●緊急避難警報発令中 竜巻。日本で見かけることはほとんどないが、海外、特にアメリカなどでは度々巨大なモノが発生し、その度に結構な被害をもたらしている。 積乱雲の下で発生し、雲に向かって細く長く伸びる渦巻き状の上昇気流のことを、竜巻と呼ぶ。 自然災害の代表の1つとも言えるその竜巻が、突如として発生した。 ある春の日の昼下がり。湖の中心に発生したその竜巻は発生から二時間経過した今もなお、その場に留まり続けている。範囲にして、直径10メートルほどか。竜巻としては小さめではあるものの、日本で見るには十分恐怖を感じるサイズだ。 事実、いつそれが移動を始めるか分かったものではないので周囲数キロ内は現在立ち入り禁止。近隣住民の避難も完了している。 『退屈』 竜巻からしわがれた声が木霊する。渦巻く風と水の中に、人影のようなものが見える。恐らくあれが、竜巻を起こしている張本人。神秘絡みの何かであろう。 その声に応えるように、湖の周りの木から4つの影が飛び立った。鳥の体をしているそれだが、全体的なフォルムは人に近い。嘴はあるものの、顔立ちは人間の男性に似ている。 『退屈……』 呟くように、それは言う。竜巻の中心にいるそいつは、今のところその場から動くつもりはないようだ。 けれど……。 『遊んでくるといい』 そいつに促されるように、鳥人のうち2体が湖から飛び立っていったのだった。 ●風にまつわる不思議な話 「E・エレメント(サイクロン)と、E・ビースト(バードマン)が4体。サイクロンには人語を解する知能はあるみたいだけど、自身の存在理由や目的などは本人にも不明のよう」 現在は湖の中心に、竜巻を作って留まっている。その光景をモニターに映し『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は状況の解説を開始した。 「湖の傍には神社があるけど、現在は誰もいない。半径数キロに渡って、すでに人民の避難は完了している」 もっとも、怖いもの見たさで危険も顧みずに湖に近づく者がいないとも限らないわけだが。 「神社の方面に、バードマンが2体飛んでいった模様。残り3体は、まだ湖周辺に居るみたいだけど。バードマンやサイクロンがいつ移動を開始してもおかしくないので、早目に対処して」 相手は竜巻である。建物や自然に被害が出るのはある程度仕方ないだろう。とはいえ、人的被害は0に抑えたい。その為には早目の対処が必要となる。 「バードマンは、素早い空中戦と、鍵爪や物を使った攻撃を得意としている。耐久力や知能はさほど高くないけれど、回避は高いようだから。フェーズは1ね」 一応、サイクロンの命令には従っているようである。事実「遊んでくるといい」の言葉を受け、内2体は神社へ飛んでいった。恐らく、獲物になる人間か動物か、探しに行ったのだろう。 「フェーズ2のサイクロンは、現在湖の中心で竜巻の中に籠って瞑想中。何故自分が存在しているのか、考えているみたい。とはいえ、このまま放置も出来ないし討伐してきて」 湖の直径は、50~80メートルほどだろうか。それなりに広い。その中心に渦巻く竜巻だが、大量の水を巻き上げ渦巻いている。湖全域に強風が吹き荒れていて、飛行で近寄る際にいくらかの影響を受けるだろう。 「サイクロンの竜巻は、遠距離攻撃の威力を大幅に軽減する。まずは竜巻を打ち消すことを優先した方がいいかもしれない」 自然災害が相手だ。油断してかかると、痛い目を見るだろう。 「それじゃあ、行ってらっしゃい。無事に帰って来てね」 そう言ってイヴは、仲間達を送り出すのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月31日(金)23:19 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●神域での闘争 神社の敷地内に存在する湖。その中心に渦巻く大竜巻。その中には、E・エレメント(サイクロン)が存在している。自身が何者なのか、自分は何のために存在しているのかも分からないサイクロン。彼に従うE・ビースト(バードマン)がその回りを飛んでいる。 『退屈だ……』 溜め息混じりに、サイクロンはそう呟いた。 「今更ですが、現象にも自我を生じさせるのが高位チャンネルの恐るべき所ですね」 急降下してくるバードマンの爪を、剣で受け止め『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)はそう呟いた。視界の端には、空高くへと伸びている竜巻が映る。 現在8人のリベリスタ達は、神社で2体のバードマンと交戦中だ。この場所からでも、湖のサイクロンの姿は見える。 「好戦的とは聞いていたが、姿を見るだけで襲い掛かってくるとは……」 刀を一閃、襲いかかって来たバードマンと斬り合う『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)。刃と爪がぎりぎりと押し合う。そこへ割って入るのは足に武器を挟んだ『デイブレイカー』閑古鳥 比翼子(BNE000587)だ。 「ようトリもどきども! なんか親近感感じるな。だが暴れるんなら蹴っ飛ばすぜ」 器用に足でナイフを振り回す比翼子。義衛郎の刀を蹴飛ばし、バードマンは空中へ逃れた。鳥と人、両方の特徴を備えるバードマンは飛行することも可能だ。 同じく人と鳥、両方の特徴を備える比翼子は飛ぶ事ができない。翼のような腕を必死に動かすが、比翼子はその場で跳ねるだけ。彼女の目から光が消える。 『親近感が湧くとは言っても、 任務じゃ撃破も仕方ないわね』 くすり、と比翼子の頭の中に直接響く笑い声。『蒼碧』汐崎・沙希(BNE001579)のハイテレパスだ。直後、比翼子の背に光が集まり、疑似的な翼が生まれる。飛行能力を得た比翼子は、水を得た魚のように活き活きと、バードマンを追って空へと舞いあがっていった。 「まずはお前達からだ。終わりを始めよう」 両手に構えたグリモアール。『red fang』レン・カークランド(BNE002194)がバードマンに駆け寄る。逃げようとしたバードマンへと、掴みかかるアラストール。レンの背後に、オーラで出来た赤い月が浮かび上がった。 バードマンが高速で翼を動かす。周囲に発生する真空の刃が、アラストールとレンの体を切り裂いた。矢のような速度で宙へと飛び上がるバードマン。風圧に押され、アラストールとレンは地面に倒れた。 飛んでいったバードマンを追って街多米 生佐目(BNE004013)が宙を駆ける。その背には、沙希に付与された翼があった。 「処理できる所から処理します」 振りあげた刀に、不吉な黒いオーラが集まる。スケフィントンの娘。数多の不幸をもたらすスキルだ。バードマンは空中で旋回。鋭い爪で、生佐目に襲いかかる。 2人の体が交差した。刀から渦巻く不吉なオーラが、バードマンを飲み込んでいく。真っ黒な箱と化すオーラが、バードマンを包み込んだ。 一方生佐目は、肩から翼にかけてを切り裂かれ地面へ落下。僅かに舌打ちを漏らすも、このままでは着地できそうにない。 「水面上や高度の高い場所での戦闘は避けた方がよろしいかと」 振って来た生佐目を受け止めたのは、メイド服に身を包んだ少女『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260)だ。受け止めた生佐目を地面に降ろす。生佐目に次いで、白目を向いたバードマンが落下。地面に激突し、動かなくなる。 『あと1体……』 沙希の声が、脳裏に響く。 義衛郎と比翼子に押され、バードマンが後退していく。縦横無尽に振り回される刃の嵐。避けるだけで精一杯だ。飛び立とうにも、2人の動きが早くて上手くいかないようである。 次第に押され、切り刻まれていくバードマン。とはいえ、ただやられるだけでもないようだ。振り回されるバードマンの爪が、比翼子の胴を切り裂いた。 鮮血が舞う。刀とナイフと、それから爪。無数の刃が起こす風に乗って、血が飛び散る。 「巻き込みたくない。皆、離れて」 そう叫んだのは『金雀枝』ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)だ。胴を切り裂かれた比翼子を抱え、義衛郎は素早くその場から離脱。バードマンを置いて、後退していく。2人のラッシュから解放されたバードマンは体勢を立て直すべく宙へと舞いあがろうとした。 次の瞬間、バードマンの体が一瞬で凍りつく。羽が、体が、足が氷に包まれてバードマンは地面に転がった。急低下した周囲の気温。白い息を吐き出しながら、ヘンリエッタは弓を降ろす。エル・フリーズ。範囲内の対象を凍らせる、彼女の技だ。 バードマンを倒したのを確認し、リコルと沙希は周囲を確認。建物に多少の被害が出ているだけで、巻き込まれたり逃げ遅れたりした一般人はいないようであった。 あとは湖のサイクロンとバードマンを倒すだけだ。8人は湖へと足を向けるのだった。 ●竜巻の脅威 湖に近づくにつれて、風が強くなっていく。原因は明らか。湖の中心で竜巻を起こす、サイクロンだ。竜巻の影響を受けない程度に距離をとり、バードマンが2体、旋回していた。 リベリスタ達の接近に気付き、バードマンが高度を下げる。神社にいた2体と違って、この2体は幾分大人しいようだ。襲いかかるか否か、観察しているようである。 「退屈ならば、1戦交えぬか荒風よ。暇の手慰み位にはなりましょう」 竜巻に剣を向け、そう声を張り上げるアラストール。次いで、義衛郎と比翼子も前へ出る。 「竜巻の中に居る方。オレ達と手合わせしてみませんか?」 「そんな竜巻なんか捨ててかかってきな!」 竜巻の中に籠るサイクロンを誘き出すべく、声をかける。渦巻く風の向こうから何者かの気配を感じる。サイクロンは確かに、そこに居るのだ。 『退屈を……紛らわせてくれるのならな。でも、今は忙しいんだ。自分が何者なのか、考えているから……。ちょっとそいつらと、遊んでいろよ』 その言葉と同時に、リベリスタ達の中心に突如、竜巻が発生する。渦巻く強風が、リベリスタ達を弾き飛ばす。強制的に散開させられた一同。そこへ襲いかかるバードマン。 『……疲れるわ』 バードマンのうち1体が沙希へと急降下。迎えうつべく、魔弾を撃ち出す沙希だが、バードマンはそれを難なく回避する。 「止まれ!」 鋭い爪が沙希の肩を切り裂いた。更に攻撃を加えようとするバードマンの背後に、不吉なオーラの月が浮かび上がる。グリモアールを手に、駆け寄ってくるレン。月に捕らえられ、バードマンが苦悶の呻き声をあげる。レンに続いて、スカートを翻しながらリコルが戦線に割り込んできた。 「まずは陸上にいる個体から撃破を」 大上段から振り下ろされた彼女の鉄扇が、バードマンの頭部を叩く。地面に倒れるバードマン。動かなくなったのを確認し、リコルは沙希を助け起こした。 沙希を守るように位置取り、周囲を確認するレンとリコル。 『もう1体は、空みたいね』 頭に直接、沙希の声が響く。視線を空に向けると、こちらの様子を窺うように旋回しているバードマンの姿。バードマンの元へ飛ぼうとする比翼子と義衛郎の前に、竜巻が発生しそれを阻む。サイクロンの仕業だろう。竜巻から出て来るつもりはないようだが、できる範囲でバードマンのサポートはするつもりなのだろう。 『もう少し、そいつらと遊んでいろよ。もう少し考えれば、分かるかもしれないからな』 竜巻の勢いが増していく。竜巻に弾き飛ばされる義衛郎と比翼子。獲物を選別しているのか、バードマンはまだ降りて来るつもりはないようだ。 サイクロンが邪魔をするせいで、バードマンへ近寄れない。 「いくら瞑想した所で、貴方に、己の存在意義は分かりますまい」 湖の中心へ向け、水上を駆けていく生佐目。竜巻の中のサイクロンへ語りかける。 『分からないだろうか……。では、どうすれば分かる?』 生佐目の眼前に竜巻が発生。生佐目の体を弾き飛ばす。風圧で彼女の骨がギシりと軋んだ。 「そんな小さな世界に引き籠っていては、この広い世界の素晴らしい景色も見えはしないだろう」 そう呟くヘンリエッタの周囲を、黄金色のフィアキィが舞う。直後、空から降り注ぐ無数の火炎弾。エル・バーストブレイク。火炎弾は、バードマンの翼を撃ち抜き、その身を地面へと叩き落す。 落下してくるバードマンの真下へ駆け込んだのは、アラストールだ。 「存在するだけで世界を侵す……。難儀な事で」 鋭い一閃。バードマンの胴が袈裟がけに切り裂かれる。降り注ぐ鮮血に濡れながら、アラストールはそう呟いた。発生してしまった以上、殲滅するしかない。その意思の善悪に拠らず、その事に例外はない。 『残るは貴方だけ。姿を見せてくれないかしら?』 ハイテレパスでサイクロンに語りかける沙希。邪魔をしていたバードマンは殲滅した。サイクロンが拒否するのなら、力づくでも引きずり出すだけだ。 しかし……。 『存在理由は未だ分からず。何者なのかも理解は出来ず。目的もなにもなにが……お前達には興味が湧いた』 サイクロンの声。渦巻いていた風が弱まり、竜巻は消える。竜巻によって巻き上げられていた大量の水が、まるで雨のように降り注ぐ。 涼やかな風が吹き抜ける。はじめからそこに居たのだろう。湖の中心に、真白い体を持ち、体のあちこちから風を噴き出す1人の男が立っていた。その男に眼鼻口はない。仮面でも被っているかのように、顔の表面はのっぺりとしている。 E・エレメント(サイクロン)。台風並みの風圧を身に纏い、今ここに登場である。 突き出された拳から、小さな竜巻が放たれる。地面を削り、竜巻はリコルへ襲い掛かる。 「一直線に並ばないよう、御注意を!」 鉄扇で竜巻を受け止め、背後にいる仲間へと注意を促す。渦巻く風が、リコルの体を切り裂いた。竜巻はリコルの体を突き抜け、その後ろへ。しかし、その頃には彼女の後ろには誰もいなかった。 「是非遊んでいただけませんか……どちらかが、死ぬまで」 水上を駆け抜ける生佐目。不吉なオーラを纏った刀を、大上段から振り下ろす。鋭い斬撃がサイクロンを襲う。 『……疾いな』 サイクロンの体が切り裂かれた。カウンターの要領で、サイクロンの拳が生佐目の頬に突き刺さる。竜巻を纏った強烈なパンチ。頬から首にかけて、深い傷が刻まれた。噴き出す鮮血。生佐目の体が浮き上がる。そこへ連続して叩きこまれるパンチの嵐。 「……っぐ」 生佐目の意識が途切れそうなった、その直前。 「まだ退屈しているのなら」 手合わせ願おう、とヘンリエッタが呟いた。降り注ぐ無数の火炎弾。パンチの手を止め、サイクロンは自身の周りを竜巻で覆う。竜巻と火炎弾が衝突し、周囲に水蒸気が撒きあがる。 霧で覆い尽くされる視界。それを払うべく、強風が渦巻く。 と、その時。 「存在に意味はない。意味も目的も、自分で見出すものだ」 アラストールの声が響く。霧を突き抜け、閃光の如き強烈な輝きがサイクロンへと襲い掛かる。岸から放たれた十字の閃光が、サイクロンを包む竜巻を撃ち抜いた。 「できれば湖畔で戦いたかったのだがな」 霧を突き抜け、義衛郎がサイクロンへと斬りかかる。幻惑の武術から放たれる斬撃が、サイクロンの胴を切り裂いた。竜巻の残滓に煽られ、義衛郎の体が揺らぐ。胴を切り裂かれながら、サイクロンは彼に向けて、竜巻を撃ち出した。 竜巻は義衛郎の胴を突き抜け、彼の体を水面に叩きつける。追撃の動作に移るサイクロンだが、割り込んできたレンとリコルがそれを阻む。 「挟み打ちが有効かと」 サイクロンの拳と、リコルの鉄扇が衝突。暴風雨が吹き荒れる。その隙に、サイクロンの背後へレンが回り込んだ。 「自分の存在意義など、自分にしか分からないだろう」 レンの放った赤い月がサイクロンを飲み込んだ。リコルは義衛郎の体を抱き上げ、戦線から退避する。 生佐目も一緒に回収していこうとしたが、どういうわけか姿が見えない。自力で脱出したか、霧に乗じて水中へ沈んでいるのかもしれない。 逃走する3人の背後で、赤い月が消失。月を打ち破ったのは、巨大な竜巻と化したサイクロンだった。3人の周囲に、無数の竜巻が巻き起こる。竜巻に弾かれ、宙を舞う義衛郎、リコル、レンの体。助けに行こうと、アラストールとヘンリエッタが駆け出すが、間に合わない。 2人の移動を妨げるのは、縦横無尽に吹き荒れる暴風だ。風に煽られ、真っすぐ移動することもままならない。 このまま落下か、と思われたその時、3人の体を淡い燐光が包み込んだ。光はゆっくりと、3人の傷を癒していく。 『私の前で斃れるとか……させてあげない』 酷薄な笑みと共に、脳裏に響く沙希の声。竜巻によるダメージを、沙希のスキルで回復させる。ダメージと回復の同時進行。3人が落下するまでそれは続いた。 『……存外、退屈でもないな。楽しいと言っても、良いかもしれない』 楽しげな様子で、そう呟くサイクロン。 その背後から、ずぶ濡れ血濡れの生佐目が飛び出した。 ●そして暴風は消えさって 「そも存在意義を問う事そのものが無意味なのです」 生佐目が刀を振り抜いた。解き放たれた不吉なオーラは漆黒の霧と化し、サイクロンを飲み込んで行く。真っ黒い箱が、竜巻ごとサイクロンを包み込んだ。 『……そうかもしれない。考えるだけ、無駄だったのかもしれないな』 直後、黒い箱は霧と化して消しとんだ。竜巻が掻き消え、姿を現したサイクロンは、片腕と胴の一部を失っていた。箱の中で、苦痛に蝕まれたのだろう。 身体のあちこちには、今だに闇が纏わり付いている。 『竜巻はただ、通り過ぎるだけだ。猛威を振るって、暴れながら』 振り抜かれたサイクロンの拳が、生佐目の頬を撃ち抜いた。竜巻によって加速された強烈なパンチが生佐目の意識を刈り取った。白目を剥いて、生佐目の体が湖に沈む。 「あんたが街の真ん中とかに出てきたら、とんでもないことになってただろうなぁ」 攻撃の後の僅かな隙を突いて、上空からサイクロン目がけて急行下してきたのは黄色い閃光。否、翼の加護で宙を舞う比翼子だった。背中の翼で飛びながら、自分の羽に似た両手を左右に広げ姿勢を制御。足に掴んだ2本のナイフで、擦れ違いざまにサイクロンを切り裂いた。 比翼子の体が多重にぶれて見える。まるで、幻影のようだ。 『………そうだ。竜巻はいずれ消える。そういう存在だった』 比翼子の放った鋭い蹴りが、サイクロンを捉えた。まるで雲を散らすように、サイクロンの体は砕けて、散っていく。 ふわり、と涼やかな風が吹き抜けた。 それが、サイクロンの最後だ。竜巻は、一陣の風へと変じ消え去ったのだ。 どこか遠く、サイクロンの想いを連れてその風は吹き抜けていくのだろう。 「思うに、現象である貴公はいずれまた蘇るのだろう。縁があれば、また会いましょう、荒風の者」 長い髪を風に踊らせ、アラストールはそう呟いた。その隣では、沙希がサイクロンの姿と、湖の景色をスケッチブックに描き写している。姿を、気持ちを、そのあり方までも描きとめるように、丁寧に……。くすりと沙希は微笑んだ。 「また穏やかな風で会おう、サイクロン」 「素晴らしい風景を見て来るといい」 レンとヘンリエッタが、吹き抜ける風に語りかける。サイクロンはすでに消滅し、その風はただの自然現象でしかない。そんなこと分かっているけれど、それでもそう言わずにはいられなかった。 「貴方様の存在理由、少しでも掴むことはできましたか?」 リコルが告げる。鉄扇を仕舞い、空を見上げる。木の葉が空へと舞いあがっていった。 宙を舞う木の葉を手に取り、義衛郎は刀を仕舞う。水上で戦ったせいで、濡れてしまった。帰ったら、きっちりと手入れをする必要があるだろう。 気を失った生佐目を比翼子が回収して来ている。2人が岸まで到着したら、あとはアークへ帰還するだけだ。 竜巻と、それに従うバードマンとの戦い、これにて終了である。 風の行く先、自身の存在理由。そんなもの、誰にも分からない……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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