●迷い猫と迷子の童女 魚の焼ける良い匂いにさそわれて、彼女はそこへ迷い込んだ。異世界へ通じるDホールを潜り抜け、音もなくこの世界へ降り立った彼女は、白い猫だった。雪のように真っ白で、艶やかな毛並み。気品漂う所作に、額には三日月模様。御嬢様然とした優雅な動作と、余裕に満ちた眼差し。 だが、猫だ。 アザ―バイド(お猫様)。それが彼女の名前である。猫を統べる、猫の女王だ。 魚の匂いに誘われて、彼女が足を踏み入れたのは古びた旅館である。旅館、と言ってもすぐ隣にはホテルが併設されている。旅館の部分は、主に温泉や宴会場と使用されているようだ。 旅館部分の大広間。そこに踏み込んだお猫様が目にしたものは、畳に突っ伏して眠りについた50人ほどの男女である。恐らく会社かなにかの慰安旅行で来たのであろうが、それが何故、宴会直前というこの状態で皆、寝ているのか。 客だけではない、旅館の従業員と思われる者たちもぐっすりと眠っていた。 「にゃァお……?」 人間を見るのは初めてではない。とはいえ、このようにぐっすりと寝ている様は見た事がなかった。首を傾げるお猫様。だが今はそんなことを気にしている場合ではないのだ。魚である。焼き魚。程よく冷えたそれを見つけ、前足を伸ばした。 その直後……。 『猫ちゃんだ……。猫ちゃん』 「本当だね。猫ちゃん。おいで?」 「にゃっ!?」 背後から感じる異様な気配。慌てて飛び退くお猫様。いつのまに背後に迫っていたのか、そこには2人の童女が立っていた。異様な気配は、その童女の片方から感じる。 右の童女は、いたって普通。黒い髪と黒い瞳。旅館かホテルの宿泊客だろうか? 浴衣を着ている。 左の童女は、少々外見からして異様であった。まず、存在感というものに欠ける。よく見ると、背後が透けて見えるようでもある。白い髪に赤い瞳。 お猫様の直感が告げる。今、この旅館で起きている異常事態はこの白い童女によるものだ、と。童女の手がお猫様へ伸びる。 「うなぁァ!!」 現状把握を諦めて、お猫様は逃げ出した。 運の悪いことに……。 彼女の逃げ出した方向は、旅館とホテルの出入り口とは逆の方向であった。 「どっちがあのこを先に捕まえるか、勝負しない?」 『いいよ。それじゃあ、スタートね』 逃げ出したお猫様を追って。 童女達もまた、旅館の廊下を駆け出していった。 ●ロンリーガールとおにごっこ 「Eフォース(ロンリーガール)と、アザ―バイド(お猫様)を捕まえる事。それが今回の目的。ロンリーガールと一緒に居た童女は、ホテルに宿泊している一般人ね。名前は心ちゃんと言うみたい。ロンリーガールと意気投合した模様」 一緒に遊んでいるだけだけど一応保護してね、と『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はそう告げる。モニターに映るのは、5階建てのホテルと、二階建ての旅館。湯気が上がっているのは、温泉が湧いているからだろう。 「ロンリーガールの能力は、彼女の姿を見たE能力を持たないものを眠らせる能力。ロンリーガールの意思で起こす事が出来る。心ちゃんが眠っていないのは、ロンリーガールの意思でしょうね。遊び相手が欲しかったのだと思う」 旅館部分にいる人間は、すでにほとんど眠ってしまっているようだ。お猫様を追ってホテルへ行ったせいで、ホテル内の客もいくらかすでに眠ってしまっている。ロンリーガールに起こしてもらうか、ロンリーガールが消えるかしない限り、起きないだろう。 「また、ロンリーガールには敵意ある攻撃を一定ダメージ無効化する。敵意を持たず捕まえることは可能。それから、物を動かす能力も」 ポルターガイスト、と言う奴だろうか。 「また、現在施設内にはお猫様の呼んだ普通の猫たちが大量に居るみたい。猫達は、お猫様を逃がす為に人の邪魔をするから」 敵意があるわけではないのだろうが、邪魔をされるのは厄介である。 「旅館の外に空いているDホールから、お猫様を元の世界へ送還して来て。それから、お猫様に遭わせてあげればロンリーガールも満足して消えると思う。できればその時、心ちゃんも一緒に」 寂しいという想いから生まれたEフォースなのだろう。童女・心との約束は『どちらが先にお猫様を見つけるか』である。 「お猫様とロンリーガール、それから心ちゃんを探しだして、遭わせてあげて」 それが今回のミッション。その解決方法だ。 現在2人と1匹は、旅館やホテル内を駆けまわっている。見つけて、捕まえて、合流させて満足させるのだ。 「眠っているだけとはいえ、一応一般人にも被害が出ているから。なるべく早目にね」 そう言ってイヴは、仲間達を送りだすのであった。 もちろん、Dホールの破壊も忘れないように。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月29日(水)23:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●猫と少女 シン、と静まり返った宿泊施設。廊下にたむろする猫の群。子供の笑い声と、猫の啼き声ばかりが聞こえるなか、じっと身を潜めているものがいた。滑らかで真っ白い毛並みをした雌猫である。額には三日月型の模様。他の猫たちは、その白猫(お猫様)の命令に従って行動しているようだ。 アザ―バイド(お猫様)。他の猫を従える能力と、姿を消す能力を持つ異世界から来た猫の女王だ。そんなお猫様が隠れているのには訳がある。 「どっちに居ると思う? 私は右かな」 「私は、左だと思うなぁ」 キャッキャとはしゃぐ子どもが2人。足元に纏わり付く猫と戯れながらも、彼女達は施設内を駆けまわる。目的は、お猫様の発見。2人の子供の片方、少女の名は(心ちゃん)と言う。 そして、心ちゃんと遊んでいる白い髪の少女はE・フォース(ロンリーガール)である。 アザ―バイドとE・フォースをこの世界から排除するため、今、施設内に8人の男女が足を踏み入れたのだった。 ●おにごっこ 旅館とホテルが併設されている。まずは、最初に少女達とお猫様が遭遇したらしい旅館施設の大広間へ足を踏み入れるリベリスタ達。2手に別れて、捜索中だ。こちらはお猫様の捜索半である。広間には数十人の男女と、旅館スタッフが眠りこけていた。ロンリーガールの能力によるものだ。 「なるべく人目の少ない場所の方が可能性は高いでしょうか?」 広間の扉を閉め、通路を進む『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)。彼女が足を踏み出す度に、通路でたむろっていた野良猫達が逃げていく。 「お猫様と1年2ヶ月ぶりに御対面~! チャチャとアタシのこと覚えてくれてるかな~?」 彩花に怯えて逃げ出す野良猫を抱き上げる『三高平の悪戯姫』白雪 陽菜(BNE002652)。黒猫デザインのルームウェアを着込み、半ば廊下に突っ伏すようにして猫とコミュニケーションをとっている。頭に乗せた茶色の猫は、彼女の愛猫の1匹だ。 「さて……。随分とまぁ猫が紛れこんでいる様ですが。此処から探すのは一苦労ですね」 千里眼で周囲を見渡し『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)が溜め息を零す。探しているのは1匹の白猫。施設内には現在、数十匹の猫が入り込んでいる。今のところ、お猫様らしき影を見つけることはできないでいた。 「……流石に、探すのは随分と困難だな。しかしまぁ、この後の掃除が大変だな、この有様では」 廊下は猫の足跡だらけだった。襖で爪を研いでいる猫も居る。『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)はAFを取り出し、もう1つの班へと連絡をとった。 「その辺の一般人様に聞きこみましょう」 ホテル内を進む4人。そのうちの1人『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)がそう提案する。とはいえ、ホテル内で少女達に遭遇したであろう人物は皆、眠ってしまっている。 『おにごっこにかくれんぼ。童心にかえりそう。もっとも私、座敷牢に閉じ込められていた記憶が大半なのだけれど、ね』 なんて、暗い過去を思い出したのか苦笑いを浮かべる『蒼碧』汐崎・沙希(BNE001579)。そんな沙希の隣で『陽だまりの小さな花』アガーテ・イェルダール(BNE004397)が不思議そうに首を傾げる。 「おにごっこ、とはどういうものなのでしょう……? 鬼という架空の生き物が、皆さんを追いかける?」 長い耳を髪で隠しながらアガーテはそう呟いた。鬼に似た相手と彼女達は相まみえたこともある。 「今日はホテルのお仕事だと言ったら、おとーさんにシャチョーさんと組長さんの入浴シーンを撮影してこいとデジカメ渡されました!他の女の子も大歓迎だそうです!なんでもおとーさんのでぃーどらいぶ?が豊かになるそうです!……でも猫さんと女の子の捜索でお風呂入ってる暇ないですよね?」 モニカに対してそう訊ねるキンバレイ・ハルゼー(BNE004455)。モニカは呆れたような冷たい眼でキンバレイを見ると、「仕舞いなさい」とキンバレイの手からデジカメを取り上げた。妙なものを撮られていないかメモリーを確認する。撮られている写真は猫のものばかりだ。ホテル内にも猫が入り込んでいる。 と、その時だ。 『こっちにはいないね』 『猫が沢山いるわ』 なんて、楽しそうな少女達の声が廊下の向こうから聞こえてきた。 その声を聞くなり、キンバレイが駆け出す。 「ねーねー遊ぼう!」 元気な声と共に、少女達の元へと突貫していくキンバレイであった……。 「今回は戦闘を行う必要も無さそうですね」 千里眼での確認を怠らない紫月。その隣では、彩花が不満顔の子猫を抱いて、困ったような顔をしていた。比較的おとなしかった灰色の子猫を陽菜から渡されたのである。 「普通の猫の対応は陽菜さんにお任せしましょう。彼女の猫マニアっぷりは本物ですから信頼できます」 「……うなぅ」 同意、とでも言うように子猫が鳴き声をあげる。その顎を撫でながら、彩花は視線を陽菜へ移した。 「うにゃんにゃ」 「なぁお。みゃお」 猫達に猫缶を振舞いながら、猫たちとコミュニケーションをとる陽菜。時折、何かしら言葉を交わしているようだ。動物会話を持つ彼女にしか出来ない役割である。 「ねぇ。お猫様、隠れているんだって。ホテルの下の方の階に居たって言ってる」 猫から聞き出した情報を仲間に伝える陽菜。それを受け、葛葉は1つ頷いた。 「それなら、俺は先行するとしよう。見つけたら誘導するようにするさ」 そう言って葛葉は駆け出していった。仮に彼が発見できなかったとしても、彩花の幻想殺しや紫月の千里眼で対応できるだろう。 「怖がらせないで交渉できるといいんだけどなぁ」 彩花に抱かれている子猫を撫でて、陽菜はそう呟いたのだった。 「あーそーぼーっ!」 満面の笑みで駆けていくキンバレイ。廊下を曲がった先に、少女(心ちゃん)とロンリーガールの姿を見つける。キンバレイに気付いた心ちゃんが、僅かに怯えた様子を見せた。 次の瞬間、キンバレイの動きがピタリと止まる。 「あれ?」 不思議そうに首を傾げるキンバレイ。見えない手に掴まれたように、動けないでいた。警戒に満ちた視線をキンバレイに向けるロンリーガール。キンバレイの動きを封じているのは、彼女だと悟る。次の瞬間、キンバレイの体が見えない手に放り投げられ廊下を舞った。 『心ちゃん、逃げよう』 「え? 逃げるの? なんで?」 『いいから逃げよう。おにごっこよ』 僅かな戸惑いを見せながらも、心ちゃんとロンリーガールは手を繋いで廊下を駆けていった。どうやら怯えさせてしまったらしい。 「あまり暴れると心ちゃんまで怪我をしかねませんねこれ」 キンバレイを受け止めて、モニカはそう呟いた。寂しいという想いから生まれたロンリーガールは、どうやら心ちゃんと遊ぶことに執着しているようだ。突然割って入ろうとしたキンバレイや、リベリスタ達の気配を感じて警戒してしまったらしい。 『……足も速いし、かくれんぼもお上手ね。ちょっとズルさせて下さいな?』 皆の頭の中に直接、涼やかな声が響き渡る。沙希のハイテレパスだ。ハイリーディングで読み取った心ちゃんとロンリーガールの意図を、仲間達へ瞬時に伝える。 「猫さんと遊んでいたかったのですけど、私が行った方がいいでしょうか?」 沙希を通じて得た情報を頼りに、アガーテが廊下を早足に進んで行く。先ほどの攻撃で麻痺しているらしいキンバレイや、回避に難のあるモニカよりも自分が行った方がいいと判断したのだ。やさしい笑みを浮かべたまま、アガーテは少女達の元へ向かう。 「ん……。居たな」 ホテルと旅館の丁度中間。渡り廊下の街灯の下、潜り込むようにして身を伏せている白猫を見つけた。お猫様だ。葛葉は、足音を殺してお猫様へと近づいていく。なるべく警戒させないよう、慎重に、だ。お猫様の存在に気付かないフリをして一旦前を通り過ぎる。万が一の場合、ホテル側へ逃げられないようにするためだ。 くるり、と葛葉が踵を返す。鋭い彼の眼差しがお猫様を捉えた。その瞬間。 「にゃァぉ」 綺麗な声で一鳴。お猫様の姿はすぅぅ、っと透明になって消えたのだった。どうやら気付かれていたようだ。おまけに、お猫様を守るように葛葉の足元へ無数の猫が這い寄ってくる。 どうしたものか、と頭を悩ませていると後続の彩花たちが旅館からこちらへやってきた。 「見事な手品ですけど、残念ながら私には通用しませんよ!」 子猫を抱いたままの彩花の視線が、ある1点を捉えた。消えた時と同じように、突然そこに白猫が現れる。幻想殺し。驚いたような顔をしながらも、お猫様は素早く壁を駆けあがっていく。壁から天井へ、天井からどこかへ逃げていくつもりなのだろう。 「天井裏から外へ出ることができます! 捕まえてください」 半ば猫に埋もれた状態でそう叫ぶのは紫月だった。必死に逃れようとするが、上手くいかない。猫の数が多いのだ。紫月同様、陽菜も猫に埋もれているがこちらは実に幸せそうだった。 千里眼と、予め記憶していた施設の地図を照らし合わせた結果、このまま逃がすのは得策ではない、と判断した紫月。身動きが取れない彼女の代わりに、葛葉が面接着で壁に張り付き、お猫様へと飛びかかった。 「戦闘一辺倒ではない所をみせておかねばな」 葛葉とお猫様が空中で交差する。天井を蹴って、床に 着地する葛葉。その腕の中には、じたばたともがく、美しい毛並みの白猫が居た。鋭い爪が、葛葉の頬に引っ掻き傷を作る。 異世界から来た猫の女王、確保完了である。 「あー、ねぇ。アタシの事覚えてる? ちょっとお願いがあるんだけど、話しを聞いて貰えるかなぁ?」 「うにゃァ」 体中に猫をくっつけたまま、陽菜はお猫様の喉を撫でる。動物会話を活用して、お猫様に語りかける陽菜。そんな彼女を後押しするように、陽菜の頭上でチャチャが鳴き声をあげる。 葛葉の腕の中で暴れ続けるお猫様だったが、その動きがピタリと止まった。不思議そうな顔をしながらも、お猫様は陽菜の「お願い」に耳を傾けるのであった。 「あの、何か探してらっしゃるの?」 沙希の指示で静かに少女達の傍へ近寄り、何事もなかったかのように自然に声をかける。アガーテに声をかけられた少女達は、一瞬僅かに身を強張らせたが、アガーテに敵意がなく、また当然飛びかかってきたりもしないことを察すると、僅かながら警戒を解いた。 とはいえ、完全に信用してはいないのか。ロンリーガールは、心ちゃんを庇うように前へ出る。それを見て、困ったように笑うアガーテ。 その時、アガーテの後ろから他の仲間達が追いついてきた。 「お姉ちゃん達、誰?」 『なんだか、普通じゃない感じがするね。なにしに来たの?』 そう訊ねる少女達。さて、どう答えようか、とアガーテは悩む。ちなみに、先ほど2人へ飛びかかっていったキンバレイは、現在モニカによって抑えられていた。 アガーテが口を開こうとした、その時だ。 「君達か!? 廊下で暴れているのは!」 「子供が走りまわっている音がすると連絡があった。子供が多いようだが、どの部屋の客だい?」 声をかけてきたのは警備員だ。その視線は、今この場に居る中で一番年上に見える沙希へと向いている。警備員の1人が、手近にいた心ちゃんへと手を伸ばした。 次の瞬間、警備員2人の体がその場に倒れた。僅かな寝息。ロンリーガールの持つ、他者を眠らせる能力の影響だろう。倒れた警備員に、一同の意識が向いた。その一瞬の隙をついてロンリーガールは動いた。 周囲のロッカーや花瓶、椅子やテーブル、ソファーなどが宙を舞う。ポルターガイスト。突然の出来事に、悲鳴をあげて心ちゃんがその場に蹲った。高速で飛びまわる家具が、リベリスタ達を襲う。 「う、っく」 家具が、アガーテとキンバレイの2人を捉えた。咄嗟に、警備員を庇った2人は家具に押しつぶされる形で廊下に倒れる。怪我をしたのか、廊下に血が飛び散った。 「は、はんにんは……」 血文字を床に記すキンバレイ。余裕のある行動とは裏腹に、キンバレイとアガーテは額や肩から血を流している。そんな2人を助けたくとも、近づけないモニカと沙希。 窓ガラスを砕き、壁を抉りながらも家具はまだ飛びまわっている。 『……お裾わけ、よ』 飛んできたソファーを回避し、沙希は空中に魔方陣を描く。魔方陣から溢れた光が、キンバレイとアガーテを包み、その傷を癒す。頭を抱えて蹲っている心ちゃんには、現在何が起きているのか理解できていないのだろう。 『遊んでいるのよ。大人はどこかへ行っててよ』 ポルターガイストの勢いが増した。めちゃくちゃに暴れまわる家具。まるで台風のようだ。その中の1つ、花瓶が天井のシャンデリアに当たって、シャンデリアが砕けた。降り注ぐ大量のガラス片。キラキラと光りを反射させながら、ガラス片が心ちゃんへと降り注ぐ。 「危ないです」 それを庇ったのは、モニカだった。身を呈して、ガラス片から心ちゃんを守る。身体中にガラスが突き刺さり、血が流れている。ポルターガイストが止んで、家具は全て廊下に落ちた。 『あ……あぁ』 友達を危険な目に合わせてしまい、震えて青ざめるロンリーガール。全身に傷を負いながらも、モニカは相変わらずの無表情で泣いている心ちゃんの頭を撫でる。 「戦う元気があるなら寂しさも少しは紛れるでしょう。所で、1つ提案があるのですが」 ロンリーガールに向かって、モニカは告げる。彼女の手にはAFが握られていた。つい今し方、お猫様を捕獲した、と彩花から連絡が入ったのである。 ●猫と少女 「猫探してるの? どこにいるんだろーねー? あ、お菓子あるけど食べる?」 キンバレイの明るい声。オドオドとした様子でそれに応じる心ちゃんと、未だわずかに警戒しているロンリーガール。けれどもう、攻撃をしかけるつもりはないようだ。キンバレイの持っているお菓子にそっと手を伸ばす。 ぞろぞろと元来た道を戻っていく一同。いつの間にか、さきほどまでいた無数の猫達は居なくなっている。 「えぇ、はい。では……」 AFを使ってどこかと連絡を取っているモニカ。列の最後尾を進む。 そして辿り着いた旅館の手前で、一同はソレに遭う。 「見つけた!」 『どっちが先に捕まえるか、勝負ね』 廊下の真ん中に座して、こちらを見つめる1匹の美しい猫。背後に無数の猫を従え、余裕に満ちた眼差しで少女達を眺めている。少女達が駆けだしたのを見て、お猫様もまた走りだした。正面から少女達を掻い潜るつもりなのだろうか。真っすぐ、こちらへと向かって走ってくる。 「えい!」 真っ先に飛び出したのはキンバレイだった。腕を伸ばしてお猫様を捕まえようとする。お猫様は、するりとその手を回避すると、キンバレイの頭を踏み台にして飛び上がった。 綺麗なポーズで宙を舞うお猫様。その落下地点に駆け込む心ちゃんとロンリーガール。落ちて来るお猫様へと目一杯手を伸ばした。 「捕まえたっ!」 そして、お猫様をキャッチしたのは、心ちゃんの方だった。 『……これは』 お猫様を抱きしめる心ちゃんを見ながら、ロンリーガールは首を傾げた。ロンリーガールの体が、足元から順に消えて行っている。どうやら満足したらしい。寂しいという想いから生まれた少女は、たった今、その想いから解放された。 「どうしたの?」 不思議そうに首を傾げる心ちゃん。なんでもないよ、とロンリーガールはその頬を撫でる。途端、心ちゃんの眼がとろんと垂れて、眠りに付いた。 「あれ? ……もっと、遊びたい……のに」 薄れゆく意識の中で、心ちゃんはそんなことを口にした。どことなく名残惜しそうな笑顔で、ロンリーガールは心ちゃんを見つめる。 『私も、遊んでいたかったけど。さようなら。私の友達』 ロンリーガールの姿が消える。まるで、初めからそこには誰もいなかったように、影も形もなく。少女・心ちゃんだけを置いて、消え去ってしまった。「寂しいですね」とキンバレイは呟く。 「彼女には、ロンリーガールのこと覚えていてあげて欲しいですね」 物影から姿を現す紫月。その後ろには、他のお猫様捜索班のメンバーも居る。陽菜がお猫様に頼んだのだ。少女達に掴まってくれるように、と。お猫様はその願いを聞き入れた。 「綺麗な毛並みですのね」 「もう迷い込んで来るのではないぞ」 お猫様を撫でるアガーテと、それを見ながら注意を促す葛葉。ロンリーガールは消えて、後はお猫様を送り返すだけだ。名残惜しそうに陽菜はお猫様を見つめていた。 「にゃァお」 紫月の腕の中で、お猫様が鳴き声を上げる。その声を合図に、集まっていた猫達は皆、施設を後にし始めた。どういうわけか、猫たちは彩花を避けて通る。はァ、とため息をこぼす彩花。しかし、ただ1匹、彩花に抱かれたままだった灰色子猫だけは帰って行かず、彩花の手から抜け出して陽菜の足元にじゃれついている。 「うにゃァぉ」 お猫様との別れを惜しむ陽菜を慰めるように、子猫は彼女の足首を舐める。お猫様も、陽菜の元へと近寄っていった。 『ふふ……。懐かれていますね』 子猫とお猫様、愛猫のチャチャと戯れる陽菜の様子を、沙希はそっとスケッチブックに描くのだった……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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