●鉄の猟犬達 「ひひっ、いーっひっひっひ! みみ、見たまえ軍曹! ボクのドリルをおおおおお! 黒くて、太くて、雄々しいだろう!? おまけに硬い!」 「少尉。それ以上はセクハラです」 「ひひっ、ツレナイじゃあぁぁないかあああ! 君、ドリルの素晴らしさを理解出来ないとは本当にアーリア人かね!?」 ここぞと言わんばかりに鉄のドリルを見せつける変態、もとい少尉の失態に軍曹はため息をついた。 「アーリア人とドリルには全くの因果関係は存在しません。それともなんですか、少尉はそうやってアーリア人の誇りを穢すおつもりですか、だとしたら踏みますよ。ええ、徹底的に踏み抜きます」 「なな、何を言うんだい! いや、君のような美しく聡明なアーリア人の女性に完膚なきまでに踏み抜かれるのもやぶさかではないが……ヒィッ!?」 まるで養豚場の豚を見るような、冷たい眼の軍曹に少尉がおののきながら悲鳴を上げる。 「……全く。あと少しで、誇り高き鉄の猟犬――親衛隊の名に傷がつくところでした」 「ひひっ! いやぁ、済まない済まない。それで、作戦は順調に進んでいるのかね?」 「Ja! どうやら、主流七派がこちらに流した情報に間違いは無かったようですね。案外、そういった部分は信用に足る存在ということでしょうか」 「違うよ君。彼等は信用に足る人間なんかじゃあないさぁ! だってほら、彼等アーリア人じゃないだろう!」 ひひっ、と何が楽しいのか可笑しな笑い声を上げながら少尉が軍曹へ言う。 「そうでしたね。では、そろそろ狩りを始めましょう。指揮は――」 「えっ!? なんでボクの方を見るのさ。何のために君が居ると思ってるんだい?」 「踏みますよ?」 養豚場の豚を見るような目テイク2。 「いやあ、冗談冗談……全く、冗談が通じない相手を部下に持つと困るよ! それじゃあ、島国の二流人種に親衛隊の力を見せてあげようじゃあないか!」 全員、油断せず速やかに狩りを行うのですよと軍曹が最後に付け加え、彼等の狩りは始まった。 ●緊急任務 「任務に出ていたリベリスタ達が急襲された、直ぐに救援に向かって欲しい」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)からの緊急任務。 別の任務を受けていたアークのリベリスタ達が、『親衛隊』と称される部隊の一つに襲撃を受け現在これと交戦中だという。 彼等『親衛隊』が都合良く襲撃出来たのは、主流七派が情報を流したからだろうとイヴが言葉を続ける。 「『親衛隊』は実戦部隊。非常に連携の取れた危険な敵」 それゆえに、こちらの戦力を侮り、油断する様な真似をする事はない。 彼等は知っているのだ。 この国で二度、同じバロックナイツに所属する者達が敗北を喫している事を。 そして、それが大なり小なりアークという組織を侮った結果である事を。 「部隊を指揮しているのは、ディートハルト少尉という男性と、彼の副官であるアンネマリー軍曹という女性」 ディートハルト少尉は、巨大な鉄を彷彿とさせるドリル型アーティファクトを、アンネマリー軍曹は鉄の義足とも言うべきヘビーレガースに似た両脚に装着するアーティファクトをそれぞれ所持している。 これらのアーティファクトはどうやら特殊なものらしく、自爆スイッチが搭載してあり仮に彼等が倒れたとしてもアークや他の組織の手に渡る事はない。 「仲間を救援しつつ、彼等を撃退する……危険な任務になる。けれど――」 頼れるのは、貴方達しかいないからと。 イヴの言葉を聞いたリベリスタ達は、今も危険に晒されている仲間達の救援へ急ぐのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ゆうきひろ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月04日(火)23:11 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「大丈夫です。きっと助けは来るはずです、だから諦めないで」 優しく、そう微笑みながら仲間達の傷を癒す少女が居た。 「諦めたら終わりなんだ。俺達アークの強みって、そういう諦めの悪さだろ?」 決して諦めない。 例え、どんなに絶望的な状況だろうと生きて帰るんだと仲間を鼓舞する少年が居た。 ――誰ひとり欠けずに、此処を切り抜ける。 その言葉を胸に、他者を癒す術をもたない仲間達の盾となり、壁となり、傷を癒す。 だが、運命は時として残酷にして非情なものだ。 迫り来る鉄の軍隊を前に、彼等はその儚い命を遂には散らしてしまった。 そして、それは即ち残された者達にとって満足な退却すらままならない絶望の始まりでもあったのだ。 『――救援に向かって欲しい』 フォーチュナの言っていた言葉が、何度も何度も『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)の頭によぎる。 別の任務についていた同じアークに所属する仲間たち。 彼等を救援し、生存させるのであればただただ退いて貰い、逃げて貰う方が良いだろう。 だが、と彼女は思う。 (もしも妾が同じ立場であったなら――) 共に戦った仲間を眼の前で殺され、そう簡単に引き下がれる筈がない。 だからこそ、今も彼等は戦っているのだろうとシェリーは思うのだ。 「僕達がもっと早く駆けつける事が出来れば」 犠牲者は出ずに済んだのかも知れない、と雪待 辜月(BNE003382)がシェリーの隣で呟いた。 「わかっています。悔やむのは後、今は出来る限り救うことだけを考えましょう」 戦場で誰かが死ぬ事は今日にはじまった事ではない。 でも、例えそうだとしてもそれは慣れるものではない、否、慣れてしまってはならないものなのだ。 命は尊く大切だ。 甘い、と嘲笑する者は居るだろう。 けれども、甘くとも全力で助けたいと思う辜月の心に偽りは、無い。 「雪待、この戦い。弔い戦になる。覚悟せよ……敵もそうそう退くような輩ではない」 重い表情になってしまっていたのかも知れない。 自身を心配するシェリーの言葉に、勿論ですよと辜月は頷いた。 ● 郊外の一角は、今正しく地獄と化していた。 耳をつんざくように鳴り響くアサルトライフルの銃声。 並のエリューションや、フィクサードとは異なる隙のない連携は、既に回復の要を失い、傷ついた彼等の手に余る強敵だ。 自分達を庇い、盾となり死んでいった仲間の遺体を回収する間も与えぬ程の激しい銃撃。 規則正しい靴音が、絶望と共に迫る。 嗚呼、自分達は殺されるのだとそう、誰もが確信し、恐怖に目を瞑ってしまったその時―― 「諦めないで!」 諦めないで。 不意に、自分達の上から響いた女性の声に彼等――傷ついたリベリスタ達と、親衛隊が同時に目を向けた。 が、直ぐに親衛隊の軍人達はまるで殺人蜂の大群が押し寄せてきたかの様に自分達に降り注いだ銃撃に防御の構えを取る。 「大丈夫かしら! アークの増援よ、もう安心して!」 ハニーコムガトリングを挨拶代わりに親衛隊に浴びせたのは、『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)だ。 その背中に、小さなフライエンジェを彷彿とさせる翼が存在するのは、辜月の翼の加護によるものだ。 ミュゼーヌに続く様に、次々と同じ様に加護を得たリベリスタ達が戦場へ到着する。 「カルラさん!」 「解ってる! おい、お前らこいつの陰に逃げ込め!」 ミュゼーヌの銃撃によって一瞬怯んだ親衛隊、だが、彼等が怯むのは一瞬だ。 その、刹那、僅かな一瞬を無駄にしないと『Spritzenpferd』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)が予め用意しておいた遮蔽用のトラックで物理的に仲間達と親衛隊を分断し、壁を作り出す。 「壊されるにせよ、何にせよ少しでも時間をこいつで稼ぐ! シエル!」 「はい。皆様、良く生きてくださいました。今、その傷を癒します……」 一秒でも無駄にする事が惜しまれる状況。 事前の打ち合わせどおりに、流れるような連携で今度は『紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)がその癒しの力を惜しみなく、傷ついたリベリスタ達へと送る。 癒しの息吹を伴う詠唱、聖神の息吹で彼等の傷を癒すシエルの頭に浮かぶのは、既に亡くなったとフォーチュナに聞かされている二人の事。 その二人がいたからこそ、彼等は今もその生命を散らす事なく此処に存在しているのだろう。 (お二人のご意志、私が引き継いで見せましょう) 静かな決意と共に、癒しの詠唱は仲間達を癒していく。 「――貴方と、そこの貴方。申し訳ないですが、こちらの回復手の庇い役をお願いすることは出来ないでしょうか?」 シエルが傷を癒すその傍ら。 彼等の中でも耐久や回避に優れているであろうリベリスタ達に『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)が声をかけた。 「疲れ切っているところに、過酷なお願いで、本当にごめんなさい。でも、親衛隊の戦闘力は貴方達自身がよく知る様に、強大です」 いまは、一人でも助けが欲しいのは舞姫達とて同じなのだ。 「一緒に、みんなで生きて帰りましょう。もう……誰ひとり失いたくありません」 誰ひとり失いたくない。 「……誰ひとり失いたくない、か。俺達も、同じ気持ちだ」 「僕達からもお願いします。お願いです、死んでしまった仲間の気持ちに報いてやりたい」 手伝わせて欲しい、と舞姫の言葉にリベリスタ達が強く頷く。 「ありがとう御座います」 「でも、決して無理はしないで下さい。皆で、誰ひとり欠ける事無く帰る……それが、私達が此処に来た理由なんですもの」 舞姫に続く様に、『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)が言う。 「あんた等が俺達よりも強いのは、見て解る。だから、あの憎い連中をぶん殴る役は譲ってやる……頼む」 「その願い、確かに聞き届けました。任せて下さい」 畏れる必要はない。 (ミュゼーヌさんにシエルさんにカルラさん……) 大御堂重工関係の親しく頼れる仲間を始めとした、頼りになるアークの仲間達。 こんなにも頼もしい仲間達が揃っていて、そこへ彼等傷ついた人たちまで協力してくれる。 「そうなのですよー! 皆であの連中に一泡吹かせて、日本人を二流とか言うのを撤回させてやるのですよ!」 「や、あなたはフュリエさんでは……? ふふっ、まぁ、良いかな」 「自分は日本人なのですよー!」 『振り返らずに歩む者』シィン・アーパーウィル(BNE004479)の言葉に、ついほんの先ほどまで、絶望に支配されかけていたリベリスタ達の顔に笑顔が戻る。 「な、何故笑うのですか!?」 「いや、違うんだよ。その……有難う」 笑顔が戻ったリベリスタ達。 その瞳にはもう、絶望や恐怖は無い。 代わりに彼等の瞳に宿ったのは、例えどんなに傷ついても最後の最後まで諦めないという意思の炎。 それは、奇しくも相対していた旧国の亡霊達と同じ決意なのかもしれない。 ● リベリスタ達がトラックによる遮蔽で、僅かでも時間を稼ごうとしたその同じ時。 「少尉、敵の救援部隊が到着。現在、あの壁の向こうで態勢を立て直す準備を行なっていると思われます。如何致しましょう。敵の中には、ギガントフレームやメタルイヴを始めとした上位形態へ革醒した種族も見受けられます」 相対した僅かな時間。 だが、その僅かな時間で新たに現れた敵が油断ならない者達であるとアンネマリーの眼は見抜いていた。 「ひひっ! そんな事、ボクにいちいち確認を取らなくても君なら解っているだろう?」 「Ja! では、先ずは此方も彼等同様に一度陣形を立て直し、備えましょう。ホーリーメイガスは兵士の回復を、それと――」 ディートハルトに一度軽く敬礼をした後、アンネマリーは頷き、直ぐに準備にとりかかる兵士達と共に眼の前のトラックを見る。 あれを踏み抜き、叩き壊すのは、赤子の手を捻るように簡単な行為だ。 向こうも、それは重々承知の上で持ち込んでいるに違いない。 (ですが、彼等は気付いているのでしょうか) 彼等リベリスタに時間が与えられるように、自分達親衛隊にもまた態勢を整える時間は同様に与えられるのだという事を。 「ひひっ! ボクのドリルがギンギンに疼いて仕方ないよ! ああ、あの鉄くずを貫いて、持ち上げて、放り投げて大爆発させたらどんなに気持ちイイかねぇぇぇぇ? 軍曹!」 「何故少尉はいちいちそう、言葉の節々にセクハラを彷彿とさせる言葉を入れるのですか? アレより先に、少尉のそのみっともないドリルを踏み抜いて差し上げましょうか?」 やめたまえ!? とたじろぐディートハルトから視線を外すと、アンネマリーが兵達に加護を与える。 「アーリア人の誇りと共に! 我等の力を奴らに示せ!」 「Ja!!!」 ラグナロク。 敵を徹底的に殲滅する為の加護の力が、仲間である親衛隊の力を高めていく。 更に、ディートハルトもまた自身の持つ防御の為の最適な動作を兵達へ共有する。 決して倒れる事のない不屈の魂を顕現させた鉄の軍隊が、今正に戦場を蹂躙するために動き出すのだ。 「穿て! 我等の前に立ちはだかる者あれば、その全てを踏み抜くのです!」 アンネマリーの号令と共に、兵士達の構えたアサルトライフルから一斉に攻撃が眼前のトラックへと集中する。 その凄まじい火力の前に、トラックは瞬く間に破壊され、後方に控えていたリベリスタ達の姿が露わとなるまでにそう時間はかからなかった。 遮蔽物によって生まれた僅かな分断。 けれども時間が稼げたとてその僅かな時間だけで、リベリスタたちの傷が全て癒えるわけではない。 だから、今度は救援に駆けつけた自分達が盾となり、その身を賭して親衛隊の激しい銃撃を仲間に届かせまいと耐える。 辜月の戦闘指揮のもと、個々の撃破にこだわらず、全体的にダメージを与えるためにカルラが最前線で魔力鉄甲を惜しみなく振るう。 後衛からは、ミュゼーヌやシェリー、シィンがそれぞれ弾幕を展開し前衛の援護を絶え間なく行う。 親衛隊のディートハルト少尉や、アンネマリー軍曹の指揮により回復を担うシエルや辜月を狙った兵士達のアサルトライフルによる統制の取れた暴風のごとき銃撃は、舞姫や彩花、体力がある程度回復し庇い役に回ってくれているリベリスタの協力者が盾になり喰い止める。 そうして食い止め、彼等の傷ついた身体を、シエルと辜月が一心に癒していく。 「ひひっ! ドリルの力を味わいたまえッ!」 そんなリベリスタ達を薙ぎ払わんとディートハルトのドリル――シュラークが激しく回転する。 周囲の大気を巻き込み、強烈な螺旋状の衝撃波を伴いながらシュラークがディートハルトの腕から発射される。 発射装置に繋がれたワイヤーによって軌道を縦横無尽に変化させながら、戦場を貫通するように突き進むシュラークが、シエルや辜月を庇う者達の身体を無情にも貫き、或いは切り刻んでいく。 「シエルさんに攻撃は届かせはしません! こんな程度の攻撃、わたしが捌ききってみせます!」 いつも背中を預けて戦ってきた大切な仲間。 だから、彼女がどう動くか舞姫は知っているのだ。 「あともう少し、もう少しです……皆様、耐えてくださいまし!」 仲間を盾にしている今の自分に、少しだけシエルの胸がズキリと痛む。 けれども、止まる訳にはいかない。あと少しで、助けに来たリベリスタ達も動ける程度には回復するのだ。 仲間の為、自分自身の癒し手としての誓いの為、シエルは全力で魔力増幅杖 No.57を振るう。 ● 戦闘が始まってから、それほど時間は恐らくは経過していないのだろう。 けれども、要救助者達のためにその身を削るリベリスタ達にとっては、その僅かな時間は何倍、何十倍にも感じられたのかもしれない。 短くも、長い時間。その時間は、確実にリベリスタ達の精神を、肉体を、すり減らしていた。 だが、運命は決して諦めず、抗い続ける者達を見捨てたりはしない。 誰ひとり失わない。 最初に立てた強い決意。 遺志を受け継いた者達の瞳に敗北の色は決して宿りはしない。 「俺達はもう大丈夫だ。頼む、彼奴等に一矢報いてやってくれ!」 「解りました。貴方達は直ぐに撤退の準備を……これで、一息つけるでしょうか。いや」 嫌していた仲間達のもう大丈夫、という声に思わず辜月が安心感から気を抜きそうになるも、すぐさま気を取り直す。 「憂いはなくなったぜ? 後はお前らクソカス共をぶん殴ってやるだけだな。殴りに来るのが俺程度だった幸運に感謝しとけ!」 この阿呆のフリしたイカれ野郎どもが、とソニックエッジをすぐさまカルラが手近な兵士へ叩き込む。 叩き込んだその瞬間すらも利用するように兵士が何処からか取り出したナイフで反撃を行なって来るが、それに怯むカルラではない。 「良くもまぁ、好き放題叩きこんでくれたものです。何がドリルですか、そもそも」 「ドリルは建設機械の一種であって武器ではないのですから、こういう使い方は辞めて欲しいものです」 本当、その偏執的なまでの愛好家魂だけは評価に値しますよと舞姫と彩花が口々につぶやく。 左右から迫る舞姫のアル・シャンパーニュと彩花の弐式鉄山。 さしもの実戦部隊たる親衛隊所属の兵士といえど、その両方の攻撃を同時に捌ききる事はかなわない! 「何をしているのですか……そんな連中に遅れを取るなど。踏み抜かれたいのですか?」 冷徹なマシーンという呼び名が似合いそうな程の、感情の篭らない声色でアンネマリーがつぶやく。 「ひひっ! 君が踏んだら、ボクの兵士達がそれこそぶっ倒れちゃうじゃないかぁ! ほら、ボクが隙を作ってあげるから突撃したまえ!」 言って、ディートハルトが何かを放り込むや否や、激しい閃光がカルラや舞姫、彩花の視界を覆う。 「――そんな所に居ると、纏めて踏み抜きますよ」 更に、視界を奪われ一瞬身動きの取れなくなった三人の間に素早く潜り込んだアンネマリーがその鋼鉄の脚――ラプターバインを用いた蹴撃で、三人を薙ぎ払う。 「泥の味をこの機会に知ると良いでしょう。それは我々の味わった、苦渋の味で――」 言い切るより早く、自身に向けられた蜂の銃撃のような激しい弾幕にアンネマリーが思わず防御の構えを取る。 「70年も前に滅びた亡霊風情が、何が苦渋の味よ」 所詮、過去の虚栄にすがって『軍人ごっこ』を楽しむ連中でしょうとミュゼーヌがマグナムリボルバーマスケットの手を緩める事なく攻撃を続けながら言う。 「その通り、そしてその下らぬ茶番で我等の仲間を傷つけられた妾の怒り、その身に受けて見るが良い!」 今にも沸騰しそうな怒り。 全身を奔り、駆け巡る全ての魔力が眼の前の外道達を倒せと叫ぶ。 「これが、今日まで魔導を極め続けてきた妾の力だ!」 シェリーの怒りを爆発させたかのような、激しい炎のうねりがフレアバーストとなって兵士達を呑み込む。 「勝てる相手から潰すっていう考えは、効率的で確かなのですがー……そうでなきゃ勝てないと思っているとも取れるわけでして。発想が既に敗北者のソレな気がするのです。自信が無いように見えるのです」 シィンの指摘に、一瞬親衛隊の兵士達がざわめく。 が、直ぐに彼女のエル・フリーズによってざわめく事すら許されずに、何名かの兵士がそのまま地に伏した。 「二流民族達が、よくもやるじゃないかぁぁぁ! ひひっ!」 「その考えが、まず間違っているというのです!」 「人種などという器に拘っているからこそ、おぬしらは愚劣なのだと気付けこのたわけが!」 ● 戦闘は激しさを増す一方だ。 その中で、我等がアーリア人の同胞であり、また、志を、誇りを共にする仲間であり貴重な戦力である兵士達はすでに三人までも失われてしまった。 救援に駆けつけたリベリスタ達は予想を上回る渋とさと、強さを誇っていた。 最初の分断。 或いは、あそこが運命の分かれ目だったのかも知れない、とアンネマリーは胸中で呟いた。 「一手、打ち間違えてしまったようですね。少尉、私は――」 「ひひっ! どちらにせよ、ボク達だって傷ついたまんま戦ってたら今より酷い状況だったかも知れないよ?」 「心遣い、感謝致します。では……」 「ああ、撤退しよう。ひひっ! なぁに、生きてさえいれば機会は巡ってくるものだよ」 ディートハルトとアンネマリーが、手負いの仲間達を担ぎながら早々と撤退を開始した。 「――追いたければ、ご自由に。ただし」 貴方達が仲間のために、必死になったのと同じ様に此方もまた必死の抵抗をするかも知れませんよ、と。 最期にそれだけ、言い残して。 親衛隊との第一次遭遇はこうして、アークのリベリスタ達の決して最期まで諦めないという強い想いの勝利に終わった。 だが、彼等が果たしてこのまま逃げ帰ったままで終わるのだろうか。 元より、敗北を喫し、今日まで闇の中で耐え忍んで来た者達である。 恐らくは、何れまた彼等と出会う機会は巡ってくるのだろう。 恐らくは、そう遠くない未来に。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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