台でたこ焼きを焼くタコであった。でこぼこした鉄板からは、ジュウジュウと音を立て蒸気が沸き立つ。 タコは器用に八本足で八台の鉄板を同時に処理している。暑い。見た目の暑苦しさもあるだろうが、巨大タコ用の鉄板はかなりの熱を発している。八台分ともなれば周囲が歪んで見えるほどだ。 対してタコ本人は湖で涼しげにしている。その光景が彼女の逆鱗に触れた。 「おのれ化物タコっ! 貴様がおっては我が湖でのんびりできん、早々に立ち退いてもらおうか!」 『マイド!』 「金剛稲荷神社が守護神の力思い知るが良い!」 ●あの八本足は四対の腕である、とイヴ談。 「――というわけで狐のアザーバイド『金魂』は、E・ビースト、フェーズ2、通称『ヤマタコノオロチ』と交戦。結果として敗北し無残な姿となったわ……」 いつものように『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)より作戦の説明を受ける一同。イヴの手前にあるテーブルには、彼女の顔よりデカイ巨大なたこ焼きがおいてある。 イヴは一同に資料を配ると、分析結果を読み上げていく。 「敵は八台のたこ焼き屋台を使ってたこ焼き弾を生成、これを主な攻撃方法とする……。また火を自在に操る力を有しており、火には強い……。水生生物ということもあって水にも強く、常に脚を地面に出しているため、電撃も地面に受け流す事ができる……」 「なんだかめんどくさそうな相手だなぁ……」 イヴはひと通り説明を終えると、巨大たこ焼きにフォークを向け。 ブスリ。 「こぉぉぉぉん?!」 すると巨大たこ焼きの中から金魂が飛び出してきた。フォークに刺されたのか身体を丸め、お尻を方を舐めている。涙目で。 「もしやられると、このようにたこ焼きの具にされてしまうかも。各自気を引き締めるように」 「う、ういっす」 「我を倒した強敵だからナ。気を引き締めてゆくが良イ」 『ところでこの生物はどうしてこんなに偉そうなのだろう?』そんな事を考えるリベリスタも中には居ただろう。そんな疑問にイヴは先んじて説明を始める。 「あぁ……、彼女と我々は友好的な関係にあるの。まぁ、所詮畜生だからあまり気にしないよう。とはいえ、敵の性質や特性が予め掴めているのは、彼女からの情報提供のおかげでもあるわ」 「我の神社の近くにある湖なら、当然そこも我のモノ。我の湖を取り戻すため力を尽くすが良い」 スルーし。 「あぁ、問題はそれだけではないわ……」 イヴはへし折れたフォークを放り投げる。代わりにイヴが手に取った資料は、どうやら先程配られた資料とは別の物らしい。 「加えて、今回はフィクサードを相手にしなくてはならないわ」 イヴが新たに配った資料には、あるフィクサードに関する情報が記されていた。 『怪人、イカ侍』。悪の組織テラの怪人級フィクサード。足が十本あるが刀は一本しか使わない、割と正統派な侍だという。 「十本って、それどう見ても人間じゃないじゃないか!」 「大丈夫、足は4本ずつ束ねて二本足。腕も二本だから一見するとちゃんと人間に見えるわ」 なにが大丈夫なのかは分からないが、イヴが大丈夫と言うのなら多分大丈夫なのだろう。一同にはそう信じるしかない。 「それと、敵エリューションはたこ焼きの具に最適だそうだから」 「なぜその情報は出てきたし」 イヴの星屑を散りばめたような澄んだジト目が向けられる。返答は、ない。 ●アークが建設した施設を占拠するという敵対行為 「我らテラの栄光ある未来に、乾杯」 「かんぱ~い!」 これは万華鏡の予測した未来。無人となった神社には『悪の組織テラ』を名乗るフィクサード達が集まっていた。 彼らのボスである『テラーダーク将軍』は、ジュースをワイングラスに注ぐ。炭酸の弾ける音は、清涼感があり涼しげだ。 神社の外では『戦闘員一号』と『怪人サーベルウルフ』がチャーハンを作っている。 「さすがウルフさん、破界器がフライパンとおたまだけあって料理も上手いっすね!」 「サーベルベルっ! 破界器の力でどんなに適当に作ってても美味しく仕上がるからな! さてそろそろ具材を……、ん?」 肉がない。クーラーボックスの中や荷物をひっくり返しても、肉が見つからない。これでは食材不足で野菜しか入っていない、味気ないチャーハンを食べる事になる。それだけは避けなくてはならない。 「おい一号、オマエちょっと街まで降りて買ってこいよ」 「そんな?! ここから街まで超遠いじゃないっすか!」 「皆の衆……、なにかお困りか」 日陰からウルフ達の同僚であるイカ侍が姿を現す。三度笠に刀を携えたその姿は、一見すると単なる時代劇の浪人のようにも見える。しかしよく見れば足と思われるソレは、螺旋状に絡み合った触手の集まりのように見える。 「イカ侍か。いや、チャーハンに入れるはずだった肉がなくてな。今一号を切り刻んで具材にしようかと」 「えぇ!? 勘弁してくださいよ!」 いじめられている後輩を見るのは何やら忍びない。イカ侍は一号に助け舟を出してやることにした。 「ふむ……。では拙者が何か食料を調達してこよう」 「なんだオマエがいくのか? なら鹿でもなんでもうまいもん頼むぜ」 「あっ、なら俺も行きます!」 イカ侍は一号と共に森へ野生動物を探しに出る。ちなみにイカ侍はイカのビーストハーフだ。当然陸より水の中の方が得意であり、自然と彼は湖へと向かう。 「あれ? 湖に行くんですか?」 「鹿を探すよりは魚を探す方が楽でござろう。水の中ならば、拙者が魚無勢に遅れを取ることもないはず……」 「おぉっ、たよりにしてますっ」 しかし湖で二人を待っていたものは、例に従い。 『ヘイラッシャイ!』 「……シーフードチャーハンでござるか」 「たこ飯っすね」 『なおたこ焼きの具にイカを入れると、そこらへんのタコよりよほどタコらしい味になる』と語るイヴ。 彼女の瞳には、新たにフォークを突き立てられたたこ焼きだけが写り込んでいたという。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:コント | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月15日(土)22:35 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●女達の戦い 前 「金魂様争奪ぅ~……」 「おりょーりくっきーんぐ!」 「ひゅー、ぱふぱふ」 『おこたから出ると死んじゃう』ティセ・パルミエ(BNE000151)、『わんだふるさぽーたー!』テテロ ミーノ(BNE000011) の掛け声に観客(『』キンバレイ・ハルゼー(BNE004455) 一名)が湧く。 並び立つ三人の料理人。『』四条・理央(BNE000319)、『還暦プラスワン』レイライン・エレアニック(BNE002137)、『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260)らの表情は真剣そのものだ。 「なぁ、あいつらなにやってるんだ?」 『アッシュトゥアッシュ』グレイ・アリア・ディアルト(BNE004441) は首を傾げる。彼は事情を他人に聞こうと、隣にいた『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)の肩を叩く。 「くしゅん!!!」 「のあっ?!」 飛び退くグレイ。恐る恐るアンナの顔を覗き見ると、彼女はマスクに曇りメガネと怪しい姿であった。 「だ、大丈夫か~?」 「あ゛~。大丈夫よ。リベリスタって便利ね、風邪で身体がだるくっても身のこなしそのものは大して変わらないなんて。ごふっごふっ……」 「そうか……。で、あいつらは何やってるんだ?」 「見てればわかるわ」 テーブルの上では金魂が理央の出した皿に顔を押し当て、犬食いしている。ペットに食欲があるのは健康な証拠、今日も金魂は健康そのものだ。 『なんともクドさのない澄んだ味ヨ。酢飯を包み込む、この薄皮の食感!』 「今回は金魂さんの好みを、ボクなりに研究して見たんだ」 『ほう』 理央の曇りなきメガネが鈍く瞬く。ささっと司会的二人は稲荷寿司をつまみ食う。 「あっ、ほんのりお醤油の味がする」 「からいけいだいずしおあじ!」 『そういえば醤油の味は塩で調整されておるらしいナ』 「どうかな? 美味しい?」 『普段の味にも飽きを感じておったからナ。よいぞー』 「あははっ、よかった」 理央はご満悦な様子の金魂に触れ、撫でる。 「はぁぁっ、この指通り……。これを独占するためになら高級食材にお札を溶かしても惜しくはない……」 ちなみに本日の食材費、理央の食費三日分相当である。 ●女達の戦い 後 「次はおば……レイラインさんの番だよ!」 「えくすてんどている!」 「見て見て、尻尾2本になったのじゃ~」 二番手はレイラインだ。彼女は時代劇の小道具で見たような木製の箱をテーブルに置くと、くるりと一回転。二本の尾がうれしそうに揺れる。 『おっ、尻尾が増えとる。つまりもうお主も二百歳になるのだなぁ、九尾化まで後七百年か』 「えっ?! おばあちゃんサバ呼んでたの!?」 ティセ、シメられる。 「いやじゃから狐じゃないって、猫! 猫又! 後、歳のことは言うでない!」 『六十も二百も大して変わらん。それよりその皿の中身をはよう見せヨ』 「おっと、そうじゃったそうじゃった」 金魂は次はなにが来るのかと興味津々だ。レイラインは扇子を取り出し口元を隠しつつ、皿の蓋を開ける。 「こちらに用意致すは山吹色のお菓子……どうかこれで一つ、協力を願えんかのう」 『狐屋ぁ……、お主も悪よのう』 「いえいえ、御狐様ほどでは……」 悪党の高笑い。悪代官ごっこに飽きた所で実食。続けて司会のミーノとキンバレイが味見を行う。なおティセだったモノは観客席に安地された。 「わがし!」 「味は普通ですね」 「ぶっちゃけ悪代官ごっこやりたかっただけじゃし……。それと何度も言うが狐ちが」 『我は悪代官でもなんでも我が偉ければそれでよいゾ』 どうやらレイラインが猫又のアウトサイドである事はあまり伝わらなかったらしい。 最後にリコルの番がやってきた。金魂が彼女と会うのは、湖キャンプ以来の事になる。 「あの時は金魂様もお忙しく、挨拶もキチンと出来ておりませんでしたね。改めまして、リコル・ツァーと申します」 リコルは軽く挨拶を済ませると、皿に被せた蓋を取り払う。中身は理央と同じく稲荷寿司だ。 「さぁ、どうぞお召し上がりくださいませ」 『稲荷寿司か。先ほどあれだけ美味いものを食べておるからナ、ちょっとやそっとの事では……』 口の中で味わうように噛み締める中、金魂は何かに気づいた。 『……うむ。我は今回、こやつに同行するゾ』 「えっ?!」 「なんじゃと!?」 突然の決着に理央とレイラインはただ驚くしかなかった。なぜ金魂がリコルを選んだのか、その理由がわかるのはもう少し先の話になる。 「も、もふもふがぁぁぁ~~~……」 三日分の食費をつぎ込んで制作した、高級稲荷寿司の敗北に崩れ落ちる理央。そんな彼女を引きずりながら、一同は出発するのだった。 ● 夜。一同は目的地を目指し、切り開かれた山道を進む。 「ふぎゅっ!」 夜空に星々が瞬く。キワドい格好をしているキンバレイが転んでも、見えてはいけない所は見えない程度の輝き。大自然は偉大だ。 「大丈夫かよ」 「うぅ、ありがとうございます」 グレイに引っ張りあげられ、キンバレイは立ち上がる。よく見ると地面はデカいミミズでも通ったかのように抉れていた。 「転んだっていうか……、これじゃあ『落ちた』という方が表現としては正しいわね……。ごほっ、ごほっ」 『我が戦った時よりも成長しておるようだナ……。はよう始末せんと大変な事になるゾ。……!』 爆音。既にフィクサードとエリューションの交戦が始まっているのだろう。一同は湖へ急ぐ。 『ついたゾ!』 『マイドアリ!』 木々の背丈に等しく、見上げるほどのエリューション『ヤマタコノオロチ』。オロチは四匹の下僕『タコヤキリュウ』にその身を守らせている。 「くっ、流石に分が悪いでござるな」 「やっぱり無茶ですよイカ侍さん! 見返り少なすぎですって!」 対するフィクサードは二名、劣勢である事は言うまでもない。 交渉するには時間を稼ぐ必要がある。交渉役を残し一同は飛び出した。イカ侍の前にキンバレイとミーノが並び立つ。 「何奴!」 「えーっと、イカ侍さんですか?」 「左様。そういう娘らは、アークでござるな。なにをしに来た」 二人の少女を目の前に、イカ侍の表情は険しい。 「イカさん、イカさんっ、ミーノたちのおはなしきいてほしーのっ」 キンバレイはモゾモゾと胸元からメモを取り出し、概要を説明する。 「――と、つまりタコはこちらで倒すので分け前は半々でどうでしょう? ということですがー?」 キンバレイの言葉に対し、イカ侍は首を振らない。彼女は続きを読み上げる。 「えっと悪いイカ侍さんモードだったときは、きんばれいをぬちゃぬちゃのぐっちょんぐっちょんにして目のハイライトが消えるぐらいにしちゃって良いですよ……と――」 「ぬちゃぬちゃのぐっちょんぐっちょんですって?!」 反応したのは一号の方だ。対してイカ侍は冷ややかな視線を向けていた。 「……な、なんすか?」 「こんな乳房がデカいだけの小娘にナニを期待しているでござるか。こちらに損があるでなし、交渉には応じよう。ただし先に言っておく……」 イカ侍は一同を見据えると、絡まった触手を解いてぐにょぐにょとゆらめきながら宣言する。 「拙者の触手にかかりたくば、後二十年してから出直せい!!!」 交渉担当兼どえろ担当キンバレイ。彼女は交渉に勝ち、女として負けたのだった。 ●反撃開始 「おまたせしました!」 「ねごしえーしょんこんぷりーと!」 交渉の間、敵の猛攻を防いでいた面々は疲弊しつつあった。特に最前線で戦うティセのダメージは大きく、治療が間に合わない。すぐにミーノ、キンバレイも治療に辺り、前線の立て直しを図る。 「んーんー!(意:たすけてー!)」 まずはティセをたこ焼きの中から引っ張り出すことからだ。 「せーの!」 「ぷはぁっ! 口を開けるととろとろアツアツの小麦粉生地が入ってきて死ぬかと思った……!」 『うむ、こおばしいソースの匂いがするゾ。ぺろぺろ』 「あっこらなめるなっ」 『ナニシテンネン!』 オロチの龍頭が口の中に炎を蓄える。狙いは後方に居るティセ達だ。 「ナニもしとりゃせんわ!」 レイラインが跳ぶ。龍頭の首を無数に切り結び、トドメの一太刀でその首を刈り取る。 どさり。龍頭が落ちると共に、長い首も糸が切れたように地に落ちた。 「この頭、そのまま焼いたらまさにたこ焼きじゃのう!」 『ギャオー!』 タコヤキリュウがレイラインに迫る。身体が宙に放り出された状態のレイラインに、避ける術はない。 「しまった?!」 「チッ!」 闇光瞬く。気がつけばタコヤキリュウの首はごっそり抜け落ちていた。レイラインの視界を黒く塗りつぶしたのは、グレイの放った魔閃光だ。彼は愛用のオートボウガン『Kresnik』を構え直す。 「すまんのう、助かる!」 「ふんっ、オロチを狙い損ねただけだ!」 レイラインは着地すると再び距離を取った。 交渉を終えるまでに、一同は五匹のタコヤキリュウを撃破している。だが手数が不足していたため、オロチへ致命傷を与えられてはいない。その上タコヤキリュウの補填が行われ、未だに二匹がオロチの周りを漂っている。 消耗戦ではこちらが不利だ。戦場を後方から見ていた理央は、声を張り上げる。 「長期戦になればこちらが不利だよ! 勢いの乗った今こそ攻めよう!」 ●火の海を越えて 「了解にございます! 援護を!」 「わかった!」 金魂を肩に乗せ、リコルが駆ける。その後方では理央が魔法陣を展開、中型魔方陣に魔力を収束していく。 「マジックブラスト!」 紫電を帯びた魔法陣から夥しい魔力が溢れ、オロチ目掛けて一直線に飛ぶ。だが射線上ではタコヤキリュウが待ち構えていた。 『いかん! あのままではまた防がれてしまうゾ!』 「大丈夫でございますよ! 理央様なら」 『ギュワオー!』 魔力の奔流はたやすくタコヤキリュウを呑み込んだ。リコルの頭上を通り過ぎ、マジックブラストがオロチを直撃する。巨体は先程まで発していた人語と思しき声ではなく、化物らしい醜い悲鳴を上げた。龍頭が滅茶苦茶に火炎を吐き、リコル達の行く手をも遮る。 『前! まえっ!!』 「突っ込みますわ!」 リコルは目前に広がる火の海へと突っ込んだ。金剛化してやり過ごす金魂。一方のリコルは全身にオーラのようなものを張り、炎を遠ざけている。 『驚かせよって、バリアーがあるなら初めから言わんかっ』 「パーフェクトガードでございます。金魂様のソレほど万能ではないので、一気に行きますわ!」 リコルは暴れ狂うオロチの足元へ迫り、双鉄扇を構え。 「泣きっ面に失礼致します!!」 巨体を打ち据える。 オロチは動きを止めた。ぐらり、巨体はゆっくりと崩れ落ちる。リコルは火の壁を鉄扇で振り払うと、仲間達の方へと歩む。 「……! 危ない!!」 「!?」 二人の頭上を覆い尽くす影。リコルが振り返ると、そこには振り下ろされた巨大な触手が迫っていた。轟音。巨大な鞭が地表を抉る。 「リコルーっ!!」 一同が叫ぶ中、オロチは転進し湖の中へと沈んでいく。気がつけば周りは火の海。オロチの使っていた屋台も炎の中だ。 「ヤベェぞ! 逃げられる!」 「次が最後のチャンスじゃろうな。誰か、動ける奴でわらわのスピードについて来られる奴はおるか」 「なら、あたしが」 レイラインの呼びかけにティセが応える。治療によって肉体のダメージは取り除かれているのか、気合十分だ。 「えーっと、とりあえず身体の方はもう平気ですから」 「ごほっ、ごほっ! インスタントチャージで私の力を分けておいてあげたから、全力でいけるはずよ……」 キンバレイ、アンナに送り出され、ティセはレイラインと並び立つ。その二人の背に魔法の翼が形作られる。術者はミーノだ。 「ふたりともふぁいと!」 「うんっ!」 「まっかせんしゃい!」 跳躍、飛翔。飛び立った二人は炎の壁を飛び越えていく。 『ギャオーン!』 その前方に最後のタコヤキリュウが待ち構える。大きな口を開き、今にも二人へ襲い来る勢いだ。 「御免ッ!」 一刀両断。掛け声と共にタコヤキリュウが真っ二つに切り分けられる。刹那、二人はイカ侍とすれ違う。オロチの懐へ飛び込む。 着地。一足早くレイラインがオロチの上に降り立った。 「貴様の動きは止められんが……」 抜刀。渾身の一太刀は、風圧で火の海に道を作る。赤々とした刀身は冷気を纏い、凍っていた。 「この湖ならばどうじゃ!!」 納刀。次々と現れる氷の太刀筋。オロチを中心に湖の表面が凍りつき、オロチを氷のオブジェへと変えていく。だが敵は止まらない。オロチの表面を覆う氷が崩れていく。 「いかんっ! 敵の熱量の方が上じゃったか……。だがっ!」 「これでとどめぇー!」 一撃。ティセの冷気を帯びた拳がオロチの急所を捉えた。生命活動が止まったためか、急激にヤマタコノオロチは凍りついて行く。 今度こそ『決着』だ。 ●後日 「改めて、今回もお疲れ様ね」 後日。一同はたこ焼きパーティーに招待されていた。イヴは人数分の皿と爪楊枝を用意し、手渡す。 「ありがとうございます! ありがとうございます!」 「日頃、真面目に働いてくれている貴女達への、当然の配慮よ……」 風邪を引いて金魂もたこ焼きも何もかも諦めていたアンナ。彼女はこのイヴの計らいによって、無事パーティーに参加する事ができた。たこ焼きを頬張る彼女の目には涙が伝う。 「よかったのうよかったのう。これも黄金たこやきのご加護じゃな」 「えぇ、そうでございますわね!」 レイラインはふーふーとたこ焼きを冷ましながら、アンナの格好を眺めていた。古風なメイド服に鉢巻き。白いエプロンに鉄串。新ジャンル『メイドたこ焼き屋台』の誕生である。オロチの不意打ちを受けた彼女であったが、金魂が盾になり軽傷で済んでいた。もっとも金魂の面積的に完全に防ぎきれたとは思えない。今こうしていられるのは、彼女のタフさあっての事だろう。 「たこ焼き作り、難儀でございますわね!」 「そ、そうじゃな」 アンナがたこ焼き作りに精を出す中、こちらにも食べる以外の事に精を出す者がいた。キンバレイは時々たこ焼きを頬張ると、ひょいひょいとタッパーにたこ焼きを入れていく。グレイは其れに気づき、声をかけることにした。 「なにやってるんだ?」 「おとーさんにもたこ焼き食べさせてあげようと思って」 「ふぅん。親父が好きなんだな」 「はい♪」 笑顔を見せるキンバレイ。しかし突如としてその笑顔に白い液体がぶちまけられる。 ぺろっ、これはマヨネーズだっ。 「ひゃあ?!」 『ワハハこのたこ焼きは頂いたゾ!』 「わーんこんちゃんがミーノのたこ焼きとったぁ~!」 「てめぇら暴れんな!」 どうやら金魂が逃げる際にマヨネーズの容器を踏みつけたらしい。キンバレイは己のフェイトによって運命付けられた、どえろ担当という役目を図らずも全うするのである。 『きゅんっ』 逃走する金魂は突如として肉の壁にぶち当たる。見上げるとそこには理央の顔。金魂は彼女の胸に抱きとめられていた。 「こ、金魂さん……」 『な、なに……?』 「あぁ、理央は高級いなり寿司なんぞ使ってまでもふもふしたがっとったホンモノじゃからなぁ。目の前でリコルに奪われ散々もふもふを見せびらかされて放置プレイされたら……」 慌ただしい一同を背に、ティセはせっせと屋台セットの中でたこ焼きを作っていた。 「……できたっ」 出来上がったたこ焼きを皿に盛ると、イヴの元へ。 「おまたせ。ご希望の特製たこ焼きですよ」 「ありがとう」 イヴはそっけなくもたこ焼きを受け取り、頬張る。すると口元だけ僅かにほころび、笑っているように見えた。イヴは口元をハンカチで拭うと語り始める。 「タコは八本の足で多くの福を掴み取る『多幸』の縁起物とされているの。まぁ説はイロイロあって、蛸(たこ)と多幸(たこう)が似てるからだとかあるそうだけど。ちょうど貴方達も八名、八人分の幸福を持って帰れば、貴方達も無事に帰ってくるだろう、とね」 「い、イヴさん……」 『なんだお主ら、蛸の話か?』 イヴが2つ目のたこ焼きをはふはふ言わせていると、金魂が理央に抱かれてやってきた。頬ずりされたりで離してもらえなさそうだが、金魂はそのまま話し始める。 『そういえば討伐に行く前に、こやつらから稲荷寿司を馳走になったゾ。その時にリコルが中にタコを入れておってな、あやつも中々良い物を選ぶナ』 「そうだったの? それでボクのじゃなくてリコル君のを……」 「仮にも守護獣として崇められる神。縁起物を奉納した彼女を無碍にはできなかった、と……」 『何を言っておる。これからタコ退治に行くときに『タコを食らう』など、洒落が効いておって良いではないか』 「えっ?」 一同が困惑の色を浮かべる中、金魂はそれを見てただ首を傾げるのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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