● 数十年前に既に、アーリア人以外を人だと思う事は止めた。 今でも語り継がれる、有名な収容所で身に着けた己の冷酷さは今でも健在だ。逆に考えれば長い様で短い時間の中で暴れる欲望を、よく今まで抑えつけたものだと感心さえできる。 走馬灯の様に思い出す事ができる、実験。実験。実験の日々。 時には双子を繋ぎ合わせ、時には人を凍らせ、時には身体を切り離して違う身体に着けてみた。 多くの断末魔と血と薬物と死。 見飽きたと言えば見飽きたが、それでも我らが二度と敗北しないためには、まだまだまだまだまだまだまだまだ知識と力が必要なのだ。 「少佐から、ついに許可が出たんだけど? どうしますか、せーんせ?」 「ああ、そう、許可ね。でもまだ……まだ血が足りないんだ」 血塗られたその実験という行為が、いくら不愉快だとか嫌悪感を抱くのだとか医療倫理がどうのと言われようが関係無い。 「検体が欲しい。革醒者の。情報が手に入ったんだ。モルモットが集まってる場所の、ね」 「ああ、なら潰して良いし最適だね」 ――連れてこよう。この生と死の狭間の祭壇に。 ● 『こんにちは……とか悠長な事言っちゃいましたけど、急ぎの依頼なのです。あのリヒャルト・ユルゲン・アウフシュナイターがついに動き出しました……というか、七派も七派で彼等に情報を横流ししたようで……ちょっと大変な事に! 迎えを出しましたので、それに乗ってください!』 かかって来た通信。『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)の声が聞こえる。どうやら緊急の依頼の様。 『敵はリヒャルト率いる、『親衛隊』のフィクサードです。つい数時間前に出発したアークのリベリスタ達が彼等の強襲を受けています、緊急ですが、救出をお願いします。 あ、その依頼はエリューション討伐で、そちらは完了している模様です。ですが、その戦闘で怪我をされている方もちらほら居て、万全で無い状況に親衛隊が来た様です。リベリスタは八人居ましたが、内、一人だけ逃げ延びています。ですが七人が敵に囲まれている様です。逃げ延びた方が言うには『実験用』『検体』と言っていたのを聞いたというので、まだ、救出の余地はあるはずです』 ふと見れば、迎えの車らしいものが目の前で止まった。扉を開けば見知った顔が……? 「ハローキャハハハハッ!!」 マリア……来たのか。戦力としては、上々か。 『敵は総勢、八名。と数で見れば少ないですが、歴戦の手練れですので油断なさらないよう。特にこのレオン・ブラウンシュヴァイクは頭のネジの飛んだ狂人と聞いたことがあります。詳細はメールしました。 場所は廃ビル。足場は問題ありませんが暗いので、対策を。 では、一六人様のお帰りをお待ちしております!!!』 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月31日(金)23:29 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 『逃げろォ!! 茜ェ!!』 『逃げて、伝えて頂戴。頼むよ……!! きっと、きっと……』 ――きっと助けは来てくれるはずだから!!! たった一人に全てを託したリベリスタが居た。 それがどれだけ絶望に彩られた希望だったかを、泥まみれの傷だらけで逃げてきた水月・茜の涙が全てを物語っている。 「お願いです、お願いです……助けてあげて。来てくれて、ありがとう、ござ……ううっうぐううう!!」 希望を目の前にして、その涙を止まらせる事はできるものか。落ちる涙は『救えなかったらどうしよう』というものと『きっと彼等なら』という思いが入り混じる。 車から急いで降りてきた十一人のリベリスタ。その先頭に『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)は立ち、泣き止まない茜の頭を撫でた。 「お疲れ様なの、後はルメ達に任せて。絶対助けるから!」 「うっ、う、はい、はいい、はい……っ!!」 その背後から『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)は茜に退路の確保をしていて欲しいと優しい声色で言う。 「お願い致します」 丁寧に頼まれた彼女の言葉に、茜は頷く。 両手で顔を抑えて無く少女を置いて、十人は走り出した――。 「キャハハハハハハハハハ!!!!」 ――その後ろを着いて飛んでいく『クレイジーマリア』マリア・ベルーシュ(nBNE000211)。 「オレたちの仲間を助けるのに力を貸してほしい。頼りにさせてもらうぞ、ベル」 『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 風斗(BNE001434)はAFのスイッチを入れながら、マリアの方を見た。上機嫌に、饒舌が止まらない彼女は非常に楽しそうでいて。 「風斗が言うなら、そうね、いいわよ。でもなぁに、これぇ? 正義の味方! 素敵ねぇ……嫌いじゃあないわ!!」 「うまくいったら、何か奢ってやるからな!」 「それ、忘れるんじゃないわよ」 だが力で全て解決してきたマリアは些か思考が浅はか。それを知ってるからか、『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)はあえて言うのだ。 「無理をしないでね、マリアさん、相手は狡猾よ。何が狙いか読み切れない」 マリアに何かあれば彼女が悲しむから、と。糾華は六枚羽のエンジェの事を思う。 「そうなの。今回もよろしくだけど無茶は禁物なの」 糾華に続いてルーメリアもマリアの心配をしていた。キレやすく、周りが見えなくなるのは彼女のネガティブな部分だ。ミスはできない今回の依頼で、マリアの暴走は大きな足かせに成りうるのもチラついている。 「うん……ま、そう。解った」 あれ、意外と素直。コーポで重ねた会話による信頼形成は役に立ったと見える。 さあ、それでは準備は良いだろうか。 新たな敵が箱舟に牙を剥いたのだ。だが此方も磨がれた牙は守るための鋭さを持ち合わせているのだ。 負けない。 屈しない。 絶対に救って見せる。 その思いが尽きない限り、箱舟の住人は奔る事を止めない。 「マリア、あの時代遅れの老犬部隊に思い知らせてやりな。何に手を出したかってな!」 『ザミエルの弾丸』坂本 瀬恋(BNE002749)は咆哮す。 To annihilate the enemy――? 謳いましょう、血塗られ骨折り鎮魂歌!! ● 「先生。こいつらまだ抗いますよ。一人くらい殺しても研究に支障はありませんか?」 「……ああ、そう。そうね。一人くらい別に……あの女でいい」 アルタはレオンが指を指す女を見た。女だがデュランダルとして一番力を持ったリベリスタだ。だからこそ彼女が一番厄介なのだ。擦り切れそうな意識に鞭を打ってまだ倒れる事は無いものの……。 「んっ」 アルタの傍らに居たダークナイトが彼女の髪を荒く掴む。その首に、刃を伸ばすが女は自らの大剣でそれを阻む。 何故だろう。 レオンは疑問に思う。 「何故」 何故、何故――リベリスタはまだ生きようと瞳が諦めないのだろうか。嗚呼、これは懐かしい。数十年前にも見た、戦場で生きる雄々しい戦士の瞳だ。 思い出すじゃないか、戦場の快楽を、絶望を、苦しさを。 ――その時だった。 「誰一人、過去の亡霊にあげないよ!」 「――な!?」 デュランダルが抵抗する姿を楽しげに見ていたエマは、その声に振り向く。そこには『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)の姿――その腕は既に、エマの背中を不意打ちで切り裂き、氷の結晶で傷を飾っていた!! 「助けに来たわ!」 糾華の声が響いた――一斉にしてその方向を振り向いたフィクサード。既に十一人の救い手は攻撃行動を開始している。 直後、糾華のすぐ背後から甲高い笑いと共に、真っ黒の閃光が石化の呪いを生んだ。だがしかし、その閃光をレオンとアルタは綺麗に避け、石化には成らず。 石化する身体を捩らせたエマの奥歯がギシっと鳴った、胸が痛いのだ。その時には既に飛び込んでいたのは、瀬恋の弾丸。 「グーテンモルゲン。ファックユー。死ね」 謝罪も命乞いもいらない。ただ、迅速確実に死ねと瀬恋の言葉の棘は鋭い。 「オレたちの入ってきた方から撤退しろ! ここはオレたちが抑える! 防御を怠らず、落ち着いて後退だ!」 言葉を放つ風斗。だがそこまで公に言ってしまうと敵に策が知られてしまうもの。 ――成程。アルタは顔を斜めに風斗を見る。 狙いはエマとその傍らのナイトクリークの撃破からか。そしてそこにできた道からリベリスタを逃がすか。アルタはそう納得しつつだが、配ビルに突如飛び込んできた増援に、フィクサードは、特に堕天落としに苦戦していた。 「少々、不利か」 アルタは、嘆く。 「こそこそ、何喋ってんのよ」 『尽きせぬ祈り』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)の葬送曲が響く。旋律は呪いとなって、手当たり次第に敵を穿つ。 その音色をかわし、アルタとレオンは目を合わし話をひとつ。 「先生に死なれると困りますね、成果は最小限に抑える事を提案しますが?」 「ああ、えっとね、敵の動きをデータとっといてね。だもんで作戦はΩ案へ移行」 「承知」 アルタは行動を開始する。 「良い趣味だよね、寄って集って。楽しい?」 『道化師』斎藤・和人(BNE004070)はエマに近づく――その手に持っていたのは打撃にはけして持って来いとは言えないはずの銃だ。だがそれは鮮明に輝き、一回り大きいボディを活かしてその重さでエマの頭を叩き打つ。追撃で風斗の疾風が彼女の胸を切り裂いた。 「がっ!?」 「もうちょっとさ、スマートにできねぇの? こんなチンケな方法じゃなくってよ」 「黙、れ!!」 和人がかち割った脳天から血が流れるエマ。その瞬間、石化を抜け出しジャガーノートを発動させた。 「邪魔だ!!」 「行かせるか……!!!」 その頃、エマの傍らに居たナイトクリークには風斗とリーツェ・F・ゲシュロート(BNE004461)がその行動を塞いでいた。 部下としてはエマを助けに行きたいのは勿論の事だ。だがそれがリーツェと風斗が阻み、不可能。ならばと苦し紛れに出すバッドムーンがリベリスタ達を射抜いた。 「仲間は守る……お前等にやる命は無い!!」 リーツェの左手に添えられた剣が伸びて、唸る。援護射撃の名の下、剣が飛ぶのは少々シュールな光景だが、バッドムーンの禍月を切り裂き、敵を切り裂き、悪を断つ。 傍らで両手の指に挟んだ彼岸ノ妖翅を投げ、届くだけの敵へと放つ糾華。だがその眼に見えたのは――。 「卑怯よね、そういう事するの」 「そうかな? けして悪い手では無いだろう」 アルタのナイフがデュランダルのリベリスタの喉に当てられていた。疲労し、ぐったりとしきっている彼女に抵抗する力は乏しいのか。 「こいつの命が惜しいだろ? なら、武器を捨てるんだリベリスタ」 ――負けない。 「駄目、絶対――回復を、舐めないで!!!」 編成上、多く集まった神聖たるメイガス達。誰よりも早く動いたのはルーメリアだ。その白い両手から光が放たれる――。 だが、疲労したリベリスタを癒すのにまだ足りない。 「加護を与え賜え」 助力した凜子。ルーメリアとはまた違った光が廃ビルの暗がりを照らす――だが、その時だった。瀕死の女へとナイフは容赦無く一閃され――血が舞う。ぱっくり開いた、首の血管。 一人欠けた。 そう、思った者は少なくはないだろう。一方向から仕掛けたリベリスタ達、だからこそがら空きの反対方向も存在するのだ。更にエマはデュランダル成りにしぶとく、まだ息を切らしてさえいない状況。 「……ワタシ達の癒しで立ち上がってください!」 だが、寸前で『青い目のヤマトナデシコ』リサリサ・J・丸田(BNE002558)の青色の光が彼女をギリギリの体力を残させた。 「全員で帰るのです、それができるまで、ワタシは諦めません!!」 もう、誰の死も見たくないから。今度こそ、大切なものを守り続けるのだと誓った彼女。 だからこそ叫んだ。己に乏しい攻撃する力をカバーできる程に力を持った少女へ。本来なら柔らか戦車として狙われるはずの少女の名前を。 「マリア様ァ!!!」 「あいあいさー」 リサリサの望みを食い尽くすかの様――黒き閃光が漆黒のフィールドを更に黒く塗りつぶす。 ――人質は無駄。 アルタは首を傾げた。 ● エマが先の倒れるか、それともナイトクリークが先に倒れるか。 「これで、最後だ!!」 リーツェの射撃を心臓に受けて、内臓は弾ける。 先に消えたのはナイトクリークの方だったが、誤算だったのはマリアの高い命中を難無く回避するアルタと、イージスに庇われているレオンの存在だ。 レオンは高い神秘力で回復を行ってくるため、ナイトクリークの排除に時間が掛った。 「こっちだよ、こっち!!」 「落ち着いて、大丈夫ですよ」 ルーメリアと凜子は出口へとリベリスタを誘導する。すれ違う彼等にありがとうと重ねて言われ、でもまだ油断はできない。 救出対象の四人が廃ビルから逃げる――残り、三人。 内、一人はアルタの腕の中。おそらく、その一人を実験対象として持ち帰るつもりなのだろう。残りの二人はイージスとダークナイトに行く手を阻まれ、撤退が不可能。 「あ……!!」 気づいた凜子がすぐに回復を行った。彼女らが撤退するリベリスタの体力を管理することで、彼等の命はまだ長く保てるのだ。更に言えば、速度が極端に違う凜子とルーメリア二人の回復はタイミングが良く体力管理を行えていた。 「エマは!?」 「悪い、こいつ、部下が一人の割に強い……!!」 ルーメリアの声に、リーツェが返す。 そう、まだエマが倒せていないのだ。彼等の場所へ行けるリベリスタはたった一人を残して不在だ。そして攻撃は行けども、フリーにさせてしまったアルタとレオンは自由に動き、強力な攻撃と協力な回復の連鎖。 「リサリサ」 「はい、なんでしょうか、マリア様」 「感謝するわ」 そのたった一人、ブロックを消滅させられるマリア。実力こそアルタと互角か、それに劣る程度か。マリアの堕天は彼等の足を石にして足止めを開始した。リベリスタの指示に背いてでも、彼女は風斗が紡いだ願いと約束のために。 「貴女が護ってくれるなら、マリアはそれに応えないといけないもの。ほら、敵の犬共がマリアを抑えられなくて嫌な眼、してるでしょう?」 そういう事。黒き閃光はイージスとダークナイトの足止めをし。 救出対象はあと一人。 「東洋のぽっと出の分際で!!」 エマの剣――うねりを上げてそれは高速で回転しては嵐を形成する。麻痺とブレイクを乗せた風だ――それにエマの恐るべき力も乗る。 「これが私の全力。どうか、応えて聖神よ」 すぐに凜子の回復がカバーに入る。そしてたった一人、その風を完全に抜けて台風の目へと侵入したのは。 「気に入らないのよ、貴方達」 ――糾華。軽い身の熟し。蝶の様にふわりと舞い上がった彼女はそのまま、止まったエマの剣の刃に足を置いた。 「コソコソと……でも狙った獲物はハズレね」 瞬時、エマの嵐の風を突き抜けて不滅の蝶は敵へと刃を飛ばす。エマの首に刺さったそれ、防御なんて彼女には関係無く――。 「皆、立ち上がれ――!!」 ルーメリアの光が和人とリーツェの麻痺を吹き飛ばす。が、その直後にアルタが放つナイフがリベリスタの体力を削っていく。 「いい加減に、倒れやがれ!!!」 ナイフと入れ替わりでエマへと銃を叩き落とす和人。だがその一撃で鈍い音が聞こえた。実際にはエマの頭蓋後津にヒビが入った程度であり、そこから飛んできた血が和人の頬を染める。 「……痛っ」 エマはBSこそ効かないものの、回復もあれど、火力のある箱舟の精鋭の攻撃を受け続けたのだ。その疲労は時間と共に蓄積している。 「レオン、さ、ま」 「……ああ、あれはもう駄目だな、アルタ」 「はい。では……」 「お待ちを!! まだ、エマは戦えます」 「ああ、大丈夫だよ、肉片は拾ってあげるからね、置いて行かないよ、愛しのエマ」 我が研究の材料になれ。 「あら、残念。廃棄ってやつ?」 「可哀想だね。でも今回は譲れないんだ☆」 シュスタイナと終の攻撃――ナイフがエマの背後から、背からお腹に貫通する程に刃が飛び出していた。更にそこに葬送の光が撃ち込まれる。 「こ、ンんおおお!!」 たった一人で九人を相手に取ったのは賞賛できるだろうが、これも此処で限界か。苦し紛れに出したアルティメットキャノンはマリアへと。 何を戸惑う事があるか。取り巻きを完全に抑えられる彼女のためなら、この身が傷つこうとも。リサリサは飛んできた力をその背に、マリアを抱きしめて庇った。 「リサリサ。時間を頂戴」 「マリア様?」 そして。 「長く生き急ぎ過ぎたのよ、もう死んでいいわ」 糾華の蝶がエマの喉を撃つ――続いた瀬恋と風斗が、弾丸を、そして剣を振り上げる。 「図に乗んな。ハイエナの真似した所で、ただの老犬である事に変わりはねぇんだよ!!」 「覚えておけ、これがアークだ!!! 次に仲間を狙ったら、叩き潰してやる!!」 合わさる二つの疾風と弾丸の攻撃。エマの腹部を喰らった様な穴を開けた瞬間――エマの上半身と下半身が分裂して別々に倒れた。 ● あと一人なのだ。あと一人で全員の撤退が完成する。 「捕われたお姫様の救出は、必須なのよ」 集中に、集中を重ねたマリアの堕天――アルタの腕に直撃しては、動けぬ人形へと変えた。 「帰るわよ。回収してきてちょーだい」 マリアの言葉と共に、風斗、糾華、瀬恋、和人は走った。アルタに捕まれた彼女のために。 「貴方達の思い通りにさせる訳にはいかないわ」 「誰一人、見捨てるものか!!」 「今のうちにハンティング気分を楽しんどきな」 風斗、糾華、瀬恋が一斉に攻撃を仕掛けたのはアルタ――やれやれと顔を振っていた。 「犬共、まだ俺を狙っただけ鼻が良いか」 そう言い残して攻撃の嵐に飲まれていく――最後に。 「――一昨日おいで、『亡霊』共」 和人が懇親の力で、アルタを突き飛ばし、少女の手を引いた。 「当ったれぇっ!」 リーツェの援護射撃――否、それはもう牽制射撃と言っても良いだろう。弾丸は飛び、綺麗に避けたアルタはその身体を後方へと布陣。 「これが、箱舟か。まあデータは取れましたし、良しとしませんか先生?」 「ああ、まあ、君、本気出してないよね? 真面目にやってね、ほんとにもう」 アルタから奪ったリベリスタの少女を和人は担いだ。 「撤退開始します――」 凜子はひとつ、聖神を放ちそう言った。救出対象はこれで全員だ。もはやこの場に長居する価値は無い。 追撃は無かった。消耗戦をする気は無いのだろう。 「あ、あ、ああ、ああ、あ、あ」 廃ビルから離れて、迎えの車の近くに茜は救出された六人と一緒に立っていた。 「ぁぁああありがとうございましたーーーー!!!!」 掠れつつ、大声でまた泣き始めた茜。ぐったりしているデュラの娘を後部座席に寝かせた和人は、溜まった重苦しい息を吐き出した。 「皆、怪我は無い?」 「あれば、私が治しましょう」 「ルメも手伝うのー」 周りを見回す糾華と、凜子とルーメリアであった。 「良かった、俺たちまだ生きてる!!」 「あー今日帰ったら絶対美味しいもの食いに行くし……」 そんな他愛の無い話ができるようになったのも、九人の精鋭のおかげであり。 「厄介なのが……出て来たな」 「ああ……」 風斗と瀬恋は遠い先の廃ビルを見ていた。 「すごいなマリアは、感服したよ」 「それほどでもないわ。もっと誉めなさい、誉め殺しなさいリーツェ」 えへんと胸を張るマリア。そしてリサリサの方を向いた。 「……感謝するわ、リサリサ」 「あ、いえ……マリア様に怪我が無くて良かったです」 にっこり笑ったリサリサに、マリアは顔を赤くしてそっぽを向いた。 段々と色濃くなる夜明け。それは幸先の良さを願ってもいいのだろうか。 全てはまだ、これからの話。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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