● その半分近くが波の下に浸かるバグホールが、5分ほど前から徐々に縮小しだしていた。 イルカに似たピンク色のアザーバイトたちと遊んでいたリベリスタたちが、名残を惜しみつつ彼らをバグホールへと導いていく。 ――そろそろいいだろう。始めるとするか。 レンズの向うにリベリスタとアザーバイトの一団を捕らえながら、アルブレヒト・ルービンシュタイン准尉は呟いた。 双眼鏡を下ろし、黒袖の腕を振るう。 後方で控えていた兵の一角が動き出した。 崖のふちにそって一列に並び、63インチ、10.5ポンドのスナイパー・ライフルを構えて上官の号令を待つ。 「返事はよい。集中しつつ聞きたまえ」 大きく張り上げるでもなく淡々と。 アルブレヒトの鋼を思わせる硬い響きの声は、話し声程度であっても部隊の隅々にまでよく通った。 「諸君。本作戦の目的は1人でも多くアークの戦力を削ぐことにある。誰も殺せませんでした、は認められん。1人につき1リベリスタがノルマと心得よ」 うしろに残っていた兵の中から、巨大な盾を手にしたアルブレヒトと同じ顔が歩み出てきた。上官のやや後ろで立ち止まり、やはりアルブレヒトと同じくおよそ柔らみのない冷たい声で届いたばかりの最新情報を報告する。 「アークの増援部隊を確認。1分後に到達」 「ふむ。七派フォーチュナの未来視どおりだな。ルービンシュタイン曹長、位置について敵増援部隊との交戦に備えよ。ある程度の数をしとめたら、ルービンシュタイン曹長とクロスイージスらをそちらへ回す」 ――Ja 曹長は天にむけて腕を掲げ、ぴしりとブーツのかかとを打ち鳴らした。敬礼の後、配下の兵を引き連れて崖を上がる坂道へ向かっていった。 弟の背中を見送ってから、アルブレヒトは再び腕を上げた。 夏を感じさせる熱い日差しを黒い軍服に受けながら、熱気を切り裂くようにしてその腕を振り降ろす。 「撃て!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:そうすけ | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月09日(日)22:43 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 二組の簡易テーブルと椅子、その上に置かれた紙皿と紙コップ。初夏の日差しに白く飛ぶ砂浜をピーチボールが転がっていく。 平和な景色の向う側でまたひとつ血飛沫があがった。雲ひとつない晴れ空に規則正しく響く銃声と悲鳴、そして怒声。 「なにが『1人につき1リベリスタがノルマ』よ」 これ以上、誰も殺させたりしないわ、と心火を燃やしつつ『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)は岩陰から砂浜へ飛び出した。傷つき命果てようとしている仲間たちの元へ。砂を蹴って急ぐ。 「アークの新田快だ! 救援に来た!」 海に向かって声を張り上げながら『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)がレイチェルの後に続いた。 大きく腕を振りながら、抱え持つアザーバイトを手放して浜の奥へ逃げろと指示をだす。 「逃げるんだ! あとは任せて早く!」 耳に届いたその力強い声に、絶望に支配されつつあった先発リベリスタたちは再び精気を取り戻した。 だが、遠く沖にいる3人は快たちに背を向けたままだ。なおもD・ホールを目指している。 「くそっ! 届かないか」 快は横に並んだ『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)に顔を向けた。 「俺とレイチェルたちは真っ直ぐ沖へ向かう。エルヴィン、ユーヌ! あそこにいる彼らを頼んだ」 快は太ももを一層高く上げると、腕を力強く振って砂の上を走った。 ――相手として、不足なし。 『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ)星川・天乃(BNE000016)は口元にかすかな笑みを浮かべつつ、ひとり仲間とはなれて崖を目指す。 何よりも戦いを欲する戦姫なれば、その名に相応しい護り方というものがある。 天乃は崖をのぼって敵陣に切り込み、派手に踊って親衛隊たちの目を自分に惹きつけるつもりだ。 ふと、体が軽くなった。砂を蹴る足が軽い。背中で起こる風を感じる。 『息抜きの合間に人生を』文珠四郎 寿々貴(BNE003936)が翼の加護を発動させたようだ。 天乃は微笑みを広げると、崖の上の親衛隊たちに向かってスピードを上げた。 エルヴィンは浜に近いグループにたどりつくと、真っ先に彼らが腕に抱えるアザーバイトたちに話しかけた。 『味方だ、助けに来た。おちついて、一度海の中にもぐれ』 腕を伸ばし、『あそこから元の世界に逃げろ』とD・ホールを示す。 リベリスタの腕の中で暴れていたアザーバイトたちがぴたりと動きを止めた。寸の詰まったピンクのイルカ顔をエルヴィンへ向ける。 キュ、という鳴き声に続いてカタカタとちいさく歯をかみ合わせたような音がアザーバイトの口から漏れた。 『ダレ? ドウシテボクタチノコトバガワカルノ?』 『わるいがゆっくり話――』 エルヴィンのすぐ横で黒い破片が散った。 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が召喚した影人だ。 ユーヌは鋭い目で崖の上を睨みつつ落ち着いた声で「イルカたちを海に。キミたちは避難しろ」と言った。 「すまない。彼らと仲間を頼む」 デュランダルが銃声に怯えながらゆっくり腰を落とし、腕に抱えていたアザーバイトを海の中へ放った。 他の3人もいっしょになってアザーバイトを海に放つ。 自由を得たアザーバイトたちは、リベリスタたちの回りを背びれを海面に出しながらくるくると輪になって泳いだ。 エルヴィンは名残惜しんで泳ぐピンクの影に向かって声をかけた。 『彼らは俺達が護る、早く行け』 エルヴィンが示す先でD・ホールがぐんぐんと小さくなっていく。 が、アザーバイトたちはD・ホールへ向かおうとしない。 爽やかな風が白波を押して海面を渡ってきた。 レイチェルが吹かす風にそっと輪を開かれて、ようやくアザーバイトたちはD・ホールへ向かい始めた。 「わたし、ここに残るよ」 フュリエがエルヴィンたちに援護を申し出てきた。 ユーヌは細かく震えるフュリエの肩を一瞥すると、「なら、逃げる仲間の援護を頼む」と言って影人の召喚を続けた。 突然、ユーヌの隣にいた覇界闘士がすっ飛んだ。 両腕を上げて背中から海へ倒れこむ。 すかさずエルヴィンが覇界闘士と崖の上のスナイパーを結ぶ射線を断ち切るように割り込んだ。 刹那。 「ぐっ!」 「エルヴィン?」 苦痛に顔をゆがめてエルヴィンは膝を折った。 波が寄せるたびに深くえぐられたエルヴィンのわき腹から赤い血の帯びが延びる。 ユーヌの指示で影人がエルヴィンたちのかばいに入った。 ――が、凶弾が隙をついて治療に当たっていたフュリエの肩をかすめ、仲間に助け起こされていた覇界闘士の胸を貫いた。 覇界闘士の腕を持っていた2人も引きずりこまれて海に沈む。 フュリエが甲高い悲鳴を上げた。 「ひっ!」 肩を押さえて海の中へ倒れたフュリエの上をパートナーであるフィアキィが狂ったように飛び回る。 浜から寿々貴が白い翼をはためかせて飛んできた。 少し手前から大いなる癒しの光をエルヴィンたちに向けて放つ。 みなのもとにたどり着くと、寿々貴は倒れた覇界闘士を回復させるべく集中した。 「すずきさんの目の前で誰も死なせないよ!」 回復支援が行なわれているその横を『残念な』山田・珍粘(BNE002078)と『道化師』斎藤・和人(BNE004070)のふたりが沖へ向かって飛び去っていく。 寿々貴は覇界闘士の意識が戻ると、すぐさま治療を切り上げて彼らの背に翼を授けてやった。 「これで波や砂に足を取られず移動できるね。さあ、キミたち早く避難して!」 自己回復を果たしたエルヴィンと、影人を作り終えたユーヌが声を揃えて命令する。 「行って!」 「行け!」 デュランダルとインヤンマスターが覇界闘士の両腕を肩に回して立ち上がる。 3人はまっすぐ浜辺の出口を目指して飛び去っていった。 ユーヌはひとり残って泣きじゃくっているフュリエに近づくと、細い腕をとって無理やり立たせた。 「かすり傷よ。ここでぐすぐすしていたら助かる命も助からない。行きなさい。手当てはあとで」 4人が浜を抜けたのを見届けてから、エルヴィンたちは沖へ向かった。 ● 「敵1名。崖をあがってきます!」 崖の下を覗き見て、シリルが報告する。 ――面白い、たった1人で来るか。 アルブレヒトは青い目を右へ流した。 崖の上に通じる坂道の手前では、ベルトラム・ルービンシュタイン曹長とデュランダル3人が準戦闘態勢を維持したまま待機している。 「あちらは空振りか」 「は?」 護衛のクロスイージスがアルブレヒトの呟きに反応して振り返った。 「作戦を変更する。お前たち2人は軍曹とともに崖を上がってくるリベリスタに対処せよ。スナイパー諸君! 攻撃態勢のままAから順に戦果の報告を」 ● ぱん、と乾いた音が空気を振るわせた。藍色の海面に赤黒い血が広がっていく。 ああ、と嘆息してレイチェルは目を閉じた。 後一歩というところで届かなかった。 快の声を振り切って沖へ向かっていた3名のうちヴァンパイアのクリミナルスタアが、たったいま頭部に一撃を受けて海に沈んだ。 死んだクリミナルスタアが抱きかかえていたアザーバイトがすごい勢いで崖から遠ざかっていく。 レイチェルはぐっと奥歯をかみ締めると、天に向かって腕を伸ばした。 さざなみ立つ海面の真上で聖なる光りをまとった腕を振り下ろす。 レイチェルを柱として、癒しの風が円心状に広がっていった。 「送還任務は俺たちが引き継ぐ。君たちは急いでここからの離脱するんだ!」 快は波をかぶって溺れかけている2人に呼びかけた。 波の上すれすれで低空飛行しながら、片腕で必死に海面をかいていたナイトクリークの腕を掴んで引き上げる。 崖に背を向けると、血を流すナイトクリークの体を己の影に隠した。 「こ、この子たちを。ホールが閉じてしまわないうちに……」 「奴らの狙いはアザーバイトじゃない、俺たちリベリスタだ」 「でも」 「でも、は無しだ。さあ、そのコを俺に渡して」 ナイトクリークからイルカによく似たピンク色のアザーバイトを受け取ると、しっかり脇に抱え込んだ。 アザーバイトがきゅっ、きゅっと不安が滲む声で鳴く。 「奴らの武器は恐ろしいほど射程が長い。仲間の後を追って防波堤の後ろへ避難してくれ」 「快、伏せて!」 警告を聞くと同時に、快は背中に焼けつくような痛みを感じた。 レイチェルがすぐに快の回復にかかる。 遅れて駆けつけてきた和人が、快からナイトクリークを引き取った。 「じゃ、ささっと逃げ切るとしますかね」 耳でしっかりと崖の上の動向を捉えつつ、そのままナイトクリークの腕を引いて浜に向かう。 行き違いざまに珍……那由他が和人に声をかけた。 「私は逃げたアザーバイトを捕まえに行きます」 「おう。頼んだぜ、なゆなゆ」 いつの間に出したのか、ち……那由他は黄色いゴムボートを引いていた。 海の青と反対色のそれは思いっきり親衛隊たちの目を引いているはずなのだが、黒光りする銃口は一度も那由他には向けられていない。 忌々しげに目を細め、崖の上を仰ぎ見る。 和人もまた那由他と同じく崖の上に目を向けた。 「カワイイ奴等とキャッキャウフフした帰りを狙うとか、何ていうか無粋だよねーあいつら」 まったくです、と和人の意見に同意して、……那由他は逃げたアザーバイトたちの後を追った。 D・ホールが閉じる前に捕まえて、送り帰せられるか? 時間は無常にも過ぎていく。 幸いにして逃げたアザーバイトたちは迷走していた。 時折リベリスタたちの元へ戻ろうとしてはまた沖へ向かう、を繰り返している。 2匹一緒にウロウロしているところを狙って、那由他は結界という網を張った。 「遊び疲れただろうけど、もう少し頑張って。ちゃーんとあなた達を元の世界に帰して上げますからね?」 言葉は通じずとも気持ちは伝わるはず。 果たしてピンクのイルカたちは那由他が海に伸ばした腕の中へ飛び込んできた。 長袖のシャツを海水で濡らしながら、一匹ずつ優しく海の中からすくい上げてゴム ボートに乗せてやる。 そこへエルヴィンがやってきたので結界を解いた。 エルヴィンはゴムボートの後ろに手をつくと、アザーバイトたちに向かって異界の言葉を呟いた。 きゅっ、とアザーバイトが弱く鳴く。 那由他は手で海水をすくうとアザーバイトたちの体にかけてやった。 「さあ、行きますよ!」 ゴムボートにアザーバイトを乗せて、那由他たちは半分縮まって小さくなったD・ホールを目指した。 両腕にアザーバイトを抱えたまま泳ぐクロスイージスは、敵狙撃手の格好の的になっていた。 快が追いついたときにはすでに意識はなく、両脇に抱えられたアザーバイトたちがてんでばらばらに尾ヒレを動かし、その場でくるくると回転していた。 「しっかりしろ! 助けに来たぞ!」 快は抱えていたアザーバイトを海の中へいれ、D・ホールへ向かって押し出した。 手を伸ばして波に浮かぶ体の回転を止めた。クロスイージスの短い髪をつかむと、 海面から顔を上げさせた。そのまま仰向けに浮かせる。 その間に快は背中に2発目の弾を受けた。 衝撃でクロスイージスごと体が前へ押し流される。 ひと揺れごとに大きく開いた傷口に海水がしみて、これにはさすがの快も顔をしかめた。 レイチェルが連続して神聖の息吹を吹かせ続けているがなかなか全快には至らない。 それほど一発ごとの破壊力が凄まじいのだ。 快は歯をくいしばり、クロスイージスの脇に手を差し入れてアザーバイトを解き放ってやった。 D・ホールとは反対方向へ向かいかけたアザーバイトたちの鼻先を、ユーヌの影人を伴って浜からやってきたピンクの仲間たちが遮った。 そのまま6匹と4体で怯える2匹を囲う。 ユーヌと寿々貴が快のもとへやってきた。 「2体はそのままアザーバイトたちとD・ホールへ。帰りに遺体の回収を。あとの2体は――」 ユーヌが指示を出し終わらぬうちに影人の一体が吹き飛ばされた。 寿々貴が超幻影で、崖の先端とバグホールの間に海面の壁を作り上げた。 蒼く煌く光がリベリスタたちの上にふりそそぐ。 「これでOKとはとても思えないけど、多少の射線妨害にはなるはず」 寿々貴は続けて快の治療に当たる。 今のうちに、とユーヌが影人にクロスイージスの搬送を命じた。 レイチェルが回復支援しながら彼らに付き添って浜へ向かう。 最初に犠牲になったリベリスタの遺体をゴムボートに乗せ、影人を連れて那由他と エルヴィンが快たちの元にやってきた。 「ピンクのイルカちゃんたち10匹。D・ホールをくぐり元の世界へ返っていきました。全て無事です」 「『ありがとう』って言っていたぜ、イルカたちがさ。最後に、俺たちも早く逃げてくれって」 「ああ。でもその前に……」 快は海面の壁の向こうを見透かした。 「ええ、このまま殴られっぱなしじゃ気がすみませんね。少々脅してやりましょう」 那由他は意地の悪い笑みを浮かべた。 ● 天乃が思っていたとおり、4人いる狙撃手たちはこちらを見向きもしなかった。 大方、構うな、とボスに命じられたのだろう。 そのかわり、隙をついて一気に崖の上へ出たところで短銃を構えたクリミナルスタアに狙い撃ちされた。カウンターを放って相手を呪縛するも、左にいたクロスイージスにあっけなく解除されてしまった。とん、とバックステップを踏んで距離を取り、 右から飛んできたクロスイージスの攻撃をかわす。 「これはこれは。カミカゼにしては美しいお嬢さんだ」 短銃を構えた男は右足を軽く後ろへ引いて膝を曲げると、天乃に向かって軽くこうべを垂れた。 「ただの射的……狩り、より目の前の敵を打ち倒した方が、きっと楽しい。さあ、踊ろう? 誇りある元同盟者」 口上述べつつ、天乃が近くにいた狙撃手に向けて幾重にも重なった気糸を飛ばせば、 「oh,Gnädiges Fräulein! 貴女のダンスのパートナーはわたくしです。浮気はいけません」と茶化してきた。 「シリル! ふざけていないでサッサと処理しろ」 アルブレヒトの硬い声を受けてシリルが肩をすくめる。 「――命令であればしかたがない。気の毒だがさっさと舞台から退場してもらうぞ!」 大上段にメイスを構えたクリミナルスタアが左から迫ってきた。 天乃は落ち着いて一歩前に出ると、相手の勢いを利用してその胸を肘で強く打った。 深追いはせず、そのままクリミナルスタアを障害物代わりにして崖の淵へ逃げる。 天乃は崖から飛び降りると、翼を使って素早く崖に突き出した岩の陰に逃げ込んだ。 そこへ2発続けて弾が打ち込まれ、岩肌の表面が瞬時に凍りつく。 しばらく様子を見ていると、崖の上で動きがあった。 長く崖の外へ突き出ていた4本のスナイパーライフルのうち、D・ホールに近い側の2本が天乃の視界から消えた。 どうやら敵は撤退を始めたようだ。 決意を固めて岩陰から飛び出したところへ今度は十字の光が落ちてきた。再び岩陰に身を隠す。 こちらは1人のうえに回復手段がない。追撃を仕掛けたところで犬死するたけだ。寿々貴にかけてもらった翼の加護も切れ掛かっている。 「おおっと、なかなかひどい連中だな」 撤退をしようとしたところへ突然、後ろで声がして天乃は驚いた。 振り返るとそこに和人がいた。 和人は瀕死のリベリスタを浜の奥へ搬送したあと、アザーバイトたちの送還を手伝いに戻るつもりだった。 だが、沖の様子を遠めに見てその必要はなしと判断し、背にまだ翼があるうちにと崖を登ることにしたのだ。 「ノルマをこなせなかったヤツから武器を取り上げて置き去りにする気らしい」 「残るのは2人?」と天乃。 「いや、1人だけみたいだぜ」 1人につき1リベリスタのノルマ。ということは……。 最初に倒れたリベリスタを含めて少なくとも3人が犠牲になったことになる。 「違う。連中の早とちりだ。レイチェルが連れ帰ってきたヤツは助かったんだよ」 危ないところだったけどな、と和人は苦く笑った。 消えかかっていた背中の翼が再び風を受けて大きくはらんだ。 見れば下から快たちが向かってきていた。 「さあ、反撃としゃれ込もうか」 和人は天乃の肩をぽん、と叩くと岩陰を飛び出した。 ● 崖の上にはただ1人、丸腰のクリミナルスタアだけが残されていた。ルービンシュタイン准尉たち幹部はすでに崖の向こう側へ下る坂道に差し掛かっている。しんがりはデュランダルと思しき軍人3名。 恐怖心を糧に尖る殺意を拳に乗せてクリミナルスタアが和人たちに突っ込んできた。 和人が攻撃を一手に受けている隙に、横へ回った天乃が気糸を放ってクリミナルスタアを束縛する。 「……丸腰相手に自慢にならねぇな」 和人は破邪の力に光り輝く扇をため息とともに振り下ろした。 快たちが崖の上にたどり着いたときには親衛隊はすでに坂を下りおえていた。浜辺に停泊していた陸用舟艇へ指揮官らしき男が乗り込んでいく。 「間に合いませんでしたか」 悔しさを隠そうともせず那由他が零す。 「あなたたちの顔、覚えておくわ。次に会うことがあっても、また邪魔してあげる」 風がレイチェルの言葉を運んだのだろうか。3つのよく似た顔が同時に崖の上に向けられた。 快が准尉らに向かって指を突きつけて叫んだ。 「次は誰も死なせない。のみならずお前を倒す!」 ――Sehen wir uns wieder ! |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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