●死のうと思っていた 男は"その鳥"の葉書を三葉、見た。 一葉は、腹ばいにして滑っている。 二葉は、頭をつんつんさせてツッぱっている。 三葉は、最も奇怪なもので、ピンク色なのである。 元来、くろく在るべき所が、全てピンクなのである。 それもただのピンクではない。どこやら違う。蛍光の色とでも言おうか。 とかく、質感からして、ぬいぐるみのそれだった。 鳥はぴいぴい、鳴いて。白いモヤをぽわんぽわん吐き出した。 どういう訳か瞬く間に山水が凍りつく。そして凍らせて腹ばいで滑っていた。 一寸(ちょっと)凍らせ方が甘かったのか、バリっと砕けて、どぼんと転覆して。 転覆したと思えば、また凍らせて滑っている。そしてまた砕けて山水に落ちる。 いやさ、すこぶる大きい。眉へと迫ろうか。 一瞥にさえ、それは凡庸を解脱するほどに大きい。 顔も大きいので、つくづくその顔の構造を調べる事が出来たのであるが、額は平凡、額の皺も平凡、眉などない。 眼もつぶら、くちばしも、ああ、この顔には表情が無いばかりか印象さえ無い。 特徴が無いのだ。正確に言えばピンクのみだ。 この葉書はと言えば、つい半々刻前に彼がしたためて、よちよち差し出したのである。 これは受け取らねばなるまいとあって、これを眺めているのである。 此処に何をしに来たのだったか。 手頃な岩に腰をつけて、岩に肘をつけて考えている。 頬杖の姿勢で考えていると、生暖かい風に晒されたる頬が、掌の熱でじんわりと暖かい。花粉で鼻水が垂れるのが分かる。不愉快だ。 その鳥ははしゃぐ。愉快だ。 はしゃぐ様を見つめる。楽しくなってくる。 「ならば、夏まで生きていよう」 決心して、立ち上がったところへ、唐突に黒い影が飛び出した。 『ハハハハハハハハハハハ!!! セリヌンティウスウウウ!!!』 現れたるは、全裸のギリシャ像であった。 ――急に私は死にたくなった。 ●魚きちがいの鳥がいる。邪魔だ 「もふもふなアザーバイド」 「――モ、モフモフなアザーバイド!?」 「うん、もふもふアザーバイド」 「――モフモフ、なアザーバイド!?」 「うん、もふもふ、なアザーバイド」 ――激烈、戦慄、叫喚、衝撃ッッ! リベリスタ達は事実を疑った。何度も、何度も、何度も。 しかし事実は揺るがない。 滴る汗。 『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)が告げた未来視であり、不明瞭な点はどこも無い。それは完璧なものだった。 「ピンク色のでっかいこうていペンギン。すごくでっかい。なぜかぬいぐるみ質でもふもふ。おなかぷにぷに。でっかいぷにぷに」 心の奥底から闘志のようなものが、煮えたぎって来るようであった。 せり上がって口から出ようとする何かを飲み下す。 恐るべき強敵の出現に他ならないのならば、一刻も早く召し捕らねばならぬ。 「ちょっと違う」 ――何ッ?! 「ぺんぎんは友好的。池を凍らせて遊んでるだけ。おさかなあげると喜んでもふもふさせてくれると思う。問題は、ぺんぎんの近くにギリシャ像みたいな、裸体の男性型エリューションが出るの。走ってくる。笑いながら轢いてくる。場所は山の中にある人目の無い池。あとマッチョ」 マッチョらしい。 「あと、汗臭い」 汗臭いらしい。 「このままだとにぺんぎんさんマッチョに轢かれちゃう。Dホールは直ぐ近くの森にあるから、先に押し込んでもいい」 なんと勿体無き、けしからん話だろうか。けしからん。 「あと、ぺんぎんさんの近くに変なおじさんがいるの」 何故そこにいる!? ――と疑問が浮かんだが、この際どうでもよかった。 もふもふがいる。何かよく分からないギリシャ系マッチョが出る。次の瞬間、やるべき事は胸裏に響く。 響いたものを飲み下す。 「頬杖が似合う、病んでそうなおじさん。二人(一人+一匹)とも助けてあげて」 ――ならば、ついでに助けるのもヤブサカではない。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月31日(金)23:10 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●勇者は血反吐をげろりと吐きだした 木々の間から見える小さな空に、クレヨンで描いた様な雲が、ふわふわ浮いている。 木漏れ日が差し込んで、小さな日だまりが所々に鎮座して。ぬくもった土の匂いが薫る風が、ざわざわと葉の音を鳴らす。 軽く登山をすると、丁度昼前時分にして、大きな池が眼前に現れた。 ピンクのペンギン。病んだおっさん。そして。…… 「ハハハハ! セリヌンティウスゥゥゥゥ!!」 影は、颯爽と愉快に飛び出して、全身より汗汁を乱舞させた。 「――早速ッ! 現れたか!」 『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)は、身構えた。 「私は政治がわからぬ。アークのいち戦闘要員である。人類に仇成す神秘存在と戦って暮らして来た。――だが、そんな私にも邪悪と言う物は分かる!」 ベルカが吐き捨てる視線の先。ギリシャ系彫刻は、アグレッシヴに走ってくる。 ペンギンとおっさんだけであれば長閑(のどか)な空気であろうが。 「どっこい放さぬ。持ちもの全部を置いて――うん、何も持ってないな。その……なんだ? 別の物は? 誇示している様だが……?」 ベルカが我慢して身体を張ってブロックをすると、ギリシャの彫刻はカバディの如く中腰になった。 「えーと、ペンギンもふって、マッスル(ギリシャ系)ほふって、おっさんもふるんだな……」 ベルカと同じく、ギリシャ系彫刻を阻む形で駆け出したる『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)は、気糸を放出して、中腰のギリシャ系を縛り上げる。 「複雑な依頼だが、なぁにこなして見せるさ! 俺達の愛と友情のパワー☆で――」 気合を入れたとらに――何の嫌味か、彫刻は目を大きく見開き、ごぼりと喉を鳴らす。両頬を大きく膨らませたと思えば、次に瞬間に血反吐の塊を吐き出した。 「オエーーッ!」 ――!? 生じた赤い塊は、とらの眉に迫った。回避判定に失敗する。 「……」 残念ながら、頭から被る。とらは全身から異臭を漂わせて無言になった。 「と、とりあえずおじさんとペンギン…両方助けないとだね!」 『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)は、いきなりひどい目に遭ったとらを見て、次にペンギン、おっさんに視線を運ぶ。 「彫刻……あんまり相手したくない気もするけど……そうも言ってられないし戦闘に集中しないと……」 アーリィが彫刻に指先を向け、精神力を吸い取る。 「んほおぉぉぉぉおおおお!」 彫刻の雄叫びに、アーリィはビクッとした。 精神力を吸い取られたのにも、何故か興奮して気糸をぶちぶちと引きちぎった。右手首を左手で掴んだ姿勢で腹筋から上の筋肉を肉々しく強調する。このポーズは専門用語で『モストマスキュラー』という。 「最近、殺伐としてばっかりだからね。偶には癒されないと……って思ってたんだけどなあ」 『先祖返り』纏向 瑞樹(BNE004308)は溜息をついた。大体、誰が悪いのかはわかっている。 彫刻は、続いて別のポーズをとる。両掌で後頭部をつかみ、腹筋を強調する。専門用語で『アブドミナルアンドサイ』という。 「ペンギンをもふもふしに来たのに、どうしてマッチョを見ているの……? 私」 瑞樹は脳内で、10回くらい自問自答した後に、彫刻の頭部に向けて黒いオーラを放つ。なぜか手からじんわり伝わる人肌と、ぬるっとした感触が伝わる。あまり耐えられそうには無かった。 「おじさんは恐怖した。必ず、かの邪智暴虐の全裸を除かなければならぬと決意した……えーっと、出だしこんなだったっけか確か」 『足らずの』晦 烏(BNE002858)は、遠巻きに邪智暴虐な有様を見ている。 文学的な何かを感じるものの――何か――非常に微妙な点において噛み合ってないように思えた。突っ込んだら負けか、と独り言つ。 ギリシャ系はぐねぐねして、ベルカやアーリィ、とらと瑞樹に挑発をしているらしいので、側面に回りこむ。 「では、大月君、虚木君。避難を頼む」 一言声をかけて散弾銃を発砲した。もぎろ! と放った弾丸。ぐねぐねと人肌っぽさそうなので、そのまま削れると思えば、プヨンと弾丸を弾くほどに弾力性がある肉である。そして烏目掛け、ギリシャ系は――走ってきて疲れたのか、頬を赤らめ、ぜえぜえと肩で息をしてにっこり微笑む。 「これはひどい」 烏はたばこを落としそうになりながら絶句した。 「行きましょう」 小夜は奮起した。 必ず、かのもふもふな鳥類をもふらねばならぬと決意した。小夜には攻撃がわからぬ。小夜は、アークのリベリスタである。翼の加護を使い、仲間を回復して暮らしてきた。けれどももふもふに対しては、人一倍に敏感であった。 きょう昼頃小夜はアークを出発し、野を越え山越え、アークから離れた此の湖にやって来た。そこには彫刻が居た。小夜は顔をしかめた。あのような彫刻とは関わり合いになりたくない、と思った。しかし仲間がこれから戦うのである。 小夜は翼の加護を使い、飛行能力を共に戦う皆に付与した。次はマナコントロールだと力を溜めた。 「マッチョ、ペンギン、病んでるオッサン……濃いなぁ……」 「はい……なんだか色々なことが合わさって凄いことになってしまってますけれど」 虚木 蓮司(BNE004489)の呟きに、『勇気ひとひら』大月 明里(BNE004528)が意見を重ねる。 敵もそうだが、味方もなにやら妙な空気を覚える。 と続いて、蓮司と明里は浮遊感を覚えた。小夜の翼の加護である。これでペンギンとおじさんの避難が可能になったと判断する。 「ま、仕事は仕事! モフモフのためにも、気合い入れて行くぜ!」 幸いギリシャ系の熱視線は、出会い頭に締め付けをしてきたプレイのとらと、何かを"もぎろ"と発砲した烏。どっちを選ぼうか舐めるように吟味していた。 蓮司と明里は先ずに病んでるおっさんへと向かう。 「何かご用事ですか?」 おっさんはアンニュイな表情で、頬杖をつきながらギリシャ系を見ている。目は虚ろだ。 「えっと……あの、このままここに居ると危ないですよ」 「そうそう。アンタ、このままじゃ変なマッチョに轢かれて死ぬぜ。轢かれないとこまで行こう、屈強な男に轢かれて迎える最期なんて、嫌だろ」 頬杖を崩さず。おじさんは。 「そういう死に方もあるのか」 病んでるおっさんは、少し悩んで首を傾げる。これはいけない。 「アンタみたいにアンニュイな男が普段走ったりするのかは知らないが、たまには気が狂ったみたいに走ろうぜ。ひょっとしなくても、間に合わないものじゃない」 病んでるおっさんは蓮司の声を受けて、少し首を正す。 「その、ですから一緒に避難して頂けませんでしょうか……?」 マイナスイオンを用いた明里の説得。数秒の間の後、おじさんは首を完全に正し、頬杖を崩した。 「わかりました。行きましょう」 蓮司と明里はほっとして、次にペンギンを見る。 「ぴいぴい」 ペンギンは逃げ出そうとして、自らが作った氷上で滑ってコケていた。 ●ズッ友だょ! 小説は、私には、ただ少しまだるっこい。 ――――津島・O・太宰府 戦いはいろいろな意味で激化した。 血反吐が「くぺぇ!」っと散る。ブラックジャックや気糸越しに伝わる手応えにアーリィと瑞樹の心がやばくなったりする。あと、病んでるおっさんが蓮司の説得通りに、気が狂ったかのように笑って駆ける。 「まったく! 貴様はまっぱだかじゃないか! 見たくもない裸体を見せつけられるのは、年頃の娘としてたまらなく口惜しいのだ!」 ベルカが割と本気で葛藤しながら、アブソリュート・ゼロをする。 アブソリュート・ゼロ。それは『凍り付く最高の眼力で射抜かれた対象は全ての弱味を曝け出し、無力な犠牲者に成り下がります。』という最高峰のレイザータクトが使える秘技である。つまり『ガン見する』事に他ならない。 実際、彫刻は死ぬ。自分も死ぬ。 「この嘘つきめっ! 逃がした小鳥が帰ってくるというのか」 血反吐を浴びたとらが、半ばやけくそ気味になりながら、考えてきたとっておきの言葉で暴君する。 すると、彫刻はやっぱりとらを見る。 「そうです。帰って来るのです! ワハハハハ!」 「お前の代わりに身代わりの男を、きっと殺してやるぞ」 誘導は明らかに成功した。 「なに、何をおっしゃるか! ワハハハハハハハ!!!! 私に政治などわからぬー!」 「……っ!?」 彫刻は猛然とダッシュした。ブロックしていたとらに大胸筋をぶつけて突破する。そして律儀に同じ位置に戻ってくる。 「が、我慢できてるうちに、早く片付けなきゃ」 瑞樹もブロックしていたが、律儀に同じ位置に戻ってきた彫刻の行動がなにやら良く解しかねた。いやさエリューションの考えなど分かる方が珍しいのであるが。あっという間に我慢が限界まで振り切れそうになった。 そして突如、彫刻のダブルアクションが、瑞樹を襲う! ぴとっ! 「ズッ友だょ!!!」 「――――ッッッッ!?」 瑞樹は涙目になった。瑞樹はヘビのビーストハーフでナイトクリークである。テラーオブシャドウで大蛇の影を纏った。以降の攻撃全てに大蛇の影を纏わせて叩き込み続けようと思った。プッツンであった。 小夜は仲間達のほうを見た。彫刻と仲間達が戦っている。瑞樹にズッ友が飛ぶ。 友といえばまるで良いことのように思えるが、これは攻撃に他ならない。更には呪いである。それを見て小夜は、そっと瑞樹に大天使の吐息をかけた。これで仲間と彫刻の偽りの友情は霧散してしまうことであろう。 「ええと」 小夜はこの妙な空気に圧倒的に飲まれていた。いやさ自ら飲まれに行った。空を見ると半透明の両親が微笑んで頷いているのが見える。小夜は、それ以上考えないことにした。 アーリィは気糸の束を放出した。ズッ友をされた瑞樹を引き剥がしてあげる。 「んほぉぉぉぉぉ!!」 彫刻の雄叫びに、アーリィはまたビクッとした。とらのデッドリー・ギャロップの時といい、どうやら気糸は好物らしい。これはいけない! 「どうしよう」 アーリィは割と真剣に葛藤した。 「ふう……」 烏が大きく紫煙を吐き出して、避難状況を観察する。 蓮司と明里は池の向こう側へ向かっている。目標は行っていない様に見えるが、どうも油断ならない。ズッ友された瑞樹の様子を見ると。 「詰めた方が良さそうだな」 散弾銃の照準を合わせながら肉薄する。岩に弾を撃ち、跳弾で決定的そうな所を前後から狙う。 「もぎる。何をとは言わないがもぎる」 実際もぎる事に執念を燃やすのもどうかと思うが、最早突っ込んだら負けといえた。 「ほらペンギン、着いてきな! お前が好きそうな魚もいっぱい用意してやったから!」 蓮司がひょいひょいと魚を放れば、ペンギンは頬を膨らませてよちよちついてくる。 「ペンギンさんも同じく池の向こうへ避難ですっ。ペンギンさん、ペンギンさんこっちですよ」 明里も一生懸命、ペンギンに声をかけながら誘導する。 病んでるおっさんは気が狂ったかのように笑いながら走ってきた。何か大丈夫か? と声をかけたくなってきた。 池の対面へと誘導が済み、両者はUターンをする。戦況は進んでいる。 とらや瑞樹、アーリィが施したる致命でもって、容易に回復を許さない作戦は、確実にギリシャ系を消耗させていく。 「ワハハハハハハ!!! セリヌンはズッ友だょ!!」 無論、消耗していない様に見えるのは気のせいだと思いたい。 とかく、ここで初めて全員が全力を出せるタイミングとあいなって。 「明里さんは初めてみたい出し、なるべく離れて貰った方が良いよね?」 「わかりました」 アーリィが早速に明里の立ち位置を告げると、明里は後衛で天使の息にとりかかる。 「ズッ友とかこええよ!」 蓮司が狙い澄ました弾丸で頭部を穿つ。 それは、ベルカが決死の覚悟で放ったアブソリュート・ゼロの効果を伴って、彫刻の額に大きく亀裂を生む。 「攻撃だ! 一斉攻撃、攻勢あるのみ!」 ベルカのもうやだっぽい胸裏が、攻勢戦術となって戦場を支配する。 「……ああ、そうそう。セリヌンティウスなら、俺の隣で寝てるぜ?」 「なんだと――もがご!?」 とら☆が気糸で今度こそ縛り上げるプレイ。彫刻の「くぺぇ!」や、大胸筋をぶつけてくるダッシュを許さない。 「……」 ぷっつんして無言の涙目になった瑞樹が、大蛇の影を伴って道化のカードを放る。 致命で変なポージングは封じられていたものの、仮に途絶えたとしても完璧に手も足も出ない状況を作り上げる。蓮司の放った弾丸のヒビが、更に大きくなり。 「おっしまい!」 アーリィの放った気糸の束が、彫刻の頭部のヒビより侵入して、その全身から吹き出した。 「んほおぉぉぉぉおおおお!」 彫刻の雄叫びに、アーリィはまたビクッとした。 ●邪智暴虐というものは 戦いは終わった。 邪智暴虐の勇者は、ひどく赤面して崩れ去ったのである。 リベリスタの心が勝ったのだ! 「お前の事は忘れない」 というか、インパクト的に忘れられない。と、とらは水辺で血反吐を洗い流した。 「哀れな奴、わけのわからん方向に覚醒しやがって……」 とらが戻ると、苦難を乗り越えた先に、巨大なピンクのペンギンはよちよち歩いてくる。 「ぴいー?」 「なるべく怖がらせないようにそーっと……」 アーリィはペンギンに触れた。ピンク色の部分はもふもふで、お腹の白い部分は何ともぷにぷにである。 「もっふもっふぷにぷに。久しぶりのペンギン……癒されるなぁ。何でピンクなのかな?」 アーリィは、自然と笑いが込み上げてきた。 瑞樹も『ズッ友だょ』を食らったので着替えを済ませてきた。早速、お魚をあげて距離を縮めながら大きなペンギンを堪能する。 「これだよ、これのために今日は頑張ったんだよ!」 感触を楽しみながら毛づくろいをする。いろいろ磨り減った所を癒すように。もふもふぷにぷにを堪能する。 花粉が多いので落としてあげる。ペンギンは気持ちよさそうに、そして長閑に魚を頬張っていた。 「ぴぃー」 「モ、モフモフしていいんだよな!? いいんだよな!?」 魚をあげながら避難を促していた蓮司には、特に警戒心を抱いていないのか。あっさりお腹に顔を埋めることができた。 「ペンギンさん、ペンギンさん」 明里も魚をあげながら、容易にもふもふぷにぷにする事ができた。 お腹の部分はちょっとひんやりしている。ゴムとは違う。いきものの感触だ。 顔を埋める。窒息しそうになる。深呼吸する。繰り返す。魔性である。 小夜は歓喜した。 今日はこの為に頑張ったのだと自分へのご褒美を自分に与える。今日はよく頑張った。天国のお父さんお母さんが微笑んでいるような気がした。やけに出てくる日であった。小夜はペンギンの背中に顔を埋めた。この充電したモフモフパワーがいつか、かの邪智暴虐なゲーセンのE・フォースを癒し殺すのだと確信して、ゆっくり堪能する。 とらはペンギンの尻尾を少し枕代わりにした後、おっさんをもふりにいった。 「思いつめた顔してるねぇ。嫌なことでもあったの? してあげられることないかもしんないけど、愚痴でもいいから、聞かせてよ」 病んでるおっさんは頬杖をついて。 「選ばれてあることの。恍惚と不安と二つわれにあり。しかし、気狂いの様に走ってすっきりしました」 「なんだか知らないけど良かった良かった。肩もんであげるよ☆」 病んでるおっさんは、頬杖をいつもついているのか、肩は岩のように凝っていた。 ベルカもおっさんをモフりに行った。 「津島氏(仮)よ。待つ身が辛いと言うのは良く分かります。だが、何も死に急ぐ事はあるまい」 「なぜ私の名を」 「え、当たってるの?」 ベルカとおっさんは相互に狼狽する。 「こほん。お望みなら、玉川上水まで詳細な道案内をしても良くありますが……ここはひとまず、彼らと存分に戯れてみるのはいかがでしょうか」 とらの肩もみで気持ちよくなっているのか。病んでるおっさんは小さく笑う。 「不可思議な事件でした。夏まで生きましょう」 「それは良かった。神秘に関わりを持つならアークにご案内しますよ」 「大人って、いろいろ大変なのかもしれないけど……悪いことばかりじゃないと思うんで元気出してね?」 アーリィの声を受けて、病んでたおっさんはまんざらではない顔をする。 「ああっと、夏までとは言わずにさ。――オッサンにはこれやるよ!」 蓮司が思い出したかの様に、本を差し出す。ある悪い男が生涯一度だけやった善いことのために地獄に落ちる話である。 「自殺はな、恐いぜ」 「考えておきましょう」 病んでるおっさんはこれを受け取った。しばらく自殺は留まるだろうか。 やがてペンギンを帰して施されるブレイクゲート。 明里が、ちょっと勿体無さそうな顔をして、手を振るとペンギンも手を振り返してきた。 「――文学は人を豊かにするって奴だよな」 烏は、病んでるおっさんに箱ティッシュを渡した。チーっと鼻をかむ音がした。烏は、残された葉書を見る。 「やはり、幼年時代、学生時代(?)、今なんだろうかねぇ?」 青空に呟く。 「突っ込んだら負けだな。うん。よし突っ込まない事にした」 青空には、クレヨンで描いた様な雲が、ふわふわ浮いている。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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