●アントライオン ――アローアロー聞こえマースかMiss.Mr.リベリスタ。 ――あれ反応無い? もっしもしー? ワタシデースよワタシ。詐欺じゃないよ。『廃テンション↑↑Girl』ロイヤー・東谷山(nBNE000227)デースよ。マヂで。 ――あれホントに聞こえてない? あれ? えーとどうしよう。 ――歌います。『ビスハで尻尾の生えてる子~ どう考えても穿いてない~ ハサミでパンツ切ってるの~ 夜な夜な真顔で切ってるの~』 「うるせぇよ! 戦闘中だばかやろー!」 ――はい、戦闘音は聞こえてマーシた。 「帰ったらぶん殴ってやる。用件は」 ――緊急連絡デース。まず皆さんは現在、先ほど依頼を受けたアザーバイド討伐任務中デースよね。見た目、習性とも巨大な蟻地獄のような存在。森の中で周囲の木々を薙ぎ倒し、半径30mのすり鉢状の穴の中央で待ち構えていマース。 「ああ、徐々に中央に身体が引きずり込まれて厄介だ。接近での鋏の攻撃はかなり危険なようだしな。逆にそれ以外の攻撃は大したことは無い。頑丈なようだが、距離を維持して戦えば持久戦で倒せる」 ――持久戦は駄目デース。速攻で勝負をかけてくだサーイ。 「……理由は」 ――新たな敵の接近を感知しマシた。非常に危険な感じデース。何せ、相手は旧軍の亡霊なのデスからね。 「バロックナイツか!」 ――イエス。Miss.アシュレイのレポートは読んでマースね。バロックナイツの第八位『リヒャルト・ユルゲン・アウフシュナイター』率いる親衛隊の一隊がそちらに向かっていマス。これってアザーバイド討伐に協力しに来たんじゃないデースよね。 「狙いは明確にアークのリベリスタということだな」 ――アザーバイドを逃がすわけにはいきまセン。放置してしまうと地中深くに潜って姿を消してしまいマス。後日街中で穴を作り、ビルが崩れ大変な犠牲が出るのは先刻通達済みデスね。速攻で討伐して撤退してくだサイ。 通信を切り、仲間を振り返って――ため息をつく。 「……連絡が遅かったな」 穴の縁に進む大盾と、一斉に構えられた大型銃器。鉄の意志が音をたて。 ●レムレース 「前方で戦闘音を確認。情報に間違いはないようです」 部下の報告に頷いて――金髪を逆立てた若い男は振り返った。眼前に居並ぶは旧軍の軍服に身を包んだ屈強な戦士達。どの面にも高い自信と誇りが見て取れた。 その表情を見、改めてエトムントは決心する。ここにいる者は誇りあるアーリア人。劣等人種の為に血の一滴すら流すのは惜しまれる。故に。完璧な勝利を求めねばならない。 その為の準備期間。七派との協力交渉。そしてそれは成ったのだ。情報は軍隊にとって血液に等しい。これを得られただけでも文明遅れの島猿との協力は悪くない。 「敵の過小評価など強者のすることではない。侮って実力を出し切れず敗北するなど、あってはならない最大の恥だ」 敵を知ること。情報が作戦を生み出す。作戦が勝利をもたらす。そしてアーリア人は常に勝利を捧げねばならないものだ。 七派の情報提供でこの先にいるアザーバイドの性質は知れている。アークの背後を突きアザーバイドの腹を満たさせてやってもいい。我らは鉄の猟犬。任務を忠実にこなし敬愛する閣下に捧げよ。正義の為に。大義の為に。 作戦開始地点は近い。穴は四方のうち、左右は薙ぎ倒された木々が積み重なりそれをアザーバイドの粘液が固めている。神秘の耐性も高くそこからの脱出は不可能だという。ならば残る二つの脱出口、前後を抑えればそれでいい。エトムントが胸に拳を押し当てた。 「諸君! 我らは正面を抑える!」 「Ja!」 「大盾を立並べよ! 穴から這い出たモグラ共を地獄に叩き落としてやれ!」 「Ja!」 「銃口を空へ! 空中戦力を真っ先に汚泥に塗れさせてやれ!」 「Ja!」 部下を眺め、我らは最強の人種であると確信し―― 「よぉよぉご苦労さん」 表情を凍りつかせる。 「バル、バルタザール曹長……」 「なんだエトムント伍長」 作戦立案者であった『指揮者』は、上官である『指揮官』に対し……実に不遜ながら、指を突きつけた。 「なぜここにいるのです!」 「いたら悪いか?」 悪気の欠片も無い態度に頭を抱え。 「悪いに決まっているでしょう! 正面を抑える我らに対し、曹長は背後を抑える作戦と言ったはずです!」 「なんだもう作戦開始時刻か。飯食ってて忘れてたぜ」 すまんすまんと蒸かした芋なんか齧りながら大きなダンボールを一抱え。じゃあ行って来ると―― 「Halt! それは曹長の武器じゃありません! 曹長のはそっち!」 怒鳴りっぱなしのエトムントに笑みを見せて、髭を蓄えた巨漢はその自慢の肉体の大部分を隠すほどの巨大盾を拾い上げた。それはファランクスと呼ばれるスタイルを彷彿させる、近代とは程遠い古代の武装だ。もっとも、空いた右腕を盾の内側に差し入れた途端に起動した、中央に装着された巨大な砲身が異常さを際立たせている。 「んじゃあ派手に暴れてくるぜ」 作戦を理解しているのかいないのか、そんなことを言ってバルタザールは移動を―― 「あ、お前らそのダンボールの芋は死守しろよ」 「Ja!」 「律儀に返事しなくていい!」 立ち去る背中にため息を重ねたエトムントに。 「こちらが9名に対して、曹長は本当に一人でよかったのでしょうか」 尋ねた部下に、ああと呟く。 「その人数比がちょうどいい戦力バランスなのでね」 傍迷惑な亡霊。何度でも言われてきたこと。実に結構な話だ。この身にある暴れたい衝動を出し切らない限り死んでも死に切れない。 「騒がしい悪霊。結構なことだぜ」 ――さあ楽しませてくれよ! |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:BRN-D | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月02日(日)23:20 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●身に刻め名を知る者よ 鉄の意志が音をたてる。 穴の底から見上げれば。縁に立並べられた威圧感を漂わせる鋼の大盾、その隙間から覗かせる黒鉄の銃器。その先の、見下した冷厳な目。 言葉が重なる。エトムントの構えの合図と、『人生博徒』坂東・仁太(BNE002354)の「避けぇ!」との叫び。そのどちらもが号令の意味を成し――全ての命が躍動する。 戦場に血煙と硝煙、鉄の叫びが響き渡り―― 真っ先に動いたのはその身に獣性を秘める者。近くにいた仲間の腕を引き、仁太は降り注ぐ銃撃とは逆のアントライオンの背後側へと飛び込んだ。 「せこい手使うもんやねぇ~。まあ合理的ではあるけんどな」 「……全く、取り込み中だというのに」 息をつく仁太の隣、共に背後に回った『禍を斬る緋き剣』衣通姫・霧音(BNE004298)が表情を曇らせた。アザーバイド討伐任務の最中、突如現れた連中が友好的なはずもなく。数、立ち位置、全てが不利へと切り替わる。それでも。 「何を言っても状況は変わらないわね。任務は果たして、きっちり帰るわ」 やるべきことは変わらない。討伐は絶対の任務であり、自分たちは勝利して帰らなければならないのだから。 見上げれば止まぬ銃撃が仲間を傷つけていく。敵に言っても仕方ないけれどと霧音は口にして。 「任務中に横から襲ってくるなんて、随分と卑怯なのね」 怒りを滲ませたその瞳に。 「だからこそ、それを打ち破るってのは楽しいで」 ウィンク一つ、仁太は禍々しい巨銃を勢いよく構えて魅せつけた。 「連続する襲撃事件。噂のやつらだねこいつら」 通信を切って『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004) は仲間を振り返った。 「アーリア人つーのは選民思想で自己満足の塊かよ。息つく暇もないって感じにワーカホリックさせられちゃうね」 見下す目線に強く睨み返し、撃たれた手足の感覚を確かめるように棍を振り回す。 「あたしたちが動けないときを狙ってくるなんて、ずいぶん卑怯な作戦ね」 その横で一歩踏み込んで。『蜜月』日野原 M 祥子(BNE003389)は仲間を庇うように立つ。まっすぐに相手を見返して。 「それがあなたたちのやり方なの? 誇り高きアーリア人は、日本のサムライとは違うのね」 頭上から笑いが返った。ついでこれは失礼と声が降り。 「ジャパニーズ『ブシドー』ね。体面と礼節、それもいいだろう。けれど、我々アーリア人は優良なるこの血こそを重視する。優良種たる我らが血の一滴をも流したなら、それは数倍の劣等種の命で償われなければならない。君たちと我々では命の価値が違うのだ。まるで対等のように語るのは止めたまえ」 嘲笑するエトムントの表情がわずかに動く。それは空間を穿ち放たれた蹴りに。それも自身を無視するように背中を向けてアザーバイドを穿ったことに。 背中越しに耳をほじってみせ。 「あーもうちょっと待って、こいつ倒したら相手くらいしてやっからさ」 夏栖斗の笑みに、青筋を浮かべ絶対零度の神秘を練り上げ放つ。 ――ураааа! 戦場に木霊する雄叫びは魂を揺さぶる戦慄の楽曲。『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)の表情は英霊の想いとリンクして。 「現れたなジャガイモ野郎ども! 父祖の宿敵、この雄叫びを思い出し、そして慄け!」 親衛隊を前にしたベルカの脳裏に遥か故郷が想い浮かぶ。憎く愛しい眼前の宿敵に今すぐ牙を突き立てたい衝動に駆られ――受け継いだ軍旗を強く握り締めて自制する。 「……任務完遂が最優先である!」 やるべきことは間違えない。言葉は仲間を動かし指先は敵を指し示す。戦況を読み取り支配する力は任務を遂行するために使うものなのだ。 戦場でもっとも素早く身を動かせることは優位を産み出すだろう。事前に行った情報分析を新手の敵の動きに合わせ微調整を加え、仲間の攻撃を活かすべくアザーバイドへと牽制する。 速攻が求められるとわかっているからこその判断。だからこそ、自身の背後で動きだしたそれに目を剥いて。 「なんと速い!」 巨体を覆い隠す鋼の塊を手に、この戦場でベルカについで飛び出したのは旧軍の指揮官バルタザールだった。 「俺もこいつも、見た目ほど鈍重じゃねぇよ」 元々こいつは誰でも使えるのが売りだぜと、向けた砲身が穴の背後側に回った者たちに爆撃を放つ。吹き飛び崩れた足場に多くの者がバランスを失い陣形を乱した。 速さはこの戦場で大きな意味を持つ。この戦士を抑えねばならないなら特に。ベルカたちの苦悶を、土煙を掻き分け、その役目を担った者が一人。 「さあ騒々しく暴れさせてもらうぜ……っと?」 再び構えた砲身からは何も飛び出さない。その身を縛る呪縛にどこか楽しげに正面を見た。 「よお。抑えさせてもらうぜ」 バルタザールの正面に立ち、突きつけた長槍に集中した念をぶつける。『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)はその身の全てをこの役どころに従事して。 格上の相手を前に一瞬たりとも気は抜けない。額に浮かぶ汗も、全身が叫ぶ悲鳴も今は気にかけない。この役目が仲間の命運を左右するとわかっているから。 一人でも多くを守るために。 荒々しい咆哮と共にアザーバイドを蹴り抜き穿つ。その若き肢体を高みより眺め。 「あれが御厨・夏栖斗か。七派連中が危険視するのも頷けるか。まぁ劣等種にしてはだが」 提供された情報を血液として検分したエトムントが、その動きをデータとして捉え情報に取り入れる。どんな情報も戦況を動かす宝になるのだ。 「伍長! 曹長の動きが!」 慌てた部下の報告に目を向ければ、バルタザールを抑え対峙する男の、その情報が脳裏で導き出され。 「あれは……焦燥院 ”Buddha” フツ。優秀なリベリスタであり、最近売り出し中のアーティストでもある」 「Buddha!?」 通信から流れた声を聞き。 「お前さんアーティストなのか」 「ウム、そういう面もあるな!」 そんな会話。 ●銃雨降り注ぐも傘は無く ――単なる蟻地獄狩りで終わるかと思いきや、まさかこちらが狩られる側になるとはな。 アザーバイドを取り囲んだ狩人たちは、更に周囲を取り巻く狩人たちの獲物となって。「未来視とは便利な能力だ」と長い息と共に吐き出して射撃手は古式銃に弾を込める。 「厳しい状況ではあるが、やるしかあるまい」 狩人たちに背中を向けなくてはならない状況。それでも『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)のやるべきことはアントライオンの討伐なのだ。 不安定な足場、背後からの危険。状況は狙撃者に優しくは無い。それでも狙いをつけ……瞬間響いた連続する銃声。自身に向けられたと察知しながら、けれど痛みは襲ってこない。 「背中は任せて」 声がする。それは優しく柔らかな響き。安心と勇気を与えるそんな声。アントライオンと対峙した時から祥子の宣誓は仲間に立ち向かう勇気を与えていた。 「お互いの得意分野で頑張ろ! あたしは護ること。龍治さんは?」 龍治が小さく笑った。未来を読む力は無い。傷を癒し立ち上がらせる力も。 だが。龍治には誰にも負けないものがある。背中を護る者がいる。足場程度で揺らぐものか。ならば『外すことなどありえない』 狙いをつける。背後の銃声を気にすることは無い。仲間を振り返ることも無い。信頼には信頼で答えよう。 戦場を揺るがせた絶叫は放たれた神秘の銃弾が最大限の威力を発揮した証明。 「さっさと片付けて脱出しよう。みすみす狩られてやる趣味など持ち合わせていないからな」 祥子の背中越しの賞賛にそう答えて。 「あかんねぇ、なんちゅータフさや」 仁太のぼやきの先で、射撃手たちの集中砲火を受けてなおアントライオンの動きは衰えない。怒りと共に地面を揺すれば、鈍った身体は親衛隊の的になる。 自身の立ち位置は安全なれど、持久戦となれば仲間が持たないのはわかっている。 「だからって、焦っちゃいかんわな」 呼吸を整える。対峙した時点ですでに射手としての心構えは済ませたのだ。飛ぶ鳥を落とす腕は何のためにあるのかと。 巨銃を構える。目か口か。もっとも効果的な場所を撃ち抜く、それが出来る腕がある! 「装甲が厚けりゃない場所を狙えばいい話や!」 隙間を穿たれ仰け反った巨躯に「どや」と笑い。 「同志坂東、お見事ですね」 間髪いれず凍てつく神秘の一撃を叩き込んだベルカが声をかけた。 「同志焦燥院が気がかりです。急ぎ撃破せねば!」 「せやね。少しでも早よ終わらせな」 バルタザールがひとたび突入すれば無防備な背中を襲われることになるのだ。それを一人で抑えるフツを救援する方法はただ一つ。少しでも早くその任務から解き放つことだけだ。 「――っとぉ」 アントライオンの起こす地揺れに足をとられるも、身を包む力場が痛みを和らげる。夏栖斗は礼を告げようとして――親衛隊の集中砲火を浴びた仲間の姿に目を見開いた。 膝を付けば流砂がその身を沈める。慌てて意思を奮い立たせ、運命と引き換えに『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)は立ち上がり手を振った。 「大丈夫! お姉ちゃんは強いんだから! お願いねディアナ」 荒い呼吸を必死に沈めて、フィアキィの祝福を身に受ける。前線で戦う仲間をはじめ、自身にも力場の守護を与えてはいた。けれど実際に降り注ぐ銃雨は神秘の光弾となってルナの身体を深く穿った。正面側に残り親衛隊の射程範囲にある数名に攻撃は集中する。祥子の歌声もディアナの献身も、軍人の指揮の下降り注ぐ銃撃には敵わない。 それでもルナは祈りを紡ぐ。誰もが全力を尽くしている。少しでも早く戦いを終わらせ、仲間を護るために。 だったら。全力を出し切れるように枯渇を防ぎ仲間に力を分け与える。それが私の役目なんだと言い聞かせて。 銃雨が降り注ぐ。なんて無粋な人たちだろう。そんな横槍で、私たちの決意の槍を折れるわけがないのに! ――こういう人の事を空気が読めないって言うんだよね? 私知ってる。 自身の言葉にくすりと笑って。 「皆で帰るために今出来る事を頑張ろう」 ルナは微笑んで頭上の親衛隊を見返した。 ●張るは命よりも意地がよい ――これ以上は仲間が持たない。身体を張るフツが、銃撃を身に浴びるルナが倒れる前に。 棍を握り直し夏栖斗が突進する! 装甲の厚いアントライオンを打ち砕く、最大の力を持って! 「皆は私が連れ帰ってみせる。だから、邪魔しないでっ!」 その強い想いを受け取って。ルナの餞別が夏栖斗の気力を充実させた。まっすぐにアザーバイドを見ながら、その背に注がれる視線を感じて。 「どうせこっちの手の内を測っているんだろ。最大効率を出すってやり方は悪く無いと思うぜ」 この戦いぶりは全てデータに収められるのだろう。きっと今後は戦いづらくなる――だからなんだ。 「仲間を失うことの方が、ずっと怖いんだよ!」 棍の先で練り固められた闘気。その全てを貫く力に変えて! 甲殻が派手に吹き飛ぶ。雄叫びに攻撃を集中させろと言葉を重ねて――瞬時に迫った鋏が身を削り穿つ。 骨の悲鳴が聞こえる。本来、この討伐は8人がかりで1匹のアザーバイドを討つというもの。それだけの数が必要な強敵であると判断されたのだ。第三軍の出現とは切り離された、その事実。 執拗に夏栖斗を狙うエトムントはじめ、度重なる銃撃で十分傷ついた肉体を凶悪な一撃……いや、ついで襲い来る二撃目に意識が霧散する。闇に沈む、それを運命が引き寄せて! 「はっ、覚悟の上だっての!」 少しでも早く倒す。仲間が倒れていくのをただ見るなんて我慢ならない。 「一気に決めるぞ!」 決意の咆哮が大気を揺るがして。強き意思がこの戦いの決着を早める。 ――バロックナイツ。親衛隊。軍隊の戦い方がどの程度のものか。 戦場を観察しているのは何も親衛隊だけではない。霧音も同じだ。今後の戦いに繋げる。この奇襲に意味を成すために。 「その身を以て知れ」 「ひゃっぱつひゃくちゅうじゃけぇ!」 龍治の、仁太の狙撃がアントライオンの体勢を大きく崩した。一気に飛び込んだ夏栖斗の、頭上に迫る鋏に。 「何一つ、見落とすつもりはないのよ」 情報も仲間も持ち帰るのだと、霧音の放つ死神の魔弾が腕を断ち切った。攻撃にも防御にも使えなくなったそれを蹴り、夏栖斗の一撃がアザーバイドを砕き散らす。 「同志焦燥院! 討伐は終わったぞ!」 ベルカの叫びにふらりと揺らぐシルエット。 「そりゃ、呪縛し続けた甲斐があったぜ」 言葉に力はない。けれど立ち続けている。意地を張って。想いを張って。運命すら張ってフツは未だ立ち続け。 仲間が叫び駆けつける――中で、ゆっくりと膝をついたのはルナだ。 すでに身体は限界を叫んでる。心配げに飛び回るディアナにごめんねと告げて―― 向けられた銃口を火炎弾が押し返す! 「邪魔しないでって、言ったでしょ……」 仲間を傷つけるなら相応の覚悟をしてもらうから。そう呟いて、倒れ伏す。 「ルナばっちゃ!」 銃撃が止んだ隙に夏栖斗が駆け寄る。いや、駆け寄ったつもりだった。実際はアザーバイドを討伐した直後にエトムントが放った絶対零度の神秘にその身はすでに動かない。 「くそっ、限界が来てたのかよ」 後は皆で脱出するだけなのに……必死に奮い立たせようとする身体を、誰かが抑えて。 「大丈夫。後は任せて」 祥子が微笑み身体を担ぐ。皆で帰るまでが、任務なんだ。 「同志グランツは私が!」 飛び込んできたベルカに頷いて、再び降り注ぐ銃雨をその身で受け止めて。 運命の加護は彼女の想いを潰さない。決して。 「だってこんなところで倒れたら袋叩きにされるじゃない」 そう笑って。 「伍長! 敵が射程圏外に出ました!」 追撃指示をと叫ぶ部下に、エトムントは暫し考える。悪くない進言には思える。だが。 「無駄な消耗は好ましくない様子ね。これ以上続けるなら、貴方達にも無視できない損害が出るのではなくて?」 考えを先読みしたように霧音が言葉を告げる。その通りだ。だが消極的な考えを部下に露呈するわけにはいかなかった。そういう意味で、霧音の言葉は渡りに船といえた。 それを読み取って霧音は背を向ける。脱出劇はまだ終わっていないのだから。 フツの念は確かにバルタザールを縛っていた。想定していた7割という数字を、恐らくは超えているだろう。 けれどその身軽さが最大の敵だった。呪縛を引き千切った瞬間迫る巨壁がフツの身体を激しく削り叩く。身を翻し空に留まれば、急ぎ印を切り直し。再度縛りつけたとしても、背後側の穴の外には正面側にいた癒し手の献身は届かない。 故に意地。自身の全てを食い止めること、守ることと定めて。幾度叩かれても、幾度穴に突き落とされても、何度でも空に舞い上がり立ちはだかった。 「俺が言うのもなんだがね。お前さんずいぶん無茶したもんだぜ」 バルタザールの視線の先。全身を赤く染め、筋肉は引き攣り手足に力は入らない。骨もいくらかはいっているかもしれない。それでも。 「俺がここに立ってりゃ、皆の道しるべくらいにはなるだろうさ」 バルタザールを縛ったまま笑って告げた言葉に、バルタザールは縛られたまま笑いで返した。この気持ちよい好敵手に会えた喜びを。 リベリスタが駆け抜ける。負傷者を抱え、フツが縛るバルタザールの横を。「簡単に突破されちゃあ部下に笑われる」と抗うバルタザールの身を霧音の念を込めた弾丸が穿ち呪縛を固く強めて。 「フツ、動ける?」 「ウム、無理かな」 朗らかなフツの笑顔に苦笑して霧音が腕を引いて走る。恐らく気力だけで立っているフツを、その意思を支えて。 「何れまた仕掛けてくるのだろうな、同じ様な手を使って」 厄介な事だと鼻を鳴らし、ぎりぎりまで動きを見極めて。フツの意識が途絶え緩んだ呪縛を、龍治の放つ神秘の銃弾が曲線を描き再び敵を縫い付けて。 霧音たちが駆け抜けたのを確認して一行は背を向けた。「こいつはおまけやで」と仁太が撃った銃撃がバルタザールを穴に突き落としたのを尻目にして。 「次は芋をいただくぞ!」 「あ、蒸かしたイモにはバター醤油が合うわよ」 ベルカと祥子の声が穴の底に降り注いで。 ●騒々しいカーテンの向こうで 「いやーやられたやられた。参ったもんだ」 穴の底で巨体を沈めながら楽しげに。豪快に笑うバルタザールに。 「まぁ戦果は悪く無いでしょう。データは取れました。次の作戦も立てられます」 憮然とエトムントが言葉を返す。 「その割には面白くない顔してるな」 ウィンクして見せた上官に、若き伍長はどこか幼い表情を見せ。 「上官が倒れる様は面白くありませんね」 「よせやい。俺は無敵でもなんでもないぜ。ただ人より頑丈で暴れるのが好きってだけだ」 ため息をつく。それだけで部下がついてくると思っているのか。ご自分の人望を理解していない。 「次は、ファランクスの本来の使い方を見せてやりましょう」 量産が間に合えばだろ、とおどけてから、エトムントの堅い表情にふっと息を吐き。 「次は勝つさ」 肩を叩いて、人騒がせなレムレースたちは帰路につく。 「あ、バター醤油を用意しといてくれ」 「Ja!」 「だから律儀に返事しなくていい!」 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|