● 子供のころに戻りたいって何度思ったことか。 あの、子供時代にとれなかったカブトムシを捕まえに行って、川で遊びたい。 社会人になって波に揉まれて、友人と遊べる時間は大分減った。 逆に会社のデスクと向き合う時間だけが増えていった。昨日も3時間しか寝てないよ。 今日は行きたくも無い飲み。先輩に連れまわされた挙句、接待のストレス。 時刻は午前3時でやっとこさ解散、解放。 明日は8時から仕事なんだけど。もう電車も無いし、タクシーかぁ。お金……うん、ギリギリ。 ふと、何かを踏んだ。それはひとつだけ宝石が着いた鏡だった。 何故だかそれを拾って自身の顔を見てみた。 ――なんて疲れている顔だろうか。 げっそりしていて、眼の下は黒くなっている。 嗚呼、子供のころに戻りたい。 朝起こしてくれる母。ご飯があって、学校行って、帰ってそのまま遊びに行って、夜帰ってきてご飯してお風呂して、寝て、沢山寝て、また次の日が楽しみで。 「疲れたなぁ」 そんな五月病な彼。 ――鏡に映った自分に指をあてた、その瞬間だった。彼は鏡を残して消えてしまったという。 ● 「鏡は神聖なものであったり、はたまた紫鏡のような呪われたものだったり色々です。霊力というものが存在するのかは知りませんが、まあ、今回のもそんなものです」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)は集まったリベリスタに向かってそう言った。今回の相手はアーティファクトだと。 「この鏡。どうやらとある男性の願いを叶えてしまったようです。 鏡の部分を触ると中に入れちゃうんですが……中は男性の望みが具現化された鏡面世界ですね」 とんでもないグッズだった。ちょっと欲しいけどもう使用済。 「今回はこのアーティファクトを回収して欲しいのですが、その男性が中に入ったままというのも気の毒なので、この世界に入って連れて帰ってきてほしいのです」 依頼の内容は至極シンプル。 「彼の世界ですので、彼が帰りたいと望めば帰れるでしょう。逆に彼が消えろ!と思えばこの世界から跳ね退けられると思いますが、何度も鏡へダイブして根気強くお願いします。 また、彼が望めば彼の世界は牙を剥くと思われますので、戦闘の準備はしておいて下さいませ。解析した攻撃方法は周囲の物体が飛んでくる程度のものなので、大事にはならないと思いますが……」 それではよろしくお願いします、と。杏里は頭を下げたのだった。 が。 「そういえば、この世界。登場人物が全員子供の姿になるみたいです」 そりゃ凄い。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月03日(月)22:33 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ――あの夏の忘れものを取りに帰る事は、許されるのでしょうか。 『Hrozvitnir』アンナ・ハイドリヒ(BNE004551)が目を覚ませば、遠くに見えたのは入道雲。空には飛行機雲が大空のキャンバスに線を描き、綿菓子の群れが天高く、ゆっくりと、同じ方向へ流れていった。 「見たとこ、二十年くらい過去の世界って感じかな……ボクがまだ大人しく隠居していた時代だよ」 『まつろわぬ古き民の末裔』結崎 藍那(BNE004532)は高い位置にある太陽に手を透かせて、両目へ手の形の影を作った。月が支配する現世(うつしよ)から、太陽が見守る常世へと流されて、未だに目はその太陽の光を受け入れようとしてはくれない。 「わたしの形があるか無いかってくらい過去なのね。それは解ったけど……とりあえず現実逃避してる彼を探さないと駄目よね」 さて、これからどうしようか? と、言うときであった。 「ロッテちゃ~ん! 海依音さ~ん! ウワー!! かわいい!!」 「ひゃ! みんな、ちいさいのです! かわいい!」 「やんやん! ぴっちぴちの十代でございます!」 『すもーる くらっしゃー』羽柴 壱也(BNE002639)が『白雪姫』ロッテ・バックハウス(BNE002454)へ飛び込み、その小さな身体を抱きしめた。受け止めたロッテも壱也の身体を抱きしめ返して笑顔な二人。 『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)はこっそり、どこからともなく取り出した鏡で自分のお顔をチェック。うん、そばかすがある。 間違いない。 「殺人鬼ちゃんちっこいなー」 「阿久津ちゃんは、ワーオ☆ワイルド」 全員、例外なく子供の姿に成っていた。 『泥棒』阿久津 甚内(BNE003567)と『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)もお互いを覗き込んで、いつもと違う事を確認。 因みに服とかはミラクルフィットサイズに変更されているから細かい事は気にしたら負け。神秘ってすんごい。 くるりと甚内は壱也とロッテの方向へと向く。 「ロッテちゃんは今と変わらず可愛いねー★」 「そそそ、そうですかぁ~? ありがとうなのですぅ~」 「そっちの少年は……もしかして、い「どうみても女の子!! スカートはいてるでしょ!」 壱也はスカートを指さし、アピールしてみせる。すると葬識は甚内の肩を掴んで首を振った。 「羽柴ちゃんいまとそんなに変わらないよ」 「だよね! 流石、熾喜多さ「少年だったっけ?」 「違ぁあう!!」 わいわいがやがや、現世の時間では夜中のフルテンションなリベリスタとは対照的に蔵守 さざみ(BNE004240)は俯いていた。 見ているのは己の手。小さくなった、己の、手。 「戻りたくなんか……っ――」 ――子供時代なんかに。 思い出される過去。無知は罪という。まだ何も知らなかった、それこそ『幸せに繋がる行為』を希望と信じていた頃が走馬灯の様に脳裏に回る。 「……っ!」 握りしめた拳。そこへAFから無意識に取り出した魔陣甲がさざみの両腕を覆い、複数の魔法陣が彼女の周囲に展開した。 「はいはーい☆ 殺伐は殺人鬼ちゃんだけでかんべーん!」 「俺様ちゃん、今、非モテでウルトラショック!!」 その両腕を片方に甚内が、片方を葬識が抑えて、さざみの顔を壱也が覗きこんだ。 「大丈夫……? 顔色悪いようだけど」 「ええ……問題無いわ。まずは遊ぶのだったかしら?」 陣を消し、甲を仕舞い。さざみはふらふら歩きだす。 ふと、遠くを見ていたアンナが麦わら帽子が山奥へ入っていくのを見つけた。 「居た」 「はい! 居ましたね!」 ――正止 一だ。アンナが走り始めると、続く海依音。 「やれやれ、じゃあこの幻想世界を楽しむとしましょうかね」 藍那は麦わら帽子を頭に被って走り出す――。 ● 「楽しそうね? 私も混ぜてくれない?」 「え? ぅっわ!!!」 藍那が麦わら帽子に声をかけてみると、木に登っていた彼は足を滑らせて真下へと落下。 「ほあああ! 見るからに居たそうなのですぅう!!」 ロッテが慌てながら麦わら帽子の彼を起こそうと手を貸した。が、その手を撥ね退けて彼は一人で立ち上がる。 「なんだよ! おまえら! 此処、だっれもいねーんだよ! いるなら返事くらいしろっつーの!! 焦ったわ!!」 成程。 「人がいないから、木に登って人を探してみよう……としたのでございますね!」 「悪いか!!」 「いえ、特には」 どうやら彼――正止 一の言動からして、彼は心から少年に戻っている様に見える。 「まあ、木登りしてたのは他にも理由あって、ほらあそこ」 一が指をさしたその先――子供の身長では無理そうな場所。そこでゆっくり蠢く大きなカブトムシの姿があった。 「でっけーだろ! あれ、捕まえられたらちょーかっけぇと思ってさ。でも俺、あんま木登り得意じゃなくてあそこまでいけねーんだ」 少年の腕は悲しいほどに短く――あの日届かなかった場所は今も届かないまま。 「では、虫捕りをして遊ぼうか?」 アンナのその一言で、虫捕り決行である。 一の下の甚内が土台になって、カブトムシへと手を伸ばすが、イマイチ足りない。 下でアンナや藍那が右だ!や左よ!といってみるが、不安定な手をカブトムシの下をうろうろをするばかり。 だがそのうち。 「捕ったあ!!」 「ほいさー、なら降りてアダッ!!」 カブトムシを捕った瞬間に、甚内の背から滑った一は甚内の頭と頭がごっつんこ。 「さっきから、よく落ちるねぇ」 「あわわわ、痛そうなのですぅう」 苦笑いしたさざみ。ロッテは再び慌てながら一と甚内を起こしてやった。 「このくらいの時は猫を解体してたっけなぁ」 「おー殺人鬼ちゃん、その歳から段取り踏んでたワケー?」 虫捕りと言えば! と、ぼそっと葬識が昔話を始めた。昔は触角を折ったり、足を千切ったり、半分にしてみたり。その中身にある命は何処にあるのか探していたけれど、結局見つからなくて。そんな命を奪うことが生き様になる前の殺人鬼の話。 「てことで、やや! 殺人鬼ちゃん、こんなところに偶然にも猫を一匹捕まえまーした★」 「さっすが阿久津ちゃん!★ じゃあ童心に戻って、ちゃちゃっと解体してみせちゃうよ!」 「それロッテちゃんのすりぃぃいぴいいいちゃああああああ!!!!!!」 「駄目なのですうううううううううう!!!!!!」 壱也とロッテは叫び、一は脅えていた。 虫捕りが終われば、木登りに発展した。そこから川へ行こうと、少年少女たちは駆けだす。 草の匂いがする草原を超え――、自分たちの身長より大きい向日葵畑の中を駆け回った。 辿り着いた川では、素足を晒して川の水の冷たさを知った。その遊び全てを飛行機雲は見守っていた。 だが振り返れば――夕日が沈み始めている。入道雲も形を変えていて。 「そろそろ……頃合いかと、思うよ」 アンナは、遠くの現世を思い出して呟いた。 ●本題 「大人と子供の違いって何だと思う? ボクはね、責任と自主性かなって思ってるんだ」 アンナが一言、そう言えば一はピクリと動きが止まった。 「今、なんでそんな話するんだ……?」 「現実から逃避して子供に帰ったところで何も変わらないわ」 続く、藍那。勿論彼と遊んで楽しいと思った事はきっと本心からだ。だが、いつまでも此処に居る訳にもいかない。 フォーチュナの夢に捕まったのは幸いと言えよう。このまま鏡面世界で独りで暮らしていても、例えば、鏡が壊されたら――中に居る彼の命の保証は無い。 「ほら、日が沈みかけてる。子供は帰らないといけない時間だ――でも大人ならもっと遅くまで遊べる」 さざみは紅い夕日を指さしながら言った。 「そんなの! 俺等しかいないなら、関係ねぇじゃん……っ!」 「駄目です。帰らないと……今、午前三時ですよ」 きっと一は解っている。解って此処に留まっている。 「ここは優しい夢のなか。本当の自分を思い出してください。貴方を必要としている人はたくさんいらっしゃるでしょう?」 「そんなの……解ったもんじゃねぇし……」 「でも、居ると思っているでしょう? お母さん、お父さん、周りの友人」 ワタシは全てを失くしたと海依音は続けた。数年前の悲劇が、その心に大きな傷跡を残したあの日が、思い出して吐き気がしそうだ。だが。 「ね、普段通りの日常、それって本当に尊いものなんですよ」 「……」 重い空気に、一は黙りこんでしまった。 ただ、静かになったその場所。ひぐらしの声が耳の直ぐ横で聞こえているようで。 「んー……よー解らんけど。草臥れない職場なんて無いだろーし」 甚内はその空気を裂く。 「ガキの頃なんて現在進行形でも無い限り、良し悪しござって誰もが経験してく事だしー。「コレから」なんて 自分でなんとでもしていけば良いんじゃなーい?」 「ねぇ、正止さん。今何したい? 貴方はどうしたい?」 壱也は選択を一へ提示した。あくまでも、決めるのは彼自身だ。 「大人になったらそりゃもう色んなシガラミとか、事情とか、常識、理性だとか…いっぱいいっぱいあると思う」 「そうなのですぅ! 働くって大変だけど……皆それを乗り越えてきたのです」 優しい言葉の数数だった。 一は解っていた。 解っているからこそこの世界に留まる事を決めた。 望めば出られるのだ。だがそれは決してしなかった――もう、二度と押さえつけられる優しくない世界になんて戻りたくない、と。 「一生一緒に、此処で遊ぼうぜ……? な? カブトムシ、川、真夏、なんだって俺は用意できるんだ……。 此処に留まると言うまで、俺は、攻撃……するからな!! 頼むよ、俺は――『私は』もう、あそこには――!!」 攻撃――そんなのリベリスタ達は怖くなくて。逆に怯えているのは一自身だった。 「ちょっとまずいか」 アンナは呟く。その目線の先、一は川の水を従えて、それを剣とする。 「返り討ち、決定よね」 藍那はガントレットを装備して、迎え撃つ体勢に移った。そしてさざみも。 「そう来るなら、ぶん殴って終わらしてあげます」 魔陣甲に魔力を乗せて――だが、それは。 「待って、待って二人とも!! あっちは普通の一般人だよ!? わたし達が攻撃したら一溜りも無いって!!」 二人の前に立って、両腕を広げて壱也は立った。依頼を果たす義務がある以上、彼を殺す事はできない――それ以上に、救える命を逃す事は壱也にはできない!! 「ひやぁぁ~! 落ち着くのですぅう! 辛いでしょうけど……帰って休んで、乗り越えましょ!」 ロッテは叫んだ、その腕にSleepyを抱きしめて、水の刃に斬られぬように。だが、刃は無慈悲にも――ロッテを狙ったのだ。目を閉じ、来るであろう衝撃と痛みに備えた。 ――だが、痛みは無い。 おかしいと思ってロッテは目を開けた。目の前、利き手を拳銃の形にして立っていたのは甚内だ。 「約束履行までは! この阿久津甚内! 粘着質にお守りいたしますぞー!」 「今だけ礼を言っておくですう!!」 甚内が放ったのはピンポイント。それを見た一は目を大きく開けて、一歩だけ後ろへと後退した。 「お前等……何もんだよ……!?」 更に、壱也は続ける。 「なんのために生きてんだろとか思うこともあるけど!! それだけじゃないって……子供の時の自分より知ってると思うんだ!!」 辛い事も多いけれど、それと同じくらいに……いや、それよりも遥かに少ないだろうが、楽しいことはあるはずだ。 「明日がある今日に戻ろう?! 正止さんが必要とされてる世界に、帰ろうよ!!」 「っ、く!!」 刃は宙を舞う――一握りの刃は壱也の目の前で漆黒に撃ち抜かれて消えた。前に出た葬識が、錆びついた鋏の隙間から瞳を覗かせる。 「ダダを捏ねても明日はやってくる、そうだよね」 「うるさい」 この世界は永遠の八月。 「明日のない今日なんて生きているのか死んでいるのか、わかんないよ」 口も動くが、手も止まらない葬識。甚内と上手に息を合わせて、水の刃を消していく。 「ね、皆が言ってるけどさ、自分で選んだ道、進んでみない? 童心に返るのもいいけど、大人だからこそできること、いっぱいあるよね」 アンナは不器用ながら笑顔を向けてみた。届け、届くと、良い――。 リベリスタ達に刃の攻撃は効かなかった。当たっても大してダメージは無いだろうが、葬識と甚内、藍那とさざみが攻撃を続ける限り。 だが、川の水は多い。勿論、攻撃することを許してしまう刃もいくつかあった。だがそれは大抵のリベリスタなら避けられる程度のものだ。 しかし、海依音だけはそれを避けなかった。その赤いシスター服が破け、頬に傷が入っても。 「もういい!!」 一は叫ぶ。頭を抱え、俯いて。攻撃の利かない化け物なんて、こうしてしまえ。 「――消えろ!!!」 音も無く――アンナがその場から姿を消した。 「消えろ!!」 刃を殴った瞬間の、さざみが消える。 「消えろ、消えろ!!」 壱也とロッテが消える。 「消えろ消えろ消えろ!!」 甚内と海依音が消えた――。 たった一人になった葬識。だが己も次の瞬間には現世だろう。たったこれだけは言っておきたい。 「壊れちゃ、勿体無いよ、正止ちゃん」 「うるさぁあい! お前も消えろ!!」 ――そして葬識が消える。 今や誰も居ない独りぼっちのこの世界。 ひぐらしの声は、いつの間にか遠くへと消えていた。 ● 「ぼくは、この、世界で、いきるんだ……」 膝を抱えた一。鏡の世界は彼の心を表しているのだろう、黒い雲が天を覆い、雷が落ち、雨が容赦無く一の身体を濡らした。 今や、雨のせいで涙なのか雨なのか解らないが、彼の目は赤く腫れあがっていた。だが、自ら世界から撥ね退けた友人達は今や――。 「そろそろ朝ですよ」 「そうそう、現世に戻ったらお日様が見えかけてました」 「あーらら、明日大変っしょー☆」 「なんで……帰ってきたんだよ」 たった三人、藍那と海依音、そして甚内は戻ってきた。また同じ校庭から山奥へ歩いてくるのは時間が掛ったが、確かに彼等は戻ってきた。 何故という質問に言葉で答えを返す訳でもなく、彼等はそして攻撃して来たのを責める訳でもなく。 ただひたすらに、海依音は手を差し伸べるのだ。 「普通の何も変わらない毎日だって、小さな幸運があるでしょう」 けれど、一は差し伸べた手に手を返してくれない。膝を抱えて蹲ったまま、顔さえ見せてくれない。 「ワタシ達「ヒト」はその小さな幸運を「幸せ」と呼びます」 それでも彼女は話す事をやめない。そして――また三人はこの世界から弾き飛ばされた。 だが、また彼らは戻ってくる。雨で濡れた重たい服を引きずって。 そして膝を抱える少年と目の高さが同じになるように膝を折って、手を差し伸べたのは海依音。服に泥が着こうが、お構いない。 「疲れて逃げ出したくなるのは分かるわ。誰だって時に昔に帰りたいって思うことだってあるもの。でもね、大人になる過程で得たものだってあるでしょう?」 藍那の声に、顔をあげた一。 「さっきの話の続きです。閉じ込められた箱庭には、そんな幸せはありません」 「なんの話だか、解らないし……」 近くの木の枝が撓り伸びてきた、そして横一閃。しかしその枝は甚内と藍那が木端へと破壊する。 海依音は差し伸べた手を伸ばし続けた。いつか、貴方の手が返ってくる事を願って。 「帰りましょう? 貴方を待つ世界に」 何度でも、何度でも。待っているよ――貴方はもう、気づいているのだから。 世界が崩壊する音が聞こえた。もう、間もなく子供時代は終わる。 ● 「あーらら、しらねーっと! お天道様が顔出しちゃってらー」 甚内達が鏡から出てきたのは、ロッテ達が追い出されてから数十分後であった。 海依音の手を握った少年は、現世に出てきてからはリクルートスーツがよく似合う紳士へと。 「海依音ちゃん、ぼろぼろだけど大丈夫ですぅ?」 「はい、問題ありませんね!」 そう。もう――彼は問題無く。大丈夫なのだろう。 鏡を持ったアンリ。……おや? 「この鏡……宝石が消えているような気がする」 ――遠くで、嫌な視線を感じた。 「ちょっと、せんぱぁい! 何こんな所で寝ているんですかぁ?」 「……う、あれ?」 午前七時。家が同じ方向の後輩に見つかって叩き起こされる。 「汚ッ!! でも、んー、もう出勤しないと遅刻ですよ、ちーこーく!!」 「解った、わあああった!! 行く、うう、なんか長い夢みてて、さ」 「どんな夢ですかぁ?」 「うん、まあ変な奴等だったよ。ていうは腹減ったぁぁ」 「もう! しっかりして下さい! で、良ければ、あのあのあのあのあ、お昼、一緒しませんか……っっ!!」 「やだよお前なんかと」 「えーーーーーーん!! こんなに先輩の事好きなのに!!」 「はいはい」 もう、少年時代には戻れないだろう。 けれど、彼の紳士服の背中にはあの日のカブトムシが着いていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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