●もーいーかい 「困りました」 闇夜の中、冷たい骸に腰掛けた黒衣の兵は息を吐いた。 何が困ったのかと下士官が上官に訊ねた。七派などと名乗る黄色猿集団――おっと、口に出す時は『ダイジナトモダチ、タヨレルヤクザサン』だ――から得た情報で作戦も順調だと言うのに。一体何が、何がこんなにも上官の眉間に皺を刻むのか。 「実は私……悪逆ユダヤと鬼畜米英とゲロッカスイワンと敗北主義パスタ野郎の次に、探しものが苦手なのです」 ふぅ。溜息と吐いた言葉。なんとそれは初耳だ、と下士官が目を張れば、「人に言うのは初めてですからね」と困った様に上官は笑った。人差し指を口元に、「皆には秘密ですよ」と。 「……とまぁ、可愛い部下と戯れていても状況は進展しませんね。それに、新しい箱舟が直に来る事でしょう。諸君、諸君、可愛い私の部下諸君。い~いですか我々は鬼です。カクレンボの鬼ですね。鬼は鬼らしく、狡猾に、残酷に、残忍に、冷酷に、追い立ててやろうじゃあないですか」 「Ja!」 「よろしい、私の可愛い部下諸君。では、楽しいカクレンボを始めましょう!」 ●SOS! 「親衛隊が出現しましたぞ」 事務椅子に座した『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)は深刻な表情をしてそう告げた。 親衛隊――バロックナイツが第八位『鉄十字猟犬』リヒャルト・ユルゲン・アウフシュナイターが率いる時代錯誤の狂集団。彼等がここのところ彼方此方で暗躍している事は耳に新しい。 「えぇ、実に、厄介です。彼等は日本のフィクサード主流七派と組んでフォーチュナ能力等の情報提供を受けている様で……イヤったらしい程にこっちが嫌なタイミングで我々アークリベリスタに仕掛けてきました」 それはつまり、『任務を終えたばかりで疲弊しきっている所への急襲』。 メルクリィが録音した音声を再生する――それはアークリベリスタからの緊急通信だった。 要約すると、こうだ。 エリューション討伐の任務を終えた瞬間に親衛隊が急襲してきた。 殿を務めた仲間二名の命を代価その場は命辛々撤退に成功するも、追われ襲われ散り散りになり、現在は廃墟に立てこもっていてどうにもならない状況だ。 「だが、見つかるのは時間の問題だろう――と、彼等は続けました。 皆々様に課せられたオーダーは『仲間の救出』! 事態は一刻を争う状況ですぞ。 現場は郊外のゴーストタウン。夜闇の中には親衛隊が目を光らせているでしょう。光源を使用するなど目立つ事を行えば直ちに発見されてしまいますぞ! それから、当然ながら彼等は『バロックナイツ』の配下なのです。決して決して油断をしてはいけませんぞ」 そこいらのフィクサードとは、ゴロツキやヤクザとは違う。彼等は『軍人』。戦う者達。 「作戦内容は皆々様に一任されております。特殊な状況ですが――皆々様ならきっと大丈夫! どうかどうか、お気を付けて。応援しとりますぞ!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月01日(土)23:53 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●夜よりも暗く 真っ暗闇だった。 息を殺して、抜き足差し足。黒い中で微かに揺れる人影が幾つか。 「きたわきたわ、噂の鉄十字軍団! やっと直接対決できるのね!」 小声で何処か楽しげに『運び屋わたこ』綿雪・スピカ(BNE001104)が言った。だが、彼女は知っている。今は喜んでいる場合ではない、一刻を争う事態であると。 うふふ、随分とダークなお遊戯になりそうね?――運び屋が本日運びますのは、大事な仲間の大事な命。 「Sanctus、Sanctus、Sanctus――」 聖なるかな。『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)は賛美の祝詞を唱える。両の手に尊い教えを携えて、祈りを捧げる。邪悪な十字を掲げる者へ神罰を、我等に聖なる十字の加護を。 「疲弊した敵を狙うのは普通だけど、ね」 理解は出来る。効率的だ。しかしされたいかと言われたらまた別だと『逆月ギニョール』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)は息を吐く。 親衛隊――舌打ちをしたのは『ザミエルの弾丸』坂本 瀬恋(BNE002749)。嗚呼、一体WWⅡから幾つの月日が経ったと思っているんだ? 「今更動き出すとか寝ぼけてんのか? 今まで通り大人しく妄想に浸ってろやボケが」 「うむ、いい年をしてかくれんぼとは鉄十字猟犬も子供だな。天才の僕がリベリスタを救出だ、僕は子供だけど天才だから大人より大人っぽいのだ」 むんっと胸を張るのは『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)。その傍ら、気配を殺す『スウィートデス』鳳 黎子(BNE003921)は油断なく周囲に気を巡らせていた。 (私は元々隠密型です、とは言いましたが……さすがに軍人相手にかくれんぼした事はないですよう) この夜の彼方に待つのは何か。 「わらわは静かな夜が好きじゃ。その静寂を乱そうとする鬼共はさっさと退場してもらおうとするかのう……仲間は誰一人やらせはせんぞよ!」 赤い瞳できっと夜を見渡し、『還暦プラスワン』レイライン・エレアニック(BNE002137)。その黄金色の猫尻尾が揺れる傍らで――もう一本、黒い猫尻尾が、ゆらり。 「誰かを助けに行くのはオレの仕事、ソレこそオレが為すべきだ」 レイラインの言葉に同意の頷きを示したのは『刃の猫』梶・リュクターン・五月(BNE000267)、その目線は刃の如く真っ直ぐと。 「さぁ、存分に誇りと思いをぶつけに往く。俺の誇りは誰かを守るこの力とアークのリベリスタとしての想いだ」 一歩。 アイコンタクト。交わす頷き。 そしてリベリスタは、真っ暗闇の中を二手に分かれて動き出す―― ●SideA 「今そちらに向かっておるからの……音を立てず物陰に隠れていてくれなのじゃ」 レイラインは幻想纏いに小声で呼びかけた。通信機の向こうに居るのは、立体駐車場に隠れている友軍。合流まで移動しない事、敵襲時はすぐに伝える事を連絡すると、「分かった」と声が緊張した声が返ってきた。そのまま声は、自分の所在地を詳細に伝える。これで迷わずに向かう事が出来るだろう。 ならばその道中を十二分に警戒する必要がある――リベリスタの行動に抜け目は無かった。大きな音は立てず、息を殺し、気配を殺し。スピカは暗闇に苦労しながらもESPで、レイラインは超反射神経で不意打ちに備え、エレオノーラは熱感知の力で、瀬恋は集音の力で、黎子をはじめとした暗視能力を持つものは闇を見通し、用心深く廃墟となった立体駐車場へ進軍を続けていた。 無言。息の音すら聞こえない。足音も。 そんな中、レイラインは極力小声で仲間との連絡を取り合い、エレオノーラはハンドサインで『異常無し』を伝える。 「……」 瀬恋も黙したまま。しかし、奇妙だ。奴等。確かに、耳を澄ませば時折『音』は――遠くからほんの僅かながらも――聞こえてくるが。性急に襲い掛かってはこない。こちらに気付いていないのか、はたまた。 多くの人数、とはいえ、その多くが能力を有効活用した為に彼等は迅速に立体駐車場に辿り着いた。 ――居た。 エレオノーラには分かる。熱反応、三つ。送るハンドサイン。頷く仲間。 「お待たせして御免なさい、すぐに手当てするわね」 駆け付けて、「来てくれたのか」と安堵の顔を浮かべた彼らへ。スピカはドルチェ・ファンタズマによって癒しの音色を優しく奏でる。 「とゆーわけで、こっちはミッションクリアですよう。これから私は綿雪さんと友軍を連れて離脱しますね。御武運を」 仲間にそう伝え、通信終了。黎子はスピカと共に負傷者を担ぎ、レイライン・エレオノーラ・瀬恋の三人は他の友軍を探すべく踵を返す―― ●SideB いずれ来る、審判の時の為に。 息を殺すリリは熱感応式暗視装置によって齎された視界で闇を見渡しつ、幻想纏いによって隠れている仲間へ声をかける。 「大丈夫です、もうすぐ参ります。今暫くその場でご辛抱を」 ありがとう、と声が返って来る。弱弱しいものの、確かに生きている。急がねば。 「異常無しなのだ」 陸駆は熱感知の能力で周囲をサーチし、五月は猫耳をあちらこちらに向けてみる。 能力フル活用、三人という少人数故の目立たなさも活かし。連絡を取り合う友軍が己の隠れ場所を教えてくれた為、彼等が廃墟の地下鉄に辿り着いたのはそうも経たぬ内だった。 見付けた。ホームの下、線路の横の僅かなスペース。良かった。隠れていた者は泣いていた。すまないと。 その傍にしゃがみ込み、血で汚れた頬を伝う涙を指で優しく拭ったのは五月だった。 「どうか泣かないでくれ。謝るのもやめてくれ。オレは君を助けに来た、メイだ。ここで君を死なす訳にはいかないんだ。オレは君の名前を知らない。よければ、名を教えてくれないか?」 彼が名前を伝える。そうか、と柔く笑んだ黒猫がその名を呼ぶ。もう大丈夫だ。一緒に帰ろう。 されど、そのややもしない後。 「……!」 五月は音で。陸駆は熱で。 感知する。やって来る。駆け足で。何処からだ。何処に居る。二つの足音。暗い闇。 最中。リリは静かにロザリオを握り締めて天に祈りを捧げた。 神の前に、一切の嘘偽りを暴きましょう。 ――幻想殺し。 主の目はあらゆる嘘を赦されぬ。 「いました。そこの影です、数は二!」 リリの目に看破され。言葉の否や、影から黒衣の兵――親衛隊が二人飛び出し、更にもう二人の親衛隊が襲い掛かって来た! 「全ての人類は神の下平等です。私は正しき十字の徒……貴方方が戦争と差別を望むのなら、私は『お祈り』で応えましょう」 距離を詰めてくる親衛隊に、リリは聖別されし双銃「十戒」「Dies irae」を真っ直ぐに向けた。 Amen.そうあれかしと引き金を引けば、降り注ぐのは天帝の矢。裁きの焔。暗闇に染まる地下鉄を赤が照らす。 されどその中を突っ切って、親衛隊の一人がナイフを手に一気に間合いを詰めてくる。 煌めく刃の銀色。 一閃、交差、搗ち合う鋭さ。 「今夜は月が綺麗ですね、だ――ここは月が見えぬのが残念だが、こんなに良い夜なのだから亡霊には眩しいだろう?」 即刻退散してくれても構わぬのだぞ。親衛隊の刃を、紫花石で受け止めた五月が凛然と言い放つ。刃を振り払い、くるり――踊る様に回れば紫丁香花のフリルが揺らいだ。『守る刃』に意味を、戦気を、有りっ丈。力を込めて叩き付け、吹っ飛ばす。 その直後に別の親衛隊が放った暗黒が三人を穿った。顰める顔は一瞬、五月は油断なく刃を構える。 「地下鉄構内とは中々ロマンスの感じる場所だな。亡霊は亡霊らしく地を蔓延るとでもいうのかな?」 「Ashes to ashes,dust to dust……亡霊は在るべき場所に還りなさい」 立ちはだかる五月とリリ。 陸駆は暗視ゴーグルを外した事でやや視界に苦労をしながらも神秘の閃光弾を投げる。 光が、迸った。 ●夜に夜に リベリスタの連絡は密だった。 故に彼等は、3点に分かれた全員が親衛隊に遭遇した事を知る。 「やぁ、来た来た」 レイライン、エレオノーラ、瀬恋の眼前。 そこには、友軍の新鮮な死体に片足を乗せたゾルタンだった。その両隣には親衛隊が一人ずつ。 間に合わなかった――A、Bの救助に向かっている間に。ただでさえ恐慌状態で理性的な行動が取れなかった状態だ、隠密行動などとても出来ずリベリスタの中で一番『目立って』いた存在だ。 「……てめぇ……!」 瀬恋は歯を剥き拳を握り締める。だが、その激情を制す様に。一歩。前に出たのはエレオノーラ。 「御機嫌よう時代錯誤なクラウツ諸君。もっと慎ましく暮らした方がいいわよ、あたしみたいに」 「……。やぁイワン、スターリンの所までお見送りしてあげようかい?」 エレオノーラ・カムィシンスキー。彼がにっくき人種である事をゾルタンは知っていた。 搗ち合う視線。張り詰める殺意。 轟ッ――一斉。エレオノーラは己の身体のギアを極限に高め、レイラインは雷光をその身に纏い、瀬恋は違えざる血の掟を自身に刻み込み。ゾルタンは脅威の影を、親衛隊は攻撃教義と金剛の構えを。 まだ仲間の撤退を確認出来ていない。ならば、彼らの安全が確保されるまで――ゾルタンの足止めを。 同時。 蹴り出す地面。 「ちと、体に堪えるが……! さぁて、今のわらわに触れるかの?」 閃かせる電撃戦<ブリッツクリーク>。一直線。誰よりも何よりも速く。覇界闘士へと歌聖万華鏡を広げ、叩き込むのは澱み無き超速攻撃。夜闇に万華鏡が稲光と共に舞い、躍り、高らかに歌う。 その直後、翼を翻しゾルタンへ猛速の突撃を仕掛けたのはエレオノーラだった。その手に持つ左右対称の両刃ナイフHaze Rosaliaが鈍く煌めき、鋭い突きが繰り出される。ゾルタンの肩口をスパリと切り裂く。 間近、搗ち合う目、ゾルタンがにたりと笑った。その蟀谷に暗殺針を突き立て死の刻印を刻もうと。 「!」 刹那。絶影。残像。分身。黒い切っ先は、浅く浅く真白い頬に一文字の赤を刻んだだけ。 飛び下がったエレオノーラの可憐で瀟灑な衣服が触れた。頬に血が伝えどその表情に変わりは無い。人形の如く。 「随分と『のんびり屋さん』なのね、鈍い男は嫌われるわよ?」 「男に言われたくないなぁ……その恰好、ロシア男にゃ流行なのかい?」 皮肉合戦。剣閃攻防。 「雑魚ァすっこんでろオラァ!!」 瀬恋は溢れる衝動のままに荒れ狂う大蛇が如く、拳で弾丸で暴れ回る。その肘鉄がレイザータクトの顔面に突き刺さり、歯の折れる音と共に血が散った。 ざん、と踏み締め、横合い。エレオノーラと攻防を繰り広げるゾルタンへ。 一徹。 「ぐほっ……!?」 ドギツイ一撃。ゾルタンの腹に突き刺さる拳。 押されるままに飛び下がった、その親衛隊へ。瀬恋は親指で首を掻っ切る仕草で睨ね付ける。 「今のはやられたアイツの分だ。……次はアタシが腹立った分。その次はアークに喧嘩売った分」 その次は――殴ってから考える。前へ。拳を握り締め、前へ。 ゾルタンは血交じりの唾を吐き捨てる。いいだろう。踏み出した。ブラッドエンドデッド。視界を黒く、黒く染め上げる―― 「まぁ、こうなっちゃうのね……」 ザックリ斬られた腹を抑えつ、それ以上の出血は削る運命で防ぎつつ、スピカは己が血で濡れた唇で苦笑を浮かべた。ブーストした魔力を練り上げ、奏でるのは『甘美な音色』。姿を持たない甘い音色。それは脅威の四十奏と成り、光を奔らせ飛んでゆく。 それに並走し。滑る様に黎子が駆ける。 「貴方達みたいな亡霊には、とびきりの凶運がお似合いですよう」 回る廻る、運命を司るルーレット。絶大な魔運は親衛隊が放つ弾丸をジョークの様に逸らさせ躱させ、距離を零。 さぁ、行け。その手で放つダイス達。ころりころりと、その数は一体、何D何? 恐るべき数だった。親衛隊が目を見開く。 「Jackpot!」 下に突き付けた親指。刹那。ズドンドカンボガンチュドーンズドーンドドドドドドドドドドドドドドドド。 哂うルーレットの如く、それは不条理の極み。イカサマと思いたい程の大当たり。 「よし、今の内に撤退しますよう!」 「了解です!」 爆花の硝煙が晴れ切らぬ内に。黎子はAFよりトラックを取り出し、スピカと友軍と共に飛び乗った。 ドルン。吹かすエンジン――えんじん――あれ? 「ちょっと ちょっとちょっとー!?」 ここでファンブル。エンスト? かからない。鍵を回せど回せども。 その間にせまる親衛隊。ヤバイ。マズイ。かかれかかれかかれ良い子だからこのクソおんぼろガソリン抜くぞ! 咄嗟に行動したのはスピカだった。窓から身を乗り出し。奏でるヴァイオリン。 「悪いけど、離れて貰うよっ」 繰り出す魔弾の四重奏。斯くしてそれが切欠か、黎子の願いがトラックに通じたか。 ドルルン――かかるエンジンと、スピカの牽制に一瞬怯んだ親衛隊。 「アクセル全開、とばしますよーう! 掴まってて下さいねえ!」 「わわ、わわわわわわわわわ!」 スピード重視。踏み抜くアクセル。グンッと加速。揺れる車内。 そして当然ながら、いくら親衛隊といえども人間だ。走って車に追い付ける者などいる筈もなく―― 悲痛な声が聞こえた。もういい、自分を捨てて早く逃げろと。 その声に、大丈夫だと陸駆は言い放った。血だらけで、傷だらけで、肩を弾ませながら。 「大丈夫だ、大丈夫なのだ。僕は貴様を助けにきたのだから。僕は天才なのだから。軽々しく死ぬなんて言うな。生きていることを誉れにしろ。貴様にも家族はいるだろう。 家族に会うために帰るぞ、こんなくだらないかくれんぼなんて付き合う必要はないとIQ53万の演算頭脳が答をだしている」 「倒れません。私は神の魔弾、何かを守れるのなら――」 陸駆が放つ思考の奔流に飛び退いた親衛隊へ、リリは照準を合わせる。正しき十字の盾とならん。闇を射抜く流星の弾丸。例え闇の中であろうと、心にはいつも信じる光。両の手には尊き教義。 諦める必要も、恐れる必要も、無い。 「俺は何かを諦める事は嫌いなのだ。だから、オレは一生懸命死に物狂いで戦い続けるのだ」 それがアークのリベリスタだろ? 小さく振り返り、五月は紫眼の煌めきを友軍に送る。 他が為に。透き通るアメシストの輝きを放つ紫花石を構える。間合いを詰める親衛隊が繰り出す闇の剣が黒猫の身体を切り裂いた――だが。欠片も、彼女が揺るぐ事は無く。 「護れというのはオレの本望だ。思う存分護る――それが、オレだ!」 鮮烈一閃。 生死を分かつ破壊の一撃が目前の親衛隊に叩き込まれ、薙ぎ払われた黒衣の兵が赤に染まりながら地面に投げ飛ばされた。 一瞬――数ならばこちらが上であったのにと親衛隊に動揺が走る。 その隙を逃さなかった。 「今です、退避を!」 「分かった! ――陸駆、フラッシュバンを!」 「任せると良い、天才的に決めてやろう!」 斯くして、閃光。五月は負傷者を担ぎ、リリは双銃にて牽制射撃を行い。 暗い暗い地下鉄から、脱出する。 「――だってよ、ざまぁねぇな」 撤退完了の報告。暗い視界、されど瀬恋は口角を吊り上げた。 「そういうわけじゃ。残念じゃったの?」 ふふんと笑うレイラインの身体に傷はほとんどない。ただでさえ高い回避力にブリッツクリーク。半端な精度では触れる事さえ許されない。閃き歌う双扇子が、覇界闘士の動きを速度を以て縫い止める。 飛び下がった――着地の隣には、同じく深手の無いエレオノーラ。 「До свидания、精々上官に叱られなさい」 叱られるだけで済めばいいわね?薄笑みの唇で「さようなら」を告げると、彼は視界を奪われた瀬恋に肩を貸す。 全員の救出は能わなかったが、全滅は免れた。任務は完了。救出も撤退も完了した。 ならば、これ以上の用はない。 「簡単には逃がさないぞ!」 「悪いが逃げさせて貰うぞよ!」 飛び出したゾルタンへ、牽制せんとレイラインが鮮やかに放つ空中演舞。稲妻を纏う彼女が繰り出す多角的な攻撃は、まるで火花が散る様で。 「今じゃ!」 「ありがと! さ、急ぐわよ」 走り出す。走り出す。 最中、視力の戻った瀬恋は親衛隊へと振り返って。 「次遭った時ァそのナメくさった顔面ぶっ壊してやるよ……!」 吐き捨てる。そして。夜の中へ。闇の中へ。 静寂、暗転。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|