●沖縄県嘉手納 -Mission After- その女は、中世ヨーロッパ時代の娼婦の様なゆったりとした服の上から、軍服を羽織り、軍帽を深く被っていた。 「Scheise Italien(畜生め、イタ公)! 70年前に砂漠で干からびて、一人残らず死ねば良かったんだ!」 紅い口紅が引かれたリップから、酒の入った呂律で次々にスラングを吐き出していく。まるで"当事者"の如き苛烈な口ぶりではあるが、しかし外見はうら若い。 「少尉」 ソファーの上で崩れる女の他に、質実剛健という形容が似合う軍服の大男がいた。 女と対照的に、整然とした直立を崩さず、強く嗜める事もせず。 「楽団残党の追跡を切り上げて良かったのですか? ――恐山にも何やら不審な点が見られました」 「あー、いい、いい。ほっとけ、ガンプケ」 女は、手に持ったグラスの中に、白ワインを波々と注ぎ、呂律の狂った口で大男――ガンプケに返事をする。 「イタ公が敵戦力を僅かでも摺り減らしたんだ、悪くない。恐山も不可侵を逸脱しない限りほっとけ。それに、イタ公の尻拭いは飽々した。奴らはいつの時代も尻をこっちに向けてくるんだ。『拭け!』ってな。むかつくだろ?」 「イタ公にしては大健闘でしたな。奴らは窮すると英国野郎に尻尾を振ると相場が決まっていますので、油断はできませんが」 ガンプケが評する"大健闘"とは、嘉手納で起こった楽団残党の事件の、その結果に対する皮肉であった。 女はLimeyと呟き、グラスの中身を一気に飲み干し、テーブルの上にダンッとグラスを叩きつける。 「偉大なる伍長閣下は、この国のクソ民族を『名誉アーリア人』と言ってたっけな」 「ええ、同盟の建前上ですが」 「じゃあ、その建前をぶっ殺しに行こう、Ohne Woap(イタ公抜きで)。無能な働き者は居ない方が良い。邪魔入れさせず。悉く不安要素を排除し。鉄を強力に振り下ろして、愚蒙なクソ民族の屍山血河を一杯作ろうじゃないか」 「Ja! ――是非に倫敦も」 「露助もだ」 両者の軍服と軍帽には、鉤十字と髑髏の印章が煌めいている。 ●大戦の亡霊 -NS- 「急な召集で済まない」 『参考人』粋狂堂 デス子(nBNE000240)の声色には、わずかに焦りが見えていた。 アークのブリーフィングルーム集ったリベリスタの面々に二冊の資料を配る。 一冊目には『NS』と記載されている。 二冊目には『襲撃への対応について』と書かれている。 「六道の研究者を追っていた任務中の一隊が『親衛隊』の襲撃を受ける形になる。急ぎ救援に向かってほしい」 NS(エンエス)は"彼ら"が、自らの所属を用いる際の号である。各所で起こる旧軍の残党――『親衛隊』の事件は、知れ渡っていた。 ゲリラ戦を展開し、アークの戦力をすり減らす作戦をとっている彼らは、七派をも抱き込んで、フォーチュナの協力を得ていると目される。至極厄介な組織である。 「場所は六道の拠点。強襲されるのは六名。うち四名は、到着時に戦闘不可能な状態となっている。また、残り二名についてはインヤンマスターとホーリーメイガスだが、余力は少ない」 強襲されるリベリスタ達は、主に万華鏡の補完といった情報収集や追跡といった役割を担っている者達だった。 交戦が生じ、タイミング良くその交戦の直後。アークのエースクラスならば兎も角として、実力差がある者に強襲されたとなれば、かなり状態は悪いと言える。 『親衛隊』の撃退は無論の事、最悪でも数名確保して追跡を振りきれれば良い。そういう話だった。 「敵は、嘉手納で起こった楽団残党の事件の裏で、密かに動いていた小隊らしい。恐山の機転で交戦は避けられたが――恐山連中がアークとの接触を回避させる位だから、相応に危険な部隊だろう」 気をつけろ。と、デス子は締めくくった。 ●リップイェーガー少尉 -Lip Jaeger- 薄暗い廃ビル。 リベリスタの情報収集担当達は、突如乱入したる『親衛隊』に退路を塞がれた。六道派フィクサードの追跡困難として、撤退をせんとすれば、包囲するように新手が現れるのである。 「こうなれば強行突破する……!」 一か八か。リベリスタの一人、デュランダルを生業にする男が、ホーリーメイガスより癒しの光を貰って吶喊する。 渾身の一撃は、しかし、見えない壁に阻まれて。 「攻撃が通らない……!?」 狼狽するデュランダルに対して、攻撃を阻んだ親衛隊――酒瓶をラッパの様に煽る女は、もう片手に巨大な砲を携えていた。 「あ~戦争してぇ。戦争してぇよぉ~」 呂律の狂った口で、のらりと砲口をデュランダルに向け、次に金切り音が響き渡る。 爆発音が鳴り、一撃でデュランダルの男はその場に崩れ落ちる。 「弱えー、クソ弱えー。やっぱクソ民族だ。私が出る幕も無かったんじゃないか? なあ、ガンプケ?」 「油断は禁物です、少尉。奴らはカウンターのカウンターを放っていると情報連携を受けています」 「あ、そ。じゃあクソ民族が追加で来るか? 待ってりゃ良いのか? いや、まず殺そう」 女は紫煙をくゆらせて、残存している者へ砲口を向ける。 「クソ民族に死をくれてやる事が軍神(マルス)の愛だ。私はLip Jaegerという。ああ、別段、覚えなくていい」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月14日(金)23:19 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
■サポート参加者 2人■ | |||||
|
|
●亡霊め! -Scheise!- 崩れ落ちたデュランダルは、頭上で鳴り響く死の音に覚悟を決した。 行くも戻るも退路は塞がれて、正面は最早、指揮官が。指揮官が携えた砲より、金切り音が響き渡る。 「少尉。増援です」 「あん?」 男の声と女の声が頭上で往来し、黒い鎖が砲から放たれた。 デュランダルを絶命させる筈だったものは、真っ直ぐ出入り口へと突き刺さる。 大きく爆ぜてコンクリート粉が散る煙幕。煙の中より人影が飛び出してフロアへと雪崩れ込む。 「道を開けろ、亡霊め!」 最初の影――『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)が、攻勢戦術を伴って煙の中より駆け抜ける。手近のクロスイージスを生業とする軍服の亡霊へと肉薄し、掌より神秘の閃光弾を投擲する。 対して女は咄嗟に身を翻し、砲を影とする。 ベルカが放った閃光弾は中央で炸裂し、刹那にフロアを白く染め、軍服の亡霊を白き彼方へ消し去るが如くに輝いた。 「気ぃ確り持てよ、救援だ」 最早、煙幕とも光が混濁し、何処から煙でどこからが光かを区別するのに苦しむ辺りから、二つ目の影――『赤錆烏』岩境 小烏(BNE002782)が風の様にひゅらりと軍服の横を抜ける。 言葉をかけながら状況を見れば、立膝のホーリーメイガスとインヤンマスター。歩けない程ではなく、他は倒れている状況。 「健在のお二人。余裕あったら倒れた者を一人抱えて逃げな」 戦況が転じて、腑に落ちかねている表情の両者はぽかんとしている。 「しっかりしろ! あとは任せい!」 強めの言葉で、情報収集担当達は危うく動きだす。 ここで、敵側の軍服から、清めの柔らかい光が放たれた。ベルカの放った強き閃光の影響を消し、光で苦しむ境界に遭った軍服が、両足を確かとする。 三つ目の影――『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)は、両足を確かとする軍服達の姿を見逃さなかった。 「うふふふふふhhh、貴方に贈るは憎悪の鎖♪」 エーデルワイスは、軍服のスターサジタリーに肉薄し、絶対絞首の鎖でもってスターサジタリーの銃と軍服を縛り上げた。銃口は大きく上へと吊るされ、天井へ弾痕を作る。 「猟犬共の武器は私の琴線に触れるモノが多いわ」 エーデルワイスは、軍服の射手の得物を舐める様に撫でて、次に携えたる魔力の口を射手の額につきつけた。 クロスイージスを生業とする軍服のナイフが煌めく。確実に殺しておこうという心算か、光を伴った刃が情報収集担当へと向かう。 「させません」 光るナイフは、しかし、割り込みたる光の槍が阻む。 四つ目の影――『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)が、フロアカーペットを捲らんばかりに踏み込み、凶刃を上に払う。 「戦術戦略として親衛隊のそれは確かに有効。だ、けれど……」 続き、払った勢いを殺さず、石突を前に突き出してクロスイージスを生業とする軍服の腹部を抉る。 「――態々そういう戦力を狙っておいて弱い等と、歴戦の兵は言う事が違いますね」 ユーディスが視線の正面に在る軍服は、ダメージに平然と、無表情にナイフを構える。光と光の刃が交差する。 五つ目の影――『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)は、敵円陣のど真ん中へと飛び込んで、アッパーユアハートを放った。注意が中央へ向けられる。 意識の狭間を、六つ目の影――『狂奔する黒き風車は標となりて』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)が、遠慮もなく行き抜ける。 「反吐が出るほどの差別主義者ねぇ。――ま、親衛隊員ともなればむべなるかな、と」 低空飛行から、身体を大きく右へ捻り、巨大な鉈の如き剣を構える。 「物理攻撃が効かないってんなら神秘攻撃はどう? 貫け闇の閃光!」 左へ振り抜けると同時に、黒い剣の一部が溶け出したかの様な螺旋が走り抜けた。リップイェーガーに加え、更に後列の者を大きく抉り、奥の奥へと螺旋はゆく。 「もう一撃よろしく!」 フランシスカの黒き螺旋に乗じて、七つ目の影。 『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)の銀の弾丸が、後を追う。 「『人種に依存する愚か者達に語る舌は持たん。――純粋に討滅してくれる』」 その言の葉を耳に拾い上げたか、軍服の大男が銀線に立ちふさがり、向かってカミソリの如き飛刃を軍刀から放射する。軌道がやや逸れて、シェリーが狙った奥の奥。ホーリーメイガスの軍服を大きく抉る事が叶わずに。 「劣等にしてはかなりの威力だが」 大男――ガンプケより防御の戦術が放たれる。各々、刃を交える局面が確実に変化する一手である。 「『特務曹長か。竜一』」 「はいよ、シェリーたん」 ガンプケの戦術が放たれた所へ、八つ目の影。 『合縁奇縁』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)が、ガンプケへと肉薄する。 「吹っ飛べ」 「劣等」 竜一の日本刀に対して、ガンプケは軍刀で迎え撃つ。頭ひとつ抜けた巨体のガンプケを、鍔迫りで。 「ゾーリンゲン鋼だ」 「へえ、ゲルマン魂ってか?」 竜一とガンプケの間に生じた剣戟の火花に乗じて、フィアキィが間を飛び去った。 「敗残兵が今更なんだっていうんです? 負けた兵隊はもう兵隊じゃあ無いんです」 影が九つ目。『親知』秋月・仁身(BNE004092)のフィアキィを繰る。 「――ただの、賊、です」 変声期半ばのボーイソプラノが、冷淡に響き。 更なるコンクリート粉で煙幕をたてるかの様に、激しき爆発が生じる。ガンプケの防御布陣を打ち砕き、敵を吹き飛ばし、戦線を前進させて。 「良い位置だ」 『足らずの』晦 烏(BNE002858)が十の影。神秘の閃光弾を紡ぐ。リベリスタ達は一斉、右腕で目を隠す。刹那にガンプケを中心に迸る閃光が、敵陣を奥の奥で固める。 「さて聞こえとるかね。折角拾った命だ、まだ捨ててくれるなよ」 小烏が素早く舞い戻り、伏せたる残り二人の情報収集担当に呼びかける。 瞬息のやり取りが終わった途端に、コンクリートの煙幕の向こうから、反身の痩形がすらすらと、歩いてきた。 「ヒック、"恵んで"やったんだ。わかるか? 列島の劣等、島猿でも分かるだろう?」 呂律の狂った女の声が鳴る。 「こんな姉さんも軍属とは、ちょいと認識を改めんとなぁ」 小烏が呟き、かばいに入った所で小烏の脚部を走り抜ける様に、銀の弾丸が貫いた。 激痛の横。情報収集担当の一人の首から上が、脊髄液と脳漿と脂肪片を混濁させてぐちゃぐちゃと砕け散る。小烏は強く奥歯を噛む。 「殺そうと思えば殺せた所をな。さあ、多く死体を差し出せ。軍神にScheiseと言って死ね! 悉く!」 綺麗な影――深く軍帽を被った赤い唇の女は、苛烈に微笑む。 更にもう一撃放つのか。 連装の巨砲から、重厚な鎖が前衛に走り抜けた。 ●空(カラ)の軍神 -Mars- 伏せたる情報収集担当のリベリスタは残り一人。 ここで、リベリスタ全員が直感した事は、この一隊は『一人が火力を担当している』という事であった。 リップイェーガーは、重そうな武装にも関わらず速い。 速き上、素早く連装で放たれる黒き魔の奔流は、一撃こそシェリー――この面々の中で最も火力の高き魔術師には及ばないものの、連続での被弾時はシェリーを超える。加え、呪縛を撒き散らすのだ。 「クソ民族だあ? 調子に乗ってんじゃねえぞ、オバサンよぉ! そっちが軍神なら、こっちは守護神だ」 竜一は呪縛されながらも、ガンプケの軍刀を辛うじて避ける。注意を惹かねばならないと二の矢を継ぐ。 「てめらのチンケなその砲塔で、その新田快を貫けるか試してみるんだな!」 「童貞臭いクソ民族の猿ガキが――挑発というのはこうするんだ」 リップイェーガーの砲は、情報収集担当のリベリスタへと向けられる。 「魔盾も陣形も是で全て吹き飛ばす!」 後衛位置より仁身のフィアキィが飛び出して、次々と爆発を生じさせる。敵陣を押し流す。情報収集担当のリベリスタからリップイェーガーのロックオンが外れる。 「チィ……ルーンシールドが崩れる! 得体が知れん力を使うやつだ!」 「過去に縋っている貴女達には一生到達できない力ですよ」 リップイェーガーがトリガーを引くか引かないかの僅かな間。先の先を巡る、速度の戦いは、呪縛を免れたベルカが制する。 再び神秘の閃光弾――やや弱め調整したもの――を投擲する。 「貴様らは正真正銘の『本物』だが、私などは父祖の武勇を伝え聞いただけの趣味者に過ぎん。だが――」 リップイェーガーが、リベリスタを一気に殺さない所からして、企みは瞭然と言えた。 「だが! だからこそ、現代に勝ち残るのは私の方だ! もう一度言うぞ! 今を生きる我々に道を開けろ、亡霊め!」 「何だ貴様、露助か? 露助の熊か? 飛んで火にいる露助の熊が。その手は食わんぞ、露助の熊!」 発光が生じた次に、黒々とした鎖が再び襲い掛かる。フロアの支柱を砕き、天井へ至り、コンクリート塊が降り注ぐ。ダメ押しとばかりに呪縛が前衛にばら撒かれる。 情報収集担当のリベリスタの救出に動いていた小烏が呪縛を受けて、最後の一人の確保に困難が生じる。 「確保できても撤退に支障が出るさなぁ……!」 「任せろ!」 小烏の呟きに、快が応じて、破邪の光を放出する。 ほぼ同時に敵陣の奥の奥から放たれるクロスイージスの清めの光が、ベルカの一手を無に変える。が、時間は稼いだ。 「お前も首を括っておけ」 エーデルワイスが、返す様に放った断罪の鎖が、リップイェーガーを絡めとる。『一人が火力を担当している』のならば、その一人を封じれば良い。 「確保!」 フランシスカが、最後の一人に手を伸ばし、大きく後ろへ放る。放った身柄を仁身がキャッチする。そして黒い螺旋を解き放ち、敵陣のホーリーメイガスの膝を貫く。 「よし! 命中!」 「『撤退か』」 シェリーが少々拍子抜けの様に呟き。次に撤退の援護を超えた、まるで敵を殺すかの如き強大な火の玉を創りだす。 「『避けろ、竜一』」 「おわっと!」 ガンプケと、その後列のホーリーメイガスを盛大に炎上させる。 「何を愚図愚図、何処へ行く! 死体置いてけっつってんだろぉがよぉ!」 リップイェーガーの声に、「JA」と声を発した敵スターサジタリーは、呪いの弾丸を放ち、仁身を貫く。 「足止めですか……誇り高きドイツ軍人にしては姑息です」 救出対象を確保した仁身が固められた事は痛恨である。 ガンプケは炎を纏いながらも竜一と無表情に切り結ぶ。その最中に、ガンプケは視線をリップイェーガーに向けながら呟いた。 「やや口が熱いか。――少尉の前線投入は、少し早かったやもしれん」 「何言ってんだお前?」 「独り言だ」 ガンプケが、烏やベルカと同質の閃光弾を放る。 ユーディスは、閃光に一瞬視界を奪われた。その隙を縫うかの様に、対面にあるクロスイージスのナイフが肩口に深々と突き刺さる。 「く……っ!」 リップイェーガーが哄笑する。 「何だ貴様。貴様はアーリア人種か? 我が祖父を勇者と担ぎあげて、敗戦した途端に悪と断じて、のうのうと生きる卑怯者の子孫か?」 両親を愚弄する哄笑がぐるぐる廻る。 「戦場で相手を見下しきったその精神、楽団のそれと大差ない。これでアーリア人至上等と、恥ずかしくて聞けた物ではありません」 屈する訳にいかない。相手取っているクロスイージスを槍で突き飛ばし、出入り口側へと位置を変えながら盾となる。 ここで竜一が、ガンプケを大きく奥へと弾き飛ばす。 「てめえらにゲルマン魂ってのはあるように、大和魂ってのが、日本人にはあるんだよ!」 竜一の日本刀型の破界器が、ガンプケの軍刀にヒビを入れる。 「小烏か快、どっちか解除を頼んだ」 仁身が動けない事には最後の一人の離脱が難しいばかりで無く、撤退にも影響する。 「任された」 リップイェーガーと先の先を取り合う速度の戦い。次に制したるは小烏であった。清めの光が、仁身の呪いと麻痺を解き放つ。 「わからんのか? 殺そうと思えば、何時でも殺せんだよ!」 リップイェーガーの砲から銀の弾丸が発射される。 それは、仁身を――否、仁身が確保したリベリスタへと突き刺さり、貫通し、決して軽くない背部へのダメージを仁身に齎した。膝をつきかけて正す。 「あと一歩で!」 仁身の背中に在るものから、血液の赤が大量に溢れてくる。救出対象の手がだらりと力なく。 「ハッハッハッハッ! 死んだ! 死んだ! 死んだ! 残念だったなぁクソ民族! 生意気にも血が赤いとはな!」 大きくダメージを受けることを覚悟の上で、可能な限り助けんとした最後の一人は、あっけなく潰えてしまった。本当に呆気無く。 「死んだ者は捨て置きましょう。感傷に浸る刹那すら、今この時においては勿体無いものね」 エーデルワイスの声が気付けとなって、最後の戦局を迎える。 ●撤退戦 -Widerrufsrecht Krieg- 「ラグナロク!」 ユーディスが、神々の黄昏を全員に施して、始まる撤退。 救出対象が潰え、後は猟犬達を振り切る事が重要であった。 大きく踏み込んでいたエーデルワイスと竜一やユーディスは、そのまま盾となり殿を務める。それをサポートする様にシェリー、フランシスカと仁身が撤退支援に砲口を加える。 リップイェーガーの砲火によってばら撒かれる呪縛は小烏が祓い、快が清める。 「ここまでは良い」 ベルカが戦闘指揮の観点で全体を見ながら呟いた。 一見、拮抗しているかのように見える戦局は、時間をかけるほどにリベリスタの不利に転じていく。敵にはホーリーメイガス二人による芳醇な回復力が備わっている。耐久戦は明らかに不利だった。撤退にも時間をかける訳にはいかない。 「機動防御というものがある」 「『知っている』」 ベルカとシェリー言葉を交わす。 話が早い。 「貴様らファシストに教育して貰う事など一つも無い! 自分のケツでも舐めていろ!」 ベルカは凍てつく視線を、敵陣のホーリーメイガスに放つ。 伝心。そこへ、フランシスカが暗黒の気を放つ。ホーリーメイガスへと撃ちこみ、ついには敵の防御の要の一つが潰れる。 「ルナティサーズ!」 仁身が放つ紫色の光が、奥の奥に在るホーリーメイガスと、クロスイージスを固める事で、敵の守りの要の更に二つが不全となる。 シェリーは『どうやら実を結んだらしい』と言葉を続け、魔を凝縮させる。 回復量が追いつかない最大ダメージでもって、追撃を振り切る事が最良と言えるか。 「『Zeit, um die Opfer zu bringen』」 呟いた言葉は――お前を殺すその時間。 シェリーの呟きを拾った者はガンプケで。シェリーが視線を向けた先も、ガンプケであった。 魔力の精髄とも言える弾丸が、ガンプケの腹部を大きく攫っていった。竜一との斬り合いのダメージが少し残っていたが故に、巨体は崩れ落ちて――しかしまだ立ち上がる。 「少尉。回復手にも戦闘不能者が出ています。これ以上の追撃は無用です」 「ガンプケぇ、それは副官としての進言か?」 「幼少からの教育係としてです。優秀なアーリア人種ならば、ここで引く事が賢いでしょう。貴方は優秀なアーリア人種なのですから」 「……」 "特務曹長"は、リップイェーガーを操るかのように、次の提案を囁く。 「さぁ、派手に鮮血の花を咲かせなさい! あははhhhhh」 リップイェーガーの額を、エーデルワイスが撃ちぬいた。 「イェーガー死ね! 榴弾発射器を着服させろー★」 物理攻撃を遮断する魔法はとうに砕かれ、額からの流血に、落ちる軍帽。獣の様な目がギラついている。 「あー酒止めるかなぁ?」 リップイェーガーはふらふらと妖しく立ち上がる。 「列島の島猿。それに与する者。死にぞこないを恵んでやるぞ。恵んでやる! 慈悲深き軍神(マルス)の情けだ!」 軍神の高らかな笑い声が響き渡った次に、巨大な三連装の砲を放棄する。 「あ? くれるの?」 「Vernichtung!(皆殺しだ)」 巨大な三連装の砲より魔方陣が生じる。包まれ、凝縮され、そしてそれは、今まさに爆発せんとする球体へと変じる。それを見た軍服達もまた、戦を放棄して非常口側へと移動して行く。 「げ! 退避! 戻れ! リップたんが此処ごと吹っ飛ばすつもりだぞ」 竜一の声に、リベリスタ達は大きく転身する。 「次はシラフで来てやるぞ。クソうじ民族ども。アッハッハッハッハッハ! さあ戦争だ。戦争だ! 我が祖父の名誉を取り戻す為の戦い。開戦の狼煙代わりだ」 リップイェーガーの声が、後方から響く。 次に、窓から放射状の光が強く漏れだして、支柱や天井を損傷していたこの場、このビルは、強力に爆散した。 ....Sieg Heil |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|