●自殺の名所 海に突き出たの崖は高く、寄せては砕ける波も上まではけっして届くことはなかった。 下から見上げれば、7、8階建てのビルほどの高さもある崖である。 しかも長い年月のうちに根元のほうは削れており、側面から見ればちょうど船の舳先のような形状をしている。 立ち入り禁止の札が立つ後ろに張られた杭と縄には乗り越えた痕跡がある。 必然であるかのように、ここは自殺の名所と呼ばれているのだった。 そして、今日もまた1人……。 なにかに誘われるように、少女は海へと突き出した崖へ近づいていっていた。 いや、事実、誘われているのだ。 死者の後悔と、恐怖と、絶望と、怒りが蓄積したエリューション・フォースによって。 心弱き者に死を決断させる空気が崖を中心に広まり、そして誘われるように自殺した者の思念によってフォースはさらに強化される。 終わることなき負の連鎖がこの地で起こっていると察知したのは、アークが誇る万華鏡であった。 ●崖崩れ ギルベルト・ホーデンシャッツは誇り高きアーリア人の証たる金髪と碧眼を備えた偉丈夫である。 彼は自らの配下を率い、自殺の名所と呼ばれる崖を目指していた。 海に突き出した部分は草原であるが、その手前にはまばらながらも森が広がっている。 神秘の力で気配を遮断した『親衛隊』の精鋭たちが隠れるには十分であった。 「……日本のフィクサードから得た情報のどおりだな」 崖の突端では、すでにアークのリベリスタたちが自殺しようとした少女を守りながら4体のエリューションと戦っている。 隠密が可能なエリアから戦場までの距離はおよそ30mほどか。 「自ら命を絶つ軟弱者をわざわざ救うとは、アークとやらは聞きしに勝るお人よしの集団ですね」 「まったくだ。だが侮るな、グスタフ。ジャック・ザ・リパーやケイオスの轍を踏むことになるぞ。それに……同胞を売った主流七派とやらよりは敬意を払うに値する戦士だろう」 呟いた部下をギルベルトは小声で叱責する。 「無論です、隊長殿。崖下のゲープハルト隊も位置につきました」 「精神的な影響は無効化する準備をしてきているな。エリューションの攻撃は無視しろ。……それと、敵をまとめて無力化するお前の『切り札』は、いつでも使えるよう準備しておけ」 大きく息を吸い込む。 「ギルベルト隊、突撃せよ!」 号令一下、『親衛隊』は隠れていた木立の影から飛び出した。 ●突然の襲撃 傾きかけた太陽の下、リベリスタたちはエリューションとの戦いを始めたばかりであった。 事前に聞いていたとおり、敵は4体。 それぞれの名に象徴される表情を持った、半透明な人間という姿をしている。 『後悔』の呟きは近くにいた者全員に凶運をもたらす。 『恐怖』に抱きつかれれば呪いを受けてしまう。 『絶望』があげる金切り声は周囲全体に響き、聞く者を混乱させる。 『怒り』が放つ拳は遠くまで伸び、殴られた者の攻撃を誘う。 侮れない敵だが、リベリスタたちならば互角以上には戦える。 けれど、背後から現れた新たなる敵の存在が戦いの行く末をわからなくした。 『どうしてフィクサードがこんなところにいるんだ?』 誰かが驚愕の声を上げた。 敵の数は4。 クロスイージスらしき男が2人、大振りな槍と銃を構えて前進してくる。 前衛を盾に近づいてくる後衛の2人はどうやらスターサジタリーとレイザータクト。 号令を出した筋骨隆々のサジタリーは、レイザータクトをかばうようにして重火器を構えていた。 『下からも来る!』 気づいたのは誰であったか。 20mほどある崖を駆け上ってくるフィクサードがさらに3人。 おそらく2人は動きからしてナイトクリークであろう。コンバットナイフを手にしている。 そして、少し遅れてついてくる最後の1人は魔術書を手にしている。支援役のホーリーメイガスのようだ。 フィクサードとエリューション、2種類の敵が同時にリベリスタたちに襲いかかった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:青葉桂都 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月02日(日)23:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●強襲! リベリスタたちの背後から襲撃をかけてきた敵に、最初に気づいたのは『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)だった。 「気をつけて! 後ろから誰か来てるわ!」 直感で察知した彼女は千里眼で敵を確認しようとする。 だが、それよりも早く敵は動き出していた。 恵梨香の警告で不意打ちは避けられたものの、戦いのために準備する時間は無論ない。 目に映るのは鈎十字の軍服。いまだ虚実織り交ぜて語り継がれる、かの悪名高き大戦の亡霊たち。 「ああクソが忙しいってのに! どこの誰だってんだ、ええ!?」 顔を隠すためにつけているガスマスクの下から不機嫌に言い放ったのは、『ヤクザの用心棒』藤倉隆明(BNE003933)だった。 握りがナックルダスターのような拳銃を構えて、今にもエリューションへと殴りかかろうとしていたところだ。 「フィクサードの奇襲か! こんな時に……」 クロスイージスである『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)はとっさに後衛の仲間の1人をかばっていた。 「任務中、それも交戦中を狙ってくるとは……!」 『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740)が歯噛みする。 「崖下にも敵がいる」 駆け上がってくる敵を即座に発見したのは、鷹と視界を共有していた『生還者』酒呑”L”雷慈慟(BNE002371)だ。 雷慈慟は襲ってくるフィクサードの集団へ不敵に笑う。 「良くぞ我々を狙ってくれた。訓練されているのは我々も同様。世界に仇成す敵対者を駆逐する」 手をかざして9枚の鉄板を制御し、親衛隊の側へ向ける。 「奴らの陣形を崩すぞ! タイミングを合わせて突破しろ!」 仲間たちに声をかける。 「了解したでござる!」 『家族想いの破壊者』鬼蔭虎鐵(BNE000034)が雷慈慟の動きを待ち構える。 意識を合わせ、連係を取るのは戦いにおいて重要なことだ。 しかし、リベリスタたちは崖からの落下を危惧して林に近い位置から戦いを開始していた。 まず雷慈慟が動いてから仲間たちが動く……その算段をつけようと思えば、いかに即時動こうと考えていたとしても時間のロスが発生する。その間に、結局彼らは敵に先手を許してしまった。 レイザータクトが仲間を強化したかと思うと、と、指揮官らしき男の銃口が強力な光弾をリベリスタたち全員に降り注がせる。 さらにクロスイージスらしき敵の銃口より十字の光が放たれた。 後背から現れたナイトクリークたちも気糸を飛ばして攻撃してきていた。 快はかばった恵梨香の分もダメージを受けたがそれでもまだまだ余裕のある様子だった。 それよりも、快がかばえなかった『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の被害はかなり大きい。 「漁夫の利狙いか。合理的思考は好感が持てるな」 だが、ユーヌが痛みを表情に現すことはなかった。 追撃の十字光のうち1条も彼女に直撃するが、少女の感情を揺り動かすことはできない。 「小官の攻撃に耐えるとは、小娘の割に我慢強いようだな」 感心したような声音の奥にあるのは、女子供を見下す前時代の思想。 古臭いのは格好ばかりではない。 「……ああ、レトロだな。脳は半世紀前から進歩無しか?」 淡々とした言葉。 それを横に聞きながら雷慈慟は敵に一気に接近する。 「少し下がってもらおう!」 目に見えぬ思考の奔流が、物理的な力を伴ってフィクサードたちを押し流す。 待ち構えていた仲間たちが一気に突破する。 ユーヌが影人を召喚してエリューションの犠牲になるはずだった少女をかばわせる。 「全く、合理的といえばそうだけど、親衛隊と言いつつやってる事が完全にゲリラじゃない」 『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)が銀髪をなびかせてぼやきながら駆け抜ける。 「でも、あの人たちの軍服、黒くて何か恰好いいですよね。不謹慎、みたいですけど、あこがれてしまいます」 黒い髪を持った痩身の女性、街多米生佐目(BNE004013)が口の端だけを上げて笑う。 「どこで売っているんでしょうか。機会があれば、聞いておきましょう」 「悪いけど、そんな機会は来させないのだ」 言い放ったのは『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)だった。 強気な口調で言い切った雷音は分厚い魔術書を再び開き直して、氷の雨を降らせる。 仲間たちの多くは突破に成功していた。 「立て直すぞ! 攻撃は引き受ける!」 移動を妨げようとした敵を、快が逆に妨害していたのは大きな理由だろう。妨害しながら、さらに快は仲間たちに敵を殲滅する加護を与えている。 「突破されたか! 林側に回られたぞ!」 ギルベルトの大きな声が響き渡る。 動きが遅かった者たちのうち、不運にも恵梨香だけは敵が邪魔で移動できない位置にいた。 だが、佳恋の振り上げた白鳥の羽を思わす剣が邪魔なクロスイージスを弾き飛ばす。 恵梨が敵の間を抜けた。 けれどそのせいで、佳恋が取り残されてしまった。 「佳恋、君も早く行くんだ!」 快の声も届いていないかのごとく、佳恋は再び剣を振り上げる。 いや、実際、届いていないのだ。 彼女はクロスイージスの十字光によって怒りにかられて攻撃をしかけていただけなのだから。 重火器の精密な射撃が痛烈に彼女の体を穿ち、膝を突いた快れの長髪が土の上に流れた。 一瞬意識が飛ぶほどの一撃が彼女を我に返らせた。いや、意識を取り戻せたのは運命が彼女を見放していないという証か。 再び接近した雷慈慟が思考の奔流をクロスイージスに叩きつけて後退させる。 距離が離れた隙に、佳恋が一度後方の仲間たちと合流して、雷音に回復を受ける。 「緊急時の対応が無いとも想定していまい。まだ手札があるな」 鷹の目で佳恋が回復されているのを確認しながら、油断なく雷慈慟は敵を見据えていた。 ●猛攻 エリューションが近づいてくるのを、林から来たフィクサードたちは一顧だにしなかった。 ただ、ナイトクリークたちは進路を妨げられるのを嫌って一度崖へと戻ったようだ。 『絶望』がけたたましい悲鳴を上げる。 フィクサードたちとリベリスタたちを区別せず、エリューションは等しく攻撃を加えてくる。 接近戦能力しか持たない2体はリベリスタ側に攻撃することはなかったが。 「わかっているな。エリューションは無視しろ! 我々の目標は林側にいるアークだけだ!」 高らかにギルベルトの声が響く。 快は敵のクロスイージスたちが放つ十字光を真っ向から受け止める。 後方に1人残った彼を嫌ってのことか。 だが、彼の左手には理想が宿っている。誰一人奪わせはしない、決意という名の盾が防ぐ。 ギルベルトがグスタフに目配せしたのが見えた。 指で奇妙な図形を形作る。 ――瞬間。 奇妙な圧力がかかったのを快はもちろん、リベリスタたち全員が感じていた。 動けないわけではない。ただ、感じるのは圧倒的な無力感と、自らが崩壊していく感覚。 次いで光弾が連続して放たれる。 恵梨香が膝をつき、ユーヌがよろめく。他の仲間たちも浅からぬダメージを受けているようだ。 「……やはり、まだ手札があったか」 「シンプルな技ですよ。敵の力を削ぎ、守りを砕く。ただそれだけの技です。僕の『切り札』は」 単純ではあるが、ギルベルトの攻撃力が大きく強化されるのはそれだけで脅威だ。 リベリスタたちが攻撃をしかけるが十分な威力を発揮しているとは言い難い。 「だが、その攻撃では俺の守りは崩せない!」 脅威であっても、ほとんどの不利な状態を無効化する快には効果がない。破壊神のごとき戦気をまとう虎鐵もそうだ。 そして、脅威を打ち消す手段が快にはあった。 理想とともに放つのは神の光。それは味方をさいなむ奇妙な場を撃ち滅ぼす。 「そっちが鬼札なら、こっちの手札はアークの『エース』さ」 青年の胸に輝く勲章は、仲間たちがたやすく倒れることをけして許さない。 そのまま後方に残り、快は牽制と回復を注力した。 快を怒らせることができないと悟ったイージスたちは、隆明と佳恋に狙いを定めた。 いざとなればかばってはくるかもしれないが、主に攻撃をひきつけるのが彼らの役目らしい。 銃を持つ隆明は機会があれば他の敵も巻き込んで射撃を加えていたが、敵も自分だけが狙われるように立ち回ろうとしている。 残った仲間たちは可能な限りグスタフに攻撃を集める。 生佐目が漆黒の光を放つ。次いで伸びた彩歌の気糸をギルベルトが弾き、クロスイージスの1人はかわしたが、残る2人が縛り上げられる。 恵梨香は神々しい息吹が戦場に流れるのを感じた。 ホーリーメイガスらしき男が敵の背後に現れて仲間の傷を癒したのだ。彩歌の糸に縛られた2人は治っていないが、糸は同時に消え去った。 現れるまで時間がかかったのはエリューションを迂回していたからのようだ。 恵梨香は味方を巻き込まないように移動しながら、魔方陣を描いた。 魔力の砲撃がギルベルトとグスタフを貫く。 嫌な予感を感じたのは、その直後。 「ナイトクリークが仕掛けてくるよ! 気をつけて!」 エリューションを避けた上で、彼らはさらにリベリスタの左右を取るように移動していたのだ。 恵梨香や生佐目、彩歌と雷音を高速で振るわれたナイフが切り刻む。 おびただしい血が土へ吸い込まれていく。 生佐目の上体が大きくのけぞった。頭が地面につきそうなほど。 けれど彼女はそこで態勢を立て直した。ニタリと笑いかけながら身を起こす。雷音が急ぎ、彼女へと癒しの符をはりつける。 「こんな攻撃、なんともないのだ!」 雷音も必死で態勢を立て直す。 厳しい攻撃だ。 もっとも、初手からこの攻撃を受けていたことを思えば、現状はけして悪くはない。 ナイフの刃から少しなりと距離を取りながら、恵梨香は4つの魔光をグスタフへと放った。 ユーヌは符を取り出すと、それを影人に変化させた。 「時間稼ぎくらいにはなるはずだが……」 中衛に立つ彼女は、前衛と後衛を見比べる。 どちらも楽ではないが、ギルベルトの攻撃力が図抜けている分前衛のほうが厳しいか。 「いくら重火器にしても強力すぎる。ただの銃ではなさそうだな」 「否、『アイゼンフランメ』は火力をひたすら強化しただけのただの銃に過ぎん。だが、戦場において最後にものを言うのは小賢しい仕掛けでなく火力なのだ」 銃口に輝きが宿る。 スターライトキャノンを放つつもりなのだ。強力な武器による全体攻撃はリベリスタたちの体力を確実に削る。快が牽制していなければ常に撃ち続けられて、もう誰か倒れていたかもしれない。 寸前で影人を走らせた。 光の弾から影人に佳恋をかばわせる。 「ざっけんな! 銃がでけぇくらいで俺の意地まで砕けるかよ!」 「さようでござる。拙者には守りきらねばならぬ大切な家族がある」 隆明と虎鐵は火力を受けてなお立ってみせた。 「今のは致命傷になると思ったのだがな」 「寝惚けているのか? 常に前線に居たのは何も貴君等だけでも無い」 ギルベルトの言葉に雷慈慟が応じた。 ユーヌ自身も倒れそうな体を表情も変えずにどうにか支える。 「時間は稼げただろう。だが、早めに片をつけなければまずいな……」 佳恋をかばってそのまま消えた影人を見、ユーヌは再び符を手にする。 ●反撃 『切り札』による弱体化や、エリューションによる混乱や怒りを快とユーヌが回復しながら、リベリスタたちとフィクサードたちは削り合いを続けていた。 長期戦の中で雷慈慟が仲間たちと精神をリンクさせて、戦う力を回復していた。 生佐目は敵陣の状況を見て薄ら笑いを浮かべる。 「いつの間にか私に都合のイイ状況が整ってますねぇ。都合が悪いのは貴方の存在くらい」 目の前にいるナイトクリークに笑いかける。 怪訝な顔をする敵から目をそらす。 クロスイージスたちが佳恋と隆明を怒らせて攻撃をひきつけている。今しがた雷慈慟が思考の奔流で彼らとギルベルトたちの距離を離したのを追って、2人も移動してしまっていた。 おかげで今は快と虎鐵しかギルベルトたちの周囲にいない。 「ブチ撒けます――死なないでください!」 生命力が異界への扉を開く力に変わる。 異界の疫病が戦場にばら撒かれた。 それはギルベルトたち3人と『後悔』『恐怖』……そして快と虎鐵に襲いかかる。 毒を受けたグスタフが大量の血を吐いた。 「さすがにまだ倒れませんね……誇りだとか、思想だとか。私には理解できませんけれど、譲れないもの、というのは感じられます。それでも」 背後からナイトクリークが振るう刃を、彼女は三尺三寸三分の刃で受け止める。 「どれだけカッコいい服装をしても、どれだけ格好いい言葉で飾っても、やっている事はチンピラと変わりない」 刃に遅れて彼女は敵と目を合わせる。 「知っていますか、チンピラっていうのは、この国に置いては、貴方方のいう劣等種と同義語なんですよ」 生佐目はニタリと笑ってみせた。 彩歌は再び戦場を息吹が覆うのを感じた。 「回復専業の敵がいるって、本当に面倒よね」 ホーリーメイガスがいれば敵がそう感じるのかもしれないが、残念ながら今回のメンバーには1人もいなかった。 何度か気糸で縛って回復を阻害したものの、状態異常の回復手段を用意しているのは敵も同じだ。 「本職の軍隊だというのが厄介ね」 ちゃんと連携を考えてメンバーを選定しているのだろう。 ナイトクリークのナイフが彩歌を切り裂く。 息を呑んだ彼女は、足をもつれさせながら敵から距離をとった。 幸運にも倒れずに済んだが、全体攻撃に巻き込まれたりすればもう耐えられない。 前線ではギルベルトが盾になってグスタフがゲープハルトのほうへ移動しようとしている。おそらくは、彼も限界が近いのだろう。 「限界なら、狙わせてもらうわ!」 彩歌は極細の気糸を生み出す。 糸は先ほどまで自分を狙っていたナイトクリークを貫き、ギルベルトを貫き……そして、後退しようとしたグスタフと妨害している快を貫いた。 いったん倒れたグスタフは、地面を強く突いて体を起こす。 そして、快を突破することを諦めて、再びあの『切り札』を展開した。 クロスイージスたちの動きが変わった。仲間をかばうつもりか。 佳恋は移動し始めたクロスイージスの前に割って入った。 「今さらかばわせはしませんよ」 改良をくわえた白く長い剣。 白鳥の羽を思わす華麗な刃に宿っているのは殲滅の闘気だ。 振りぬいた刃が恐るべき力でイージスを吹き飛ばす。 倒れこんだ敵は、起き上がろうとしたところでよろけてそのまま崖から落ちていった。 「楽団も効率的でしたが、今回も別の意味で効率的です。知性があり優秀な敵の何と面倒なことか」 隆明は拳を硬く握り締めた。 「軍人相手は嫌なもんだぜ。指揮官が無能だったら良かったんだが……」 イージスに怒らされては快やユーヌに回復されての繰り返し。 ダメージも大きいが、それ以上に気分が悪い。 「んなわけねぇよなぁ! ああクソったれのキャベツ野郎共が! さっさとヴァルハラでもなんでも逝って伍長閣下に勲章でも強請ってろってんだ!」 移動しようとしてくれたおかげで敵が全部視界に入る。 神速で連射が、確実に敵の顔面を撃ち抜いていく。 隆明の攻撃をひきつけていたイージスだが、その代償に彼も大きなダメージを負っていた。銃撃を受けて顔を吹き飛ばされた男は、そのまま倒れていた。 「やられたか……だが、そろそろ貴様らも限界であろう!」 素早い動きで引き金を引くギルベルト。 距離をとっていた彩歌以外の全員が光にやかれる。隆明と佳恋が倒れる。ユーヌは『切り札』が放たれた時点で影人に自分をかばわせてしのいでいたが、体力に劣る恵梨香が吹き飛ぶ。 雷音は清らかなる存在へ向けて詠唱を始めた。 「やっぱり油断はできない相手なのだ。70余年の沈黙から動き出した以上、敵はアークを最大限に警戒しているのだね」 百獣の王の名を冠する彼女の内面は、本当はけして強くない。 それでもこの場では折れるわけにはいかなかった。 虎鐵は雷音の響かせた福音を身に受ける。 破壊神の戦気がそろそろ効果を失うはずだ。その前に決着をつけたい。 「どいていてもらうでござるよ!」 傷つきながらも癒し続けてくれる少女を護るためにも。 極道時代から愛用していた刀の、漆黒の刀身がギルベルトを吹き飛ばす。 「雷慈慟! 構わないから俺ごとやれ!」 快が輝きを放って、『切り札』を打ち消す。 「……運が尽きたようだな?」 グスタフの不運をユーヌが占った。 虎鐵の隣からオレンジの髪が駆け抜けていく。 「任せたでござる」 「わかった。亡者どもをいつまでものさばらせはしない」 叩きつけた思考の奔流。吹き飛んだグスタフがそのまま動かなくなった。 「これ以上の損耗はできんか……撤退する!」 ギルベルトがグスタフを、ゲープハルトが倒れたイージスを抱えて崖から飛び降りる。ナイトクリークも林へ駆け出した。 追う余力はない。 グスタフの『切り札』が残っている間に、リベリスタたちは残ったエリューションを片付けた。 「次の相手は70年もの間衰えなかった亡霊ね。だけど、私達も今まで生き延びてきた意地がある」 彩歌の言葉に仲間たちがうなづく。 死者の次は、亡霊がアークの敵だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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