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断頭台の露と消ゆ


 ねえ、知ってる? 最近、あそこに幽霊が出るらしいよ。
 えー、あそこってさあ……。
 そうそう、数年前にあったじゃん。首なし死体の事件。
 結局方法も犯人も分かんなかったんだよね。
 そう、おまけに首も見付からなかったってやつ。
 でもさ、何で今頃出るんだろうね。
 さあ……噂にならなかっただけとか、後は首があんまりにも見付からないから探しに来たとか?
 えー、じゃあ『首を知りませんか』って聞いてくるの?
 あ、そんで知らないって答えたら『お前の首を寄越せ』って言われるんじゃない?
 あはは、やだあ!


「……はい、こんにちは。皆さんのお口の恋人断頭台ギロチンです。今回はE・フォースの討伐……という訳ではなく、アザーバイドです」
 常の如く薄っすらと笑みを浮かべた『スピーカー内臓』断頭台・ギロチン(nBNE000215)は、繁華街から程近いとある住宅地の地図を広げた。
 同時にモニターに映るのは、黒い影。
 男か女かも分からない真っ黒なその影は、しかし『人影』というには何かが足りなかった。
「ご覧の通り、相手は首なし……何でしょうね。首のない影です。ここは数年前に変死事件があった場所でしてね、その思念と思われます」
 肩を竦めて、ギロチンは首を振る。
「ですが、このE・フォース自体には然したる強さはありません。問題は――このE・フォースの元となった首なし死体を作ったアザーバイドが、再度出現するという事です」

 映し出されたのは、黄色の球形。伸びる鎖。刃。
 中心部が割れて開き、人を食らった。ギロチンが笑う。
「有名なゲームのキャラクターみたいですよね。……まあ、これが食べるのはクッキーではなくて人なんですが。どうやら頭部の……脳に当たる部分を好む様子で」
 故に、頭を千切って噛み砕き、それを啜る。
「……先の通り、ここで数年前にあったという首なし死体ですが、犠牲者は革醒者。――リベリスタと思われます。彼はこのアザーバイドに挑んで、殺されました」
 ぼんやりとした水色の瞳を一度中空に向けて、ギロチンは言葉を紡ぐ。 
「ただ、アザーバイドがその際に『それ以上』を食らわず帰ったのは、恐らく彼の抵抗によりこの『獲物』は襲って食べるには効率が悪いと判断したからだと思われます」
 欲しいものを得るまでの消耗が激しい。このチャンネルの『獲物』は美味しくない。
 討伐までは叶わずとも、ダメージを与えれば撤退するだけの頭はあるのが幸いと言った所か。

「E・フォースはこのアザーバイドと敵対します。尤も、リベリスタの思念とは言え結局は残滓に過ぎない。単独で挑めばあっという間に消滅してしまうでしょう。なので戦力には数えられませんし、このE・フォースも討伐自体はして頂かなければなりませんが、積極的な敵にはなりません」
 挑んだ彼が残したのは、自らを殺したアザーバイドへの恨みだったのか、それとも誰かを守るという信念だったのか。それも今となっては、分からない。
 ただ、その思いは残り、再びアザーバイドと相対する。彼自身が、世界の敵となったとしても。
 小さくギロチンが、溜息を吐いた。
「……アザーバイドを倒し、彼の思念も消滅させて下さい。人の頭を奪う化け物が存在した事を、嘘にして下さい。……ぼくを嘘吐きにして下さい」
 彼のように、首を跳ばされないで下さい。
 微かに笑って、ギロチンは小さく、頭を下げた。
 


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:黒歌鳥  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年06月05日(水)22:43
 お前の首を撥ねてやろうか。黒歌鳥です。

●目標
 アザーバイドの撃退or討伐&E・フォースの討伐。
 アザーバイドは追い詰められればバグホールを通り自力で帰還します。

●状況
 夜間。繁華街から少々行った先、住宅街です。
 事前準備は簡単なものなら可能ですが、大掛かりだと近隣住民に怪しまれます。

●敵
 ・E・フォース『首なしの影』
 戦闘能力はアークの平均リベリスタ以下。
 黒いナイフの様な刃物を手に、ソードミラージュと似た技を使用。
 言葉は通じませんが、アザーバイドにのみ敵対し攻撃を仕掛けます。

 ・アザーバイド『脳齧り』×5
 直径2m程度であり、軽く浮いています。
 黄色い球体の左右サイド、中ほどから鎖が伸びているような形状。
 トンボ玉に紐を通したような感じです。
 鎖の先には刃が付いています。体の一部であり、大変丈夫です。
 言葉は発しませんが、それなりに連携は取れている様子です。
 ・火炎/冷気/電撃無効
 ・振り回し(神遠複/出血、圧倒、ノックB)
 ・振り伸ばし(物遠2単/失血、虚弱)
 ・断頭蓋(物近範/大ダメージ、HP回復)
 
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
天城 櫻子(BNE000438)
スターサジタリー
ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)
プロアデプト
逢坂 彩音(BNE000675)
スターサジタリー
雑賀 木蓮(BNE002229)
スターサジタリー
雑賀 龍治(BNE002797)
覇界闘士
伊藤 サン(BNE004012)
クロスイージス
リコル・ツァーネ(BNE004260)
ミステラン
ファウナ・エイフェル(BNE004332)


「それ」は正しく異界の生物であった。滑らかな人工物のフォルムを描く黄色の球体。半ばから伸びた腕は、太い蔦が左右に互い違いに絡み合った形状で、その先には両刃の『手』が付いている。
 継ぎ目のない球体に見えるそれのどこが口なのか。目に当たるものがないのに、鼻に当たるものがないのに、耳に当たるものがないのに、何故獲物の位置を、好みの部位を特定できるのか。
 分からない。
 上位世界の生物である彼らに、この世界(ボトム)の理は通用しない。それでも。
「弱肉強食デッドオアアライブ。ハードね人生って」
 翼もなく宙に浮くその球体との距離を測りながら、『いとうさん』伊藤 サン(BNE004012)が不敵に笑った。言葉が通じず心も通じぬ『捕食者』に、この世界の生物は大人しく食われるだけではないと思い知らせねばならない。僕らも同じ、生きる世界は弱肉強食。生きる為には殺して贖え、なんて素敵なハッピーエンドに満ちた世界。
「ヤッホーお仲間、助けにきたぜ!」
 街灯に浮かぶ薄闇。薄闇――影を人の形とするには決定的な一つが足りなかった。その隣に向けて『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)は、硬いヒールで地面を叩く音をさせながら、駆けて並ぶ。頭がないそれは人ではない。世界の崩壊を齎す遠因、ボトムに存在してはいけない思念の塊。こちらに気付いた様子も見せないそれに、マグナムリボルバーマスケットを手にしたミュゼーヌは目を細めた。
 あれは異界の生物ではない。かと言ってこの世界に受け入れられるわけではない。信条や理念が違うだけで、リベリスタと同様運命に愛されているフィクサードとも異なる。運命を持たぬエリューション、情状酌量の余地なく討伐が求められる世界の敵。それでもミュゼーヌは、ほんの一時それを肩を並べるために武器を構えた。
 異界の住人でありながらこの世に存在を認められた『風詠み』ファウナ・エイフェル(BNE004332) は小さく溜息を吐く。彼を世界の敵に堕としたのは、『脳齧り』の一個体。首を狩り脳を啜るその異邦人だけを『影』が狙うのは、己の命を奪われた憤怒だろうか。或いは、敗北それ自体、もしくは死に対して悔いる部分があったのか。
 分からない。
 世界の多くは、誰にとっても分からないまま。分かるのは、月日を経ても尚残る思いがここにあったのだという事ばかり。ならば思いは果たしてやろう。叶う限り、殺してやろう。
 とは言え、そんな強い思いを抱いて、影はどこを目指しているのだろうか。憎い、殺す、守る、止める、後悔、苦痛、解放、思い浮かべればキリがない、と『フリアエ』二階堂 櫻子(BNE000438)は魔弓の弦を指先で弾きながらすぐに消える泡の思考を払った。人の心は時に何よりも強く、時に恐ろしい。影を構成する思考が何かは知らぬが、多くを内包する人間はとても不思議なものだ。
 
 異形がこちらを見つけた。獲物を見つけた。目はない。視線は分からない。それでも分かる、異界の生物はこちらに気が付いた。
 ちゃりちゃりがりがり音がする。
 金属鎖に似た『腕』と刃物の『手』を引き摺って、ボールにも似たポップな姿が迫ってくる。

 影の手に、ナイフに似た黒い刃が生まれた。眼鏡の位置を直しながら、『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)が構えるのはMuemosyune Break。刃はこちらには向いていない。殺された人間が、殺した相手に復讐をする為に化けて出る。そんな話は怪談としてよく聞くが、果たしてこのE・フォースも同様の感情から生まれたのだろうか。ならば、例え終いには消し去らねばならない運命だとしても、その無念ばかりは晴らしてやりたい。それが残滓に過ぎなくとも、残った蟠りを消して昇華して欲しい。
 同年代に見えども、重ねた年は倍を越えて。優しい願いを抱いて立つ木蓮の背を見ながら、『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)は銃身で軽く己の肩を叩いた。それが偶然の遭遇でなく、自ら挑んだ結果というならば……それは恨みや憎悪ともまた違う、自らで討ち果たそうという意思であれば良い、と思う。負けて終わり、それで終わらぬ意志を望むのは、やや負けず嫌いの気に寄るものか。だが今回のメインはそこではない。メインは手薬煉を引いて待っている、黄色い的だ。大きな的だ。一度食らった脳の味。それを求めるのも今回限りにさせなければ。
 推測など所詮は推測に過ぎない。外野が考えを巡らせてやいやい言うのは野暮であろう。『黄昏の賢者』逢坂 彩音(BNE000675)は腕を組み、己の脳を活性化させる。人の域を超えた脳は美味であろうか。異形に聞ける訳でもなし、聞きたいとも思わないけれど。彼女の興味の対象は、意思疎通のできる相手でなければ意味がない。
「死して尚、彼の方は世界を護らんとなさっておいでなのですね!」
 笑みを浮かべた『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260)の感嘆に満ちた声に疑いはない。死した見知らぬ同胞が、この世界の為に働くのを疑っていない。攻守に優れた『メイド』は双鉄扇を広げスカートの裾を翻す。それは正しいのだろう。少なくとも影は、リベリスタに対し一切の敵対反応を見せてはいない。刃が向くのは、向日葵に似た明るくおぞましい生物にだけ。
「わたくしたちも、そのお心に報いましょう!」
 防御の為の気が張った。来訪者を迎えるのは勤めなれど、今宵のもてなしは趣が違う。

 食らってやろう、捕食者ども!


 半分以上が脂肪で構成され、白子の様とも豆腐の様とも形容される脳は柔らかい。それを食らう食文化は、確かにボトムでも存在する。エッグアンドブレイン、フライにスープ。真偽は分からずとも、生きた猿に果ては死者の脳までも食らう習慣があったと囁かれる。とは言え、同族である人間の脳を食らう異形までも看過できる訳ではない。
「さあ、狩りを始めよう」
 追うだけでは済ませない。追われる身になってみろ。龍治の構えた火縄銃が、中空に向けて放たれる。威嚇ではなく、降り注ぐのは業火の雨。硬質な機械に覆われた目と視線を合わせた。伊藤が頷き、ド鉄拳を打ち合わせて宙へ掲ぐ。
「正義タイムの始まりだ!」
 正義、正義。何を以って正義とするか。何、殺しに来るこいつは悪い奴で、おっかない口をしたこいつは怖い奴だ。だから殺して正当防衛、至極単純。だから伊藤は炎の雨を降らす事を躊躇いはしない。
 呻き声すら聞こえない。不気味な球体は警戒の音すら発しない。沈黙が気持ち悪い。影が駆けた。影がぶれた。実体を持たぬはずの身が、けれども複数に増えて球体を刺す。
 その影を『攻撃に含めない』ようにしながら、ミュゼーヌの銃口は炎の雨にも勝る数で弾丸を吐き出した。本物のマスケット銃ならば不可能であろうが、神秘の力を得たそれには容易い事。けれど、威力を持たせるのは使い手である。
「弱ってるのから狙っていこうぜ!」
 影に声をかけた木蓮の、焦げ茶の得物からも蜂の巣穿つ弾丸が放たれた。アーク最高峰の射手たちから連続で贈られる銃弾は、黄色の球体に吸い込まれていく。吸い込まれた。穴が開く。球体がメッシュのボールに似たものになる。だが、一瞬だ。異形は一瞬で元の滑らかな球体へと舞い戻った。彼らは酷く、丈夫な様子だ。
 唸り声は聞こえない。微細な動きも分からない。それでも異形は、各々他者と通じ合っているらしい。異界の異形は論理的な思考回路は持ち合わせずとも、野生の獣の如き連携の術は持ち合わせていた。群れでの狩りなら、囲い込み。より多くの『獲物』を得るため、一斉に扇状に広がった。
 成人よりも大きな程の球体は、一人で防ぐのは一体が限度。
 そして頭は、当然ながら一人に一つしかない。なら脳齧りはどうするか。
 簡単だ。
 一体一人、齧り付けばいい。
 未だ獲物を侮る捕食者は、跳ねて転がり牙を剥く。
 敵は五体。ブロックを抜けた一体が、たまたま近くにいた彩音へと。
 巨大なボールが地面をジャンプした。割れた。咄嗟に両腕をかざした彩音はその内を見る。目。巨大な目? いや、内側にあるという事は目ではないのか。内臓の一つなのか。分からない。内側に覗くヒダ――歯だ。暗転。閉じる顎を無理やりに両手で広げ、離脱する。
 ざりざりざりごりごりざり。
 内側の歯に、棘に腕を『摩り下ろされた』。淡いピンクに、噴出す赤。垂れる繊維。肉の摩り下ろされる音がおぞましくて麻痺していた痛みが、視認で一気に脳へと広がった。だが脳だ。自分はまだ啜られてはいない。なら大丈夫。まだ大丈夫。
 肉に、骨に隠された柔らかい好物を食べ損なった異形が、地面をころりと、その仕草だけ可愛らしく転がった。
 食いに行く、食らう食らう。リコルの読みよりも、脳齧りは些かリベリスタを侮っている。最初から食らうつもりで飛びかかってきた。ぎいん。柔らかい肉と触れ合うのとは全く異なる音が、耳のすぐ傍で鳴る。自身の頭部の直径よりも大きく開いた扇が、辛うじて彼女の肉を守ってくれた。
 食欲。異界から来たグルメ達は、先の仲間が『食い損なった』のを見て方針を変える。一撃で食らえない。ならば、手負いにすれば逃し難い。
 球体が急激にブレたのを櫻子が確認したと同時――両刃の『手』が彼女の、ファウナの、伊藤の腹を薙いだ。あの腕でどうやって者を持つのか、そもそも獲物を切るか刺すか以外には使わないのか。一瞬場違いとも言える疑問が誰かの脳裏に浮かんで、すぐに熱に掻き消される。紙で指を切ったのに似た、それよりもっともっと深い痛み。瞬間の激痛が過ぎて、どくどくとした痛みが傷口に伝わる。心臓がまるでそこに移動したように、鼓動を感じる。
「その痛み、癒しましょう……」
 服が、血に染まる。それでも櫻子は息を吸って、遥かに遠くの存在に癒しの力を願う。血を失えば、それだけ早足で限界は近付いてきてしまうのだ。不都合を一つでも拭い、立つ力を。前衛の壁を乗り越えてきた異形に、色違いの目を細めて呟く。近寄らないで下さいな。分かり合えぬ存在と、無意味な問いを重ねる趣味はない。
 腕が振り上げられた。鋭い刃先が、ファウナを狙う。この場の誰よりも射程距離に優れた腕が、その細い足を刺し貫いた。骨が削られる音が、耳ではなく体内から伝わる。おぞましい音。
「これ以上の被害は、いりません」
 歯を食いしばりながら、傍らの穏やかな新緑の色をしたフィアキィに指を伸ばす。長い友は、その身を癒すべく励ますように白い指に寄り添った。
 未だ事態は動いたばかり。摩り下ろされた腕が櫻子の癒しによって薄皮の貼る状態になったのに息を吐きながら、論理に則った思考者である彩音は脳齧りに的確な一撃を与える為に糸を張り巡らす。ボールならば刺されて空気も抜けように、得体の知れない中身の詰まった球体は嫌な手応えを返すばかり。
「お帰りくださいとは申しません、ここで朽ち果てなさいませ!」
 断頭蓋を受け止めたリコルの扇が広げられ、踏み込んだ一歩が地面を抉る。広げた状態から高速で畳まれた扇が、脳齧りの肌――肌と呼ぶべき球体の表面を削り取った。
 べろりと剥がれた黄色が落ちた。覗いた幾何学模様、ちらちら点滅して見えるそれは人でいう血管のようなものなのだろうか。
 分からない。
 理解不能な存在に、撃退の二文字を掲げ、リベリスタは地を蹴った。


 流れる血の臭いは、全てリベリスタのものだ。脳齧りは血に当たるものを流さない。
 リベリスタが訪れた事で何よりも利を得たのは『首なしの影』であっただろう。頭のない彼の影は、他の『獲物』が存在する事で脳齧りの攻撃対象に非常になりにくくなったのだ。ましてやリベリスタは事が済むまで、こちらに手を出さねば影を攻撃には含めないと言い合わせていた。
 影の刃も、リベリスタに比べればささやかではあれども、異形の体力を減らすのに一役買っていたと言えよう。
 けれどそれでも、異形は、丈夫だったのだ。癒し手を狙うよりも、攻撃を行う相手を狙う傾向があったのは幸いであったとは言え、こちらにとって有利な相手を狙ってくれるかどうかは、また別である。二匹を落とす間に、四人の運命が消費された。
 特に龍治の弾丸は高い精度で彼らを射抜き、糸で動きを止めてはいたけれど、その分、彼は一番『恨みを買いやすかった』とも言える。前に出て誰かがその進攻を防いだとして、脳齧りの腕は龍治の弾が届く範囲よりも更に遠くからの攻撃が可能であった。
「龍治!」
 白い髪を赤く染める木蓮の叫びと同時、刃の腕が振り伸ばされた。狙うは炎を、弾丸を振り撒いていた龍治。ぞぶり。深く深く突き刺さっては骨を削り、肉を抉った刃が来た時と同じ勢いで引き抜かれ、血が迸る。高威力に加え、優れた命中と回避力、防御――全てを兼ね備える存在は、そう存在しない。緩やかに膝を突く龍治、一匹がくるりと反転した。腕を回して駒のように回った。撤退のつもりか。
「待てやコラ!」
 逃さない。伊藤が跳んだ。その球体に飛びかかった。ぞわりと鳥肌が立つ。硬質だけれど、奥に柔らかいものを秘めたそれは、生温い。体温よりも低く、消えていく命を連想させるその温度。払い除けるように地面に思い切り叩き付けた。
 は、と息を吐いた次の瞬間、喉奥の「目」が伊藤を見て、  ぞりり。
「逃げられると……思わない事だね」
 肉の削れる音と仲間の声と。隙間から差し込む光に彩音の糸が反射して、意識を失った伊藤を口から引き摺り出す。が、次に瞬いた時には彼女も刃で胸を抉られて身を傾がせていた。
 残り二体にも、撤退の隙を窺う気配が感じられる。逃すまいと、ここで殲滅してやると、そう多くが決意してきたが、状況との天秤。一体をリコルが止めた。もう一体が、転がるように逃げていく。来た方へと、この世界と繋がる穴の方へと。
 ミュゼーヌの弾丸が、脳齧りの丁度中心を射抜いた。針穴も通す高精度のそれが、どこか重要な臓器を貫いたのだろうか。腕が波打つように、跳ね上がる。瞳が、影を捉えた。
「――思念だけの異形だとして、その行動は共感するし、尊重するわ! やりなさい!」
 その声が、届いたのかは分からない。ただ、不確かに揺れる影が振り上げた暗い刃が――球体へと吸い込まれた。浮かんでいた球体が、落ちる。
 龍治を抱き上げた木蓮が、ほっと息を吐いた。叶うならば、トドメを『影』に。そう思っていたのは、彼女一人ではなかったのだ。本来ならば得られないチャンスを得た浮かばれぬ存在に、一つでいいから、救いを。それが本当に救いになるかなんて、誰にも分からないけど。

 しん、とした。
 音がなくなった。影が、揺らぐ。それは思いを遂げたからなのか、それともE・フォースの核となっている『思い』を向ける対象が存在しなくなったからなのか、はたまた単に弱い存在であった影の限界だったのか――分からないけれど。消え去る影に、ファウナは目を閉じる。想いが果たされたから消え去った、そうであればいいと。
「……戻りましょう。人が来る前に」
 影が消えた場所から目を離し、ミュゼーヌが歩き出した。世界の為に戦ったとして、守る為に戦ったとして、その結果世界の敵へと堕ちれば新たな守り手に狩られる定め。それは、いつかの自分たちかも知れない。
「この世界も、運命も……全てが優しくはないのですね……」
 櫻子が目を伏せて呟いたように、リベリスタは知っている。世界も運命も、自らの完全なる味方ではないと。
 それでも、彼らは武器を取る。
 この世界を、守る為に。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 射撃が多く中々見た目に派手な戦闘だったんじゃないかなと思います。映えますね。
 一体は逃しましたが、撃退でも可としている強敵相手の成果としては充分です。
 お疲れ様でした。