●必要なもの:いわし 「給餌です」 作戦司令部第三会議室。 フォーチュナー『悪狐』九品寺 佐幽(nBNE000247)は心底どうでもよさそうな面持ちだ。 「ペンギンにエサをあげてください。以上です」 起立、礼。退場。 さっさと帰ろうとする佐幽をどうにか抑えつけて、リベリスタは説明を強要した。 佐幽は渋々と答える。 「Dホールから空腹で死にかけてるペンギン型アザーバイドが倉庫街の冷凍室に多数現れました。放っておくと餓死します。以上」 また帰ろうとするのでつい尻尾を引っ張ると、露骨に嫌な顔をされてしまった。 「弱いです。放っておくと死にます。死んだら片付けておしまいです。選択肢は主に三つ。餓死するまで放置する。給餌して生きて故郷へ返す。積極的に殺す。どうしても助けたかったら助けてもいいですが、エサは皆さんで用意してください。いいですね」 佐幽は資料一式を手渡すと、今度こそ帰り支度をはじめた。 それにしても機嫌が悪い。一体、どうしたのか。 「……毎晩、夢に出てきて眠れないんです」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:カモメのジョナサン | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月11日(火)23:09 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●冷凍庫でファッションショー 仲間はずれ、だーれだ? 冷凍倉庫に到着したリベリスタ一同はおもむろに皆、防寒着を着用する。 ――忘れてきた子、手ぇーあげて。 「ひー、ふー、みー」 『さぽーたーみならい』テテロ ミミミルノ(BNE004222)は舌ったらずな調子で指折り計算する。 円らな瞳のライオンさんで全身もふ装したミミミルノの愛くるしさは、一種のファンシーテロだ。ここまでもふっるしてれば寒さもなんのそのだ。 せっかくなので全員の防寒対策にご注目あれ。 さぁファッションショーのはじまり、はじまり。 背景が暗転、冷凍倉庫の扉から流出する冷気をスモーク代わりにモデル達が優雅に登場する。 エントリーNo.1。 『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)。 白雪の姫君は可憐に、慎ましくも優雅に振舞い、闊歩する。白のケープを主軸に、クリームのコートや手袋を身に纏い、ロップイヤーを彷彿とさせる淡雪色の飛行帽をお洒落に着こなしている。 エントリーNo.2。 『バイト君』宮部 春人(BNE004241)。 涼風の少年は軽妙に、少々照れ笑いを浮かべつつ歩む。紺のパーカーを前髪が隠れるまで深く下ろした顔つきは心なしか普段より大人びてみえて、純朴なだけではない春人の一面を映す。 エントリーNo.3。 『まだ本気を出す時じゃない』春津見・小梢(BNE000805)。 その防寒スーツはどこからどうみてもペンギンながらも、よちよち歩くさまは愛くるしい。しかし歩きづらい。あ、転んだ。じたばたどたばた。起き上がれない。 エントリーNO.4。 『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)。 趣味者たる彼女の某国軍服は極寒の行軍を幻視させる。雪国育ちの上、ハーフムーンに深化したベルカはより狼犬に近づいており、ともすれば一糸纏わずとも雪原を疾走できそうなほどの野性味を秘める。それでいて軍服に相反する重たげな胸元は扇情的だ。 狼犬は軍旗『четыре』を高々と掲げて凛と行進する。ぎゅむ。春津見ペンを踏んづけて。 エントリーNo.5。 『千歳のギヤマン』花屋敷 留吉(BNE001325)。 くるりんぱ。きゃっと空中三回転、軽やかに着地して春津見ペンギンの上にきゅむっと足跡つけて留吉は降り立つ。和風の羽織りをふかふかと、アクセントに暗い赤茶の襟巻きを垂らしたさまは渋かわいい。 エントリーNo.6。 『三高平の悪戯姫』白雪 陽菜(BNE002652)。 「にゃんにゃ~ん!」 「ごふっ」 陽菜、春津見をトランポリンにして留吉の尻尾をキャッチ&もっふる。ショー時空の舞台セットや暗幕ごと巻き込んでドンガラガッシャンだ。 「この肉球の肌触りたまんない~!」 「あ~う~、あのちょっと……」 「重いよー、どいてよー」 かくてアーク鏡餅の出来上がったとこで最後の一名、街多米 生佐目(BNE004013)にご注目を。 彼女、防寒着を忘れてます。肩や腋まで晒してます。 「……皆こっちを見て、何です?」 「さむそーですっ」 「同志街多米、この冷凍倉庫はバナナで釘の打てるF3級の極寒だ。そんな中、変温動物のトカゲの因子を宿した同志がその格好……」 ベルカ帽の赤い星がぺかぺか輝く。 「さては特訓だな! この機会に寒中行軍の訓練を積んでおこうとは見上げた根性!」 「……え?」 「ぬぁらば!」 バッと緑衣を翻して何とベルカは水着姿に早着替え。生佐目と陽菜の首ねっこを掴んで、豪快に冷気這い寄る冷凍倉庫へと突撃する。 「ちょ、ま」 「アタシまで!?」 ゴートゥアイスヘル。普段着の、つまりミニスカに半袖と油断してた陽菜まで一緒にだ。 冷凍倉庫は凍てつく死の世界である。 「寒い寒いさむさむさむさささささささ」 「――つ゛べだい!」 されとて趣味者は心躍らせ、遠吠える。 「祖国よ! 私は帰ってきたァーッ!」 ●謁見 ピコピコペモペモ。 氷山を登る系のレトロゲームを遊ぶ第三皇子。第一皇子は「合格」と記されたハチマキを絞めて受験勉強に勤しみ、第二皇子は左右よりちびっこい桃色の第二、第三皇女に「遊んで遊んで」と引っ張られている。帝王はゴロゴロ転がっているだけだ。 『エサを献上せよ』 と后は電波ゆんゆんテレパしっている。 「ぺんぎんさま、こんにちは。僕たち、ご飯を献上しにまいりました」 留吉が丁寧に猫背を丸めてお辞儀する。 「両陛下におかれましてはご機嫌麗しく」 スカートの裾をちょんと摘み、淑子は気高く淑女の礼を捧げる。 タワーオブバベルの異才に拠り、その言葉は立て板に水だ。 『拝顔の栄に浴する事叶い、たいへんうれしく存じますわ。わたくしは浅雛淑子と申します。どうぞお見知りおき下さいませ』 ふわっと微笑みかけると、極寒の支配する空間に爽やかなマイナスイオンが薫る。 『苦しゅうない、面をあげヨ』 皇帝は丁重な扱いにご満悦の様子だ。礼には礼を。丁重に扱えば相手もソレに応えてくるものだ。 六匹の皇子、皇女たちはその背中に隠れてひょっこり顔を覗かせる。 不意に左上右下とぐるぐる連なって輪を描く。ふつくしすぎるなめらかさだ。 「亡命者の舞ゾヨ」 「亡命者違いですよソレ――!?」 宮部 春人、本日のツッコミ担当である。 ●CM 吹雪の中心で哀を叫ぶケモノ。 「同志ぃぃぃぃ! なぜだぁっ!」 旧き戦友の亡骸を抱きかかえて、ベルカは号泣する。 「はは、今度こそ、血に汚れた私の過去を洗い落とせると想ったのに」 その手に握るは、友の形見――たわし。 “一生消せないモノがある” “消せるモノは徳用たわしで” ●食わず嫌い帝王決定戦 『そなた達もいっしょに食べるがヨイ』 『共に食卓を囲めば、料理はもっと美味しくなるゾヨ』 と、存外まともなことを言い出した帝王の粋な計らいで冷凍倉庫に畳敷の一間が設けられた。 琴を主とした和風の雅楽が流れる中、一同は席につく。 “食わず嫌い帝王決定戦in冷凍倉庫” 『さぁいつも依頼で活躍するリベリスタの皆さんにはどんな食わず嫌いが隠されていますのやら。そして迎え撃つは皇族一家様』 進行役の淑子はすらすらとウグイス嬢のように美しく囀り奏でる。 『ルールはお手軽、お互いにメニューより一品注文、相手チームに実食していただきます。嫌いなもの、苦手なものなど、その一品をチームで食べきれない場合、負けとなります』 そこまで帝王に渡された台本を読んだところで淑子は冷や汗を流した。 (もしかして、これは巧妙な罠……?) 献上した料理八品がメニューはさっと目を通しただけで地雷揃いだ。 まさか、自分たちで食べるハメになるなんて。 しかも友好的な遊戯ルールに則ることで安易に拒否もできない。毒見の意図もあるのだろう。 (……そう、女の子は優雅に、よね) 淑子は爽やかに微笑み、何かをごまかした。 『先手、皇族チーム』 皇族一家は相談をまとめると、淑子に注文をこしょこしょ告げた。 『先手注文、たわし』 迸る電流。 視線はベルカに殺到した。 「む、無実だ! ほら、私のたわしはここにある!」 「ですよね……、流石にたわしを食べさせるのは無理が……」 蒼ざめた春人が左右を見回すと、寒々しさに凍えていた生佐目がついっと視線を反らした。 『大丈夫ですよ、我々の世界ではこれは極上の珍味ですから』 ――と生佐目は述べて、皿に山盛りの熱々ジューシーな“食べるたわし”を献上していたのだ。 「生佐目さん……?」 「い、いやぁ、私は医者にたわしを食べてはいけないと」 一同、じと目。 「どうか、どうか!」 悪魔スゲェ土下座を披露するが、あまりの自業自得ぶりに春人は静かに首を振る他なかった。 『後手、箱舟チーム』 アーク一同も必死だ。ここで皇帝一家にも食えないものを出さないと敗北、罰ゲームだ。何も任務失敗とは無関係とはいえ、地獄の責め苦は回避すべく引き分けを狙う。 というわけでメニュー注文だ。 「アタシの用意した塔チョコ(ガチ)は?」 「さむーい、カレー食べたーい」 「ミミミルノはしんしぇんなイワシをよーいしてきましたっ!!」 「僕はお魚と鮎菓子とスティックケーキ、気に入ってもらえるかな?」 春人ツッコミ一打。 「みゃっ」 「いや、気に入ってもらっちゃまずいですから……」 春人は悩む。ここは消去法で選ぶ他ない。 『後手注文、塔チョコ』 カロリー甘味爆弾というべき魔女の塔チョコと熱々揚げたて食べるタワシ。 生佐目と第一皇女が席につき、沈黙を守る。 『双方、実食』 「みゃ~」 第一皇女、塔チョコにガブリンチョッ。見てるだけで胸焼けする魔女の塔を、クチバシでつっつき着実に削り取っていく。そのペースは衰えることを知らず、第一皇女は満足げだ。 「ウソッ!?」 「わかるよー、すっごくおなか減ってる時は寸胴一杯分のカレーでもぺろりだよね」 「このまま罰ゲームなんてイヤ! だったら――」 食べるたわしを眼前にして、正座したまま冬眠寸前の生佐目。陽菜はその雪積る肩をポンと叩く。 「はい?」 「beHind You」 死神のごとく、陽菜は妖しく笑った。 「食え」 「もがががが!?」 スターたわしブレイカー。あいてはしぬ。 ●サポートの星 約一名の尊い犠牲を払い、皇族一家とそこそこ一同は打ち解けることができた。 街多米 生佐目、貴方のことは十五行くらい忘れない。 とかく、主に淑子のヨイショのおかげで無事に戦闘などもなく空腹が満たれば帰ってくれそうだ。 「あ! ミミミルノすいぞっかんのエサやりおもいだしたのです! なげるとすごいスピードでゲットするのです! リメンバーイワシ!」 心躍らせ、第三皇女と第三皇子にイワシをちらつかせてみる。 「てやや~っ」 ぽーい。べちっ。 ……しーん。動かざること不動明王の如し。 「あれっ? も、もっぺん!」 ぽーい。べちっ。 ……しーん。動作がない。ただのしかばねのようだ。 「あれっ?」 なぜ、どうして。うーんうーんと知恵をしぼって考えてミミミルノ。 「あ! はっそーのぎゃくてん! すごいスピードでなげるとゲットするのです! てやや~!」 ミミミルノ選手、大きく振りかぶってイワシを投げた! 剛速球! バッター、第三皇子! 見送ったーっ! そして休憩中の生佐目にイワシ刺さったァッ! 痛烈なデッドボール! 「たわしの、呪、い……」 頭にイワシの突き刺さったまま、生佐目はばったり事切れる。 「ぴゃあーーっ! だいしっぱい! おねえちゃんにおしりぺんぺんされるのです~!」 イワシをすっぽぬき、あわてて詠唱。回復、回復、超回復。それが本日最初で最後のサポートらしいサポートであった。 ●甘いものなーんだ? 「どうぞ、お食べください」 正座した留吉はシャッキリ猫背にならず、綺麗な姿勢で献上品を差し出した。 魚の形のかわいい鮎菓子に果物たっぷりフルーティーなスティックケーキだ。 (僕の大好きなお菓子、気に入ってもらえるかな) 留吉の相手はお后様、桃色でロイヤルなティアラで着飾っていらっしゃる。 お后様はしばらくじっと正座していたかと思うと、コロンと転げた。 『シビレましタワー』 「たはは……」 『あーん』 寝っ転がったままおねだりする后様、女子力皆無。 「どうぞ」 『ふこふこ』 一口ずつちびちび鮎菓子を堪能する后様は、とても素直で天使みたいに愛らしい。口の端についたクリームをハンカチで拭う。なんだか子供じみている。 それにしたって美味しそうだ。じゅるりっ。 (うー、がまんがまんっ) 『ほれ』 鮎菓子の、尻尾のクリームなしの部分だけを后様は差し出した。 『お食べ』 (逆に恵まれた!?) 『ワラワのスウィーツが食せぬと申しまスノー?』 「いただきますっ!」 きれっぱしだって美味しいことに代わりない。留吉は物足りなさを感じつつもじんわり体の奥底で拡がる甘さに打ち震える。にしても、后様はきっと呑まず食わずで過ごしてきてまだ食べ足りないはずだろうに。じつは食事に嘴をつけたのも一番最後だ。 ちょっぴり不条理だけど、なぜだか素敵。そんな不思議な后様でした。 ●詐欺 「ほ、ほらー、鰯だよー……?」 おそるおそる春人はイワシをちらつかせ、いつもペンギン団の首領にそうするように口元へ運ぶ。 『ぷいっ』 『ぷぷいっ』 拒否られた。拒否られついでに春人はつんつく突かれる。なぜ。 「いや~ん」 ぽえーんと気のぬけた悲鳴は春津見の他には居まい。つんつくつん。ビリッ。ビリビリッ。 残念ながらペンギン着ぐるみにつき衣服が破けてもサービス度ゼロです。 「焼き魚定食もダメだったよー」 みれば、湯気が冷めている。冷めても美味しい食べものでないと不評らしい。 「表題に偽りあり、ですね……佐幽さんってば」 「はっ、もしかしてこれペンギン団の鰯の貯蔵量を減らして首領様を飢えさせる高度な作戦!?」 脳裏を過ぎる、悪狐のにやり笑い。 「そんなまさか……一体なんの目的で!?」 春津見は探偵キャップを被り、推理する。 長い沈黙。 「どっちでもいいや、カレー食べたい」 ずっこける春人をよそに、春津見はなにかを閃いたのか準備をはじめる。 「なにするんです?」 「カレー作るよー、手伝って」 春津見は非常用のガラムマサラを調合、春人にあれこれ指示を出して料理をはじめる――。 一方、ベルカ。 「まずは黄金たこ焼き! 粉物文化の粋を熱々はふはふ味わうが良いわ!」 はふっ、一口食べる帝王。 ぺいっ。なんと笹船ごとたこ焼きをひっくり返されてしまった。 獣騎のなせる業か、バラバラに空を舞うたこ焼きをベルカはものの見事にお口でキャッチする。 「ほほほふほ!(抗議)」 『たわけ、余は猫舌であるゾヨ』 ここまで言い切られるとかえって清々しい。さすが帝王、難敵だ。 ちなみに通訳は淑子が行っている。 「ええい亡国の皇帝め! しからば次なるはオーク戦火燻製!」 ぺいっ。曲芸再び。 「ふががふが!」 『酒なしの肴なぞ片手落ちゾヨ』 「ぐっ、それは悔しいが一理ある。祖国の幻の名酒、アルコール度数98の伝説のウォッカ“エストーニャ”さえ手元にあれば……!」 が、諦めず。 「からあげ(レベル5)! いつからからあげにレベル制が導入されたのだ!」 『せめてレベル20にして出直すゾヨ』 「遠っ!? ならば最後に控えしはイヴァシー!! 高貴な身分の口に入る事はあんまり無い大衆魚である。だから良い。さぁ食せ!」 カッ。帝王ペンギンは熾烈な眼光を放った。 『ふざけるヌァッ! イワシなぞボトムでも魚に弱いと書いて鰯と記す下賎の魚ゾヨ!』 何と、帝王はイワシ大好きどころか大嫌いだったのだ! 「な、なんだってー!?」 がっくりとベルカは膝をつく。佐幽の表題『必要なもの:いわし』は大嘘か。 『そもそも革命は、あろうことか余の食卓に『イワシしか持ってねえ!』と家臣がイワシ料理を出してきたことが発端ゾヨ! ちゃぶ台をひっくり返したらコックのセーガルに手首コキャっと革命おこされたゾヨ!』 「コックに負ける、て……」 陽菜の床に落とした高級猫缶が、甲高い音を響かせた。 「……いや、コックなら仕方ない」 なぜか力強くベルカは首肯した。 ●変革 「イワシがまずいだなんて、きっと偏見ですよ」 脚光が注ぐ。 「だって、うちのペンギンの……ボスの大好物なんですから」 春人と春津見は颯爽と帰ってくるや否や、蓋の閉じられた大きなカレー皿を台に置く。 誰もがその道程を、固唾を呑んで見守った。 「気をつけろ、同志カレースキー! 帝王はカレーのように熱いものは――!」 「だいじょーぶ」 力強く微笑んで、春津見はカレー皿を帝王の下へ差し出した。 「ボクらの、おもてなしを」 「どーぞご賞味あれ、Go Show me!」 銀の蓋が開かれる。輝かしい光を伴って。 『こ、これは』 帝王に正確な通訳を求められて、淑子自身も驚きつつ、その料理名を口にする。 『イワシの冷やしカレー』と。 湯気立つ熱々のカレーとは一線を画する冷たいカレーは、しかし「冷めた」カレーではない。スープカレー系のあっさりした軽さに専用のスパイス調合を施し、イワシの削り節でダシを取って冷めてもくどくない魚介系スープを元に、涼しげな夏野菜、冷めても美味しいイワシの唐揚げを盛りつけてある。 帝王は一瞬その皿をひっくり返そうとも試みたが、しかし香辛料の薫りに矛を収める。 『よかろう』 そして自らスプーンを手に、一口を食した。 沈黙の一時、緊張の一瞬。 『セーガルに謝らねばナ』 淑子の告げた通訳に、歓喜の嵐が吹きぬける。しかしこの通訳は無用だったかもしれない。 なにせ、カレー皿はすぐに平らげられてしまったのだから――。 かくて皇族一家は無事にDホールの向こう側へと帰還した。 イワシの価値を認めた帝王は、コックにちゃんと謝って許しを乞うつもりだそうだ。 めでたし、めでたし。 ●後日談 「……失礼」 後日、佐幽はまたもや即時撤収を計る。 「待って!」 くいっ。 目の下にクマをこさえた佐幽は冷たいナイフの瞳をベルカへ向けた。 「そう露骨に嫌な顔をされては! 余計に引っ張りたくなるではありませんか、同志九品寺!」 その悪戯げな面にしっぽビンタをお見舞いして。 「――時どき夢に出てくるのです、“また遊びにくるゾヨ”と」 ※その後、佐幽のごきげんは春津見のからあげで治りました。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|