●小さな友達 あるところにとても引っ込み思案な少女がいた。知らない人に話しかけられると真っ先に母親の後ろに隠れてしまうような、そんな性格。しかも生まれつき吃音気味であり、それもあってかますます少女は引っ込み思案になった。 それは彼女が小学生になっても改善されることはなく、友達も出来なかった。初めは機を遣って話しかけてくれるクラスメイトも、すぐに彼女の暗い性格に嫌気がさすのか離れていく。両親はそんな彼女を心配した。今は実質の被害はないが、子供というものは残酷だ。仲間外れにされたり、いやな思いをさせられる。そんな災難がいとしいわが子に降りかかる気がした。 「ともちゃん、お友達作らないの?」 「いいもん。この子がいるから」 母親が案じると、少女はぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。それは幼稚園のころからずっと片時も離さず持っているくまのぬいぐるみ。少女の三歳の誕生日に買い与えたものだ。いくども抱き締められてよれよれになったそれを、少女は撫でる。アイちゃんと名付けられたそれが、彼女の一番の友達だった。 「アイちゃんがいるから寂しくないもん」 母親はひとつ大きな溜息を吐いた。 ある日、母親が危惧していたことが起きた。少女がただいまのあいさつも言わず家のドアを開けたからだ。 「どうしたの? ただいまは?」 そう尋ねても少女は顔を伏せて何も言わない。いやな予感を覚えつつその顔を覗き込むと、大きな瞳に涙をいっぱいに溜めていた。 「ともちゃん……」 少女は何も言うことなく、自分の部屋に閉じこもった。たくさんのぬいぐるみたちが、彼女の友人だ。そして一番の友達を抱きしめる。少女の涙を吸って、くまのぬいぐるみは重くなる。そんな時かすかな声が少女の耳に届いた。 「ナカナイデ……」 「えっ?!」 「ボクガナントカシテアゲルヨ」 ●危険な安全毛布 小さなお友達というのは、かつては誰にでも存在していた。いわゆる安全毛布というものであったり、特別お気に入りの人形だったりする。スライドに映し出された少女。年の頃は6、7歳だろう。今回のターゲットは少女の小さなお友達なのだと、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は説明した。 「この子は佐伯友子。少女は小学校で孤立している。それは彼女が人見知りで、少し吃音気味だから」 吃音というのは辛い病気だ。言葉がつっかえるというのはコミュニケーションが充分に出来ないということになるし、それで好奇の目を向けられることもある。そして原因は未だはっきりしていないから絶対的な治療法もないのだ。 「少女は今イジメを受けている。今は心ない悪口を言われる程度だったのだけれどそれはますます激しくなって、同級生から暴力を受けるようになるわ。そして、報復ももっとひどくなるの」 「報復?」 リベリスタが疑問の声を上げると、イヴは彼女が抱いている熊のぬいぐるみを指さした。 「彼女がかわいがっている熊のぬいぐるみ。覚醒因子と結びついて彼女の守護者になったの。そして彼女を守るために、そのいじめっ子達に報復をする。はじめは忠告だったそれがヒートアップしてしまいにはいじめっ子を殺してしまうのよ」 イヴは自らの能力で得た情報を、苦々しそうに語る。かわいそうな少女を守ろうとして結果的に世界に悪影響を与える小さなお友達を裁かなければならない。それがリベリスタに求められる使命だ。もちろん友達を奪われた少女は痛々しく泣き叫ぶだろう。それをイヴは分かっているのか、沈鬱な表情だ。 「あまり後味はよくないだろうけれど、お願いするわね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:あじさい | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月04日(火)23:08 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●憂鬱な学校 少女は憂鬱な顔をして家の扉を閉めた。黒く長い髪は綺麗に二つに結わえられ、ブラウスにプリーツスカートはいかにも品の良い家庭の子供と言った感じだ。しかし、赤いランドセルは一年生のものとは思えないほど痛んでおり、ところどころに小さな傷が付いていた。彼女は深呼吸する。手提げ袋には、愛着があるのであろう、くたくたになったくまのぬいぐるみが顔を出していた。 「ダイジョウブ、トモチャン。ワルイコハボクガオシオキシテアゲルカラ」 くまのぬいぐるみがそう囁くと、彼女は重い一歩を踏み出した。 事件が起るまで、まだ時間がある。しかし、被害を防ぐためにもはじめからターゲットを監視しておくのが無難である。その考えのもとでリベリスタ達は、彼女の登校から下校までを見守ることにしたのだった。 「いかにも気の弱そうな少女だな」 『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)は今回の守るべき対象、佐伯友子の姿を見てそう称した。外見と中身がまるきり同じだ。卑屈な心が、顔にまで現れている。 アークから派遣されたリベリスタ達は各々違った感想を述べる。 「……やさしいぬいぐるみなのだ」 『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)はそう呟いた。百獣の王の名を冠する少女は、その名前に似つかわない優しい心を持っている。野獣の獰猛さとかけ離れた柔らかい心は、純粋に一人の幼女を案じた。 「そのあたたかい思いが、世界の理に触れてしまうなんてとても悲しいことだ」 ぼやいてもどうにもならない思いだったが、それでも彼女は呟かずにはいられない。リベリスタであればこのような理不尽な出来事には幾度も遭遇するだろう。しかし未だに彼女の心は柔らかいままだ。 「でも、かわいそうというだけじゃ解決しないわ。だからこそ、護りたかったのでしょうね」 『運び屋わたこ』綿雪・スピカ(BNE001104)はそっと少女を窺う。確かに結唯の言う通り、気弱そうで冴えない少女だ。思わず守ってやりたくなる気持ちもわかる。 「アハ、でも世界の法則に例外はないのデスヨ」 場にそぐわない軽快な声ははずんでいた。『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)はけたけたと笑う。それは高笑いとなって、耳に響いた。しかし誰も反論はしなかった。耳触りな少女の言葉は、痛烈な真実だ。その場にいたリベリスタの誰もがそれを分かっていたからこそ、それをたしなめることが出来なかったのだ。 「世界の法則、何者もそれを破ることはできないのデスヨ、アハハハハ」 午後の授業の終わりを告げるチャイムが響く。校門の前から出てきたのは、家から出てきた時とは違う少女の姿だった。 「酷いな……」 『red fang』レン・カークランド(BNE002194)はそう忌々しげに吐き出した。家から出た時には母親に綺麗に二つに結わえられていた黒く長い髪。それが見るも無残に皺くちゃになっている。心なしか服にも皺が目立つような気がした。 「いじめてる側は気付いていないんだろうな……」 いじめる側にとっては遊びでも、いじめられる側にとっては命がけだ。一人の人の心を壊すことを、なんとも思わない。それが少女の様子から間違いないことを悟る。自分が人を傷つけている。それに気づかないのはとても悲しいことで、残酷なことだ。 レンは複雑な心情で少女を見守る。命をないがしろにした少年達が、命を奪われようとする未来がやってくる。しかし命を奪ってはいけないのはどちらも同じだ。 『樹海の異邦人』シンシア・ノルン(BNE004349)も難しい顔をした。 「大人からすれば、いじめは大した問題出ないように考えがちだけど、子供には小さな社会しかないからね。……守って、あげなくちゃ」 痛ましい彼女の姿を目に焼き付けて、シンシアは決意した。 リベリスタ達は怪しまれない程度に距離をつめ友子達の後をつけた。いじめっ子は三人。大通りでは少年達はおとなしく、これといった変化はなかった。しかし人気のない通学路に差しかかった瞬間、一人の少年が行動を起こす。 「おい! 今日も先生にしかられたな!」 「あんな簡単な教科書も読めないのかよ! もしかしてお前、字が読めないんじゃないのか」 心ない罵声を浴びせた瞬間、少年達からどっと笑いが起きる。シンシアは憤った。 「なんてひどいことを言うの?!」 雷音も露骨に顔を歪める。彼女もまた、言葉を人に伝えるのが不得手だからだ。 「本当なのだ……、あんまりなのだ」 友子は吃音だ。いきなり当てられれば言葉がつかえるのは、想像に難くない。それをからかって楽しんでいるのだ。友子は何も言わない。おそらく、言葉が出てこないのだろう。 「おい、何か言えよ!」 少年が石を投げつける。それが彼女の額に当たった瞬間、何かが垂れてきた。彼女は恐る恐る額を触る。生ぬるい感覚が手のひらに伝わった。 ――血だ。 痛みを認識する前に呆然としてしまう友子を余所に、いじめっ子たちが一瞬ひるむ。やりすぎたと、そう思ったのだろう。しかし、それを後悔するには遅すぎた。彼女の手提げ袋から、顔をのぞかせるくまの瞳があやしく光り出す。 「――トモチャンヲイヂメタナ」 ぬいぐるみ特有の無機質な表情で少年達を見下ろすぬいぐるみは、もはや慈愛に満ちた守護者の表情ではない。大切なものを傷つけられた憎悪と殺意が湧き出ていた。 「ユルサナイユルサナイユルサナイ」 くまはゆっくりと少年達の顔を見詰める。 「ヒトリ、フタリ、サンニン……。コレデゼンブ」 そして一人一人の顔を確認した。愛する友人を傷つけた仕返しをするために。 「――まずい!」 物陰から窺っていた三影 久(BNE004524)はただならぬ雰囲気を察知し、飛び出す。仲間達もそれに続いた。 ●守るべきもの 「ユルサナイユルサナイ」 手提げ袋から姿を現したぬいぐるみは標的に飛び掛かろうと迫ってくる。少年の目の前まで迫るそれを光の矢が貫いた。続いて華奢な少女が操る巨大な包丁が容赦なく凶暴な守護者の筆頭を叩ききる。 「アハ、叩き潰しマスヨ!」 戦いに頬を紅潮させながら、行方は包丁を振り回す。異様な光景に子供たちは息をのんだ。 「おい、逃げるぞ!」 久はそう友子と少年達に声を掛けるが、誰ひとりその場から動けない。恐怖でへたり込んでしまっている。 「アイ、ちゃん……?」 友子は困惑していた。いきなり凶暴化した自分のぬいぐるみ。恐ろしさのあまり動けないいじめっ子達。そしてどこからか現れた得体の知れない大人。幼い彼女を恐怖させ、困惑させるには充分すぎる。 「アイちゃん、やめて!」 「ダメダヨ」 「え?」 いつも彼女に寄り添っていたやさしい親友は、彼女の懇願を聞き入れない。 「アイチャンヲイジメタヤツラ、ユルセナイ」 回りを飛び交う人形も無邪気な声でくすくすと笑った。それは強者が弱者をいたぶる時の笑顔。それは少年達が幾度も友子に向けていたであろうものだ。 「そ、そんな……」 愕然とする友子をよそに、かつての彼女の守護者たちは少年達に向き直る。 「チッ! おい、そっち頼むぞ」 友子といじめっ子を抱える。一刻も早く危険からのがれさせなければならない。かよわい少女を複数で苛めていた餓鬼を助けるなど胸糞悪いが、それでも助けられる命を見棄てることはリベリスタとしてあってはならない。 友子は久の腰に帯びた剣を見て縋り付いた。 「お、お兄さん、アイちゃんのこと、どうするの?」 久は答えない。その冷たい精悍な横顔に少女の不安は大きくなっていく。 「いじめないよね?! ね?!」 「……悪いな」 必死に縋りつく少女に、久はそれだけ告げる。 生意気な子供を乱暴に地面に投げた。もともとこいつらが少女に手を出さなければ子の様な事態は避けられたのだ。釈然としない思いを抱きながらも、久は使命を果たさねばならない。しかしただ守るのは違う。それではあのぬいぐるみは無駄死にだ。少年達には、自分達がしでかしたことを思い知らせる必要がある。 「おい」 そう呼びかけると、少年達は情けなく肩を震わせた。 「そこで見ていろ……、てめぇらはその義務がある」 久は剣を抜き、駆けた。『黒魔女』霧島 深紅(BNE004297)はそんな少年達の顔を見下ろす。 「安心して、僕はちょっとした正義のヒーローというやつさ」 彼女は運命に愛された証の羽を軽く羽ばたかせた。純粋な子供なら多少は信頼を得ることが出来るだろう。 「大丈夫、守ってあげるからね」 安心するように言い聞かせ、彼女もまたぬいぐるみ達の相手をするために駆けた。 一堂に会したリベリスタは、アイちゃんの前に立ちはだかる。ぬいぐるみはうめき声を上げた。 「ドウシテジャマスルノ? ジャマスルナラコウダ!」 くまのぬいぐるみを中心にして、幼い少女の友人達がリベリスタ達に飛びかかる。長年虐げられてきた少女の理解者達は、目的を遂行するために全力を注ぐ。 「ふん、所詮はぬいぐるみか」 結唯はそう吐き捨てる。ぬいぐるみが気に障ったのか振り向いた。 「ナンダッテ?」 「私はお前に興味はない。お前が守ろうとする少女にもだ。しかし、幼い子供には道標も必要だ」 結唯は剣を構える。ぬいぐるみは彼女の道標なり得るか。それは否だ。彼女が一人で生きるために必要なのは、復讐ではない。彼女自身が変わらなければ何も変わらない。 「お前の少女に、少々説かせてもらおうか」 「……ナニモシラナイクセニ!!」 くまから衝撃波のようなものが発生する。やがてそれは大きな渦となり、リベリスタ達に襲い掛かった。 それが身体を通り抜けると同時に、頭に鋭い痛みが走る。それは虐げられてきた少女の記憶。 胸を裂くような痛みにも、行方はにやりと笑った。 「だからなんだというのデス?」 彼女は全身の気を武器に注ぐ。どのような悲痛な叫びも、彼女の足を止める理由にはならない。所詮、他人の思いだ。それを行方に理解することはできない。その思いを振り払い、彼女は鈍く、重い一撃を弱者の代弁者を語るくまに放った。 「所詮は、他人の気持ちなのデス」 ぬいぐるみは綿をむき出し、まるで人のように叫ぶ。周りの仲間が倒れていく様子を横目で見ながら、なおもくまはあがいた。 「アアア……、トモチャンヲ…、イジメルナ!」 深紅はその声に耳を澄ませる。 「……優しいね、少女の為に命を吹き込まれた、優しい人形達だ」 しかし深紅は銃を構える。 「けれども、君達がいるとトモちゃんのためにならない。どうか、それをわかってはくれないか」 彼女の銃弾はかわいらしい人形を打ち抜く。甲高い悲鳴が辺りに響いた。その悲鳴に、少年達の顔が歪む。そうすると、くまのぬいぐるみは綿と布きれになって散らばった。 ●少女の未来 「あーあ、バラバラになっちゃいマシタネ!」 行方はまるで物語に出てくる意地悪な義姉のように笑った。そうして彼女は悪役を演じる。それは不器用な彼女の気遣いであることを、仲間たちはすでに見抜いている。倒錯を愛し、暴力を愛する異常な彼女の常識的な気遣いだった。 「じゃあボクは帰りマスネ」 バラバラになったぬいぐるみは、地面に音もなく横たわる。少女は駆けていき涙をうかべた。その後ろでは気まずそうな少年達が顔を見合わせている。そして音もなく逃げようとした少年達に結唯が立ちふさがる。 「どこへいく。お前達も拾え」 結唯はあちらこちらに散らばったぬいぐるみを大切なものを扱う手つきで拾い上げた。それを手伝いもせずに見詰める少年達に久は言い放った。 「怖い思いをしただろうが、それは今までお前達がこの子に与えていた痛みだ」 少年達の顔には未だ恐怖が色濃く残っている。強い者にいたぶられる理不尽さを思い知った弱者の顔だ。それは先ほどまでの少女の顔。少年達は震えながら少女を見た。 「おまえが! おまえがあの化け物に頼んだんだろ! 生意気だ!!」 「そうだ! おまえが大人しくしてればあんなことにはならなかったんだ!」 この期に及んでも少女を責め立てる少年達に、スピカは声を荒げた。 「いい加減にしなさい! この子たちをここまで追い込んだのは、間違いなくあなたたちなのよ?」 ぼろぼろのランドセル、そこから覗く破られた教科書。少女に与えられた理不尽な暴力の片鱗。このままエスカレートしていたらどうなっていただろう。彼女は学校という場から逃げるか、さもなくば今以上に被害が大きくなっていたに違いない。 レンはくまの願いを思い出す。ずっと見詰め続けた友人としての願いだった。傍らで微笑む少女。その笑顔を曇らせたくない一心で彼女を守りたいと望んだこと。少年達が化け物と罵ったそのぬいぐるみは、人間よりも遥かに優しい心を持っていた。 レンにはそれが分かる。そしてそのぬいぐるみたちが守ろうとした友子もまた、ただの弱い存在ではないのだということを。彼女は自分の危険を承知で友人を庇った。本当の臆病ものがそのような行為をできるはずがない。あのぬいぐるみは図らずとも彼女に成長するきっかけをくれたのかもしれない。 「トモ、顔を上げて」 むせび泣く彼女の伏せた頭を撫でてやる。 「トモ、大丈夫。キミは強い子だ」 絶え間ない泣き声が途切れ、友子はレンの顔を見詰めた。 「わたしが、強い子?」 レンはそう問いかける友子に大きく頷いた。少女の友人の亡骸はシンシアに託される。 スピカは裁縫道具を手に持ちながらぼろぼろに破れたぬいぐるみを受け取った。もうこのぬいぐるみは喋ることはないけれど。それでもせめて思い出までは綻んでしまわないように。 スピカは針に糸を通し、破れた縫い目を繕い始めた。 「ねぇ、トモちゃん。アイちゃんも、貴女の大事なお友達だけど、貴女には、もっと沢山のお友達が必要なの。この子は一緒に居てはくれるけど、お話したり遊んだりできないでしょ?」 人は一人では生きていけない。スピカはそれを知っている。それは友子も同じことだ。彼女には、人間の友達が必要だ。そうすれば、このぬいぐるみも喜んでくれるだろう。 「ね?」 スピカは友子を促す。少年達は未だ気まずそうに顔を伏せたままだ。友子も忌まわしい記憶がよみがえるのか、後ずさりした。 「……また逃げるのか?」 結唯は友子の肩を掴む。 「ひっ?!」 「お前は友人が欲しいのだろう? ぬいぐるみではなく、人間の。何かが欲しいと願うのに行動せず誰かの助けを待つのはただの卑怯だ」 結唯は横目でスピカが修理するぬいぐるみを見詰める。 「もう一度、聞こう。お前は人間の友達が欲しいのだろう?」 ここで行動出来ないのならば、友子は一生行動出来ない。結唯は耳を澄ませて少女の声を待った。 「ほ、ほしい、です。アイちゃん達を、安心させるためにももう大丈夫ってこと、わたしが見せないといけない。わたしは大丈夫だよって、言いたいから」 結唯は少女の言葉に満足気に頷いた。 「よし」 少女はようやく、自分の意見を人に伝えることが出来た。シンシアはそれを見て安堵の息を吐く。次は、いじめっ子達だ。 「ねえ、君達? 何か言うことがあるんじゃない?」 子供は自分の気持ちに正直だ。よくいえば無邪気だが、しかしその素直さは時には人を傷つける凶器になる。今の状況がそうだ。友子は人と関わることが不得手だった。そして彼女には言葉が出にくいということも、いじめっ子たちを加速させたのだろう。自分達と違う、自分達と違うもの。それを彼らは本能的に悟って、友子をいじめの対象にしたのだ。しかしそれは間違いだ。自分と違うからといって、それを否定するということは誰であっても許されることではないのだ。 怒りが拳を震わせる。軽くげんこつしておいてもいいだろう。生意気な頭に一発ほど殴ろうと歩み寄ると、久が雰囲気を察したのかそれを阻んだ。 「よせ」 「……仕方ないわね。せめてお説教くらいならいいよね?」 シンシアは語る。先ほどの恐怖が、自分達が友子に与えていた恐怖だと。そしてどれほど彼女の心を傷つけていたか想像しろ。その気持ちを思い知って初めて、その謝罪には意味が籠る。少年達は神妙な顔をしてそれを聞いていた。もう余計な口を聞く者はだれもいなかった。 「トモちゃんに、謝れるよね?」 「……ごめんなさい」 「ちゃんとトモちゃんの顔を見る!」 「ごめんなさい!」 綺麗に三つの頭を下げる。 「どう、許してあげられる? それはトモちゃんが決めることよ」 友子はぎゅっと目を閉じる。今までされたことを思えば到底許し難いだろう。そしてこのような出来事を引き起こしてしまった少年たちも、今更何をどうすればいいのか分からない。互いに相手の目を見ずに、何を伝えればいいか戸惑っている。 「てめぇら、頭上げろ……。見下ろしたり、俯いたり……、てめぇらは、人と話すときに下を向き過ぎだ。大きくなれねぇぞ」 久はそう静かに語る。その言葉が響いたのか、子供達は顔を上げた。見つめ合ってもう一度、少年達は謝る。友子は今度はしっかりと顔を見て答えた。 「……うん、もういいよ」 スピカが縫製を終えたぬいぐるみを、そっと彼女に手渡す。彼女は決意と共に、もう喋らない友達を抱きしめた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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