● ノイズ混じりの炎が全てを焼き尽くしてしまった。 「なんで」 奇跡なんて、運命なんて、欲しくもなかった。 ただ暴力を振るう親へ、いなくなれ、消えてしまえ、と願ったのは認めよう。 「こうなるの」 憎かった。怖かった。それも認める。 でも。殺すまでしなくても良かったのだ―――いつか終わると思っていたから。 もはや乾いた笑いしか、出ない。 「お父さん、お母さん……幸せな未来を望んだのはいけない事だったんだね」 かくして、少女は鬼と成る。 呪うのは幸せそうな不特定多数。そして恨むは己自身。 「全部、全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部。 ぜええええええええええええええええええええええええええええええんぶ!!」 ふきとばしてやる。 ● 「皆さんこんにちは、最近暑いですね」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)は集まったリベリスタに世間話から始まって依頼の内容へと話を始める。 「代々リベリスタの家系の少女が一人、両親を殺してフィクサードと成りました。名前は『宮代 雅』。一四歳ですが、親の暴力に耐えかね、殺害。そのまま心神喪失状態のまま、町に出て――多くの人が亡くなります。その前に、どうにかして下さい」 依頼の内容は極めてシンプル。ましてや、戦闘経験の浅い少女の相手は楽だろう。 「ですが、アーティファクトがひとつ。『紅蓮の華』というネックレス型の物が。 特定のエリューションを作り出して、使役するものを首につけております」 紅蓮の華――炎のエレメントを召喚し、使役するもの。そのエリューションの能力は持ち主の怒りに依存するというもの。 「今は……怒りで我を失っている雅です。討伐して止めるも、説得して止めるも、皆さんにお任せします」 なんせ少女は――町のガソリンスタンドへ歩を進めているのだから。 「雅の家は既にアーティファクトのせいで火事になっていて、後々親御さんの遺体も発見されるでしょう……。それはおいておき……家を出て、騒ぎに成っている大通りを避けて裏路地を通ってガソリンスタンドへ雅は進みます。その裏路地で迎え撃ちます。挟み撃ちなんかもできそうですね、お任せします。此処を抜けられると結界等でも抑えられない程に人で溢れています。火事のせいでしょうか……見物客が、です」 そうして杏里は頭を下げた。宜しくお願いします、と付け加えて。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月22日(土)23:14 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●罪に背いて我忘れ 遠くの空は赤く燃えていた。それは己が作った罪の証だとはまだ知らず。 「雅さん」 『スウィートデス』鳳 黎子(BNE003921)は、まるで酔っているのかと思うほどに足取りが覚束無い少女――宮代 雅へと声をかけた。 「どうも、私は鳳黎子といいます。あなたを止めに来ました」 その声が聞こえていないのだろうか、彼女は歩む事を止めない。そして彼女の顔は俯いていて黎子の漆黒の瞳では表情を読み取る事さえできず。 何処に心を失くしてしまったのか、黎子が口を開いて次の言葉を探したとき。 「今晩は、お嬢さん。ちょっと足を止めて私達とお話してみませんか?」 『残念な』山田・珍念(BNE002078)が一歩前へ出てお辞儀をした。親愛の意味を込めて、彼女は顔に笑顔を添えてみた。 「……ふられちゃいましたかね」 しかしだ、反応はイマイチ。ぴくりとも反応をしない。 珍念の横を通っていき、『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 風斗(BNE001434)は躊躇いもなく雅へと近づいた。俯いた顔が見えるように、彼は雅の顔を覗き込む。 「……幸せを求めることは、何も悪いことじゃない」 風斗は彼女の瞳を、影で覆われた顔の中から探す。目を見てきちんと言葉を送れば、きっと、彼女も――何か反応――を? 「幸せ? そんなもの、無かったのよ、始めからあああ!」 憤った、というよりも何処にも焦点が定まっていない瞳が風斗を睨んだ。直後、少女の周囲には炎が。そう、接触を拒むのだ。 「まったまった、俺達の話を聞いてほしいんだよな」 召喚と共に熱風が裏路地に吹き荒れた。その熱風に髪を揺らされながら鷲峰 クロト(BNE004319)は両手の手のひらを見せて落ち着けと言ってみる。けれどもやはり。 「ま、こんなので落ち着いてくれればリベリスタなんていらないか……」 クロトは仕方無くフェザーナイフを手に、その切っ先を雅――ではなく、召喚された炎へと向けた。 『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)は奥歯を噛みしめる。目に見えるのは紅蓮に咲いた、悲しみの華。 これがリベリスタ全てに有り得た未来の姿なのか――嫌だ、こんなの、気に食わない! 「こんな未来、捻じ曲げてやりますよ」 ――運命の力と、奇跡をもって。 駄目だ。前へは行けない。ならば別の道を進むしかない。そう雅は振り返った、が、その先に立つのも同じくリベリスタ達だ。 「LADY雅、お前は自分を守ろうとしただけDA! 悪意ある殺人じゃないZE!」 『KAMINARIギタリスト』坂上 竜一(BNE000335)は機械化した右手を前に出して言う。一瞬だけ交差した目線、だが次の瞬間には竜一へと炎が飛んだ。 「熱いZE! 燃えるようだZE!! 戦場はこれくらい熱くないと俺のビートが――」 「実際燃えてますよ竜一さん!」 あわわ、と『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)は竜一に点いた炎を指さして言う。そしてすぐに雅へと碧眼を向けてから、一息吐いて。 「痛かったんですよね。辛かったんですよね」 ピクリ、雅の体が一瞬だけ揺れた。 「けど、今はもっと、怖いんじゃないですか?」 雅が自暴自棄になって、全部壊そうとしているのは何故なのか。それは恐怖心からだと舞姫は告げる。先の見えない未来、失くしてしまった家族、犯した罪の事。 だからこそ今、彼女には導き手が必要なのだ。今はまだ暴走して伝える事も全て右から左に流れるだろうが、分かってくれるまで諦めないと舞姫は誓う。 「嗚呼……」 『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740)は夜空を見上げた。地上は炎で真っ赤だが、空はなんて落ち着いているものか。こんな少女の起こす神秘事件なんてちっぽけなものに見えるのだろう。 でも、小さいからこそ、見逃せぬ。 両親がリベリスタ? それでも子供に暴力を振るった。 絶対正義? そんなものどこにも無いのだ。 ただ、佳恋はこれだけは言えると熱い空気を吸った。 「ここで踏みとどまらねば、貴女はご両親と同じ暴力をまき散らすだけの存在になります。ご両親の在り方を否定したかったのでしょう?」 ね、雅さん。と佳恋は言った。此処から先は―― 「うるさいうるさいうるさいうるさい! お前ら私の何がわかるの?! 私のなんなの!!!?」 ――少女が正気を取り戻すまでのチキンレース。そんな中、珍粘だけは怒った顔も素敵ね、と雅を見てひににと笑った。 「こうなっては仕方ありませんねぇ」 黎子は呟く。そして仲間へ相談通りに、と一言AFから声を流した。 それに頷く仲間たち。 遠くの空は、まだまだ赤く燃えている――。 ●圧倒的な力 雅の戦意を伺っていたからこそ先制を取ったのは雅だったが、その後に最速で動いたのはレイチェルだ。 雅から一番遠くにいる彼女――その手にあるハンドガンの銃口を宙へと向けた。 「宣戦布告したのは、そちらですからね」 シリアスに、本気の戦意を以てして。叩き直すのは少女の消えた心。 赤い瞳が語った直後、トリガーは引かれて弾丸は空中で弾ける。そして周囲を白よりも薄明な光が包んだ。 咄嗟に雅はその光に目を抑えた、だがその攻撃が牙を向けた先は周囲の炎。それらはその形を歪めて燃える。そして雅の背後から。 「わたしも――」 声がした。 斬――と横一線。揺れた炎を舞姫が切り伏せ、黙らす。 「わたしも、たくさんの人を殺しました」 「……は! 同じ人殺し!!!」 殺す――という行為は人としては許されざる行為だろう。例えば親殺し、例えば仕方なく一般人を切り殺した。五十歩百歩、殺しである事には変わりは無い。舞姫の悲しげな顔に、雅は狂喜の表情を返した。舞姫は、もう一度炎を叩き斬る。でも、今は生かすために剣を振るうのだ。 「親殺しはぜってーよくねぇ。でもさ、理由が理由だ。助けてやりたいって思ったんだよ」 背後に目を向けていた雅はその声に前方を見た。すればクロトだ。幻影か、それとも本物か。千本ナイフのようにフェザーナイフの雨が横から降り注ぐ。 「助ける!? 殺すの間違いでしょうがあああ!」 「違う!! 助けてやる、絶対だ」 クロトへ吠えながらも構えた雅。しかしだ、ナイフが突き抜けたのは召喚された炎。雅の身体には傷一つ着いていないのだ。 同じように黎子の鎌が炎へ切り込んで、消していく。だが彼女は雅を見ない――見てるのは炎。雅の眼前を鎌の刃が通って行った。ギリギリで当たらない位置を取り、黎子は器用に炎を消す。 「バカにしているんだろ、殺せよ!!」 生かされた? その行為に雅は理由も無く激怒した。すぐに周囲に炎が補充される。その炎は雅の怒りを読み取ってか、先より大きく燃え上がっていく。 「お前の親が与えたのは傷だけKA? 優しい思い出もあるんじゃないKA?」 竜一が炎へ鋭い眼光を向ける。消えろ――とでも言いたげな目線だ、だが炎を消すにはまだ力が足りない。 しかし彼の言葉は雅の心を揺らした。ぴくりと微動して、唇を噛む雅の姿は後方に居る竜一には見えなかったが。震える肩の意味は竜一には分かっていたはずだから。 「うああ、う……そんなの……そんなもの忘れた!!」 雅のナイフが竜一へと矛先を向けるのだ。彼女のダンシングリッパー。血で汚れたナイフが竜一の肩を切り裂いて、その機械部位がジジジと紫電が見え隠れする。 見境無く振るわれていくナイフをその頬に掠めた佳恋。そのまま手を伸ばして雅のナイフを持つ片腕を抑えた。 「落ち着いて、どうか話を聞いてほしいだけ」 佳恋の目に入ったのは紅蓮の華。片腕は雅の手を抑えたままだが、もう片方は長剣を持っていた。それが上から下へと振るわれる――ブゥン!と音を出して、雅の手前を剣が通り過ぎていく。「ひ!?」と声を出した雅――しかし紅蓮の華まで今一歩足りない。その剣は宙を縦に裂いただけで終わってしまう。 半身になって剣を避けた雅。その背後から炎が佳恋を襲った。 「話!? しないよ!! そんなの!! ほっといてよ!!!」 雅は佳恋の腕から逃げてガソリンスタンドの方向を見た。その頃にはもう炎は片づけられていて。 紅蓮の華が効かないわけでは無い。怒りが炎に力を与えていたのも本当だ。だが――これはどうしたことか。リベリスタと雅では戦力差に大きすぎる差があったのだ。 「馬鹿なんじゃないの!? 小娘のためにアークの精鋭が揃いに揃ってさあ!!」 再び炎は召喚される――再び放たれるのはレイチェルの光。 「小娘のためでも全力を尽くして助けるのがアークなんです」 「意味わからないし!!」 「今は……理解しろとは言いません。でも」 レイチェルは述べた。神気の光の余韻をその手に残しながら。その光は壊すために非ず。支援たる一途を歩み、命中を精密に組み立てた一撃。 「皆さんの言葉が、きっと貴女を正しい道へと運んでくれると信じていますので」 レイチェルの目の前。舞姫が切り伏せる炎。取りこぼした炎は風斗が切り刻んで存在を断つ。 「今からお前がやろうとしていることは、本当の殺人、いや『殺戮』になる。お前は本当に、そんなことを望んでいるのか?」 「余計なお世話ようう! だって、だってむかつくんだもん、普通の、普通の家庭があるやつ等がああ!」 だからといって、町を吹き飛ばして何になるというのか。 「やめるんだ。そんなことしたって何も変わらないし、辛いのも終わらない。お前と同じ思いをする子だって出てくるかもしれない!」 風斗は声を荒げた。けして怒っている訳ではなく、ただ、ただ彼女に思いが伝われと願って必死になっているだけなのだ。 彼の瞳は嘘はつかない。その目は真っ直ぐ一点。雅の瞳を捕まえて離さない。 「人殺し。その罪は背負っていくしかない。とても、苦しいことだけど」 舞姫の手は、炎を斬った手だが、多くの人を斬った手だが。それでも多くの命を救ってきた手でもあって――。 「あなたもわたしも、まだ幸せな未来を望むことは、きっとできると思うんです」 ――幸せな未来を望んだのは間違いだったんだね。 ちょっと前に呟いた言葉が、雅の頭を過った。 「望んで……良いの?」 ぽつりと呟いた言葉は、誰に聞こえただろうか。 「辛い事や嫌な事があればちゃんと耳を傾ける……すまねぇ、俺達に手助けする機会を作っちゃくれねーかな?」 クロトは重ね重ね、言葉を変えては彼女に声をかけた。 そんな彼らのやさしさが今は怖くて――幸せなんて夢を見る暇なんてなくて。 「なんで……優しくしないで」 説得完了まで、まだあと少し。 ●抵抗する意思さえ 攻撃が通らない、炎も意味がない。なら、もう強行突破するしか無いじゃないか!! 「貴女が死を振り撒くなら、私はあなたを殺さなければいけません。ですが」 黎子は双頭の鎌を振り回す。それが空を裂く度に炎が弾けて消えていく。そして走ってきた雅とすれ違った――その一瞬。 「死んでは駄目です」 「え……」 ぽつりと呟いた黎子の言葉は彼女の耳に聞こえただろうか。首だけ振り返った雅へ黎子は後姿で語った。 「宮代さん、貴女が本当にしたい事はこんな事ですか? 八つ当たりのように壊して周って、それで貴女は満足出来ますか?」 炎を斬って斬って切り伏せて――振り向いた黎子の目は真っ直ぐに雅を見た。 「満足、できる訳……ゎぶっ」 「はい、此処から先は通行止めですよ。ちょっと足を止めて私達とお話してみませんか?」 前方不注意で走ってきた雅を珍粘が抱きしめて受け止めた。 可愛い子には目が無い。逃避行中の非行少女なんて可愛くないわけが無い。珍粘はそのまま両手で雅を抱きしめて頬を首元へと埋めた。 「と、通して!? こんなところで……止まるわけには!!」 「はいはい。此処をどく事は出来ないんですよねー。貴女を止めるのが仕事ですし」 「なら殺しなさいよおお!! あんたらも人殺しに偽善者なんだ!!」 「まあまあ。そんな思い詰めた顔をした子を放って置くこと何て……出来ないですし」 腕の中で雅はもがいた。珍粘の腕に噛みついたり、ナイフを突き刺してみた。だが彼女は一切それに対して『痛い』と反応しない。 珍粘にとって可愛い子とは国宝級に尊い存在。だからこそか、それとも趣味の世界か。可愛い子から受ける傷はウェルカムな逸脱を果たしていた。 「それに」 くるり、抱きしめていた雅を180度回転させた珍粘。 「私、貴女みたいな可愛い子が大好きなんです」 雅が向けられた方向にはレイチェルがいつの間にか立っていた。 「……ソレ、壊させてもらいますよ」 褐色の指が紅蓮の華にあたった。瞬時、気糸を作った光が指先から漏れて。 「お母さんの!!??」 バキン その音が大きく裏路地を駆け巡り、少女が凶行を止めるを得ない状況にするには十分過ぎる理由ができた。 紅蓮の華は砕けて、欠片が散り散りになってコンクリートへと落ちていった。からん、雅が片方のナイフを地面へと落とし、焦りの表情をレイチェルへ向けた。 「大切なものでしたか……?」 レイチェルは呟く。その言葉に雅は慌てて違うと吠える。だがその意地の張り方にレイチェルは肩をすくめた。 「親御さんのこと、好きだったのですね」 珍粘は、砕けたそれを目に移しながら言う。なんとも不幸な事か、大切なものを失ってからその大切さに気づくとは。 「消えた……?」 佳恋は周囲を見回した。その瞳に見える消えていく炎。 「アーティファトの破壊でエリューションも、ですか」 どうやらアーティファクト効果で出現していたものだからこそ、本体が消えればエリューションも消えるパターンの様だ。 佳恋は己の武器を仕舞う。もう、戦闘するべきでは無いのだろう。 未だほぼ万全の状態にあるリベリスタ達八人が、少女一人を殺して黙らすというのは容易い事だろう。だが誰一人、彼女を最終的に殺すと判断してきた者はいない。 「一緒に、行きませんか?」 舞姫が呟いた。そして手を差し伸べた。 『行く』はアークへ。そこが彼女の楽園に成るかは解らない、されど。現状を打開するためには大きな前進に成る事を願って。 「俺らの事、頼っていいんだ。自分だけで生きようとしなくていいんだ」 クロトはナイフを仕舞って言う。もうリベリスタに戦意は無い。少女一人のために、闇から救うにはきっと言葉が正攻法なのだろう。 揺れる雅の目線がリベリスタ達を一人一人見た。静寂の雑音だけが周囲を支配する。 「何か言いたい事があるならSA☆ 遠慮せずに言っとくべきだZE」 その瞳を汲んでか、竜一はそう声をかけた。しばらくしてだった、彼女が口を開いたのは。 地面に散らばった形見の残骸を拾いながら、少しずつ言葉を紡がれていく。 「炎に巻かれてさ……ナイフで刺したりさ……私ってさ、立派なフィクサードじゃん。親殺しだし、でももうこれしか」 「何を!?」 レイチェルははっとした。残骸を拾い終え、雅は残っていたもう一方のナイフが己の首に刃をヒタリと当てたのだ。 「もう自分自身を恨むのをやめNA! おまえ自身が自分を許さない限り、お父さんもお母さんも微笑まねぇ!」 「待って、自殺なんてそんな事する必要は無いんですよ!? まだ、まだ引き返せるから!!」 竜一を佳恋は叫んだ。何故そこまで己を恨むのだろう――何故そこまで許せないのだろう。 そうか、まだ解ってないんだ。 咄嗟に風斗が走った。慈悲の加護を持った己の武器でナイフを弾くか――いや、剣じゃ刃がでかすぎる。なら。 「っつ!!」 「きゃあぁ!? 何してるの!?」 風斗は己の手で彼女のナイフの刃部分を握って、雅の首を滑ろうとするナイフを止めた。彼の利き手からは血が溢れ、雅の肩を濡らしていく。 「もう一度言う。幸せを求めることは、何も悪いことじゃない。もしまだお前が、今でもそれを欲するなら……そのナイフから手を離せ」 ぽたり、ぽたりと落ちていく血。 「これまで辛いことがあったのなら、貴女はその分幸せになるべきだと私は思います」 黎子は地面に落ちている片方のナイフを拾い上げた。どうか、彼女が生きて罪を償いますよう――。 「親が好きだったのであれば、二人の分生きるべき。そうではないですか?」 黎子の言葉に、雅はひとつの涙を瞳から落とした。それはアスファルトに落ちてシミになるだけ。 もしも罪が償えると言うのであるならば、生きていて。 やっと、目線を合わせて言葉を伝えられた黎子の言葉だ――雅はナイフから手を離し、倒れこむように風斗の胸で泣いた。 遠くの空はもういつも通りの暗さに戻っていた。舞姫に手を引かれて歩く雅はまだ俯いていた。 まだ親の死を受け止められなくて。 まだ自信の過ちが許せなくて。 でも、これからの生活で少しずつ幸せを見つけられる場所へと希望を持って。 「自分に似たような子を助け続けるのもアリだZE」 「……うん」 竜一はいつにもなく、うるさくもなく、優しい言葉を雅へとかけた。目標さえあれば、生きる道さえあれば、きっと人は迷う事は無いのだろう。 その時、雅の腹部から空腹を知らせる音が鳴る。クロトがそういえば、と。 「行くときコンビニで食べ物買ったんだが食うか?」 「ま、まあ……ちょっとだけ……」 世界って優しくないんだよ。 それでも隣に支えてくれる誰かが居てくれるのなら。 リベリスタ九人の帰路を、朝日が温かく見送ってくれた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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