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<鉄十字猟犬>蘇りし鉄のムカデ

●猟犬の実験場
 オオォォォォォン―――。
 獣の遠吠えにも似た音が響き渡り、人が倒れる。
「ふむ……威力は申し分ないな」
 一人の軍人が、硝煙の立ち上る奇妙な形の銃を手に呟いた。先の音は、その銃声か。
「この重さなら我々でなくとも使えるだろう。が、サイトが付かないのは問題だな。頭を狙ったが、逸れたぞ」
「やはりそこが問題ですか」
 淡々と使用感を述べる軍人に、傍に控える別の男が答える。こちらも軍服をまとっている。
「改善の余地は?」
「……時間は少々頂きたい所です」
「聞いてみるが――少佐殿は既に戦闘行動の開始を告げられた。貰えるとは限らんぞ?」
「はっ! 帰投次第、早急に改善を進めます」
「よかろう。では、次を試すか」
 部下の返答に満足気に頷く軍人。
 その様子から、撃たれた男の仲間は自分達が敵の実験台にされている事を、充分すぎる程に理解していた。
「ざけんなよ……このままやられてたまるか!」
「っ! よせ!」
 中の一人、最も若い少年が制止を聞かずに剣を手に飛び出す。
「無策に突っ込むとは青いな、少年よ」
 やはり淡々と言って、飛び出した少年目掛け、軍人は銃を持っていない方の鋼鉄の腕から何かを放る。
 コツン、と何かが地面にぶつかり音を立てた次の瞬間。
 少年の目の前で、風が膨れ上がり渦を巻いて猛然と立ち昇る。瞬間に起きた竜巻は、少年も少年の仲間達も軽々と吹き飛ばしていた。
「こちらは上々だ。殺傷力には欠けるようが、雑兵を蹴散らすには充分だ」
「ありがとうございます。しかし、奴ら粘りますな」
「私とお前だけで来なくて良かっただろう? 七派とやらも少しは役に立つようだ」
 最も真近で竜巻を受けた少年と、先に狙撃された男は、倒れ伏し動かない。されど、他の者は立ち上がり武器を構えていた。
「――やれ」
 軍人が背後に視線を送り短く告げる。
 後ろに控えていた鉄の武具を纏った配下達が、進み出てきた。

●再生部隊
「討伐任務に出たリベリスタが襲撃されます」
 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が集まったリベリスタ達に告げる。
「襲撃者ってのはやっぱり――?」
「はい。『親衛隊』です」
 バロックナイツが1人、『鉄十字猟犬』リヒャルト・ユルゲン・アウフシュナイター。
 そしてその私兵である『親衛隊』がアークを標的として動き始めた事は既に聞いているだろう。
「襲撃を止める事は、間に合いません。手短に話しますので、終わり次第、現場に急行して下さい」
 和泉の声に、僅かに感じ取れる焦り。
「襲撃者は部隊長のカール・ベーレンドルフを筆頭に7名。バランスの取れた構成です。
 彼らは、かつて彼らの『祖国』で開発され実用を断念された兵器をアーティファクト化し再運用を研究するグループのようで、指揮官が開発された兵器を持っています」
 画面に映し出されたのは、1丁の銃。かなりの大口径だが、それ以上に特徴なのが、何本もの短い突起が飛び出した銃身。びっしりと並んでいるそれは一体なんであろうか。
「多薬室砲、と言う兵器をご存知ですか? ムカデ砲とかロンドン砲とか呼ばれた事もあります」
 弾丸は銃身内で火薬を燃焼させた圧力により撃ち出される。
 多薬室砲とは、銃身内で断続的に複数の燃焼を起こす事で弾丸を加速するという発想で作られた兵器だ。銃身にある短い突起が、複数の燃焼を起こす為の薬室となる。
 その性質上、銃身を長くせざるを得ず、かつての大戦時は大型の長距離射撃用の固定砲台として作られたが、爆撃で破壊されたと言う。
 これはそれをベースに新開発された拳銃型のアーティファクトと見られる。
「他にも、局地的に竜巻を起こす手榴弾を――かなりの数。正確な所持数は判りませんでしたが、今回の戦闘中に尽きる事は期待しない方が良いと思います」
 竜巻は数秒で消えるが、一帯を強く吹き飛ばす。これも、過去にアイディアだけあったとされる竜巻砲が原案になっていると思われる。
「細かいデータは今から送りますが、今回の襲撃はこれらのテストも兼ねていると思われます」
 和泉が機器を操作し、幻想纏にデータが送信される。
「敵は連携に優れた軍人です。さらに、七派から情報提供を受けていると推測されます。厳しい状況となりますが、一人でも多く、無事に連れて帰ってきて下さい。お願いします」
 全員にデータが送信されたのを確認し、和泉はリベリスタ達を見送った。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:諏月  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年06月12日(水)23:48
 諏月(すうげつ)です。
 5本目。親衛隊です。
 では早速、詳細。

●成功条件
 救助対象半数以上の生存、及び敵の撤退or撃破

●敵
 再生部隊と名乗る、過去に開発された、或いは発案だけで終わった兵器を
 現代にアーティファクトとして再生する事を専門にしている分隊の1つです。

・部隊長
 カール・ベーレンドルフ上級曹長。
 メタルフレームのスターサジタリー。機械化部位は左腕全体。
 魔弾の射手、No.13 、銃器戦闘マスタリー、マエストロ、暗視、イーグルアイ所持。
 
 壮年の軍人で、自身も技術者。親衛隊の中では比較的、好戦的ではない部類のようです。
 が、アーリア人種以外は、自分達の兵器の実験台程度にしか考えていませんし、
 親衛隊の所属であっても、上官と自分、副官以外なら、必要となれば容易く犠牲にします。
 今回は、下記の2つのアーティファクトの実戦テストも兼ねている為、
 ある程度配下がやられた時点で撤退を考えるでしょう。

『タウゼントフュスラーマグナム』
 拳銃型アーティファクト。訳すとムカデ銃。
 大口径かつ長銃身。拳銃、と呼べるギリギリのサイズ。
 銃身に螺旋状に多数配置された小薬室が、弾速と回転を強化する。
 所持者が使用する『あらゆる単体遠距離攻撃スキル』に[貫通]を付与する効果を持つ。
 但し、多くの薬室を並べた為サイト(照準器)をつけられない事と、回転が強すぎて弾がぶれる為に、
 補正として、命中に大きくマイナスがかかる他、
 所持者が使用するスキルの『部位狙いで命中力が低下しない』効果が発揮されない。
 あと自爆機能付きです。敵に技術を渡すくらいならば、ということです。

『ボルテクスボム』
 局地的に竜巻を発生させる手榴弾型アーティファクト。使い捨て。
 使うと、物遠域[ノックB]の効果。竜巻の発生は早いが数秒で消える。(命中高、威力小)

・副官
 マルセル・ディストラー伍長。
 メタルフレームのレイザータクト。機械化部位は両足。
 ライオンハート、シャイニングウィザード、戦闘指揮LV3、暗視、イーグルアイ所持。
 こちらも軍人にして技術者。戦闘時は補佐に回る事が多い。

・配下
 デュランダル(大鎌)、クロスイージス(ナイフと盾)、覇界闘士(ヘビーアームズ)、
 ナイトクリーク(ナイフ2刀)、ホーリーメイガス(杖)、の5名。
 種族はばらばら。それぞれのジョブのRank2までのスキルを使いこなします。

●救助対象
 とある工事現場に出現した重機のE・ゴーレム討伐直後を狙われました。
 デュランダル2人、クロスイージス1人、スターサジタリー2人、ソードミラージュ2人、インヤンマスター1人。
 計8名。レベルは20前後。
 カールに撃たれたクロスイージスと、竜巻に吹っ飛ばされた少年のデュランダルが戦闘不能。(生死不明)
 他の6名は、まだ一応無事って程度です。時間の問題。

●状況
 現場到着は夕方。徐々に暗くなるでしょう。
 その時点で、生存者6名と敵配下5名が戦闘中となります。
 部隊長カールと副官は最初は手を出さず後ろで様子を見ています。

 以上です。
 ではでは、よろしければご参加下さい。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
ソードミラージュ
須賀 義衛郎(BNE000465)
覇界闘士
祭雅・疾風(BNE001656)
デュランダル
虎 牙緑(BNE002333)
ホーリーメイガス
エルヴィン・ガーネット(BNE002792)
クロスイージス
ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)
マグメイガス
シェリー・D・モーガン(BNE003862)
クロスイージス
リコル・ツァーネ(BNE004260)


 親衛隊の配下は5人。残るリベリスタは6人。
「くそっ……なんとか連携を」
 数の上では優っていても、体力は疎か満足にスキルを使う余力もない上に囲まれ、リベリスタは満足に連携すら取れずにいた。
「問題なさそうですな」
 リベリスタが赤い月の呪力に撃ち抜かれるのを見ながら、伍長マルセルが興味もなさそうに言う。
 彼は、もう帰投後の作業の事を考え始めていた。
「マルセルよ。まだ後の事を考えるのは早いようだぞ。6時の方向を見てみろ」
 だが、部隊長カールは一人遠くを見つめていた。
「あれは……」
「どうやら、もう少し実験が出来そうだな?」
 間もなく此処に到着するであろう新たなリベリスタの姿を視界に捉えながら、カールはどこか楽しそうな笑みを浮かべた。

「悪い、待たせた!」
 声と同時に、癒しの息吹が戦場を吹き抜けて、力尽きる寸前だった6人の意識がハッキリとする。
「動けるな? すぐに立って、一旦、全力で後退してくれ!」
 『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792) が駆け寄り、6人を助け起こしていく。
「ありがとうございます。でも、まだ2人が!」
「吹っ飛ばされて少し離れちまったんだな。シェリー、倒れてる2人は向こうだ」
「うむ、妾にも見える。すぐに連れてくる。おぬしらは、離れて待っておれ」
 『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)が戦場を見回し、倒れている2人の位置を把握。
 先に倒れた仲間を気遣う少女に『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)が任せろと告げる。
「気持ちはわかるが、今は躊躇ってる場合じゃねぇんだ。2人は俺らがなんとかする」
 撤退を促すエルヴィン。彼の纏う空気が、壊滅寸前で張り詰めていた空気を和らげていく。
「その盾……そうか、貴方が。判った」
 まだ若い1人がエルヴィンの腕にある古い盾に気づいた。それは『教諭』と呼ばれたリベリスタから彼が受け継いだ品だ。
 1人が了承した事で、残る5人もほどなく頷いて、撤退に動く。
「愚かな。そう簡単に逃がすと――」
「行かせませぬ!」
 親衛隊の死神を思わせる鉄の刃を、鉄の扇が迎え打つ。
「皆様、どうか敵の射程の外へお下がりくださいませ!」
 『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260) がデュランダルの刃を阻み、全身の力を防御に特化させる。
「はい、そこまで」
 ナイフを構え直したナイトクリークには、反り返った刃が突き込まれた。
「ここから先はオレ達がお相手しますよ」
 長さの違う2刀を手にした『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465) がさせじと阻む。
「劣等が。行かせぬ!」
「仲間をを実験台にされてたまるか! 行くぞ時代遅れの猟犬共! 変身!」
 幻想纏いから出した装備を瞬時に纏って『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)が動きかけた親衛隊の覇界闘士の前に立ちはだかり、紫電を這わせたコンバットナイフ[龍牙]を振るう。
「何とか、決する前に到着が間に合ったのです。これ以上、好きにはさせません」
 『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)がクロスイージスを阻みながら、終末の戦いの名を冠した強力な加護を放つ。
 彼らはそれぞれ事前に定めた親衛隊の前に立ち、それ以上の前進を阻む。
 残るフリーの親衛隊はホーリーメイガスの一人。
「悪いが、真っ先にぶっ潰させてもらうぜ……!」
 それを目掛けて、『合縁奇縁』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)が、刀と西洋剣の2つを手に駆け出す。
 彼は敵の回復役を早期に仕留めるべく、敢えてタイミングをずらし仲間が他の敵を抑え終わる機を待っていた。
 だが、その間、敵も何もしていないわけはない。
 竜一が動くと同時に、親衛隊が展開した中型魔法陣。癒し手たるホーリーメイガスが持つ攻撃技の1つ。
(俺を狙ってない!)
 展開された魔法陣の向きで、竜一は狙いが自分ではない事を悟る。その方向にいるのは――。
「「避けろ!」」
 逃げ出したばかりの6人の誰か。竜一が警告を発すると同時に、疾風からの警告も上がる。
 直後、虚空を貫く蹴撃が6人の最後尾にいた少女の背中を斬り裂き、更に追い打ちで聖なる矢が貫く。
「っ! 大丈夫か!」
 声もなく崩れ落ちるのをエルヴィンが咄嗟に支える。しかし熱が消えてゆく。この2撃に耐える体力も、運命の加護ももう残ってはいなかった。
 敵の隊長の貫通攻撃は警戒していたが、他の親衛隊が貫通攻撃を持つ可能性には警戒がなかった。
「くそっ……これ以上はやらせねぇぞ!」
 狙っていた敵に攻撃する時間を与えてしまった事を悔みながらも、竜一は駆ける。間合いを詰め、裂帛の気合と共に2つの刃を爆発的な勢いで振り抜く。
 敵の軍服が弾け、鮮血が舞う。
 だが、身体を赤く染めて口から血を吐きながらも、親衛隊はまだ倒れない。
 そして。
「どうやら、箱舟の中でも精鋭が来たようだ。出るぞ、マルセル!」
「Ja! 総員、防衛戦。眼前の相手を抑えよ!」
 更なる猟犬が動き出す。


「シェリー、そっちはどうだ?」
 少年を担いだ牙緑の問いに、シェリーは短く首を横に振った。
 彼女が駆け寄った時には、生死不明者の一人は、既に呼吸音を止めていた。
「その少年は?」
「ああ、大丈夫だ。まだ息がある」
「良し――急いで戻るぞ!」
 生死を気にせず、彼女は名も知らぬ仲間の身体を担ぎ上げる。どんな状況であれ、仲間を捨て置くことを赦すつもりなどない。彼と共に戦った仲間の元に届けるのだ。
 だが、2人が来た方に戻ろうとしたその時、2人の前で風が渦を巻き、戦場に爆発的な勢いで風が吹き抜ける。
「くっ!」
 担いだ仲間もろとも、為す術なく吹き飛ばされる牙緑とシェリー。
「もうその2人は用済みですが……そう簡単に持ち帰らせはしませぬよ」
 更に、強烈な光の奔流が2人を包み込む。光が収まった後には、離れた所からマルセルが見据えていた。

 ボルテクスボム。敵の兵器は、範囲にいた者を敵味方の区別なく吹き飛ばす。
「新兵器の実戦テスト……良い機会とばかりによくやるものですね」
 風自体の殺傷力は大したものではない。防御に秀でたリコルやユーディスには、吹き飛ばされた距離以外の影響は然程ない。
「これは、厄介だな」
 刀を突き刺しても耐え切れず、義衛郎も動かされた。
 抑えるべき敵も纏めて吹き飛ばされたのは、せめてもの救いか。
「お仲間を平然と巻き込みますか。過去の亡霊様方は、困った事をされておいででございますね」
「劣等の分際で我々を亡霊と謗るか……!」
 吹き飛ばされても動じないリコルにか、彼女の言った亡霊の言葉が気に障ったか。
 親衛隊が苛立たしげに大鎌を高速で旋回させ、起こした烈風をリコルに叩き付ける。
 しかし双つの鉄扇を広げてリコルはその大半を受け流した。まともに浴びれば体の自由を奪う烈風も、そのほとんどがリコルには届かない。
「此処で食い止め止めさせて頂きます!」
 全身の膂力を込めて、リコルが閉じた鉄扇を振るう。左の鉄扇が敵の大鎌を跳ね上げ、右の鉄扇が強く打ち据えた。
 疾風も、自分が抑える親衛隊と共に風に巻き込まれた。
「無駄な事を。此処で助かっても、我らに狩られるのが少し先になるだけの事だ」
 遠ざかる5人を見ながら、親衛隊が呟く。
「此方は何時も自分より手強い相手と戦って来た。お前達にも、負けるつもりはない」
 体内の気を制御し、柔軟さを損なわずに身体の硬さを得ながら、疾風が言い放つ。
「ハッ。劣等風情が」
「そうやって見下してるから戦争に負けたんだろう」
「貴様ァ!」
 挑発に乗り、冷気を纏い繰り出された拳を、疾風が肘で跳ね上げる。
 幸いにして、吹き飛ばされた事で距離が開いた。もう虚空を貫く蹴撃であっても、逃がした5人に届かぬ程に距離が開いている。
 同じ轍を2度も踏む気などない。
 雷を纏って繰り出された疾風のナイフを避けた親衛隊の顎を、やはり雷を纏った疾風の足が蹴り上げた。

「そこをどけっての!」
「隊長の……邪魔……させぬ」
 竜一はカールとマルセルが動き出した事に気づいていた。
 だが、2人を攻撃しに向かおうにも、2撃目を受けてもなお運命を燃やして立ち上がった親衛隊に前進を阻まれる。
 既に瀕死の相手だ。次の一撃には耐えられまい。だが。
「そうだ。そのまま押さえておけ」
 配下へ向けたカールの指示が聞こえたと思ったその直後、強い衝撃が竜一の肩を貫く。
 オオォォォォォン―――。
 遅れて響く銃声。
「Sieg……He」
 血の滲んだ肩を押さえる竜一の前で、彼を阻んでいた親衛隊がゆっくりと倒れていく。
「おい、自分の部下だろ?」
 倒れた親衛隊の向こう。硝煙上げる歪で巨大な銃を構えたカールに竜一が静かに問う。
「そうだ。貴様相手に長く保たない、な。なら、死ぬ前に我らが兵器のテストに使った方が有意義だ」
 自身の配下を撃った事を、カールは事も無げに認めた。
「どっかネジがぶっ飛んでるな、お前」
「我らが兵器の為――と言っても劣等には判らぬか」
「列車砲だっけか? お前らの良くわからん兵器の中でも、ああいうデカイものには、ロマンを感じないでもないが。ロマンはロマンのままで終わらせておいて欲しいもんだね」
「ロマン? 違うな。我らの祖国の、我らの大義の、我らの勝利の為の兵器だ!」
「そうかよ。で、アークの仲間を実験に使うってか……そんな輩相手に、これ以上誰ひとりと犠牲を出させてたまるかよ!」
 苛立ちと共に破壊的な戦気を纏い、竜一はカールに刃を向ける。

「アイツ、花火を人に向けちゃいけませんって小さいころママに教わらなかったのか?」
 カールが配下ごと竜一を撃ったのは、牙緑とシェリーの位置からも見えていた。
 今撃たれたら、担ぐ仲間も危ない。早く戻りたいのだが、マルセルの放った神秘の閃光弾は、牙緑の手足から力を奪っていた。今動いても、向こうの方が確実に速い。
「牙緑。同時に動くぞ」
 後ろから聞こえるシェリーの声。
「あの男1人で、妾達2人を同時に止める事は出来ん筈だ」
「同時に動けば、どっちかは先に行けるってわけか」
「うむ。……行くぞ」
 シェリーの声を合図に、同時に駆け出す牙緑。と。
「牙緑、行け!」
 マルセル阻まれたのはシェリーだ。牙緑は一度だけ振り返り、そのまま少年を抱えて先に撤退した仲間の元へと急ぐ。
「理解しかねますな。貴女が背負っているその男、既に事切れているのでしょう?」
 シェリーを阻んだマルセルは、そんな言葉を口にする。
 劣等と嘲るでもなく、心底理解できないと言った様子だ。
「仲間を尊ぶ精神もなく、部下を平然と巻き込む輩には、判らぬか。
 そんなことでは、誇りを持って戦えぬのではないか? 誇りを持って死ぬこともできぬ」
 瀕死の配下を、敵を撃つ事に利用した。そこに彼女が感じたのは、怒りだ。
「他者を虐げ差別してまで、おぬしらの存在意義はどこにある?」
「やはり理解出来ませんな。我らの誇りを理解せず、存在意義を疑うのなら、その身を以て――っ!?」
「邪魔するぜ!」
 突如、マルセルの言葉を遮ってエルヴィンが2人の間に飛び込んだ。
「あいつらは、ここの外まで避難させた。同時に回復届かせんのが無理になったからな。戻ってくるまでもたせる。行け!」
「すまん」
 エルヴィンに答えて、振り向かずに走り行くシェリー。
 その背中を追おうとはせず、マルセルは新たに現れたエルヴィンに視線を向けていた。
「もたせる、と?」
「あぁ、そのつもりだ」
「癒し手が1人で来るとは、無謀な」
 マルセルが再び閃光弾を放る。対象を怯ませ体の自由を奪う閃光がエルヴィンを襲う。
「そうでもねえさ」
 しかし、彼はその中で平然と立ったまま、癒しの息吹を戦場全体に吹き渡らせる。
 絶対に護り抜く。絶対者たるエルヴィンのその意志を止める術は、マルセルとて持ち合わせていない。


 徐々に暗くなる戦場に、不吉を告げる赤い月が浮かび上がる。その呪力は撃ち抜いた者に、不運をもたらす。
「あの大戦から、もうすぐ六十八年」
 しかし、義衛郎は赤い月の呪力の不運を受けない。
 軽やかに跳躍し、頭上にあった鉄骨を蹴って、更に地を蹴って。腰のライトが揺れる。
「大人しく忘却の彼方に葬られていれば良かろうに、懲りない事だ」
 駆ける速度に緩急を付ける事で、義衛郎の姿が幾重にもぶれる。幻影が実体となる、敵を翻弄する幻惑の武技。
 しかし敵も身のこなしには長けている。刃から義衛郎に伝わる手応えは、深手を負わせたとは思えない。
「まるで勝ったような物言い、舐めるなよ劣等!」
 親衛隊が全身から気糸を放つも、やはり義衛郎を捉えるには届かない。
 互いに決定打を与えきれない、と言う点では互角の2人。
 だが、一撃の威力は義衛郎の方が遥かに重く、完全に互角ではない。親衛隊の顔に、焦りの色が見え始めた。
 ユーディスが構える槍が、眩い破邪の光を纏い鮮烈に輝き始める。
 対する親衛隊も同じ光をナイフに纏わせる。
 同じ技をぶつけ合う2人。しかし、使い手が違えば技の威力も異なる。
 神秘に抗する能力は、ユーディスの方が頭一つ上だ。先に膝をついたのは親衛隊だ。
 疾風もリコルもそれぞれの相手を徐々に追い詰めてゆく。
 趨勢は、リベリスタに傾いていた。
 リベリスタは全員がエルヴィンの癒しが届いている。対して、親衛隊は早い段階で唯一の回復役を失った。
 元々、カールとマルセル以外の親衛隊の個々の実力は、リベリスタ達よりも劣るのだ。回復の有無の差は大きい。
「兵器を再生させるよりも他に救うべきものがあるだろうに!」
 カールの射撃精度は、未完故に扱いにくさのある武器でなお、竜一に運命の加護を使わせるまで追い詰めていた。
 だが、彼が身体を張って進路を狭め、各自が直線に並ばない様に注意をすることで、カールの銃弾に複数を貫かせない。
 更に竜一は、カールの手にあるムカデ銃を狙って両手に握る刃を振るう。
 さすがに銃を狙った攻撃は読まれて銃を引かれるが、結果、銃撃の頻度を僅かに減らす事に繋がっていた。
「ご自慢の兵器の頑丈さを試すきにゃならねえか?」
「我らが兵器を壊せるとも思えんが、劣等に傷を付けられるのも癪なのでな」
 状況は更に動く。
「アーリア人だか何だか知らないけど、新しいおもちゃの試し撃ちならどっか他所でやってくれよ」
「よく奔っておるぞ、憤怒の魔力がな!」
 担いで運んだ2人を、外で待っていた仲間達に渡した牙緑とシェリーが戦線に復帰した。
「手ぇ貸すぜ!」
「ご助力、痛み入ります」
 仲間との距離を見て、牙緑が加勢に選んだのはリコル。
 気合と共に全身の闘気を爆発させ、大鎌をもつ親衛隊に全身で刃を叩き付ける。
 シェリーが、斧の様な刃を備え彼女の身長の倍はありそうな巨大な杖を構える。
 複数の魔法陣から紡いだ魔力で、周囲に展開する高位の魔法陣が魔力を一点に集める。
「ユーディス! 空けろ!」
 その声にユーディスが軽く地を蹴り、一歩横に跳躍する。
 放たれた魔術師の銀弾が、遠い間合いをものともせずに親衛隊の持つ盾を砕いて貫いた。
「……潮時か」
 カールが小さく呟く。更に2人の配下を倒されたことで、それぞれを抑えていたユーディスとリコルはすぐにカールに向かってくるだろう。そうと読んだ彼は迷うことなく決断を下した。
「マルセル! 退くぞ!」
「Ja! ――総員、撤退!」
 マルセルも、残る親衛隊もその言葉に即座に反応する。続いていた攻撃がぴたりと止まり、4人一斉に跳び退る。
「君達のおかげで、十分な実戦データが取れた。君達の強さも、たっぷりと見せて貰った。Wir sehen uns、箱舟の諸君」
 撤退、というのに自信に満ちた声でカールが言い放つ。
 状況は8対4。粘れば、或いはもう1人2人、倒せたかもしれない。
 しかし、リベリスタたちに撤退する敵を追撃するつもりはない。
 互いに警戒を緩めぬまま、親衛隊は徐々に下がり距離を取る。やがてその姿も、気配も、夜の闇へと消えた。

「また会おう、ですか」
 日本育ちのドイツ人であるユーディスは、カールが残したドイツ語の意味を理解していた。
「また、か。本当に懲りない連中だ」
 何処かうんざりしたように義衛郎が言う。
「いつまでも後手に回っていれば相手の思う壺。何とか起死回生の良い手立てがあると良いのですが……」
 リコルの懸念は尤もだろう。
「まあ、どんな手でこられようと護り抜くだけだ。連中の思い通りにはさせねぇよ」
「そうだな。敵が手強いのはいつもの事だ」
 エルヴィンも疾風も、その意志は微塵も揺らいでいない。
 頷き合い、彼らは救助したリベリスタと共に三高平へと帰還した。

 E・ゴーレム討伐任務の生存者――6名。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
皆様、お疲れ様でした。

6人生存、という結果になりました。
なぜそうなったかは、リプレイ中に記載しました。
と言うかもう少し死ぬと思ってたのですが、
蓋を開けてみれば犠牲は2人に押さえ込まれました。
その2人も皆様の努力で、遺体はアークに帰還。
弔うことは出来たでしょう。

カールは一旦牙を潜めます。またいずれ。

ご参加、ありがとうございました。
文字数カッツカツでした。