●00:22:40 予報外れの雨が降れど、猟犬の鼻は鈍らない。 世界には幾つかの人種がある。肌の色の差別ではない、彼等が行うのはその血の選別だった。 「さぁ、皆様方、わたくし達が劣等に負けるわけがない事を見せつけるのです。支配は力を以って!」 高らかに。金の髪を揺らし、機械化した拳を突き上げた女は『時代外れ』を纏い笑う。 ルージュを引いた艶やかな唇、垂れた何処か幼さを残す風貌からは想像も付かない言葉は彼女の部下達を突き動かすには十分であった。 「あの『正義狂い』共に見せつけてやるのです。誰が支配者であり、誰が優良種であるか! 誇り高き種の力を何処までも見せつけ、そして全てを喰らう勢いで屠る。お分かりでしょう、皆様方!」 悦に浸る様に語り続けた女が愛おしげに自身の握りしめていた銃剣へと手を添えている。 女の外見は何処となく大人しげでシルクのドレスなどを纏って居れば十分、深窓の令嬢としても見えた。 だが、女は窮屈な箱の中で大人しくしている程に『可愛く』はない。 「さぁさぁ、『正義狂い』を屠り、わたくし達は総統閣下の御遺志を正しく示すのです!」 じ、と懐中時計を見つめて居た男が「ルーナ少尉」と、名を呼んだ。 予定時刻は00:24:00丁度。その予定を示す事になった『運命』は効率的に彼等が動く為に必要不可欠であった。劣等如きに頼るだなんて無様と女が唇を噛むのは一種のプライドであろうか。 「少尉」 その針が指し示すのは55,56,57……刻々と進むソレが0を指示したその時、呼ばれた女は唇を歪め、「Go」と小さく口にした。 ●00:24:00 帰り路を失ったアザーバイドと言うのは実によくある話であった。 そのよくある話を対処する事件と言うのは、これまた実によくある『日常』であったのだ。 リベリスタにとっての日常は何処か普通から捩じれたものであると言うのは理解していた。この任務を終えて、帰還し友人らと語らう――それこそが普通の『日常』であるのだから。 大口を開けた瘴気を纏う肉の塊はぐちゃぐちゃと音を立ててリベリスタ達へと迫っていく。人を喰らい、その体と同化させ大きくなっていくアザーバイドを放置しておく事は許されない。 気色の悪いターゲットが居ると言うのに周囲に咲き誇る花の美しさは見事なものだ。帰りに花を見ていくのも良いと思いながらアザーバイドを傷つける。 『識別名:梔子』の動きは鈍く作戦面を固めて居たリベリスタにとっては余裕かと思われた。 伸びあがる腕を避け、誰かが「気色悪い」と呟く。 無数の手を生やした肉の塊に『顔』という部位は無い。ただ、大きな口と赤いひとつ目だけが存在する肉は蠢きながら獲物を捉えようと手を伸ばす。 雨がぽつ、ぽつと降るたびにアザーバイドの体が融かされる。天気予報は晴れのち曇り。こんな時に雨が降るなんて全く以って『ツイ』てない。 一つ不幸があるなら、それに見合う幸福が有ればいいというのに『世界』は全く以って度し難い。 そうそう上手く出来て居ないからこそ、人間は努力する生き物だと誰かが言っていた。 ぬかるむ足場から跳ね上がり、アザーバイドに攻撃を仕掛けたその刹那―― 「ご機嫌麗しゅう、リベリスタ。由緒正しき戦闘をご教授に参りました。あー……聞こえてらっしゃる?」 『何か』がアザーバイドの触手を落とす。 それを弾丸と理解した時、顔を上げたその場所には―― |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月29日(水)23:23 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 予報外れの雨は『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)の長い髪を濡らし続けて居た。髪を飾る白いアザレアも雨露で何処か色が褪せて見えた。染め直した黒髪から落ちる雫に若干の煩わしさを感じながら、少女の足には似合わない無骨な安全靴が地面を蹴った時、パン、と一つの発砲音。 咄嗟に反応した『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740)の長剣「白鳥乃羽々・改」が銃弾を受け止める。訝しげに潜められた形の良い眉はその発砲音が最近騒ぎになっている『亡霊』達の仕業であると直ぐに気付いた。 迫るアザーバイドの触手を払いのけた『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)が唇をにぃ、と歪めたのはうっすらと照らされたタクティカルライトの向こうに金髪の美女が――敵が見えたからであろうか。 雷切(偽)を握りしめたままの竜一が振り仰ぎながら纏う戦気は破壊の神をも思わせた。シュウ、と何かが焼け爛れる音を出す梔子の触手により傷ついた頬から流れる血を拭う、竜一は命を奪う事に何処か戸惑いを覚える様に視線を彷徨わせるが、其れをも感じさせない様にへらりと笑った。 唇に浮かんだ笑みの理由を女――『親衛隊』の少尉、ルーナ・バウムヨハンとその副官はリベリスタ達がアザーバイド『梔子』と闘っている隙をつき、戦いを有利に進めようと自身の小隊へと指示を繰り出して居る。 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は炎顎を突き出し、触手から逃れる様に一歩後退する。傷つき怪我をした肌から流れる血は予報外れの雨で拭われ傷口だけを見せて居た。 (――鉄十字の猟犬、か) 触手を炎牙で受け止めて、背後に向いた夏栖斗にゆったりと唇を歪めた女の表情を見た時、これこそ『ツイ』てないと言うのだと『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は再認識する。 「――あー……聞こえてらっしゃる?」 「ええ、聞こえています。御機嫌よう、猟犬の方々。皆さんの『戦闘』のご教授をして下さるのですね」 果て無き理想を振るうミリィはこの戦場における指揮官であった。指揮者がタクトを掲げると同時、両者が動きだす。ミリィが仲間達に与えて居た効率動作。加えて、梔子へと与え続けて居た眼力がふ、と少女の柔らかな瞳に戻ると同時、姿勢を低くした彼女が息を吸う。林の中に紛れるフィクサードが顔を出す。彼等が最初に狙ったのは矢張り後衛位置――指揮官たるミリィであった。だが、狙う弾丸を受け止めたのは砂蛇のナイフである。ついで降り注ぐ弾丸の雨を守護神の左腕は受け止める。誰ひとりとして奪わせない、それは『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)が掲げ続けた理想――『ゆめ』だ。 彼が与えた支援は神々の与える慈悲である。コンバットブーツを纏った足がやや泥濘だす土を蹴り、身体を反転させながらミリィへの攻撃を受け流す。敵の居場所を掴み、それが誰であるか――小隊のリーダーである女で無い事を把握した快の頬を掠めながら背後まで伸ばそうとする触手は梔子の物だ。 視線の受け、レイヴンウィングの袖から滑りだすイノセント。その手首で揺れるfelicitareが『パニッシュメント』神城・涼(BNE001343)へと力を与える気がした。雨粒で重たくなった前髪から雫が滴る。ゴーグルに包まれた視界で捉えたのは林から飛びだす親衛隊のフィクサードだ。その銃剣――オフィーリアの切っ先が受けとめようとした左腕を掠める。屈む様に姿勢を変えて、周囲に漂わせる魔力のダイス。に、と唇を歪める涼の背後で花が咲く。硝煙の香りの中、『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)が大業物を振るった。 「アザーバイドと交戦中にアンブッシュとは、ずいぶんと優秀な種族だ、なッ!」 その声と共に真っ直ぐに広がる夜の畏怖にルーナはゆるやかに微笑んでいた。 ● 折角のデートであれば晴れた日に青空でも見つめ、花畑で語り合うのが良いプランであろう。予報外れの雨に肩を竦める夏栖斗は小さなため息を吐き、親衛隊のフィクサードの中へと突っ込んでいく。その往く手を阻むフィクサードの体ごと赤い花を散らし、夏栖斗は唇を釣り上げた。 零れる牙が夜の貴族の名を冠す彼の力を表している。月の隠れた深い夜に、月を想わすように金の瞳が煌めいた。 「ご機嫌麗しゅう、鉄十字の猟犬。こんな雨の日でも嗅覚だけはよく働くね」 「ええ、それが『犬』で御座いましょう? アークの皆様方」 くす、と笑う女のオフィーリアから吐き出されるのは雨の様な弾丸であった。撃ち抜く様な音波を受け止めながら夏栖斗の顔に浮かんだのは嘲笑だ。ソレは気高い人種だと己を表現した女に対する一種の憐れみか。 「由緒正しき『戦闘』って言うのが不意打ちなんて君らの祖国の名も地に落ちたもんだね」 「効率よく戦い、効率よく終わらす――ソレこそ由緒正しき軍人の闘い方でございましてよ?」 女の言葉にどうでしょうと長い金髪を揺らすミリィの果て無き希望が掲げられると同時、動きだす竜一。転進した身体は其の侭、ブロードソードを手に猟犬の『包囲網』へと飛び込んだ。ソレに続く様に梔子が前進する。 「こっちにゃDTすら守り通すアークの守護神に! パンティスタ御厨夏栖斗がいるんだぜ!」 「ちょっ、その呼び名やめろっ! 行くぜ、相棒!」 「夏栖斗! 竜一! 歓迎して遣ろう!」 合わさる呼吸。その言葉の通り、前線に飛びこむ二人に続き、息を吸うミリィが使用するアッパーユアハート。所在をしっかりと認識して居ない以上、その呼び声には何も掛からない。 林の中で、未だ動きを見せぬフィクサードの中、回復役を呼び寄せ、早期的に殴りつける事を目的としていたリベリスタであるが出鼻を挫かれた形となる。だが、その『転調』にもミリィはへこたれる事はなく。任務継続の意を示す。 彼女の指示に頷いて、飛びだした旭が魔力鉄甲を嵌めた拳に炎を纏う。周囲を燃やし尽くす勢いで木々の合間に潜むフィクサードへと攻撃を行う彼女等に対して齎される梔子の瘴気。その瘴気を避ける様に、ステップを踏む涼が一歩飛びだし、死の刻印を刻みつける。 「親衛隊が漁夫の利狙いか。誇りはないのかよ? って、まぁ、効率的だもんな、それが」 「どういう意味だ」 口を閉じ、指示に徹していた男が涼を睨みつける。釣り目気味のブラウンが合わさり、にぃ、と笑う。投擲される神秘の光りに目が眩み足が止まる事から快が援助を送る。再び飛びこむ涼が踏み込む攻撃が親衛隊のフィクサードを傷つけた。両者共に傷を負う――だが、リベリスタの方が少々体力を消耗していると言えようか――この場面でもリベリスタは何かを諦めることはない。 「過去の亡霊はお呼びじゃねえ。血統主義なんざ今どき流行んねーんだよっ!」 背後から放つ攻撃が的確に姿を現すフィクサードへと与えられる。出来れば背後で蠢く気色悪い生物を倒してくれれば嬉しいのだとちらりと視線を向ければ、未だ蠢く梔子が血を滴らせながらゆっくりと養分を求める様に進んでいた。梔子はリベリスタもフィクサードも区別はしない。それ故に前線で戦いに出てきたフィクサードにも攻撃は与えられていたのだ。 「ッ、アレも巻き込んでしまいなさいな!」 「Ja!」 その触手から避け、発砲し続けるルーナの声に従い、覇界闘士が弾き出す飛翔する蹴撃が旭の体を貫き梔子の体を穿つ。痛みを堪え、同時に焔が全てを焼き払う。旭はにい、と唇を歪めて笑った。 「どっちが先に倒れるか、根性比べしよっか? しんえーたい、だっけ?」 「ええ、正しくわたくし達は『親衛隊』でございましてよ、プリンセス」 呼び名に瞬いて可笑しそうに笑う旭の表情が一瞬で可愛らしい少女の顔から歴戦の戦士の顔へと変わる。ゴーグルに包まれた視界の中で笑った緑色の瞳に何処か、赤色の光が宿った様にも見受けられる。 「簡単に負けたりしないよ? だって、みんなすっごくつよいんだから!」 「ええ、此方はただ『ツイ』てないだけですからね。――見つけましたよ?」 笑うミリィが呼び寄せようと手招いた。その旋律に誘われる様に飛びだすホーリーメイガスに夏栖斗が笑い、赤い花を散らす。幾ら夏栖斗や快、竜一が幾度も修羅場を乗り越えてきたとしても其処に油断は持ち合わせては居なかった。一人ひとりが軍人として訓練されたフィクサードである以上、此処で油断しては負ける可能性が存在しているのだから。 もぞもぞと崖から段々と這い寄る混沌の気配は生物を養分とし取り込みたい梔子ならではの動きであろうか。直観的に気付いた佳恋が振り仰ぎ、その体を再び押しのけようと剣を振るう。だが、その隙をつく様に彼女の脇腹へと弾丸が深く抉り込んだ。 「ッ、面倒な時にッ……! 貴方達に屈する訳にはいきません、アークの戦士として!」 振るう切っ先がフィクサードの体を弾き飛ばす。進路を開けたところに飛び込む竜一が更にフィクサードの体を弾き飛ばした。弾丸が降り注ぐ中、其れさえも楽しそうに笑う竜一は真面目な表情をちらりと覗かせ、身体を逸らす。その上を飛ぶように行く黒鴉。涼の武器が真っ直ぐにフィクサードを切り裂いた。 「状況をひっかきまわすのは大好きさ! 大いに仲良く乱れようぜ、金髪美人のお姉さん!」 「ルーナ。気軽にルーナ様と呼んで下さっても構わなくってよ、『正義狂い』!」 その言葉と共に弾きだされた音波が竜一の頬を切り裂くと共に梔子の体を傷つける。ホーリーメイガスを狙い続ける攻撃を放つ炎顎。夏栖斗とて、その構成を弱める事は無い。ぐらりと揺らぐ身体を支える親衛隊員が繰り出す暗闇に旭が囚われる。 前線で戦う旭を庇い、攻撃を続ける快ではあるが、後衛位置であり、乱戦状況の中でも背中を取られ易いミリィが梔子の攻撃を受ける事で手が足りて居ない。だが、『ツイ』て無い日に指揮官はソレだけでは諦めない。 「回復手が居なくなった以上舞台は一緒。指揮官は貴方ですね? 消耗合戦は何を意味するか分かるでしょう?」 「だが、まだ戦えるだろう?」 ベルントがその言葉と共に放つ光がリベリスタの足を止める。だが、その中でもミリィは周囲を焼き払う神秘の光りを広げ、応戦した。続き、全身の力を込めてその細腕から敵を叩きつける佳恋が下がった場所へと禅次郎が夜の畏怖を齎した。月を隠した雲の下、視界を覆うヴェールの様な雨の中で『リベリスタ見習い』と名乗る青年は笑っていた。 「一発よりに二発。こちらと負けては居られないんでね! 不意打ちとかカッコ悪いぜ? カッコ悪い奴に負けるのがもっとカッコ悪いけどな!」 イノセントが滑りだす。其の侭切り裂く切っ先が親衛隊の制服を傷つけた。応戦するその手により血が溢れだしても、その血は雨によって流される。どれ位の戦いを続けて居るのか――長い戦いで運命を代償にしたのも仕方がない事だろう。 蠢く梔子は花弁の舞う中、その触手を再度伸ばす。されど、その手を払ったのは夏栖斗だ。半回転した姿勢のまま、右足が踏み込み、前線へと飛び出した。身体を倒す様にトンファーを振るったソレが気合を込めてその体へと叩きつけられる。 「雨の日のランデブーじゃ楽しめるものも楽しめないでしょ?」 「死んでくれるなら死んでくれても構わないぜ? 美人のお姉さんの為なら尽力してやるって!」 笑う声に、唇を歪め弾きだされる弾丸を受け止めた竜一が声をかける。頷く佳恋が長剣「白鳥乃羽々・改」を古い、フィクサードの体を木々へとぶつける。傷つく腹を抑え、彼女がその場所から引いた一歩。 「――舐められたものでございますわね?」 打ち出された弾丸が右腕を撃ち抜く。ぎり、と唇を噛み、再度振り翳す切っ先を受け止めた親衛隊員が彼女の腹を狙ってオフィーリアを突き立てた。 「負けてらんないんだよ?」 笑った旭が横から親衛隊のフィクサードの体を吹き飛ばす。畳みかける様に飛びこむ竜一はへらりと笑って、剣を振り翳した。掲げられた指揮棒が激しい旋律を奏で続ける。戦場を奏でる戦奏者に従い、正義を振り翳す快の左腕が何をも喪わぬ様にと仲間達を支援し続ける。黒き夜の畏怖を禅次郎が孕みながら振り翳すソレが的確にフィクサードの体力を削り続けた。 木々の間に潜む様に、進み黒いコートを揺らしながら涼は一気に飛びだした。炸裂した爆薬の花の中、顔を出した涼のノットギルティがベルントの肩口を切り裂いて、へらりと笑う。 「どーだ? 男の子には意地があるんだよ…!」 「これ以上遣られる事が、どの様な結果を齎すか――お分かりですね?」 ミリィの忠告ともとれる言葉に指揮官であるベルントが唇を噛んだ。黒き瘴気を吐き続ける梔子が未だ彼等を狙う様にとゆっくりと前進を続けて居た。 ● 戦闘時間は体感では随分と長い様に思えた。其れもその筈だ。回復が完璧でないリベリスタ陣からすれば、速攻戦闘で終わらしたい所をフィクサードが尽いたのだ。じりじりと削り合いになったこの場所でどちらが優位であるのか――それは、梔子の『生物は養分である』という特性をうまく利用したリベリスタであった。 両者共に梔子の攻撃を受け続け、消耗は激しかったのだ。 「さて、そろそろ、終わりかな? ルーナちゃん」 『正義狂い』だと馬鹿にする様に笑うプリマドンナ――主演女優はこの場で言うなればルーナなのであろうか。時代錯誤にも程がある、そう感じた夏栖斗が前線のフィクサードへ近寄り、その血を啜る。唇の端に付いた血を拭いながら炎牙が受け止めた切っ先。避ける様に身体を捻り、其の侭破壊的な拳を撃ちこんだ。 「全くどっちが正義狂いなんてわかりゃしないよ、ね、ルーナちゃん」 「わたくしにとっては皆さまこそ『正義狂い』でございましてよ? リベリスタ」 彼女の弾丸を避ける様に受け止めて、快は撤退を促す様にフィクサードへと向き合った。どちらも互角と言えばそうなるだろう。だが、相棒や友人とのコンビネーションが功を奏したのか、リベリスタ側の方が優勢であったと言えよう。 「撤退するなら見逃してやる。少佐殿には『運悪くアークのエース舞台と遭遇しました』って言い訳すると良い」 その言葉に形の良い唇を歪めるルーナの風貌は矢張り深窓の令嬢がよくに合う物だと竜一は思う。どうせなら美女の相手を引き受けたかったのだと唇を尖らすが、彼はそれでも自身の役割を全うしていた。 「できれば、ランデブーしたかったよ? ルーナたん。そん時ぁ、ノーピーチでフィニッシュです!」 「次回のデートはお会いできれば幸いですわね、『正義狂い』」 手をくい、と背後に向け、撤退を促すサインを示すルーナ。親衛隊の面々が撤退する事に対してリベリスタは追い打ちをしかけない。だが、乱戦状態になったその場所に伸びあがる触手がリベリスタ、親衛隊の両者を掴もうと伸ばされた。 「ベルント。『正義狂い』は可笑しな玩具と遊ぶのに忙しそうですわ。さぁ、」 帰りますわよ、その声を耳にしてもミリィは彼等から目線を逸らさない。回復手の居ない布陣ではその支えとなっていたのが快による支援であった。敵を穿つ為の殲滅の加護は神による力だ。敢然なる者が砂蛇のナイフを突き出した。触手を斬り落とし、一気に梔子に対して攻勢を強める快や竜一の間を掻い潜り、親衛隊のフィクサードが去っていく。その背中にやや残念そうに笑った竜一は「またね」と小さく零した。 全く以って『ツイ』てない。舞い上がる花弁の中、長い黒髪を揺らし、雨で重たくなった前髪を払った旭が「待たせてごめんね」とまるで友人へと語りかける様に梔子へと声をかける。 巻き上がる白いワンピース。安全靴の爪先が泥濘む地面を蹴りあげる。新緑を想わす瞳が細められ、一気にその蹴りが放たれた。熱感知により、その場から親衛隊フィクサードが姿を消した事を快はミリィへと伝える。 戦場を奏で続けた指揮者は鮮烈なる光りを放ち、全てを焼き払わんとその触手を落としていった。 「邪魔があってお相手できなくて申し訳ないですね。……けれど、終わりです」 踏みしめる地面。前線に飛び出した佳恋が紺色の長い髪を揺らす。闇に融け入りそうな髪が一度広がった後、その踵が地面から浮きあがり長剣「白鳥乃羽々・改」が一気に振り下ろされる。バネの様に伸びあがる腕。その勢いのままに再度崖の端まで置いたられる。花が巻き上がる。 ただ前のめり。其の侭の姿勢で痛みを堪えた禅次郎がその大ぶりの太刀を握りしめ、身体を捻る様に暗黒の魔力で切り裂いた。何処から声が出ているのかも分からない。声帯があるのかと疑いたくなる気色の悪い生物がけたたましい叫び声を上げる所へと笑った竜一が身体を捻る。 「救えるか救えないか。其れで言っちゃァ、お前は救えないものだ。救えないものは救わない」 黒い瞳が細められ、ブロードソードが生と死を分ける様に振り下ろされる。ぱちりと瞬く旭が「そう言えば、お花が散ってしまう」とぼんやりと思うと同時、その剣は真っ直ぐにアザーバイドの体を切り裂いて、その命を奪い去っていた。 ただ、其処に残るものは何もない。花弁を散らしながら雨に打たれる小高い丘で、身体の傷を確認しながら旭が周囲を見回した。 「さ、変な横槍は言ったけど撃退したよって報告しに帰ろ。つかれた……みんなだいじょーぶ?」 首を傾げる彼女の足元で未だ、枯れぬ花がしとしとと降り注ぐ雨を弾きながら存在していた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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