●廃れた村に祀られるもの 山奥の廃村。寂れた社を中心にした、小さな村である。時代の流れに飲み込まれ、数十年前に破棄された。当時は、村に疫病が流行った、だの、何かの呪いを受けた、だのと噂されたこともあるが、その真相は謎のままである。 時代は流れ、すっかり村の存在も忘れられていた今日この頃。 異変は唐突に、その村を襲った。 異変を真っ先に発見したのは、数名のテレビリポーターだった。ホラー番組の取材で、この村のことを知って訪れたのである。村に来てすぐ、その異変は起こった。 まず、持ってきていたカメラが映らなくなったのだ。闇の中に居るかのように、画面が真っ黒に染まった。機材の不調に慌てる一同。 その直後、だ。 カメラに続いて、彼らの視界も真っ暗に染まった。明かり一つない真っ暗闇。周囲が暗くなったのか、或いは、彼らの眼だけが見えなくなったのか。 突然の怪奇現象。右も左も分からず、蜘蛛の子を散らすように逃げまどう一同。そのうち、彼らの視界は元に戻った。突然、霧が晴れるように闇は掻き消え、元の村の景色が戻って来た。 しかし、そのまま調査を続ける気にもなれずに、彼らは村を逃げ出した。一同は、闇の中ではぐれてしまっていたが、考える事は皆同じなのだろう。乗って来たワゴン車の前で合流した。 けれどそこに。 いつまで待っても、カメラマンの女性だけが戻ってこない。 村に戻る気にもなれず、ワゴン車の前で待つ一同。そんな彼らをあざ笑うかのように、楽しげな猫の鳴き声が聞こえてきたという。 ●ねむりねこ 「この村の社の祀られていたのは、ねむりねこの彫刻だったみたい。知っている? ねむりねこ?」 そう訊ねるのは『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001である。モニターに映るのは、ボロボロの社。その中に置かれた、大きな彫刻が1つ。穏やかな寝顔の猫である。しかし、どういうわけかその眼があるはずの場所には、何もない。のっぺりとした、僅かな窪みがあるだけだ。 ねむりねこ。ずっと眠っているから、起きる必要がないのか。 或いは、未完成のまま納められたのか。 眠り猫、という名前の彫刻はこの村以外にも存在するが、他のそれとは聊か趣が違う。此処にあるのは、どことなく、不気味な印象のねむりねこだ。 「E・フォース(ねむりねこ)は視界を奪う。フェーズは2、ね。視界を奪われている間は、暗視、千里眼などのスキルを使用して物を見ることも出来ない。眼の前が真っ暗になって、何も見えない状態になるみたい。幸いというか、時間にして1~2ターンほどしか持続はしないみたいだけど」 それでも、戦闘中に視界が奪われる、ということは大層なディスアドバンテージとなるだろう。なにしろ、人というのは視界に頼って行動する生き物だ。その眼が突然奪われる。場合によっては、まともに動くこともままならないかもしれない。 眼のないねむりねこらしい、非常に嫌らしい能力だ。 「眠り猫自体は遠距離攻撃など持っていないけど、ただ2~6体に分身することができる。素早い動きと正確な爪での攻撃が得意。分身体をいくら倒しても、ねむりねこは討伐できないから、ちゃんと本体を殲滅してきてね」 イヴはそう言ってモニターを切りかえる。その直後、モニターの画面が真っ暗に染まった。ねむりねこによって、視界を奪われたのだ。 にゃあお、と猫の鳴き声がする。あざわらうかのような、不気味な鳴き声。 ねむりねこの体長は、1メートル半ほどだろうか。猫というより、ライオンか何かのようである。 視界を奪い人を襲う。そんな危険なE・フォースだ。現在、村にはカメラマンが1人、取り残されている。ねむりねこを討伐し、カメラマンの安否を確認してくること。生存していた場合は、救出してくること。それが今回の、成功条件だ。 信仰を失ったねむりねこ。人を恨んでいるのか、それとも別の想いから発生したのか、それは分からないが、このまま放っておくわけにはいかないのである。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月10日(月)21:02 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ねむりねこのいる村 廃村。この国にもいくらか存在する、人の住まなくなった村である。 住まなくなった。或いは、住めなくなったのか。 ここもそんな廃村の1つ。村にある社には「ねむりねこ」の像が祀られていて、今回はそのねむりねこがE・フォースとして出現してしまった。おまけにタイミング悪く取材に来ていたTV局のクルーが1人、村ではぐれたきり出てこないようだ。 E・フォースの殲滅、及びクル―の女性を救助するため、アーク所属のリベリスタ達はこの村へやって来たのであった。 「普通の猫やったら、もふもふ出来る癒し系の仕事やったんやけれどねぇ……」 溜め息を零す『かたなしうさぎ』柊暮・日鍼(BNE004000)は、残念そうにそう呟いた。 ●常闇の中で 崩れた家屋、伸び放題の雑草。掻き分け進むリベリスタ達。 「先ずはカメラマンの捜索ですか……。足跡は、多くてよくわかりませんね」 そうやらTV局のクルー達は結構な人数で、この廃村を歩き回ったようだ。足跡を頼りにカメラマンの女性を探そうとした『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)だったが、その目論見は上手くいかない。 「こういう廃村にネタになるからと撮影に来るテレビクルーって何を考えているんでしょうね」 やれやれ、と溜め息を吐く雪白 桐(BNE000185)。各種BS対策に、イーグルアイと集音装置など、不意打ち、戦闘、捜索などこなせる彼女は隊の先頭を進む。 「ひゅー……どろどろ」 「ぎゃー冷たい!? って、姉か! こんな所で驚かせてどうするっ!」 「うししー、練習さ、練習!」 桐に続く赤毛の姉妹。先ほどから楽しそうに戯れている彼女達は『永久なる咎人』カイン・トバルト・アーノルド(BNE000230)と、その妹『刹那たる護人』ラシャ・セシリア・アーノルド(BNE000576)である。 「巧な彫り物には魂が宿ると聞きますが、実際に動くとなると、やはり不思議な気分にはなりますかな」 ふむ、と頷く『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)。仮面に覆われ表情は窺えない。一体何を考えどこを見ているのか。その隣では、ぼんやりとした顔の『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)が獲物を探すように視線を巡らていた。 「ねむりねこならばそのまま寝続け起きなければよかったデスノニ。動いたからには、害意があるからには仕方ないデス。刻んでバラしておしまい、とするデスヨ」 ねむりねこが出現し、カメラマンの女性を何処へやったのかは分からないが、少なくとも一般人が危険に晒されている以上、あまり悠長に事を構えている暇はない。 村を歩きながら女性とねむりねこを捜索する一同。 捜索開始から暫く経った頃、今まで黙っていた『蒼碧』汐崎・沙希(BNE001579)が足を止めた。酷薄な笑みを口元に張りつけ、ハイテレパスで、皆の脳裏に直接語りかける。 『ねむりねこ……。猫だけに、気紛れなのかしら?』 果たして、いつからそこにいたのだろうか。 否、そこらに、と言うべきか。 いつの間にか、4体のねむりねこがリベリスタ達を囲むように廃屋の屋根に座っていたのだ。 ねむりねこの存在に気付く。本体が物であるため、熱感知には引っかからなかったのだろう。集音装置も、何かしらの物音に紛れて回避したのかもしれない。 存在に気付いたその直後、異変は突然訪れた。 目が見えなくなったのだ。マスクでも付けたように、目の前が真っ暗になった。 『暗闇は気分が落ち着くから好きなんだけど……気が抜けないわね』 突然の異変にも動じない沙希の声が脳裏に響く。 「わいが、日常生活を送る際、感じる必要がある必要な機微は全て匂いや音頼りや。だから暗闇は怖くないよ」 暗闇の中、気糸を周囲に展開させ罠を張る日鍼。強化された五感によって、目に頼らずとも音や匂い、気配などで戦闘に参加できる。 最も、かといって有利に戦える、というわけではないのだが。 「近づいてきます!」 そう叫んだのは桐だった。奇妙な形状をした愛刀「まんぼう君」を構え、ねむりねこの襲撃に備える。ねむりねこの足音は、非常に小さなものだった。大きさは1メートルを超えてほとんど虎かなにかのようなサイズではあるが、その本質はやはり猫なのだろう。足音を殺して移動、襲撃するらしい。 サイレントキリング、という奴か。 「熱のない音を出してるやつが居たら、それが敵だ」 ナイフと盾を構え、戦闘体勢に入るカイン。真っ暗闇の中で同士打ちを避けるべく、こちらから攻撃に出ることは出来ないでいた。 「防御に集中した方がよさそうだな」 剣を仕舞い、盾を構えるラシャ。そんな彼女の肩に突如激痛が走る。暗闇の中ではなにをされたか分からないが、恐らく爪で切りつけられたのだ。目のないねむりねこは、音や気配を頼りに戦う。ラシャの動きを察し、攻撃してきたのだろう。 「くっ……。これは、毒か?」 呻くラシャ。彼女に続き、そこかしこで短い悲鳴が上がる。ねむりねこ側も様子見なのか、それとも嬲って遊んでいるのか、あまり積極的に攻撃してくるわけではないようだ。 ヒット&アウェイ。僅かに斬りつけ、背後に下がる。それの繰り返しだ。 「最終的にどうするのか……まぁ食べるのか遊ぶのかは知りませんが、人を襲うとあっては倒すしかないですかのぅ?」 銃を手に、そう呟いたのは九十九であった。ねむりねこに斬られた肩や腕からは鮮血が滴っている。 一体、どれくらいの間防御に徹しただろうか。 暗闇に覆われた時と同様、突然に彼らの視界は復活した。真っ暗な部屋に電気を付けるように、一瞬で視界が復活する。常闇の効果が切れた途端、ねむりねこ達は一斉にリベリスタから距離をとるべく飛び退る。 「捕まえた!」 と、叫んだのは日鍼である。逃げ出したねむりねこのうち1体を、彼の展開していた気糸の罠が捉えたのである。 「彷徨い出たねこのようなモノ。動かなければ、ただそれだけで済んだデスノニ。アハ」 動きを封じられたねむりねこに、跳びかかる小さな影が1つ。幼い外見には不似合いな、巨大な肉切り包丁が旋回する。眠たげな目で、にたりと笑う行方であった。 行方は、ねむりねこの攻撃を一切受けていない。それもその筈、常闇を受けたと同時に、気配を消してねむりねこから隠れていたのだ。 旋回する肉切り包丁。遠心力に任せ、行方は、自身も踊るように体を回転させる。 勢いに任せ振り下ろされる斬撃が、ねむりねこを襲う。込められたオーラが、爆発するように解き放たれ、ねむりねこの体を一刀両断。真っ二つに斬り捨て、消し飛ばした。 「アハ」 「おっと、私の銃からは逃れられませんぞ」 鳴り響く銃声。放たれた弾丸。九十九の放った銃弾は、逃げようとしていたねむりねこの1体の首を、正確に撃ち抜いた。 バランスを崩し、倒れ込むねむりねこ。そこへ駆け込んだラシャが、下段から上へ、薙ぎ払うように剣を振り抜いた。デッドオアアライブ。身体ごとぶつかるように、ラシャの剣はねむりねこを斬り捨てる。 斬られると同時に消えうせるその体。分身体だったようだ。 「逃がしましたか……。うん?」 仕留めそこなったねむりねこの行方を、イーグルアイで追っていた桐がふと首を傾げて見せた。撃破数は2体だが、本体が生存している限り分身体はいくらでも生み出される。何体倒しても、あまり意味はないのである。 一刻も早く本体と、或いはカメラマンの女性を見つけ出す事。それが今回のミッションだ。 「誰か、アレを」 桐が指さした方向には、公民館のようなものがある。村の奥の方だ。そこに倒れた人影らしきものを発見したのである。 「えぇっと……。あぁ、確かに」 そう言ったのはカインであった。確かにその人影からは、熱を感じる。最も、距離が遠い為、あまり正確な判断とは言い難いが。それでも、闇雲に探すよりは、と一同人影目指して進むことにした。 熱は感知した。生きていはいるようだ。 少なくとも、今はまだ……。 『猫の前で寝転ぶとか、ダジャレじゃ済まなさそうだから気を付けて』 沙希の声が脳裏に響く。淡い燐光が舞い散って、傷ついた仲間や、眼の前に横たわるカメラマンの女性を包み込む。傷が癒え、体力は回復したものの、女性はまだ目を覚まさない。 常闇の中、闇雲に村を駆けまわったのだろう。靴は脱げ、身体中切り傷だらけ。おまけに、腹部を大きく切り裂かれているのが致命的だ。 逃げるものを追うのは、肉食動物の習性であっただろうか……。 おそらく、ねむりねこに斬られた傷だ。本格的な手当を急がねば、命が危ないかもしれない。 「私が安全圏まで護衛します」 アラストールは、女性を背負うと立ち上がった。安全圏。恐らく、この村の外になるだろうか。少なくともそこまでは、女性を運び出さねば安心はできない。 アラストールに続き、カインとラシャも女性を運び出すグループへ。 「できれば戦闘は避けたいのですが、無理そうですな」 そう呟いたのは九十九であった。視線の先には、小さな社。公民館の傍にあったそれは、恐らくねむりねこが祀られていたものだろう。 いつの間にか……。 社の上や、公民館の周りには、数体のねむりねこが現れていた。 「適度に声をかけ合いながら行きましょう」 追ってくるねむりねこは2体。アラストールを先頭に、ラシャとカインが続く。滴り落ちる血の滴は、アラストールに背負われた女性のものだ。 瞬間、3人の視界が黒に染まる。墨で塗りつぶされたように一瞬で。 「ラシャ」 「うん」 盾を構え、防御の姿勢をとるカインとラシャ。ねむりねこの注意を引き付ける為、声を出す2人と、動きを止めるアラストール。 だが、しかしねむりねこはカインたちを無視し、アラストールへと飛びかかった。攻撃の気配を察し、女性を庇うアラストール。その背に、深く、黒い爪が突き刺さる。 どろ、と溢れる大量の血。口の端からも血が垂れる。 「なぜ?」 暗闇の中、女性を庇い攻撃を受け続けるアラストール。背を、首を、次々と爪が切り裂いていく。意識が遠のきかけた所で、ふと気付く。 目の見えないねむりねこが追っているもの。敵の気配や音、そして血の臭い。 「……そういう、こと」 抱きしめるように女性に覆いかぶさるアラストール。切り裂かれた腹から、血が零れた。意識を失い、倒れたその時、3人の視界が戻ってくる。 まるで明りが付くようだった。唐突に光を取り戻した視界。カインが見たのは、禍々しい長い爪を振りかぶった、ねむりねこの姿だった。血だまりの中で倒れたアラストールの姿と、爪の先に居るラシャの姿。 「私のラシャになにをするー!!」 ナイフ片手に飛び出すカイン。ラシャと爪の間に割って入る。振り抜かれた爪が、カインの胴を切り裂いた。飛び散る鮮血。と、同時にカインは笑う。パーフェクトガードによる反射ダメージがねむりねこに襲いかかった。 「まったく、おどろおどろしいな……」 膝を付きしゃがむカイン。その頭上を、剣を構えたラシャが飛び越えていく。長い赤髪を振り乱し、素早く、まっすぐねむりねこへと飛びかかる。 「さて、厄介な敵だな」 気合い一閃。大上段から振り下ろされた剣が、ねむりねこを切り裂いた。ねむりねこの姿は霞のように消えうせる。 「残り1体!」 そう叫んだのは、カインだった。 爪を振りあげ、ねむりねこが女性へと襲い掛かる。狙うのは弱っている者から。狩りの基本だ。振り下ろされた爪は、しかし女性に届かない。 「……生存しているのなら、護り抜きます」 飛び散る鮮血がねむりねこの顔を汚す。まっすぐに伸ばされたアラストールの腕に、ねこの爪が突き刺さっている。 戦闘不能からの復帰。血に濡れた顔や体に鞭打って、よろよろと起き上がる。 「なにがあっても、私が庇いますので」 意識を失った女性にそう声をかける。ねむりねこを蹴り飛ばし、女性を出して駆け出した。背後から伸ばされたねむりねこの爪が、アラストールを襲う。 「やらせない」 間に割り込んだラシャの剣が、ねこの爪を受け止めた。瞬間、周囲が闇に包まれた。当然、範囲内に居たアラストールの視界も黒に染まっているだろう。 だが、アラストールは足を止めずに逃げ続ける。 ねむりねこの前脚を、ラシャは素手で握りしめる。手の平が裂け、血が滴るが離しはしない。今、ねむりねこを逃がしてしまえば、アラストールと女性が襲われる。それが分かっているからこそ、彼女はこの手を離せない。 「ありがとうございます!」 ただ一言。アラストールの声が暗闇に響く。それで十分。身体を張る価値がある。 「姉よ」 「あぁ、カクレンボは終了だ♪」 ラシャの声を頼りに、カインが跳んだ。大上段から振り下ろされたカインのナイフが、鮮烈に輝く。ナイフはまっすぐ、ねむりねこの頭部を割った。 ねむりねこが霞へ変わる。それと同時、失われていた視界が戻って来た。 戻って来た視界に映る、遠くへ逃げるアラストールの後姿。 女性の救助は、完了だろう。 岩で出来た巨大な爪が叩きつけられる。暗闇の中、その爪を受けたのは沙希と桐の2人であった。岩が砕け、周囲に飛び散る。2人が倒れると同時に、視界が戻ってきた。 『……まったく、困るわ』 沙希の声。と、同時に舞い散る淡い光。傷を癒し、体力を回復させる。治療を受けながら、愛刀に手を伸ばす桐。戻ってきた視界に映るのは、合計4体のねむりねこ。 『果報は寝て待て……ね』 剣を手に、立ち上がろうとした桐を引き止める沙希。優しい、しかしどこか冷酷さを感じさせる彼女の頬笑みに、桐は頬を引きつらせた。 「さあさあねこさん、侵入者はこちらデスヨ!荒らして荒れて、潰しあい。切って刻んで大立ち回りといくデスヨ、アハハハハ!」 暗闇が解除されると同時。肉切り包丁を振り回し、手近なねむりねこから順に切り裂いていく行方。斬撃の深さ、斬る場所など考えず、ただただ狂気に身を任せる。 「アハ。本体の捜索とか、特に考えて無いデス」 遠心力に導かれ、旋回する刃。当たるを幸いにねむりねこを切りつける。行方の背後から襲いかかるねむりねこを、銃弾が撃ち抜き、或いは牽制する。 「本体か偽物か、まぁ倒してみれば分かりますか」 銃を手に九十九は言う。弾丸はまっすぐ、ねむりねこを撃ち抜いた。1体、眉間を撃ち抜かれ消滅する。 めちゃくちゃに振るわれる斬撃の嵐と、正確無比な射撃による援護。行方と九十九は、着実にねむりねこにダメージを与えていく。 このまま一掃できるのではないか、と思われた、その時だ。 再度、視界が黒に染まった。引き金を引く手を止める九十九。行方は瞬時に気配を消して、身を隠す。次の瞬間、九十九を襲う岩の爪。 「あ、っが!?」 地面に叩きつけられた九十九。身体の自由が奪われる。石化の影響を受けてしまったようだ。 暗闇の中、日鍼は思う。気糸の罠を張り巡らせて、五感を駆使してねむりねこの気配を探る。 『せめて足手まといにならんように善処していきたいと思うんよ……』 ねむりねこが糸に触れる。だが、これではない。 『闇が怖いいう感覚も随分薄れてもうた。けど厄介なものやっていうのは覚えとる。皆にとって脅威なのも』 その闇をもたらすねむりねこの思考を、狩りの定石を考える。人の視界を自由に奪えるのなら、闇の中なら、安全に狩りができると考えているのではないか? 先ほどまでの交戦を見ていても、そうだったように思う。 積極的に襲いかからず、常に安全な距離から攻撃していた個体が居なかっただろうか? 暗闇に覆われるその直前、皆から距離をとった個体が居なかっただろうか。 動き出すとすれば、いつだ? 安全が確保されたのを確信してからだ。 つまり 『こいつや』 石化した九十九に忍び寄る個体。闇の中で糸に触れたその個体を、日鍼は糸で絡め取った。 「闇の源、ここから早よ追い払わせてもらうで!」 気糸を引き絞る。足を、体を、爪を捉える気糸の罠。捕まった本体を救助すべく、残りのねむりねこが動き出した。 「そこですな」 銃声が響く。音を頼りに、九十九が放った弾丸が、ねむりねこを撃ち抜いた。瞬間、視界が戻ってくる。地面に倒れたねむりねこと、銃声を頼りにこちらへ飛びかかる分身体。 そのうち1体の首を、行方の包丁が斬り捨てた。 更に、残る2体の前に九十九が盾を突き出し防御。糸に囚われた本体は、なんとしてでも逃がさない。 九十九の衣服に血が滲んだ。 『特定完了……よ』 沙希はそっと、桐の背を押す。果報は寝て待て。なるほど確かに、本体は見つかった。 「お騒がせしました……。どうぞ静かにお眠りください」 駆け抜け、大剣を振りかぶる。全身のオーラが剣に集中。爆発するかのような勢いで、それは解き放たれた。 視界が歪むような強大な闘気。吹き荒れるオーラの嵐。身体全部を使って振り抜かれた剣は、まっすぐねむりねこを切り裂いた。 ねむりねこの首が飛ぶ。声にならない悲鳴を上げて、ねむりねこは姿を消した。同時に分身体もまた、霞と化して消えうせる。 ごとん、と足元に転がったのはねむりねこの彫刻だ。本来なら社に祀られているはずのものである。 「お騒がせしました……」 今一度そう呟いて、桐はそれを社へと運び手を合わせる。 この社も、村と同様、やがては朽ち果てていくだろう……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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