●獣 獣が吠える。狼と、虎と、それからライオン。この国で暮らしていれば、動物園以外で見かけることのないであろう獣達だ。その雄叫びは、まるで地の底から響いてくるかのような重低音。腹の底が震えるような、ある種の恐怖を感じる声だ。 本能が獣を恐れているのか。 それとも、彼らの持つ特異性によるものか。 それは分からないが、少なくとも辺りにいる他の獣は皆、彼らに恐怖し、震えて姿をくらませた。空を飛ぶ鳥すら見当たらない。 彼らはE・エレメントだ。偶々獣の姿を得ただけの、E・フォース。その証拠に、狼の体は氷で、虎の体は雷で、雷音の体は炎で出来ている。 歩く災害。自然現象と獣の二重の脅威。獰猛で容赦ない、怪物である。 そんな奴らが、真昼の公園に姿を現した。平日の昼間だ。そこまで公園を利用していた人数は多くないが、それでも異形の獣が現れれば、小規模ながらもパニックが起きる。 腰を抜かす者、逃げ出す者、気を失う者など様々だ。 都会の真ん中にある自然公園。獣たちはその場を気に入ったらしく、公園で座り込み、日光浴と洒落込んでいる。いくら日光を浴びたところで、彼らの体にはなんの変化も訪れない。獣の本能に従った行動。 そして、もう1つ。 自然法則に従った行動として、彼らは唐突に、理不尽に被害を巻き起こすのだ。 ●自然 「E・エレメント(氷狼)、(雷虎)、(炎獅子)の3体。獣の本能に従って獲物を襲い、自然の法則に従って気紛れに被害を及ぼす、そんな奴ら」 今のところは停滞しているけど、と『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は言う。現在、獣たちは公園で休んでいる所だ。しかし、いつ何時公園を出て行って、街をめちゃくちゃにし始めるか分かったものではない。 「おまけに、現在公園には小学生男子が1人、取り残されている。獣に恐怖し、気絶したみたいね」 このまま何事もなく、獣が公園を出ていくか、小学生に気付かなければ良し。 そうでない場合、例えば、獣が少年を獲物と判断した場合、悲しい悲劇に直結するだろう。 「そういう悲劇を起こさないようにするのが貴方達の仕事。奴らとコミュニケーションなどとれると思わないように。被害が出る前に討伐してきて」 相手は獣だ。勝てないと分かれば、逃走を図ることもあるだろう。 獲物と判断されなければ、こちらに興味を抱くことすらないかもしれない。 どちらにせよ、野放しにできる相手ではない。 「名前の通り、氷狼は氷を、雷虎は雷を、炎獅子は炎を使った攻撃を得意とする。またそれらに対しての無効化能力も。この中でフェーズ2なのが炎獅子。残る2体はフェーズ1」 今のところ3体が纏まってその場に居るが、この先もずっと一緒に行動するとは限らない。種類の違う獣だ。属性も異なる。一緒に居る方がレアケースと言ってもいいだろう。 それでも、今のところ彼らが同じ場所に居るのは理由がある。 「彼らには融合能力のようなものがあるの。お互いの同意、或いは、お互いを捕食することによって喰った獣の能力を得ることができるみたい」 生き抜くためには力が居る。餌が居る。彼らにとっての一番の餌、力の源は自分と同様の存在である他の獣だ。 「融合すると、格段に強くなる。できれば避けたいところだけど……」 その辺りは作戦次第。そう呟いて、イヴはモニターを消した。 「十二分に注意して、くれぐれも相手に飲まれないように」 自然の力を内包する敵だ。注意して、警戒して、打ち勝つことが重要になってくる。なにしろ、自然に飲まれた者の末路は、決まっているのだから。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月06日(木)23:35 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●災害の眠る公園 空気がピリピリと震えているのを感じる。足元を流れる空気は冷たく、一方で顔に当たる風は夏に吹くそれよりも熱かった。グルル、と地の底から響くような唸り声。芝生の敷き詰められた公園で、日光浴でもしているかのように寝ている3匹の獣。 氷の狼と、雷の虎、そして炎の獅子である。 「やだ、倒さなくてはいけないのに、お昼寝姿ちょっと可愛いじゃないですか」 口元に手をあて、そう呟いたのは『天の魔女』銀咲 嶺(BNE002104)だ。 「気持ちいい日向ぼっこの最中に悪いわね」 芝に伏す獣たちへ向け『薄明』東雲 未明(BNE000340)が声をかける。 「赴くままに暴れさせるわけにはいきませんので」 散らせていただきます、と雪白 桐(BNE000185)は愛用の特徴的な形状の刀を掲げる。それを見て、獣の1匹、雷虎がのそりと起き上がった。 3匹の中では最も好戦的な雷虎は、あくびを1つ零すと、牙を剥きだしにして唸り声を上げる。そんな雷虎の様子を、炎獅子と氷狼はじっと眺めていた。 「雷で出来た虎なんて、ヤル気そそるじゃないか」 にやりと笑って前へ出る『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)。虎の因子を取り込んだビーストハ―フ故か、雷虎に興味があるらしい。 「雷虎、氷狼、炎獅子の順番で狙っていくぜ」 十字架を模した大型のボウガンを構え『アッシュトゥアッシュ』グレイ・アリア・ディアルト(BNE004441)は、雷虎に狙いを付ける。移動速度の速い雷虎相手だ。狙いを付けたところで、そうそう簡単には命中しないかもしれない。 「いつものことながら、エリューション様方は現れる場所を考えては下さいませんね」 雷虎の相手を仲間に任せ『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260)はターゲットを炎獅子へと絞る。雷虎と氷狼を撃破するまでの間、彼女の役割は炎獅子を抑えることだ。 「高藤、押して参る……なんてね」 そう告げたのは『上弦の月』高藤 奈々子(BNE003304)だ。彼女の言葉が合図だったかのように、雷虎と牙緑は同時に地を蹴り、駆け出した。雷虎が放電する落雷のような音が公園内の空気を大きく揺らす。 自然災害の獣たちとの抗争が、たった今、開始されたのだ。 ●喉かな昼間に、渦巻く災害 「戦闘前に面倒事が1つ……。小学生が1人、逃げ遅れているのよね」 轟音轟く公園を駆ける黒い影。戦闘には加わらず、公園内を全速力で走っているのは『深紅の眷狼』災原・闇紅(BNE003436)だ。現在、獣たちに半ば占領されたこの公園内に、たった1人、小学生が取り残されているのである。 彼女の役割は、取り残された男子を見つけ出し、安全な場所へと避難させることである。 「ホント面倒だけど……最優先事項だものね」 当たりを付けていた場所を優先に、物影など探して回る。そんな中、見つけたのは獣たちの背後、噴水の影だ。なんとなく、嫌な予感が脳裏をよぎる。 今し方見えたのはなんだっただろうか? 噴水の影に覗いた顔は、人の、それも子供のそれではなかっただろうか? 面倒な……と、呟いて闇紅は進路を噴水へ。 そして、闇紅同様に少年の存在に気付いた氷狼が立ち上がり、噴水の裏へ向かって移動を開始したのだった。 噴水目がけて駆け出す闇紅。だが、間に合わない。闇紅よりも先に氷狼が少年を発見することになるだろう。そうなった場合、待っているのは残酷な結末だろうことが用意に予想される。 それを阻んだのは、桐だった。振り下ろされる大剣はマンボウに似た独特の形状。風を切り裂き、地面を叩き割る。 「暑くなってきた今時分に冬の化身の方ですか? 季節外れですのでお引き取り願えますか?」 身体ごとぶつかるような捨て身の1撃が、氷狼の体を切り裂く。血液の代わりに氷塊を散らし、氷狼は地面を転がった。 その隙に、と闇紅は噴水の影へと飛び込んだ。案の定、そこには意識を失いかけた少年の姿。恐怖で呆然自失としている彼を抱き上げ、元来た道を引き返す。そんな2人を庇う桐。眼の前で起き上がる氷狼。怒り心頭、と言った様子。牙を剥いて、唸っている。 直後、氷狼が跳んだ。跳んだ先には闇紅と少年。咄嗟に間へ割って入る桐。 その時だ。闇紅と桐の周囲に無数のつららが現れたのは。 「しまった……」 そう呟いたのは果たしてどちらだっただろうか。無数のつららが降り注ぐ中、闇紅は少年を庇いながら駆け抜けていく。闇紅を追おうとする氷狼に飛びかかったのは桐だった。 「一時離脱させてもらうわ……」 「えぇ、お願します」 軽く視線を交わす2人。つららに身体を貫かれながらも、闇紅はトップスピードでその場から離脱。脇目もふらず、公園から飛び出していく。 桐もまた、肩や腕をつららに貫かれながら氷狼との戦闘を続ける。仲間達が来るまで、氷狼を引き付け、抑えておく。それが彼女の役割であった。 グルル、と唸る炎獅子。その度に、周囲の温度が上昇するのを感じる。高温による周囲との温度差の為か、僅かに炎獅子の姿が歪んで見える。 鉄扇を掲げ、炎獅子の前に立ちはだかるリコル。ものの数歩で、攻撃が届くという距離だ。 これほどまでに接近を許し、その上でなお、炎獅子は芝に伏したままであった。 燃えさかるたてがみ。高温を発する体。炎を内包した瞳。その全てがリコルを威圧する。 「百獣の王たる方! わたくしとお相手願います!」 いきなり攻撃せずにそう宣言したのは、彼女なりの礼儀だろうか。それを受け、炎獅子は静かに立ち上がった。たてがみを構成する炎の勢いが増す。チリチリと焼けつくような感覚がリコルの頬を引きつらせた。 パーフェクトガードを発動し、守りを固めるリコル。 対して炎獅子は、その身に火炎を纏い臨戦態勢を整える。 「なるべく散開したまま戦闘を進めたいところよね」 未明の振り下ろした大剣による1撃を、軽いステップで回避する雷虎。落雷にも似た放電音を撒き散らし、一瞬で数メートルは移動しているようである。 雷虎の放った雷が、一瞬で虎の形に変わる。大きな口を開け、虎は未明を飲み込んだ。弾ける閃光。感電し、その場に膝を突く未明。虎の動きは止まらない。未明を貫通し、背後にいた奈々子に喰らい付く。 「……っく」 素早く戦場を駆けまわり、隙を見ては積極的に襲い掛かってくる雷虎に、リベリスタ達は翻弄されていた。未明と奈々子を庇うように、グレイが2人の前に移動する。 雷虎の動きを封じるべく、嶺が無数の気糸を放った。 「鶴の嘴は猛獣の脳天をも穿つといいますが、私の攻撃はいかがですかしら?」 宙を駆ける無数の気糸は、彼女を中心に四方八方へと飛んでいく。狙うは雷虎だけでなく、氷狼や炎獅子も、だ。氷狼は氷の壁で、炎獅子は身を包む業火で糸を防ぐ。 「やりますね」 嶺が呟く。最後に残った雷虎も、高速で地を駆けピンポイントを回避しようとする。 気糸が雷虎の脚を撃ち抜く。よろける雷虎の眼前に、牙緑が飛び出した。 「そんなんであちこち行かれたら迷惑なんだよ。オマエはどこにも行かせない」 高速で振り抜かれたナイフが、真空の刃を発生させる。気糸に貫かれ動きの止まった雷虎の体を、真空の刃が切り裂いた。血の代わりに電気を飛び散らせながら、雷虎は悲鳴にも似た鳴き声を上げる。 その直後だ。雷虎の姿が消えたように見えた。 否、そうではない。一瞬で大量の電気を放出し高速で飛び出しただけだ。雷の塊と化した雷虎が、牙緑に襲いかかる。 「っと……。やらせてもらうぜ」 牙緑の頬を掠め、黒い矢が雷虎に突き刺さる。収束した暗黒のオーラだ。それを放ったのは、グレイであった。十字型のボウガンを掲げ、雷虎に狙いを付けている。まっすぐ牙緑を狙ってくるのなら、狙いをつけるのも簡単だ。 「テメェには弱体も効くだろう?」 にやりと笑って、グレイは呟く。暗黒のオーラに浸食されながらも、雷虎は雷撃を解き放った。雷撃を浴びながら、牙緑は飛び出した。 皮膚が焦げる嫌な臭いが周囲に漂う。一気に雷虎に飛び付いて、大上段からナイフを叩きつけるように振り下ろした。ナイフが雷虎の眉間に突き刺さる。 バチ、と電気の弾ける音。雷虎の姿は、崩れて消えた。 「いってぇ……」 肩を抑え、地面に膝を突く牙緑。自己再生により、彼の傷は少しずつだが癒えていく。 雷虎が倒れたのを確認し、牙緑を除く仲間たちはそのターゲットを氷狼へと移した。 「すぐに皆が加勢に来てくれるとは思いますが」 氷狼を覆う氷の壁に、剣を叩きつける。全身の闘気を込めた桐の一撃は、氷の壁をなんなく粉砕。その無効に居た氷狼にも、深い傷を付けた。 吹き荒れる冷気も、氷の壁も、桐に対してダメージ以上の影響を及ぼす事はできない。氷狼が展開した無数のつららが、桐の胴を貫いた。 「っつ……。逃がしませんよ」 近距離では不利と悟ったのか、氷狼は氷の壁を作りながら後退していく。壁を打ち砕きながら、氷狼を追う桐。ボタボタと零れる血が、芝を赤く濡らしていく。 「あちこち行ってはダメよ。お行儀よく、待ってて頂戴」 大上段から振り下ろされる大剣による1撃が氷狼を襲う。背後から近寄っていた未明の攻撃だ。氷の壁を展開し、未明の斬撃を防ぐ氷狼。だがしかし、未明の斬撃を阻むことは出来ない。全力で振り降ろされた彼女の剣は、氷の壁を一撃で粉砕した。 飛び散る氷片。その中にまざったつららが、未明を襲う。 「い……。たぁ」 つららが未明の腕に突き刺さる。しかし彼女は引かない。それどころか、更に数歩、剣を振りあげ前に出た。 「抑えは交代するから下がって」 傷を負った桐に向けてそう告げる。器用に大剣を旋回させながら、未明は氷狼を抑えている。防御力に長ける氷狼といえど、大剣による斬撃を貰ってしまえばただでは済まないだろう。 「EPは私が回復します。大技をどんどん使ってしまってください」 絹布を纏った嶺がそう告げる。着物の裾を翻し、踊るように氷片の中をすり抜けていった。EPを消耗した桐の元へ駆け寄ると、インスタントチャージで援護に周る。 「賢いのかもしれねぇが、まぁ戦いは数って言葉もあってだな」 射出される暗黒のオーラ。矢のように宙を疾駆し、氷狼の片目を撃ち抜いた。氷壁と冷気を展開しながら、氷狼はその場から離脱。防御力に自身があっても、数の不利は覆せない。 逃げていく氷狼を追う未明、グレイ、奈々子の3人。 氷の壁と冷気、そして撃ち出されるつららによって進路を阻まれる。 結局、氷の結界を突破できたのは奈々子だけだった。 しかし……。 「うぁぁ!」 飛び出した奈々子が、一瞬で業火に巻かれる。炎獅子によって呼び出された魔炎だ。炎獅子の足元にはリコルが倒れていた。 ぐったりとして、意識を失っているようである。 炎に巻かれた奈々子に、無数のつららが突き刺さった。大きく振りぬかれた炎獅子の前足が、奈々子の体を弾き飛ばす。 ゆっくりと奈々子へと歩を進める炎獅子。 その脚を、満身創痍のリコルが掴んで、引きとめる。 「そちらへ行かせるわけには、参りません……」 意識不明だったリコルが起き上がる。 傷だらけでもブロックを続けるリコルを、炎獅子と氷狼はじっと見つめていたのだった。 ●獣たち ゆっくりと、炎獅子はその口を開けた。鋭い牙が覗く。漏れる吐息には火炎が混じっている。 なにか、吸い込んでいるようだ。 「……?」 首を傾げるリコル。直後、炎獅子が吸い込んでいるものの正体を悟る。 炎獅子が吸い込んでいるのは、氷狼のエネルギーだ。エネルギーを喰われ、氷狼の体は次第に小さくなっていく。それに引き換え、炎獅子の体は一回りほども大きくなったようだ。 炎獅子のたてがみの一部が、氷へと変わる。肩から飛び出したのは氷狼の頭部ではないか? 超高温と超低温が同じ体に収まるその姿は、まるで神話のキメラのようだ。 「他は一応、片付いたようで……。ここからは全力で攻勢にまわらせてもらいます」 す、と鉄扇を構えるリコル。意思と膂力を、鉄扇に集中させる。リコルが駆け出す。それと同時に、炎獅子も。炎と氷の前脚が、リコルの肩を切り裂いた。 同時に振り抜かれるリコルの鉄扇。炎獅子の脚を叩きつぶす。 痛みに狂い、炎獅子が吠えた。たてがみを構成する火力が増大。吹き荒れる業火は炎獅子の怒りそのものか。牙を剥き、リコルの頭へ喰らい付く。 牙がリコルの頭に食い込む、その直前。 「やっと……戦闘開始ね」 リコルの体を抱いて、大きくその場から飛び退った小さな影。長い髪を振り乱し、片手に小太刀を構えた彼女は、少年を避難去る為離脱していた闇紅であった。 リコル救出の際に1撃入れたのだろう。炎獅子の胴が切り裂かれ、炎を噴き出した。 炎獅子が吠える。呼び出されたのは業火である。リコルの闇紅を、纏めてつつむ業火だ。 「遅れてしまったわ。加勢しましょう」 大きく振り抜かれた大剣による斬撃が、炎獅子の業火を吹き飛ばす。2人の前に現れたのは、未明であった。大剣を大上段に構え直し、オーラを集中させる。 「おっと、オマエの相手はオレだよ! よそ見するんじゃねぇ!」 身体ごとぶつかるようにして、炎獅子に飛びかかったのは牙緑だ。振り下ろされた彼のナイフが、炎獅子の片目を切り裂いた。 たてがみが燃える。振り回される炎のたてがみが、牙緑を捉えその身を地面に叩きつける。炎に巻かれた牙緑に向け、振り下ろされる炎獅子の爪。 しかし、届かない。 「撃ち抜かせてもらうぜ」 暗黒のオーラが、炎獅子の爪を撃ち抜いた。グレイの放った魔閃光。グレイに続き、桐と嶺も戦線に加わる。 炎獅子を囲むように展開する7人。落ち着いた性格の炎獅子と、頭のいい氷狼。両方の特性を備えた炎獅子は、この状況を不利だと悟る。 「神経伝達速度向上、演算速度クリア――戦闘指揮ならびに敵解析開始します」 炎獅子に意識を集中させ、戦力その他の解析に周る嶺。エネミースキャン。戦況は圧倒的に有利な筈だ。しかし、何故こうも胸騒ぎがするのか。 その直後である。 空に向かって炎獅子が吠えた。空気を震わせる大声。突如巻き起こる、炎の渦が、範囲内のリベリスタ達を襲う。 業火によって一瞬で、視界が覆い尽くされた。嶺の伸ばした気糸も、炎に焼かれて炎獅子に届かない。 それならば、と炎の中を突っ切って飛び出すリベリスタ達。進路を確保すべく、グレイは魔閃光を撃ち出した。 グレイの撃ち消した炎の道を、桐と未明が駆けていく。大上段に振りかぶられた大剣が2本。全力を持って、振り下ろされる。 「え……」 「ぐっ!?」 揃って短い悲鳴を上げた桐と未明。見れば、2人の体は無数のつららに貫かれている。剣を阻む氷の壁。融合した氷狼の能力だ。 先ほど、嶺の感じた胸騒ぎの正体はこれだったのだろう。 「喰らえよ……」 2人を庇う様に前に出るグレイ。ボウガンを氷壁に密着させる。ボウガンに収束するオーラ。黒い矢が射出される。矢は氷壁に突き刺さり、大きな罅を入れた。しかし氷の壁を貫通するには至らない。 先の未明と桐の斬撃に加え、グレイの魔閃光まで受け止めて見せた氷の壁。驚くべきは、その強度だろうか。 それならば、と駆け出したのはリコルである。満身創痍で、一度は戦闘不能にまで追い込まれた身だが、しかしまだ戦える。 「はぁぁ!!」 気合い一閃。全身全霊で振り抜かれた鉄扇が、氷の壁を打ち砕いた。飛び散る氷片。壁の向こうから溢れてきた業火が、リコルの体を薙ぎ払う。炎に包まれ、地面に倒れるリコル。気糸を伸ばし、その身を回収するのは嶺だった。 「よし! よくやった!」 這うような姿勢で、炎の真下を駆け抜ける牙緑。下段から、炎獅子の喉元目がけナイフを振りあげる。 「倒し損ねることなんてないように……」 宙を舞う氷片を蹴って炎獅子の眉間に飛びかかるのは闇紅だ。小太刀をまっすぐに振り下ろす。 炎獅子のたてがみが火力を増すが、2人はそのまま炎の中に突っ込んでいく。身体を焼かれながらも、不利抜かれたナイフと小太刀。炎を切り裂き、炎獅子の喉と眉間を切り裂いた。 炎と氷が傷口から噴き出す。 腕を氷、体には火傷。息を荒げ地面に膝を突く2人を、炎獅子はじっと眺めていた。 直後、周囲を包んでいた炎と氷が、嘘みたいに消えうせる。焼けた芝と、その上に寝転ぶ炎獅子。血液に変わり、炎と氷が傷口から零れる。 「…………」 大きく1つあくびを漏らし。 炎獅子は、嘘みたいに崩れて消えた。 獣たちの消え失せた公園に、喉かな風が吹き抜ける。 芝生が揺れ、緑の匂いを運んでいく。 風に吹かれて、崩れ落ちた炎獅子の体はどこか遠くへ、運ばれて行った。 ポトリ、と……。 リコルの手元に振ってきたのは、砕けて折れた炎獅子の爪だ。握ってみると僅かに熱を帯びている。 たったこれだけ。 猛威を振るった獣たちは、もういない……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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