●将来のお嫁さん 「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん――あの女は絶対ダメだって言ったのにどうして? いつも私がお風呂から食事に寝る時まで一緒してあげてるのにどこが不満なの? それなのに、あの女と手を繋ぐなんて絶対に許せない。この世で一番お兄ちゃんのことを想っているのは私だということをぜんぜんわかっていない。ねえ、お兄ちゃん聞いてる?」 妹の詩織が俺にむかって迫ってきた。すでにハイライトが消えている。手首と首元には昨晩むしゃくしゃしてやってしまったのだろう――太い切り傷が何本も走っている。 俺は弁解できなった。幼馴染の美月と一緒に帰るところを誰かに見られてしまったのだろう。それを風のうわさで詩織が聞いてしまったのだ。 「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん言ったよね昔大人になったら結婚してくれるって私それをずっと楽しみに待ってるの約束破ったらわかるよねお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんねえ聞いてる?」 妹の手にはいつの間にか出刃包丁が握られていた。それを持って俺の方にだんだんと迫ってくる。身の危険を感じた。このままでは本当に妹に殺されてしまう。 「それは一体いつの話なんだ。兄と妹じゃそもそも結婚できないし、第一俺と美月はそんな関係じゃ――」 「ひどい――やっぱりあの女の方がいいんだねわかったあの女は絶対殺す殺す殺す殺すお兄ちゃんダメだよ騙されちゃあの女はお兄ちゃんにはふさわしくないふさわしいのはこの世には私しかいないんだよねえだって私の方がお兄ちゃんと生まれた時からの付き合いで長いし私はお兄ちゃんの全てを知ってるしどこにホクロがあるのかも知ってるこれからも他の女に渡すつもりはない一生お兄ちゃんは私のものって決めたの」 「もうやめてくれ。実の兄妹でもいつかは別れる時が」 「お兄ちゃんはなにもわかっていない。ほんとなんにもわかってない。激オコぷんぷん丸だよっ!! ねえ、お兄ちゃんいいこと教えてあげる」 「――なんだ?」 「お兄ちゃんのファーストキスは私だよ、ねえ知ってた?」 その言葉に俺は背筋が寒くなった。生まれてこの方彼女を作ったことはない。美月に告白されてやっと先週付き合い始めたばかりだ。まだ彼女とはキスもしていないのに。 「いつしたのか覚えてないの覚えてるわけないよね私がいつも無理やりしてるからでもお兄ちゃんのもっと恥ずかしい所もちゃんと知ってるよ朝なんてもっとすごいしおにいちゃんのあれもすごい大好きだよねえお兄ちゃんは誰に渡さない絶対に誰にも渡さないお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん好き好き好き好き好き好き好き好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き超愛してる」 ●素晴らしいお兄ちゃん 「――今回はなんというか、その、アレだ。とりあえず現場に向かってくれ」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)がいつになく戸惑った表情で言った。すでに情報を伝えて聞いたリベリスタ達も青ざめる。ブリーフィングルームの室内がいつになく寒かった。まだ夏も来てないのに一気に冬が訪れたような感覚さえしてくる。 学校帰りの公園で高校二年の初芝智也が中学二年のノーフェイスになってしまった妹の詩織に今にも出刃包丁で殺されそうになっているという話だった。 智也が幼馴染の同級生新城美月と付き合い始めたことが事件の発端だという。その衝撃の事実に元から極度のヤンデレブラコン気味だった詩織の堪忍袋が爆発してしまった。 すでに現場には美月が先に襲われて人質に取られている。このままでは智也も美月もノーフェイスになってしまった詩織に殺されるのも時間の問題だった。 「詩織は兄に近づく全ての女を排除しようとする。公園で遊んでいた小学生の女の子たちもすでに詩織によって刺し殺された。そのE・アンデッドになってしまった子たちも一緒になって攻撃してくる。厄介なことにお兄ちゃんと叫びながら纏わりついてくる……」 幼い少女たちの視線をまともに見てしまうと、魅了されて激しく抱きしめたくなる衝動に駆られてしまうという。その隙に詩織が邪魔者を出刃包丁で刺し殺す。 「詩織は兄にとても入れ込んでいるようだ。美月を嬲り殺した後に、心変わりした兄を殺して永遠に自分の物にしようと企んでいる。もしこれ以上戦闘させたくない場合は説得するしかないがそれは難しい。だが彼女は今とても智也に失望している。もし代わりに誰かが彼女のダメでへたれな理想の『お兄ちゃん』像を見事に演じれば詩織も目が覚めるかもしれない。――だれか新しい詩織のお兄ちゃんになるやつはいないか?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月09日(日)22:38 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●お兄ちゃん大好き 公園にはすでにE・アンデッドの女子小学生が楽しそうに遊具ではしゃいでいた。みんな片手に彫刻刀やカッターをもっている他は可愛らしい少女である。そんな哀れな少女たちにも大好きなお兄ちゃんがいたのかもしれなかった。 「お兄ちゃんペロペロ、ペロペロペロペロ」 いきなり現れた『狂気的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)に、仲間の誰もが一瞬、ノーフェイスが来たと勘違いした。みなの困惑をよそに、虎美は今日も脳内でお兄ちゃんと会話を続けている。 「はぁ……何この仕事。何が『お兄ちゃん好き好き(はぁと)』よ。周りはいい迷惑だわ。とはいえ、本来は兄妹間で話し合って終わるはずだったのにね。そこはちょっと可哀想かしらね……」 『尽きせぬ祈り』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)は虎美に聞こえないようにため息をついた。自分も姉がいるから少し同情した。 「魅了? はは、小学生の身長で僕と視線が合うとでも? 下を向かなければそれまでです。そもそも僕『お兄ちゃん』と呼ばれるの嫌いなんですよ。弟なんで」 『一般的な少年』テュルク・プロメース(BNE004356)は年齢に似合わず落ち着いていた。自分にも姉がいて、その姉は虎美のお兄ちゃんと仲良くしている。姉と虎美の仲はかといって悪くはない。本当は心の中でどう思っているのか、弟して気になっていたが、それをあえて口にするほどもう子供でもない。 「兄を愛してしまった妹が迎えた結末、か。妹がノーフェイスになって居なければ……いや、それはもう意味のない仮定だな。……まったく、救えないぜ」 『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)がみんなの気持ちを代弁した。同じ可愛い妹がいる身として人事ではなかった。 「お兄ちゃん大好き、ね。元は微笑ましい感情だったんでしょうけど……。それで済ませるには結果を出し過ぎたわね。残念だけど、その恋引き裂かせて貰う」 『屍喰鳥』花喰・珠々璃(BNE004547)は容赦なく言った。相手がノーフェイスである以上、同情や感傷は一切要らない。 「ふんふん、コレってアレだよね。お気に入りのおもちゃを独り占めしたい。誰かに取られる位なら、壊しちゃえ! って。幼稚園の子供ならまだしも、中学生のおねーさんがってのは、どうなのかな? 壊しちゃったら、もう遊べなくなるのにね」 『へっぽこぷー』メイ・リィ・ルゥ(BNE003539)も苦言を呈す。 「大好きな大好きなお兄ちゃんを慕う気持ちはすばらしいと思うけれど。あなたがやっているのは押し付け行為だと思うの。恋は盲目って言葉は、こういう時にも使うのかな?」 『◆』×『★』ヘーベル・バックハウス(BNE004424)も頷いた。まだ少女の年齢なのにメイもへーベルも随分大人な考えを持っていた。 「わたくし、ヤンデレというものはあまり詳しくないのですが、そこに少女がいるというのなら、受けて立ちましょう! ……あ、でも少女属性はあっても妹属性はございませんでした」 残念そうに『目つきが悪い』ウリエル・ベルトラム(BNE001655)が言う。だが、顔はいつもよりニヤついていた。なぜならこの依頼はへーベル、メイ、シュスカ、珠々璃と、ウリエル好みのストライクゾーンの美少女たちがいたからである。これだけでも十分来て良かったとウリエルは心の中でガッツポーズをした。 ●見せ掛けの愛 「私のお兄ちゃんは誰にも渡さない。近づくものは全員殺す」 公園内では出刃包丁をもった詩織が今にも兄の智也を刺し殺そうとしていた。急いで珠々璃はファミリアでペットの猫を入り口に向かわせる。周りには下校する女子小学生たちがいた。彼女たちを公園に入らせないよう警戒する。つづいてエルヴィンが強結界を張り巡らした。 「さあ、すごいことしましょ! マイシスター&マイブラザー!」 へーベルがヒーローたちに翼の加護付与して、戦いが始まった。まず近づいてくる小学生たちに向かってピンポイントで狙い撃ちにする。 「刃物で遊んじゃ危ないよ」 彫刻刀やカッターに照準を合わせて吹き飛ばす。武器がなくなった小学生の女の子はそれでも一斉にリベリスタたちに飛び掛ってきた。 「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん」 ウリエルは周りを女の子に囲まれた。目を合わせないように必死に上をむく。それでも彼女たちはウリエルに密着して離れない。 「あああ、ききき気持ちよくなんかありません!! 決して!! これでも私は紳士ですからっ!!」 少女たちにもみくちゃにされてウリエルは叫んだ。はやく助けてほしい、いやまだ助けないでほしい。ウリエルは自分がもうどうしたらいいのかわからない。 「アンデッドの目は見ない。魅了だろうがハグだろうがお断りよ。子供って、嫌いなのよ。我儘でうるさいし。それが集団でわらわら、なんてうんざりだわ!」 魔陣を展開していたシュスカが葬操曲・黒で少女たちを襲う。巻き込まれた小学生の女の子たちは悲鳴をあげた。その隙にエルヴィンが詩織の所に向かう。 「あー……君は初芝詩織ちゃん、だよね? ちょっと話を聞いてもらいたいんだけど……」 マイナスイオンを纏って、おそるおそる近づいた。厳しい表情を向ける詩織を刺激しないように慎重に言葉を選ぶ。 「あんた誰? 今お兄ちゃんといいところなの」 「うん、まずはその包丁下ろしてもらえるかな。君ってそこの智也君と兄妹の関係なんだよね? わかってると思うけど、兄妹って恋人同士になったり結婚したりって出来ないんだよ?」 「はあ?」 詩織は出刃包丁をエルヴインに向けた。あまりの迫力に押されてエルヴィンがしどろもどろになって受け答えする。 「ああうんごめん、わかったできます、問題ありません。でもさ、ちょっとくらいの浮気なら許してくれてもいいんじゃないかな、とか……」 「殺す」 虎美と詩織が一緒になってエルヴィンに刃物を突きつける。味方のはずの虎美がいつの間にか向こう側に立っていた。突然の寝返りにエルヴィンも動揺する。 「はいすいません、浮気は悪い事ですよね」 言いわけをするかのようにエルヴィンは早口でしゃべった。もうこれ以上は間が持たない。それより早くこの板ばさみ状態をなんとかしてほしかった。このまま死んでしまったらそれこそ、本当の意味でへたれなお兄ちゃんだ。笑い事ではない。 エルヴィンが詩織の相手をしている隙に、テュルクとウリエルがジャングルジムに回りこむことに成功した。すぐに人質の美月と智也の縄をほどきにかかる。 「ぐっ!!」 後ろから小学生にテュルクは刺された。包囲網を突破できたが、まだ小学生たちが追いかけてきていた。ウリエルも背後からメッタ刺しにされる。 「あなた達はお姉ちゃんと遊びましょう。こっちにおいで」 珠々璃は黙祷をささげた。熱感知で敵の場所を探ると同時に、残影剣で飛び掛っていく。二人を襲った小学生たちに容赦なく刃をむけた。 「お兄ちゃん! お兄ちゃん助けて!」 小学生の女の子たちは、悲痛な叫び声とともに倒されていった。その隙に、メイとへーベルが負傷した二人の元に駆けつけて回復を施す。 「ウリエルさんは、智也のほうを」 「了解しました。さあ、もう大丈夫です!!」 ようやく立ち上がったテュルクとウリエルは人質を救出して、後ろの安全なところへと非難させる。その間、よってくる敵にはへーベルがピンポイントで撃ち続けた。 撃っても撃っても女の子たちは、へーベルに抱きついてくる。それでも容赦はしなかった。抱きしめて、抵抗されても我慢する。なによりこの子達の為に。全ての子達から呪縛を祓う為に。 「すぐ楽にしてあげるからね。ちょっとだけ痛いの我慢してね」 へーベルの奮闘でようやくE・アンデッドを駆逐することができた。 ●俺のお嫁さん 「もうあなたのお兄ちゃんはいない。これからどうする? 力づくで奪いとる?」 虎美が詩織に向かって問いかけた。これ以上被害を出すようなら虎美は容赦するつもりはない。この世界を滅ぼすノーフェイス。お兄ちゃんとの邪魔をする奴は殺すしかない。論理はまるで詩織と同じだった。それだけに詩織の気持ちは誰よりもわかる。だからこそ負けるわけにはいかなかった。大好きなお兄ちゃんと一緒にいるためにも詩織には絶対に負けるわけには行かない。 「……なにお兄ちゃん? 虎美が怖い? 怖くないよー。虎美は何時だってお兄ちゃんの味方だよ。お兄ちゃんペロペロ。早く終わらせて一緒に帰ろうね、お兄ちゃん」 脳内でお兄ちゃんの承諾を得た虎美はすぐに攻撃態勢に移った。リボルバーを構えて詩織に向かって弾丸をぶっ放す。 「ぐふっ、お兄ちゃん……!」 虎美の激しい攻撃に詩織は思わず倒れそうになった。それでも自らを奮い立たせる。相手が同じ妹である以上先に倒れるわけにはいかない。 「そんなタマきかない! お兄ちゃんのタマには比べものにならないわ」 詩織が出刃包丁を交差させて風刃を巻き起こす。その場にいたリベリスタたちはすぐに回避した。だが、虎美だけは逃げない。鋭い攻撃に全身を引き裂かれる。 お互いに防御せずに詩織と虎美は攻撃を撃ち続けた。どちらが先に倒れてもおかしくない状況で横からシュスカが話しかける。 「自分の気持ばかり押し付けるから、お兄ちゃんに逃げられるんじゃないの? 自分のことばっかりじゃない、アナタ」 シュスカがマジックミサイルを横から放った。詩織は正面の虎美に気を取られていたために反応が遅れた。続いてテュルクも猛烈な蹴りをみぞおちに叩き込んだ。まともに攻撃をあびてついに詩織は崩れ落ちた。 「お兄ちゃん、私死にたくないよ……」 詩織がとうとう我慢できずに涙を漏らす。口から血を吐いて突っ伏した。薄れる意識の中で脳裏にお兄ちゃんの笑顔が広がる。また一緒に遊びたかった。仲良くいつまでも暮らしたかった。できるならお兄ちゃんのお嫁さんになりたかった。自分の願いはただそれだけのことなのに。 「初芝智也、あなたこのままでいいの? 彼女を助ける事はできない。近付こうとするなら妨げる。でも、声を掛ける事までは干渉しないわ」 珠々璃が助け出した智也に言った。さっきから智也は妹の豹変振りに恐れをなして目を合わせようともしなかった。それでも二人は元々仲のいい兄妹だったはずだ。 「倫理とか常識は今は関係ない。十数年間、一緒に過ごした家族との今際の別れよ。最期に伝えたいことはないの」 我に帰った智也はようやく立ち上がると、詩織の元へ急ぐ。 「俺、お前のお兄ちゃんでよかった。だから死なないでくれ! 美月とも別れるからお願いだからもう一度昔みたいにおままごとしよう。詩織、俺のお嫁さんの役をやってくれないか」 すでに詩織は意識を失おうとしていた。朦朧とした中で最期に最愛のお兄ちゃんを見つけた妹は兄に向かって精一杯の笑顔を作る。 「ありがとう、お兄ちゃん。私幸せだったよ……」 「詩織、詩織っ!」 「ごめんね、お兄ちゃん。美月さん、と、しあわせに……なって、ね……」 詩織は兄に手を握られながら静かに目を閉じた。智也はその瞬間、絶叫していた。いつまでも妹を抱きしめながら嗚咽を漏らし続けていた。 ●お兄ちゃんの幸せ すでに陽は落ちて辺りは薄暗くなっていた。夜風が冷たくなってきた。いつまでもずっとこの場に佇んでいるわけにはいかない。そろそろ撤収する頃合だった。 「……でも少し切ないわね。叶わないって」 シュスカが残念そうにつぶやく。できることならば助けてやりたかった。それが叶わなくて智也に少し申し訳ない気持ちが起こる。 「愛は万能で、不器用で、歪なもの。暖かさを通りこし、花に刺がはえる。けれどやっぱり姿変われど愛なのだ。もしかすれば味方にも起こり得る事。せめてやすらかな眠りがきますように」 へーベルは祈った。これから死んだ妹の分まで智也には頑張ってもらいたかった。つらいことや悲しいことがこの先に待ち受けていても乗り越えてほしい。そのときこそ今度はへたれでダメなお兄ちゃんを卒業できるだろう。 「きっと詩織ちゃんも、頼りがいある優しいお兄ちゃんのほうが好きだよ。がんばって、マイブラザー」 智也はへーベルの優しい言葉にようやく立ち上がることができた。リベリスタたちにお礼を言って美月とともに公園を後にする。 「もしかしたら、俺達兄妹もこうなってた可能性があったのかな。意外とそれも悪くないって思っちまった。俺も大概のシスコンだな」 エルヴィンは二人の背中を見ながら言った。家に帰ったらいつもよりも優しく接しよう。こんな危険な仕事をしている以上、自分たちもいつ引き裂かれるかわからない。生意気で憎たらしく思うときもあるが、やっぱり大切な妹だった。もちろん、ビシッとして頼りがいのある兄の面目を保つためにも。 「さっさと帰ってイチャイチャしようねお兄ちゃん。でもま、哀れな子の冥福を祈るぐらいはしてもいいかな」 虎美の発言は相変わらずだった。ただ心の奥のどこかが疼いた。もちろんお兄ちゃんへの愛は誰にも負けるつもりはない。それでもお兄ちゃんの幸せを祈るのが妹の役目なのではないかと思った。もし、将来お兄ちゃんが結婚するような時がくれば、自分はどうすればいいだろう。 考えたくないが、その日が来るかもしれなかった。それまでに少しでもいい女になっておきたい。お兄ちゃんが他の誰にも目移りしないような素敵な女性に――。そのときこそお兄ちゃんにプロポーズすることを心に誓った。 テュルクも元気を取り戻した虎美の様子を見て安心した。他人の恋路にはまったく興味はないが、それでもあの三人にはこれからも仲良くしていってもらいたい。それが弟としてできる最大の気遣いだと思うから。 「虎美は優しいって? ありがと、お兄ちゃん。愛してるよお兄ちゃん。お兄ちゃん大好きお兄ちゃん大好き、お兄ちゃん好き好き大好き超愛してる」 虎美はピースサインをして元気いっぱいに笑った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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