●冷徹な双眸 『親衛隊』の少尉であるアイゼルネ・ユングフラウは冷酷無慈悲な女傑として、その名前を知られていた。またの名を『アイアンメイデン』と称されている。 長いブロンドの髪に鋭く切れ長の紅い双眸。色白の美貌の女性士官は、その華麗な美貌とは裏腹にこれまで多くの人を突き殺してきた。 戦場ではその合理的な判断によってその場で最善策を組み立て、最短でもっとも効率のよい作戦を実行することに長けていた。 「ユングフラウ少尉、目標は村外れの教会の中に逃げ込んだ模様です。すでに敵の指揮官は倒されており、残党勢力は残り5人とのことです。中にはまだ子供や女の姿も見られるとのことですが、いかがなされましょう? もしくはこのまま放っておいても――」 「全員殺せ」 「ですが――」 「私の命令が聞けないのか? ハンス、お前がまず地獄に墜ちるか?」 アイゼルネはそう言いながら部下のローゼンバーグ曹長を脅す。彼女の身に付けた甲冑には鋭いトゲがいくつも突き出ていた。戦場でその刺矢に串刺しにされた者は数多い。敵の血濡れた阿鼻叫喚する様をこれまでに何度も見てきたハンスはたじろいだ。 彼もけっして無能な男ではない。忠実なアイゼルネの部下として数々の手柄をあげてきた。その優に二メートルを超す巨漢で相手を接近戦で嬲り殺してきた。そのハンスでさえもアイゼルネだけには逆らえない。 「いいえ――わかりました少尉。それでは御随意に」 ハンスは部下の兵士を集めて少尉からの指示を与える。すぐに準備が整い、ユングフラウ少尉は集まった部下の兵士たちを連れて闇へと消えた。 ●廃教会の攻防戦 「お前たちも聞いていると思うが、国内でリヒャルト・ユルゲン・アウフシュナイター率いる『親衛隊』がすでに活動を開始した。今回の敵は、その中のアイゼルネ・ユングフラウ少尉が率いる少数精鋭部隊だ。このままでは奴らに襲われたリベリスタ達の命が危ない。なんとかして彼らを救出してきてほしい」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)が手短に説明した。一刻を争う状況に話を聞いていたリベリスタたちも唾を飲み込む。 ユングフラウ小隊が襲い掛かったのは小さな村の廃教会だった。その付近でエリューション討伐を終えたばかりのリベリスタたちに突然奇襲攻撃をかけた。すでにリベリスタ側の指揮官は戦死して残るのは数名だけだという。 その数名の生き残りが重傷を負いながらも、なんとか廃教会に逃げ込んだ。現在はその廃教会の周りを、ユングフラウ小隊が取り囲んでいる状況にある。むろん、その中に立て篭もっているリベリスタ達は自力での脱出が困難だった。 「このままでは中にいるリベリスタ達が殺されてしまうのも時間の問題だ。お前たちには一刻も早く現場に辿りついて中に居るリベリスタを救出してきてほしい。相手は無慈悲冷酷でとても頭の切れる奴だ。女だからといって甘く見るのは危険。くれぐれも用心して無事に帰って来て欲しい。それではお前たちの幸運を祈っている」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月27日(月)23:18 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●同じ匂い 辺りにはすでに濃い血の匂いが漂っていた。月の出ない暗闇の林の中をリベリスタ達は急いで現場に向かっている。想像以上に動きにくくて足がもつれる。焦れば焦るほど身体がうまく動かなくなるようだった。 「――同じ匂いがするのよね」 『毒絶彼女』源兵島 こじり(BNE000630)が林の奥を鋭い目線で睨みつけた。相手の少尉のことが気になっていた。冷徹で無慈悲で合理主義者。共感できる部分もなくはないが、それ以上に敵に対して虫唾が走った。 「運命は意地悪だ。助けてあげられなかったリベリスタたちを惜しむのは、今生きてる人たちを助けたあと。この子たちは、必ず助ける!」 『モラル・サレンダー』羽柴 壱也(BNE002639)がこじりと一緒になって走りながらみんなに聞こえるように大声で叫んだ。 「独国からの無粋な御客人共。この国で思い通りに出来るとは思わない事ね」 『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)は厳しい目つきで周囲を警戒しながら呟いた。 「軍人らしい軍人、という表現もおかしなものだけれど、そういう奴等と戦うのはこれが初めてかも――」 『薄明』東雲 未明(BNE000340)はだからといって油断はしていなかった。相手が軍人なら合理的で効率的な作戦をしてくるはず。相手のペースに巻き込まれないように注意しながら戦わなければならない。 「こんな山奥で、手負いの若いリべリスタを追い詰めて何やってるの? 彼らを倒したって名声はそれほど上がらないと思うけど」 『蜜月』日野原 M 祥子(BNE003389)も敵の汚いやり口がどうしても許せなかった。横にいた未明も祥子の意見に頷く。 「楽団の次は軍隊ですか。敵が本当にぽんぽん増えてきますね」 『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)も、まだ見ぬ敵との激しい戦いのために気合いを入れ直す。 「ナチって言えば悪者の定番。いかにもな行動を取ってくれて、ノーフェイスとかよりずっとやりやすい。絶体絶命のピンチに登場した正義の味方が、悪党をぶっつぶす! 俺らの力でハッピーエンドにしてやるよ!」 横にいた『スーパーマグメイガス』ラヴィアン・リファール(BNE002787)も力強く頷く。絶対に仲間のリベリスタを助けてみせる。 「誰一人だって殺させはしない……!! みんな無事に帰りましょう!! どんな厳しい状況でも、全員が全力で役割を全うすれば切り抜けられます。ボクたちのチームワークってやつを見せてやりましょう!!」 『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)の言葉に、傍にいたリベリスタ全員が目で合図をした。みんなの頼もしい視線がなんとも心強い。 一行がようやく廃教会近くの林までやってきた。敵に先に気づかれないように細心の注意を払いながら未明がAFを取りだす。 「こちら――安倍と言います。ですが、仲間はもう動けません。とくに日下部さんが重傷で――これ以上迷惑はかけられません。未明さんたちも逃げてください」 行哉が思い詰めた声音で未明に返事した。すでにその言葉は死を覚悟しているようだった。それを横で聞いていた壱也が決死の形相で未明から通信機を奪った。 「簡単に死ぬようなこと言っちゃダメ!! 安倍くんが諦めたらそこにいる日下部さんたちがみんな死ぬんだよ!! そんなの絶対に許せないし、わたしがさせない」 「その声は壱也さん……?」 壱也の突然の呼びかけに行哉は言葉を失った。 「とにかく死ぬなら安倍くん一人で死んで! その代わり他の誰も絶対に殺させないこと――だったら私たちが必ず助けるから」 壱也の優しい言葉に行哉は深く頷いた。もうダメだと思っていたところに、思いがけずにまた助けに来てくれた。その言葉をもう一度信じてみたい。 「万一の時は自分が犠牲にだなんて考えないのよ?」 囮はこっちの役なんだから、と代わった未明が行哉に釘を刺した。 光が翼の加護を全員に付与する。祥子はラグナログを慧架は金剛陣を使用して戦闘準備に入った。それぞれが戦闘位置につく。 「鈴宮慧架推してまいります!」 慧架の華々しい合図とともにリベリスタは林を飛び出して行った。 ●血はワインよりも 「ちょっと退いて頂戴な、少尉さん!!」 未明がいきなり後ろからメガクラッシュをぶっ放した。教会の入り口から中の様子を伺っていたアイゼルネ少尉に奇襲をかける。 だが、アイゼルネは飛ばされながら未明の方に向かって体勢を立て直す。攻撃を鎧でガードしながら迎撃の構えを見せた。近づいてきた未明にむかって無数の刺矢を飛ばして反撃を試みる。 「ぐふうっ!!」 未明は無数の刺矢に貫かれてそのまま後退した。 あまりのアイゼルネの攻撃の威力に地面に突っ伏しそうになるのを必死で堪える。 想像以上の威力だった。 「はぁい、アイアンメイデン少尉、だっけ。アークの羽柴です。アイアンメイデンって拷問器具だよね。相手を拷問してるのか、あなたがそれに縛られてるのか……どっちでも構わないけど、ただ今言えるのは、あなたの相手はわたしだよ!!」 壱也が未明の前に立ちはだかった。その隙に未明は傷を抑えながら後退する。 「邪魔だ、失せろ。それとも死にたいのか?」 アイゼルネが冷たく言い放った。その言葉尻には微塵の動揺も感じられない。改めて厄介な相手だと壱也は心の中で呟いた。だが、負けるわけにはいかない。ジャガーノートを使用して壱也は気迫を漲らせた。あまりのオーラーにようやくアイゼルネも顔の表情を少し動かす。すぐに壱也に無数の刺矢を飛ばした。 翼の加護を貰った祥子もすぐにハンスの前に躍り出ていた。リーガルブレードでハンスの強靭な身体に斬りかかる。不意を突かれたハンスは斬りかかれながらも、上手く身体を反転させて後退した。 「ほう、奇襲とは女にしちゃあ、なかなかやるな。だが――ユングフラウ少尉に比べればあまりに無力に等しい」 ハンスは祥子の激しい奇襲を食らったにも拘わらず、乱れた吐息ひとつしていなかった。余裕の笑みを浮かべて祥子に向かって歩いてくる。 ハンスが剣を振りかざす。間一髪のところで祥子はリーガルブレードで対抗する。 ガツンン! 剣と剣が歯ぎしりしてせめぎ合う。直観でなんとかハンスの攻撃を受けとめたものの相手の押しの強さは圧倒的に祥子を上回っていた。 「ぐああああっ!」 祥子が吹き飛ばされて大木の根元に叩きつけられる。口から血を吐き出してむせかえってしまった。身体が重くて言うことをきかなかった。 壱也や祥子が敵の首領と戦っている間に、こじりたちは教会を包囲していたナイトクリークたちに襲い掛かって行った。 「血はワインよりも身を蕩けさせる。そう思わない?」 身を華麗に反転させながら上空で思いっきり刀を振りかぶる。敵が攻撃をしかける寸前にこじりは相手の懐に飛び込んで刀を十字に斬り付けた。 次々に敵を斬り伏せて行く。こじり自身も大量の返り血をあびた。それでも顔は無表情のまま動かなさない。冷徹に相手を斬ることだけを考えて薙ぎ払う。 「行くぜ! 滅びのブラックチェイン・ストリーム! これが俺のレクイエムだ。さっさと消えな、時代遅れの亡霊ども!!」 ラヴィアンもこじりと背中合わせにナイトクリークたちに向かって戦う。血で作った濁流で敵を容赦なく呑みこんでいく。だが、敵も次々に現れてはまた恐れをなさずに立ち向かってくる。息の継ぐ暇もない敵の攻撃に二人はいつしか満身創痍になっていた。 「すこし下がっていたほうがいいんじゃない?」 「そっちこそ動きが大分鈍ってるぜ。ここは俺に任せたらどうだ」 「冗談じゃない。あんたが足手まといなだけ」 口ではそう言いながらもこじりとラヴィアンは互いのことを気にかけていた。激しい敵の攻撃を次々と受けて動けそうにない。とくにラヴィアンは立っているのもやっとだった。 慧架は不意にマジックカンテラの火を消した。目の前にいた敵のホーリーメイガスが一瞬戸惑ったところを奇襲する。 「きゃあああ――」 慧架は相手の鳩尾にます一発拳を入れた。くぐもった吐息とともに相手は口から血を吐き出して倒れ込む。そこをすかさず姿勢を低くして腰に敵を乗せた。 敵の腕と背中を取った慧架は迷わず背負い投げで敵を地面に叩きつけた。辺りに絶叫が走って骨が砕け散る音と共に相手は動かなくなる。 アンタッチャブルで強化したエーデルワイスと光が隙を見て廃教会のステンドグラスを叩き割った。そこからついに中に向かって侵入することに成功する。 ●飾りの盾 「助けにきたわよ。みんな急いで! すぐに敵はやってくるわ!」 光が中にいたリベリスタ達に向かって話しかけた。すでに日下部千春は仰向けに横たわっていて動けない。傍にはまだ年若い村岡明里が必死の手当をして疲労感を漂わせていた。 「アークの救助部隊参上よ。一緒に運命を切り開きましょうね」 「ありがとうございます。すぐに――」 安倍行哉は光とエーデルワイスと手伝って他の仲間に脱出準備をさせる。光は翼の加護と回復を手負いのリベリスタ達に施した。 まずは横山里緒奈と長谷川宗太から窓の外から逃げ出す準備をさせる。エーデルワイスが窓から襲ってきたナイトクリークを撃ち抜いていく。ようやく安全が確認できたところでまず二人を窓から脱出させた。 「さあ――次は日下部さんの番」 光が動けない千春を伴って窓から出ようとしたときだった。 「危ない! 逃げるんだ!」 ラヴィアンが怒鳴った。壱也を吹き飛ばしたアイゼルネの姿が急に忽然と消えた。祥子と戦っていたハンスも反転して教会に向かう。 熱感知を使用してハンスが陰潜みで教会の窓のところに迫って来ていることにいち早くラヴィアンは気づいた。危うい所で光も気がつく。 光が窓の中に引っ込んだ直後にハンスがリーガルブレードでそこをめった切りにしていた。だが、攻撃を外したはずのハンスはなぜか笑う。 「先のことばかり見据えて逃げようとしても、足元が疎かになるのは道理だ」 ハンスがそう言った直後だった。 「ぎゃああああああ―――――」 教会の中にいた村岡明里が叫んだ。足元からアイゼルネ少尉が現れていた。物質透過をして教会内に侵入したアイゼルネがまだ年若い明里にむかっていく。 「ぐわあああああっ――」 光がメガクラッシュするよりも早く――そこには日下部千春が立ちはだかっていた。無数の刺矢に貫かれた彼女は辺りに血しぶきをまき散らした。 明里を庇った千春は無残にもそのまま地面に倒れ込んだ。安倍行哉が助けに起そうとするが彼女はもう息をしていなかった。 「日下部さん!! どうして……どうして」 「弱いな、糞どもが」 アイゼルネは安倍行哉を足で蹴飛ばす。壁に激突した行哉はあばらを何本も折って苦痛でもがき苦しんだ。 すぐにアイゼルネは明里の方にも矢を飛ばした。 「うがああああああああ」 明里は絶叫した。この世のすべての苦しみを全身で受け止めるように。そうして千春の上に覆いかぶさるように倒れて死んでしまった。アイゼルネは残ったただ一人の安倍行哉に向かって刺矢をとばす。 「そうはさせない! その命尽きるまで血の花を咲かせなさい!」 エーデルワイスが銃を構えて鎧の隙間に弾丸をぶっ放す。隙間を狙われたアイゼルネはついに顔を歪ませた。教会の奥に後退する。 だが、ハンスが横から光とエーデルワイスを巻き込みながら、猛タックルを食らわすとリーガルブレードを叩きこんできた。 攻撃を受けたエーデルワイスがその場を撤退する。そのあとを追いかけようとしたハンスが今度は迫ってきた祥子にジャスティスキャノンで攻撃を食らった。 「しつこい女は嫌われるぞ」 怖い形相でハンスは祥子を睨みつける。 「影に隠れて不意打ちなんて、男らしくないわ。クロスイージスなら、その頑丈さに任せて、堂々と正面から戦いなさいよ、その盾は飾りなの?」 祥子は挑発した。陰に潜んでこそこそ奇襲を挑んでくるハンスにもう我慢できなかった。ハンスがあたしより強いのはわかってる。でも、盾を構えて一歩も引かないあの人と比べたら、卑怯っぽく見えるんだもの。 祥子は自分の大切な人を心に描いた。戦いの最中に彼のことを思い出すことはほとんどないことだった。おそらく死の恐怖を感じてるからだろう。 だが、絶対に負けるわけにはいかない。ふたたびハンスと対峙した祥子は安倍行哉が逃げられる隙を作って全力で盾になった。 祥子はめった切りにされてその場に突っ伏す。だが、時間を稼いだお陰でこじりが壱也や未明たちと一緒になって駆けつけてくれた。 「日野原! あんた馬鹿でしょ。死んじゃったら恋人にも二度と会えなくなるわよ! ここはあたしたちに任せなさい」 未明が代わりにソードエアリアルでハンスの抑えに向かう。新たに現れた敵に今度は釘づけにされた。そこを慧架が後ろに回って斬風脚を叩きこむ。 「私はプロとか軍人とかそんなものでもない。正義の味方でもない、タダの普通の人間です。だからこそ、貴方達に負ける気はありません!」 ハンスは激しい慧架の攻撃に血を吐いた。ようやく強靭な体力を誇ったハンスも疲れを見せてきた。自分のことが精一杯で他のことに気が回らない。 こじりと壱也は一緒になってアイゼルネに立ち向かっていった。次々に放たれる刺矢の雨に二人は何度も貫かれて倒れた。次第に血反吐さえも出なくなる。 「滑稽ね」 鉄の処女だとか言って、その実、身に棘を纏わせて己を守っているだけじゃない。 本当の鋼鉄は、そんな事じゃ生まれないわよ。 「痛くても殺す、熱くても殺す、手が足が目が失われようとも」 棘など意に介さない。私に見えているのは敵がいるという事実のみ。 「だから、殺す」 こじりは目で横にいる壱也に合図した。同じく満身創痍の壱也も片目を瞑ってこじりに笑いかける。 「――何度だって助けてみせるよ」 最後の力を振り絞って壱也はこじりの前に躍り出て盾になった。瞬間、猛烈な刺矢に壱也は全身を貫かれてしまう。それでも歯を食いしばった。 「壱也さん、危ない!」 行哉が見かねて壱也の前に躍り出ると無数の矢に撃たれて倒れた。 「ばかっ!! なんでわたしをかばうの!!」 「……ごめん、な、さ、い」 「いやああああああ――――」 壱也は行哉を抱きかかえたまま、絶叫した。 「よくもやってくれたわね!」 こじりはもう冷静さを失っていた。 その隙にアイゼルネの懐に飛び込んで神風のように切り裂く。 「ぐあああああああ――」 ついにアイゼルネは苦痛にもがき苦しんだ。壱也はもう動かない血だらけの行哉を抱えて一目散に教会の外へと飛び出した。 ●鉄処女のハーケンクロイツ アイゼルネはこじりたちにもう一度刺矢を飛ばしてその場に釘づけにした。そして残った部隊に撤退命令を出す。すでに目標の敵を始末し終えたと思ったからだろうか、それともこれ以上戦うのは得策でないと判断したのかはわからない。 それでも、残り僅かになってしまったアイゼルネの部隊もかなり疲弊していたのは間違いなかった。 「あの人達逃げちゃうけど、まだ続ける?」 祥子が対峙していたハンスに撤退を促す。すでに祥子もこれ以上動けそうになかった。これでハンスが身を引いてくれなかったらタダでは済まなくなる。 「また、会おう――月盾のお嬢さん」 ハンスはニヤリと笑みを浮かべた。身を颯爽と翻す。先に教会の外に出たアイゼルネ達を追い駆けるように教会から出る。 エーデルワイスは彼らの後を追おうとした。だが、未明や光たちに結局に止められた。こちらにも相当の被害が出ていた。このまま少数で戦える者だけで追い駆けて行っても状況は不利だ。それに今はリベリスタ救出の任務の方が大事だった。 未明が撤退の指揮を執る。相手が林の奥に見えなくなるのを確認しながら傷ついた仲間と共にすばやく避難する。 しばらくしてAF通信で先に逃げた長谷川宗太と横山里緒奈は安全圏まで避難できたという知らせが入った。 「安倍くん、どうして……わたしがあんなこと言っちゃったから? だから死んじゃったの? だとしたらわたしが悪いよね……ごめんね。痛かったよね」 壱也は膝に行哉の頭を乗せながら咽び泣いた。やさしく頬を撫でながらこれまでのことを思い出す。溢れる想いが一層胸を強く苦しめる。 「きっと――目の前で大切な人が死ぬのを我慢できなかったんでしょうね。ボクもたぶん同じ状況だったら同じことをするかもしれない」 光が俯いて言った時だった。急に行哉がむせ返った。血を吐いてのたうち回る。すぐに光が回復を試みた。 まだ行哉は死んではいなかった。回復を施されて一瞬だけ行哉は目を覚ます。 「ありがとう……」 壱也は行哉を抱きしめながらぐしゃぐしゃになった顔で何度も頷いた。ようやく一同の間に少しの安堵感が生まれた。最低限仲間を救うことができた。 もっともあの二人は助けることはできなかった。それは自分たちの力が足りなかったせいでもある。もう少しあの二人を抑えることができていれば。 こじりは、すぐそばに倒れていた敵に近づいた。腕に付けているハーケンクロイツを踏みつける。 今度は必ずあの鉄の処女――アイアンメイデンを。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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